※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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 第87話  母娘奴隷への淫謀【小白香(しょうはくか)Ⅲ】
563 父来たる


「き、危険です、ご主人様――。金凰魔王と一対一で会うなど……」

 

 沙那は激しい口調で言った。

 王宮側の奥にある魔王の居室だ。

 侍女は遠ざけてあり、部屋には沙那と小白香のふたりだけだ。

 

 重要な案件については、宰相の百眼女(ひゃくがんじょ)を交えて、この部屋ですることが多く、小白香が魔王の地位を簒奪してから、沙那も一日のかなりの時間をここですごすことが多かった。

 だが、今日はその百眼女もいない。

 

 そして、ここで告げられたのが、今夕に金凰魔王が宮殿にやってくるということだった。

 しかも、正式にやってくるのではなく、従者を一名連れただけで、この宮殿の離宮側に、忍んでやってくるということだった。

 金凰魔王の来訪は極秘扱いのものであり、小白香もそれを廷臣たちに教えるつもりはないようだ。

 それで百眼女もここにいないらしい。

 

 金凰魔王は、宮廷府には一切かかわらずに、直接に『移動術』で跳躍してやってくるということだった。

 いまや、宮廷府側ととともに、離宮についても小白香の強い結界で包まれており、部外から道術で侵入するのは不可能なのだが、金凰魔王の来訪に合わせて、小白香がその結界を一部解放する。

 それで、金凰魔王が離宮の応接の間に到着する……。

 そういうことになっているらしい。

 

 それでも、離宮側の性奴隷や女官たちは、金凰魔王の来訪を知るだろうが、白象が支配していたとき以来、離宮側のことは、一切こっちの宮廷府側に情報が洩れないという態勢ができあがっている。

 確かに、離宮で小白香と金凰魔王が秘密裏に会談をするというのは可能だろう。

 しかし、沙那は驚いてしまった。

 

「金凰魔王として、わらわに会うのではなく、魔王一族の長として、わらわに会うと言っておるのだ。応じないわけにはいかん――」

 

「し、しかし……」

 

「それに、お前は知らぬかもしれんが、母者が魔王であったときも、そうやって金凰魔王は、こっちの宮廷府の誰にも知らさぬまま、頻繁に離宮を訪問しておったのだ……。これは別段に不自然なことではないのだぞ。問題はない」

 

 小白香は椅子に深く腰掛けたまま笑った。

 

「問題は大ありです――。ご主人様は、金凰魔王の意向に逆らって、白象殿を廃して幽閉し、魔王の地位を簒奪したのですよ。しかも、金凰魔王は、それを認めていないのですよね――? でも、ご主人様は金凰魔王の言に応じる気はないのですよね――?」

 

「それがどうした――」

 

「だったら、金凰魔王は、ご主人様を力ずくで支配して、この状況を打開しようとするに決まっています。金凰魔王はそのために来るのですよ――。危険です。しかも、宮廷府として対応できないとなると、ご主人様を警護するために、近衛軍を動かすことができないことになります」

 

「もう、決まったことだ、沙那。それに、金凰魔王を招待したのはわらわだ。金凰魔王は、それに応じて来訪をするのだ。それを断われるわけはなかろう」

 

 小白香は笑った。

 

「ご、ご主人様が呼んだのですか?」

 

 沙那は声をあげたが、そう言えば、小白香は以前にそれらしいことを仄めかした気がした。

 そのとき、沙那はあからさまには否定しなかった。

 だから、小白香はひそかに金凰魔王とひとりで対決する決心をしたのだろうか……。

 沙那は後悔した。

 

 確かに沙那は、小白香が、金凰魔王の因縁の決着をつけるために、直接に金凰魔王に対峙することをもくろんでいることはわかっていた。

 しかし、それは、軍をはじめとして、さまざまな道術防護の手段によって、小白香の護りをしっかりと確保したうえで、宮廷府側で行わせるつもりであった――。

 公的な場所であれば、金凰魔王の下手な手出しはできないと思ったからだ。

 ましてや、なんの手立てもしないまま、一対一で、離宮側で小白香が金凰魔王を面会などさせるなどとんでもないことだと思った。

 

「沙那、これは、魔王と魔王と話し合いではない。一族としての話し合いなのだ。わらわの父だとわかった男と会うことがそんなに問題か?」

 

 小白香がまた笑った。

 

「詭弁はやめてください。金凰魔王がやってくるなら、刺し殺すくらいのつもりでなければ、会ってはいけません――。その男は信用できません」

 

 沙那ははっきりと言った。

 

「物騒じゃのう、沙那……。金凰魔王を殺せば、それこそ、金凰軍と全面戦争ぞ。そなたは、金凰軍と戦はしてはならんと言ったではないか――」

 

 小白香が呆れた口調で言った。

 

「いいえ、金凰魔王を殺せれば、戦になどなりませんよ。いかに、強大な軍でも指揮する者がいなければ、烏合の衆です。金凰魔王が死ねば、確実に金凰軍も金凰宮も弱体します。新たな支配者を見つけるまで、金凰軍内で内輪争いをするでしょう――。ご主人様が、いまの地位を保つためには、それは最善の結果です――」

 

「お前の方が過激ではないか」

 

「しかし、その可能性はありません ないんです――。金凰魔王も自分の命の価値はわかっていますよ。それでも、この宮殿に警備の軍も連れずにやってくるなど、なにかの企みがあるに決まっています。自分の道術に絶対の自信があるのです……」

 

「道術なら、わらわもかなりのものだぞ。いままでは隠しておっただけなのだ……。母者の白象でさえも、いまは、わらわの道術にはかなわぬのだ。しかも、金凰魔王と会うのは、わらわが刻んである結界の内側である離宮なのだ。いかに、金凰魔王といえども、わらわの結界の中で、わらわが引けをとるわけはない」

 

 小白香は言った。

 

「じょ、冗談じゃありませんよ、ご主人様――。だったら、金凰魔王がのこのことくるわけないじゃないですか。わたしは、金凰魔王のことは知りませんし、霊気や道術については門外漢です。でも、金凰魔王の霊気の大きさは、百眼女様などからよく聞いております。失礼ながら、まだ成人にもなっておられないご主人様が、金凰魔王に対抗できるとは思いません」

 

「ならば、金凰魔王を殺してやってもよい。お前の言う通りなのであれば、父である金凰魔王を殺してしまうことが上首尾なのであろう――。万が一、金凰魔王がわらわになにかをするようであれば、わらわは金凰魔王を殺す――。これなら安心できるか?」

 

 小白香は言ったが、それが本気でないことは口調で明らかだ。

 沙那は腹が立ってきた。

 どうも、小白香は、自分は母親から王権を簒奪しておきながら、肉親であるという安心感なのか、金凰魔王が小白香を害するという可能性を信じていないようだ。

 

 白象をないがしろにしたことは、多少は叱られるかもしれないが、それは話し合いで解決できるだろう――。

 そんな風に単純に思っている気配がある。

 だから、無防備に金凰魔王と会うなどという発想になるのだろう。

 

「はっきり言います。金凰魔王は、ご主人様を害するつもりはないのかもしれません。でも、離宮でご主人様を道術で抵抗できなくして誘拐し、そのまま金凰宮に幽閉してしまうくらいのことはするかもしれませんよ――。そして、白象殿を復位させます」

 

「はあ? なにを言っとる。力の衰えた母者などに価値などないわ」

 

「だからこその傀儡です。ご主人様は、金凰宮に監禁されて、完全に金凰魔王の言いなりになる人形にされるか、それとも、殺されます――。それでもいいのですか?」

 

 沙那がそう言うと、小白香はじっと沙那を見つめてきた。

 その可能性をやっと考え始めたのかもしれない……。

 小白香の顔にやっと不安そうな色が少し見えてきた。

 沙那は嘆息した。

 

 小白香は確かに、道術の力は抜群にあるのだろう。

 それが金凰魔王に匹敵するのかどうかはわからないが、これまで魔王だった白象までも、わずか十歳のときに霊気で圧倒したくらいだから、おそらく、自分よりも道術が上の存在というのに触れたことはないのだろう。

 金凰魔王は、よくここの離宮にやってきていたとは言っていたが、小白香は金凰魔王と道術で争う立場になったことなどないはずだ。

 

「のう、沙那……。わらわを心配してくれるのは嬉しいが、わらわの魔王の地位のことは、まずは、一族の長である金凰魔王と話し合いをせねば、始まらないということはわかるであろう……。それに、母者がいうには、わらわは、金凰魔王の娘であり、母親は金凰妃とやらであるようだ。それについて、わらわは金凰魔王に問い質す必要もあるのだ……」

 

「だ、だけど……」

 

「とにかく、金凰魔王には会わねばならんのだ――。それも、公の場所ではなく、私的な場所でだ。一対一で会う――。それはわらわとしても望んでいる……。お前のいうことはわかるが、極端に疑心暗鬼になっても仕方あるまい。とにかく動き出さねば、物事はなにも始まらん」

 

「ありそうな危険を避けるのは、疑心暗鬼ではありませんよ、ご主人様」

 

「面倒なことをいうな、沙那――。金凰魔王は父ぞ――。父に会うことがそんなに危険か? 金凰魔王は、わらわを実の娘とわかっておるのだ。危険なことなどないわ」

 

「ご主人様が、もしも、まだ皇太女であり、皇太女として魔王の地位を迫っているという段階であれば、金凰魔王は、一族の長として、それをなだめにやってきたかもしれません。でも、ご主人様は、即位式はまだですが、すでに宮廷を掌握し、新魔王としての地位におつきです」

 

「だから?」

 

「ならば、金凰魔王は、肉親としてではなく、魔王という立場でご主人様のことを考えるでしょう。魔王としての地位の阻害になると判断すれば、実の娘であろうが容赦なく行動すると思います」

 

 沙那は言った。

 

「もういい……。これについて、お前に意見を求めるつもりはないのだ。わらわは、今夕、密かに金凰魔王と会う。それは決定事項だ。金凰魔王にも、承諾の返事をしている。もう、どうにもならんわ――。これ以上、とやかく言うと、また、奴隷に逆戻りさせるぞ。わらわの痒み奴隷にな。触手貞操帯の刑をまた味わいたいか?」

 

 小白香が指を弾く仕草をした。

 沙那は全身が緊張で凍りつくのを感じた。

 小白香が本気でないことはわかっている。

 しかし、痒み責めのことを持ちだされると、どうしても身体が竦むのだ。全身が強張り、心が恐怖で縛られてしまう。

 沙那の様子に、小白香が満足したように笑った。

 

「ならば、これ以上は、なにも言わんことだ。お前はとりあえず、わらわが金凰魔王に会うことを承知しておればいいのだ」

 

「だ、だったら、わたしも同席します……。護衛として……」

 

 沙那は言った。

 どうしても、小白香が金凰魔王と一対一で会うというのであれば仕方がない。

 万が一のことがあれば、沙那が身を挺してでも、小白香を守ろうと思った。

 

「不要だ――。相手は金凰魔王じゃ。いかに、沙那の剣でも金凰魔王には太刀打ちではできんであろう……。わらわを守れるのは、わらわの道術のみだ。わらわはひとりで金凰魔王に会うつもりだ……。それに、さっきも言ったが、わらわは、一対一で金凰魔王に質したいことがあるのだ」

 

 沙那は言い返すことはできなかった。

 確かに小白香の言うことは正しいのだ。

 金凰魔王という魔王が相手では、護衛としての沙那は役に立たないかもしれない。

 沙那は、道術の力であっという間に金凰魔王にねじ伏せられるだろう。

 

「……そんな顔をするな、沙那……。わらわも金凰魔王と会うことが危険であることは承知しておる。だからこそ、お前は同席させん。金凰魔王の道術には、お前はひとたまりはないであろうよ。わらわは、自分の身は自分で護れるが、お前のことは守れんかもしれんのだ――」

 

「わ、わかりました……。でも、とにかく、お気をつけて――」

 

 沙那はそう言うしかなかった。

 

「わかっておる……。ところで、それよりも、沙那に頼みたいことがある」

 

 小白香がじっと沙那を見た。

 さっきまでは、心なしか余裕があるような物言いをしていたが、今度は表情が真剣だ。

 余程の重大事を沙那に託したいようだと思った。

 

「はい」

 

「母者のことだ」

 

「白象殿?」

 

「わらわが金凰魔王に会っているあいだ、一方で、金凰魔王は、幽閉している母者の身柄こそ、奪おうとするかもしれん――。母者がなんらかの金凰魔王の秘密を知っていることは確かなのだろう……。金凰魔王からすれば、わらわもそうだが、母者こそ、捕えてしまうおうと考えるかもしれん……」

 

「白象殿を……」

 

 沙那は呟くように言った。

 確かに……。

 

「いずれにしても、わらわは、自分の身は守れると思うが、金凰魔王と面しているあいだは、離れていいる母者のことを道術で防護することまではできん。母者を守ってやってくれ」

 

 金凰魔王が小白香を引きつけているうちに、その油断に乗じて、白象の身柄を押さえてしまうというのは、いかにもあり得そうなことだ。

 小白香の言う通り、白象がなんらかの金凰魔王の秘密を知っているのは確かだ。

 

 結局、道術契約に守られているらしいその秘密に、いまだに、沙那は迫れてはいないが、それが金凰魔王にとって、都合の悪い秘密であれば、白象こそさらってしまおうとするかもしれない。

 

 無論、金凰魔王が小白香を無力化できれば、そうするであろうが、小白香の言う通りに、小白香が金凰魔王の道術に十分に対抗できるとすれば、金凰魔王はその目標を白象に切り替える可能性はある。

 沙那はそれに気がつかなかった自分の迂闊さを恥じた。

 

「わかりました……。では、わたしは白象殿についております……。ところで、金凰魔王は、従者をひとり連れてくると言われましたか?」

 

 沙那は訊ねた。

 最初に小白香は、金凰魔王は従者をただひとり連れてくると沙那に説明したのだ。

 小白香と金凰魔王が話すあいだ、その従者は同席はしないと思うから、なにか工作をするとすれば、その従者が怪しい行動をするかもしれない。

 

「従者は老婆だそうだ。金凰魔王や母者が幼い頃に世話になった乳母ということらしいのう」

 

「どうして、乳母など連れてくるのですか?」

 

 沙那は訊ねた。

 

「見当もつかんな。もしかしたら、ただ、この宮殿を見たいと思っただけかもしれん。わらわの知る限り、その乳母とやらは、ここにはやってきたことはないはずだからな」

 

 小白香は肩を竦めた。

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