「金凰妃様から伝言よ……。朝食後に連れて来て欲しいそうよ、
緒里の身柄をさらって、寄宿舎を去ったのは夜中だったが、孫空女を回復させるために必要な薬剤などを手に入れるのに手間取り、錬奴院に入ったのは朝の遅めの時間になった。
緒里に変身している鳴智は、錬奴院に出仕すると、すぐに鄔梨李に執務室に来るように命じられた。
そして、告げられたのが、孫空女を金凰宮に連れてあがれという金凰妃からの命令だ。
「移送は午後じゃなかったんですか?」
鳴智は、いかにも緒里がしそうな冷笑を顔に浮かべさせた。
「朝でも昼でも、金凰宮のお方々は性奴隷を好きなときに、好きなように扱えるのさ。いまから一刻(約一時間)後に、移送監視のための近衛兵が一個隊やってくるわ。それと一緒に行きなさい。向こうで孫空女を引き渡せば、ここに戻って報告よ。それが終われば休暇よ」
「移送のための近衛兵ですか? 金凰宮までは目と鼻の先じゃないですか。しかも、近衛兵といえば、男の兵じゃないんですか? それに性奴隷を移送させるんですか?」
「そうよ」
「監視の一個隊は必要ありませんよ。あたしだけで十分です」
「あのねえ、緒里……。監視の要否の判断をお前がする必要はないわ。しかも、その兵が男だろうと、女だろうと、それもお前の知ったことではない……。孫空女を洗脳により大人しくさせたのは見事だったけど、あんなのは、まだ不完全よ。現時点のままでは、あんなのはすぐに回復してしまうわ」
「あたしのやり方が手ぬるいということですか?」
「そうじゃない。もともと、あの斜光洗脳は、本来は十日は続けないと意味はないのよ。それも朝から晩までね。孫空女は、事前にかなり弱らせてあったから、短時間で効果が表れたけど、体力が戻れば、洗脳もある程度は回復する。あれは、そういう拷問なのよ――。今後もほかの奴隷で使うことがあると思うから、覚えておきなさい……」
「はあ……」
「とにかく、孫空女は油断のならない女だと、金凰宮は考えているようよ。だから、しっかりとした態勢を作るらしいわ。移送する距離が眼と鼻の先でもね」
鄔梨李は言った。
「だったら、十日してから金凰宮に引き渡せばいいでしょう」
鳴智は、緒里として不満気な口調で言った。
緒里の性格はある程度は調べあげた。
こんなときに、不平のひとつやふたつを言わなければ、却って不自然に感じられてしまうはずだ。
「最初に言ったはずよ。金凰宮のお方々は、性奴隷を好きなときに上にあげる権利があるとね。移送中に脱走されずに、金凰妃様に引き渡してしまえば、本当は調教が終わっていようが、終わっていまいが、あたしらには関係のない話よ――」
「そりゃあ、そうですけど……」
「とにかく、お前のやることは、残り一刻(約一時間)で、孫空女の身支度をさせて、大人しく金凰宮まで向かうように処置をすることよ。少しは見栄えも整えさせて、化粧もさせなさい。金凰宮では、すぐに陛下がお抱きになるはずよ――。そうそう。浣腸もしておくのよ。尻の洗浄を忘れずにね」
「こんな朝から女を犯すんですか?」
「こんな朝からよ、緒里――。わかったら、行きなさい」
鄔梨李は、緒里である鳴智を手で追い払うような仕草をした。
緒里が不平屋であることは周知の事実だ。
だから、軍人として出世とは関係のないこんな錬奴院の一介の監督官であるのだ。
他人に成りすますには、徹底的にその当人のことを調べあげる。
それこそ、本人そのものになるくらいまで事前調査をするのだ。
今回は、時間がなかったので、鳴智のその流儀は行使できなかったが、それでも可能な限りは調べている。
案の定、鄔梨李に疑いの様子はない。
鳴智は、敬礼をしてから退出した。
使える時間は、一刻(約一時間)――。
その時間で、孫空女を回復させて、金凰宮で戦う準備をさせ、宝玄仙を救出させる……。
それがいまから鳴智がやらなければならないことだ。
孫空女の様子は、一応は緒里を訊問することで承知しているが、果たして、孫空女は戦うだけの力が残っているだろうか。
とにかく、やらせなければならない。
金凰宮に家畜のように監禁されている宝玄仙を救い出すために……。
鳴智は、緒里として自室に戻り、必要な荷を持って、孫空女を監禁している房に向かった。
いよいよ宝玄仙の救出策の開始だ。
荷を担いで廊下を進みながら、鳴智はなんとなく、宝玄仙と最初に会ったときのことを思い出していた。
あれから、五年以上の歳月が流れている……。
鳴智はまだただの少女であり、宝玄仙は天教の八仙という最高幹部として羽振りのある生活を送っていた。
それが、お互いの境遇も激変し、東方帝国から遥かに遠いこんな亜人族の魔王の城で再会することになろうとは……。
過去と現在と、宝玄仙は常に鳴智の人生に絡み合う人物として存在し続ける。
これが因縁というものだろうか……。
宝玄仙と最初に出逢ったのは、東方帝国における公証人のいる役所の前だった。
鳴智は、そこで娼婦として身売りをする書類を作られようとしていたのだ。
鳴智の父親は下級貴族だった。
鳴智の家門は、名門とはいえないものの、かつては、それなりの格式の家柄だったらしい。
ただ、祖父の代に、つまらない罪により爵位を降格されて、財を没収された。鳴智が生まれる前の話であり、鳴智が物心つく頃は、安定した収入のない貧乏な暮らしだったと思う。
しかし、祖父も父も気位だけは高くて、下級貴族に相応しい慎ましい生活をするということには、耐えられなかったらしい。
祖父が死に、父の代になってもそれは変わらず、度々に借金を重ねては、貴族として見栄を張ることを続けていたようだ。そのために家の借金は膨らんだ。
そして、さらに父が分不相応な事業に手を出して、半ば騙されたようなかたちで、その事業に失敗した。
父は自死した。
家族には、返済の不可能な借金だけが残った。
死んだ父は、それでよかったかもしれないが、残された母と三姉妹は、途方に暮れるしかなかった。
三人姉妹の長女だった鳴智は、とりあえず、借金の一部を肩代わりするために身を売ることになったのだ。
娼婦としてだ。
そうでなければ、奴隷になるかだった。
帝国の法では、戦で捕虜となるか、犯罪者でなければ、奴隷に落とされることはないのだが、借金が払えないというのは犯罪と同じだから、放っておいても、いずれ犯罪者として奴隷になる。
それであれば、まだ、自ら望んで、娼婦として身売りをすれば、幾らかはその代金が家族に残る。
鳴智は自ら望んで、娼婦として身売りすることを選んだ。
それでも、鳴智の身柄の代金として支払われる額など、借金の一部でしかなかったはずだ。
家に残されたふたりの妹も、いずれは娼婦か奴隷にならなければならないということもわかっていた。
だが、妹たちが家族ですごせる時間が半年でも、一年でも長くなるのであれば、鳴智が身売りする価値はあると思った。
ある朝、鳴智は、家まで迎えにきた娼館の馬車に乗せられて家族と別れた。
それが最後だった。
その後、垣間見たことはあるが、面と向かっては家族とは一度も会っていない。
そして、公証人による書類手続きをするために、役所の前で、その馬車をおろされたときに、偶然に通りかかった宝玄仙と出遭ったのだ。
しかし、偶然に出逢った宝玄仙は、なぜか鳴智の顔を見て、びっくりしたような表情になった。
そして、声をかけてきた。
娼館の主人から事情を聞いた宝玄仙は、その場で鳴智を買い取ると言ったのだ。
それが始まりだった……。
天教の優秀な八仙として有名な宝玄仙に助けられたと思い、最初はその幸運に悦んだが、それは束の間だった。
宝玄仙は、実はとんでもない嗜虐癖があり、鳴智を相手に残酷な性調教をしはじめた。
朝から晩まで性的な虐待を受けた。
鳴智は抵抗したものの、結局は宝玄仙の言いなりになるしかなく、従順で淫乱な性奴隷に仕立て上げられた。
しかも、宝玄仙は正式な手続きをして、鳴智を自分の私有奴隷にしたのだ。
口惜しかった……。
その調教の日々の中で、宝玄仙の執事の
鳴智は、その桃源の誘いに応じた。
半ば、宝玄仙に対する恨みのようなものもあった。
宝玄仙に飼われる性奴隷でありながら、その執事の桃源に抱かれるなど、宝玄仙に対する裏切りもいいところだからだ。
鳴智は悦んで桃源の女になった。
だが、その桃源は、実は闘勝仙という宝玄仙の政敵の息がかかっていて、しかも、その闘勝仙は、宝玄仙を罠に嵌める計画を企てていた。
鳴智は、その工作に加担した。
そして、宝玄仙は、その鳴智によって闘勝仙に罠に嵌まった。
最初は自分を奴隷にした宝玄仙への恨みのつもりだった。
だから、闘勝仙の悪事に荷担して、宝玄仙を罠にかけるのに積極的に協力し、屋敷に住み込み、宝玄仙を日常的にいたぶる調教師の役目も引き受けた。
もともと、自分にも宝玄仙と同じような嗜虐の血が流れていたのかもしれない。
宝玄仙を苛め抜いて、その顔が屈辱に歪むのを眺めるのは、なんともいえない愉悦を感じたものだった。
だが、そのうちに、鳴智を奴隷にする代わりに、宝玄仙が鳴智の一家の莫大な借金を肩代わりしてくれていて、しかも、今後の生活が立ちいくように爵位の復活と安定した収入の世話までしてくれているという事実を知った。
妹たちが身売りする必要もなくなっていて、一時は正常な心を失っていたようになったいた母も元気を取り戻していた。
鳴智は、それを久しぶりに家族の様子を垣間見ることで知ったのだ。
さらに、その宝玄仙による援助は、鳴智が「女主人」として、宝玄仙を苛めるようになってからも継続されており、万が一、宝玄仙がいなくなっても、その援助が継続されるように処置されていた。
鳴智は愕然とした。
しかし、そのときには、もう、鳴智は、闘勝仙たちから離れられない立場になっていた。
闘勝仙たちの政敵に対する工作のための殺人の道具として訓練を受け、数度の人殺しも経験していた。
闘勝仙は、鳴智が宝玄仙に対する「女主人」の立場をやめることを許さなかった。もしも、裏切れば、鳴智の家族を惨たらしく殺すと脅された。
鳴智はそれに従うしかなかったのだ。
それに……。
それに宝玄仙に対する嗜虐をやめなかったのは、もうひとつ理由がある。
純粋に、鳴智はそれが愉しかったのだ。
宝玄仙の顔が苦痛に歪み、恥辱に顔を染めるたびに、鳴智は心からの愉悦を感じた。
桃源との性生活も続いていたが、むしろ、鳴智は宝玄仙の相手をするときにこそ、性的な満足を覚えていたと思う。
そして、宝玄仙もまた、満更でもなかったように感じた。
その一面は、鳴智とふたりきりのときしか見せなかったが、実は、宝玄仙は被虐癖の持ち主でもあり、鳴智に調教されていたぶられるのをとても悦んだのだ。
鳴智のことを女主人として認め、それを意味する呼びかけをし、あらゆる命令に応じた。
鳴智の身体を舐めろと言えば、どんな場所でもいつまでも舐め続けたし、いかなる破廉恥な行為をさせても、鳴智の命令に諾々と従った。
それは、鳴智と宝玄仙だけの秘密であり、ふたりきりのときのみにしか示さないもうひとつの宝玄仙の姿だった。
いつもは勝気で気が強い宝玄仙が、鳴智とふたりきりのときだけは、まるで童女のように鳴智に甘えるのだ。
それは宝玄仙特有の演技だったかもしれないが、鳴智は、童女のような宝玄仙と飼育ごっこをするのが本当に愉しかった。
心から愉しかったのだ……。
やがて、その宝玄仙は、密かに闘勝仙への復讐を企てるようになった。
それが、『服従の首輪』という霊具の作成だ。
宝玄仙は、それを屋敷でひそかにやっているつもりだったようだが、あの女のやることは、いつだって中途半端で、やることなすこと隙がある。
鳴智は、その宝玄仙の企てが成就するように、隠れて援助した。
秘密が守られるように図り、宝玄仙が首輪を自然なかたちで闘勝仙が手に入れるように工作をしたときには、それを裏で手助けもした。
それは、こんな目に遭わせた鳴智の家族をその時点でも相も変わらずに、支援してくれていた宝玄仙に対する恩返しと、そもそもの原因を作った罪滅ぼしだった。
そして、宝玄仙は復讐を成就した。
鳴智は、宝玄仙が復讐を成功させたら、黙ってその復讐を受けるつもりだった。
だが、結局は逃亡した。
怖くなったのだ。
自分が桃源の子を授かったことがわかったからだ。
当時の自分は、桃源だけでなく、宝玄仙と同じように性奴隷としても、多くの男たちに抱かれていたから、桃源は自分の種であるということが半信半疑だったと思う。
だが、鳴智には確信がある。
あれは桃源との子だ。
いずれにしても、桃源としても宝玄仙からの復讐から逃れるために、帝都から逃亡する必要があった。
桃源は、お腹に子を宿す鳴智を連れて、帝国を逃亡する決意をした。
別に安住の地のあてがあったわけではない。
ただ、実際には怖ろしいほどの道術の持ち主である宝玄仙から少しでも離れようと、とにかく西に逃げただけだ。
その後、宝玄仙もまた、帝都を後にして、西に向かうことになったのは偶然のことだ。
もしも、それがわかっていたら、同じ方向には逃亡はしなかったと思う。
とにかく、桃源は宝玄仙を怖れていた。
ただ、ひたすらに西に向かう旅が始まった。
しかし、妊婦の鳴智を連れての逃避行は、かなり苦しいものだった。
十分に準備された旅でもなく、すぐに路銀は尽きた。
帝都から一歩も出たことのない桃源には、まったく生活力というものがなかった。
だから、生きるために必要なものを手に入れるためのすべては、鳴智の役目だった。
やがて、車遅国の
鳴智は、“
それから、偶然に、同じ帝国出身の旅人だと名乗った
桃源は、御影に心服し、御影の誘いに乗ってさらに西に向かうことに同意したが、鳴智はなんとなく胡散臭く思っていた。
御影が一家を連れて行ったのは、なんと、鳴智たちがいた東方帝国では、西域と呼ばれていた妖魔しか棲まない人外地であり、一家はそこに監禁されたのだ。
そして、御影の奴隷のような立場にされた。
御影の目的は、最初はわからなかったが、やがて、御影の目的もまた宝玄仙だとわかった。
御影は、宝玄仙が自分の力で、西域、つまり、魔域にやってきたときに自分が魔域の王になるという予言を信じており、宝玄仙の力を利用して、自分が世話になっている雷音大王という魔域の王に対する謀反をひそかに準備していたのだ。
宝玄仙が旅の供を得て、この西域に向かっていると教えられたのもそのときだ。
鳴智は、このとき初めて、宝玄仙もまた、帝都を追われる立場になっていることを知ったのだ。
それから後のことは、思い出したくもない。
闘勝仙に身につけさせられた工作員としての腕を御影に飼われて、御影の仕事を無理矢理に手伝わされた。
そして、お宝を作り出す手伝いをさせられ、そのお宝が作った『服従の首輪』の実験台にされ……。
鳴智は思念をやめた。
孫空女が監禁されている牢の前に着いたのだ。
鳴智は、周囲を見回して、近くに誰もいないことを確認した。
この層の出入り口には、牢の並ぶ廊下が並ぶ廊下を監視する当直監督官がいるが、ここは距離が遠いので、鳴智がなにをしているかまで見ることは不可能だろう。
牢には、物理的な錠前と道術による施錠のふたつがかかっている。
まずは、物理的な施錠を鍵を使って開ける。
次に、鳴智は、懐から『道術紙』を出した。
『道術紙』は、紙そのものに、一度きりの道術とそれを発動させるのに必要な霊気を刻んだ小さな紙であり、鳴智が取りだした『道術紙』には、緒里を拷問して、無理矢理に刻ませた牢の解錠の道術が刻んである。
鳴智は、その『道術紙』を扉に張った。
道術錠が解錠される音がした。
鳴智は鉄の扉を開いて中に入った。
「ひいっ」
すると中から大きな悲鳴があった。
孫空女だ。
右の足首だけに足枷が嵌っており、それが長い鎖で壁に繋がっていて、両手は後手に手枷が嵌っている。
全裸だ。
孫空女に対する拘束としては緩い方だろう。
鳴智は、背中側の牢の扉を閉めた。
孫空女は緒里の姿の鳴智を見て、怯えたような表情を見せて、壁まで下がっていった。
ひどく怖がっている様子であり、緒里を見てぶるぶると震えている。
おそらく、恐怖を感じる心を強制的に増幅されているのだろう。
鳴智はしばらく、その様子をじっと見ていた。
孫空女の様子や仕草を観察するためだ。
概ね、事前に緒里から聞いていた通りだ。
鳴智はふと、孫空女の顔を見た。
口の周りが汚れている。
足元に眼をやると、食べかけの食事と水がある。
動物の餌のようなものだが、半分以上が食べられている。
どうやら、食事をしていた途中のようだ。
食事をするだけの元気さがあれば、心配ないだろう。
やはり、この孫空女は強い心を持っている。
この錬奴院の連中や金凰妃は、この孫空女の強さを侮ってしまったに違いない。
鳴智は、服の下に手を伸ばして、『変化の指輪』を外した。
持ってきた荷の中には、緒里から採集した緒里の尿の入った水筒もある。
あれがあれば、何度でも緒里に変身できる。
「な、な、なに……?」
孫空女が壁際に退がったまま、眼を見開いている。
「わたしのことを覚えている、孫空女? 鳴智よ……。一度会っているわよね。女人国の水蓮洞よ。そのときに、わたしは、命令であなたの両腕を切断したわ」
鳴智は言った。
あれは、御影の命により、女人国の女を性奴隷として集めさせられているときだった。
女人国にはびこっていた奴隷狩り団のひとつにそれをやらせたのだが、孫空女たちは、その討伐軍に加わり、お宝がその第一線で戦っていた孫空女を捕らえたのだ。
そして、御影から、『服従の首輪』に命令され、鳴智は捕獲した孫空女の腕を切断させられた。
「お、覚えているかって……?」
孫空女は小さく首を振っている。
どうやら、まったく覚えていないようだ。
まあ、それはどうでもいい……。
「とにかく、これを飲みなさい。気分がよくなるわ……。話はそれからよ」
鳴智は、準備してきた恐怖心を増幅された心の回復剤を取り出した。
これを飲めば、かなり楽になるはずだ。
「いやあああっ――。もう、酷いことしないで――。言うこときく。なんでも従うから――」
すると孫空女が悲鳴をあげた。
鳴智は孫空女に近づいて、思い切り、平手で頬を打った。
「い、いたいいっ、ふええん」
孫空女がしくしくと泣きだした。
あの孫空女が童女のように泣くのには驚いた。
「いいから、飲むのよ。飲まないと折檻よ――。口を開けなさい――」
面倒になって、鳴智は怒鳴った。
折檻だと言うと、孫空女は怯えた表情になり、慌てたように口を開けた。
鳴智はその口に中に、大量の薬剤を突っ込んだ。
かなり高価な薬剤だ。後でお宝に請求してやる。
床にあった水の入っている皿をとって、強引に孫空女の腹に薬剤を流し込む。
「えほっ、げほっ、げっ、えげえっ――」
たちまちに孫空女がえずき出し、身体を丸めて苦しみ始めた。
しかし、時間が経つにつれて、その孫空女の顔に生気が戻りだしたのがわかった。
腕がいいという評判の薬師を叩き起こして、準備させた薬草だが、それなりに効果はあったようだ。
後で死ぬほどの頭痛の副作用があるかもしれないと薬師が言っていたが、知ったことではない。
要はあと数刻だけ、この女戦士がまともになればいいのだ。
極論すれば、まともにならなければ、これ以上、こいつが生きていても仕方がないだろう。
果たして、孫空女は咳き込みながらも、だんだんと目付きがしっかりとしてきた。
途中から、その咳がわざとらしくなり、鳴智を観察するように、こちらに視線を送り始めた。
どうやら頭がまともになり、いまは、鳴智にどう対応すべきかを懸命に見極めようとしているようだ。
「わたしは、敵じゃないわ。いまは面倒なやり取りをする余裕はないの。信じてもらうしかないわね」
鳴智は孫空女の前に屈み込みながら言った。
孫空女に話しかけながら、腰から鍵束を外して孫空女の拘束を外していく。
孫空女は、びっくりした表情で自由になった手を動かしている。
「言っておくけど、あんたを逃がすわけじゃないわ。あんたは命を捨てなさい……。わたしも捨てるわ。ふたりで宝玄仙を助けるのよ。金凰魔王と金凰妃から、宝玄仙を救うの。そのためには、ふたりを殺すしかない。それができなければ、宝玄仙は助けられない……。失敗したときは、わたしもあんたも、命がないと覚悟してもらうわ」
「あ、あんた誰?」
孫空女は当惑している。
そのあいだも、孫空女はしきりに手と足を動かして、身体の調子を確かめている。
見たところ、本調子とはほど遠い感じだ。
だが、もう、それで戦ってもらうしかない。
鳴智は、自分の耳に隠していた『如意棒』を孫空女の手に握らせた。
「わたしは、鳴智。詳しい自己紹介をする暇はないわ。多分、あと半刻(約三十分)もすれば、金凰妃の兵が迎えに来る。あなたを金凰魔王に抱かせるためにね。そのときが唯一の機会よ。必ず金凰魔王と金凰妃を殺して、宝玄仙を助け出すの」
「わ、わかった……。でも、あんた、何者? どうして……。なんか、どこかで会ったような……」
孫空女はもう落ち着いている。
それは、孫空女の眼を見ればわかる。
その眼が戦う者の眼になったのを鳴智は確認した。
だが、まだ、頭が働いていないのか、鳴智についてはよく思い出せないようだ。
「むかし、宝玄仙に助けられた者よ。宝玄仙はわたしのことをよく知っているわ……。だけど、いまは、説明する時間がない。とにかく、いまから手筈を説明するけど、事が起こったら、絶対にわたしの命令に従うと誓いなさい――。しかも、一瞬も躊躇うことなしにね。さもなければ、三人とも死ぬわ。誓うわね、孫空女」
鳴智は孫空女に強い口調で言った。
孫空女は、鳴智の剣幕に圧倒されたように、眼を丸くしている。
「わ、わかったよ。信じる。いまは、あんたを信じる。そう決めた」
しかし、すぐに、孫空女はきっぱりとそう言った。孫空女は腹のすわった顔になった。
鳴智は満足した。
「じゃあ、策を説明するわ……」
鳴智は語り始めた。
*
王宮付の近衛隊の将校の
指名した二名を連れて牢の中に入る。
牢内には、金凰宮に連れてくるように命じられている孫空女という女奴隷がいた。
通常は、錬奴院から金凰宮に性奴隷が移動するのに移送のための隊など必要ないのだが、この孫空女は、たったひとりであの青獅子軍の玄魔隊を蹴散らすほどの女傑であり、しっかりとした態勢が必要だということで、丁翠の隊が命じられたのだ。
どれほどの人間族の女なのかと思っていたが、見たところは、身体の線も細く、人間族の女にしてはやや背が高いくらいなだけだ。
まあ、美女には違いないだろう。
真っ白い一枚物の着物を帯で締め、足首に足枷をし、両腕も後手に手枷をつけている。
顔は薄化粧をしているが、とても怯えたような表情だ。
その孫空女にさせた首輪に繋がった鎖を緒里が握っている。
「準備はできてるよ。心配はないさ……。こいつは、すっかりと性根を抜かれちまって、腑抜けてるからね」
緒里が得意気に言った。
「女奴隷を痛めつけて、給金がもらえるんだ。まあ、いい仕事だな」
丁翠は鼻を鳴らした。
「そ、そりゃあ、どういう意味だよ?」
「他意はないさ、緒里……。それよりも、とりあえず、身体検査をさせてもらうぜ……。おい、孫空女、足を鎖ぎりぎりまで拡げて口を開けな」
丁翠は怒鳴った。
孫空女はびくりと身体を震わせた。
「ま、待ちなよ。身体検査なんか必要ないさ。しっかりと監視してるさ。浣腸だって済ませて、尻穴だってきれいなものさ」
緒里が不満そうな顔をした。
「お前ら錬奴院が、ここで身体検査をしていようが、してまいが、俺たちには関係ねえ――。俺たちが調べるのは、こいつが武器を持ってないかどうかだけだ。いいからどきな。それが、俺たちの仕事なんだ。邪魔すると、錬奴院の監督官だろうが、なんだろうが、痛めつけるぞ」
丁翠が腰の剣を脅すように叩くと、緒里が不満そうに舌打ちした。
その緒里から、孫空女の首輪に繋がっている鎖を取りあげて、部下に孫空女の身体検査をするように命じる。
「穴という穴は、すべて指を入れて確かろ。女の身体には隠す場所が多いからな。小骨一本見逃すんじゃねえ」
丁翠は部下に言った。
すると、役得を与えられたふたりの部下は、にやにやと微笑みながら、孫空女の全身をまさぐり始めた。
ひとりは上から、もうひとりは下から隅から隅まで孫空女の白い肌を撫ぜまわしていく。
孫空女が怯えた様子ながらも、洩れかける声を噛み殺すような声を出しだした。
随分と感じやすい身体をしているようだ。
やがて、部下のひとりは、孫空女の着物をはだけさせて、膣の中に指を入れて、穴の中をまさぐりだした。
もうひとりは、口を大きく開けさせ、歯の裏まで見るとともに、鼻の穴、耳の穴などに指を入れて点検している。
顔をいじられてる孫空女は、苦しそうな顔をしつつ、一方で股間を出入りする指で感じてしまうのか、顔を赤くして身悶えを繰り返す。
「どれっ、尻の穴は俺が点検するかな……」
丁翠は、孫空女のはだけさせた着物の背後を捲りあげ、尻の亀裂に指を添わせると、菊門の中に指をぐいと押し込んだ。
「あっ」
孫空女が身体を竦ませるような仕草をした。
尻の穴になにもないのはすぐにわかったが、丁翠はしばらくのあいだ、指を律動させて、孫空女の尻穴の感触を愉しんだ。
前の穴は部下によって、後ろの穴は丁翠によって弄くられ、しかも、耳や鼻や口の中にも指を入れられて刺激され、孫空女はどうしていいかわからないような切羽詰った表情になった。
そして、薄っすらと汗をかいて身体を小刻みに痙攣し始める。
「いい加減にしなよ、あんたら……。そいつは、これから陛下がお手付きになる女なんだよ。あんたらのような一介の軍人が、好き勝手に触れていい女じゃないんだ……。いい加減にしないと、金凰妃様に報告するよ」
緒里が憤慨したように言った。
丁翠は舌打ちをして、身体検査の終わりを部下に命じた。
「寸鉄も帯びてませんね」
「こっちもです」
部下がそれぞれに丁翠に報告した。
「よし、わかった。じゃあ、出発」
丁翠は命令した。
「待ちなよ。首輪の鎖をあたしに返しな。孫空女を連行するのは、あたしの任務なんだ」
緒里は丁翠の前に立ちはだかるように身体を入れてきた。
「そうかい、緒里……。孫空女の連行はお前の任務かもしれないが、俺の任務でもあるんだ――。孫空女は、俺の隊で囲んで連れていく。お前は、その後を付いて来い」
丁翠は緒里が孫空女に近づくのを身体で邪魔して言った。
任務は信頼のおける者としか組みたくないのだ。
それが丁翠のやり方であり、目と鼻の先の金凰宮への移送であっても、丁翠は手を抜くつもりはない。
すると、緒里は明らかな憤懣を顔に出した。
しかし、丁翠はそれを無視した。
「出発――」
丁翠は、緒里を強引に横に押し退けて、廊下で待っている隊にも聞こえるように、もう一度大きな声で号令をかけた。