※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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590 電撃床の洗礼

「ぎゃあああ──」

 

 宝玄仙は床に落下した瞬間に襲った衝撃に絶叫した。

 予想を遥かに上回る電撃の激痛に、宝玄仙は慌てて鉄棒に飛びついて、宙に足の裏を浮かばせた。

 

「はあ、はあ、はあ、はあ……」

 

 しかし、すぐに限界がやってくる。

 全身を支える腕の力が抜けてきて、ぶるぶると腕が震えてくる。

 この一連の動作をもう何度も宝玄仙は繰り返していた……。

 

「こ、こらっ、いい加減にしなよ、沙那──。どこかで見ているんだろう──。こ、これ以上、ふざけたことを続けると、ただのお仕置きじゃすまないよ。生まれてきたことを後悔するような目に遭わせるよ──」

 

 宝玄仙は棒を両手で掴んだまま、がなり立てた。

 しかし、返事はない。

 やはり、本当に沙那は、宝玄仙をひとりでここに取り残したのだと思った。

 沙那が戻ってくるのが、何刻先なのかはわからないが、宝玄仙の心に絶望が走る。

 宝玄仙の腕の力では、長い時間は鉄棒を掴んだ状態を維持できないのだ。

 すぐに、力が尽きるときがやってきそうだ。

 そうすれば、あの恐ろしい激痛が……。

 

「ううっ……」

 

 宝玄仙は知らず、うめき声をあげた。

 駄目だ……。

 もう……。

 宝玄仙の腕が離れた。

 

「あがあああ──」

 

 宝玄仙は絶叫した。

 その衝撃をばねに、もう一度鉄棒に跳躍して鉄棒を掴む。

 だが、もう自分にほとんど余力がないことを覚るしかない。

 

 すでに、何度も床の電撃の洗礼を浴びている。

 宝玄仙の体力はそれだけで、かなり減殺されているのだ。

 なんとかして、床の電撃を浴びないで済む方法はないか……?

 宝玄仙は懸命に考え続けた。

 

 最初に存在した長椅子はもうなく、いまは金網で囲まれている場所に存在するのは、宝玄仙の身体だけだ。

 だから、物の上に登って、床の電撃を避けることはありえない……。

 ならば、服を脱いで、その下に降りるのはどうか……?

 しかし、それも自分で否定した。

 

 さっき、服越しでも凄まじい衝撃をこの床の電撃は与えた。

 服などの布片を通過して、宝玄仙の身体に電撃を与えるように細工がされているのだろう。

 それに、服を脱いで足の裏の下に置くような作業をしているあいだに、床の電撃は宝玄仙の意識を失わせてしまうに違いない。

 

「ああっ──」

 

 宝玄仙は、それ以上鉄棒を掴むことができなくなってしまい、悲鳴をあげて、また落下した。

 

「うああああっ──」

 

 宝玄仙は悲痛の悲鳴をあげて、鉄棒に跳躍した。

 だが、床の電撃の衝撃に、今度は肢体がぐったりとなってしまっていて、ほんの少し上の鉄棒に飛びあがれなかった。

 しかも、床に到達したときに、がっくりと膝が折れて、身体が倒れた。

 

「ひぐううっ──」

 

 宝玄仙は慌てて立ちあがろうとした。

 しかし、全身が痙攣したようになり、力が入らない──。

 それでも、なんとか腕を伸ばして、やっとのこと鉄棒を掴む。

 

 ひと息はつけるが、すでに腕の力はない……。

 鉄棒を掴んだ瞬間に、落下の恐怖が始まる。

 

 そうだ……。

 金網……。

 

 懸命に横棒を掴みながら、宝玄仙はこの棒ではなく、金網によじ登ってはどうかと考えた。

 金網の目は細かいので、指の一本が入れられるくらいだが、さっき沙那に素足にされているので、足の指が網に入れられるかもしれない。

 それができれば、腕だけでなく、足でも身体を保持できるので、かなり楽になる……。

 そんなことを考えているうちに、また、限界がやってきた……。

 電撃の恐怖が襲いかかる。

 

「うああっ」

 

 そして、ついに、落下の瞬間がやってきた……。

 床の電撃の衝撃に宝玄仙は引っくり返り、全身に凄まじい激痛が襲った。

 今度は、床を蹴って、なんとか金網に飛びついた。

 

「うぎゃあああ───」

 

 しかし、金網そのものには、床以上の強い電撃が流れていた。

 一瞬、意識が飛ぶような強い電撃に弾き飛ばされた宝玄仙は、みっともない格好で床に仰向けでひっくり返った。

 

 だが、その床にも電撃だ。

 もがきながら立ちあがり、鉄棒に跳びあがる……。

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

 宝玄仙は鉄棒にぶらさがりながら、荒い息をした。

 よく考えれば、相手はあの沙那だ。

 金網の処置を忘れるようなへまをするわけがない。

 

 そう思うと、金網にも電撃が走っていることに言及しなかったのは、宝玄仙がその金網に飛びつくことを見越して、あえて、黙っていたような気さえする。

 あいつは、そんな女だ……。

 

 『主従の誓い』で操られているとはいえ、頭の冷静さと知恵の回りは変わらない。

 その沙那が全能力を傾けて、宝玄仙を追い込みにかかるのだ……。

 

 なにをどうやったら、宝玄仙が追い込まれて、諦めの境地になるかを懸命に計算して、宝玄仙を責めようとするだろう。

 そう思うと、沙那のことをよく知っているだけに、そら恐ろしくなってくる……。

 

 そして、腕の力が限界を迎え始める……。

 落下の恐怖がやってくる……。

 

「うう……」

 

 もう、限界……。

 落下した。

 

「うわああっ」

 

 全身に激痛が……。

 また、鉄棒に腕を伸ばす……。

 鉄棒に飛びつき、力尽きるまでぶら下がり続ける……。

 

 同じことを十数回続けた……。

 

 その回数は、十数回から数十回に変わった。

 

 やがて、宝玄仙は鉄棒を掴むだけの跳躍ができなくなった……。

 

「あがああ──ひぐうう──いぎいいい──」

 

 宝玄仙は全身汗まみれのまま、床でのたうち回った。

 意識が飛ぶ……。

 

 激痛から逃れるために跳躍を……。

 しかし、その力が出ない……。

 足が痙攣して踏ん張れない……。

 

「た、助けて──はがああ──」

 

 それでも、鉄棒を掴もうとして、もがき飛んだ。

 しかし、指先が鉄棒に触っただけで、宝玄仙は床に落下した。

 衝撃が宝玄仙の全身を砕いた。

 

 また、飛んだ──。

 今度も届かない……。

 

 宝玄仙は悲鳴をあげて跳躍した。

 今度は届いた。

 しかし、腕がぶるぶると激しく震えていて、掴んでいる状態を維持できたのは一瞬だ。

 あっという間に、宝玄仙は床に落下した。

 

「ひいいっ」

 

 宝玄仙は恐怖のあまり、泣き声をあげた。

 だが、はっとした。

 しかし、予想していた電撃が来ない……。

 

「なにっ……?」

 

 宝玄仙は激しく息をしながら呆然とした。

 いつの間にか、あの恐ろしい電撃が床から解除されていたのだ。

 

「少し休憩しましょうか、ご主人様……。でも、また、再開ですよ。なにしろ、まだ、半刻(約三十分)しか経っていませんからね……。ご主人様には、これを二刻(約二時間)は続けてもらうつもりです」

 

 はっとした。

 振り返ると、外の廊下に通じる扉を背にして沙那が立っている。

 沙那は、手元に手のひらほどの大きさの操作盤を握っていた。

 その操作盤で床の電撃を解除したのだとわかった。

 

 それにしても、まだ、半刻(約三十分)というのは本当か?

 もっと長い時間だったような気がするが……。

 しかも、これを二刻(約二時間)だと?

 

 宝玄仙は愕然とした。

 それにしても、この沙那め……。

 

「さ、沙那──。お、お前……」

 

 宝玄仙は沙那を睨んだ。

 あまりの激昂によって、言葉も出ない。

 しかし、沙那は冷静な視線で観察するように、こっちを見るだけでほとんど表情を動かさない。

 宝玄仙は、その顔に宝玄仙の知らなかった沙那の一面を見た気がした。

 

 あくまでも冷静に、そして、確実にこっちを追い詰めていく送り狼のような視線だ。

 じっと、獲物を見守り、そして、弱るのを待っている。

 そんな感じだった。

 宝玄仙はぞっとしてしまった。

 だが、すぐに、沙那ごときに恐怖心を抱いた自分を嫌悪した。

 すると、憤怒が恐怖を上回った。

 

「さ、沙那──。も、もう、遊びは終わりだよ──。頭のいいお前なら理解はできるんだろう──。お前は、『主従の誓い』をしてしまったことで、自分の感情を曲げられているんだ──。あの小娘に操られているんだよ──。それはわかるんだろう?」

 

「もちろん、その状況は理解しています──。でも、わたしは、いまのままで満足しています。この白象宮の新魔王となった小白象様は、仕え甲斐のあるお方です。まだ、未熟で危なっかしいところもありますが、わたしを信頼してくれているし、権力も地位も与えてくれます……」

 

「いいから、正気になりな――」

 

「いいえ。国の運営というのは、わたしの全身全霊を傾けるに足る素晴らしい仕事です。わたしは幸せです。どうか、わかってください──。小白象様と真言の誓いを交わしてください。わたしを譲ると……」

 

「冗談じゃないと言っているだろう、沙那──。おとといおいで──。どうしても、それを言うなら、あの小娘だって、お前の心を縛っている道術解約を解除してからそれを主張すべきだろう──」

 

「……そうかもしれませんね」

 

 沙那は頷いた。

 だが、動揺の気配の欠片もない。

 

「何度も言うけど、お前は、操られているんだ──。あの小娘は、お前をそんな操りによって心を縛っているんだよ──。卑怯者なんだよ」

 

 宝玄仙は声をあげた。

 

「そんなことはどうでもいいのです、ご主人様……。わたしはいまの生活に充実を感じていますから……」

 

 しかし、沙那が心を動かした様子はない。

 宝玄仙は嘆息した。

 操られていても、いまの状況に満足しているとまで言われれば、宝玄仙としてもお手あげだ。

 一体全体、どうやって沙那を説得すればいいいのだろう……?

 

 そもそも、沙那という女は、感情屋のくせに、感情よりも理性を重きに置く女だ。

 だから、理屈として、沙那が宝玄仙を選ぶべきだという材料を提示してやれば、『主従の誓い』で感情を曲げられていても、宝玄仙の供としての価値を考えるとは思う。

 少なくとも、『主従の誓い』を一度破棄して、冷静に判断すべきとくらいは思う可能性はある。

 

 だが、その沙那が白象宮ではなく、宝玄仙を選ぶべきだという理屈が思いつかない。

 それどころか、冷静に考えるほど、沙那が白象宮を選択する理由を思いついてしまう。

 しばらく沈黙が流れた。

 

「ねえ、ご主人様……」

 

 すると、沙那が口を開いた。

 

「なんだい?」

 

「そもそも、不用心すぎますよ。こんなわかりやすい罠にかかるなんて、うかつすぎます……。まったく相手のことを調べずに、白象宮の城下までやってきて、敵かもしれない相手の誘いに乗って、のこのこと無警戒に宮殿に入るなど、まるで罠に嵌めてくれと言っているようなものじゃないですか」

 

「ど、どの口が言ってんだい――」

 

「だから、ご主人様は、ご自分の力を過信されています。油断するから、こんな簡単な罠に嵌まるんですよ……。これからは、気をつけてくださいね」

 

「罠にかけておいて、このわたしに忠告するのかい? 結構な身分じゃないかい」

 

 宝玄仙は吐き捨てた。

 

「わたしは、なぜ、ご主人様がわたしの罠に簡単に嵌まってしまったかを説明しているのです。本来はご主人様ほどの道術遣いを捕らえるなんて、簡単なことじゃありません。しかし、ご主人様は、どうにも警戒心が無さすぎるのです」

 

「うるさいねえ……。なにが言いたいんだよ、お前?」

 

「わたしは、実は、二日前からご主人様たちが、どこにいて、なにをしているかずっと知っていました。手の者に見張らせていたんです。気がついていなかったですよね?」

 

 沙那の言葉に、宝玄仙は少しだけ驚いた。

 確かに、自分たちを監視する者の存在には気がついていなかった。

 

「城郭で声を掛けさせた者は、役人じゃありません。そういう工作を専門にやる手の者です。ご主人様があの誘いに乗らなくて、逆に警戒したとしても、ご主人様たちを捕らえる罠は何重にも準備していました。でも、ご主人様たちは、最初の一番平凡な罠にかかったんですよ。呆気なく…… 」

 

「だから、なにが言いたいんだよ──。お前の方が頭がいいとでも言いたいのかよ、沙那」

 

 宝玄仙は怒鳴った。

 

「そ、そんなことじゃありませんよ……。わたしは、旅の用心のことを申しあげたかったんです……」

 

 沙那は溜め息をつくと、操作盤のある卓に移動していった。

 そして、操作盤を動かしだす。

 宝玄仙はどきりとした。

 

 だが、予想した床の電撃はやってこなかった。

 その代わりに、金網に囲まれたこちら側の隅に、直径一尺(約三十センチ)ほどの白い線で囲まれた円が出現した。

 ふと沙那の方向を見ると、卓の横にも同じ円の線が出現している。

 

 沙那が卓の横の円の中に、どこからか取り出した水筒を置いた。

 そして、今度は手元の板を操作した。

 すると、卓の横の円から水筒が消えて、檻の中の円に、その水筒が出現した。

 

「喉が渇いたんじゃないですか、ご主人様? 水です……。おかしな薬剤は入っていません」

 

 沙那がかすかに頬を綻ばせた気がした。

 おかしな薬は入っていない……。

 沙那はそう言ったが、それを簡単に信じることはできない。

 

 これが孫空女なら、孫空女がないといえば、水筒の水にはなにもない……。

 だが、沙那は目的のためには、手段を選ばない女だ。

 それが有効だと思えば、平気で嘘もつくし、人を欺く。

 

「どうしたんですか? 飲まないのですか……? だったら、さげますよ」

 

 沙那は言った。

 

「飲むよ──」

 

 宝玄仙が吐き捨てた。

 いずれにしても、喉はからからだ。

 宝玄仙は、檻の隅の白い丸の線まで小走りに進むと、水筒を掴んで飲んだ。

 すると自分でも驚くほどの旺盛な勢いで、喉を鳴らしながら、水が喉を下っていく。

 

 しかし、ほとんど味のない水に、微かな違和感を覚えた。

 すぐに、かっと身体が熱くなった。

 やっぱり、これは媚薬だ……。

 それがわかった……。

 

 全身に無数の虫がたかるような気味の悪さが襲ってきた。

 身体中の性感帯という性感帯が、あっという間に活性化して、疼きを発し出す。

 

「さ、沙那──。お、お前──」

 

 さすがに、こんな状況で騙して、媚薬の入った水を飲ませる沙那に、宝玄仙は肚が煮えくり返った。

 

「おかしな薬剤は含まれていませんよ。含まれていたのは、たたの媚薬です……。それにしても、霊気の籠った薬剤ではありませんから、ご主人様には、すぐにはわからなかったですよね? でも、世の中には、道術だけでは感知できない薬草もたくさんあります。これからの旅では気をつけてくださいね……」

 

「お、お前はあああっ」

 

「それと、霊気のこもった毒の探知は朱姫が得手です。いまみたいな魔草ではない薬草は、孫空女に毒味をさせるといいです。孫空女はなぜか、毒への耐性が強いし、舌が敏感です。それを覚えておいてください」

 

 沙那は言った。

 その冷静な口調が腹がたつ。

 だが、考えてみれば、いままでの旅で、いつも沙那はそうやって、宝玄仙が口にするものについて、誰かしらに毒味をさせていた気がする。

 

 さっきから、いろいろとごちゃごちゃと喋るのは、どうやら沙那は、自分がいなくなった後の旅の心得について、沙那なりに注意を促しているつもりのようだ……。

 

 しかし、そう思うと、苛ついてくる。

 沙那は、これからも宝玄仙や孫空女や朱姫と旅を続けるのだ。

 そんな注意喚起など不要だ。

 それにしても……。

 

「くっ……」

 

 宝玄仙は思わず、両方の拳を握りしめて呻いた。

 媚薬入りの水を大量に飲んだせいで、汗だくの身体に新しい苦痛が襲ってきたのだ。

 

 身体が熱い……。

 全身が疼く……。

 

「檻の中のご主人様に、わたしが与えるものには、すべて媚薬が入っていると思ってください、ご主人様──。水だけでなく、食事にもすべて強い媚薬を入れます。食べる食べないは自由ですが、媚薬を口にしないで、喉を潤したり、飢えを凌いだりはできません……。覚えていますか、ご主人様? ご主人様も最初の頃、そうやって、わたしを躾けましたよね」

 

 沙那がにやりと笑った。

 覚えている……。

 さっき宝玄仙に沙那がやらせた運動もそうだ。

 

 宝玄仙も誰かを調教するときに、最初に体力のすべてを奪ってから、今度は官能責めにする。そうやって、肉体を追い詰めて、心を調教してしまうのだ。

 

 なんのことはない……。

 沙那は、宝玄仙が沙那にやったことを応用して、今度は逆に宝玄仙の心を調教しようとしているのだ。

 

「どうですか、ご主人様? わたしに腹がたちませんか? ご主人様の女奴隷だったわたしに、こんな仕打ちをされて悔しいですよね? 仕返しをしたくないですか?」

 

「お、お前をもう奴隷とは思っていないよ……。奴隷のように扱ってもいい供だとは思っているがね」

 

 宝玄仙は言った。

 水筒を円の中に置く。

 すると、その水筒が消滅して、沙那の横の円に移動した。

 

「それはどうも……。ところで、答えてください、ご主人様。わたしに仕返しをしたくはありませんか?」

 

 沙那は言った。

 

「したくはありませんかだって? とんでもないね。必ず、この仕返しはするよ。わたしは、それが操られてやったことであったとしても、お前には必ず罰を与えるよ。倍返しじゃすまないよ。十倍にして躾けるからね──。後で正気に戻ったら、いまのわたしの言葉をよく思い出して、そのときに後悔しな──」

 

 宝玄仙は言った。

 

「だったら、仕返ししてくさだい──。わたしは、逃げません……。約束します。なんでしたら、逃げないと真言の誓いをしてもいいですよ」

 

 すると沙那が言った。

 

「はあ?」

 

 宝玄仙は呆気にとられた。

 

「その代わり、小白象様と真言の誓いを交わしてください。わたしという存在を代価と交換に渡すと、小白象様と契約するんです。そうすれば、わたしは、ご主人様が気の済むまで罰を受けるということをご主人様と真言の誓いします」

 

 沙那が言った。

 こいつの魂胆はわかった。

 とにかく、この檻の中で宝玄仙を怒らせて、真言の誓いに同意させるつもりなのだ。

 だが、一度、真言の誓いをすれば終わりだ。

 そうしたら、檻から解放されて、宝玄仙の道術が復活しても、沙那を譲り渡すということに拒否できない。

 

「……とにかく、あの小娘を連れておいで──。まず最初にするのは、お前に刻まれている『主従の誓い』の解除だ。それをしない限りは、なんの交渉にも応じるつもりはないからね」

 

 宝玄仙は言った。

 すると、沙那が嘆息した。

 

「仕方ありませんね……。だったら、もっと惨めな思いを味わってもらいますね、ご主人様……。いますぐに、そこで素っ裸になってください。下着も含めて、なにもかも脱いで、その円の中に入れてくださいね」

 

「な、なんだと──?」

 

 宝玄仙は叫んだ。

 

「すぐに脱ぐんですよ──。さもなければ、床に電撃をまた流します。今度は、本当に二刻(約二時間)放っておきますよ」

 

 沙那が言った。

 宝玄仙の背筋に冷たい汗が流れた。

 そして、さらに沙那が卓を操作した。

 すると、宝玄仙を囲むように、羽根のついた小さな銀色の球体が三個ほど檻の中に出現した。

 

「これは、『監視虫』と呼ばれる霊具です。檻の中に閉じ込められているご主人様を四六時中監視し続けます。ご主人様は、いま、さっき媚薬を飲んだから身体が疼いていますよねえ……? でも、自分で身体を慰めてはいけません」

 

「は、はああ?」

 

「その『監視虫』が監視していますからね。ご主人様が自分の身体を慰めていることを『監視虫』が発見したら、自動的に床に電撃が流れるように、すでに操作盤に入力しています。時間は半刻(約三十分)です。その場合は、この操作盤では解除できませんよ」

 

 沙那はさらりと言った。

 

「な、なんだと──?」

 

 宝玄仙は声をあげた。

 

「ご主人様に苦しみを与えるのは本意ではないのです。だから、電撃を流したくはないのです。でも、これは、わたしなりの交渉の材料です……。とにかく、ご主人様がその中で飲み食いするものは、すべて媚薬漬けになっているということを思い出してください。三日も、四日も、媚薬の疼きに我慢するのはつらいと思いますよ。耐えられないと思ったら、すぐに真言の誓いに応じてください──」

 

「なっ……」

 

 宝玄仙は絶句した。

 沙那の表情から、こいつが本気だということがわかったのだ。

 ぞっとした。

 

「さあ、どうしますか? 決めてください。真言の誓いに応じるなら、そう言ってください。契約を結んだ後、ご主人様をそこから解放します。そして、わたしは罰を受けます。それとも、あくまでも拒否するなら、すぐに着ているものを脱いでください。そうであれば、わたしは、次の責めを開始することにします」

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