※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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593 愛の告白と切迫する尿意

「ち、畜生……」

 

 孫空女は何十度目になるかわからない悪態をついた。

 大きな寝台が一個あるだけの調度品もなにもない部屋である。

 孫空女は、その寝台の上に寝かされていた。

 ただの寝台ではない。

 この上に載せられた者の筋肉を完全に弛緩させてしまう特殊な道術の仕掛けが施された寝台のようだ。

 孫空女はそこの上に何刻も載せられたまま、ずっと放置されているのだ。

 

 金凰魔王からやっと解放された孫空女と宝玄仙は、この白象宮に奴隷として移送されたはずの沙那を奪い返すために、この白象宮の城下にやってきたのだが、城郭に入るとすぐに、その白象宮からの使いという者が声をかけて来て、孫空女と宝玄仙をこの宮殿に案内した。

 そして、その案内に従って殺風景な部屋に案内されると、小白象と名乗る娘の魔王が現れた。

 だが、それは沙那が変身した姿だった。

 孫空女がそれを見破ると、沙那がさっと手をあげて、気がつくと、ここに跳ばされた。

 おそらく『移動術』だと思う。

 

 しかも、跳躍させられたのは、この寝台の上であり、孫空女は身体の力を吸い取られたようになってしまい、この寝台の上に仰向けに倒れた。

 そして、そのまままだ。

 

 ここは、周囲を白い壁に囲まれた部屋であり、部屋の中心にこの寝台があるだけのなにもない部屋だ。

 部屋の出入り口のための鉄の扉が一個あるが、鍵は外側からかけられている感じだ。

 つまりは、まるで牢のような造りになっている部屋だ。

 

 とにかく、ここに閉じ込められてから数刻……。

 呼べど、叫べど、誰も現れない……。

 もう、わけがわからない……。

 

 しかも、全身の筋力は完全に弛緩して、寝台に貼りついた部分は、指一本も動かすことができない。

 だが、逆に寝台に接触していない身体の上面の部分は動かすことができる。

 なにかの拘束術が刻まれている寝台に違いないのだが、いずれにしても、ここからひとりで起きることは不可能だと悟った。

 孫空女は無駄なことはやめて、大人しく待っていることにした。

 

 いずれにしても、この件に沙那が絡んでいることは確かだし、待っていれば沙那がやって来るのだろう。

 それにしても、沙那はなにを考えているのだろう……?

 捕えられているという感じでもなかったし、最初は沙那が死んだと説明して、それで追い払おうしている気配すらあった。

 沙那のことだから、なにか考えがあるのだとは思うが……。

 

 だが、いまどのくらいの時間が経ったのだろう?

 部屋は、道術によって灯りを発する天井が明るくしており、明かり取りのための窓などはないが、すでに夜になっているのは間違いないと思う。

 やがて、孫空女は大人しく沙那を待っているわけにもいかない状態に襲われてきた。

 しかも、それはいったん自覚してしまうと、のっぴきならないものとなって、孫空女を苦しめてくる。

 

「ちょ、ちょっと、誰か──。だ、誰かきて──」

 

 孫空女は数刻ぶりに大声を発した。

 だが、誰も孫空女に対応するなと命じられているのか、あるいは、本当に孫空女を見張っている者がいないのかわからないが、まるで反応はない。

 困ったことになったと思っていると、やっと扉の外になにかの気配がした。

 

「さ、沙那──」

 

 入ってきたのは、車付きの小さな台車を押した沙那だった。

 台車の上には、水差しや布や木桶などが載せられていた。

 

「ごめんね、孫女……。もっと、早く来るつもりだったけど、色々と立てこんじゃっていてね……。これでも忙しい身の上なのよ。ここでわたしは、小白象魔王陛下の参謀のようなことをやっているのよ……。あんたたちが金凰魔王を倒したでしょう? それで、いろいろと動かないことならないことがあるものだから、そのための連日の会議が続いているの。許してね……。これからは、もう少し頻繁に来ることにするわ……」

 

「頻繁って……」

 

 孫空女は驚いた。

 沙那が孫空女をここにしばらく監禁したままでいるということを前提とした物言いをしたからだ。

 沙那が続ける。

 

「まあ、数日のことだと思うけど……。とにかく、お腹がすいたでしょう? “丹丸”と呼ばれる仙薬を持ってきたわ。これをゆっくりと噛んで口に入れるといいわよ。空腹がなくなるわ……。それとも、水が先がいい……? 口吸いに入れてあるから、そのままで飲めるから……」

 

 沙那がいきなり、早口でそう言いながら、台車を寝台の横に置くと、右手首に真っ赤な手首帯のようなものを巻いた。

 沙那はなんとなく不自然だった。

 こんなに早口でしゃべることはあまりないし、沙那はいつも落ち着いている。

 時折、感情の制御ができなくなったように激昂することはあるが、全般に思慮深いし、冷静沈着なのが沙那の持ち味だ。

 しかし、いま現れた沙那は、なぜか動揺していて、そわそわしていた。

 孫空女は、その沙那の様子に違和感を覚えた。

 

「なにさ、その赤いのは?」

 

 孫空女は沙那を横目で見ながら、とりあえず、沙那がいま手首に巻こうとしている赤い手首帯について訊ねた。

 なにしろ、寝台に接触している部分はまったく動かないので、首を動かすこともできないのだ。

 沙那の様子も横目で見ているにすぎない。

 

「あんたが横になっている寝台には、身体の筋力を完全に麻痺させる道術が刻んであるのよ。それを無効にするものよ。これを巻いていないと、わたしまで、その寝台に触れた途端に、その部分の身体が動かなくなってしまうわ」

 

 沙那はそう言って、孫空女の寝ている寝台に座った。

 そして、孫空女の首に手をやって、孫空女の顔を沙那にいる側に少し向ける。

 やはり、この台は、孫空女の身体の筋力を強い力で張り付けているわけではなく、孫空女の身体側を麻痺させる働きがあるようだ。

 それを裏付けるように、沙那が手を伸ばしたとき、孫空女の身体は簡単に沙那の手によって動いた。

 沙那が孫空女の口に口吸いの吸い口部分を近づけた。

 

「そ、そんなのはいいよ、沙那──。だったら、ここから降ろしてよ。自分で飲むから──」

 

 孫空女は声をあげた。

 沙那の言う通りであれば、孫空女は寝台からおりさえすれば、この身体の弛緩はなくなるはずだ。

 

「……それはできないわ。あんたには、事が終わるまで、ここで寝てすごしてもらうわ。そんなに長いことはないと思う……。せいぜい、二日か、三日……。まあ、できる限りのことはするから……。だから、許して……。それとあんたの世話はわたしがするわ……。侍女あたりに言いつけてもいいんだけど、あんたは結構油断ならないしね……」

 

「な、なに言ってんだよ、沙那──。いいから、降ろしてよ──。と、とにかく、訊きたいことはたくさんあるけど、その前に、ちょっとこの寝台から身体を引っ張りおろしてったら──」

 

 孫空女は叫んだ。

 もう苦痛は切羽詰ったものになっている。

 

「どうしたのよ、孫女?」

 

 沙那はきょとんとした表情になった。

 孫空女の必死の様子にやっと気がついたようだ。

 

「お、おしっこだよ──。漏れる──」

 

 孫空女は声をあげた。

 もう尿意の限界だ。

 おそらく、半日近くもここにいる。

 

 最初はなんともなかったのだが、そのうちに尿意を感じてしまった。

 一度、それを自覚してしまうと、もうどうしようもない苦しみとなって、それがずっと孫空女を追い詰めていたのだ。

 すると、沙那はぷっと吹き出した。

 

「わ、笑うなよ、沙那──。わ、わかったら、あたしを自由にしてよ」

 

 孫空女は自分の顔が赤らむのを感じながら、沙那に訴えた。

 

「悪いけど駄目よ、孫女……。いま、布を当ててあげるわ。その布をおしめ代わりにして、そのままして……。大きい方でもいいわよ。ちゃんと世話をするから……」

 

 沙那は言った。

 孫空女はびっくりしてしまった。

 

「な、なに言ってるのさ、沙那──。まさか、本気じゃないよね──?」

 

「本気に決まっているじゃないのよ……。脱がすわよ……」

 

 沙那は、最初に孫空女の靴を脱がして素足にすると、次に孫空女の下袴(かこ)に手をかけた。

 そして、紐を解いていく。

 

「ちょ、ちょっと待って──。な、なにすんだよ、沙那──? 嫌だってばあ──」

 

「だって、おしっこしたいんでしょう? 下袴を脱がなきゃできないわ……。我慢していると毒だし……。別にわたしは、おしっこを我慢させて、苦しめるつもりはないのよ」

 

「なに言ってるんだよ、沙那──。おしっこは自分でするよ。下袴も下着も自分で脱ぐ──。あたしは、身体を自由にしてって言ったんだ──。沙那の言う通りなら、あたしを寝台から引っ張りおろしさえすれば、あたしは動けるよ」

 

「そんなことをわかっているわよ……。でも、そうはいなかいわ。あんたを自由にさせるわけにはいかないのよ……。それよりも、脱がすわよ──」

 

 沙那が孫空女の下袴の前部分のぼたんを外して、両脇に手を置いた。

 下袴と一緒に下着の脇も握ったのがわかった。

 本当に下半身を脱がされる……。

 孫空女は焦った。

 

「な、なんでさ──? わっ、わっ、わっ……。ちょ、ちょっと、待って……」

 

 しかし、沙那は返事をしない。

 孫空女の下袴に手をかけて、下着ごと足首から抜いてしまった。

 

「うわっ、なにすんのさ──」

 

 孫空女は悲鳴をあげた。

 

「わたしたちの仲で、なにいまさら、恥ずかしがっているのよ──。お互いに裸も見たし、下の世話もし合ったというか……させられたじゃないのよ……。飲み合いまでしたじゃないのよ。おしっこするんでしょう? そうだ。ついでに、上も脱ごうか……。汚れるかもしれないしね」

 

 沙那がごくりと唾を飲んだ気がした。

 そして、今度は孫空女の上着に手をかける。

 完全に身体が弛緩している孫空女には、まったく抵抗する手段がない。

 あっという間に、孫空女は素っ裸にされた。

 

「待ってね……。いま、腰の下に布を当てるわ」

 

 沙那はそう言いながら、孫空女の腰に腕を差し入れると、赤ん坊におしめをするような感じで、布を下に敷くと、孫空女の脚を少し広めに開かせて、布を折り返して、前を覆った。

 

「さあ、していいわよ」

 

 沙那が孫空女の顔を見た。

 

「し、していいわよ……じゃないよ──。な、なにを考えているのか説明してもらうよ──。と、とにかく、あたしを自由にしてったらあっ──」

 

 孫空女は金切り声をあげた。

 

「お、大声を出さないでよ──。悪いけど、それはできないわ」

 

「なんでだよ──。あたしを寝台から引っ張りおろせないのかい?」

 

「おろせるわ……。わたしが、あんたを寝台からおろせば、あんたは自由に動けるわ。それは間違いないわね」

 

「だったら……」

 

「わかっていないのねえ、孫女──。あんたは誰にこうやって、拘束されて監禁されていると思っているの?」

 

「だ、誰にって……? 誰にさ……? ここの魔王?」

 

 そう言われると誰に監禁されているのだろうか?

 ここにやってきてまだ、沙那が変身していた小白象魔王にしか会っておらず、本物は見ていないが、ここは魔王の王宮だし、監禁されたとすれば魔王だろうか……?

 

「わたしよ──。あんたもご主人様も、このわたしに監禁されたのよ──。あんたには、悪いけど、事が終わるまでじっとしていてもらうわ。自由にすると、抵抗しようとして暴れるでしょう? その寝台に載せている限り、絶対に逃げられないわ。抵抗は諦めなさい」

 

 沙那が言った。

 孫空女はびっくりして口をあけたまま唖然とした。

 

「さ、沙那があたしたちを監禁──? 全然、わからない……。一体全体、どういうことさ? なにを考えているのさ、沙那? いや……、というよりも、ご主人様はどうしているの? なんか、おかしいよ、沙那──。なにを企んでいるのか言いなよ──」

 

 孫空女は怒鳴りあげた。

 

「……」

 

 すると、沙那が困ったような顔になった。

 

「沙那──」

 

 孫空女はもう一度怒鳴った。

 

「わ、わかったわよ……。そんなに怒鳴らないで……。落ち着いてよ。ちゃんと説明するから……。それよりも、口吸いの水を飲んで……」

 

 沙那がさっきの口吸いを孫空女の口に当てた。

 喉が渇いていることは本当なので、孫空女は沙那が強引に口の中に差し入れた水をそのまま飲んだ。

 しかし、ひと口飲んだところで、孫空女はその中の水の違和感に気がついた。

 なにかが混ざっている……。

 慌てて口の中の水を吐き出そうとした。

 しかし、その孫空女の口を沙那の唇が抑え込んだ。

 

「んんんっ──」

 

 孫空女は唸った。

 だが、沙那の舌が孫空女の口の中に挿し込まれて無理矢理に口の中の水を喉の奥に押し込まれた。

 

「なっ──はあっ、はっ──なにすんの──んんっ──」

 

 沙那が唇を離したので抗議をしようとしたが、すぐに口を沙那の唇で塞がれた。

 沙那の口には、たったいま飲まされたおかしな味の水が含まれていた。その水が孫空女の喉に向かって押し出される。

 沙那が口を塞いでいる。しかも、沙那の指が孫空女の鼻を摘んだ。

 つまりは、飲み干さなければ許さないということだろう。

 

 嫌も応もない。

 孫空女は与えられた口の中の水を飲み込んだ。

 沙那が口を離した。

 

「けほっ、けほっ、けほっ……。ど、どういうつもりさ……?」

 

 孫空女は、自分を見下ろす沙那を睨んだ。

 なにを飲まされたかはもうわかった。

 これは媚薬か……?

 しかも、相当に強い薬剤だ。

 水が喉の奥に入ってすぐに、孫空女の身体はかっと熱くなり、股間が疼き出した。

 孫空女はこういう薬物には、なぜか耐性があるのだが、それでもかなりの効果のある強い薬液だ。

 

 沙那が孫空女に媚薬を……?

 孫空女は混乱した。

 

 だが、さらに混乱することに、沙那は孫空女に無理矢理に飲ませた口吸いの水を自分で口に入れて、それをごくごくと飲んだ。

 しかも、大量に……。

 孫空女は呆気にとられた。

 

「わ、悪いと思っている……。特に、あんたには……。だけど、わたしには、これしか道がない……。ほかの穏便な手段では、絶対に、ご主人様はわたしを解放してくれないと思うし……。でも、わたしは、どんな方法を使っても、絶対に、ご主人様から解放されなくてはならない──。そして、小白象様に仕える立場を手に入れなければ……。孫女、聞いて──。わたしは、ご主人様から……宝玄仙様と別れる。そう決めたの──。この白象宮で生きるのよ。小白象様の部下として──」

 

「え、えええっ──?」

 

 孫空女は声をあげた。

 沙那が宝玄仙と別れる?

 小白象とかいう魔王に仕えるために──?

 

 なんで、そんなことになっているのだ……?

 ここで、なにがあったのだろう?

 そう言えば、沙那は、ここで奴隷として監禁されている雰囲気はない。

 いまの言葉も、脅されているという雰囲気もないし、真剣にそう言っているようにも思えるし……。

 操られているという気配も垣間見えない……。

 

 沙那は本気で言っているのか……?

 だが、真面目に考えれば、沙那がそう言い出してもおかしくないとは思う。

 宝玄仙を襲おうとして、逆に捕らえられた孫空女や朱姫とは異なり、沙那は、宝玄仙に対して、なんの負い目もないし、むしろ不当な扱いをされて、強引に奴隷にされていた。

 

 孫空女が最初に会ったとき、沙那は確かに宝玄仙から逃げ出したがっていたし、その機会をじっと見極めているという気配もあった。

 だが、あれから四年に近い歳月が経ち、沙那はこの四人の旅に満足しているように思えた。

 色々なことがあって、四人の心は結びついていると信じていた。

 

 しかし、その沙那がついに、孫空女や宝玄仙や朱姫と別れるという……。

 もちろん、孫空女にそれを止める権利がないことは承知しているか……。

 

 だが、孫空女を拘束したのは、さておき、なぜ、いま媚薬を飲ませたのか……?

 おかしい……。

 やっぱり、沙那はおかしい……。

 

「ほ、本気……なの? 嘘だよねえ……?」

 

 孫空女は訊ねた。

 

「本気よ……」

 

 沙那はそれだけを言った。

 半分泣きそうな表情だ。

 思いつめているというか、かなりの興奮状態にあるように思える。

 沙那の顔は真っ赤だ。

 おそらく、大量に飲んだ薬液の影響に違いない。

 

 そして、どことなく表情がおかしい。

 媚薬のせい……?

 いや、あれは媚薬だけの薬液じゃないのか……?

 

 宝玄仙に何度も媚薬のような薬剤を飲まされたことはあるが、沙那が孫空女に飲ませ、また、自らも大量に飲んだ薬液は、それとは効果が違うように思う。

 なにが違うということはわからないが、沙那の顔は赤いだけではなく、どことなく視線の焦点が不自然なものになってきたような感じだ。

 強いて喩えれば、酒に酔ったような状態になりつつある気がする。

 もしかしたら、あの薬液にはそんな効果があったのかもしれない。

 もちろん、孫空女も飲まされたが、そんなに量は多くなかったし、孫空女は薬物については、むかしから体質的になぜか効きにくいのだ。

 

「な、なんで、沙那はご主人様やあたしたちから別れようとしているのさ? 沙那は、あたしたちが嫌いになったのかい?」

 

「そ、そんなことあるわけないじゃないの──。だ、だけど、わたしは、この白象宮に残りたいの──。それよりも、その話はしたくはないわ……。だけど、これだけは信じて──。わたしは、みんなは好きよ。別れたくはない──。だけど、それ以上に、やらなければならないこと出遭った。そういうことなの──」

 

「で、でも──。そんな急に……。そ、それにご主人様がなんというか……」

 

 沙那がここで別れるということを宝玄仙が承知するとは思えない。

 どう考えても、沙那がそんなことを言い出したら、烈火の如く怒るに違いない。

 そう思ってはっとした。

 沙那は、孫空女だけではなく、宝玄仙も監禁しているようなことを言っていた。

 

「ちょ、ちょっと待って……。そう言えば、ご主人様を監禁していると言っていたよねえ、沙那?」

 

 孫空女は声をあげた。

 

「言ったわ……。いま、ご主人様はあの部屋に監禁している。そして、道術を封じる檻に閉じ込めて苦しめているわ──。いまでもね──。そして、わたしを解放してくれるように、“お願い”している。つまり、拷問しているのよ。わたしは、それをご主人様が承知するまで続けるつもりよ」

 

 孫空女は今度こそ、心の底から驚いた。

 

「沙那を解放するってなにさ……? それに、ご主人様を監禁して拷問ってどういうこと? わけがわからないよ……」

 

 孫空女は声をあげた。

 眼の前にいるのは、本当にあの沙那だろうか……?

 いや、確かに沙那だ……。

 誰かが変身しているとか、なにかの企みがあるという雰囲気ではない。

 ただ、ひどく心が不安定になっている……。

 それは感じる……。

 

 まるで、本来の自分と表に出ている自分が相反して、心の平静を失っている……。

 そんな気がする。

 それにしても、ご主人様を苦しめているって……?

 

「ごめんなさい、孫女……。でも、もう一度言うわ──。わたしはここに残ることに決めたのよ。白象宮に……。そして、ここで小白象陛下の部下として、一生をすごそうと思うの……。だから、あんたたちとの旅はもうできない。それをご主人様にお願いしているところよ……。でも、どんなに真摯にご主人様にお願いしても、あの宝玄仙様がそれを許すとは思えない」

 

「あ、当たり前だよ──」

 

「それで、強硬手段を取ることにしたのよ……。ご主人様を拷問してでも、わたしを解放することを承知させるわ。そう真言の誓いで誓ってもらうわ──。無理矢理にでもね」

 

「ま、真言の誓い──? ああっ、それで苦しめているって……。沙那、本当にそんなことをしているのかい? 正気──?」

 

「正気に決まっているわ──。わたしはそれだけ真剣なのよ──」

 

「で、でも、沙那がご主人様に拷問なんて──」

 

「だったら、どんな方法があるのよ? あの宝玄仙様が、普通に頼んで、わたしを解放してくれると思うの──?」

 

 沙那は怒鳴った。

 そう言われると、沙那の言い分もわかる。

 孫空女は解放してもらいたいとは思わないが、解放してもらうとすれば、確かに、拷問でもして、真言の誓いのようなもので約束させるしかないだろう。

 さなもなければ、ただ逃亡しただけでは、あの執着心が強くて、我が儘な宝玄仙が、女奴隷が逃亡することを許すとは思えない……。

 

「だ、だけどさあ……」

 

 沙那の言うことも理解はできるが、いまだに納得できないのは、沙那がいまさら、孫空女たちを見捨てる理由だ。

 

「……それよりも、孫女、わたしのことを聞いて……。わたしは、自分のことを自制心のある人間だと思っている。あのご主人様にどんなに身体を淫乱に調教されても、自制心や誇りは決してなくならないし、そんなものには屈することはないとい自負していたわ……。でも、それは通用しなかった。あんたたちを見て、それをわたしは自覚してしまったのよ……。そう考えると、わたしの身体は、この十日余り、ずっと燃え続けていたのだと思うわ。身体が疼いたままでね」

 

「な、なにを言っているかわからないけど、ご主人様に慰めて欲しければ、それをお願いすればいいじゃないか、沙那……。まあ、それは確かに、ちょっとばかり……いや、かなり意地悪だけど、そういう悩みなら、ご主人様ほど確かな人はいないよ──。というか、考え直しなよ……」

 

「そんなことはできない……」

 

「なんでだよ……。そ、それに、本当に、ここでこうやって、沙那はあたしらと別れるつもりなの? ご主人様はともかく、あたしたちはどうなるのさ? あたしのことは? 朱姫のことは? そういうの全部、捨てて、この白象宮に残るのかい? だって、沙那がここにやってきて、まだ半月くらいだろう? あたしたちとは、三年半だよ──。朱姫だって、あんなに沙那のことを慕っているのに──」

 

「もう、言わないで──。朱姫にはあなたから言って──。なんとか言いきかせて」

 

 沙那は悲しそうに言った。

 

「だったら、あたしはどうなるのさ──。いまさら、沙那と別れ別れなんて、納得できないよ。あたしは沙那が好きだ。朱姫も好きだし、ご主人様も好きだ。この四人の旅を失いたくない──。あたしだって、朱姫だって、幼い頃に家族を失ってから、やっと手に入れた家族なんだよ──」

 

「お、お願い、孫女……」

 

 沙那が悲しそうな顔になる。

 孫空女はさらに声を張り上げる。

 

「もう一度、言うよ──。沙那がここでなにをしたくて、この白象宮になにがあるのかはどうでもいい……。でも、沙那は、あたしや朱姫やご主人様のことを嫌いになったのかい──? 嫌いにならないまでも、もう、沙那にとっては、あたしたちは、どうでもいい存在になったのかい──?」

 

 すると、沙那はなにかを決心したような表情になって、黙って自分の着ているものを脱ぎ始めた。

 孫空女の衣類がかけてある寝台の脚の方向の手摺にそれを重ねてかけていく。

 

「さ、沙那……?」

 

 沙那は孫空女の見ている前で生まれたままの姿になった。

 その沙那が裸体のまま寝台に乗ってきた。

 孫空女の脚を大きく開かせて、孫空女の股のあいだに両膝を置く。

 そして、孫空女の両脇に腕を置いて、覆い被さってきた。

 孫空女は驚いた。

 顔の前に、沙那の顔が迫る。

 

「き、嫌いになんか……ならない……。どうでもいい存在になんかなるわけない……。わたしはあんたたちが……大好き……。孫女、あたなが好きよ──。いえ、もう、これが最後と思うから、本当のことを言うわ──。わたしは、あなたが好き──」

 

「さ、沙那?」

 

「あたながわたしを好きだという意味とは別の意味で、わたしは、あなたが好き──。あなたがいるから、ご主人様に仕える気持ちになれた。あなたが一緒だから、広い心になって、ご主人様の調教を受け入れられた。そして、こういう関係を築けた……。わたしは、あなたのことを尊敬していた。本当よ……。愛しているの──。人として──。愛しているわ──」

 

 沙那が叫ぶように言った。

 孫空女は目を丸くした。

 まるで、沙那が孫空女に愛をささやくているような状況だ。

 

 だが、それよりも、沙那の言葉に呂律が回っていないことにも気がつく。

 やっぱり……。

 

 沙那は、さっきの薬液を孫空女以上に大量の媚薬をひと息に飲んだ。

 いつの間にか沙那の眼は朦朧となっていて、いまは、とろんとして正気を失ったような表情になっている。

 沙那が大量の薬物接種により、おかしな感じになっているのは確かだ……。

 おそらく、さっきの薬液は単純な媚薬ではなかったのだと思う。

 多分、飲んだ人間の意識を混濁させ、酔ったような状態にする効果があったに違いない。

 

「ね、ねえ、お願い──。最後のお願い……。わたしと抱き合って……。わたしは、あなたと抱き合いたい……。わたしを肌を寄せ合って……。お願い──」

 

「さ、沙那──?」

 

 いまの沙那が完全に薬物酔いしているのは確かだ。

 急におかしなことを言い出したのも、あの薬液の影響とも思えるが、逆に、こういう状態になることがわかっていて、自ら大量の薬液を一気飲みしたということにもなるだろう。

 本当に沙那はどうしたのだろう……?

 

「わたしが、あなたに求めているのは、わたしの性の相手をしてくれること……。あなただったら、笑わないし、意地悪もしない……。ご主人様に躾けられた身体が疼くという悩みもわかってくれる……。そんな人は、この世にあんたしかしないわ……。ねえ、最後のお願いよ──。わたしは、あんたと抱き合いたい──。お願いだから、わたしの相手をして」

 

 孫空女は呆然としてしまった。

 

「さ、沙那……」

 

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、孫女……。でも、こんなことあんたにしか言えない……。あんたにしか頼めない……。あんたにしか打ち明けられない……。わたし、多分、どうにかしたんだと思う……。この半月……。わたしはやっと自分に相応しいと思った人生を手に入れた……。やりがいのある仕事──。責任のある地位──。そして、ご主人様の顔色を見ながら、性の玩具にされる恐怖に怯えなくても済む夜……」

 

「やりがいって……。だ、だから、沙那はあたしたちと別れるのかい……?」

 

「そうよ──。もう決めたの──。だ、だけど、おかしな火照りがずっとあるの。そんなに気にしなくてもいいとも思った。だけど、それが日に日に高まるのよ……。尋常とは思えないような火照りが……」

 

 沙那は泣きそうな顔をしていた。

 

「沙那……?」

 

 孫空女はびっくりしてしまった。

 こんな沙那は初めてだと思った。

 

「……それでも、いつかそんなのは消えるだろうと思っていた。こんなのは気のせいだし、身体があのご主人様に抱かれるのを求めているのだとは、思いたくなかった……。でも、監禁しているご主人様に、簡単にそれを言い合てられてしまって……」

 

 沙那の身体は赤く上気していた。

 身体がおかしなように疼くというのは真実だろう。

 孫空女も何日も宝玄仙の性の刺激を受けないと、そんな風に身体が熱くなることはある。

 あの宝玄仙は、孫空女の身体も、沙那の身体も、そんな風に躾けてしまったのだ。

 

「そ、それよりも、おしっこまだでしょう……。していいのよ。汚れたら、わたしがきれいにしてあげる……。ねえ、一緒にいやらしいことして……。いいでしょう?」

 

 沙那はいよいよ薬液に呆けてきたようだ。

 間違いない……。

 完全に眼が泳いでいる……。

 その沙那が耳元で言って、尿意が溜まっている孫空女の下腹部を布の上から押さえた。

 

「ひっ、ひっ、お、押しちゃやだ──」

 

 孫空女は焦った。

 もう尿意はそこまできているのだ。

 その下腹部を上から押されたら出る……。

 

「そうだ──。布なんて、いらないか……。もう、取っちゃおう──。孫女のおしっこ、見ちゃおう……」

 

 酔っ払ったような沙那が、一度被せた布をぺろりと剥ぐ。

 

「わっ、だ、駄目──。そ、それに、押さないで」

 

 孫空女は悲鳴をあげた。

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