夜までに、おおよそのことはわかってきた。
城郭の司政官代理である
本来の隊長である一丈青は相変わらず行方不明であるし、第二の地位にある副隊長は、午後になって、行政府の前に拘束されたまま『移動術』という道術で転送されてきたのを発見されたようだ。
副隊長の
それで、しつこく釈明を求めることで、やっと道術師隊は、昨夜から一丈青が行方不明であることを李媛に報告にやってきたのだ。
もしも、索長の身柄を李媛が押さえなかったら、あの孤高を気取った秘密主義の王軍道術師隊は、いまだに一丈青がさらわれたことを隠していたに違いない。
「つまりは、副隊長の索長が戻って来たものの、なんらその者たちを特定する手がかりは持っておらなかったし、いまだに女隊長の一丈青殿は行方不明──。そういうことなのだな?」
皮肉たっぷりの口調で発言したのは、道術師隊の報告に同席を命じた歩兵隊長だ。
そして、いま、この司政官の執務室にいるのは、李媛と王軍歩兵隊長と報告にやってきた道術師隊の将校の三人である。
同じ王軍ではあるが、道術師隊は、歩兵軍を含めて、ほかのどの隊とも仲が悪い。
今回のことは、道術師隊の汚点となるのは間違いない。
だから、道術師隊は、隊長がさわられて、それがいまだに行方不明であるというような失態は可能な限り隠そうとするし、それを知った歩兵隊は、まるで自分たちが手柄を立てたかのように、道術師隊の失敗を悦んでいるというわけだ。
そのことに、李媛は今回、改めて気がついた。
だが、李媛には、そのような軍内の派閥争いなどどうでもいいし、巻き込まれたくはない。
李媛にとっては、一丈青のことよりも、いまだに宝玄仙という道術遣いが野放しであり、昨日から探し回っている道術師隊はもちろん、朝になって探索を命じた歩兵隊にしても、夜までなんらの手掛かりも発見できないないことが重要だ。
その状況は、午後になって、一丈青と同じく行方不明だったらしい副隊長の索長の身柄が発見されても変わらなかった。
この索長は、一丈青の指示により、城門における襲撃から逃亡した宝玄仙たちを探すために、霊気の淀みの探索の指揮をしていたが、その最中に突然に意識を失って、気がついたらどこかわからない場所で目隠しをされて監禁されていたのだという。
霊気も完全に消失させられてしまい、索長が主張するには、おそらく、箱のような場所に入れられていたということだ。
索長が覚えているのは、一度だけ突然に女の唇のようなものが口に当たり、唾液を吸われたということだ。
そして、ひと晩以上が経った今日の午後に、身体が捩じれるような感覚が襲って、行政府の前に捨てられたという。
最初に保護をした歩兵隊が、道術師隊が急遽やってきて索長を強引に引き取るまで、一応の訊問をしたが、なんの手掛かりも得ていないようだ。
その索長は、いまは、道術師隊に戻されて、養生をしているはずだ。
精神的な打撃はあるが、特に負傷しているわけでもなく、発見されたときには消失していた霊気も回復して、道術が遣える状態にはなっていると、いま報告を受けた。
「もうよい、皆、退がれ──。それよりも、今日もわらわは、行政府で寝泊まる。しっかりと、歩兵隊で警護を頼むぞ。道術師隊も同じじゃ。絶対に行政府内に外からの道術の干渉を許すでないぞ」
李媛は言った。
「お任せください。いまだに、女隊長の行方も見つけることのできぬ役立たずの道術師隊には、李媛司政官の警護は任せられませんからな」
歩兵隊長が報告者の道術師隊の将校を馬鹿にしたように言った。
道術師隊の将校は嫌な顔をした。
そして、ふたりが去った。
李媛はどっと疲れて司政官席に身体を沈めるように腰をおろした。
頭が痛い……。
怖ろしい力を持った魔女が、自分を狙っているのだと思うと、それだけで身体が震えてくる。
怖い……。
なんで、こんなことになったのか……。
こんなことなら、やっぱり、朱姫に対する謝罪など許容すればよかった。
いや、そもそも、朱姫のことなど放っておけばよかったのだ。
あのとき、朱姫は、城郭を出ていく寸前だった。
放っておけば、朱姫は出ていき、二度と李媛には関わらない存在になるはずだったのだ。
それが、あのとき、怒りに任せて一丈青に命じて、亜人収容所に送ったりしたせいで、宝玄仙という魔王さえも倒したような怖ろしい力を持った魔女に狙われる羽目になったのだ。
しかし、もう駄目だ……。
きっと、宝玄仙はやってくる。
この行政府を道術師隊と歩兵隊の両方に命じて警備させてはいるが、李媛は少しも安心できない。
こうなったら、いまからでも遅くないからと思い、さっき、道術師隊に命じて、王都との道術通信を結ばせて、亜人収容所にいる朱姫の釈放を当局を掛け合った。
その答えは完全な拒否だ。
収容については簡単に受け入れた当局も、釈放については完全に拒否した。
いかなる理由があっても、収容された亜人を解放するわけにはいかないというのが、向こうの回答だった。
つまりは、そこまでの権力は李媛にはないということだ。
もう、どうしていいかわからない……。
しかも、偏頭痛が襲ってきてもいる。
李姫と貞女は、いまだに行方がわからない……。
もう、いやだ……。
なにもかも捨てて、逃げてしまいたい……。
だいたい、なぜ、自分が司政官などということをやっているのだ。いや、正確には代理か……。
獅駝の城郭が青獅子たちに占領されたとき、司政官だった夫が死に、城郭の主立つ者は全員が皆殺しになった。
青獅子たちの排除に成功したとき、荒れてしまった城郭の復興を中心となって引っ張る者が必要だった。
ほかに誰もいなかった。
だから、李媛は自分が司政官として動いたのだ。
だけど、どうして、そんな立場になろうと考えてしまったのか……。
李媛は、出口のない迷宮に迷い混んでしまったような気持ちになり、頭痛のやまない頭を抱えた。
「おやっ?」
そのとき、李媛は、ふと、さっきまで歩兵隊長と道術師隊の将校のいた辺りの床に、半透明の球体が一個あることに気がついた。
びっくりした。
間違いなく、さっきまでなかったものだ。
いつの間に、どちらが置いていったのか……?
嫌な予感がする。
慌てて、警護の人間を呼ぼうとした。
この行政府全体を多くの歩兵隊の兵で警護するとともに、道術師隊が外から仕掛けられる道術を封じる結界をかけているが、李媛の部屋そのものにも、直接の警備兵が廊下に侍っている。
李媛は、卓にある呼び鈴に手をかけた。
だが、そのまま、動きを止めて首を傾げた。
その球体に見覚えがあるような……。
そして、はっとした。
あれは、『映録球』ではないか……?
そう思った瞬間に、李媛の心に、青獅子魔王に捕らわれていたときの恐怖と恥辱が蘇ってきた。
おそらく間違いない……。
『映録球』とは、あの球体の目の前のものを記録し、その記録映像を好きなときに、好きな場所で立体映像として再生することのできる霊具だ。
李媛は、あれで何度も痴態を記録され、あるいは、自分の痴態をほかの亜人たちの前で再生させられて辱められた。
そのとき、突然に、その球体が勝手にごろりと動いた。
しかも、あろうことか、いきなり目の前でなにかの立体映像を刻みだしたのだ。
李媛は叫び出しそうになった。
だが、辛うじてその悲鳴を口に手を当てることで飲み込んだ。
その『映録球』が再生をはじめたのは、紛れもなく李媛そのものの姿だったのだ。
しかも、股間に模造の男性器を装着させられて、全裸で亜人に酒を注いでまわっている。
立体映像の李媛は、欲情しきった様子で全身を真っ赤に染めて、色っぽく身体をくねらせている。
亜人そのものの姿は映ってはいないように像を刻まれているようだが、その代わり、時折、立体映像の李媛が感極まったように腰を屈めたり、喘ぎ声をあげるような仕草をすることがある。
おそらく、あれは、股間にとりつけた男性器を刺激されて、それでそれに連動した膣の中の張形が李媛に沸騰するような情感を与えているのだ。
李媛は、そのときのことを思い出して、全身がかっと熱くなった。
この『映録球』はまだ音は再現していない。
しかし、『映録球』は、本来は記録した音や声もまったく同じように再現するものだ。
もしも、音が出ていたら、あのとき、李媛は、かなりはしたなく大きな嬌声をあげていたと思う。
その声は、廊下にいる警備員や部下たちの耳にも響き渡っただろう。
李媛は、とにかく、誰も来ないうちに、『映録球』の映像をとめようと思って、その球体に駆け寄った。
しかし、道術を遣えない李媛には、その映像をとめようもない。
球体を動かしても、なにかで覆ったりしても、それには関係なく、立体映像は李媛の姿を流し続ける。
「李媛、胆が冷えたかい……。いや、その様子じゃあ、亜人軍の慰み者になっていた頃の自分を思い出して欲情しているようじゃないかい……」
突然、部屋に女の声がした。
李媛は竦みあがった。
しかし、ここには誰もいない。
少なくとも、李媛の眼には、誰も見えない。
だが、いま、確実に女の声がした。
「……ここだよ。お前の机の後の棚に、小さな女の子の人形があるだろう。声はそこから出ているんだ……」
声が言った。
「えっ?」
李媛は慌てて、そこを見た。
そこには、飾り物の美術品などを飾っているのだが、いつの間にか、そこに親指ほどの大きさの小さな指人形が置いてある。
「ここだよ、ここ。ひひひひ……」
しかも、ただの絵にすぎないはずの指人形の口が、発する言葉に合わせて、口をぱくぱくしている。
「うわあっ」
間違いなく、これは道術だ。
李媛は助けを呼ぼうとした。
しかし、それはできない……。
部屋の中では、破廉恥な立体映像の李媛が羞恥の姿を晒している。
ここに、余人を入れるわけにはいかない……。
どうしたら……?
李媛は背に冷たい汗が流れるのがわかった。
「じゃあ、最初の命令だ。そこにある指人形を右の親指に嵌めな。お前の親指にぴったりと合うように調整してあるから大丈夫だ。お前に対する命令は、その指人形が全部する……。それから、慌てふためいて、人を呼ぶんじゃないよ。眼の前で、お前の醜態が再生されているのを忘れるんじゃない……。それに、これと同じようなものを城郭の広場や市場など、あちこちに仕掛けてある。お前が下手なことをすると、それが再生を始めるよ……」
「なっ」
「言っておくけど、お前が抱えているちんけな道術隊の道術なんかじゃあ、このわたしの道術は防げないからね──。わたしに逆らえば、お前の恥ずかしい映像が、これから毎日、朝であろうと、昼間であろうと、夜であろうと、延々と流れ続ける。そして、誰にもとめられない……。お前の恥が立体映像となって公開され続けるんだ。それでもいいなら、助けを呼びな……。どうせ、役にも立たない連中だと思うけどね」
人形からくすくすと笑い声がした。
李媛にはやっとわかってきた。
人形が喋っているというよりは、人形からなにかの道術で音声を送ってきているのだ。
つまりは、声の相手はここにはいない。
「そ、そなたは、宝玄仙か……?」
「確かに、わたしは宝玄仙だよ。わたしの供の朱姫が世話になったそうじゃないかい……。その礼をしようと思ってね……。もうわかったと思うけど、わたしはそこにはいない。道術でお前を監視しながら、声だけを送っているだけだ。わかったら、指人形を嵌めな……。それから、この声がそっちの防護道術かなんかで途切れたら、終わりだと思いな。そのときは、もう、お前に連絡してやらないからね──。わかっているだろうけど、はっきりと言ってやる。わたしはお前を脅迫しているんだ」
李媛は自分の声が恐怖で震えるのを感じながら、声の指示に従って、小さな女の子の指人形を親指に嵌めた。
嵌めると、きゅっと人形を嵌めた部分が締めつけるような感触があった。
もしかしたら、取れなくなったんだろうか……?
すると、その指人形がすぐに語り始めた。
「本当は、お前のような女は、無条件でさっきの『映録球』をそこら中で再生してやって、二度と外を歩けないように辱めてやろうとしたんだ。だけど、お前の娘と侍女が頼むから、あることができたら、それは勘弁してやるよ……。つまりは、お前がわたしが遊ぶ人形になるんだ。そうしたら、朝までに解放してやる」
「り、李姫と貞女がそなたのところにおるのか──?」
李媛はびっくりして声をあげた。
すると、人形が笑った。
「いるよ。そいつらも、わたしが捕らえている捕虜さ。城郭の郊外の街道で途方に暮れていたから、騙して捕まえてやったんだよ。いま、檻に入れて飼っているところだよ。まあ、どうせ、お前が追い出したふたりだろう……。こっちのことは気にするんじゃないよ」
「お、追い出したのではないわ──。出て行ったのじゃ──。い、いや、それはどうでもいい……。た、頼む。そのふたりには手を出さないでくれ──」
李媛は人形に向かって、声をあげた。
やっぱり、城郭を出ていっていたのだ。
それにしても、よりによって宝玄仙に捕まるなど……。
「心配いらないよ。いま、こいつらのために、犬を集めているところさ。退屈させないように世話をしてやるから娘たちのことは忘れな」
人形が言った。
「い、犬をどうするつもりじゃ?」
「お前の娘たちを牡犬どもたちに輪姦させてやろうと思ってね。こっちには、犬遣いの道術遣いもいるんでね。ふたりとも、檻の中で怯えて泣き叫んでいるよ」
李媛は驚愕した。
同時に、宝玄仙が城門から逃げおおせたときに、謎の犬の集団が歩兵隊に襲いかかったとも報告を受けたことを思い出した。
そうであれば、向こうに犬遣いがいるというのは本当かも……。
李媛は愕然とした。
そんなことをさせるわけにはいかない。
あのふたりが毀れてしまう──。
「ば、馬鹿な──。い、いや……。李姫と貞女には手を出すな──。その代わり、わらわがなんでもする──。命令に従う──。だから、そんな怖ろしいことはしないでくれ。お、お願いじゃ──」
すると、人形から笑い声が聞こえてきた。
「わかったよ。だったら、お前も人形になりな。お前が人形でいる限り、犬をけしかけるのは待ってやるよ」
「に、人形とはなんじゃ?」
李媛は思わず訊ねた。
「人形はわたしの命令に従って、手足を動かす玩具に決まってるじゃないかい。それじゃあ、手始めに、
指に嵌っている人形から声がした。
「そ、そんな──」
李媛はびっくりして大声をあげた。
「こらこら、せっかく、廊下の連中に見つからないように、気を使っているのに、お前から大声出してどうするんだよ。とにかく、質問はなしだよ。その足首まである下袍を脱いで下半身は下着だけの姿になりな──。誤魔化しは無駄だよ。お前の身に着けているものもこっちには見えているんだからね。その紫色に赤い花の模様がついている下袍は、腰の腰紐を外せば脱げるだろう?」
李媛はぞっとした。
確かに、その声が告げたとおりの下袍をはいていたのだ。
やっぱり、この部屋の光景がどこか外にいる宝玄仙に見えているのだ。
「おやおや……? 言うことを聞かないようだねえ。じゃあ、残念だけど、さよならだ──。城郭中に恥を晒しな──。それから、犬に犯された挙句に、すっかり発狂してしまったら、娘たちは適当に道端に捨てておくから、そのうち回収しな」
指人形が言った。
すると、眼の前の立体映像に、徐々に音声が混じりだした。
李媛の嬌声だ。
少しずつ大きくなる。
「ま、待って、待つのじゃ──」
李媛は慌てて下袍の腰紐に手をかけると下袍を脱いだ。
大きくなりかけていた映像の音声がなくなった。
ただし、まだ立体映像そのものは続いている。
そのとき、扉が外から軽く叩かれた。
「司政官殿、なにか話し声がしたような気がしましたが、どうかなされましたか?」
心臓が止まるかと思った。
声は扉の外で警護を続けている警護兵の長の声だ。
「な、なんでもない──。気にするな──。入ってはならんぞ」
慌てて声をあげた。
扉の外から、了解という返事があった。
李媛はほっとした。
「くくく……。かなり焦っていたじゃないかい、李媛──。ところで、李媛、その下着、随分と染みができているじゃないかい……。ほほう、どうやら、前からの体質か、それとも、青獅子たちに植えつけられた性癖かわからないけど、お前の身体はすっかりと被虐の性癖に染まっているようだね……。その下着の丸い染みはなんだい? まだ、なにもしてないのに、股倉が濡れるというのはどういうことなんだろうねえ……?」
指の声が笑い声とともに言った。
はっとした。
丸い染み……?
そんな馬鹿なことはないと思ったが、言われてみると股間が熱い……。
視線を露わになっている自分の下着におとす。
そして、それは本当だった。
李媛は愕然とした……。
「ああ……、それで、わかったよ……。そう言えば、李姫と貞女によれば、お前は司政官になってから、随分と苛々するようになっていたし、おかしな頭痛にも悩まされていたというが、それは、あれだよ……。女の病気だ……。溜まった性欲が発散できずに、頭と身体に毒のようなものが溜まるのさ」
「びょ、病気──? わ、わらわはそんなものでは……」
「いいから、いいから……。とにかく、わかった。この宝玄仙が治療してやるよ……。お前、その場で自慰をしな。下着を脱いでね──。拒否することは許さないよ。わたしは、お前の恥を晒したくてうずうずしているということを忘れるんじゃないよ」
やっぱり、宝玄仙は李姫と貞女を捕らえている……。
李媛は確信した。
宝玄仙が言った通り、このところ頭痛で悩んでいたことは確かだが、それを知っているのは、李姫だけのはずだ。
「そ、そんな……。そんなことはできん。もう、堪忍してくれ、宝玄仙殿──。朱姫殿はなんとかする。わらわが責任を持って、収容所から解放するようにするから──」
「そんなのはもういいよ。朱姫は力づくで助け出す──。それに、それを昼間、道術通信で王都の役人と掛け合って、けんもほろろに断わられたんだろう? 侯爵夫人とはいえ、王宮になんの影響力のない貴族の言うことを役人がきくわけないさ。わたしも、かつては、宮廷とか、役人とか、貴族とかのしがらみの中で生きていたんだ。そういう機敏はわかるのさ」
人形から声がした。
李媛は本当に愕然とした。
なにからなにまで、相手はこっちのことを観察して知っている。
道術通信を使ったのはこの部屋じゃなくて、別の専用の執務室だ。
それすらも知っているということは、もしかしたら、宝玄仙はこの行政府全体を見張っているのではないか……?
なぜ……。
どうして……。
「なんで、そんなことまで知っているのか不思議かい、李媛?」
人形からの声が見透かしたような言葉を告げた。
「そ、そうじゃ……。ふ、不思議じゃ……。なぜなのじゃ──。どうやって……」
「どうやってじゃないよ。お前らの警備は穴だらけなんだよ。誰かに化けて、今日一日で、わたしの供は三回は、外から行政府の中に忍び込んだよ。挙句の果ては、行政府とここを『移動術』で繋げる道具さえも持ちこんだ。それを設置してしまえば、どんなに警備が厳重でも忍び込み放題だ。お前の部屋にもたっぷりと仕掛けさせてもらったよ……」
「し、忍び込んだ? まさか──」
李媛は声をあげたが、実際に忍び込んだから、こうやって宝玄仙は李媛と接触しているのだろう。
ぐっと歯噛みする。
「もしかしたら、外にいる警備員はわたしの仲間かもしれないよ……。それとも、たったいま、お前に一丈青の行方不明を報告した道術師隊の将校かもね……。あるいは、隣で笑っていた肥った歩兵隊長だったかも……。なにしろ、わたしの供には、誰にでも変身できる霊具を渡してあるからね……。そして、何度も言っているけど、あの道術師隊の連中の玩具のような結界など、わたしには通用しないよ──。あんな薄い結界で、竜飛国の誇る道術師隊とは笑えるがね……」
「そ、そんな……」
「それよりも、早く、自慰をしな。今度は、容赦なく、大音響でお前の声を流すよ……。それとも、行政府の玄関に仕掛けたやつにするかい? 確か、それはお前が犬の格好で立小便をしている姿だったと思うけどね……」
「ああ……」
李媛は逃れることができないということを知るしかなかった。
震える手で下着を取り去る。
そして、下着を下袍の上に置くと、指で女陰を刺激し始めた。
人形の声が指摘したように、確かに李媛の股間はたっぷりと濡れていた。
「ちゃんと、真面目にやらないかい──。お前の小便姿を行政府の前で再生するよ──」
声が言った。
「ああ、恥ずかしい……」
李媛は呻くように呟くと、諦めてどこで見ているのかわからない宝玄仙の命令に従い、人形をしていない側の手で股間をまさぐりだした。
羞恥が李媛を襲う。
それとともに、信じられないくらいの快感もやってくる。
なぜ、こんなにも感じるのだ……。
わからない……。
わからないが、股間を淫らに動かし続けていくに従って、全身を浮遊させるような恍惚感が李媛が包む。
「服の下から乳房を掴みな。この人形をつけている指で遠慮なく揉んでいい。そして、揉みながら最後までいくんだ」
「……ああ……そ、そんな……」
屈辱的で侮蔑的な命令が人形から飛ぶ。
すると、なんともいえない解放感のようなものが李媛を酔わせる。
股間が卑猥な音をたてはじめる。
気持ちいい……。
なんだろう、これ……。
快感が込みあがる。
それとともに、李媛を悩ませていたものが消えていく錯覚に陥る。
獅駝の城郭のこと……。
亜人のこと……。
司政のこと……。
すべて、どうでもいい……。
この快感があれば……。
「はあ……」
いくっ──。
李媛は声を張りあげそうになり、慌てて首を曲げて口で襟を噛んだ。
やってくる……。
なにか待ち望んでいたものにやって巡り会えた。
そんな気持ちになった。
李媛の身体に快感の矢が貫く──。
「んんんっ」
李媛は服の襟部分を咬んで、絶頂の声が漏れるのを我慢した。
達した……。
しかし、熱を帯びたような身体の疼きはとまらない……。
李媛は大きく息を吐いた。
「そんなに気持ちよかったかい、淫乱女?」
人形から宝玄仙の嘲笑が聞こえて、それが李媛を我に返らせた。