三個の身体で支配する者が、魔の地でふたつの
それまでの支配者は倒され
ふたつの宝をまとめた者が新たな魔の地の王となるであろう
──金王妃の予言
*
「おはよう、宝――」
部屋に入るなり
「おはようございます、金凰妃様」
金翅の来訪に気がついた金翅付きの女官が頭をさげた。
ちょうど、宝玄仙が垂れ流した尿の処理をしていたところのようだ。
金翅は女官に軽く手をあげて、作業を続けるように指示した。
もっとも、いまは朝といっても、
だが、一日中、天井から吊り下げられているだけの宝玄仙にとっては、朝も夜もないだろう。
金翅がやってくる時間が一日の始まりであり、拷問を受け続け、夜になり、膣に挿入している魔法石を交換するために強制的に意識を失わされて眠る時間が一日の終わりというだけのはずだ。
それ以外には、この肉の塊りは、気絶することも眠ることもできない。
あの
とにかく、金翅がやろうとしているのは、一日も早く、宝玄仙という人格を消滅させて、ひとつの人格に統合させることだ。 それが達成できれば、金翅である金翅の予言の成就を望んでいる金凰魔王を悦ばせることができるはずだ。
元々、これは蝦蟇婆がやるはずだった仕事だ。
だが、その蝦蟇婆は、残念ながら金凰宮に戻ってくることができず、宝玄仙の中のふたつの人格をひとつに統合させるのは、金翅の役目になった。
暗示された匂いによって、すぐに宝玄仙の人格が覚醒した。
「どう、宝? そろそろ、死にたくなってきたかしら?」
金翅は宝玄仙に声をかけた。
すると、その宝玄仙が恨みのこもったような眼で金翅を睨み始めた。
今日で五日目になるのだろうか……。
いまだ、この眼ができる宝玄仙が不思議でもある。
「生意気な顔をするんじゃないわよ、宝」
金翅は宝玄仙の顔の真ん中に拳を叩き込んだ。
「がああっ」
宝玄仙の鼻が潰れて血を噴き出す。
天井から吊られている宝玄仙の身体が揺れて、宝玄仙が悲鳴をあげた。
宝玄仙の身体は、髪の毛を束ねて金具で天井からぶらさげられ、切断した脚の付け根に嵌めた金具で左右に脚を拡げさせて鎖で床の金具に繋いでいる。
ここにやってきてから五日目になると思う。
そのあいだ、まったく変わらない体勢だ。
金翅は宝玄仙の正面に立った。道術を広げて宝玄仙の心に触れる態勢を作る。
宝玄仙の心から、金翅に対する激しい恐怖が伝わってきた。
しかし、同時に金翅に対する憎しみも伝わってくる。
「不思議なものねえ。まったく、飲み水を与えていないのに、尿だけは出るのね。まあ、糞便の方は、もうまったく出なくなったようだけど……。この調子なら、このまま十年くらいは生きられそうね――。魔法石を生成するただの道具としてね」
金翅は、宝玄仙の身体の下の尿の掃除をしていた女官を宝玄仙から離れさせた。
そして、今度は拳を宝玄仙の無防備な腹に食い込ませる。
「おごおおお――」
宝玄仙が唾と飛ばして呻いた。
彼女の口には、これもここにやってきてからずっと装着させっぱなしの開口具を取り付けてある。
だから、この女は、もう四日以上、言葉を喋っていない。
この女が喋れるのは、ただの悲鳴と呻き声だけだ。
そうやって、人としての心を奪っていく。
心がなくなってしまえば、行きつくところは、生きながらの死だ。
そうなれば、宝玄仙は存在を失い、もうひとりの宝玉という人格に統合されるはずだ。
さらに三発ほど寸分違わずに腹の同じ場所を殴打した。
金翅の激しい殴打で、上下に繋がれている宝玄仙の身体が前後に激しく揺れた。
ふと見ると、金翅が殴った部分の肌が赤紫色になり、それがだんだんと拡がっていく。
「おげええ」
宝玄仙が口から黄色い胃液を吐いた。
慌てて床を掃除しようとした女官を金翅は手で制した。
「汚いわねえ……。道具の癖に一人前に人のような反応をするんじゃないわよ……。どうやら、まだまだ、生きているつもりであって、道具になりきっていないようね」
金翅は宝玄仙を睨みつけながら言った。
「こほっ、ごほっ、えぼっ」
だが、目の前の宝玄仙は虚ろな表情で苦しそうに咳き込むだけだ。
「……じゃあ、今日もただの物になりきるための拷問をしてやるわ……。早く、物そのものになってしまうのよ。そうしたら痛みも苦しみもなくなると思うわ」
金翅は今度は宝玄仙の股間を思い切り蹴りあげた。
鎖で脚を開かされている宝玄仙は、金翅の蹴りを避けることなどできない。
爪先を宝玄仙の股間に抉り込ませる。
宝玄仙の股間の骨が砕けた感触が足先に伝わってきた。
「がああっ」
宝玄仙が泣き声をあげて、涙をぼろぼろとこぼしだす。
蹴りあげた宝玄仙の股間から血がぼたぼたと落ちだした。
砕けた骨の破片がどこかを突き破って、膣の中に血を流入させたのかもしれない。
「汚いわよ、宝――」
金翅はその血を流しだした股間をめがけて、もう一度蹴りあげた。
「ほごおおっ」
両脚に繋いだ鎖が限界まで伸びて宝玄仙の身体が跳ねあがり、今度は反動で下にがくんとさがって、天井から吊った髪の毛が伸びてとまる。
宝玄仙の股間が真っ赤に変色し始めた。
金翅は、部屋の隅に控えていた女官に目で合図した。
女官がすぐに、宝玄仙が撒き散らした胃液と血で汚れた床を拭き始めた。
「もうここはいいわ。後はわたしがやるから。隣の控えにさがっておいで……。用があれば呼ぶわ」
金翅が、作業の終わった亜人の女官に告げると、その女官が頭をさげて部屋を出ていった。
とりあえず、宝玄仙の足の下から吹いている『治療術』の風の勢いを強くする。
放っておいても、微風の霊気が宝玄仙の傷ついた身体を治してしまうのだが、それでは時間がかかって、拷問をすぐに続けることができないので、とりあえず治してしまうことにしたのだ。
この風は、常に放出されていて、宝玄仙の身体を健全な状態に維持する役割を持っている。
骨が砕けようと、内臓が破壊されようと、『治療術』の霊気が宝玄仙の身体を通過して、あらゆる肉体の損傷を癒してしまうのだ。
それだけではなく、まったく飲み食いをさせなくても、生存に必要なものは、この霊気がそれを体内に生成して命を維持するのだ。
もちろん、切断されている手足の部位が『治療術』で復活することがないように道術の調整もしている。
だから、この微風の霊気の流れの上にぶらさがっている限り、宝玄仙は絶対に死ぬことはできないし、身体の損傷がそのままということはない。
それは宝玄仙にとって、怖ろしい拷問でもあるだろう。
宝玄仙の身体が癒されるのは、新しい拷問を始めるためなのだ。
拷問を受けるために生き続ける――。
それがどんな風に人を毀すのかは知らない。
だが、いま、宝玄仙はそういう状態だ。
朦朧としていた宝玄仙の心がまたまとまりをみせ始めた。
金翅は宝玄仙の心を読んでそれがわかった。
気絶することはないが、限度を超す拷問をすると、宝玄仙の心が原野に草が生えているだけのような無秩序な拡散状態になる。
それは、普通の人間であれば、気絶をしている状況と同じなのだが、道術で意識を失うことがとめられている宝玄仙は、心がそういう状況になるのだ。
いま、強い『治療術』を身体を吹きあげさせることで、砕けた腰の骨や壊れたはらわたが再生をしはじめた。
赤黒かった部位が元の真っ白い肌になり、最初に潰した鼻もその痕跡がなくなった。
宝玄仙が意識を取り戻したときと同じような状態になり、金翅の顔をじっと睨みつけ出した。
宝玄仙の心が金翅に流れ込んでくる。
「へえ、そんなにわたしを殺したい、宝……? 不思議ねえ。こんなに毎日、死ぬような目に遭わせ続ければ、余程、心の強い人間でなければ、そんな憎しみはもう抱けないはずだけどねえ。そうかい……。まだ、物になりきっていないのね……。じゃあ、今日も歯からいくかい? しかし、『治療術』というのは便利なものよねえ。いくら、歯を砕こうが、引き抜こうが、いくらでも再生するのだからね」
金翅はそう言って、そばにある台からひとつの大椀を手に取った。
中には宝玄仙から引き抜いた歯が集められている。
奥歯もあれば、前歯もある。
砕けた歯もあれば、綺麗な原型をとどめたまま抜いたものもある。
すでにこの大椀いっぱいになっているが、開口具を嵌めさせた宝玄仙の口の中は、綺麗な歯並びのままだ。
金翅がその椀の中の歯を宝玄仙が見ることができる位置に持ってくると、宝玄仙の表情が変わった。
「ひあっ、ひっ、ひいっ」
宝玄仙の目が見開いて、顔が恐怖に染まった。
心も同じように、金翅に対する憎しみが消滅して、ただただ、金翅への怖気だけに変化していく。
歯に対する拷問はおよそ慣れるということはないらしい。
心を読みながら拷問をしているので、もう、殴ったり蹴ったりする拷問に対しては、だんだんと宝玄仙の心が慣れ始めたというのがわかる。
人というのは、痛みにも苦しみにもだんだんと慣れてくるものなのだ。
しかし、この歯に対する拷問は、なかなかには慣れないようだ。
いまのところ、宝玄仙は、この歯への拷問を一番に怖れている。
金翅は、宝玄仙の歯に穴を開けるための霊具を台から手に取った。
先端に細く尖った石の錐先がついている霊具であり、霊気を注ぎ込むと、その硬い錐先が高速で回転して、それを歯に当てれば、歯に穴を開けることができる。
歯への拷問については、いろいろなやり方を試しているが、今日は、穴を開けてから、その穴に劇薬を注ぎ込み、内側から歯や歯茎を溶かすことで苦しませようと思っている。
その責めを宝玄仙に施したのは、昨日が最初だったが、宝玄仙の苦しむ様子があまりにも激しかったので、宝玄仙を堕とすのに、かなりの効果があると判断したためだ。
この拷問はさすがに金翅もやられたことはない。
金翅の発案だ。
だが、これはかなり有効のようだ。
宝玄仙は、金翅がこの拷問をする素振りを示しただけで、もうなにも考えられなくなるくらいに恐怖一色に心が染まっていっている。
いまも宝玄仙の心から、もの凄い勢いで金翅を怖れている感情が流れ込んでくる。
金翅は霊具を宝玄仙の口の中に入れた。
「ひやああっ――ああああっ――」
宝玄仙がぼろぼろと泣きだした。
顔が曲がり、宝玄仙が開口具を取り付けられた涎だらけの顔で、必死になって、金翅に愛想笑いをするように顔を歪める。
構わず、金翅は霊具の先を適当な奥歯に当てた。
「はぎゃああああ――ぎゃあああああ――」
宝玄仙が凄まじい勢いて暴れ出した。金翅は道術を強めて、一時的に宝玄仙の身体を完全固定した。
宝玄仙の暴れが止まって、顔が固定される。
それでも、少しは宝玄仙の顔に震えのようなものは残っている。
あまりにも激しい暴れ方なので、これだけの強い金縛りの道術でも、少しは震えのような身体の動きを残してしまうのだ。
「ぎゃあああ――ひがあああ――」
宝玄仙が泣きながら吠え続ける。
かなり穴が大きくなってきた。
金翅はさらに穴の奥に向かって霊具を当てる。
少しずつ歯が削れて、穴が深く広くなっていく。
宝玄仙の股間からじょろじょろと尿が流れ出した。
その飛沫が金翅の下袍や靴を濡らしたが放っておいた。
もう、宝玄仙は何日もまともに水など飲ませてはいないが、例の微風の道術が宝玄仙の身体に必要な物質を常に再生させてしまうので、尿だけはずっと出続けている。
やがて、宝玄仙の健康な歯に大きな穴が一個あいた。
「さて、じゃあ、歯を溶かす液剤を入れてやるよ。たっぷりと苦しむのよ、宝……。いや、もう、お前は宝という名もいらないわね。ただの道具になるんだしね……。これからは、お前のことは、ただの物と思うことにするよ。拷問を受けて苦しみ続ける道具という物ね。どうしても呼びかけが必要なときは、ただ“物”と呼んでやるわ――」
「あがっ……ああっ……ほが……」
宝玄仙がぼろぼろと涙をこぼす。
泣くのはまだ、心が残っている証拠だ。
まだまだ、宝玄仙は落ちない。
金翅はそれがわかった。
「そして、本当に心の中が空虚になり、物そのものになったら、そのときは、拷問を終わらせてやるわね。だから、この苦しみを終わらせたければ、一生懸命に物になることを考えるのよ」
金翅は、宝玄仙の口の中から霊具を取り出した。
そして、今度は小さな管を取り出し、薬瓶にその管を入れて、管の中に液薬を抽入させた。
今度はその管を宝玄仙の口の中に入れて、あけたばかりの歯の穴に注いでいく。
「ひぎゃああああ――」
宝玄仙の目が一瞬白目を剥いて、そして、凄まじい勢いで暴れ出した。
さっきの金縛りの道術は解いたので、宝玄仙の悲鳴と暴れ方は、まるで発狂したかと思うくらいだ。
だが、まだ発狂はしていない……。
心を読んでいる金翅にはそれがわかる。
おそらく、発狂するときには、同時に心も喪失するのだろうが、思ったよりも心の強い体質らしく、いまのところ発狂の兆候はない。
苦しみもがくが、まだ、そこまでは至らないのだ。
どこまでの拷問をすれば、宝玄仙が潰れるのか……?
金翅は宝玄仙の苦しみもがく様子を眺めながら思った。
最初に宝玄仙を拷問しはじめたときには、そんなに手こずるとは思っていなかった。
だが、いざ始めてみると、考えていた以上に宝玄仙を潰すのは難しいのだとわかった。
この女の心が思ったよりも強いのだ。
心を読める金翅だからこそ、それがわかることなのだが、例えば、いま、この瞬間の宝玄仙には、憤怒や憎悪という感情は皆無だ。
あるのは、果てしない恐怖心だけだ。
金翅に対する服従心や追従の気持ちさえも、心に垣間見ることができる。
この状態になってしまえば、心を潰すのはすぐのはずなのだ。
これまでに、何十人もの亜人や人間の拷問をしたことがある金翅には、それがわかる。
また、金翅自身も、錬奴院時代と金翅になる直前に蝦蟇婆から、そういう拷問を受けている。
それが、この金凰宮の習わしなのだ。金翅といえども、本来は性奴隷にすぎないということを金翅の心に刻み込むためであり、また、奴隷以外に金凰魔王と交わることはできないという金凰宮に代々伝わる鉄の掟を維持するためだ。
だからこそ、金翅は、拷問の果てになにがあるかを知っている。
拷問の果ては、死ではない。
なにも考えられない完全なる心の空虚が、拷問のなれの果てなのだ。
それが自覚できる寸前まで蝦蟇婆に追い詰められた。
金翅となる直前に蝦蟇婆から受けた拷問……。
おそらく、あのまま拷問を受け続けていたら、間違いなく、金翅はそのまま廃人になっていたと思う。
それは間違いない。
だからこそ、金翅は宝玄仙の不思議な強さがわかるのだ。
宝玄仙は、金翅が屈服した拷問よりも遥かに激しい責めを受け続け、それなのに、まだ心の強さを保っている。
拷問を受けている途中では、いまのように心の弱さを見せるのだが、時間が経てば、いつの間にか、強い攻撃的な心を取り戻しているのだ。
その証拠が、さっき拷問を開始する直前に見せた、金翅に対する憎悪だ。
こうやって、拷問を開始して五日目――。
言語に絶する責めを受け続けている宝玄仙が、もう、あんな悪意を金翅に抱けるわけがないのだ。
いったい、この宝玄仙の心はどうなっているのだろう……?
眼の前の宝玄仙の暴れ方が少し穏やかになってきた。
痛みがなくなったわけではないが、あまりにも長く続く激痛に身体が麻痺してきたのだ。
これ以上は、それほどの効果はないだろう。
むしろ、宝玄仙に痛覚への耐性を作りあげてしまうことになる。
金翅は、再び、『治療術』の風を強くして、宝玄仙の溶かしたばかりの歯を再生する道術を刻んだ。
同時に痛みが消えていっているはずだ。
宝玄仙の身体が脱力したようになった。
「おやっ?」
そのとき、金翅は宝玄仙の股間の状態を見て、びっくりしてしまった。
宝玄仙の股間は濡れていたのだ……。
しかも、これ以上ないというくらいにたっぷりと……。
まるで、痛みに苦しみながら達したような感じだ……。
いや……。
これは、達したのではないか……?
急いで、宝玄仙の心を読んだ。
宝玄仙のいまの心は複雑すぎて、よくわからなかったが、確かに、烈しい苦しみの中に、宝玄仙は、いま淫情を覚えているようだ……。
もしかしたら、これが宝玄仙の心の強さの秘密――?
苦痛を快感に変化させて、心が狂うのを防いでいる?
しかし、金翅は首を横に振った。
いや、そうではない……。
そうであるとすれば、宝玄仙の心は憎悪や怒りとは別の性質を示すはずだ。
まったく、この女の心の中がどうなっているのかわからない。
心が読める金翅がそんな風に感じるのは、宝玄仙が初めてだ。
いずれにしても、宝玄仙の身体が痛みの一部を快感に変化させているのは間違いない。
瞳の中には潤んだような輝きあるし、しっかりと股間が潤っている。
そして、いまも、官能の証拠である蜜が膣から滲み続けている。
そのとき、廊下から荒らしい物音が聞こえた。
この部屋に向かってくるようだ。
金翅はさっと服装をただして、やってくる人物を待ち受ける体勢になった。
大きな音とともに、拷問室の扉が開いた。
やってきたのは金凰魔王だ。
従者のような者たちが廊下で待機する態勢になったのが見えた。
金凰魔王は、扉を閉めて金翅に顔を向けた。
怖ろしく不機嫌だ。
「いかがなされたのです、あなた? ご機嫌斜めですね」
金翅は声をかけた。
「性奴隷がふたり毀れたぞ――。いま、余の寝室におる。なにをどうしても、涎を垂れ流して薄笑いが消えなくなった。処分しろ、金翅――」
金凰魔王が怒鳴った。
昨夜、金凰魔王に伽のためにあてがった性奴隷は、比較的新しい女ふたりだった。
錬奴院で調教を受けたといっても、激しい拷問的な金凰魔王の性愛に耐えるのは、まだ早かったようだ。
金翅はその女たちの顔を思い浮かべながら思った。
「わかりました――。処分しておきます……」
金翅は頭をさげた。
魔王の性の相手である性奴隷を管理するのは金翅の役割だ。
その性奴隷が魔王の性愛に耐えられなかったということであれば、それは金翅の落ち度ということになる。
それにしても、そのふたりを金凰魔王の寝室に送ったのは、昨夜のことだ。
いま、やってきたということは、それから、ずっとそのふたりを抱いていたということになるのだろうか……?
金凰魔王の女の抱き方は荒い。
惨たらしく女を抱く嗜虐癖であり、生半可な女では、金凰魔王の相手は務まらない。
だから、錬奴院でも拷問的な調教をさせて、金凰魔王の性愛に耐えれると判断したものしか性奴隷にあげていないのだが、金凰魔王の抱き方で、それだけ長い時間相手をさせられては、どんな女でも潰れてしまうに決まっている。
もちろん、金翅は、そんなことは口にはしない。ただ謝罪の言葉を言っただけだ。
そして、『伝声球』を出して、女官長に指示を発した。金凰魔王の寝室から狂った性奴隷を運びだし、薬殺処分するように命じたのだ。
それにしても、これで、この二日で五人が毀れた。
金凰魔王があまりにも荒々しい性交をするのが原因なのだが、白象宮の一件以来、金凰魔王は荒れ狂っている心の怒りをどうすることもできずに苛立っているのだ。
それがどうしようもなくなって、その苛立ちを性奴隷にぶつけているという感じだ。
なんとか慰めをしたいが、金翅も少しでも新しい性奴隷をあてがうくらいしか、慰労の方策を思いつかない。
だからといって、やはり、錬奴院からあがったばかりの女をあてがうのは、無謀だったようだ。
「それと、途中で肛門が破れたな。それは道術で治しながら抱いたが、あの者たちは尻の開発についても不十分だったようだ」
金凰魔王が不機嫌に言った。
金翅はそれには驚いた。
金凰魔王にあてがった女はいずれも、肛門で金凰魔王を受け入れる調教は終わった者だったからだ。
それは、金翅自身も直接に女たちの身体を確認した。
常識的な肛姦だったら、尻が破けることなどないはずだが、一体全体どんな抱き方をしたのだろう?
金凰魔王は精に備わる霊気のために、膣に精を発した女を支配するとともに、その霊気を強力に増大させるという能力がある。
金翅自身もその恩恵を受けているひとりだ。
いずれにしても、その能力のために、金凰魔王は簡単に女と膣で性交できない。
だから、どうしても、肛門における性交が主体になる。
肛門調教が十分ではない性奴隷をあてがうことなどないのだ。
とにかく、金凰魔王が大きな苛立ちの中にあるのは間違いない。
しばらく落ち着くまで、金凰魔王の相手をする性奴隷については、よくよく吟味した方がよさそうだ。
「……よろしければ、今夜の陛下のお相手は、わたしではいかがでしょう? いつものように手枷と足枷を持参してまいります。どうぞ、存分にこの金翅を苛めてください……。久しぶりに、あなたの調教をお受けしたいですわ」
金翅は媚びるように微笑んだ。
金翅としても、いまの能力を保持するには、金凰魔王の精を定期的に膣に注いでもらう必要がある。
そろそろ、その時期なのは確かだ。
「ほう、ならば相手をしてもらうか。言っておくが、覚悟して来いよ、金翅。少しばかり激しいかもしれんぞ」
「愉しみにしております」
すると、金凰魔王は、満更でもないように頬を緩めた。
金翅はほっとした。
金凰魔王がほんの少しでも、機嫌がよくなったのは、金翅としてもすごく嬉しい。
この数日の金凰魔王の不機嫌の原因はわかっている。
それは、白象宮とのことだ。
なにしろ、金凰魔王は、白象を廃位させて、白象宮の魔王の地位を乗っ取った小白香を金凰魔王の精の力で支配しようとして、逆にしてやられてしまい、小白香に精の支配を植えつけるどころか、事もあろうに、逆に、二度と白象宮やその領域には手を出さないという道術契約を結ばされてしまったのだ。
しかも、一緒に同行した蝦蟇婆は捕らえられ、その処刑の執行は始まっている。
まだ、死んではいないようだが、蝦蟇婆は新魔王になった小白香の直接の裁きによって、白象宮の王都広場で直柱に拘束されて、前後を絶する苦しみを味わわせられながら時間をかけて殺されている最中のようだ。
しかし、白象宮に手を出さないという誓いをさせられた金凰魔王にはどうしようもない。
それどころか、誓いに基づいて、金凰魔王は、長く白象宮やその領域内に潜入させていた手の者を引き揚げる指示を出している。
道術契約による誓いは絶対だ。
契約した以上、金凰魔王は白象宮に自ら手を出せないというだけでなく、金凰宮側から手を出そうとする者があれば、積極的にそれを阻止をしてしまうのだ。
手の者を引きあげさせるという指示も自ら告げたようだ。
すでに、手の者からの情報が入らなくなっており、白象宮がどういうことになっているかもわからなくなっている。
金凰宮に入ってきた向こうの状況に関する情報は、昨日、白象宮が内外に正式に発した公示の内容だけだ。
それによれば、改めて、小白香が第二代の魔王に即位することが宣言され、その即位式も二箇月後に開かれることになったようだ。
また、白象は、摂政という立場で新魔王を支える体制になったらしい。
白象と小白香は憎しみ合っていたと思っていたし、小白香は種の本能で、借腹の白象を嫌うようになっているはずだったので、あのふたりが和解したというのは、金翅も意外だった。
詳しくは聞いてはいないのだが、そのきっかけも金凰魔王が小白香に手を出そうとしたことだったようだ。
あのふたりが和解したというのは、小白香が自らの新魔王の称号を“小白象”とすると発表したことでもわかる。
魔王の名で呼称される魔王宮も、引き続き“白象宮”と称するとも触れに示されていた。
どうやら、白象宮の体制が盤石になりそうな感じであり、金凰魔王としては面白くないのはわかる。
また、毎年、白象宮から朝貢されていた莫大な財も打ち切られることは間違いないだろうし、その穴埋めについて、金凰魔王が側近と連日、頭を悩ませていることも金翅は知っている。
また、なによりも、金凰魔王を消沈させているのは、予言のことだ。
金翅は少し前にひとつの予言をしていた。
それは、“三個の身体で支配する者が、魔の地でふたつの宝を手に入れる。それまでの支配者は倒され、ふたつの宝をまとめた者が新たな魔の地の王となるであろう”という内容のものであり、その真の意味することは、金翅自身にもわからない。
だが、金凰魔王は、それが自身があの魔域の覇者となるという意味だと信じていた。
金翅もそれは信じたい。
だから、予言成就の条件である“ふたつの宝をまとめる”ということを実現しようとしているのだ。
しかし、一方で、“三個の身体で支配する者が……”という条件は、金凰魔王が白象の支配力を失い、小白香の支配にも失敗したことで、条件が遠のいたかたちだ。
だからこそ、金凰魔王はこの数日荒れ狂っているのだ。
「また、錬奴院から新しい性奴隷を入れておきます、あなた」
とりあえず、金翅は言った。
魔王の慰めのための性奴隷を提供するのは、金翅の重要な役目だ。
なんとか、いまの荒々しい金凰魔王の責めに耐えれる奴隷を準備するしかないだろう。
「いや……。どうせ、また、同じであろう――。急いであげても、あっという間に毀れるのでは堪らん。しっかりと錬奴院で作りあげてからでいい」
金凰魔王が吐き捨てるように言った。
金翅としては、頭を下げるしかなかった。
金凰魔王の性癖は残酷で激しい嗜虐癖だ。
だからこそ、生半可な相手では務まらない。
錬奴院で拷問のような調教を受けて、それでも、平然と耐え抜くような女でなければ、金凰魔王の性愛を受けとめることはできないのだ。
それが十分でない場合は、昨夜壊れた女たちのようになってしまう。
そのために、錬奴院では、いまでも奴隷を鍛える嗜虐を連日続けてさせている。
そのとき、金翅は、いま、錬奴院で拷問調教をさせているひとりの女のことを思い出した。
報告は常に受けている。
拷問にもいくらでも耐えるらしいし、肛門の開発も終わっているということだった。
ばたばたして失念していたが、考えてみれば、その女なら金凰魔王の相手ができる。
最悪、毀れたとしても、まったく惜しくない。
「そう言えば、この女の供がいましたわ、あなた――。孫空女です。まだ、従順さが不足しており、陛下のお相手にあげる状況にはないのですが、身体だけは丈夫なようです。それに、肛門でもしっかりと性の相手ができると、
金翅は言った。
「おお、あの孫空女か――。玄魔を手玉に取った人間族の女傑だったな。それはいい――。ならば、今夜は金翅――。明日は孫空女ということになるな――。それは愉しみだ」
金凰魔王が破顔した。
金翅はちょっとほっとした。
「ついでに、面白い趣向をお見せしますわ。今日は、たまたま、目の前の物への新しい責めを追加するところでしたのです」
「おお、宝玄仙への責めか――?」
金凰魔王は、初めて宝玄仙の存在に気がついたように、吊られている宝玄仙に視線を向けた。
宝玄仙は、疲れたように首を垂れていて、その表情は見えない。
心を読むと、いまは心が虚ろに近い状態にあるのがわかる。
「いいえ、ただの“物”です。そう呼ぶことにしました」
「なるほど……。ならば、どんな趣向なのだ、金翅? 余も見物していこう」
金凰魔王は拷問室の隅にある椅子のひとつにどっかりと腰をおろした。
金翅は、部屋の隅から、すでに運ばせておいた一個の容器を宝玄仙の身体の真下に持ってきた。
容器の蓋を取る。
容器の中には水が張っていて、容器の中では、目当ての生物がとぐろを巻いていた。
金翅は容器に手を突っ込んで、その生き物の首を掴んで取り出した。
「霊気で開発した特別な肉食の黒ウツボです。これをこの“物”の愉快な場所に入れたいと思います」
金翅は宝玄仙の股間に黒ウツボを近づけながら言った。