「戻りました。孫空女も一緒です」
沙那は建物の中にいるはずの宝玄仙に向かって、店の外から声をかけた。
ここは、昨夜から使っている
沙那は早朝に起きて、今後のことを
そこには、長庚、
彼らにも、それぞれの立場というものもあるから、勝手なことをするわけにもいかない。
そのために、今後の身の振舞いについて、話し合いをする必要もあったのだ。
それから、孫空女と合流し、李媛のいる行政府の施設を探るついでに、幾つかの仕掛けをしてきた。
李媛は、五日ほど前に、娘の李姫が家出をしてから屋敷には戻らず、行政府に泊まったままだ。
それは、娘のいなくなった屋敷に戻りたくないというのもあるのだろうが、その頃、宝玄仙が金凰魔王を倒したという噂に接したらしく、朱姫のことでの仕返しを怖れて、屋敷に戻ることをやめたようだ。
身の安全を保つためには、もともと警護のことなど考慮されていない造りの李媛の屋敷よりも、厳重な行政府の方が適するからだ。
そして、確かに、行政府は王軍歩兵隊と思われる兵で厳しく警備がなされていた。
その辺りは、
だが、その警備要領について、知る限りのことを一丈青に喋らせていたので、潜入するのは不可能ではなかった。
事実、孫空女とともに、人夫と掃除婦にそれぞれに化けて入り込み、宝玄仙の『移動術』の出入口となる道術の仕掛けも作ってきた。
その帰路、市で食料を買い込んでふたりで戻ったのだ。
いまは、陽が中天に昇り切る少し前という時刻だ。
「いま、結界を緩めたよ。孫空女も一緒かい。お入り……」
宝玄仙の声が戸板が閉まっている店の中から聞こえた。
おそらく、たったいま宝玄仙がこの店の中を覆っている結界を沙那と孫空女が入ってこられるようにしたのだろう。
外から聞いている限り、この空き家の酒場からは物音ひとつせず、人のいる気配さえもまったくない。
しかし、実際には、昨夜からずっと、あの一丈青という不幸な女隊長を相手に、宝玄仙の淫靡な調教が続いているはずだ。
沙那は戸板をずらして、入り口を作って中に入った。
「ご主人様、帰ったよ……。言われたことをしてきた。でも、行政府は警護の兵や道術遣いらしき男たちがうようよしてたよ」
孫空女が食料を抱えたまま言った。
一方で、沙那はまずは、抱えてきた旅の荷物を部屋の隅に置く。
もともと、一丈青たちに襲撃されたときに、捨てざるを得なかったものだが、あの双六が回収してくれていたのだ。
「わかっているよ。お前たちが、その行政府内に持ち込んだ物を使って、すでにわたしは、行政府との道術の繋がりを何本も結んだよ。ごくろうさん」
宝玄仙はにこにこしている。
沙那はほっとした。
随分と上機嫌だ。
一丈青という「玩具」があるから、宝玄仙は愉しくて仕方がないというところだろう。
このところの退屈凌ぎの材料は、小白象の一件を理由に、沙那に集中していただけに、沙那は心からほっとしている。
「じゃあ、とりあえず、ご飯を作るよ。朝食もなかったから、お腹空いたでしょう、ご主人様?」
孫空女が厨房に消えた。
ここは、少し前まで双六という長庚が雇った男の一味が使っていたという空き家となった酒場であり、一丈青を監禁する場所として、借りうけた場所だ。
二階建てであり、少し前まで、その二階には、あの
鳴智……。
沙那も女人国で会っているが、やはり、宝玄仙とは随分と
今回も金凰宮に捕らわれた宝玄仙を救出するために、命を懸けて宝玄仙を助けてくれたのだということだ。
結局、お宝という宝玄仙の偽者に魔域に連れて行かれたらしいが、孫空女は、宝玄仙に助けを求めるあの鳴智の悲痛な叫びを忘れられないという。
宝玄仙も多くを語らないが、鳴智のことは随分と気にしているというのは、沙那にもわかる。
とにかく、沙那は宝玄仙の前にやってきた。
「ただいま帰りました、ご主人様……。とりあえず、馬車を“彼”が準備してくれることになりました。それに乗って、わたしたち三人が“荷物”を抱えて城郭を出ます。場合によっては、あの“ふたり”が同乗します。準備でき次第に、出立したいと思います」
沙那は宝玄仙の腰掛けている椅子の隣の椅子に腰掛けた。
“彼”と呼んだのは長庚のことであり、“荷物”とは一丈青のことだ。そして、“ふたり”というのは、貞女と李姫だ。
この一丈青は、いずれは追っ払うことになると思う。
そのときに、彼らに迷惑にならないように、名前を一丈青の前で出さないようにしているのだ。
「あひう……はああ……ああっ……はっ……」
その一丈青が苦しげに呻いている。目の焦点が怪しい……。
宝玄仙の眼の前には、二階からおろした寝台があり、そこには昨夜から天井の鉤に繋いだ糸で豆吊りに遭っている一丈青が四肢を革紐で縛られて仰向けに拘束されている。
昨夜からまったく変化のない光景だ。
違うのは、いまは腰の下に枕を差し入れられて、股間を天井に向かって大きく仰け反った状態を強要されていることだ。
その状態で糸を限界まで吊っている。
一丈青は、あれ以上は身体を弓なりにできないはずなので、ほんの少しも糸の余裕がなく、身悶えをするだけで凄まじい激痛が走るに違いない。
その結果、一丈青の全身にはおびただしい汗が流れ落ちていて、その表情は朦朧としている。
また、糸が天井に繋がっている股間の下には、糸から与えられる疼きで垂れ落ちた愛液が大きな染みを作っていた。
一丈青は、この状態でひと晩越えさせられ、いまだに続いている。
沙那も何度もやらされたが、その苛酷さは骨身に沁みているので、少し一丈青に同情したくなる。
それに、夕べの前半夜から始まって、もう
沙那も、これほどの長時間は経験がない。
まあ、宝玄仙に関わったことが不幸というほかないが、この一丈青もまんざら罪がないわけではないし、自業自得だろう。
沙那は、半狂乱の一丈青の哀れな姿を前にして、そう自分に言い聞かせた。
「あっ、沙那……。た、助けて──さ、沙那……。お願いよ──。ひぎいいいっ──」
視線の不自然だった一丈青が、少し正気を取り戻したようになって、沙那に顔を向けた。
万が一の可能性を求めて、助けを求めたようだ。
だが、それで、思わずぴんと糸で結ばれている腰を揺すってしまい、けたたましい悲鳴をあげてしまったらしい。
「お、お願いよ……。もう、許して……。なんでも喋ったじゃないの……。それとも、まだなにか訊きたいことがあるなら、お願いだから質問して──。も、もう、この糸を外して──」
一丈青は泣きじゃくった。
すっかりと、糸吊りの恐ろしさがこたえたらしく、気丈な女隊長の片鱗も残っていない。
これだけの長時間、豆吊りを続けられた苛酷さが、一丈青の牙を完全に抜いたようだ。
「なに言ってるんだい、一丈青──。まだ、なにも始まっていないじゃないかい。お前の調教は、これから始まるんだよ──。いままでの糸吊りは準備運動のようなものさ……。お前の肉芽を親指くらいの大きさまで膨れさせてやると言っただろう。それまでは、続けるよ。その代わり、処女だけは破らないようにしてやるからね……」
宝玄仙は苦痛に顔を歪めて涙を流す一丈青の姿に、げらげらと笑い声をあげた。
「お願い……。ご、後生です──。だ、だったら、股を犯してもらって構いません。だ、だけど、お願いですから、これはもう解放して──」
一丈青は泣きながら訴えた。
沙那は、ふと一丈青の股間を改めて覗いた。
糸に繋がれて、小高く盛りあがっている女陰からは、水でもこぼしたかのように、淫液が垂れ流れて大きな水溜まりを形成している。
臭気も凄いから、小便も混ざっていると思う。
また、その肉層から生々しい屹立を見せている陰核は、まるでなにかの果物であるかのように充血して真っ赤だ。
「冗談じゃないよ。最初は肉芽だけで責めるというのは、もしかしたら退屈かもしれないかと思ったけど、やってみると結構面白いよ……。しっかりと大きくしてやるから安心しな……。でもいっぺんには肉芽も大きくできないから、じっくりと時間をかけて引き伸ばしてやるよ」
宝玄仙は笑った。
そして、横にある油剤をとって、その真っ赤に充血している一丈青の肉芽に塗り始めた。
宝玄仙が塗っているのは、痒み剤と催淫剤の混じった特別の媚薬のはずだ。
ただでさえ、宝玄仙の道術で全身の感度をあげられている一丈青にはまたらない性の拷問だろう。
「ぬほおおおおっ」
一丈青は、宝玄仙の指の刺激を受けて、またけたたましい悲鳴をあげた。
だが、宝玄仙は鼻歌を口ずさみながら、容赦なく肉芽を摘んで刺激を与えていく。
そして、さんざんに一丈青に泣き叫ばせてから、ほんの少しだけ、また道術で一丈青の肉芽に繋がっている糸を少しだけあげた。
「ひごおおおおっ」
すると、一丈青は、あっと声をあげて、汗みどろの顔を苦しそうに左右に揺さぶる。
「薬を塗っては揉み揉みして、少しだけ糸をあげる。なかなかに根気のいる作業さ。だけど、一日近くでかなり成長しただろう、沙那。もう、指の爪くらいにはなったさ」
宝玄仙は一丈青の肉芽の肉芽をつんと指で弾いて、一丈青に悲鳴あげさせて笑った。
「……だったら、『女淫輪』を使ったらどうですか、ご主人様。あれを根元につけるんです。そうすれば、その淫具を外さない限り、肉芽の充血が収まらず、最大限に膨らんだ状態が維持されます。きっと、短い時間で大きくなると思いますよ」
沙那は言った。
『女淫輪』とは、沙那が旅の最初の頃に肉芽の根元に装着されていた淫具であり、淫具をつけている部位を四六時中欲情させるという怖ろしい淫具だ。
「……そりゃあ、いい考えだけど……。残念ながら、荷は全部失ってしまっただろう……。まあ、失くした霊具は、作り直せばすむことだけどね」
宝玄仙は肩を竦めた。
「いえ、荷は取りも戻せたんです。城門で襲われたときには、確かに荷は捨てていかざるを得なかったのですが、わたしたちを襲った連中も、わたしたちを追いかけるの頭がいっていて、わたしが捨てた荷は置き捨てられたみたいです。それをこっそりと、双六殿の手の者が回収してくれていました」
沙那は立ちあがって、霊具の入っている
その葛籠は、宝玄仙の作った霊具が入っている葛籠であり、宝玄仙の霊具ということは、つまりは夥しい数の淫具だ。
宝玄仙はその中身を見て、悦びの声をあげた。
いま、双六の名を出したのも、さっき、長庚たちの名を伏せたのと同じように、意図的なものだ。
長庚とは逆に、裏社会で名を売りたい双六は、今回のことを大きな機会と考えているらしい。
それに、まだ双六という名は名乗り始めたばかりで、裏社会では無名だ。
だから、できるだけ双六という裏の渡世人の名を世に出したいようだ。
「ほう……。だったら、例の白象宮で手に入れた、例の李媛へのお土産もあるのかい? まさか有用になるとは思わなかったけど、ちょうどいいから、ちょっとばかり、その女狐の性根を冷やしてやろうじゃないかい」
土産というのは、白象宮で手に入れたもので、もともとは、青獅子軍の生き残りが獅駝の城郭から離脱するときに、魔王宮から持ち出したものだ。
本当は、使うために持ってきたのではなく、白象宮に置いていては、万が一誰かの手に渡れば、李媛に気の毒だと思って回収してきたのだ。
「ちゃんと、持ってきました……。でも、霊具ですから、わたしひとりでは……。これは孫女でも使える程度の霊具なんでしょうか、ご主人様?」
「問題ないよ。大した霊気を使うものじゃないしね」
「だったら、後でふたりで、また、仕掛けに行ってきます、ご主人様」
「いや、それよりも、今度はなんとか、李媛のいる司政官室に、道術の出入口を作ってきておくれ、沙那。そうすれば、こんなものは、いくらでも送り込める」
宝玄仙が言った。
「わかりました。わたしと孫女でなんとか隙をみて、李媛の部屋に入り込みます」
沙那は頷いた。
そして、宝玄仙の霊気を刻んである『道術紙』を部屋の中に置いてくる……。
それがあれば、宝玄仙は現在地とその『道術紙』を『移動術』で結び、部屋を監視する霊具を次々に送り込める。
もちろん、ほかの物でも大丈夫だ。
『逆結界』という『移動術』で跳躍する者を途中で捕らえる対抗道術もあるが、物をやりとりするだけなら、それにも引っ掛からない。
「じゃあ、一丈青だ……。さて、荷物も戻ったことだし、お前に、わたしのとっておきの道具を装着してやるよ、一丈青……。さあ、この『女淫輪』はなかなかの淫具だよ。これで、お前ももっと愉しめると思うさ」
宝玄仙が笑いながら、葛籠の中から『女淫輪』を取り出した。
それを無造作に一丈青の露呈している肉豆の根元に嵌めた。
「ひいいいっ──うううああああ──も、もう殺して──お願い──」
一丈青が狂ったような悲鳴をあげた。
『女淫輪』の凄まじさは、沙那にはわかっている。
その淫具を嵌められるだけで、肉芽には怖ろしい疼きが延々と襲い続けてくるのだ。
もしも、沙那が気を制御する術を会得していなかったら、とてもじゃないが、まともな生活は不可能だったに違いない。
「ところで、出立はいつ頃になりそうだい、沙那?」
「遅くとも、明後日と考えています、ご主人様」
「明後日かい、沙那? 随分と急だねえ……。それじゃあ、李媛にお仕置きをする時間がないじゃないかい……」
宝玄仙が、少しだけ不満そうな表情になった。
「でも、一刻も早く朱姫を助け出さないとなりませんから……。こうしているあいだにも、朱姫は道術を遣えなくされて、亜人収容所とやらで苦労しているに違いありません……。とにかく、この一丈青から得た情報の限りでは、道術のみで防護している牢城ではないので、ご主人様の道術だけでは攻略できません──。朱姫を助けるには、力で牢城を襲撃しなければならないでしょう。そのための手筈や人数を揃える時間も必要です」
沙那は言った。
「その収容所は、牢城というのかい?」
「城のように高い塀で囲まれた城のような場所なので、そう呼ばれてるのです」
沙那は言った。
朱姫が囚われているその亜人収容所から朱姫を救い出す手段は、いくつか考えた。
もともと、李媛が手を回して収容させたものだから、宝玄仙が主張する「お仕置き」のついでに、李媛を脅して朱姫を釈放させるという方法もあるかと思ったが、一丈青の話を聞くとともに、蝶蝶や双六から収容所の評判を聞いて、それは断念した。
一丈青によれば、李媛が宝玄仙を道術師隊に襲わせたのは、朱姫のことで宝玄仙が李媛に仕返しをすることを怖れたからであるらしいが、その際、一度は、逆に懐柔をしようとして、手を回して朱姫を釈放させることも考えていたようだ。
だが、一丈青は、亜人収容所をよく知っているので、李媛の権力程度では、それは無理だと思っていたらしい。
一度入れば、余程のことがなければ、亜人を釈放することなどない……。
それが亜人収容所という場所なのだ。
その一方で、高い城壁で囲まれているとはいえ、警備は厳重とはいえなかった。
それならば、いっそのこと、収容所を襲撃して、中に監禁されている大勢の亜人ごと朱姫を脱走させてしまえばいいのではないか……。
そう思っている。
そのためにうってつけの男がいるらしい。
双六の義兄弟で、亜人収容所に近い
その大黒山に、亜人狩りで居場所を失った亜人や半妖を集めて、砦を作っているという噂だ。
連中をたきつけて亜人収容所を襲わせる。
そして、朱姫をその混乱の中で解放する。
それが沙那がいま考えていることだ。
だから、この城郭を脱して、まず向かうのは、その大黒山ということになるだろう。
「そうかい……。でも、馬車で逃げるといっても、わたしらが城郭内に逃げていることわかっているんだし、この一丈青も運ばなければならないんだから、そう簡単に、馬車で城門は出れないんじゃないのかい? それに、もしかしたら、例のふたりも乗せていかなければならないのだろう、沙那?」
宝玄仙が言った。
「まあ、そうですね……。さっき覗きましたが、城門のところで馬車の検問をやってました。城門を出る馬車はすべて、中をあらためられていましたから、城郭からの脱走には、なにか細工は必要でしょう」
この獅駝の城郭は、南北に開城されている門があるが、ここは北側の城門に近い。
それで、遠目からその様子を探りに行ってみたのだが、城門には警備の歩兵が増員されて、通過する者の顔や馬車で出ていく者を調べている気配だ。
誰を探しているのかはわからない。
沙那たちかもしれないし、行方不明になっている李姫かもしれない。
あるいは、ここに監禁している一丈青を見つけようとしているのかもしれない。
「だったら、こいつに訊いてみるかい──。ほら、お前、検問をしている城門を無事に通過するには、どうしたらいいか言いな」
宝玄仙が笑いながら、一丈青の股間に繋いでいる糸を掴んで、ぐいぐいと上に持ちあげた。
「あうううっ──ああっ──そ、そんなことを言われても──」
一丈青が汗と涙に濡れた顔を歪めて、苦しげに呻いて歯を噛み鳴らした。
「もっと、強く引っ張ってもらいたいかい、一丈青? ほらっ、なにか妙案を出しな」
宝玄仙が無造作に糸を引っ張るたびに、一丈青の狂おしい悶えは激しいものになる。
革紐で縛られている四肢は波打ち、太腿は痙攣しているように震え、生々しく抉られた秘肉は、『女淫輪』から淫靡な快感を与えられて切なそうな収縮を繰り返している。
その凄まじさには、さすがに沙那もたじろぎを感じる。
「と、とにかく、それはなにか手を考えてみます……。大丈夫です、ご主人様……。いずれにしても、詳しい報告と打ち合わせは、食事の後にでも……」
沙那は、とりあえずその場を去って厨房に向かった。
厨房では、孫空女が簡単な野菜と米の入った汁物を作っていた。
「聞いていたよ、沙那……。随分と可哀そうなことするじゃないかい。『女淫輪』を使うように、ご主人様にけしかけるなんてさあ」
沙那がやってくると、孫空女が呆れた声を出した。
「いいじゃないのよ……。お陰で、ご主人様は、わたしのお仕置きのことなんて忘れているんだから……。あの一丈青には悪いけど、しばらく、彼女をご主人様にあてがっておけば、夢中になって彼女をいたぶるわ……。とにかく、一丈青には、朱姫を救出するまで、絶対に同行をしてもらうわよ」
「だけどねえ……」
「どうせ、朱姫も一丈青には恨みがあるんだから、朱姫の調教も受ければいいわ──。そうしておけば、ご主人様は、絶対にわたしを罰として朱姫に調教させるなんて言ったのは忘れてしまうわよ」
沙那はとりあえず、麦餅を切って大皿に盛った。
宝玄仙が一丈青の調教に夢中になるあまり、沙那をいたぶるのをすっかりと忘却しているのは確かだ。
長く宝玄仙の供をやっているのだ。
宝玄仙が気儘で忘れっぽいことは十分に知り尽くしている。
「だけどさあ、そりゃあ、あたしらを捕らえようとしたのは、確かなんだろうけど、まだ、あたしらは実害を受けていないし、元はと言えば、あの一丈青も李媛の命令に従っただけなんだから、あんなに泣き叫ぶほどに、ご主人様の調教を受けさせるのは可哀そうじゃないかい……? だって、一丈青の肉芽を本当に親指ほどに膨らませるんだと言っていたよ」
孫空女が言った。
「ちょうどいいじゃないのよ。随分と骨の折れる面倒な作業らしいから、それをしているあいだは、ご主人様の意識はほかには向かわないわ──。本当に、いいところに籠の鳥になってくれる女がやってきたものよ──。すっかりと、ご主人様の頭から白象宮でのわたしのことが消え去るまで、一丈青にはご主人様のお守りをしてもらわないと……。食事が終わったら、肉芽調教用の貞操帯も、荷の中にあったから、それも渡すわ。本当にいい玩具が手に入ったものよね」
沙那は準備した麦餅を横に置いて、今度は食器に手を伸ばした。
ここはもともと酒場だったので、置き捨てられた客に出すための皿や盃がたくさんあるので、食器には事欠かない。
「ねえ、沙那……。でも、あの感じだと、一丈青、毀れちゃうかもしれないよ。あたしから見たら、ちょっとやりすぎのような……」
孫空女が沙那をたしなめるような口調で言った。
「だ、だったら、あんたがご主人様の調教の集中砲火を受けてみればいいのよ──。連続絶頂百回とか……、絶頂感覚停止の快楽漬けだとか……、感度二十倍のくすぐり地獄とか……。毎晩毎晩、冗談じゃないわよ──。あんたも、一緒になってわたしを責めたくせに──」
「そ、それは、あたしはご主人様の命令だし……。沙那だって、同じ立場になったら、あたしを責めるじゃないか」
「そうよ。だったら、わたしの気持ちもわかるでしょう──。わたしは、昨日は、久しぶりにご主人様の責めを受けない夜をすごせて、本当に幸せだったわ。いまは、心の底から、一丈青に感謝したい気持ちよ。よくぞ、わたしたちを襲ってくれて、しかも、呆気なく捕らわれてくれたわ。ありがたくて、ありがたくて、わたしは、一丈青の足に口づけしてもいいわ」
「沙那……」
孫空女は呆れたような顔をしている。
しかし、沙那だって、自分が可愛い。宝玄仙の嗜虐欲をあの一丈青が満たしていくれるなら万々歳だ。
「とにかく、孫女、ご主人様がわたしへのお仕置きのことを思い出すようなことを言ったら、承知しないわよ──。ご主人様は、それを忘れているんだから」
「い、言わないよ……」
「だったら、いいわ──。じゃあ、そろそろ、その野菜汁もいいんじゃない。一丈青のものも含めて取り分けてよ。それより、忙しいわよ。食事が終わったら、もう一度、行政府に行くわ。今度は李媛狩りよ」
沙那はにっこりと孫空女に微笑みかけた。