「はっ、はっ、はあっ、はあっ──」
宝玄仙は大きな声をあげて、膣の中でうごめく張形の刺激に喘いだ。
声を出した方が楽なのか、それとも声を出さない方が楽なのかわからない。
とにかく、宝玄仙は頭から降りかかる冷たい水を浴びて、熱さに朦朧となりかけていた頭を冷やすとともに、汗となって流れてしまった身体の水分を補充するために、大きく口を開けて、降ってくる水を口を開いて飲んだ。
だが、飲めば飲むほど、宝玄仙の意識を混濁させる媚薬であることはわかっている。
しかし、水を補給しなければ、身体中の水分が抜けて、あっという間に意識がなくなって倒れてしまうことは間違いないし、この蒸し地獄の檻の中で気を失うことは、死に通じることは明らかだ。
本当に沙那が宝玄仙を殺すことまでするかどうかはわからないが、あの沙那のことだ……。
死の寸前まで宝玄仙を追い込むだろう……。
「ち、畜生──。さ、沙那め──。沙那め──。沙那め……。で、でも、だ、駄目……。いくううっ──」
宝玄仙は股間を蝕む痒みが、張形の振動で癒えていく快感に我を忘れそうになって、慌てて、爪先立ちになって膣から張形を抜いた。
頭から振り続けていた水がとまり、たちまちに、周囲に撒き散らした水が、今度は熱い湯気となって昇り始める。
宝玄仙は、もうもうとたちこめる湯気の中で、しばらくぼうっと立ち尽くした。
しかし、すぐに股間に激しい痒みが襲ってきた……。
思わず手で掻きむしりそうになるのをじっと拳を握って我慢する。
視界に『監視虫』と沙那が呼んだ監視霊具が映る。それが宝玄仙をじっと見張っていて、ちょっとでも宝玄仙が手で痒みを癒すような行為をしようとすれば、すぐにこの床に道術が連動されて、あの恐ろしい床電撃の地獄が再開される。
しかし、この痒みは……。
宝玄仙は泣きそうになるのをじっと我慢した。
痒みを癒すためには、そこにある床から棒で突き出されて、宝玄仙の腰からやや低い位置にある張形を宝玄仙の膣で咥えればよいのだ。
その張形は激しく振動しているものの、それを女陰で包めば、束の間だが痒みは癒えるし、この蒸し地獄の苦しみを助けてくれる冷たい水も頭から降り注いでくる。
だが、その幸福は、さらに宝玄仙に与える苦痛の上塗りと引き換えだ。
その張形の表面には、べっとりと染み出ている痒み剤がたっぷりとまとわりついているし、その痒みに苦しむ宝玄仙を責めたてる回転や振動を続けている。
その振動に負けて、もしも達してしまったら、やはり、『監視虫』が反応して、床電撃が再開することになるのだ。
だから、宝玄仙は自分をさらに苦しめることがわかっている『痒み棒』を女陰に咥えこみ、媚薬のたっぷりと含まれた水を全身にかぶらなければならない……。
しかも、許されるのは、自分を焦らし責めのようにぎりぎりのところで寸止めするあいだの刺激のみ……。
沙那らしい陰湿な仕掛けだ……。
それにしても……。
たっぷりと媚薬を飲んだ身体に加わる股間の痒みは、ずきんずきんと腰骨を揺さぶるばかりに宝玄仙に襲いかかってくる。
しかも、もの凄い熱さが宝玄仙の意識を飛ばしそうになる。
この責め苦を終わらせるには、天井に向かって、沙那の呈示した真言の誓いに応じると叫べばいいらしい。
とりあえず、この状況を打開するために、一度叫んで、沙那でも
沙那のことだから、それくらいはやる。
だから、それはできない。
真言の誓いを結んでしまえば、そもそも、宝玄仙そのものに、沙那を奪い返したいという意思がなくなるのだ。
しかし、そんな考えも股間の痒みが押し流していく。
もう、あまりの熱さのために、頭がすっかりと朦朧として、この苦しみを癒すことしか考えられなくなりそうだ。
そのとき突然に、床から噴き昇っていた熱い湯気が消滅した。
さらに、身体の火照りが消えていく。
股間の痒みでさえも、だんだんと気にならないくらいのものになっていく……。
『治療術』だ──。
宝玄仙の身体に『治療術』が流れている。
宝玄仙は、驚いて顔をあげた。
いつの間にか、この檻の中の責めを操作する卓の操作盤に、大柄の美女が立っていた。
どうやら、この女が宝玄仙を助けてくれたようだ。
とにかく、熱さ、痒み、焦らし責めのもどかしさ、そして、媚薬の火照りの四重苦が宝玄仙の身体から消滅した。
宝玄仙はすっかりと脱力してしまい、その場に座り込んでしまった。
「申し訳ないけど、いまは、『治療術』で楽にするくらいしかあなたを助けられないわ。小白象の許可なしに、この檻そのものからあなたを出すわけにはいかないの……。だけど、檻の中になにかを送ることはできる……。とりあえず、食事と水を送るわ。ほかに欲しいものがあれば言って、宝玄仙殿」
大柄の女が言った。
そして、食事と水差しを載せた盆を、卓の横の白い線の円の中に置いた。
すると、それが檻の中の円に転送されてきた。
「たっぷりと媚薬の詰まった食事と水かい……? 苦しめておいて、そこから助けたふりをして、また苦しめる……。そうやって、このわたしを思い通りにさせようという魂胆だろう? 亜人どものやることは下劣だね」
宝玄仙はうそぶいた。
「そんなつもりはないわ。その食事は、わたしが直接に準備したものよ。おかしな仕掛けはしていないことを保証するわ……。それと、わたしは
その大柄の女が名乗った。
「へえ、白象かい……。よくわからないが、沙那の責めをやめさせたということは、沙那とあの小娘のやることには、お前は与していないということなのかい?」
「あなたの味方とまでは言えないけど、敵にはなりたくないわね」
「まあいい……。もらうよ」
宝玄仙は、転送されてきた食事の前に座った。
まず、水筒を取って水を飲んだ。
「ほう……」
薬剤は入っていないようだ。
しかも、これは上等の果実水だ。
食事にも手を付ける。
空腹に染み透るように食材が胃におちていく。
野菜と肉の入った粥のようなものと、厚手の羊の肉がある。
いずれもおいしい。
なかなかの心尽くしだとわかった。
「白象宮の恩人に対して、無礼なことをするつもりは、わたしにはないわ。だけど、いまはその金網の檻から解放することは堪忍して。檻を開けると、あなたはわたしたちを許さないだろうし、小白象に危害を加えるでしょう?」
「そんなことはしないと真言の誓いで誓えば、ここから出すかい、白象?」
宝玄仙は言った。
「まあ、最終的にはそうなると思うけど、いずれにしても、ちょっと待って……。明日にでも、あの娘の機嫌がいいときを見つけて、もう一度、説得するから」
食事を続ける宝玄仙に対して、白象が金網の向こうで頭をさげた。
見た目は身体が大きくて、威厳のある女魔王という感じだが、思いのほか善良な性質のようだ。
前魔王がこの白象で、現魔王は、最初に垣間見た小白象というわけか……。
母娘にしては、まったく似ていないが……。
宝玄仙は目の前のものを口にしながら思った。
「わたしが、白象宮の恩人と言ったかい、白象?」
宝玄仙は訊ねた。
「そうよ……。この白象宮は、金凰宮と……、とりわけ、金凰魔王と敵対関係にあったのよ。最近のことだけど……。その金凰魔王を殺してくれたあなたは、白象宮の恩人──。そういうことよ」
「お前のところの仕来たりでは、恩人を拷問して苦しめるのかい──?」
宝玄仙は皮肉を言った。
「だから、すまないと思っているわ……。でも、娘といっても、小白象は、わたしの言いなりにはならないわ。下手にしつこく注意すると、このわたしが折檻されるし……」
「折檻……?」
宝玄仙は呆気にとられて、金網の向こうの白象を見た。
そして、思わず微笑んでしまった。
宝玄仙には、初対面の相手でも、少し接すれば、どんな性癖かある程度はわかるのだ。
この白象は、被虐癖だ……。
なんとなく、そう思った。
ただの勘だが、この手の勘で宝玄仙が誤ったことはない……。
「……ははは……。娘に性調教でもされているのかい──? それでご主人様には逆らえないということかい、白象?」
宝玄仙はからかった。
もちろん、娘が母親の白象を調教するなどいう馬鹿げたことがあるとは思っていない。
ただ、見ていると苛めてやりたくなるような、この前魔王を言葉で責めてみたくなっただけだ。
「まあ、そういうことね」
すると、白象が神妙な表情で頷いた。
宝玄仙は、驚いてしまった。
「……まあいいよ。檻からわたしを出せないなら、沙那がわたしから取りあげた服を返しな」
沙那が奪った宝玄仙の衣類は、白象がいる卓の後ろ側くらいにそのままになっているはずだ。
「ああ、これね……。ごめんなさいね。すぐに送るわ。一緒に、身体を拭く布もね……。食事の盆を円の中から避けてくれるかしら」
白象が卓の後ろを覗きながら言った。
宝玄仙が言われた通りにすると、すぐに宝玄仙の服が送られてきた。数枚の布も載っている。
宝玄仙は、汗びっしょりだった身体を簡単に布で拭いて、服を着込んだ。
「さてと……。じゃあ、白象──。とにかく、これからのことを話し合おうじゃないか。お前が、わたしのことを恩人というのであれば、この状況をなんとかしな。そもそも、お前たちは、沙那をどうするつもりなんだい? お前たちは、沙那の心を『主従の誓い』で縛って、奴隷にしようとしてるのかい?」
宝玄仙は、卓に面する金網の前に移動して、床に胡坐に座った。
「沙那もまた、恩人よ。彼女は、わたしや小白象に尽くしてくれたわ……。命をかけてね」
白象は卓の前から進み出て、宝玄仙が座り込んでいる金網の向こう側の床に腰をおろした。
金網を挟んで、宝玄仙と白象が向かい合って床に座っているかたちになった。
「お前らは、恩人を拷問で苦しめるが主義なのかい──? 沙那に『主従の誓い』をさせて、いいように操っているじゃないかい──。いい加減にしな──。真言の誓いで心を操るのも拷問だろう──。それに、沙那はわたしのものだよ。ぐずぐず言わずに、沙那の真言の誓いを解消させるんだよ」
「沙那との主従契約を結んでいるのは、小白象よ……。その影響で、小白象はいい具合に心が変わっているの……。知っている通り、『主従の誓い』は、従側に主人側に対する忠誠を強要するだけじゃなく、主人側にも、部下として相手を受け入れるという心を強引に作りあげるわ。あの娘は、決して他人を信用せずに、部下を人とも思わないところもあったんだけど、あの真言の誓いのために、それがうまい具合に転がっているの……」
「知ったことかい──。お前の娘が他人を受け入れない人でなしだろうが、なんだろうが関係ないよ──。わたしは、沙那の真言の誓いを解けと言っているんだよ」
「でも、沙那は、もはや、白象宮にはなくてはならない存在で、しかも、小白象も沙那を慕っているわ……。ねえ、本当にこれは心からのお願いなんだけど、沙那を小白象に譲ってもらうわけにはいかないかしら……。それを許してくれれば、この白象宮は、どんな代償もあなたに引き渡す……」
「や、やかましい──」
宝玄仙は白象の言葉を遮って怒鳴りあげた。
「今回ばかりは、わたしは理不尽なことを要求しているつもりはないよ──。沙那にかけている真言の誓いを解きな──。要求はそれだけだ──。すぐに、あの小娘のところに行って来い、白象──」
宝玄仙はさらに声をあげた。
白象がびくりと肩を動かした。
「で、でもねえ……。小白象が、基本的にこの件でわたしの言うことに従うとは思えないし……」
のらりくらりと、人の言うことをかわす女だ。
まるで熟練の政治家を相手にしているようだ。
そう言えば、東方帝国の帝都で八仙として、宮廷府の政治家と付き合うことも多かったが、こういう手応えのない手合いもいた。
しかし、こういう手合いこそ、実は強敵なのだ。それを思い出した。
威張っていたり、感情に任せて物をいう相手は怖くはない。怖いのは目の前の白象のような掴み所のない相手だ。
そういう相手は、実際には、内心でいろいろな駆け引きもしているし、深く考えている。
必要であれば、強硬な態度にも出るし、それが有効だと思えば泣き落としでもなんでもやる……。
そんな熟練の政治家を白象に感じた。
宝玄仙は嘆息した。
「どうしたものかしら……」
また、白象が困ったような顔で息を吐いた。
だが、だんだんと、それは白象の手のようにも思えてきた。
とにかく、宝玄仙は決心した。
この女が娘に調教される性奴隷だろうと、仮にも前魔王なのだ。多少の影響力は、沙那を操っている小娘にあるのだろう。
白象は、必ずしも、沙那をここに留めることには、こだわってはいないようだし、よくわからないが、宝玄仙に好意もあるようだ。
ならば、口説き落とせば、宝玄仙の提案の仲介くらいはしてくれるかもしれない。
「だったら、白象……。お前があいだに入って、沙那の件について、お前の娘にいまから言う提案をしておくれ。つまり、この宝玄仙が、沙那を相手に勝負をしたいと言っているとね──。わたしが勝てば沙那の道術を解くんだ──。その代わり、沙那に負けたら、その沙那は小娘に渡す──。そう言うんだ──」
宝玄仙は言った。
*
「えっ……? 白象殿が──?」
思わず、沙那は声をあげた。
『通信球』から送られてきたのは、小白象の声だった。
その内容は、宝玄仙と白象がいつの間にか話し合い、その中で、沙那の身柄を賭けた沙那との勝負を宝玄仙が挑んできたということだった。
とにかく、宝玄仙を監禁している場所まで来いというのが小白象からの伝言だった。
「悪いけど、孫女、行かなければならなくなったわ……」
沙那は寝台の上の孫空女に眼をやった。
孫空女は、寝台に刻まれた道術により身動きできないまま、その寝台に仰向けで横たわっている。
沙那の我が儘で百合の性の相手をさせてしまい、まだ、食事もさせていない。
水だって、おかしな薬剤入りの水を数口飲ませただけだ。
孫空女に飲み食いさせるつもりだった普通の水と、滋養を与えるための丹丸は、まだ、そのまま卓に置いてある。
どうすべきか迷った。
「どうしたのさ、沙那……?」
孫空女が気だるそうな様子で、寝台に横たわったまま訊ねた。
「ねえ、孫女、約束してくれない? ここで暴れないと約束してくれるなら、あなたをその寝台からおろすわ」
「約束するよ」
孫空女は即答した。
沙那は孫空女の顔を見た。
孫空女は嘘はつかない……。
絶対に真実しか言わないというわけではないが、孫空女が約束すると言えば、それを孫空女は破らない。
まず、沙那は孫空女の耳の中に隠してある『如意棒』を奪った。
これを取りあげておけば、いくらなんでも鉄の扉をぶち破って抜け出す可能性はないと思う……。
そして、沙那は孫空女の手を取り、寝台からおろした。
寝台の手摺に乗っていた服を投げ渡す。
自分も急いで衣服を着込む。
「台車の上にある丸薬を口で噛んで飲み込めば、空腹が癒せるし、朝までに必要な滋養は十分に摂取できるわ。それと、その白い水差しは普通の水よ。ほかのものは手をつけない方がいいわ……。おかしな薬剤入りだから……」
沙那は、孫空女からなんとなく顔を背けながら言った。
あんなに乱れた姿を孫空女に見せてしまった。
こうやって薬剤の影響を抜いて冷静になると、随分と照れ臭い。
「どこに行くのさ、沙那? ご主人様になにかあったの?」
孫空女が服を着ながら言った。
「ご主人様がわたしと勝負を挑んでいるようよ。わたしが勝ったら、この白象宮にわたしが残ることを認めると言ってるみたい」
「へえ……。じゃあ、沙那が負けることを祈ってるよ」
孫空女はそう言って、台車から白い水差しを取って、喉を鳴らして水を飲んだ。
とりあえず、抵抗の様子はない。
沙那が取りあげた『如意棒』にしても、奪い返そうという気配もない。
身支度の終わった沙那は、孫空女に声をかけてから、霊具の鍵で扉を開けて廊下に出た。
孫空女は最後まで、逃亡の素振りは見せなかった。
沙那はもう一度、扉を霊具で封鎖して、二層下の宝玄仙の監禁部屋に向かった。
部屋に入ると、中には宝玄仙だけではなく、白象と小白象もいた。三人とも、部屋に持ち込んだらしい肘掛け椅子に座っていた。
宝玄仙を監禁している檻にも肘掛け椅子が入っていて、宝玄仙は金網を挟んで、白象と小白象と向き合うように椅子を向けて座っている。
「来たかい、沙那……。お前を賭けて、わたしとお前の勝負といこうじゃないかい。対等な条件で勝負だよ。こいつらは、承知したよ」
「勝負?」
沙那はちらりと小白象を見た。
小白象が応じたということは、沙那を手離すことになる可能性を小白象が受け入れるということだ。沙那は少し驚いた。
「わらわは、承知しておらん。ただ、沙那が応じると判断すれば、これで決着をつけることを容認すると言っただけだ……。わかるな、沙那? お前が判断せよ。とにかく、宝玄仙殿は、負ければ、真言の誓いに応じるそうだ。それそのものも、真言の誓いで誓ってもいいと言っている」
小白象が沙那になにかを含むような視線を向けた。
つまり、沙那に判断せよというのは、勝てる勝負でなければ受けるなということだろう。
沙那は小白象に小さく頷いた。
「そして、沙那、これだけは、前魔王としても、摂政としても言っておくわ。宝玄仙殿に対する拷問めいた仕打ちは禁止よ。わたしは、小白象を金凰魔王なような魔王にはしたくないの。宝玄仙殿は、金凰魔王と金凰妃を倒してくれた白象宮の恩人よ。そのことは、この三魔王領で知らぬ者のない事実よ。その宝玄仙殿を不当に扱って拷問していると知れたら、小白象の魔王としての外聞に関わるの」
白象が厳しい視線を沙那に向けた。
「母者、出すぎたことを言うでないわ。それについては、わらわは、母者の意見は聞くと言っただけだ。言葉としては聞くが、承知はしておらん」
「で、でも、小白象……」
白象が困ったような表情をした。
「くどい、母者」
小白象はぴしゃりと言った。
白象は黙ってしまった。
「い、いえ、わかりました……。白象殿に従います」
沙那はそう言った。
白象の言うことは正しい。
小白象の魔王としての評価はこれからだ。
信用のならない魔王だと評判になれば、多くの族長を治めていかなければならない小白象の政事に悪影響がある。
沙那ひとりを得るために、悪評判を立てられるのは、確かに、あまりにも代償が多すぎる。
どんな悪評があっても、支配するのは自治領だけで、配下の部族長を持たなかった金凰魔王に比べれば、小白象は多くの部族長を様々な手段で統治していかなければならない役割だ。
白象が、小白象を金凰魔王にしたくないという意味は十分に理解できる。
「しかし、沙那……」
小白象が沙那を見た。
「い、いえ、どんな勝負か知りませんが、つまりは勝てばいいのですから」
沙那は小白象にそう言うと、視線を宝玄仙に向けた。
「では、わたしが勝てば、真言の誓いでわたしを小白象様に譲ると、わたしと契約してくれますか、宝玄仙様?」
沙那は言った。
「ああ、わたしが負ければ、お前は自由にしていい。お前が望めば、真言の誓いでその小娘にお前を譲ると誓ってやるよ。その代わり、お前も約束しな。わたしが勝てば、お前たちの『主従の誓い』は破棄するんだ」
宝玄仙は言った。
「わらわが仲介人になって、真言の誓いをふたりに刻もう。沙那は自らは道術は遣えんし、金網の中の宝玄仙殿は道術が制限されておるからな……。たったいまの宝玄仙の発言を言の葉にして、真言の誓いを刻む──。よいぞ。ふたりとも誓うがいい」
すると、すかさず小白象が言った。
「誓います」
「誓う」
沙那と宝玄仙は、それぞれに言った。
真言の誓いが沙那の心に刻まれたのがわかった。
沙那は密かにほくそ笑んだ。
いま、何気なく結んだが、さっきの真言の誓いは宝玄仙に著しく不利だ。
宝玄仙は、勝負に負ければ、沙那を渡すことに同意する真言の誓いをしなければならないが、沙那が負けても、『主従の誓い』を解く義務が生まれるのは沙那だけだ。
小白象には義務は生まれない。
沙那自身は『主従の誓い』を解除する能力はないから、最悪、沙那が負けても、小白象が無視すればいいだけだ。
そもそも、本来は沙那は、道術遣いではないので、主従の誓いの土台となる「真言の誓い」は結べない。
沙那がいま、小白象と主従の誓いという真言の誓いを結んでいるかたちになっているのは、あのお蘭の作った魔法石、すなわち、賢者の石、言い換えれば、宝玄仙の霊気を帯びている「魂の欠片」を身体に入れているからだけのことだ。沙那からの道術的な心の拘束は発生しないのだ。
つまりは、沙那側からでは、いかなる手段でも、小白象とのあいだにある真言の誓いをどうすることもできないということだ。最悪、小白象が「口約束」を反古にすればいい。
それに、まだ、どんな勝負をするか決めていない。
だから、これから宝玄仙に勝ち目のないような勝負を選べばいい。
それがどんな勝負であっても、いま真言の誓いをしてしまった宝玄仙は、負ければ沙那を譲ることに同意するしかない。
「じゃあ、次は勝負のやり方の話し合いといこうじゃないか」
さっきの真言の誓いのからくりに気がついていないのか、宝玄仙は陽気に言った。
「どんな勝負を提案するのですか、宝玄仙様?」
沙那は、とりあえず訊ねた。
「なあに、わたしたちらしく、性の手管で勝負しようじゃないか、沙那……。ふたりで金網を挟んで、この肘掛け椅子に座って向き合うのさ。そして、交互に一定時間相手の愛撫を一方的に受けるということでどうだい? 金網越しに愛撫がし合えるように、わたしにも『道術手』の霊具を使わせてくれればいい。そして、相手の責めに負けて、肘掛けから手を離せば負けということにしよう。我慢しきって時間がくれば交代。それを繰り返すのさ」
宝玄仙がにこにこしながら言った。
なんというくだらない勝負だろうと沙那は呆れた。
それに、感じやすい沙那が性の手管で宝玄仙にかなうわけがない。
宝玄仙もそれを承知だからこそ、こんな勝負を提案するのだろう。
しかし、沙那はふと思いついた。
勝目がなければ、あるようにすればいい。
勝負は公平である必要はない。
「わたしと宝玄仙様じゃあ、性技で力の差がありすぎます。不公平です。だから、わたしを先行にしてください。そして、わたしには、性具の使用を認めてください。それならば受けます」
沙那は言った。
「まあ、それくらいはいいだろう。その条件を飲むよ」
「承知しました。ならば、勝負は明日の朝……。それでいかがですか? 明日の朝、わたしはその挑戦を受けます」
沙那は言った。
明日の朝であれば、すぐに身体全体が石のように不感症になる薬物を飲めば、朝には確実にその効果が沙那を守ってくれる。
そうすれば、いくら宝玄仙が性技を駆使しようが沙那が負けることはあり得ない。
「受けて立つよ」
宝玄仙ははっきりと言った。
沙那は、宝玄仙に見せないように、にやりと微笑んで小白象に小さく頷いた。
「よかろう。わらわもその条件に同意する。明日の朝、沙那自身を賭けた勝負といこう。母者にはその見届けと審判を頼もう」
小白象が声をあげた。