最後の下着まで脱ぎ終わり、
その様子を眼の前のお宝がにやにやと眺めている。
鳴智は、はらわたが煮えかえるような屈辱を覚えながら、自分の股間に股縄を施すために、目の前にある縄を手に取った。
逆らうことはできない……。
『服従の首輪』で与えられた“命令”は絶対だ。
その酷さも強さも、鳴智は誰よりもそれを知っている。
自縛の経験はないが、緊縛法は身についている。
鳴智の手は“命令”に基づいて、手慣れた手つきで縄をほぐしだす。
まず、自分の腰の括れた部分にふた巻しにした縄を固く臍の下あたりで結わえる。
次いで、結び玉をひとつ作り股を開いて股間に通した。
「結び玉は三個だよ、鳴智。どの三箇所だか、説明しなくてもいいだろう? 横着するんじゃないよ。命令だからね。お前が一番感じるように結び目をしっかりと喰い込ませるんだ。一番感じる場所じゃなければ、何回でもやり直しな」
お宝が愉しそうに言った。
「ちっ……」
鳴智は歯噛みした。
これで、絶対に手を抜くことができなくなってしまった。
鳴智は背中側で結わえかけていた縄を一度解いて、さらに縄瘤を追加して、股間に喰い込み直した。
「んんっ」
肉芽と女陰と菊座に縄瘤が収まる。
それを腰の後ろに手繰り寄せて股に縄を自ら喰い込ませると、後ろ側で腰縄に繋ぎとめた。
「なかなか、似合うじゃないかい、鳴智。そのみっともない縄の下着がお前にはお似合いだよ。じゃあ、早速始めてもらおうかね」
お宝が意地悪く言った。
「わ、わたしに感じさせようというんですか……? わたしはそんなのは、もうたくさんなんですよ。勘忍してくれませんかね……」
鳴智はうんざりして言った。
お宝の魂胆はわかっている。
このまま股縄を締めあげた状態で、腰を動かしたりすれば、縄瘤が鳴智の股間に意地の悪い刺激を加えるのは目に見えている。
実際、なにもしなくても、自ら一番切ない部分に縄瘤をきつく喰い込ませている鳴智は、縄瘤の刺激からもう逃げられない状況になってしまっている。
このうえに、さらに身体を動かせば、この卑劣で出来損ないの魔女の前で、恥をかくことになる。
それだけは我慢できないのだ。
「うるさいよ。さっさと、言われたことをやればいいんだよ。命令だ。朝の挨拶の練習をしな――」
傲慢なお宝の態度にぐっと怒りが込みあがったが、鳴智はそれを両手の拳を握ることで耐えた。
「や、やるよ……。やればいいんですね……」
鳴智はもうどうにでもしろという捨て鉢な気分になり、腰を屈めてその場に膝をつこうとした。
「あっ、くうっ」
しかし、鳴智はさげかけた腰を思わず、途中で浮かせてしまった。
腰を屈めて、膝を床に着けようとしたとき、股間に喰い込む縄が敏感な肉芽を一気に擦りあげたのだ。
刺激が襲うことはわかっていたが、実際に受けてみると股縄による衝撃は予想を遥かに超えていた。
鳴智は、襲ってきたその刺激を我慢することもできずに、声まであげてしまった。
しかも、それだけでなく、その淫靡な刺激に、鳴智はぐらりと身体を崩しそうになった。
「その感じだと、縄の結び目は、しっかりとお前の気持ちのいい場所に当たっているみたいだねえ――。だけど、そんなへっぴり腰の挨拶があるものかい――。ちゃんと土下座しな」
お宝が怒声を浴びせる。
鳴智は歯を喰いしばって、床に跪き、深々と頭をさげた。
「お、おはようございます――」
「声が小さい――。もっと、頭を床に擦りつけるんだよ」
両手をついて頭を床につけようとする前に、お宝の靴の裏が、思い切り鳴智の後頭部を踏んだ。
「がっ」
額が床とぶつかって、大きな音が鳴った。
その衝撃の強さで一瞬だけ目がくらんだ。
「お前、馬鹿だろう、鳴智? さっきから、言っているじゃないか――。頭が低いってね――」
お宝は、込みあがる笑いに耐えるような喋り方で、ぐいぐいと力を入れて、鳴智の後頭部をさらに踏んだ。
そのために、鼻も口も嫌という程に床に擦られる。
「わ、わかりました……。も、もう一度やります……」
鳴智は必死になって言った。
「当たり前だよ、愚図が――。ほらっ、やりな――」
やっとお宝が鳴智の頭から足をどけた。
「……お、おはようござい……」
鳴智は頭を床に思い切り押しつけて、腹から声をあげた。
だが、その鳴智の横腹にお宝の靴先が喰い込んだ。
「えぐうっ――」
鳴智は堪らず床に横倒しになった。
「やり直しは、立った姿勢からだよ、馬鹿たれが――」
追いかけてきたお宝の足が鳴智の肩を強く押した。
鳴智は今度は必死になって悲鳴を飲み込んだ。
慌ててすぐに立ちあがる。
しかし、縄瘤が敏感な肉芽や陰唇を擦り、鳴智の動きを邪魔をする。
「遅いんだよ。ほらほら、命令だよ――。逆らえるものなら、逆らってみな」
立ちあがったところで、今度はお宝のびんたが頬に飛んだ。
「ち、ちくしょう……。お、覚えてなよ――」
我慢できずに、悪態をついた。
「なんだと――?」
お宝の手のひらが振りあげられた。
だが、今度はそれが顔に襲う前に、鳴智は身体を沈めて両膝を床についていた。
お宝の手は空振りしたかたちになった。
「あ、あんっ」
だが、烈しい動きは股間を強く刺激することになるのだ。
鳴智は声を我慢することができなかった。
さすがに、自分自身が施した縄瘤は、あまりにもぴったりと敏感な場所に当たりすぎていて、どうしても大きな快感を呼び起こさずにはいられない。
「お、おはようございます、お宝様――」
今度はありったけの声で叫んだ。
こんな馬鹿馬鹿しいことなど、早く終わらせたい。
「甘ったらしい声が混じって、よく聞き取れないねえ。はっきりと喋りな――。やり直し」
お宝が怒ったような口調で怒鳴った。
さっきのびんたを避けたのが、癪に障ったのだろうか――?
声に激しい苛つきと怒りが混じっている。
立ちあがる。
しかし、縄玉がぐいと膣内と肛門に入り込む。
「んんっ」
今度は声を我慢した。
だが、立ちあがった途端に、びんたが飛んできた。
「さっき避けた分だよ――。避ければ、倍に増やすからね」
お宝がそう言いながら、今度は反対側の平手で殴った。
思ったよりも強烈なびんたに鳴智は眩暈に襲われる。
「奴隷の気分になってきたかい、鳴智? さっとと続けるんだよ。わたしは、まだ、いいと言っていないよ――」
「うう……くっ……」
鳴智はしっかりと体勢を取り直し、背筋を伸ばしてから、素早く両膝を床につけた。
こうなったら、縄瘤のことは気にしていられない。
この冷酷女は、本当に満足するまで、続けさせるに違いない。
今度は、縄の刺激で声が洩れないように、しっかりと口を閉じた。
「遅い。勝手に休むんじゃない。すぐに始めるんだよ――」
すると平手が、また鳴智の頬に飛んだ。
「おはよう……ございます……」
鳴智は、喰い込む縄に耐えながら、声を洩らすことなく、頭を床に擦りつけた。
挨拶の言葉も、なるべくはっきりとした声を心掛けたが、さすがに縄で股間を刺激されながら、完璧な口調で声を出すのは無理だった。
どうしても、息が切れたようになってしまう。
「もう一度だよ……。挨拶の言葉ひとつ、満足にできないのかい」
お宝は意地の悪い笑いをしながら、また、鳴智にやり直しを命じた。
仕方なく、鳴智は再び立ちあがり、直立不動の姿勢になってから土下座をして挨拶をする。
だが、また途中で股間に甘い感覚が襲いかかり、それで動きが止まったような感じになる。
「完璧な挨拶をするまで、やめさせはしないよ」
お宝が声をあげた。
鳴智は、また立ち、そして、土下座をする。
しかし、回数を重ねるうちに、だんだんと股間を苛む刺激が、全身に熱と疼きを拡げていき、鳴智から満足な動きをとりあげる。
やり直しの回数が数十回に達したとき、鳴智は“命令”にも関わらずに、腰が砕けたようになり、容易に立つことができなくなってしまった。
刺激を受け続けた股間は、喰い込んだ縄の色を黒くするくらいに、蜜が溢れかえっている。
それでも、“命令”に従って、鳴智の身体は、一生懸命にやり直しを続けようとする。
だが、どうしても、直立不動の姿勢に戻れない。
腰が引いたようになり、それ以上の力が入らないのだ。
その情けない鳴智の姿に、お宝が心の底からの悦びがこもったような笑い声をあげた。
「何度やっても、できないじゃないかい――。仕方がないねえ。まともに一度もできないのなら、数でこなしな、鳴智。いまから、百回繰り返すんだ。別に縄瘤で気をやりながらでも構わないよ――。とにかく、百回、挨拶を続けな――。そらっ」
お宝が椅子に座り直しながら笑った。
鳴智は、泣きそうな気持ちになるのを耐えて、歯を噛みしめた。
いつだって、こうやって耐えたんだ――。
歯を喰いしばって……。
貴族の娘だった自分が、家族のために身を売ることを決めたときも……。
宝玄仙に奴隷にされたときも……。
一味に加担したつもりが、闘勝仙やその取り巻きによって、結局、性奴隷のように調教されたときも……。
桃源と逃避行をして、路銀を失い、食べるものもなく寒さに凍えたときも……。
御影から家族を奪われたときも……。
歯を喰いしばって、真っ直ぐに前を向いて耐えた。
鳴智は、なんとか真っ直ぐに姿勢を伸ばす。
そのとき、部屋の扉が叩く音がした。
「も、戻りました、わたしです……」
扉の外からしたのは、
「入りな」
お宝が言った。
すると、魔凛が部屋に入ってきた。
「こ、これは、どうしたことですか?」
魔凛が、鳴智の様子に目を丸くしたのがわかった。
*
「奴隷の練習は、これで勘弁してやるよ――。だけど、覚えておきな、鳴智。また、生意気を言うと、容赦なく折檻するからね」
お宝と鳴智が待っている部屋に魔凛が戻ると、素裸に股縄だけをした汗びっしょりの鳴智に、お宝が苛ついた声でそう言ったのが耳に入った。
魔凛は嘆息した。
お互いに、相手を毛嫌いしていることは明らかだ。
お宝は鳴智を道術でなにかにつけ折檻するし、鳴智は鳴智で、首に支配の首輪をされ、身体に道術陣を刻まれて、お宝から道術で苛められながらも、お宝に対する馬鹿にしたような冷笑的な態度を改めない。
だから、すぐに喧嘩になる。
喧嘩といっても、一方的に鳴智をお宝が遣り込めるだけなのだが、鳴智には、身体の芯にしっかりとした凄みのようなものがあり、お宝のいやがらせのような嗜虐を受けながら負けていない。
一度、生い立ちを訊ねたとき、鳴智は元々は、ここから遥かに遠い東方帝国の帝都で生まれた貴族の娘だと洩らした気がする。
東方帝国というと、亜人の世界でも有名な土地柄で、亜人の存在を認めず、亜人を“妖魔”と呼んで忌み嫌っている場所だ。
そんなところの貴族娘が、どういういきさつで、こんな亜人だらけの土地にいるのか、それ以上の詳しい話を鳴智がしたがらなかったのでわからない。
「とにかく、座りな、魔凛?」
お宝が言った。
お宝は、顎で自分の向かいの椅子に座るように促した。
卓の上には、土鍋に温めた雑炊があり、横には空の食器と箸がある。
お宝が卓に着くと、お宝が空の皿を押しやった。
食べろということだろう。
お宝は、ふと、鳴智を見たが、鳴智は床に座って自分の身体を両手で抱いて肩で息をしている。
食事をした様子はないから、まだ朝食はとっていないのだろう。
鳴智をさしおいて、魔凛が食事をとるのは気が引けるが、このふたりの関係に加わると、碌でもないことになるのはわかっているので、魔凛はとりあえず、それは考えないことにした。
土鍋から空の皿に雑炊をよそう。
「それで、なにかわかったかい、魔凛?」
魔凛が食事を始めると、お宝が訊ねた。
「はい、宝玄仙は、やはり金凰宮にいます。場所は最上階の層で、監禁されている場所は、その層でも、金凰妃の間と呼ばれる閉鎖された一画です。そこに入り込むのは容易ではなさそうですね……」
とりあえず、調べたことを説明した。
魔凛には、得意の『操り術』がある。
宮廷府に出入りしている高官などを見つけさえすれば、そいつに道術をかけて、いくらでも知っていることを口にさせることができる。
必要な情報を喋らせてから、また、術をかけ直して、魔凛と出遭ったことも、なにかを喋ったことも忘れさせることも容易だ。
そうやって、夜通し歩き回り、ある程度の情報を集めることができた。
もっとも、金凰宮に監禁されている宝玄仙そのものを見ている者と接触することはできなかった。
それにしても、ついこのあいだまで、魔凛の『操り術』は、獅駝の城郭一個を丸々支配してしまうほどの凄さだったのに、いまでは、ごくありきたりの『操り術』程度の能力に落ちてしまった。
まるで、大旋風から解放されることの代償に、持っていた大きな能力を失ったような気分だ。
ただ、それについて、鳴智とあれこれと話し合ったとき、魔凛の話を聞いていた鳴智は、金凰魔王には、精を放った女の道術を格段に向上させる能力があるのではないかと語った。
魔凛の能力が低くなったのは、それは霊気が低下したというよりは、金凰魔王と性交をしなくなったので、その恩恵がなくなり、本来の状態になっただけではないかというのだ。
金凰魔王の精にそんな力があると、耳にしたことはないが、そう言われると思い当たることはある。
魔凛自身がそうだし、いまは金凰妃となっている
金凰妃となる前の金翅は、予言能力があるだけの道術遣いとしては平凡な女であり、いまのような怖ろしい戦闘能力などなかったはずだ。
金凰魔王の肛姦好きは有名な話だし、それは、尻で性交をするのが好きなのではなく、膣に不用意に女に精を放つと、その女の能力を向上させてしまうから、それを避けているのではないだろうか。
そう考えると色々と辻褄が合う。
鳴智の推量は当たっている気がする。
いずれにしても、いまは、宝玄仙のことだ。
魔凛のいまの役割は、自分を助けてくれたお宝や鳴智に仕えることだ。
そして、このふたりの目的は、魔王に捕らえられた宝玄仙を助け出すことらしい。
元はといえば、宝玄仙を捕らえたのは、この魔凛自身なので、今度はそれを助けるために、動き回るというのはおかしな具合だが、立ち場の変わった魔凛のいまやるべきことがそれなのだ。
とりあえず、いままでの聞き込みでわかったのは、宝玄仙が閉じ込められている場所は、金凰妃の私的空間であり、物理的にも道術的にも閉じられた空間だということだ。
そこは、金凰宮の者といえども、限られた者しか出入りしない場所であり、そこで働く女官のような者たちもいるらしが、彼女たちもその一画からほとんど宮廷の外には出ない。
魔凛はそれを説明した。
「……すると、簡単には近づけないということかい。その『
お宝が怒鳴った。
『変化の指輪』というのは、このお宝が作った霊具らしく、指に嵌めてから、変身したい者の体液をすすれば、その姿や声がそっくりに変身できるという霊具だ。
この宝玄仙にそっくりの女は、魔凛が呆れるほどの霊具作りの才がある。
だが、実はできるのはそれくらいであり、なにかの策を立てるということは不得手であり、このふたりでなにかをするときに、結局、策らしい策を立てるのは鳴智なのだ。
それなのに、お宝は鳴智を忌み嫌っているのだから、本当におかしな関係だ。
お宝にしろ、鳴智にしろ、ここにはいない御影という男の命を受けて動いているということだ。
宝玄仙を救い出せというのは、その御影の命令であり、そのために、彼女たちは危険を冒しているのだ。
お宝の言葉に、鳴智が俯いていた顔をあげて魔凛を見た。
「孫空女は……? 宝玄仙の供の孫空女の行方も調べてくれと頼んだはずだよ、魔凛? 孫空女も宝玄仙と一緒なのかい?」
「いや、孫空女は別よ、鳴智。錬奴院という別の場所にいるわ」
魔凛は言った。
「錬奴院?」
声はお宝だ。
魔凛は、錬奴院という施設について説明した。
つまり、そこは金凰魔王の性奴になりたい者が集められて、性奴隷としての訓練を受ける場所であり、金凰宮に隣接する場所にあるということを言った。
「……でも、金凰宮に忍び込むよりは、そこに入り込む方が楽には違いないだろう、魔凛?」
鳴智が言った。
「そりゃあ、そうね……。あそこには、逃亡を防止することに関しては厳重でも、護るべきものがあるわけじゃないしね。あそこにいる監督官の連中も、全員がそこに寝泊りしているわけじゃない。体液を手に入れるために捕らえることも簡単そうだし、そこに潜入するのは難しいとは思わないわ」
魔凛は応じた。
「鳴智、お前、馬鹿かい――。救い出さなきゃならないのは、宝玄仙なんだよ。そんな宝玄仙の供なんて、どうでもいいだろうが――?」
お宝が声をあげた。
「ちょっと、黙っていてもらえませんか、お宝様。わたしに策があるんですから――。それとも、お宝様に別に策があるなら、お聞かせくださいますか? わたしたちは、それに従いますよ」
鳴智が小馬鹿にしたような口調で言った。
その態度は、お宝を無視したいという態度がなんとなくありありとわかる。
「な、なんだと――」
案の定、お宝が激昂した。
魔凛は息を吐いた。
「錬奴院に入り込むことはできる思うわ、鳴智。その『変化の指輪』で化けて、適当な監督官に変身すればいいわ。それでどうするの?」
魔凛は、ふたりの会話に割って入るようなかたちで、慌ててそう口にした。
「……まずは、孫空女を救出する。そして、宝玄仙を救い出せとけしかける……。失敗してこちらに損をすることはないし、あいつの攻撃力は、並外れているから、もしかしたら、成功するかもしれない。いずれにしても、混乱は起きると思う。それに乗じる……」
「孫空女を使うっていうのかい?」
お宝が不機嫌そうに言った。
「そうです。それに、もともと、孫空女は金凰魔王の性奴隷にするために連れてこられたんでしょう? いずれは、金凰宮にあがるんじゃないかしら……。そのときに乗じて、金凰魔王を殺せと教えて、ひそかにこれを渡すのよ……」
鳴智がそう言って、耳からなにかを取りだした。
刺繍針のような小さな棒だ。それを鳴智は耳の中に隠していたいたようだ。
「そ、それは、『如意棒』じゃないかい――。おまえ、どうしたんだい、それを――?」
お宝がびっくりしたような声をあげた。
「もちろん、金凰軍の軍営に忍び込んで盗んできたんですよ。連中は、これを孫空女からとりあげて、倉庫にほったらかしてたんです。盗むのは、大して難しくはなかったですよ……。それにしても、よくできてますよね、これ――。道術で大きくすれば、大の男でも操るのが難しいくらいに重たくなるらしいのに、小さくすれば、このわたしでも扱えるんですから」
鳴智はあっけらかんと言った。
「お、お前、いつ、この妓楼から外に出たんだい――? わたしに断わりもなく――」
お宝は激怒している。
「昨日の夜ですよ。わたしは言ったじゃないですか。ここに、じっとしていても、事態は動かないってね――。とにかく、もう、動きましょうよ。孫空女には、金凰宮に連れていかれる前に、これを渡したいですからね。そうすれば、孫空女は勝手に暴れますよ。金凰宮の中でね」
鳴智は言った。
「お、お前……」
お宝が立ちあがった。
その表情は激しい怒りのために真っ赤だ。
どうして、そこまで怒るのかわからないが、とにかく、鳴智のやることなすこと気にいらないという感じだ。
それなのに、お宝をないがしろにして、自分勝手に鳴智が動いたため、余計に腹が立っていのだ。
しかし、その顔が急に穏やかになった。
そして、顔に笑みさえ浮かべた。
魔凛はその変化に首を傾げた。
「……いいだろう。わかったよ。その策でいくさ……。ただし、錬奴院への潜入はお前がするんだ。そして、孫空女が金凰宮にあがるときには、なんとかお前が一緒についていけるようにしな。『変化の指輪』を渡してやるからそれを駆使しね。いいね――」
お宝が椅子から離れると、鳴智が座り込んでいる床の前に立った。
「わ、わたしが……? で、でも……」
鳴智は困惑した顔になった。
それはそうだろう。
鳴智は霊具が使えない。
霊気を帯びていないただの人間には、基本的には霊具は使えないのだ。
霊気を帯びていない人間にも使えるようにした霊具も存在するが、『変化の指輪』はそうではないはずだ。
そのとき、魔凛には、お宝の手に大きな霊気が集まっているのがわかった。
『取り寄せ術』だ。
なにかの品物を自分の手に取り寄せようとしている。
果たして魔凛の右手の上に、拳大の石が出現した。
「動くな、鳴智――。命令だ」
お宝が言った。
そして、鳴智の前にしゃがみ込んだ。
次の瞬間、お宝の右手は、鳴智の乳房と乳房の真ん中に吸い込まれるように潜り込んだ。
「あっ」
魔凛はびっくりして声をあげた。
お宝の手首から先が、鳴智の胸の中に完全に入り込んでいる。
「あぐっ、があっ、がっ――」
鳴智の顔が真っ蒼になり、脂汗がどっと噴き出した。
鳴智の顔は苦痛に歪んでいる。
だが、動くなという命令で鳴智は動けないでいるようだ。
それでも、あまりの苦痛のためか、鳴智の身体は小刻みに震えている。
「苦しいかい、鳴智……? お前の身体に、霊気を発生する石を入れてやっているんだよ。これを入れれば、お前にも霊具が使えるさ。一時的なものだけどね……。だから、『変化の指輪』を持って、その錬奴院とやらに行っておいで。ほかに必要な物があれば、なんでも持っていきな――。その代わり、絶対に宝玄仙を脱走させるんだよ――。わかったね?」
お宝が鳴智の胸の中に、腕を潜り込ませたまま言った。
だが、鳴智は苦しそうだ。
「……苦しいだろう? 生意気なお前に、わざと苦しませるように処置をしてやっているからね。本来は、こんな術はもっとあっという間だ――。だけど、わたしは、お前が大嫌いなんだ。だから、こんな嫌がらせをするのさ……。ほら、こうしたら、苦しいだろう――。これもどうだい――?」
お宝が笑いながら、鳴智に埋まった手を軽く動かし続ける。
そのたびに、鳴智の顔は白目を剥いたような苦痛を浮かべる。
やがて、やっと鳴智の身体からお宝が腕を抜いた。
「終わったよ。動いていい。命令は解除だ」
お宝が立ちあがった。
すると、鳴智が精根尽きたように脱力して、両手を床につけた。
「はあ、はあ、はあ……」
鳴智がまだ真っ蒼な顔で荒い呼吸をしている。
そのお宝が、今度は、自ら土鍋からよそった雑炊を入れた皿を鳴智の顔の下に置いた。
「えっ?」
鳴智が自分の前の床に置かれた食事に、呆気にとられたような表情をした。
「どうしたんだい? 奴隷の食事は、床に決まっているだろう――。食ったら、さっさと出て行くんだ。宝玄仙を脱走させるまで、戻って来るんじゃないよ」
お宝が吐き捨てるように言った。
鳴智は口惜しそうな顔をしたが、なにも言わなかった。
無言で、自分の腰に巻いている縄を外そうとする。
「勝手なことをするんじゃないよ、奴隷――。股縄を外すのは、食事の後だよ。そうだ……。命令にしよう……。食事は犬食いでするんだ。そうしたら、手は空くだろうから、縄を擦って自慰をしな――。お前は自慰をしながら、犬食いで食事をしろ、鳴智――。皿が空になるまで、自慰を続けるんだ。め、い、れ、い……だよ」
お宝がそう言って馬鹿笑いをした。
「な、なんだって――。くっ、ち、畜生……あっ、ああっ……」
鳴智はその残酷な命令に顔色を変えたが、『服従の首輪』にお宝の言葉にも従うように刻み直されてしまった鳴智は、お宝の言葉に逆らえなくて、その命令に従い、股間の縄を擦りながら犬食いを始めた。
「こぼしたら、さっき脱いだ、お前の下着で床を掃除するんだよ。これも命令だからね」
鳴智の哀れな姿に、お宝が心から愉しそうな声でそう言った。
「はああっ……ああっ……んんっ……」
すると、皿に口をつけていた鳴智が、いきなり背中を弓なりにして、淫情に耽ったような声を発した。
*
荷を背負った鳴智が部屋を出ていった。
まだ、苦しそうだ。
しかし、ただのひと言もお宝には、喋りかけない。
相変わらずの冷笑的な表情をお宝に向けただけだ。
その顔は、まだ上気して真っ赤だ。
扉が閉じると、お宝がすぐに魔凛に向き直った。
「……魔凛、お前も一緒に行くんだ。そして、鳴智が孫空女とともに金凰魔王に近づくことができたら、道術でわたしに知らせるんだ。わたしと通信をするための霊具は渡しておく。『変化の指輪』も何個もあるから、持っていくといい――。どうせ、鳴智は、逐一わたしに報告をするというようなことはしないだろうから、お前が状況をわたしに知らせるんだ」
「わ、わかりました……。で、でも……」
魔凛は頷いたが、なぜ、わざわざ、鳴智を先に行かせてから、魔凛に指示を出すのだろうと首を傾げた。
お宝の態度は、魔凛に対する指示を鳴智には聞かせたくないという感じだ。
「……これは、鳴智には教えるんじゃない。命令だよ。鳴智の胸に入れた石は、ただ、鳴智が一時的に霊具が使えるようになる石というだけのものじゃない。『炸裂石』だ。それに霊気を帯びさせてあいつの胸に入れたんだ……。青獅子を殺すために使ったのと同じもので、それを石にしただけのものだ……」
「えええ?」
魔凛は驚愕した。
「鳴智の策でうまくいかないようなら、わたしが、遠隔操作で鳴智ごと金凰魔王を爆死させる――。そのために、逐一情報をわたしに送るんだ――。いいね――。金凰魔王さえ死ねば、面倒は要らないんだ。それしか、方法がなかったと説明すれば、あの生意気女が木端微塵になったとしても、御影様も納得するはずさ」
お宝がにやりと笑った。
魔凜はぞっとした。
そして、お宝の鳴智に対する嫌悪感は、魔凛の認識を遥かに超えているということを悟った。