心神鞭――。
それは、痛みという言葉では、十分に言い表せないものだった。
孫空女は、しばらくのあいだ、口をきくどころか、息もできないでいた。
たった一発で孫空女を恐怖に陥れたその衝撃に、一体全体、なにをされたのか孫空女は理解できなかった。
「立つんだよ、新入り――。それとも、尻の穴に、いまのを当てられたいかい?」
そして、孫空女の無防備な尻に冷たい棒の先が当たるのを感じた。
「ひいっ――。た、立つ――。立つよ――」
孫空女は心の底から恐怖を感じて、まだ力の入らない身体を懸命に起こして立ちあがった。
しかし、大きな丸い首枷が凄まじい重量感を首と肩に襲いかからせる。孫空女の怪力をもってしても、少しでも体勢を崩せば、その場に倒れ込んでしまうような重みだ。
さすがの孫空女も、この首枷をしたまま動くには、全身の筋肉を総動員しなければならない。
「大したものだよ――。普通は、その首枷は身動きできないような状態にするための懲罰用のものだからね。しかも、この施設のものじゃなくて、わざわざ、軍営から大男用の首枷を持ってきたんだよ。そんなものを付けられて動けるのは、この錬奴院にいる女の中でもお前くらいのものだろうさ」
緒里が笑った。
しかし、孫空女にはそれに答える余裕もない。
首枷の重みに耐えながら、一歩一歩と踏ん張るように、指示された営庭に向かって足を進めていく。
その孫空女の周りを緒里や鄔梨李を含めた五人ほどの女兵が囲みながら着いてくる。
やがて、営庭にある周回駆け足の場所に到着した。
鄔梨李が笛のようなものを吹いた。
すると、その笛の音を合図に、営庭の向こう側にいた奴隷女たちやその監督兵たちが、こっちに向かって集まり始めた。
「さあ、みんなが来るまでに、新入り歓迎の儀式の準備といこうか――。跪きな、新入り――」
鄔梨李が言った。
「な、なにすんだよ……?」
嫌な予感がして、孫空女は立ったまま身構えた。
しかし、次の瞬間、孫空女は鄔梨李の言葉に逆らったことを後悔した。
鄔梨李の相好が崩れて、待っていましたとばかりに、『心神棒』を腰から抜いて、孫空女の脇腹に当てたのだ。
「まっ」
待って――という言葉を言い切る間もなく、再びあの衝撃が孫空女の全身を貫いた。
「あぐうっ」
目の前から視界が消える。
気がついたときには、孫空女は地面に倒れる途中であり、重い首枷が地面に迫っていた。
首枷が地面にぶつかり、孫空女は首と肩に激痛を感じた。
前のめりに倒れたときに、首枷を支えられなかった孫空女は、額を強く地面に擦りつけて、みっともなく尻を空にあげるような体勢になった。
「ちょうどいいよ。そうやって、尻を高くあげていな――」
『心神鞭』の衝撃で身体が弛緩していた孫空女の腰を数名の女兵が左右から押さえつけた。
なんとか首枷を起こして、上半身だけは起こしたが、孫空女は営庭の真ん中で四つん這いになった状態で身体を固定されてしまった。
「最初に教えておいてやるよ、新入り――。金凰宮の奴隷になるには、なにはなくとも、尻で性交をすることを覚えなきゃ駄目なんだ――。ここだけの話だけど、金凰魔王様は、奴隷に精を放つときには、必ず尻をお使いなさるそうさ……」「
「な、なに、言って……」
「膣で精を受けることができるのは、金凰妃様を始め、限られた性奴隷だけだそうだ。普通の性奴隷が精をもらえるのは尻穴だけなのさ。だから、尻で性交をできない奴隷は、奴隷の資格もないということだ……。これは、それを新入りに教えるための儀式でもあるんだよ……」
孫空女の腰の後ろで鄔梨李が笑った。
その鄔梨李が、孫空女の尻の向こうでなにかを準備している気配がある。
だが、首枷のために首を回せない孫空女には、それを確認することはできない。
「うわわわっ、やめろおおっ」
だが、すぐになにをされるのかはわかった。
肛門になにかが挿されたと思ったら、その直後に液体が体内に流れ込んでくる感触がやってきたのだ。
「んくうううっ……」
孫空女は歯を喰いしばった。
浣腸液だと思う……。
宝玄仙からの調教で浣腸は何度もされている。
だから、それをされればどうなるかは知り抜いている。
だが、その恥辱は何度受けても慣れるということはない。
「ほうほう……。どうやら、お前は浣腸を受けるのは初めてじゃないようだね……。尻での性交の経験はあるかい、新入り?」
鄔梨李が液体を孫空女の尻の奥に送り込みながら言った。
しかし、孫空女は歯を喰いしばったまま黙っていた。
なんで、そんなことを教えなければならないのか、という屈辱が孫空女の身体を強張らせた。
「ふふふ……なかなか、気の強い女のようだねえ……。金凰妃様が、特に目をかけてやれと言い残された理由がわかるよ……。『心神鞭』を二発も喰らったのに、まだ、そんな目ができるのは大したものさ……。だけど、あんまり、ここで意固地になってもいいことはないよ、新入り……」
緒里が穏やかそうな口調でそう言いながら、すっと『心神鞭』の先端を孫空女の鼻の穴に当てた。
孫空女はびっくりした。
あの衝撃を顔面に加えられるということに、全身が総毛立った。
「ひっ、あ、ある――。あ、ある――。経験ある。ひっ――、や、やめて――」
孫空女は慌てて答えた。
そして、不自由な首を左右に振って、『心神鞭』の棒先を鼻の穴から除けようとした。
しかし、緒里は、しっかりと孫空女の鼻の穴に棒鞭の先を当てて離さない。
「そうかい……。尻の経験はあるんだね……。わかった……。だったら、その分の調教は必要ないということだから、それを考えて、お前の訓練計画を練ってやるよ……。だけど、すぐに答えなかった罰は罰だ……。出力は最弱にしてやる……」
「うわああっ」
「歯を食い縛るんだ……。『心神鞭』そのものは、傷もなにも与えはしないけど、激痛で舌を噛む女も多いからね……。まあ、多少怪我をしたところで、一日の終わりには、『治療液』の水が全身に浴びせられる。そうすれば、どんなに半死半生の状態であろうとも、翌朝には、すっかりと傷ひとつない状態に回復できるから、問題はないけどね……」
緒里がぐりぐりと孫空女の鼻を抉りながら語りかける。
「や、やめて――ひいっ、ひいいっ――」
孫空女は、とにかく必死になって、棒先から顔を逃げさせようとした。
だが、首枷を嵌められている顔がそれほど動くわけでもなく、いつまでも鼻の穴に『心神棒』の先が当たったままだ。
「新入り、あっという間に、尻穴で粗相をするんじゃないよ――。そんなことになれば、ここで、お前は終わりだ……。残念だけど、奴隷の資格なしとして、ここで殺してしまうからね」
鄔梨李が笑った。
そして、やっと薬剤の抽入が終わったのか、孫空女の肛門に挿さっていたものを抜いた。
「や、やめっ――」
孫空女は悲鳴をあげた。
「歯を喰い縛れと言っているじゃないか……」
緒里が苦笑した。
次の瞬間、目の前で稲妻のようなものが光った気がした。
顔面に衝撃がぶつかる……。
「んぐううっ――」
顔をなにかで叩き潰されたような激痛が走った。
天と地の感覚が消滅する……。
視覚も聴覚もない。
痛みさえもなくなったと思った……。
なにもわからなくなり、孫空女は全身を完全に脱力させた。
そして、孫空女は無意識の世界に滑落していった……。
「ほらっ、みんな集まったよ――。立って挨拶をするんだ――。それとも、また命令に逆らって、『心神鞭』を浴びたいかい?」
腰の横を思い切り蹴られた。
やっと視界が戻ってきた。
「立つんだよ、新入り――」
もう一度、腰を蹴られる。
鄔梨李だ。
どうやら、一瞬だけ気を失ったようだ。
全身が汗だくだ。
『心神鞭』に対するあまりの恐怖に、全身から汗が噴き出たのに違いない。
そして、鼻から大量の鼻水が垂れているのもわかった。
しかし、孫空女には、それを拭く手段がない。
震えるような恐怖と恥辱を感じながら、孫空女は首枷を引き起こして、なんとか立ちあがる。
「ほら、挨拶だよ――」
鄔梨李が孫空女の尻たぶを『心神棒』の棒先で強く叩いた。
強い痛みが走ったが、その痛みよりも『心神鞭』で身体に触れられたことが、孫空女を一瞬ですくみあげさせた。
これ程の恐怖を味わったのは、生まれて初めてだった。孫空女は、『心神棒』という拷問具に童女のように怯える自分を感じて愕然となった。
とにかく、鄔梨李に促されて、孫空女は首枷のまま姿勢をただした。
いつの間にか、目の前に、たくさんの裸身の女が集まっている。
どれもこれも、人間型の若い美貌の亜人女たちだ。なかには、角が小さすぎて、人間族とまったく見分けのつかない者もいる。
しかし、その全員からほんのりと霊気を感じるので、全員が亜人なのだろう。
おそらく、人数は二十人ほどだと思う。
全員が金属の首輪をしていて、孫空女が嵌めているような短い鎖の繋がった足枷を足首に嵌めていた。
下着のようなものを身に着けている者もいるし、完全に素裸の者もいる。
共通するのは、乳房のどちらかに、数字の焼印が入っていることだ。
その全員が無言で、孫空女の視線を向けている。
彼女たちが、緒里がさっき言っていた奴隷候補生ということになるのだろう。
その奴隷候補生たる女たちの背後には、緒里や鄔梨李たちと同じような軍装の女が大勢立っていた。
「そ、孫空女だよ……。に、人間族だ……」
とにかく、それだけを言った。
垂れた鼻水を拭うことも許されず、みっともない顔や身体を晒さなければならないのは恥辱だったが、どうすることもできない。
首輪をした奴隷候補生の女たちには、明らかに孫空女の顔を見て、忍び笑いをする者もいた。
人間族らしい……というざわめきも聞こえる。
「最初に言っておく――。この女は、金凰妃様が直々に連れてきた女だ――。お前たちなんか、うかうかしていると、この女に先を越されてしまってしまうよ。もしかしたら、明日にでも奴隷宮から、お呼びがかかるかもね……。なにしろ、特に念入りに躾けてくれという金凰妃様のお指示もあった女だよ」
緒里が言うと、それまで嘲笑していたような表情だった、女たちの顔が一変した。
途端に、孫空女に対する敵愾心たっぷりの顔になる。
これは、同じように虐げられる仲間に対する視線ではない……。
孫空女をはっきりと、自分たちの競争相手とみなしている表情だ。
改めて孫空女は、この錬奴院というのが、緒里が言及したように、単なる奴隷女を監禁する施設というわけではなく、集まっている女にとっては、奴隷宮にあがるための試練と訓練の場所であるというのが本当であることを感じた。
しかし、一方でついに、切羽詰まった状況がやってきたのを孫空女は自覚した。
さっそく、さっき抽入された浣腸液の効果が表れはじめたのだ。
額から流れる脂汗が鼻水に混じる。
「いま確認したところだけど、こいつは、もう尻の性交は経験済みだそうだ……。ところで、どのくらいの経験があるんだい、新入り?」
緒里が孫空女に視線を向けた。
そして、例の『心神鞭』の先を孫空女の鼻に当てる。
「ひいっ」
孫空女は全身が恐怖で硬直するのがわかった。
しかし、緒里は、ただ孫空女の鼻水を『心神棒』で払っただけだった。
だが、あの激痛の恐怖は、すでに孫空女の身体にこびりついてしまった。
『心神棒』で責められると思った瞬間に、口惜しいが、全身から血の気が引いて、身体が硬直するのがわかる。
「う、後ろの経験は……幾らでもあるよ……」
仕方なく言った。
もう質問されたことは、なんでもすぐに答えようと思った。
こんなことで意地を張って、あの苦痛をまた与えられては堪らない。
「大抵の怒張は後ろで受け入れられるかい?」
鄔梨李がからかうように訊ねる。
「多分……」
「つまり、怒張の大きさに応じて、尻穴を拡げることができるということだね?」
「ま、まあね……」
あの宝玄仙に尻穴に拳を入れられたこともある……。
大きな球体を飲み込まされたこともある……。
怒張くらいだったら、大抵のものは受け入れられるだろう……。
すると、どよめきが起きた。
「ほらっ、お前らが苦しんでいる尻穴拡張だって、こいつはすでに終わっているんだ――。一刻も早く奴隷宮にあがりたければ、お前たちも修練に精を出すんだよ」
鄔梨李が大きな声で言った。
女たちが、また口惜しそうな顔になった。
そして、嫉妬の視線を孫空女に向ける。
しかし、そんなことは、もう、どうでもいいと思った。
それよりも、だんだんと肛門に襲う便意が抑えきれないものになっていた。
じわじわと迫ってくる便意に、孫空女はしっかりと尻の筋肉を締めつけた。
それにしても、この首枷を外してもらって、厠に行かせてもらうには、どれくらい耐えればいいのだろう……?
どんどんと出てくる脂汗を感じながら、孫空女は懸命に筋肉を締めつけて尻穴に力を加え続ける。
抽入されたのは、普通の浣腸液ではないような気がする。
おそらく、霊気のこもった即効性で強い排便作用がある薬液だと思う。
浣腸の経験の多い孫空女にとっても、この押しよせるうねりの大きさも、烈しさを増す度合いも、これまでに経験のないものだった。
いきなり始まりだした怒涛の便意に、孫空女は全身の毛孔が逆立ったような気がした。
「ね、ねえ……、か、厠に行かせてよ……」
孫空女は思わず呻いた。
わざわざ、この周辺にいた女奴隷たちや女兵たちを集めたのだ。
簡単に厠に連れていってもらえるとは思わなかったが、とにかく、排便の欲求が切羽詰ったものとなって孫空女に襲いかかってきていたのだ。
「そうだね。じゃあ、厠に行っていいよ。場所はあそこだ――」
孫空女の前に出てきた鄔梨李が、にやにやと笑いながら孫空女の前に出てきて言った。
鄔梨李が指差したのは、営庭の中心にある胸の高さの布の壁に四周を囲まれた場所だった。
「あそこに穴が掘ってある。あそこでなら排便をしていい……」
鄔梨李が言った。
「わ、わかった……」
あんな営庭のど真ん中に掘ってあるような穴で排便をするのは嫌だったが、そんな我が儘は言っていられないくらいに便意が押し寄せている。
孫空女は、首枷の重みに耐えて、そこに向かおうとした。
しかし、その孫空女の行く手をさっと鄔梨李の持つ棒鞭が阻んだ。
「な、なんだよ……」
孫空女は、首枷を動かして鄔梨李に視線を向けた。
「どこに行くんだよ、新入り――。最初に言っただろう――。営庭を駆け足だ。まあ、一周で勘弁してやるよ。厠で排便するのはその後だよ――」
「なっ」
孫空女はびっくりして声をあげた。
「そ、そんな無理だよ――。先に厠に行かせてよ」
「言われたことをするまで、厠には行かせてやらないよ。もしも、あの穴以外のところで間違って排便などしてごらん――。汚れた土ごと、全部お前の腹の中に喰わしてやるからね――。本当だよ――。そんな残酷なことなんてやるはずがないと思ったら、目の前のこいつらの顔を見てごらん。何人かは、自分の便混じりの土を腹が張れるまで喰わされた経験があるはずだ。それが新入りの儀式だからね――」
「なっ――」
「口を閉じれないように、金属の口枷をされて、どんどん土を口に入れられて、さっきの『心神鞭』を浴びて食べさせられるんだよ。まあ、どっちでもいいけどね――。それが、新入りの洗礼さ――。どんなことをしても、一日の終わりに『治療液』を浴びせられるお前たちには、弱って死ぬこともないから、あたしらも安心してぎりぎりの責め苦を与えられるということだよ」
鄔梨李がそう言って笑った。
そのあまりの残酷さに孫空女も鼻白んだが、女たちの多くが、さっと顔色を変えたのがわかった。
どうやら、本当にそんなことをされた経験がかなりあるようだ。
「わ、わかったよ……。い、回るよ……。ここを一周すればいいんだろう……」
孫空女は方向を変えて、営庭を回る方向に向きを変えた。
もう迷っている余裕は、孫空女にはない。
すでにぎりぎりの状態であることは明らかだ。
だが、その孫空女の視線に、女奴隷から五人ほどが選ばれて、一本ずつの乗馬鞭が渡されようとしているのが映った。
「さあ、お前たちは、この新入りを鞭打って、なんとしても、無事に厠に行かせないように、その鞭で邪魔をするんだ――。直接に身体を阻止しては駄目だよ。やっていいのは、その鞭で身体を打つことだけだ――」
緒里が叫んだ。
すると、さらに鄔梨李が口を開く。
「もしも、お前たちが、この新入りの阻止に失敗したら、お前たちが奴隷宮にあがる候補に載せるのを最後尾に回す。もちろん、この新入りの後ろだ――。奴隷宮にあがれる候補者枠は限られているんだ――。もしも、この最初の洗礼に耐えきって、厠で排便をできるような優秀な新入りなら、お前たちに優先して、その候補者枠に入れるつもりだからね」
乗馬鞭を渡された五人の亜人女が、挑むような視線を一斉に孫空女に向けるのを感じた。