「ああっ、ああっ、あん、あん、ああっ……」
薄いカーテンの一枚向こうで、
とにかく、早く済まそうと思えば耐えるのではなく、むしろ、わざとらしい嬌声を張りあげて、淫乱に腰を振ればいいと、朱姫がこの前教えたので、そのとおりにやっているのだろう。
それとも、あの声の感じだと、この十日に近い日々の中で、すっかりと男との性交に慣れてしまい、本当に感じる身体になってしまったのだろうか。
まあ、それは、それでいいのだろう……。
この人扱いされない亜人収容所の中で、生き抜く力さえ得られればいい。
この亜人収容所に、繁殖囚という繁殖のための奴隷として収容されて、おそらく十日近くがすぎたと思う。
いつものように、午前中の種付け作業が始まっていた。
朱姫は今日ふたり目の種付け作業が終わり、生出しされた精が膣からこぼれないように、仰向けの態勢で両脚を胸につけ、膣穴を上方に固定されて待機させられているところだ。
それで、同じ部屋で種付け作業を受けている摩耶たちの様子にぼんやりと耳を傾けているところだった。
「……はあ、あ、ありがとう……。な、生出しありがとうございます……」
その摩耶のさらに向こうから、朱姫と華耶と一緒に繁殖雌囚になった
男兵の精を受け、性交が終わったのだろう。
これで麗麗女は三人目のはずだから、後は、いま朱姫がやっているように、腿を胸近くまであげられて固定され、一定時間をすぎれば、午前中の種付けの割り当ては終わりのはずだ。
今日の午後は、男囚側で大きな外作業があるために、男兵だけでなく、女兵までかなり男囚の監督のために駆り出されると言っていたから、午後の種付け作業はなしのはずだ。
つまりは、今日の午後については自由時間となるのだ。
麗麗女は、少しでも早く子を宿すために、部屋でゆっくりしたいと言っていたので、午後はなにもしないのだろう。
こんなところで、まるで家畜のように、誰の子とも知れぬ子を産みたいという気持ちになるのは、朱姫には理解できないが、子を宿せば、個室になり、出産までの十箇月間は、なにもしなくても滋養のある食事と清潔な部屋や服、そして、温かい居住環境が保障される。
麗麗女は、早くその生活をしたいと言っているのだ。
まあ、どんなことに価値観を見出そうと、所詮は他人の勝手だから、朱姫としては、それに物を言うつもりはないが……。
いずれにしても、朱姫は午後の自由時間については、散歩の体裁で脱獄計画について摩耶と相談しようと思っていた。
朱姫と華耶の居住部屋は、麗麗女と一緒だから、部屋の中では話ができないからだ。
できれば、華耶とも話し合いをしたのだが、監督囚として訓練を受けているはずの華耶とは、まったく接触する機会はない。
いまごろ、どうしているのだろうか……。
摩耶も心配しているのだが……。
「麗麗女は最後の経過時間に入ります。それと、朱姫は、経過時間がすぎました……」
世話係の初老の女囚が朱姫たちの監督囚に告げた。
「いいだろう……。次を呼べ」
監督囚が告げた。
この部屋で種付け作業を受けているのは、朱姫、摩耶、麗麗女の三人だ。
同じ日に入所したこの三人は、居住部屋も種付け部屋も同じであり、毎日、この部屋で、カーテンで仕切っただけの三個の寝台に固定されて、男兵の性行を受けている。
その管理をするのが、この監督囚と世話係のふたりだ。
本来のここの責任者は、入所検査のときにいた|楊姫<ようき>だが、楊姫も忙しいから、毎日の種付け作業に立会することはほとんどない。
世話係が立ちあがって、待合室にいる次の男兵を呼びにいった。
そのあいだ、監督囚が面倒くさそうに、朱姫の両腿を胸につけるように拘束するために膝裏に回していた革帯を寝台から外した。
朱姫の両手首は、寝台に縛りつけられていたが、これで両脚は自由になった。
「次で三人目だ。早く、種を宿せるように頑張るんだよ、朱姫──。いい生活をしているお前たちは、種付けのために、労働囚の連中とは比べものにならない生活をさせてもらっているんだからね。それを考えなきゃだめだよ」
監督囚の女が尊大な態度でそう言った。
こいつは、二言目には繁殖囚は楽だとか、いい目を見ているとか、感謝をしなければならないと口にする。
確かにそう言われているのは知っているが、毎日のように男に凌辱され、妊娠を強要されるのは、女としてこれ以上の恥辱と苦痛はないと思うが、どうなのだろうか……。
ここに収容されている亜人囚の女は、大きく五種類に分けられる。
大部分は、労働囚と呼ばれる者であり、彼女たちは一班から四班に分かれて、毎日、苛酷な割り当て作業や重労働を強いられる。
食事も粗末で、外の粗末な長屋のような場所で生活をさせられている。
基本的に使い捨てであり、病気になったり、働けなくなったりすれば屠殺場行きだ。
それに比べれば、朱姫たち繁殖囚の暮らしは天国だと、この監督囚は言っているのだ。
まあ、死の恐怖がないという限りにおいては、そうなのかもしれないが……。
朱姫たちのような繁殖囚は、使えないと判断されれば、労働囚落ちとなるのが決まりらしいが、労働囚は使い物にならなければ、文字通り抹殺されるのだ。
いま現在の繁殖囚の数は十人だ……。
それはここを管理する楊姫にいわせれば、非常に少ない数らしい。
楊姫は、最終的には五十人くらいを繁殖囚の定数にしたいと言っているようだ。
繁殖囚がするのは人間族の男との性交だ。
それ以外にすることはない。
繁殖囚は、男の兵から毎日種付けを受けて、子を作ることが役割だ。
種付けが成功して妊娠すれば、養生の生活に入り、赤ん坊を産む。
赤ん坊を育てることはない。
生まれれば、すぐにどこかにやられる。
だから、この女囚城で赤ん坊を見ることはない。
赤ん坊は、奴隷として売ることになるようだ。
赤ん坊の奴隷というのは、非常に需要があり、大変に高く売れるらしい。
特に、見目麗しい女の子は高価だということで、朱姫たち繁殖囚には、容姿端麗の美貌の女が選ばれるということだったようだ。
毎日の食事に産み分けのための薬剤が含まれていて、もしも、種付けに成功すれば、朱姫は必ず女の子を産むことになるとのことだ。
また、産んだ子が、人間との相の子、すなわち、半妖の場合には、まれに高い道術能力をもって産まれることがあるということで、基本的に朱姫たち繁殖囚は、人間族の男しか種付けはされない。
もっとも、実際には、朱姫も華耶も亜人ではなく半妖なのだが、それはここの人間たちは無視している。
朱姫たち繁殖囚は、入所検査のときにいた楊姫という女の管理下にあるのだが、楊姫の管理にある女囚には、もうひとつ、性奴隷囚という区分の者たちもいる。
彼女たちが働くための官営の妓楼があり、そこに出向して働くのが仕事だ。
この性奴隷囚の棟は完全に隔離されていて、朱姫も一度も調教の場所を見たことはないし、全体で何人かも知らない。
性奴隷になれば基本的に数年以上生きることは稀であり、扱いは労働囚より苛酷だと言われている。
それを裏付けるのは、繁殖囚落ちの労働囚はいるが、性奴隷落ちの労働囚はいないという事実だ。
噂では、性奴隷として使い物にならなくなった女囚は、屠殺でもなく、拷問死させられると聞く。
性奴隷は苛酷なので、死の恐怖を感じさせるために、使い物にならないと判断した性奴隷を活用するということだ。
真実は知らないが……。
朱姫たちが収容されたとき、入所検査で性奴隷判定を受けた童女がいたと思う……。
彼女がどうしているかは考えないようにしている。
女囚の区分には、ほかに雑役囚というのがある。
これは、労働囚の中で長く貢献した者が選ばれることになっているようだ。
いま、朱姫の次の種付けの相手を呼びにいった世話係が、その雑役囚であり、彼女たちは比較的楽な雑用作業や、この収容所を管理する役人などの身の回りの世話などをする。
苛酷な生活をしている労働囚にとって、功績により雑役囚に指定されるというのは、彼女たちの夢となっているのだそうだ。
そして、もうひとつの区分が、監督囚だ。
これは、すべての女囚を管理する役割であり、いわば、囚人の見張りや仕事の監督をする係なのだ。
この亜人収容所には、数千人の亜人がいるが、それを監督する兵は百人もいないらしい。
だから、囚人の管理や仕事の監督の眼はどうしても行き届かなくなる。
それを補佐するのが監督囚だ。
彼女たちは、特に選抜されて、収容所に所属する城兵の代わりとなって、労働囚や繁殖囚などの囚人を使役するのだ。
つまりは、この亜人収容所の第一階級が、所長の老舎や楊姫や愛甲などの高位の役人と軍人だとすれば、それに属する下級役人や将校が第二階級、監督囚は第三階級というところだろうか。 その下に、労働囚、雑役囚、繁殖囚、性奴隷囚などの役割に分かれた「家畜」がいるという構造だ。
いずれにしても、この亜人収容所は、衣食住すべてをここで賄う独立採算性だ。
亜人の食べる物、着る物、そのほか、生活必需品のすべてが、ここで生産される。
それだけではなく、余剰として産み出されたものは、すべて商品として売ることになっている。
朱姫たちが産むことを要求されている赤ん坊も商品だ。
性奴隷として身体を売る女もそうだ。
そうやって作り出された富は、すべて第一階級の三人の懐に入るということになっている。
だから、あの三人は、少しでも富を生むように亜人を使い、使い物にならなければ、処分するということをしているのだ。
「こられました……」
雑役囚の女が戻ってきた。
その後ろの男の兵がいる。
「へへへ……、おっ、今度の繁殖囚は、なかなかに、若くていい女だな……。じゃあ、時間も勿体ないし、やらしてもらうか……。気が散るから、お前らは退がっていろ」
男兵が監督囚たちに言った。
雑役囚は無表情ですぐに立ち去った。
監督囚は少しむっとした表情になった。
雑役囚はともかく、監督囚は自分の特権を犯されるのを嫌う。
囚人を眼の前で使役して、叱咤や命令をするというのは彼女たちの特権なので、使役の最中に遠ざけられるのを不快に思ったに違いない。
だが、監督囚とはいえ、所詮は女囚だ。
城兵の命令には逆らえない。
監督囚は不貞腐れたような態度で、カーテンの向こうに去った。
「なら、本番といくか……」
男は下半身裸になると、いきなり朱姫の両腿を抱え込んだ。
そして、露わになった朱姫の秘肉にすぐに一物を押し当ててきた。
「ああっ、はああ……やあっ……」
慌てて朱姫は声をあげた。
男に気分良くさせるためだ。
それにしても、前戯らしいものもなにもしないとは驚いた。
余程、性急な性格をしているのか、普通は、朱姫の裸身を手や口で少しは味わってから本番に至るのだが、この男はすぐに本番に入るらしい。
まあ、その方が早いから、それはそれでありがたいが……。
すでに三人目なので、どうせ膣はたっぷりと愛液や前の男の精で濡れている。
男の熱い亀頭が挿入を開始した。
しかも、一気に最奥まで突き挿されて、朱姫の膣を抉った。
「んんああっ、い、いきなり……。す、凄い……」
朱姫は背を仰け反らせて呻いた。
凄いというのは、半分は演技だが、半分は本当だ。
男の怒張は硬くて長かった。
それが子宮口をどんと突くと、痛みとともに激しい疼きが朱姫を襲った。
「入ったぜ……。そ、それにしても、い、いい締まりだ……」
男が嬉しそうに笑いながら、一方で顔をしかめた。
朱姫はいきなり快感に近い疼きに襲われて、思わず膣で男根を締めつけていたようだ。
こういう性技は、宝玄仙によって完全に調教されてしまった。
意識しなくても、感じると朱姫の身体は、勝手に男に奉仕するように動く。
「おおっ、こ、これは凄い……。ぐいぐいときやがる……。くっ、ううっ」
男が腰を振り始める。
かなり激しい。
朱姫も膣を締めつけているので、男はしかめ面をしているが、とても気持ちよさそうだ。
しばらくのあいだ、男は朱姫の身体をむさぼるように、愉悦に浸った顔で腰を動かし続けた。
「ああ、あくうっ、いやあっ、やめっ、あっ、んんっ……」
膣の粘膜を乱暴に擦られまくり、朱姫は次第に演技のようなものができなくなってきた。
そして、いつしか本気の身悶えと喘ぎ声をしていた。
しかし、男は朱姫の苦しそうな息遣いなど、お構いなしに腰を振り続ける。
「ああっ、あああっ……」
朱姫は声をあげた。
苦痛ではない……。
はっきりとした快感が身体を覆い始めた。
こういう状態になってしまったら、朱姫の身体も、宝玄仙によってすっかりと調教された淫乱な身体だ。
感情とは無関係に、身体だけがひたすら官能の頂点に昇り続ける。
「いやあっ、あくっ、ああ、いく、いくっ」
朱姫の腰は無意識で大きく動くようになった。
甘い嬌声も迸り始める。
「おお、いい感じになってきたな……。じゃあ、ここを刺激してやるぜ。大抵の女はやりながら尻の穴を弄くると、気持ちよくなるらしいからな──」
男がすっと指を朱姫の肛門に触れた。
そして、垂れ流れている愛液の滑りを利用して、すぽりと第一関節だけを入れた。
「きゃああああっ──だめええ──」
朱姫の中でなにかが暴発した。
そこだけは弱いのだ。
朱姫は悲鳴のような声を張りあげた。
だが、男は膣に入れた一物を激しく動かしながら、一方で第一関節だけを入れた朱姫の肛門をくちゅくちゅと刺激しはじめる。
「あふふふうううっ──」
朱姫は全身を仰け反らせた。
早くも達してしまったのだ。
「おお、凄い締めつけだ──くううっ──」
男が苦しそうな声になり、そして、さらに腰と指の動きが大きくなる。
全身を覆った快感の余韻に浸ることも許されず、さらに大きな快感が全身を包む。
息がとまる……。
意思に逆らって、身体が暴走する……。
子宮が溶ける……。
「ああ、いく、いく、いくっ──」
二度目の絶頂の波がやってきた。
まだ、肛門の指が動き続けている……。
朱姫は身体を仰け反って全身を震わせた。
「あうううっ……」
達してしまった……。
頭が真っ白になり、快感の矢が全身を貫いた。
そして、大きな脱力感が襲う。
男がやっと肛門から指を抜いた。
「も、もうだめだ……。こ、これは……い、いくぞ……」
男はまだ腰を動かしていたが、すぐに悲鳴のような声をあげて、腰をぶるぶると振った。
朱姫の中で男の精が弾けたのがわかった。
「はあ、はあっ、ああ……」
朱姫は大きく胸を上下させて喘いだ。
いちいち感じていたら身が持たないから、感じるふりだけをして、二人目までは乗りきっていたのだが、三人目の男が何気なく朱姫のお尻を刺激したために、我を忘れるほどに感じてしまった。
まだ、この男が淡白で性急だったから助かった……。
これがもっと粘着性のある相手だったら、さらにつらいことになった気がする。
「……な、生出しありがとう……、ご、ございます……」
朱姫は思い出して、ここにはいない楊姫から強要されている言葉を男に告げた。
「おう、いい身体だったぜ──。また、俺の番が回ってきたら、お前を指名することにするよ」
男の兵が
「お疲れ様でした……。さあ、お前、朱姫に革紐を……」
すぐに監督囚が入ってきた。
雑役囚に命じて、朱姫の両脚を胸につくようにあげさせ、再び膝裏に革帯を回して寝台に固定させた。
こうやって秘部が上を向くように拘束して、膣に入った精が出ないようにして孕み易いようにするのだ。
「まあ、いい子を産んでくれよ」
男兵が笑って出ていった。
そのとき、隣の寝台から大きな声が聞こえてきた。
「い、いくううっ──」
「おおおっ」
カーテンの向こうの隣の摩耶がひと際大きな声を発するのが聞こえた。
それと同時に、摩耶を犯している男の窮まった声も聞こえた。
あれは演技だな……。
朱姫はまだ呆けながら、ぼんやりとそんなことを思った。
*
「ここで休もうよ、摩耶。人影もないし……」
午後の自由時間を摩耶とともに、外を散歩することですごしていた朱姫は、大きな壁に近い木陰に摩耶を誘った。
眼の前に見える大きな壁は、男子囚との境界だ。
この亜人収容所は、大きく男子囚を女子囚のふたつに区分されている。
滅多なことでは男子囚と接触することはなく、この壁の向こうに朱姫たちが行くこともない。
そして、この木陰からは、遠くで畠仕事をしている労働囚の女たちの姿もちらちらと見える。
男子囚にも同じような畠もあるらしいが、この収容所の敷地から外に出ない女囚に比べれば、男子囚の畠は外にもある。
収容所内の敷地内では、畠にできる耕地が狭く、生産できる量が限られるからだ。
本来、必要な食料は、敷地内の耕地だけで十分にまかなえるはずであり、余分な野外耕地は、所長たちがその売り上げの収益を私腹に入れるための作業だという噂であることを朱姫は知っていた。
「散歩じゃなくて、木陰で休むのは規則違反よ。休憩は自室に限られているはずよ、朱姫さん」
摩耶が意味ありげに笑った。
朱姫たち繁殖囚は、適度な運動も種付けをしやすくするために有益だと考えられていて、敷地内に限り、こうやって、拘束もされずに自由に散策することが許されていた。
こんなのんびりとした時間をすごすことは、労働囚には許されていないので、ある意味では、これは繁殖囚である朱姫たちの特権だろう。
種付けのために、決まっている数の性交さえこなせば、あとは朝、夕、夜の点呼のときに自室にいればよく、ほかは比較的自由だ。それが繁殖囚の日常だ。
だから、こうやって、空いた時間に散策するということも許される。
ただし、摩耶の言うとおり、木陰で休むということは許されていない。
そこに隠れ場所を作って、脱走の手段にしようとする可能性があるからだ。
「そうよ。禁止されているわ。だからなに、摩耶?」
朱姫がそう言うと、摩耶は白い歯を見せて、おどけた仕草で木陰に潜り込み、一本の木の陰に隠れるように座った。
「違うわ、摩耶。そっちじゃなくて、こっちよ」
朱姫はこの近辺で一番背の高い樹の後ろに誘った。
「なに? 隠れる樹が決まっているの、朱姫さん?」
摩耶が冗談めかして言った。
「そうよ。決まっているの」
朱姫が微笑みの中に浮かべた真剣さを感じたのか、摩耶は真顔になって、こっちに向かってきた。
朱姫と摩耶は、その樹の陰に完全に隠れるように並んで座った。
「ちょうど、この位置から見える外壁を見て……。男囚側の境の壁があるところよ……。実は、あそこは外壁監視の見張りの死角よ。もちろん、男囚側からは壁で見えないし、近い女囚側の見張り台は、夜の配置はないのよ……。あたしは、あそこに目星を付けてる。長い縄と壁の上に引っ掛ける金具が準備できれば、あそこから逃げられると思うわ」
朱姫は声を潜めて言った。
「しゅ、朱姫さん……」
摩耶は目を丸くして驚いていた。
しかし、しっかりと朱姫に頷いた。
こういう時間を利用し、朱姫は散歩のふりをして、収容所内のあちこちを歩き回って、脱走できそうな場所を探していた。
収容所の外壁には、城兵の見張りも何箇所かあるが、その見張り台の間隙となっている場所を何箇所かすでに見つけている。
その中で、いま教えた場所は、格好の場所だと思う。
問題は、高い塀をどうやって乗り越えるかだが、それさえなんとかすれば、脱走も不可能ではない。
実際に、野外作業の多い男囚では、それを利用した脱走なども頻繁のようだ。
だからといって、利益の産む野外作業をやめないのは、あの所長の方針だ。
つまりは、それが儲かるからだ。
亜人の囚人が逃げても、代わりの者はすぐに送られてくる。
あまりにも脱走が続けば、所長もやり方を考え直すかもしれないが、いまのところ、あの所長は私腹を肥やすことしか頭にないようだ。
だが、まあ、考えてみれば、そのお陰で、朱姫も性奴隷よりも、繁殖囚にした方が利益になると判断されて、苛酷な性奴隷にはならなくてすんだのだ。
また、さらにそのお陰で、今日のように男囚で野外作業があるときには、城兵の監視も緩やかになる。
普段は、もう少し、女囚を監督する城兵がうろついているのだが、男囚の野外作業の監督のほかに城壁の監視もすると、余剰の兵がいないので、施設内のほかの場所には城兵の配置がほとんどなくなるのだ。
「じゃあ、縄を探さないとね……。鈎になる金具はなんとか手に入る気がするけど……」
摩耶が神妙な表情で言った。
朱姫と摩耶は、そのうちに、ここを一緒に脱走するということで、話し合いは済んでいる。
実際には、朱姫ひとりの方が脱走は容易というのはあるのだが、朱姫はなんとしても、ここで出逢った半妖の双子娘と一緒に逃げたいのだ。
「これも見て、摩耶」
朱姫は目の前の樹の根元の土を払った。
そこに、木箱を埋めて隠しているのだが、摩耶に教えるのは初めてだ。
朱姫が上の土を払って箱を見せたら、魔耶は本当に驚いた表情になった。
朱姫は箱を土に埋めたまま、蓋だけを開いた。
中には盗んだ金具を鈎状に加工したものと、編みかけの縄がある。
縄は施設の中に本物の家畜を飼っている納屋があって、そこから、飼葉の干し草を少しずつ盗んで、いままでこっそり縄にするために編んでいたものだ。
「す、凄い……。いつの間に……」
摩耶が息を飲んだ。
「まだ、長さが全然足りないけど、一箇月もすれば、準備できると思う。だから、頑張るのよ、摩耶」
朱姫は言った。
「も、もちろんよ……。でも、これからは、脱走の準備をあたしも手伝うわ」
「それはいいわ……。それよりも、いつでも逃げられる心づもりをしていて……。それと、なんとか、華耶と接触を……」
物を盗んだり、逃亡準備の工作で動き回るのは多くが夜だ。城兵の夜中の巡察などをかい潜っての作業になる。
不慣れな摩耶に手伝わせるのは危険だ。
それよりも、華耶だ。
逃亡するにしても、あの入所検査でばらばらになった華耶も連れていかなければならないと思っている。
「それよりも、酢と綿をまた、渡しておくわ。それまで、絶対に妊娠しないようにね」
朱姫は箱の中に準備してあった小瓶と綿を摩耶の手に握らせた。
酢は男の精を殺す。
酢は収容所の厨房から、綿は縫製工房から盗んだものだ。
朱姫は、酢を湿らせた綿を自分の膣に忍ばせるとともに、摩耶の膣に入れさせている。
見つかったら懲罰では済まないだろうが、こんなところで、誰の子ともわからない子を孕むわけにはいかない。
宝玄仙と一緒なら、その霊気の影響で妊娠しないはすだが、離れているいまは、どうなのかわからない。
ましてや、摩耶には種付けを防ぐための避妊の処置が必要だ。
摩耶はしっかりとそれを受け取り、手を股間にやった。
朱姫と摩耶はほかの女囚と同じように、袖のない胸までの上衣と腰が隠れるだけの短い下袍を身につけている。
妊娠が確認されれば、腹を覆う服をもらえるが、それ以前は、腹に刻まれている文字を常に晒すのが掟なのだ。
摩耶が渡されたものを股間にやったのは、それを隠すためだ。
短い下袍の下には、下着の類いはない。
摩耶はちょっと顔をしかめただけで、あっという間にそれを股間に挿入して隠した。
この格好で物を隠すとしたら、それしか方法がない。
摩耶は入所時には、まだ性経験も浅かったのたが、十日近くでそんな場所に隠し物ができるようにもなったのだ。
摩姫は箱に土をかけ直してから、立ちあがった。
「あんたたち──」
木陰から出たところで、不意に声をかけられた。
びっくりした。
すぐそばだ。
いまのを見られたかもしれない……。
朱姫の全身から冷や汗が一瞬で吹き出した。
しかし、それはすぐに安堵の汗に変わった。
そこにいたのは、監督囚の服装をした華耶だった。
監督囚の服装は、ほかの女囚とはまったく違う。
袖のある上衣で腹も露出していない。
下袍も膝丈まである。
なによりも、腰の黒い帯が監督囚の象徴だ。
「華耶、会いたかったわ。元気そうでよかった」
摩耶が華耶に駆け寄って、華耶を抱き締めた。
朱姫も駆け寄る。
「あなたたちも……。わたしも会いたかった……。でも、これからは一緒のことが多いと思うわ。わたしは、繁殖囚付きの監督囚になったから……。遠くからだけど、あなたたちとすぐにわかったから、ずっと見てたわ」
華耶がにこにこしながら言った。
なんとなく、その笑顔にぎこちなさを感じた。
気のせいだろうか……?
「ほ、本当に? 素晴らしいわ、それ──」
しかし、摩耶が単純に喜声をあげた。
いずれにしても、朱姫も安心した。
女囚を常に監視し、行動を監督しているのは、実際のところ、あの楊姫でもなければ、城兵でもない。
それらは数が少ない。
女囚を見張っているのは監督囚だ。
華耶が監督囚なら、これからの朱姫の活動はさらにやり易くなる。
「ところで、あなたたちは、その木陰から出てきたようね。それは、規則違反でしょう?」
しかし、その華耶が急に真顔になった。
「堅いこといわないでよ、華耶……。それよりも話があるのよ……。脱走のことなんだけど……」
摩耶はここでもう、華耶を誘い込もうとしているようだ。
脱走計画の打ち明けなど非常に神経のいることだ。
もっと華耶を見極めてからがいいかとも一瞬思ったが、まあ、双子なのだ。
大丈夫だろう。朱姫は黙っていた。
「きゃあああ──」
次の瞬間、摩耶がその場にひっくり返った。
なにが起きたのかわからなかったが、
華耶が黒い革帯にある監督囚用の『禁錮具』を作動させたのだとわかった。
城兵はそれを全員持っているが、実は監督囚も女囚を支配しなければならないので、全員が持っている。
だからこそ、女囚は本来は同じ立場である監督囚に服従するのだ。
しかし、まさか、華耶がそれを使うとは夢にも思わなかった。
ましてや、実の姉妹の摩耶に対して……。
「な、なんてことするのよ、華耶──」
朱姫は叫んだ。
だが、華耶が腰の『禁錮具』に手を触れたまま、さっと朱姫に身体を向けた。
朱姫は、恐怖で凍りついてしまった。
「さっき、言ったでしょう。あなたたちを見ていたと……」
華耶が冷たく言った。
「か、華耶……?」
摩耶はなにが起きたか、まだ理解をしていない感じだ。
それは、朱姫も同じだ。
「やっぱり、そうだったのね……。まあ、いいわ。脱走の計画があったことは、報告しないであげる。報告すれば、あなたたちが死罪なのは間違いないし……。その代わり、摩耶、股に隠したものを出しなさい。それは没収するわ。ただし、それも黙っていてあげる……。これは、姉妹のよしみよ……」
華耶は困ったというような表情で、華耶を見下ろしている。
しかし、摩耶にしても、朱姫にしても、いまの華耶の行動は思いもよらないことだった。
摩耶などあまりのことに、呆然としている。
「さあ……。わたしに、もう一度、『禁錮具』を操作させないで……」
華耶は言った。
その口調の冷たさに、朱姫はびっくりした。
摩耶は、華耶の迫力に押されるように、股間に隠した小瓶を取り出すために手を股にやった。
すると、華耶が朱姫に視線を移した。
「それから、朱姫、この林には二度と近づかないこと……。さっきの樹の下になにかを埋めていたのは、ちらりと見えたわ。それは、わたしが処分しておきます。でも、二度と摩耶をおかしなことに巻き込まないで……。今回は不問にするけど、次は容赦はしないわ。あなたたちの役割は、一日も早く種付けをして、子を産むことでしょう? それだけを考えなさい」
朱姫は華耶の言葉を信じられない気持ちで聞いていた。
たった十日なのに……。
その間、華耶は徹底的な監督囚教育を受けたのだとは思うが……。
摩耶が股間に隠した小瓶と綿を華耶に差し出した。
それは、摩耶の体液でびっしょりと濡れていた。
「わかってね。ふたりとも……。これは、あなたたちを守るためであるのよ……。そもそも、あなたたちは、恵まれた立場なのよ……。それを考えないとならないわ。つまり……」
華耶が朱姫と華耶に諭すような口調で語り始めた。
(第91話『亜人牧場』終わり、第92話『女司政官と魔女』に続く)