※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

58 / 819
58  残された虜囚

「ほら──。うまいか、孫、俺の小便は──?」

 

 頭だけを地面から出されている孫の口の中に、その兵の小便が注ぎ込まれる。

 頭は後頭部側に討ち込まれた木杭に髪の毛で結ばれ、上を向いて固定されている。

 口も金属の開口具を嵌められるために閉じることができない。

 その孫空女の口の中に、容赦なく小便が入ってくる。

 夜中の間はそうでもなかったが、朝になると、兵たちは行列を作って孫空女の顔に小便をかけにくるようになった。

 

「うげっ、がっ」

 

 その男の小便が終わると、孫空女は喉で咳をしながら、口の中にたまった小便を吐き出す。

 

「ほらほら、休む隙はねえぜ」

 

 だが、その孫空女に、もう、次の男の小便が振り注ぐ──。

 

「あぶっ、がっ、く、くひょっはれ、がっ」

 

 口に入る小便を懸命に吐き出す──。

 しかし、その吐き出す口の中に小便が入ってくる。

 

「ほらよ」

 

「んあっ」

 

 不意に小便の注ぐ場所が、口の中から孫空女の鼻の孔に変わった。

 苦しさに顔を振る。

 だが、髪の毛で固定されている孫空女の頭はほとんど動かない。

 さらに口の中にも新しい小便が降ってきた。

 後ろの男が小便をかけはじめたのだ。

 

「いあっ、かはあっ」

 

 顔を鼻と口に同時に小便をかけられて、苦しさに悲鳴をあげた。

 いくらかを飲んでしまう。

 男たちが小便を終えて孫空女から離れる。

 だが、すぐに次の男たちがやってきて、孫空女に小便をかける。

 

「いい顔になったじゃないか、孫」

 

 声は明月だ。そばにやって来たみたいだ。

 しかしら孫空女に対する男たちの放尿はまだとまっていない。

 明月は、小便を口で受け続ける孫空女に話しかけている。

 

「おい──。ちょっと、次は待て」

 

 明月が小便をかけるために待っていた次の兵にそう言った。

 なにをやる気だろうと思っていたら、その明月が、孫空女の鼻の孔に土をねじ込んだのだ。

 

「んあああっ」

 

 孫空女は開口具を嵌められた口から悲鳴をあげた。

 しかも、土が埋まった鼻になにかを貼られて、土が出てこないようにされた。

 

「これで小便を吐き出しにくくなったろう。たっぷりと飲め」

 

 また、口の中に小便が入ってくる。

 口の中に溜まる。

 舌と息で吐き出そうとするがうまくいかない。

 ひとりが終わっても、すぐに次の男が新しい小便を注ぎ入れる。

 

 息が苦しい──。

 ある程度我慢するが余りにも長く、途切れなく連続で注がれる小便──。

 仕方なく飲む。

 

 飲んでも苦しい。

 呼吸をする余裕を与えられないのだ。

 小便をかける男が交替する間に息をするしかない。

 吐き出すよりも飲んだ方が早い。

 そのために飲む。

 吐気が孫空女を襲う。

 

 どれくらい続いただろうか。

 さすがに、孫空女に小便をかける男たちは少なくなった。

 孫空女から開口具が外された。

 

「腹いっぱいになったか、孫? なにか言ってみろよ」

 

「くそったれが……」

 

 孫空女は呟いた。

 それ以上の悪態を吐く気にはもうなれない。

 

「もうすぐ、朱姫が戻ってくるそうだ。清明から報告が入った。そしたら、仲良く、ここで処刑だ。教団に逆らうとどういうことになるかを思い知りながら死ぬがいい」

 

 鼻に貼ってあったテープが剥がされる。

 孫空女は、懸命に鼻息で鼻の中の土を出す。

 

「朱姫はあれから、すぐ捕えたそうだ。この五荘観院の近くでな。だが、戻ってきたのは朝だ……。なぜ、そんなに時間がかかったかわかるか、孫?」

 

「知るかよ──」

 

 孫空女は鼻の土を飛ばす。

 まだ、異物が残っている。

 

「たっぷり連中は愉しんだようだ。こっちに残っていた俺たちとしては羨ましいが、まあ、運がなかったようだ。お前たちは、もうすぐ殺される。愉しむのは、沙那でするさ」

 

「さ、沙那は強いよ──。お前なんかに捕えられるかよ」

 

「お前も強いだろう。だが、ここでみっともなく、男たちの小便器になった。教団にはかなわんのだよ。どんな奴でもな」

 

「ご主人様は別さ。教団が束になってもかなうものかよ」

 

「宝玄仙のことか? 二年間も男の性奴隷になっていた女ではないか。なにができる?」

 

「ここにお前たちを殺しに来る」

 

「そうであればいいがな。手間も省ける。だが、もう、懸命に逃亡していると思うぞ。まあ、どこに行っても捕まえてやるがな」

 

 そのとき、周囲がざわめきが耳に入ってきた。

 兵たちの話し声で、朱姫が戻ってきたのだということがわかった。

 やっぱり、逃げられなかったのだ……。

 孫空女は歯噛みした。

 

「鎮元仙士(ちんげんせんし)様」

 

 明月が姿勢を正す。

 鎮元仙士も広場に現れたようだ。

 

「明月、孫空女の顔を自由にしてやれ」

 

 鎮元仙士が言った。

 孫空女の頭を固定していた髪が解かれた。

 鎮元仙士の姿が孫空女の視界に入った。

 

「ゆ、許さないよ、あんたを……」

 

 孫空女は、鎮元仙士を睨んで、それだけを言った。

 

「どう許さないんだ? これから、お前の眼の前で朱姫を殺す──。だが、朱姫を助ける方法がひとつある。俺の道術を受け入れることだ。どうだ? 俺の術を受け入れれば、朱姫は助けてやるぞ」

 

 駄目だ──。

 孫空女を術で支配して裏切らせ、宝玄仙を殺すつもりなのだ。

 それに、どうやっても、孫空女も朱姫も助けるわけがない。

 宝玄仙を捕らえ終って用済みになれば、孫空女も朱姫も処分されるだけだ。

 

「……簡単なことだ。俺の術を受け入れてもいいと考えればいいだけだ。それだけで、お前の身体の中にある『道術返しの術』は効果がほとんどなくなる」

 

「あたしの足の裏でも舐めな、鎮元」

 

 孫空女は唾を鎮元仙士の足に吐いた。

 

「朱姫を見殺しにするか。それもいいか……」

 

 広場の騒乱が大きくなった。

 朱姫が戻ったのだ。

 城壁は後ろなので、近づいてくる朱姫の姿は、拘束されている孫空女にはまだ見えない。

 だが、数名の人間がこっちに歩いて来るのは、気配でわかった。

 すぐ背後で足音がとまった。

 

「しゅ、朱姫なのかい――?」

 

 孫空女は背中に向かって叫んだ。

 

「そ、孫姉さん……」

 

 朱姫の弱々しい声がする。やはり朱姫だ……。

 

「清風、ご苦労だったな」

 

 鎮元仙士が言った。

 清風も孫空女の後ろ側らしい。

 

「苦労という程でも……。まあ、愉しませてもらいましたよ」

 

 清風の声が返ってきた。

 

「朱姫と戻ったのは、お前以下五名か、清風? 追手の数はもう少し多くなかったか?」

 

 明月が言った。明月は、鎮元仙士とともに、孫空女の前側に立っている。

 

「この朱姫が、また獣人に変身したのだ。それで、六人やられた。術が切れたので、やっと捕えて、道術封じの首輪を嵌めた」

 

 清風が言っている。

 

「朱姫を孫の眼の前に跪かせろ──、清風」

 

 鎮元仙士がそう指示をする。

 朱姫を囲んでいたらしい兵によって、朱姫は孫空女の前に跪かされた。

 全裸だ。

 身体は泥や草で汚れている。股間には凌辱を受けた痕がありありと残っている。

 孫空女は歯噛みした。

 

「孫、もう一度訊ねるぞ。宝玄仙を裏切るつもりになれないか?」

 

「ないよ──」

 

 孫空女はきっぱりと言う。

 

「仕方ない……。朱姫を殺すか、清風」

 

「はい」

 

 清風が剣を抜く。

 

「ま、待てよ──」

 

 孫空女は慌てて叫んだ。

 

「どうした、孫? 宝玄仙を裏切る気になったか?」

 

「な、ならないよ。あたしを殺しなよ、鎮元――。朱姫は関係ないだろう」

 

「心配するな。お前も殺す。だが、お前が宝玄仙を裏切れば、朱姫もお前も助けてやるぞ、どうする?」

 

「そ、それは……」

 

 どうしていいかわからない。朱姫を殺したくない。だけど、宝玄仙を裏切るわけには……。

 

「清風、朱姫の首を落とせ」

 

「待って──」

 

「裏切りを承知するな、孫?」

 

 鎮元仙士が孫空女を見て微笑む。

 

「か、考えてる。考えるから、待って」

 

「考えるんじゃないよ、孫空女……。馬鹿のくせに」

 

 朱姫の縄尻を捕えていた兵のひとりが、そう言ってにやりと笑った。

 

「いいよ」

 

 その兵が言った。

 清風が剣を振る。

 朱姫の首が地面に転がり、血が地面に噴き出した。

 

 

 *

 

 

 朱姫の首が呆気なく切断されて地面に転がった。

 跪いていた朱姫の身体が前のめりに倒れた。

 

「な、なにをする、清風──」

 

 鎮元仙士は怒鳴った。

 まだ早い──。

 もう少しで孫空女が屈服したかもしれないのだ。

 

「うわあああ」

 

 孫空女が絶望の悲鳴をあげた。

 鎮元仙士は、ぼろぼろと涙をこぼしだした孫空女に視線を向けた。

 その孫空女が涙を流し続けたまま、憎しみのこもった表情で鎮元仙士を睨む。

 まずいな……。

 かなり心が頑なになっている。

 これでは、術の受け入れの抵抗が強化されてまっただけだ。

 仕方ない……。

 また、色責めで弱らせるところからやるか……。

 宝玄仙を捕らえる餌は必要なのだ……。

 それにしても、なぜ、清風は勝手に……?

 

 そのとき、鎮元仙士の首に、不意になにかが巻かれた。

 清風の横で朱姫を押さえていた兵が、さっと鎮元仙士に寄ってきて、紐のようなものを巻いたのだ。

 

「お前──。くっ──」

 

 怒鳴ろうとした。

 だが、首に巻かれた細い鉄線のようなものによって、それを阻まれた。

 

「……喋るんじゃないよ、鎮元。そうやって、馬鹿みたいに突っ立てな。それとも、その鉄線によって、首を絞り斬られたいかい?」

 

 耳元で囁かれた。鎮元仙士の首に妙なものを巻きつけた兵だ。

 

「お、お前……?」

 

「久しぶりだね、鎮元。このわたしの霊気の波動も見抜けないのかい? それじゃあ、まだ、この八仙と張り合うのは早いね」

 

 そいつは言った。

 

「もしかしたら……。宝玄仙か……? 変化(へんげ)の術か……?」

 

 その兵に呟いた。

 

「当たりだよ」

 

 鎮元仙士は、自分の首に巻かれている金属線らしき霊具を道術で外そうとした。宝玄仙の霊具くらいすぐに無効にできると思った。

 だが、却って鉄線が絞まる。

 鎮元仙士は喉を潰されかける痛みに呻いた。

 

「お前ごときの道術で、この宝玄仙の霊具が外せるわけがないよ。却って苦しくなるだけだから、抵抗するんじゃないよ」

 

 道術なら互角──。

 そう思っていた。

 しかし、鎮元仙士の道術力をもってしても、首を絞める霊具には、まったく歯が立たない。

 

「鎮元仙士様──。動かないで──」

 

 明月の大声──。

 鎮元仙士の後ろに位置することになった明月が、なにかを投げたのがわかった。

 目の前の宝玄仙の眼が見開かれる。

 十本ほどの手刀が鎮元仙士の身体をすれすれにすり抜ける。

 

「うぎゃああああ───」

 

 手刀が背後の宝玄仙に突き刺さった。

 首を絞めていた鉄線が弱まる。

 術の力を込めた。

 首の鉄線が外れた。

 

「ご主人様──」

 

 清風が叫んだ。

 剣を抜いている。

 

「明月──。この清風は沙宝だ」

 

 鎮元仙士は叫んだ。

 宝玄仙が兵に化けていたということは、清風はもう外で倒されたに違いない。

 それに、この清風は兵に化けた宝玄仙を“ご主人様”と呼んだ。すると、この清風は沙那だろう。

 

 明月は、清風に向かって跳躍している。

 清風も跳んでいる。

 

 交差した。

 清風、即ち、沙宝の右手がなくなっている。

 

 倒れる清風の首に明月の剣が背後から振りおろされた。

 清風の首が胴体から離れた。

 鎮元仙士は、身体中に手刀を刺されて、血だらけでのたうちまわっている兵───つまり、宝玄仙を振り向いた。

 明月が兵の姿の宝玄仙に剣を向けた。

 

「よろしいですか?」

 

 明月が兵を見下ろしたまま言った。

 

「待て……。術をかける──。よし、やれ」

 

 明月の剣が「宝玄仙」の胸に吸い込まれる。

 すぐに兵は動かなくなった。

 

「お怪我は、鎮元仙士様?」

 

「大丈夫だ」

 

 鎮元仙士は、首のなくなった兵の指に、指輪があることに気がついた。

 それに霊気を注いで、術の効果を解く。今度は抵抗はない。

 兵の首が、宝玄仙の顔に変わった。

 

「ご主人様ああっ──」

 

 孫空女の絶叫が聞こえた。

 

「死んでいますか?」

 

 明月が訊ねた。

 

「死んでいはいない……。宝玄仙は首だけで生きている」

 

 鎮元仙士は喉だけで笑った。

 明月が驚いている。

 

「驚くな、明月……。道術師には『魂の欠片』という術で、死んでも生き返るように処置してい者がいる。だから、うかつに殺せば復活するのだ。従って、宝玄仙は俺の術で、首だけで仮死状態のまま生かせている。教団への報告に必要でもあるしな」

 

「ならば、首桶を準備させます」

 

 明月が兵に合図をした。

 すぐに数名の兵が駆けていく。

 鎮元仙士は、清風の身体に向かって歩いていった。

 やはり、宝玄仙の霊具の指輪をしている。それを外すと、切断された首が沙那に変わった。

 首だけを地面から出した孫空女が呆然としている。

 

「これは、俺の方で始末をつけときますよ。本物の朱姫は、どこかこの近くに隠れているんでしょうから、山狩りをして、そっちも始末しておきます」

 

「頼む、明月──。俺は、いったん先に帝都に戻る」

 

「すると、この朱姫も偽者でしょうな」

 

「うむ」

 

 朱姫の裸体の指にも指輪がある。

 

「あれだ、明月……。あの指輪だ。あの指輪が宝玄仙の変身の霊具だったのだろう。あれを外せば、おそらく、あの朱姫の姿はほかの姿に変わる。おそらく、追手の兵を身代わりに使ったのだろう」

 

「すると清風は……?」

「生きてはいまいな」

 

 首桶を持ってきた数名の兵が宝玄仙の首を桶にしまった。

 そして、布で覆われる。

 鎮元仙士は、それを受け取ると足元に結界を刻んで、『移動術』を念じた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。