554 処刑執行二日目
家臣には、新たに小白香宮と呼称するように命じたが、正式の布告はまだしていないため、多くの臣民にとっては、いまだに“白象宮”という呼称が馴染みであろう。
それも、もうしばらくだろう。
この都に集まる多くの臣民は、もっともわかりやすいかたちで、政権の交代が行われたことを昨日から知り始めたのだ。
小白香は、宮殿を出て、その門の前にある大広場に歩いて向かっている。
それにしても、自分の足で移動しなければならないというのは不便なものだ。
小白香の結界が刻んである宮殿と離宮内であれば、自在に『移動術』を遣える小白香ではあるが、一歩、宮殿を出れば『移動術』は遣えないのだ。
三魔王の領域である広大な一帯には、伯父である
小白香は、まだ、この白象宮で白象の腹から誕生し、産まれてから一度も宮殿地域を出たことがない。
だから、その金凰魔王の広域道術の影響により、『移動術』が使えない。従って、今日のように、宮殿の外に出るときには、自分の足で歩くか、馬車を仕立てなければならないのだ。
いまは、小白香は、沙那ただひとりを連れて、宮殿前の広場に向かっている。
沙那の武術と小白香の道術があれば、それ以外の護衛など不要だ。
現に、こうやって歩いている小白香の周りには、いかなる攻撃も受け付けない結界を刻み続けている。
「小白香様、考え直されるおつもりはありませんか?」
その宮殿前の広場に向かう途中で、その沙那が言った。
本当に小うるさい女だ。
小白香は派手に舌打ちした。
しかし、そんなことで意見を撤回する沙那ではない。
それはわかっている。
「あえて、申しあげます。母君の白象殿を処刑しても、百害あって一利ありません。どうか、お考え直しください。生きていれば、いくらでも交渉の材料にも使えます。役に立たないと判断した時点で、殺しても問題ありません」
思った通り、沙那は小白香の後ろからさらに言い続ける。
小白香はうんざりして嘆息した。
これで有能でなかったら、遠慮なく新魔王に逆らう者として、厳しい罰を与えてやるところではあるが、この沙那はたった二日で、さまざまな事象を通して、自分が優秀な部下であることをしっかりと証明した。
与えてやった立場は、小白香の護衛にすぎないのだが、眼に見えたものや小白香に指示を仰ぎにくる家臣たちに対する小白香の指示に、遠慮なく意見を唱えるし、疑念を口にする。
その言葉は、小白香も認めざるを得ないほどに、的確で筋が通っている。
宰相の
沙那も物怖じすることもなく、小白香の家臣たちに、堂々と意見を述べるので、今朝の朝議は、完全にこの沙那の独壇場だった。
この沙那はたった二日にして、もう、白象を継いだ小白香の宮殿でしっかりと自分の地位を築きつつある。
さすがの小白香も、沙那については、自由にさせていた方が有意義であることを認めるしかない。
「うるさいのう──。すでに執行は始まっておるのだ。新魔王の布令も出した。裁決もした。そもそも、新魔王の下す命令が、簡単に覆っては、朝令暮改も甚だしいであろう。ただでさえ、わらわは、年端もいかぬ。家臣や臣民に侮られては、今後の政事がやり難いわ。それがわからぬのか──」
小白香は言った。
「君子豹変するとも言います。逆に、度量のある新魔王だと賞賛されるでしょう。このままでは、金凰軍と戦です。何度も申しあげます。いまの状態で、金凰軍と戦端を開いても、万が一にだって勝ち目はありません。三年ください。三年あれば、このわたしが、小白香様を三魔王の覇者にしてみせます。しかし、いまは駄目です。自重をお願いします」
さらに沙那が言い募った
小白香は返事をしなかった。
ただ、広場への歩みを速めただけだ。
「ねえ、陛下──」
「いいから、黙れ──。これから、わらわは、母者と最期の別れをするのだぞ。その想いに集中させよ──。お前には、情というものがないのか──」
小白香は怒鳴った。
実のところ、肉親としての情など、白象に対してはこれっぽちも残っていない。
白象に会いに行くのも、訊ねたいことがあるからだ。
だが、沙那を黙らせるには、そう言えば、効果があると思った。
案の定、沙那は静かになった。
小白香はほっとした。
白象宮と呼ばれていたこの城下に暮らす亜人の数は、三魔王それぞれの都の中で、金凰宮の城下を凌ぎ最大と言われている。
金凰宮が三魔王の権力と武力の中心であることに対して、この白象宮は物流と生産の中心と言われている。
支配している土地も金凰宮よりも広大であり、亜人の人口も多い。
ただし、軍の勢力は三魔王中で最小である。
三魔王軍のうち、最大の軍が金凰魔王軍であることはいうまでもないが、次いで大きいのが青獅子軍の勢力だった。
この白象宮には、宮廷一帯を中心とした必要最小限の武力しかないし、各地に展開している地方軍も、その地域の警備に必要な勢力の範囲を超えない。
それに比べれば、青獅子軍など、軍隊とその駐留する土地のみが存在するだけで、支配すべき地域を持っていなかった。純粋に軍のみの組織だったのだ。
富の力で勝る白象宮が、その富を青獅子軍と金凰軍に提供する──。
そういう態勢で三魔王軍は成り立っている。
もっとも、これは今朝の朝議で沙那が説明した三魔王軍のいまの態勢だ。
昨夜、ほとんど徹夜で政事に関する書類を読みまくっていると思ったら、小白香が魔王となって初めての朝議に、朗々とこの三魔王のそれぞれの立場を小白香や家臣たちの前で説明したのだ。
小白香もあんなに簡明で、しかも、わかりやすい三魔王の態勢の説明は初めてだったし、それは家臣団も同じのようだった。
十年以上も白象宮の実質運営をしてきた百眼女にしてすら、改めてわかりやすく説明を受けることで、状況を整理することができたと感心していた。
家臣たちは、小白香の護衛として朝議の間の隅に立っているだけの役割の沙那が、どんどん口出すことに、最初は鼻白んでいた様子だったが、面白いから小白香が沙那の発言を許していたら、途中から明らかに彼らの反応が異なってきた。
沙那に次第に圧倒されたのだ。
そして、朝儀の最後に百眼女が沙那に意見を求めたが、そのとき、ただの護衛に宰相が意見を求めたのことについて、違和感を示した者は誰もいなかった。
それが当然という雰囲気だったのを小白香は覚えている。
小白香自身がそう思ったのだ。
先日まで、まったく白象宮の運営に関わらないどころか、離宮に監禁して拷問でいたぶっていた人間族の女に、長年白象宮の運営に関わってきた亜人の家臣たちが、知識で負けるというのは、驚きというよりは滑稽だが、それが真実なのだ。
これは、沙那がそれだけの才能があるというよりは、亜人というものは、それだけぼんやりとした存在なのだろう。
だが、人間族というのは、すべてが沙那のように頭脳において、亜人に比して、驚嘆するような働きをするのだろうか……?
それならば、人間族憎しとして、一方的に亜人の敵としている考えを改めねばならないのではないだろうか?
小白香は、そんなことを考えたりした。
人間族というひとつの種族で成り立っている彼らに比して、亜人族は多くの人種で成り立っている。
異人種を受け入れる器は、自分たち亜人には十分にある。
沙那のような人間族がもう数名加われば、この魔王領が飛躍的な発展をするのも絵空事ではない気がする。
いずれにしても、沙那が主張するには、白象宮の強みは、三魔王軍の富と財の中心であることだ。
だから、戦をするのであれば、強い部分ですればいいということらしい。
わざわざ、武力で決戦を求めるのは愚策であり、万が一の勝ち目もないと沙那は主張している。
「ところで、今朝の朝議では、お前が随分と政事に長けていることはわかったが、お前は、その若さで、どこかの人間族の宮廷の宰相かなにかでもやっていたのか?」
歩きながら小白香は、なんとなく沙那に訊ねた。
沙那の優秀さは、儲けもののような気がするのだが、実際のところ、この沙那のことを小白香はほとんど知らない。
知っているのは、宝玄仙という旅の道術遣いの供だったというだけだ。
考えてみれば、この沙那は一体全体、どういう生い立ちであり、なぜ、そんなに政事に堪能なのだろう。
「政事に明るいというわけではありません。実際のところ、現実にそれに面するのは始めです、ご主人様。わたしにあるのは、すべてかつて書物を読んで得た知識です。でも、正直、その知識を実地で生かすのは初めてです。わたしに、こんな場を与えてくれたご主人様に感謝します」
沙那はにっこりと笑った。
「書物で得た知識だと? ならば、実際の経験はないのか? 実はどこかの国の運営を担ってきたというわけではないのか?」
「ありません、ご主人様。わたしは、この辺りでは東方帝国と呼ばれる場所にある城郭の千人隊長でした。だから、文官の経験はありません。それも、四年ほど前までの話ですが……」
沙那は言った。
「書物だけの知識で、あれだけ的確に物事を把握できるのか? 朝議に出席した連中など、お前については、性奴隷として、ここに連れてこられたというのは偽りであり、実は、連中を牛耳らせるために、わらわが新しく連れてきた人材だと思い込みはじめようだぞ」
小白香は笑った。
「わたしは、わたしの役目を果たすだけです、ご主人様。それがあの家臣の方々を敵に回すことになっても、それが必要ならやってみせます。でも、いまはその必要はないと思います」
沙那は、“いまは必要ない”という言い方をした。
だが、逆に必要であれば、そうするということだ。
そう言えば、沙那は、道術契約で小白香を受け入れた初日に、小白香が気紛れで近衛軍団長とした花炎を罷免に追い込んだ。
しかし、沙那はそれを一発で見抜き、喧嘩を吹っ掛けるという驚いた手段で、花炎を排除してしまった。
沙那はああいう強硬手段もとれる性格だということだ。
必要であれば、手段を選ばないというのは、確かに頼もしい。
この沙那に、権力を与えることが適当なのではないかと思っている。
この沙那は、道術契約により、絶対に小白香に不利になることをやらないし、才能も驚くべきものだ。
「ところで、沙那、千人隊長ということであれば、軍略についてはどうなのだ?」
「ひと通りの軍略の書物には精通しております。そっちは、政事以上の自信はありますね」
沙那が白い歯を見せた。
「なるほどのう……。だが、書物だけの知識でも政事については才を認めてもいいかもしれん。だが、軍略というものも、書物の知識が役に立つものなのか?」
「もちろんです。でも、戦の指図というものは、書物だけの知識では難しいでしょうね」
沙那はあっさりと言った。
小白香は、その自身満々の沙那の態度がおかしくなった。
「じゃあ、書物で得たお前の軍略と千人隊長の経験では、この度は戦をすべきではないというのだな、沙那?」
小白香は、沙那の強硬な反対論を聞いた後でも、絶対に金凰宮との戦を避けるべきだという大方の意見を退けた。
この魔王領を戦に巻き込むつもりはないが、白象の処分について、金凰魔王にとやかく言われたくはないのだ。
白象を勝手に処断すれば、戦を仕掛けると金凰魔王が脅すのであれば、勝手に脅せばいい。
それに、これについては、所詮、魔王家の内部の話だ。最後には話し合いで決着がつくと小白香は踏んでいる。
金凰魔王は、毎年、幾度となく、この宮殿を訪問してきている。
明らかに金凰魔王は、白象を侮り、小白香を可愛がってくれていた。
金凰魔王が、小白香を敵にするなど、正直、想像できない。
「当然です。でも、わたしの意見はあの朝議で言い尽くしました。ご主人様が、白象殿の処分にこだわるというのであれば、これ以上はあまり申しませんが、どう考えても、それが必要とは思えませんのに、なぜ、処断にこだわるのですか?」
「また、説教か?」
小白香はうんざりした。
「必要であればいくらでも言います……。もともと、白象殿は、政事には深く関わってはおいでではなかったし、家臣の方々に信望のある魔王ではなかったので、すでに、あの家臣の方々もご主人様を新たな主人として、認める状況になっています。政事も人事も、あの百眼女様がうまくやって、ご主人様に利する人事を整えています。敢えて、示威行動のようなことは必要ないでしょう。それよりも、実の母親を残酷に処刑する若い魔王として、その悪評の方が心配です」
沙那は言った。
「さあ、なぜかな……? だが、わらわは、母者が憎い──。憎くて堪らぬ──」
小白香は言った。
自分の感情をうまく説明できないが、憎いから憎いとしか言いようがない。
母親としては、なにもしなかった白象──。
その白象を母と認めないことで、自分の成長があるような気がする。
自分としてのそのけじめが、白象の処刑なのだと思う。
「ところで、軍略に関連することで、ひとつだけ、疑念があるのです、ご主人様。できれば、教えて頂ければ、嬉しいのですが……」
「疑念? なんじゃ?」
小白香は歩きながら沙那に視線を向けた。
「『移動術』について、お伺いしたいのです。わたしの故郷でも、道術を軍事に取り込むのは、主流ではありませんが、そういう策戦もあるのはあります──。でも、少し、百眼女様と話したとき、金凰軍については、『移動術』で作戦部隊を跳躍させることができるということですが、我が軍については、それは不可能ということでした。どういうことなのですか?」
沙那は言った。
「ああ……。金凰魔王の広域道術のことじゃな。一般に“呪い”と称するが、歴代の金凰魔王は、三魔王領全体に、魔王自身でも絶対に解除できない広域の道術契約のようなものを大地に刻んでおるのだ。大地との契約なので、それを解除することはできん。すなわち、一度も金凰宮に立ち入ったことのない者は、例外なく、この三魔王領で『移動術』は遣えんようになっておる。わらわを初めとして、本領域の者はほとんど、金凰宮に入ったことはない。だから、わらわ側の軍は、『移動術』は遣えんということだ」
小白香は苦々しく言った。
すると沙那が驚いた表情をした。
「大地との契約……。そんなことは、誰でもできるのですか?」
「とんでもないわ。そんな、大それたことが誰も彼もできては、この地が混乱するわい。これができるのは、魔王族の直系の血筋だけだ。魔王族だけの特殊能力だ」
「ご主人様にはできますか?」
「できん。わらわは、まだ成人ではないしな。それに、白象の娘だから、直系の血筋としては微妙だ。成人して、その能力が開眼するかどうかわからん」
「わかりました──。でも、それでは、わたしたちが圧倒的に不利ではないですか。金凰軍は、いま、この瞬間にでも、道術で跳躍して、この魔王宮に軍を進めることも可能ということですよね。それに対して、逆はできないと……」
「そういうことじゃ……。宮殿自身には、わらわの結界が刻んでいるから、大軍で包囲しようとも、手は出せんがな」
宮殿及び離宮の一帯には、いまや完全に白象から引き継いだ小白香の結界がかかっている。
正直にいえば、結界の霊気の強さだけは、金凰魔王にも負ける気はしない。
「でも、結界で護れるのは、霊気による攻撃だけですよね。道術で跳躍して、宮殿を囲み、物理的な攻撃を奇襲で仕掛けられては、護りきるのは難しいですよ。いま、現段階で、この魔王宮は、臨戦態勢にも入っていないのですから」
「だったら、臨戦態勢をとればよいであろうが──。わらわが戦も辞さんといっておるのをお前も含めて、誰ひとり本気にはとっておらんようじゃな、沙那──」
小白香は怒鳴った。
むろん、沙那に責があるわけでも、その権限がないこともわかっている。
政事とは違い軍事には、指揮権という微妙な規律がある。
これは、小白香といえども、遵守して系統を保らなければならない。
魔王である小白香でさえ、直接に指図していいのは近衛軍だけだ。
ましてや、なんの権限もない沙那が、魔王宮の全軍になにかを命じることなどできない。
しかし、沙那は考え込むように黙り込んだ。
どうやら、なにかの思念に入ったようだ。
やがて、宮殿の門に到着した。
城門は閉じてはいない。
衛兵が直立不動になって敬礼をした。
小白香は、軽く手を振って、その前を通り過ぎた。
宮殿の門をすぎれば、そこが宮殿前広場だ。
多くの市民が集まっていた。
「沙那、見よ──。前魔王の成れの果ての姿じゃ。民衆の前に恥毛まで晒して磔にされ、昨日は、糞便を洩らす姿まで晒したという話じゃぞ」
小白香は笑った。
民衆の集まる広場の中心に白象がいる。
この魔王宮は、高台にあるので、歩きおりていきながらも、広場の様子をしっかりと眺めることができる。
そこに太い柱が立てられて、道術でその柱に白象を全裸で拘束して立たせているのだ。
こちらからでは、柱の向こう側に白象がいるかたちだが、ここから見るだけでも、命令のとおりに、白象が素裸で柱に横に接続している上下二本の横材に、両手と両脚を拡げて縛りつけてあるのがわかった。
すでに手配されていたようであり、白象が拘束されている柱の周りからは、民衆は離されて、その民衆と白象のあいだに、近衛隊の一部が整列している。
この白象の刑の執行を命じている一隊だ。
彼らは、白象の息が完全に停止するまで、ここで白象の見張りと刑場の管理を続ける。
この晒し刑は、簡単には終わらすつもりはない。
少なくとも十日は続くはずだ。
道術が遣えない状態にしていても、魔王の潜在的な霊気は大きい。
ああやって、水も食べ物も与えなくても、少なくとも十日は死ねないのだ。
沙那は、ちらりと残酷な白象の晒し処刑の光景に視線をやったが、なにも言わなかった。
小白香と沙那は、白象の前に到着した。
近衛隊の連中が小白香に敬礼をしようというのを小白香は手で制した。
白象は完全に意識を失っていた。
しかし、その裸身には、昨日からの一日の白象の苦闘の痕がある。
白象の全身には、昨日の朝、全身に浴びせさせたとろろ芋の汁痕がべっとりとついている。
とろろ芋は、乾けば猛烈な痒みを発生させる。その汁を全身に浴びせられて、この柱に道術を封じて拘束された白象は、恥も外聞もなく泣き喚き、糞尿まで民衆の前で垂れ流したという。
その悲鳴は凄まじく、夜中に近い時刻まで続いたらしい。
しかし、それを境に声はしなくなり、意識も完全に失ったようだ。
いまは二日目の昼という時間だが、夜以降、断続的な短い覚醒と弱い悲鳴を繰り返して、いまに至っている。
一応、そう報告を受けている。
いまは、気絶していている状態のようだ。
股下の糞尿は片付けられているようだが、完全に意識のない白象の顔には、大量の涙と鼻水と涎の痕がくっきりとついている。
「民衆を撤収させよ──。そして、お前らも退がれ。しばし、わらわたちに近づいてはならん」
小白香は近衛隊の隊長に言った。
隊長が隊を動かして、民衆を解散させる。
その近衛隊自体も遠くに離れていく。
「さて、母者を起こすか」
小白香は、白象を回復させる道術を送り込んだ。
昨日からの晒し刑で、弱っている白象に回復の道術を刻むのは、もはや、慈悲ではなく、死の訪れが遅れる怖ろしい罰のようなものだ。
これで、白象の死は、さらに数日は伸びると思う。
「はっ、はっ、はあっ……はああっ──がっ、あがああっ──はがあああっ──」
すると、意識を回復した白象が、発狂したような声をあげ始めた。