「随分と感度がいいですね? どうしたんですか、宝玄仙様?」
金網を挟んで宝玄仙と沙那は向き合っている。
その沙那がそう言いながら、自分の唇をぺろりと舐めたのを宝玄仙は見た。
沙那が性的な欲情に陥り始めたときの癖だ。
つまり、沙那は宝玄仙を責めるという行為によって、性的な興奮状態になりかけているのだ。
それで、宝玄仙は思い出した。
いつも理知的で冷静な沙那だが、その沙那が異常に感情的になって我を忘れたようになることがある。
それは、沙那が宝玄仙を責めるときだ……。
普段は、沙那は受ける性しかしない。
もともとが性には奥手であり、宝玄仙に与える性が唯一の性である沙那にとっては、宝玄仙が徹底的に調教した被虐の快感こそが、唯一にして、完璧に身体に染みついた快楽の根本だ。
しかし、その沙那がさらに興奮して、我を忘れたようになるのが、実は沙那が嗜虐に回るときだ。
時折、宝玄仙を責めたり、朱姫を責めさせることがあるが、そのときは明らかに沙那の理性的な部分が消えている。
沙那の隠れた本質は、本当は嗜虐側になるのではないかとさえ思うことがある。
そして、いま、沙那は宝玄仙を責めるということにより、いままでの時間で垣間見えなかった本能的な部分が見え隠れし始めたように思う。
それをもっと剝き出しにさせなければ……。
この女から理性的な部分を剥ぎ取れば、後には宝玄仙以上に気の短い感覚的な女が残る。
この女の知恵者の一面は影を潜め、感情的な沙那の本質が表に出るのだ。
とにかく、せめて、沙那から主導権を取り戻さねば……。
嗜虐と被虐の倒錯の性は、宝玄仙は師匠であり女王だ。
こんな不肖の弟子に、性で主導権をとられて堪るか──。
「ふうっ……」
宝玄仙は息を吐いた。
沙那の手による刺激に、一気に込みあがった淫情を我慢できなくなったのだ。
「胸が随分と重たくなって突き出てきましたよ、ご主人様……。気持ちがいいんですか?」
沙那がからかうような口調で言った。
それに釣られるように、金網の向こうの亜人兵たちが揶揄の声をあげた。
その手に乗るかと思った。
亜人兵たちの力を借りて、今度は羞恥責めをしようとしているらしい……。
しかし、こんな付け焼刃の調教師の手管に負けるほど、この宝玄仙は甘くはないはずだ。
冷静になれ……。
宝玄仙は自分に言いきかせた。
だが、ただでさえ
その性感を直撃する沙那の責めに、飲まれないようにするのは簡単ではない。
宝玄仙は歯を喰いしばって、洩れそうになる声を耐えた。
「答えてください、ご主人様──。気持ちがいいかと訊ねているんですよ」
沙那がさらに言った。
魂胆はわかっている。
こうやって、多くの亜人兵たちがいる中で、宝玄仙をいたぶり、激昂させようとしているのだ。
そして、沙那への仕置きと代償に、宝玄仙に小白象と真言の誓いに同意させるように導こうというのだろう。
考えてみれば、随分とわかりやすい手口だと思う。
「どうなんですか、ご主人様……。黙っていると、愛撫を中止しますよ……。そして、床電撃を再開しましょうか……」
沙那が執拗に宝玄仙の胸を揉みながら言った。
「は、はあ……。き、気持ちいいよ……。ほ、本当だよ……はあああっ」
宝玄仙は甘い吐息とともに言った。
口を開くと、耐えていた嬌声が迸った。
亜人兵たちが野次のような言葉を一斉にあげた。
しかし、宝玄仙はその声に混じって、沙那がごくりと唾を飲み込んだ音を聞いた。
沙那もまた緊張しているのだ。
そのことで宝玄仙は改めてそれを悟った。
「じゃ、じゃあ、姿勢を変えてください。腕をもちあげて、手を頭の上に乗せるんです」
宝玄仙は言われたとおりの姿勢になった。
すると、沙那が操る『道術手』がすっと両方の二の腕から脇の下をひと撫でした。
「あっ、いやあっ」
思わず悲鳴をあげて、宝玄仙は上体をおののかせた。
「ここは、ご主人様の性感帯ですものね……。二の腕から脇の下……。よく覚えていますよ……」
沙那がくすくすと笑った。
宝玄仙は沙那に対して、あまりのも露骨な反応をしてしまったことに歯噛みした。
「う、うるさいよ──」
宝玄仙は言い返したが、その声が震えていることに気がつかないではいられなかった。
「そうですか……? でも、わたしもたくさん奉仕させられましたから、ご主人様の身体をよく知っていますよ……。気持ちのいいところとか……。例えば、ここと……」
沙那の操る『道術手』がすっと宝玄仙の乳房の裾を撫でた。
「あはああっ」
宝玄仙は思わず甲高い声を響かせた。
同時に見物をしている男たちがどっと歓声をあげた。
宝玄仙は慌てて口をつぐんだ。
「どうしたんですか、ご主人様……。わたしのご奉仕が気に入られましたか?」
沙那が笑った。
宝玄仙は大きく息を吐いた。
落ち着け……。
こんな沙那ごときの愛撫に大袈裟に反応してしまうなど……。
「……ところで、ご主人様、お気づきですか? 股間を隠してなさる股布が随分を濡れてきましたよ。まだ、そんなになにもしていないのに……」
宝玄仙の心を呷るように、沙那が意地悪くそう指摘した。
自分の股間に視線を落とす。
腰から脱ぎかけの状態で保持をさせられて、宝玄仙の無毛の股間の下にほんのちょっと乗っているだけの下着は、確かにねっとりした宝玄仙の愛液により、その部分だけがはっきりとわかるほどに変色していた。
亜人兵たちが大きな揶揄の声をあげている。
「……どうです……。そろそろ、腹がたってきたんじゃないですか、ご主人様……? それとも、もしかしたら、ご主人様は、こんな風に恥ずかしいことや意地の悪いことをされるのがお好きなんですか?」
沙那が、片方の『道術手』をすっと宝玄仙の身体の中心にそって指を撫ぜさげた。
その指は、宝玄仙の乳房のあいだから臍を撫ぜて、秘肉に隠れている肉芽をつっと押した。
「んふううっ」
息を呑んで、顔を仰け反らせた宝玄仙は、頭の後ろに腕を置いたまま、裸身をくねらせた。
「こんなものはもう必要ありませんね。脱がしてしまいますよ、ご主人様……」
沙那の『道術手』が宝玄仙の下着をいっきに下げおろした。
足首をあげることを命じられた宝玄仙は、大人しく『道術手』が宝玄仙から下着を取りあげるに任せた。
沙那は『道術手』でその下着を宝玄仙が脱ぎ捨てたほかの衣類が集まっている丸い円に投げると、一度金網の前から離れて、操作盤のある卓に戻った。
すると、宝玄仙が監禁されている檻から衣類が消滅した。
「さあ、じゃあ、本格的にいきましょうか。もう一度、言っておきますが、逆らったら、また床に電撃を流しますからね……」
金網の前に戻ってきた沙那が言った。
そのとおり、沙那による『道術手』を使った本格的な責めが始まった。
「あ、ああっ、あああっ……」
『道術手』が上下に分かれて、宝玄仙の無防備な乳房と股間を刺激しはじめる。
乳房を片方の手でゆっくりと揉まれ、揺すられ、あるいは乳頭を捏ねられる。
一方で、反対の手は、宝玄仙の股間に指を入れて下から撫でるようにくすぐる。
媚薬に苛まれている宝玄仙の身体は、一気に熱くなる。
その沙那の手管に、宝玄仙はどうしても上ずった声をとめられなかった。
すると、沙那の行いを見守っていた亜人兵たちの顔も熱を帯びてきたようになっていった。
歓声とからかいの言葉が次第に大きくなる。
宝玄仙は、こんな亜人兵の見世物にされるように沙那にいたぶられることに血が逆流するような嫌悪感と汚辱感を覚えた。
そして、同時に宝玄仙は、沙那のもうひとつの魂胆もわかってきた。
沙那は、宝玄仙が教え込んだ手管で、宝玄仙の裸身を責めたてながら、宝玄仙が沙那の愛撫による快感の高まりに耐えられずに感極まりそうになると、巧みにぎりぎりでそれをかわして、刺激する場所をほかに変えるのだ。
つまりは、沙那は、宝玄仙を快楽と羞恥の責めをしながら、同時に焦らし責めにもしているのだ。
媚薬に苛まれている宝玄仙には、これはかなりつらい責めだった。
いつしか、宝玄仙の嬌声は絶え間のないものになり、全身は高揚して汗びっしょりになり、まるで水でも被ったかのような様になった。
股間からこぼれる愛蜜は、宝玄仙の内腿を濡らし、脚を伝って足の指まで愛液でまみれさせるほどだ。
その頃には、金網の前に群がった亜人兵たちは、冷やかしというよりは、沙那の責めによる宝玄仙の痴態に息を呑むような感じになってもいた。
やがて、沙那がやっと『道術手』を宝玄仙の裸身から離した。
「さあ、次はどんな風にご主人様を苛めましょうか……? それとも、なにかしてもらいたい責めはありますか?」
沙那が言った。
ふと見ると、沙那の顔は上気して真っ赤だった。
まるで、沙那自身が責められたかのように、眼が淫靡に蕩けている。
しっかりと着込んだ上下の男装の下にも、かなりの汗をかいているようだ。
沙那が宝玄仙を責めながら、欲情で興奮で覚えていたのは明らかだ。
宝玄仙は思わず笑った。
「な、なにがおかしいのですか、ご主人様?」
沙那は、いままで惨めな醜態を晒していた宝玄仙が、怒るどころか、声をあげて笑ったのが意外そうだった。
「どんな風に愉しませてくれるかと思ったけど、まだまだだね、沙那……。やっぱり、お前には嗜虐役は早いよ……。わたしのところに戻ってきな。徹底的に被虐の性をもう一度叩き込んでやるよ……。わたしと、あの小娘の女主人としての違いをひとつ思いついたよ……。わたしがお前に与えてやっている途方もない快感……。それはあの小白象とかいう小娘は与えてくれないだろう……? 実のところ、お前、あの小娘に仕えるようになってから、性的満足を覚えたことはないんじゃないかい?」
当て推量だが、よく考えれば、沙那を強引な手段で供にして以来、毎日のように激しい快感をこの女には与え続けた。
徹底的に身体に嗜虐の快楽を染みつかせた。
その結果、この女には、潔癖で生真面目な性格のくせに、感じやすい淫乱な身体を持つという不均等な性質ができあがったのだ。
その沙那が、もう宝玄仙との性生活なしで満足できるわけがない。
真言の誓いがあろうとなかろうと、理性で宝玄仙ではなく白象宮を選ぶ理由をこの女な自分の中で並べ立てようとも、染みついた性情だけは、もう宝玄仙と離れることなどできないはずだ。
「な、なにわけのわからないことを言っているんですか──?」
沙那が動揺したように顔をさらに赤らめた。
どうやら図星だったようだ。
冷静沈着で、何事でも計算高く動く沙那だが、どうも性に関することだけは、持ち前の主導性を発揮できないらしい。
いまも宝玄仙の何気ないひと言だけで、明らかに動揺を表に出した。
それにしても、これだけ簡単に顔に出すところをみると、本当に性の疼きに悩んでいるのではないだろうか……?
あの小娘が沙那の性欲を満足させてくれるとは思わないし、かと言って、この真面目女が自分の性欲を満足させるために、男を漁るとも思えない。
考えてみれば、口ではここの生活に満足していると主張している沙那だが、夜な夜な疼く性欲の飢餓感に苦しんでいても不思議ではない。
残念ながら、沙那はそんな風に身体を躾られてしまったのだ。
宝玄仙によって……。
「……わたしにはわかるんだよ、沙那──。お前、このところ、毎晩のように自慰をしているだろう? 身体の疼きがとまらなくってね……。お前がここの居残って、あの小娘に本当に仕えるなら、その火照った身体は誰が癒してくれるんだよ──? 冷静になりな……。もう、お前にはわたしから離れるなど無理なんだよ。その淫乱になった身体を誰に満足させてもらうつもりなんだよ。自慰じゃあ、そんなに気持ちよくはなれなかったろう?」
「だ、黙って──」
沙那が真っ赤な顔で怒鳴った。
あっという間に冷静さを欠いている。
いい傾向だ。
宝玄仙は続ける。
「……身体に染みついた快楽……。それは簡単に消えやしないんだよ……。それとも、これからは、こいつらを相手に、性欲の解消をするつもりかい? だったら、わたしから、こいつらにお願いしてやろうか?」
宝玄仙は笑った。
「ば、馬鹿なことを言わないでください、ご主人様──。わたしは、自慰なんて──。いや、自慰のことなんてどうでもいいです……。そ、それよりも、まだ続けますよ……。こ、ここにいる男たちの前で、身体をなぶってあげます……」
沙那が言った。
そして、再び『道術手』がすっと近寄ってきた。
宝玄仙はごくりと息を呑んだ。
だが、すぐに口を開く。
「だいたい、人なんて単純なものだからね。なんでも自分を基準に考えるんだ。お前がやっている責めは、自分がやられたら一番堪える責めをわたしにやっているだろう? 考えてみれば、お前は、恥ずかしいことが一番に嫌だったね。だが、そうは言いながらも、お前を羞恥責めをすると、お前はいつも激しく身体が反応したものさ──」
「な、な、なんてことを……」
「後ろにいるお前ら──。そのうちに、こいつに部屋に呼ばれて、疼いた身体を癒す相手をさせられると思うけど、こいつは羞恥責めが好きなんだ──。ちゃんとした寝室なんかじゃなじゃなく、ちょっとした廊下の陰とか、それとも外とかで抱いてやりな──。反応が違うからね──」
宝玄仙は怒鳴った。
「わ、わけのわかんないことを喋らないでください──」
沙那がますます顔を真っ赤にして声をあげた。
宝玄仙を刺激しようとして近寄ってきた『道術手』が停止した。沙那が動揺しているからのようだ。
「いまの会話でわかったと思うけど、この沙那は、わたしの猫だったんだよ──。お前ら、こいつを抱いたら驚くよ。こいつは、全身が性感帯のように感じやすい女なんだ。どこをどう触ろうとも、びっくりするくらいに激しく反応するからね──。最初は演技かとか、おかしな薬剤でも使っているんじゃないかと思うかもしれないけど、本当に感じているんだ──。こんな美人で頭がよくて、しかも、凄腕の剣士が、お前らの手管でよがりまくるんだ。抱いてみたいだろう──?」
宝玄仙は集まっている亜人兵どもに喚きたてた。
“へええ”とか、“ほおう”とかいう声があちこちから漏れだした。明らかに好色な視線が沙那に集まり出す。
「も、もう黙ってください──。ゆ、床に電撃流しますよ──」
沙那が叫んだ。
その顔はこれ以上ないというくらいに真っ赤だ。
しかも、汗までかいている。
性のことでからかうと、本当に面白い反応をする女だ──。
宝玄仙はほくそ笑んだ。
「ほらね、お前ら──。こいつは否定しなかっただろう? 本当なんだよ。それと、こいつを犯すときには、尻穴もちゃんとなぶってやらないと、こいつは満足しないよ」
「も、もう、黙って──」
「そんなことよりも、お前、わたしがいなくなったから、毎日の尻穴洗いをしていないだろう? 尻を犯される可能性がなくなったから、そんな女の慎みも忘れたかい?」
宝玄仙はさらに言った。
沙那には、宝玄仙の供になって以来、ずっと毎朝、指と洗浄剤で尻穴洗いをするように習慣つけさせている。
孫空女と朱姫は、馬鹿馬鹿しい命令と思いながら、宝玄仙の命令なので仕方なくやっているだけだが、沙那については、性についてはなんにも知らないので、それはどの女もやっている当たり前の女の習慣だという宝玄仙の出まかせをいまだに信じている節がある。
「ちゃ、ちゃんとやっていますよ──。もう、それ以上、喋ると床電撃をします──」
すると、亜人兵たちが笑った。
沙那はきょとんとしている。
「ほらね、お前ら──。こいつは、わたしが言ったとおりの変態だろう? お前らが手を出さないから、毎日、自慰に耽るしかないくらいに身体が疼いているんだよ──。可哀そうに、いつでも尻穴を犯してもらえるように、毎朝、指で尻を洗っているにも関わらずにね──」
宝玄仙がわざとらしく声をあげると、亜人兵たちの笑い声がさらに大きくなった。
今度は沙那がきょとんとした。
そして、はっとしたように宝玄仙を見た。
「も、もしかして、お尻を洗うというのは、誰でもやっているというのは、嘘ですか?」
「当たり前だろう──。そんなことを毎日、毎朝やっている女なんか変態に決まっているだろう──」
宝玄仙は馬鹿笑いした。
亜人兵たちの笑いがさらに大きくなる。
沙那の顔が強張った。
「もっと、喋ってやる──。お前の性癖を喋りまくって、ここで澄ました顔で国を築く仕事なんてできなくしてやるよ……。こいつの女陰は凄いよ──。このわたしが調教してやったからねえ……。お前ら女の三段絞めって、味わったことはないだろう……。こいつは……」
「も、もういい加減にして──。さ、さあ──。終わりよ──。この部屋を出て行きなさい──。持ち場に戻りなさい──」
沙那が喚いた。
そして、宝玄仙の監禁されている金網に群がっていた亜人兵たちを追い払い始めた。
沙那はここでは、それなりの権力を持たされているようだ。
こいつの命令に亜人兵たちは逆らうことなく、亜人兵の詰所だった場所に引きあげていった。
沙那は卓の操作盤を動かして、部屋の仕切りの壁を元通りにした。
再び、部屋は宝玄仙と沙那のふたりだけになった。
沙那は、卓に両手を置いて俯いている。
大きく動揺してしまった自分の心を落ち着かせようとしているようだ。
「どうしたんだい、沙那……。もう、遊びは終わりかい?」
宝玄仙は言った。
そして、ずっと頭の後ろにあげたままだった両手をおろした。
しかし、沙那は別段、なにも言わなかった。
しばらくすると、沙那が顔をあげた。
ふと見ると、沙那の顔から感情が消えている。
また、取り澄ました表情の中に激しい心を隠してしまったようだ。
「やっぱり、短い時間でご主人様を堕とすなんて無理でしたね……。それに、もう少し、ご主人様の気力を削ぎ落してから、責めに移行した方がよさそうです。ご主人様にはさらに弱ってもらいますね……」
沙那が卓の上に手をやった。
次の瞬間、熱気が床から上昇し始めた。
「うわっ──。こ、今度はなんだい──?」
宝玄仙は悲鳴のような声をあげてしまった。
熱い湯気が宝玄仙が監禁されている床一面から湧きあがっている。
まるで熱い蒸し風呂の中にいるようだ。
宝玄仙の全身からみるみる汗が吹き出してくる。
「な、なにすんだよ、沙那──。こ、このわたしを蒸し殺すつもりかい──」
「そんなことはしませんよ。ちゃんと水は補給します……。檻の中心を見てください」
宝玄仙は言われた通りに眼をやった。
そこには、腰の高さくらいの棒が床から突き出ており、その位置の天井からも逆に、下に向かって棒のようなものが頭の少し上くらいの位置まで届いていた。
よく見れば、床から立っている棒の先端は男根のかたちをしている。
さらにその男根部分の表面は、なにかの粘性物がたっぷりと付着しているようだった。
とにかく、宝玄仙はその位置に行ってみた。
下から見あげると、天井から延びている棒は管だ。
「ご主人様が床の棒に跨って女陰で先端部分を包み込めば、そのあいだだけ、上から冷たい水が出てきます。水は制限なく出てきますから、それを浴びるなり、飲むなりしてください。それで蒸し死ぬことはないはずです……」
沙那は言った。
だが、宝玄仙は嫌な予感がした。
あの男根の周りに付着しているねばねばとしたものはなんだろう……?
「だけど、ただの仕掛けじゃないだろう、沙那? あの男根はただの張形かい?」
すると沙那がふっと笑った気がした。
「もちろん、違います──。あれは『痒み棒』と呼ばれる霊具です。あれを股間に入れたりしたら、痒くて堪らなくなります。でも、女陰であれを咥えない限り、水は出ません」
沙那の頬には薄っすらした笑みが浮かんだ気がした。
宝玄仙は込みあがった怒りをぐっとこらえて、沙那に笑みを返した。
「よ、よくも、次から次へとくだらない思いつきをするものだよ……。わたしも、お前を調教し直すときの参考にしてもらうよ……。つまりは、このわたしは、自分で自分を痒み責めにしなければ、水が飲めないということかい……?」
すでに熱い蒸気は、かなりの渇きを宝玄仙に与えていた。
まだ短い時間だというのに、宝玄仙の足元は身体から垂れた汗で水たまりのようになっている。
それも、あっという間に再び湯気となって、宝玄仙の身体を蒸し苦しめる。
「そうですね……。但し、『監視虫』の存在を忘れちゃだめですよ。ご主人様が自分の手で慰めようとしたら、床に電撃が流れ出しますからね。もちろん、張形で達しても、『監視虫』は、それを自慰と判断して、床電撃が作動しますから……」
「お前らしい陰湿な仕掛けだよ……」
宝玄仙は吐き捨てた。
そのとき、はっと思いついたことがある。
「ちょっと待ちな……。それで出てくる水というのは、おかしな薬剤混じりの水じゃないだろうねえ?」
さっき、黙って水筒を渡されて、中の媚薬入りの水を大量に飲まされたことを思い出したのだ。
「もちろん、たっぷりと媚薬は入っています。その水を被っても、飲んでも身体が敏感になります」
沙那が冷静な口調で言った。
宝玄仙は舌打ちした。
「はっ──。残酷な仕掛けだよ──。まあいい──。受けて立ってやるよ──。要は達しなきゃいいんだろう──。自分で自分の股間を痒み責めにし、さらに媚薬を飲み続け、それでも達するなということだね──」
「そういうことです。それと、もうひとつご主人様に特別な仕掛けを追加して差しあげます」
沙那がそう言うと、床から突き出ている棒の先の張形がうねうねと回転しながらくねりだした。
宝玄仙はぞっとした。
「……そのうねる張形をすっぽりと股間で包んだら、すぐに水は出てきます。でも、時間が経つにつれて、股間の刺激で達しそうになる時間が短くなっていくと思いますから、しっかりと自分を制御してくださいね、ご主人様──。痒みが癒える気持ちよさに、我を忘れてしまってもいけませんよ……。床電撃が復活しますからね……。じゃあ、自分をしっかりと保って達しないようにしてください──。じゃあ、朝になったら来ます」
沙那は卓から扉に向かって歩き出した。
「このまま朝まですごせっていうことかい……。眠らせてももらえないのかい? 随分と残酷じゃないかい──。仮にもわたしは、まだお前の女主人なんだよ」
宝玄仙は悪態をついた──。
すると、沙那が振り向いた。
「もちろん、ご主人様は、この責めをいつでも中止にすることができます。真言の誓いをする気になれば、天井に向かって叫んでください。わたしは戻ってきます──。そのときには、このわたしをその檻に逆に放り込んで、恨みを晴らしても構いませんよ」
沙那は出て行った。
宝玄仙は再び、この拷問室に放置された。