連れてこられたのは、強い光が天井から注いでいる正面の一面の壁が鏡になっている部屋だった。
鉄板の丸い首枷を装着させられたままの孫空女は、その部屋の真ん中に向かうように言われた。
部屋の中心の床に人が脚を閉じて立つことができる程度の丸があり、孫空女はそこに立つように部屋に押し込められたのだ。
大きな首枷に視界を阻まれている孫空女には、真下が見えない。
だが、正面の鏡を確認することによって、なんとかその女の示した丸の中に立つことができた。
丸は狭い。
孫空女は、脚を閉じることで、やっと丸の中に足を収めることができた。
「今日は、特別の慈悲をもって責めてやるよ……。ここは、“慈悲の部屋”と呼ばれている拷問室さ」
女が言った。
「じ、慈悲の……へ……や……」
孫空女はなんとなく言った。
もう、ここがどこで、その前の女が誰かということを認識することが難くなっている。
そのことに愕然しながらも、孫空女は、慌ててここは錬奴院という金凰宮のそばの施設であり、眼の前にいる女は、
緒里は、孫空女の正面の壁の隅に移動してきた。
すると、がちゃんと一斉に周囲から音がした。
孫空女の立っている床から細くて長い針が一斉に飛び出したのだ。
緒里が立っている場所を含む、部屋の四周の外側の隅には針がない。
また、鏡で観察する限り、孫空女が立っている丸い輪にも針はない。
それ以外の床には、まったく隙間なく無数の針が天井を向いて飛び出している。
「今日は、なにもしてくていい。ただ、そうやって立っているだけだ、孫空女――。いままでの責めに耐えてきたお前に対する特別な慈悲だろう?」
緒里がくすくすと笑った。
この五日、まったく食べものをとらず、満足な眠りを与えられることなく、わずかな水だけで責め苦を受け続けていた孫空女には、もう、緒里の言葉や態度に反応する気力が湧いてこなかった。
ひたすらに、ぼんやりとする頭を懸命に覚醒させることに集中していた。
それでも、どうしても朦朧とする意識を正常に保たせることができない。
緒里の言葉は理解できるのに、なかなかその内容が頭に入ってこないのだ。
「……聞いているのかい、孫空女?」
「き、聞いて……いるよ……」
緒里の横に立っている大きな鉄の板を首と手首に嵌められた女が口を開いた。
それが鏡に映った自分だというのを理解するのに数瞬を要した。
「そうかい……。まあいい……。特別の慈悲という意味は、もうひとつある。お前の立っている周りに突き出た床の針には、お前を一瞬で殺してくれる猛毒が塗ってある。もしも、お前がこの苦しみに絶望すれば、一歩足を踏み出すだけでいい……。あるいは、そうでなくても、ちょっとでも脚をよろめかえて、足を丸から出したりしても、猛毒が針を通じて全身に回って死ぬことになる」
「ど、毒……?」
毒と言ったか……?
こいつは孫空女を殺すつもりか……。
回らない頭でそんなことを思った。
「ふふふ……。面白いだろう……。ここでは、自殺は自由だ。だけど、どうしても、自殺をしようとしない出来損ないは、こうやって毒を抽入すのさ……。そして、死んでから自死したと報告するんだ……」
「えっ?」
はっとした。
やっと、いま置かれようとしている状況がわかったのだ。
「じゃあ、あたしは行くよ。明日の朝まで丸一日、このままだ……。もしも、明日の朝、ここを覗いて、お前がまた死骸になっていなかったら、ご褒美に次の責め苦を与えてやるよ……。まあ、無理だろうけどね。いままで、この光の拷問部屋から無事に出てきた女は存在しないからね……」
緒里は言った。
そして、にやにやと笑いながら壁沿いの針のない通路を進んで、孫空女の視界から消えた。
「ま、待って――」
孫空女はびっくりして声をあげた。
「そうだ、言い忘れていた――。ここが慈悲の部屋と呼ばれているもうひとつの理由だよ。実は丸一日くらいは、同じ場所に立ち続けるという責め苦に耐えられる者も珍しくもないのさ……。ほとんどの奴隷は、別にお前のように、そんな首枷をしているわけでもないからね。でも、生き延びた奴隷も、ここで一日すごせば、間違いなく発狂はしてしまっている――。わかるかい、孫空女?」
「ま、待ちなって」
孫空女は焦った。
だが、なにも言葉が浮かばない。
「この部屋に閉じ込められた者は、死ぬか、それとも発狂するかのふたりの選択肢しかない。そういう部屋なのさ。だから、いずれにしても、ここに閉じ込められた奴隷は深い慈悲に授かるということなんだよ」
そして、孫空女の背後でがたんと鉄の扉が閉まった音がした。
外から鍵がかけられる音もする。
本当にいなくなった。
「あっ、くうっ」
すると、次の瞬間、鏡だった壁から突然に強い光が点滅を始める。
「な、なに……?」
孫空女は思わず呟いた。
眼の前の壁が強い光を不規則に瞬きを繰り返している。
強く早い光の点滅であることは確かなのだが、微妙に速度が変わったり、光の強度が変化する。
その光を見ていると、なんだか光そのものに吸い込まれそうになる。
孫空女は慌てて、眼をつぶった。
しかし、眼を閉じていても、瞼を通じて光の点滅は孫空女に伝わってくる。
人を発狂させる部屋――?
緒里はそう言った……?
孫空女はそれを思い出した。
頭が痛い……。
孫空女は激しい頭痛にも襲われ始めた。
なんだこれは……?
確かに、この不規則な光に接していると頭がおかしくなりそうだ。
浴びせられる光は明るいのに、感じるのは深い深い真っ暗な穴だ。
それが孫空女を飲み込む……。
闇の中に……。
光という闇――。
「い、いやああ――、た、助けて――いやあああ――」
孫空女は怖ろしくなって、悲鳴をあげた。
必死になって光を閉ざそうとした。
だが、どんなに固く眼を閉じても、この気持ちの悪い光は頭の奥を貫くように入ってくる。
それに、この光を浴びながら目を閉じると、身体の平衡がおかしくなり、倒れそうになるのだ。
真っ直ぐな姿勢を保つために、仕方なく眼を開ける。
すると、眼を閉じていたときよりも、さらに強い衝撃となって光の攻撃が孫空女に襲いかかる。
怖い……。
なぜかわからないが怖い……。
自分が狂うという恐怖……。
「た、助けて……。だ、誰か――」
孫空女は声をあげた。
しかし、それは自分が喋っているのに、自分ではないような感じだ。
怖くてまた目を閉じる。
だが、すると一瞬にして重い首枷が倒れそうになり眼を開ける。
頭から滴り落ちる汗がどんどんと目の中に入り込んでくる。
汗を阻もうと孫空女は眼を閉じるが、身体が倒れるという現実的な恐怖が襲う。
そうかといって、眼を開けていても、光の点滅が孫空女に強い衝撃を与え続ける。
気持ちの悪い光の点滅……。
強い光は熱い熱でもある。
それを裸身に浴びている孫空女の全身からは、夥しい汗が滴り落ちている。
しかし、孫空女が感じているのは、とてつもない寒さだ。
激しい頭痛――。
込みあがる吐気――。
孫空女は、自分が重い首枷をつけたまま、この真っ直ぐに立った状態を保つのが難しくなっているのを知覚した。
闇の中にどんどんと引き込まれる……。
その闇の中には、上もなければ下もない……。
ただの闇だ。
その中に引き込まれる。
「た、助けて――、だ、誰か――。お、お願いだよ――助けて――」
孫空女は必死で悲鳴をあげていた。
倒れる……。
しかし、足を踏み外せば毒針だ。
上下左右の存在しない闇の中で、どうやって真っ直ぐな姿勢を保てばいいというのか……。
息が……。
孫空女は懸命に息を吸った。
だが、なかなか息を吸うことができない……。
背骨が折れそうな重みを全身の筋力で支える続けるが、上下が消滅していく感覚が拡がり、床につけている足の裏が浮いているような心地になりそうになる。
倒れる……。
不規則な強い光の点滅が続く……。
「た、助けて――。お願い――助けて――」
孫空女は最後の力を振り絞って叫んだ。
気がつくと、はっきりと自分の身体が前のめりに倒れていくのがわかった。
孫空女の視界に毒針が近づいている。
「ご主人様……」
最後に孫空女はそう呟いた。
*
孫空女の瞳が明らかに焦点を失っているのが
金翅の眼の前には、一面の当面の壁がある。
立たされている孫空女からは、この壁は点滅する強い光を発する光源に感じるはずだ。
この光は、人間族にとって、もっとも不快な光を発するように作られている。
そして、孫空女の耳は感じてはいないはずだが、人間属の耳には直接は聞こえない雑音が部屋に流れ続けているのだ。
人間族に、この聞こえない音を大音響で聞かせるとともに、特殊な間隔で点滅を繰り返すように設定した光を浴びせさせると、大抵は数刻で発狂する。
しかも、孫空女はあの首枷のせいで、数日間、ほとんど飲み食いもせず、また睡眠もとっていないはずだ。
その孫空女が、この“慈悲の部屋”に入れられて、精神を保ち続けるわけがない。
案の定、すぐに孫空女の様子は常軌を逸したものに変化していった。
『い、いやああ――た、助けて――いやあああ――』
孫空女の顔が恐怖に染まるとともに、その口が悲鳴を放った。
「おやおや、あの孫空女が助けてと言ったじゃないか……。わたしが、どんなに蹴り飛ばしても、殴っても、あいつは、決して“助けて”とは言わなかったのよ……。お前の責めもなかなかのもんじゃない――」
金翅は横に立っている緒里に顔を向けて笑った。
「恐れ入ります、金凰妃様……」
緒里が頭をさげた。
孫空女のことは、毎日、緒里の上司である
孫空女専属の監督官として、緒里を当てたと報告を受けたときには、少しだけ気になった。
緒里の性格は知っている。
この錬奴院は、あくまでも金凰宮の性奴隷の修行施設であり、それ以下でもそれ以上でもない。
精神のぎりぎりまで追いつめるような嗜虐や苛めも、金凰魔王の激しい性癖に耐える身体と心を作るとともに、それを試すためである。
だが、この緒里は、そういう目的を忘れ、嗜虐のための嗜虐をする傾向があり、感情の昂ぶりの余り、しばしば奴隷を責め殺すことがあるということを金翅は知っていた。
その緒里に、あの孫空女をあてがうとなれば、なかなか屈服しない孫空女に苛ついた緒里が、孫空女を殺してしまう怖れがあった。
しかし、金翅はそれでもいいかと思った。
もちろん、殺すのは困る。
だが、この孫空女の美貌と気の強さ――。
そして、精神の頑強さは、それなりの責めでないと、屈服させることはできないと思い直したのだ。
この女の心は強い……。
だから、是非とも金凰魔王の女としてやりたい。
それに、あの戦闘力は、孫空女が屈服して、金凰魔王に忠誠を誓わせれば、金凰魔王の素晴らしい部下になる。
そうなれば、金凰魔王の精を受け入れさせて、さらに能力を活性化させてもいい。
金凰魔王の女というだけではなく、金凰魔王の頼もしい直近の部下となってくれるだろう。
金翅のように……。
そのためには、相当の責めが必要だ。
孫空女の身体と心を死のすれすれに追い込むような……。
『た、助けて……。だ、誰か――』
壁の向こうの孫空女が絶叫した。
その様子から、すでに孫空女がかなり追い詰められているということを察した。
「緒里、針は孫空女が倒れれば、ちゃんと引っ込むように細工をしてあるでしょうねえ。わたしは、孫空女はぎりぎりまで追いつめても、殺すつもりはないのよ。余計なことをして、孫空女が死んでしまったりしたら、その失敗の酬いはするわよ」
「だ、大丈夫ですよ……」
緒里が不満そうな声をあげた。
金翅が孫空女に視線を戻すと、緒里がこっそりと身体の横でなにかの操作盤を動かすのがわかった。
この緒里のことだ。
もしかしたら、この慈悲の部屋の拷問に際して、金翅がやってこなかったら、本当に発狂させるか、毒針で死なせるかしたかもしれない。
ただ、とりあえず、緒里はいまは放っておいた。
『た、助けて――、だ、誰か――。お、お願いだよ――助けて――』
孫空女がまた叫んだ。
その視線は明らかにおかしい。
怖ろしく息が荒い。
全身からは信じられないくらいに汗が噴き出してもいる。
だが、その全身の肌は、はっきりと粟立っている。
孫空女が激しい孫空女を感じているのがわかる。
『た、助けて――。お願い――助けて――』
孫空女が泣きだした。
ぼろぼろと涙を流しだしたのだ。
同時に、真っ直ぐに立っていた孫空女の身体がぐらぐらと揺れ始める。
「これは、もう、もたないね……」
金翅は呟いた。
孫空女が限界なのは明らかだ。
果たして、孫空女の身体が前方向に倒れだした。
倒れていく孫空女が途中でなにかを呟きながら、意識を失ったのがわかった。
「緒里、針よ――。針を引っ込めて――」
金翅は声をあげた。
孫空女の首枷が床に倒れる直前に、毒針は床の中に引っ込んだ。
その孫空女の身体が床に激突する。
首枷に上半身を浮かせる体勢になっているが、完全に孫空女の身体はうつ伏せになっている。
「さて、行くわよ、緒里……」
金翅は立ちあがった。
*
「起きなさい、孫空女――」
声がした。
孫空女は一瞬、どういう状況なのか認識できないでいた。
しかし、強引に身体を引き起こされた。
うつ伏せの状態から上半身をそのまま後ろに引っ張られた孫空女は、ちょうど、正座をして上半身だけを真っ直ぐにする体勢になる。
正座をしている孫空女の足首に足枷が嵌ったのがわかった。
「こらっ、背筋を伸ばすんだよ――」
背後から緒里の声がした。
あれっ?
後ろにいるのは、緒里?
だが、前にも誰かがいる。
女だ……。
どこかで会った気が……。
しかし、朦朧とする孫空女の頭には、その女のことを思い出せない。
そう言えば、どうして自分はここに……。
確か、さっき、毒針の上にうつ伏せに倒れ込んでいったような……。
次の瞬間、眼の前からなにかが襲った。
腕――?
そう思ったときには、その腕が孫空女の顔面に喰い込んでいた。
「はぶううっ――」
孫空女は悲鳴をあげていた。
口の中に血の味が拡がる。
後ろに倒れかけた孫空女の背を緒里が引き起こした。
すぐに二発目が頬に喰い込んだ。
びんただ。
だが、凄まじい破壊力のびんただ。
「目が覚めた、孫空女? わたしが誰だかわかるわね?」
孫空女を殴ったその女がにっこりと微笑んだ。
「だ、誰って……?」
孫空女はその女を知っている。
だが、記憶がなかなか出てこない……。
すると、その孫空女の頬にその女の平手が飛んできた。
打たれるたびに、身体のどこかが毀れるようなびんただ。
それが襲い続ける。
右――。
左――。
右――。
左――。
右――。
左――。
右――。
左――。
容赦のない平手が浴びせられ続ける。
口の中はあちこちが切れ、鼻からは血が噴き出したのがわかった。
「今度は思い出したかしら、孫空女?」
女が孫空女の顔の前に、笑みを浮かべた顔を近づけた。
孫空女は、何度も何度も眼を瞬かせて、その女の顔をじっと見続けた。
「……あ……あ……、き、金凰妃……」
やっとのこと孫空女は言った。
「ご名答――」
金凰妃の拳が孫空女の顔面に叩き込まれた。
孫空女の顔が後方に吹っ飛ぶとともに、意識がすっと消えていった。
「勝手に気絶をしないでくれる?」
金凰妃の声がした。
その瞬間、首に嵌っている首枷全体から強い電撃が襲った。
「ひぎゃああ――」
孫空女は絶叫した。
消えかけていた意識が戻った。
眼を開けると、目の前に金凰妃の顔があった。
息が苦しい……。
怖い……。
「どうしたの、孫空女? なんで泣いているの?」
眼の前の金翅が愉しそうに言った。
泣いている?
自分は泣いているのか……?
そんなことはないと思ったが、そう言われると自分の両眼から涙がこぼれ続けているのがわかった。
しかも、身体が小刻みに震えている。
すると、顔が温かいものに包まれるのがわかった。
『治療術』だ――。
殴られた顔が道術で癒されていく……。
気持ちいい……。
金翅が孫空女の身体に手を伸ばした。
思わず恐怖で身体が竦んだが、殴るのではなく、首枷に嵌っている手首の下の部位あたりに、新しい革枷が嵌められただけだった。
その両腕の枷に背中に回した鎖が繋げられたのがわかった。
「……孫空女、たったの一度だけの質問よ。心して答えるのよ……」
金翅が、じっと孫空女の顔を覗きんだ。
「な、なに……?」
「首枷を外して欲しいかい?」
金凰妃が言った。
「は、外して――。お、お願いだよ――。これを外して――」
孫空女は考えるよりも先に叫んでいた。
「だったら……。もしも、これを外したら、お前は、なにをしてくれるの? 回答の機会はたったの一度だけよ……。この機会を逃したら、もう次の機会はないかもしれないわよ……。さあ、答えなさい――。お前は、わたしが首枷を外したら、その見返りに、なにをしてくれる?」
金翅は言った。
「な、なんでもするよ……。なんでも――」
孫空女は自分の声に嗚咽が混じっているのを悟った。
自分が泣いている?
そのことに、孫空女は愕然とする思いだった。
しかし、いまは、どうでもいい……。
それよりも、この首枷が外してもらえる……。
もう、そのことしか考えられない。
眼が回る――。
眼の前の金翅の姿が歪む……。
すると、いきなりもの凄い光が顔に当たった。
さっきの光だ――。
金翅の背後で激しく壁が瞬く。
「ひゃああ――。こ、これはいやっ――。た、助けて――。これは嫌だよ――」
孫空女は絶叫した。
全身に激しい震えが走る。
身体が一気に冷たくなる。
怖い――。
助けて――。
「いやあっ――、嫌だ――。こ、怖い――怖い――」
孫空女は絶叫した。
金凰妃の身体が孫空女の背後に回った。
阻むのがなくなった光の攻撃が孫空女を襲う。
がっしりと金凰妃の手が孫空女の髪を掴んだ。
顔が光に向かって真っすぐに向けられる。
まともにあの点滅光が孫空女に注がれていく。
「……わたしたちの奴隷になりなさい、孫空女……。奴隷にね……。そうすれば、首枷は外してやるわよ……」
金翅が耳元でささやいた。
「や、やめて――こ、この光はやめて――。わ、わかないけど、怖いんだ――。こ、怖い――いやあああ――」
孫空女は自分の口から童女のような悲鳴が迸るのがわかった。
「……わたしたちの奴隷になりなさい……。そうすれば、光も首枷もやめてあげるわよ……」
金凰妃がまた耳元でささやいた。
孫空女は自分が号泣していることがわかった。
*
拷問に関する書籍に「照射責め」というものがあります。
旧ソ連やベトナムが多用したとされるものであり、その目的は、「眠らせない」「網膜に損傷を与える」というものだったようです。
まて、旧日本軍が実験的にやったことがある照射責めとして、特殊な音を聞かせながら、烈しい光の点滅を強引に続けると、精神が崩壊するというものもあるそうです。
効果の真偽は不明ですが、孫空女への拷問はそれを引用しました。
(旧日本軍がやったとされる拷問には、噂の域を超えないものがたくさんあります。これもそのひとつです)