「け、ん、れ、ん、か、は、く」
朱姫の声がした。
その直後、沙那は、思わずがくりと腰を地面に落としてしまった。
「や……やったわね……、朱姫……」
「なにが、“やった”なのです、沙那姉さん? くふふ……」
宝玄仙の寝床を準備していた朱姫が笑った。
岩に囲まれて風が避けられる谷地だ。
宝玄仙とともに、西方に向かう旅も、帝国の国境を越えてから、
相変わらず、野宿の多い旅だ。
まだまだ、天教の影響は強い。
万寿国で
宝玄仙は死んだことにしろと言って、宝玄仙が天教に絶交宣言を鎮元を通じて送り込んだものの、天教が宝玄仙を破門して、手配状を全天教施設に通知したことは間違いないだろう。
天教の影響力は、もちろん諸王国にも強く浸透している。
だから、こうやって、人里をなるべく避けた旅で、とにかく天教の支配を逃れるために、西に西にと進んでいるのだ。
そして、今夜も、この山の中で野宿をすることになり、寝床をつくるために孫空女や朱姫ともに働いているところだった。
孫空女は、洗い物をするために少し離れている。
いまは、宝玄仙の寝床の準備は朱姫に任せて、沙那は三人の寝支度の準備をしていた。
宝玄仙の寝床の準備に比べれば、女三人の寝床の準備は簡単に終わる。
大きめの敷布を拡げて、それに毛布を一枚拡げるだけだ。その一枚の毛布に三人の女がくっついて寝る。
一方、宝玄仙の寝床は、厚めの敷布の上に、もう一枚の敷布を重ねる。
そこに薄い布を拡げて寝床をつくり、その上に、掛布を拡げるのだ。
そして、自分たちの寝床の支度は終わったので、朱姫を手伝うために、そっちに向かったところだった。
沙那たちの寝床と宝玄仙の寝床の間には、まだ燃えさかる焚火が挟まれている。
闇の中の焚火の灯りに朱姫の顔が浮かんだ。
その朱姫が沙那に顔を向けて、妖しく微笑んだ。
すると、突然に「けんれんかはく」と言って、指を鳴らしたのだ。
言葉の意味は不明だ。
しかし、その直後に、それはやってきた。
沙那の身体中が淫欲に火照りはじめたのだ。
突如としてせり上がりはじめた股間に感じる欲情に、沙那は思わず膝をついてしまった。
「ば、『縛心術』よ……。わ、わたしになにかしたわね……?」
沙那は、思わず股間を手で押さえる。
だが、身体の内側からせりあがる快楽には逆らえない。
「あたしはご主人様のように、沙那姉さんの身体の身体を自由にはできませんよ」
朱姫は微笑んでいる。だが、その微笑みは妖しいものが浮かんでいる。
「あ、暗示よ――。暗示。わかっているのよ。さっきの言葉と音で、欲情するように暗示をかけていたんでしょう。い、いつの間にやったのよ。す、すぐに解きなさい――」
「証拠でもあるのですか、沙那姉さん?」
朱姫は、また、ぱちんと指を鳴らした。
沙那に与えられる快楽が跳ね上がった。
「くああああっ」
沙那は思わず身体を仰け反らせた。皮膚を無数の舌で這い回られる感覚――。
いや、触手のようなものが全身を包んでいる。逃げることはできない。実際には、触手など存在しないのだから、逃げようもないのだ。
「いつ見ても、沙那姉さんの欲情する姿は色っぽいですね。あたしも、いつか、姉さんのように綺麗になれるといいんですけど……」
また、指を鳴らす音――。
沙那の身体にまとわりついている触手の動きが激しくなる。
股間や乳房や、とにかく、服に包まれているあらゆる部分が快感に燃えあがる。
朱姫が、指を鳴らす音で欲情するように、沙那に、いつの間にか暗示を与えていたのは間違いない。
暗示をかけられていたのを覚えていないので、その記憶を消していたのに違いない。
だが、そんなことを朱姫がひとりでやるわけがない。
「ご、ご主人様ですね――。朱姫に、これをやらせているのは?」
与えられる触手責めに耐えながら、できあがったばかりの寝床に胡坐で座っている宝玄仙に沙那は言った。
「わたしは、別に朱姫に許しただけさ。朱姫がお前を苛めたいと言うんでね」
「う、嘘を言わないでください――」
その耳にぱちんと指の音。
沙那を襲う快楽が倍になる。
服が肌に擦れて、瞬時に快感が弾ける。
「ひゃあああ……」
「ご主人様にけしかけられたのは本当ですけど、あたしがそうしたかったのも本当ですよ、沙那姉さん――。もっとも、こんな怖いことはご主人様の許可がなければできませんけど」
さらに指の音――。
もう、訳がわからないくらいに性感があがる。
普段は制御している『女淫輪』の猛威まで襲いかかる。
「まだ、動けますか、沙那姉さん? でも、念のために、もう少しあげときます?」
指が三度続けて鳴る。
「や、やああ――うああああ――」
沙那はその場にうずくまってしまって。
この小さな宝玄仙のような少女は、時折、こういう悪乗りをする。
宝玄仙がいなければ、沙那と孫空女にこういう悪戯を仕掛けないのは事実だが、こういう状況になれば、心から愉しみ始める。
調子に乗ることについては宝玄仙以上だから、朱姫の責めは、ある意味で宝玄仙よりも、始末が悪い。
「沙那姉さん――。沙那姉さんを襲っている触手は、沙那姉さんが着ている服ですよ。それを脱げば、触手を身体から外せますよ……。でも早く脱がないと、どんどん、触手の表面から染み出てくる媚薬に襲われますよ……」
朱姫が囁くように言った。
沙那に、まとわりついていた触手がはっきりとしたかたちになって出現した。
沙那の身体が数十本の触手がまとわりついている。
慌てて、それを剥ぎ取ろうとするが、どうしても取れない。
触手の毒液が皮膚越しに身体に入り込む。
乳房を揉みしだき、乳首を吸いあげる。
全身が性感帯になったかのような錯覚となり、身体中の感度があがり続ける。
股間を触手が襲う。肉芽を這いまわり、前後の孔に容赦なく触手が入ってくる。
沙那の陰部の菊門を深く抉る触手の存在に、沙那は暴れ回った。
「沙那は、なにをやっているんだい、朱姫?」
「服を脱ごうとしているんですよ、ご主人様。でも、触手と思い込んでいるから、ぼたんや紐を解かないと脱げないことがわからないんです」
宝玄仙と朱姫の声が聞こえた。喋っていることの内容はわからない。
「ああっ――あああ……。そ、そこにいるんですか、ご主人様――朱姫――た、助けて――」
沙那は叫んだ。触手は沙那を襲い続ける。襲い掛かる快楽に、触手を剥がす力が失われていく。
なぜ、自分がこんな化け物に襲われているのか――。
なにかがおかしい。
それを冷静に観察しているような宝玄仙と朱姫の口調も不自然だ。沙那の中で、それは不自然なものとして整理されるのだが、次第に触手は、沙那から判断力を奪っていく。
「い、いくうううう」
ついに沙那は、触手により絶頂までせりあげられた。
「いけませんよ、沙那姉さん。その触手は、いつまでも沙那姉さんを感じさせるだけです。絶頂寸前の状態まではいけますが、それ以上は駄目です。その触手は、沙那姉さんの絶頂ぎりぎりの淫液の味が好きなんですから」
朱姫の声――。
その声で、達しようとしていた沙那の快楽がとめられる。
いや、快楽はとめられていない。
いくことだけがとまったのだ。沙那は、のたうち回った。
「沙那? な、なにしているの? 朱姫、ご主人様――。これは、なに?」
孫空女の声だ。
触手に顔を覆われている沙那の視界に、孫空女の驚いている顔が見え隠れする。沙那は、孫空女に手を伸ばした。
「そ、孫女――。ひいいいいっ――。た、助け……あああ――」
「孫姉さん、沙那姉さんは、服を脱ぎたいみたいですよ。でも、脱ぎ方がわからないみたいです」
「お、お前、また、沙那に『縛心術』使っているね、朱姫――。ご主人様に命じられているからって、調子に乗ると承知しないよ――」
「そ、そんなに怖い顔をしても、大丈夫ですよ。孫姉さんにも、暗示はかけてあるんですよ」
「なんだって、朱姫――?」
孫空女が怒鳴っている。
しかし、声はわかるのだが、内容を知覚できない。
それよりも、身体にまとわりつく触手がどんどんと沙那の理性を削り取っていく。
なんでもいい――。
早く、触手を剥がして欲しい。
このままではおかしくなる。
「そ、孫女――んあああっ……こ、これを……この触手……化け物を……くあああっ――と、取って……お、お願い――」
沙那は、絶頂に向かってひたすら情感をひきあげられている。
もう、耐えるような段階は超えている。
沙那の身体の中で快楽の化け物が暴れ回っている。
それに、このわけのわからない感覚――。
絶頂しているのにできない。それが何度も続く。恐ろしいほどに繰り返す。
「じゃあ、試してみますよ、孫姉さん――。ひ、ん、ば、おん」
「ひいいいっ――」
孫空女のけたたましい悲鳴が聞こえた。どうしたのか?
「お前は、孫空女に、どんな暗示を与えていたんだい、朱姫?」
宝玄仙だ。
「さっきの言葉で、孫姉さんのお実が締めつけられます。それで、悲鳴をあげているですよ、ご主人様」
「へえ、面白いねえ、“ひんばおん”かい? 意味はあるのかい?」
宝玄仙の言葉で、孫空女の悲鳴が大きくなった。
「意味はありません。なにかの弾みで暗示の言葉が耳に入ることがないように、意味のない言葉にしてるんです」
「なるほどねえ。それで、“ひんばおん”かい」
「あひゃあああ」
またもや、孫空女が絶叫した声が聞こえた。
すると、朱姫の笑い声も響く。
「駄目ですよ、ご主人様。その言葉を聞く度に、孫姉さんの感じる痛みは、どんどん大きくなるんですから。“ひ、ん、ば、お、ん”という言葉の度に、孫姉さんのお実は、偽物の痛みを感じます」
「ひぎゃああああ」
孫空女のもの凄い絶叫が響く。
いったい、なにがどうなっているのか。
「孫姉さん、あたしの命令に従いますか? 断れば、何度も言いますよ、“ひんばおん”って――」
「ぎゃああああ――。し、従うううううっ」
孫空女が叫んでいる。
「じゃあ、手を叩いたら、耐えられるだけの痛みに変わります。痛みが小さくなったら、沙那姉さんの服を脱がせるんです。そしたら、孫姉さんも服を脱いでください。いいですね?」
ぱちんと手を叩く音がした。
孫空女の悲鳴も止まった。
「お、憶えておくからね、朱姫――」
孫空女が激しく息をしながら、沙那に近づいてくる。
「無理です。覚えていられません。後で、記憶は全部消します」
朱姫の声――。
孫空女が、沙那にまとわりついている触手を剥がし始める。
襲い続けてきた触手が身体から外されることに、沙那はほっとする。
「さあ、ふたりともおいで。久しぶりに、この宝玄仙が慰めてやるよ」
沙那は、霞のかかった視線をあげる。
いつの間にか裸になった宝玄仙の股間から、男根がそそり立っている。
まだ身体は火照りきっている。
沙那は、這うように宝玄仙に近づいていった。
孫空女は、自分の服を脱ぎ捨てている。
「まだ、これが怖いかい……、朱姫?」
宝玄仙が朱姫に向かって言っている。
「い、いいえ……」
朱姫は首を横に振っている。
だが、炎に照らされているその顔は、心なしか恐怖の色が浮かんでいる。
「今夜は、見ているだけでいい……。でも、もう少し、お前の身体に与える調教を進めてから、この宝玄仙が、お前を女にするよ。いいね。今夜は、この宝玄仙が沙那と孫空女を犯すのを見ながら、いつもの道具を使って、尻で自慰をしな」
「は、はい」
朱姫が力なく答えた。
「さあ、口に咥えな、沙那」
沙那の口の前に、宝玄仙の男根が突きだされた。
嫌も応もない。
逆らえば、それを口実になにをされるかわからない。
沙那は、それを急いで口に含んだ。
*
「いくうううううう」
股間を背後から貫かれている
そして、栗色の髪を振り乱して、かぐんがくんと腰を跳ね上げる。
「あぐううう……おおおううっ」
絶頂に達した女膣は、この夜で最高の締め付けを
もう、五度目の絶頂で百花はほとんど失神状態だ。
黄袍魔は、それを激しく怒張を動かして覚醒させる。
「ぼう……も……もう、や……め……てええええっ――うごあああああっ」
百花は、王女らしからぬ獣のような声を張りあげて、身体を仰け反らせる。
さらに黄袍魔の男根は、さらに百花の女肉に食い絞められる。
「俺の子を産め――。わかったな、百花。けだものの妖魔の子を孕むのだ」
黄袍魔は、百花の中に精を注ぐときに、必ず告げる言葉を吐きながら、百花の子宮に精を放出させた。
百花の膣の律動が激しくなる。
そして、今度こそ、完全に失神した。
黄袍魔は、がっくりとなった百花の身体を仰向けにしてから、ゆっくりと自分の肉棒を抜く。
中から吹き出そうになった淫液を道術で子宮に押し戻す。
そして、天井から伸ばした二本の鎖に百花の両足首を繋ぎ、百花の膣が天井を向くように吊りあげた。
こうしておけば、失神から目を覚ました時、百花は、黄袍魔の精液を確実に自分の中に受け入れさられているのがわかるだろう。
王家の娘が妖魔の子を産む。
それこそが、最大の復讐ではないか。
妖魔どもの慰み者にするよりも面白い。
これでもう、半月になる――。
半月の間、毎夜毎夜、黄袍魔は、この部屋で百花を抱き続けた。
最初の夜で、初めて男を知った百花の膣は、いまは黄袍魔の男根のかたちを覚え込まされ、黄袍魔を悦んで受け入れて悶絶し、狂ったように嬌声をあげ続けるようになった。
毎夜毎夜、気を失うまで、いや、たとえ気を失おうとも、黄袍魔は、百花を抱き続けていた。
黄袍魔に抱かれている間、百花は完全に淫女となって黄袍魔の下で踊り続ける。
しかし、終わると、冷たい軽蔑の視線――。
まだ、心は屈していないというのがわかる。
最初は、適当に数度抱いた後で、すぐに妖魔の兵舎にでも放り投げるつもりだった。そうすれば、朝昼晩と妖魔たちに凌辱され続け、おそらく、数日でかい毀れるか、死ぬかのどちらかになっただろう。
百花を誘拐させたのは、自分の出生と母妖魔の死への復讐心の発作による激情のようなものであり、もともと百花を浚って、明確になにかをさせるという計画性はなかった。
せいぜい、母親の仇である王家から王女を奪い、母のように惨たらしく殺してやろうと思っただけだ。
いずれにせよ、黄袍魔がこの辺りのはぐれ妖魔を束ね、人間族の領域外に支配域を作ることにより、やっと力を手に入れ、母の復讐の基盤が整ったとき、すでに、母を残酷に殺した人間族の王はもう老去していなかった。
だから、その代わりに、仇の血を継ぐ王家のひとりに目をつけたのだ。
だが、最初の晩に百花を抱き潰し、なぜか妖魔たちに百花を与える気がなくなった。
それよりも、気がつくと、百花のことを考えている自分がいることに気がつく。
昼間は百花に会わない。
しかし、眼を閉じるたびに、閨で淫らに悶え狂う百花の恥態と正気に戻ったときのあの凛とした美貌を思い浮かべてしまう。
そのことに黄袍魔はうろたえていた。
これまでに、異性に心を傾けたことはない。
ましてや、凌辱して殺すためだけに浚った女だ。
それも人間族の女――。
復讐の対象の女になるはずの女だった。
母となるはずだった雌妖を惨たらしく殺した父祖の血を引く人間の娘なのだ。
黄袍魔の出生が、人間によって惨たらしく血に染まったものから始まったのだと知ったのは、十年前のことだ。
自分を育ててくれたのは、
人間族の道術遣いだといっても、ほとんど、人間のいる場所とは離れ、かといって、妖魔の集まる場所で暮らすわけでもなく、世間とはまったく隔離した生活をしている人間だ。
妖魔の寿命は長い――。
しかし、人間族でも、優れた道術遣いの寿命もまた長い。
だが、その青蔡もいまは老人だ。
その青蔡から告白を受けたのが十年前だったのだ。
そのとき、孤高人のような生活をしていたこの老人が、かつては、雌妖を使って娼館を経営していたという話を聞いた。
驚いた――。
人間に育てられた黄袍魔は、ほかの妖魔に比べれば、人間に対する憎悪や偏見は強いものではなかった。
むしろ、人間の中には青蔡という老人のように、妖魔を慈しむ存在もいる。
それが黄袍魔の思いだった。
無償の奉仕――。
それが青蔡に対する黄袍魔の尊敬の理由であり、人間族を育ての親に持つことは、黄袍魔の誇りだったのだ。
それが一度に裏切られた思いだった。
青蔡が人里離れた山の中で黄袍魔を育ててくれたのは、かつて、惨い目に合わせてしまった雌妖に対する罪滅ぼしでしかなかったのだ。
青蔡は、黄袍魔に殺されるつもりで、それを黄袍魔に告げたのかもしれない。
だが、もちろん、父親のように育ててくれた青蔡を殺せるわけがない。
その代わりに、黄袍魔は、それから青蔡に会っていない。
青蔡と別れた黄袍魔がやったのは、まずは虐げられている妖魔たちの居場所を作ることだ。
復讐を考えないわけではなかったが、青蔡と別れて流浪するうちに、人間族に虐げられている妖魔たちに次々に接し、彼らを助けたりしているうちに、いつのまにか、彼らに望まれて、この国に隠れる妖魔たちの救世主のような存在になってしまったのだ。
黄袍魔の魔力――人間族は同じ力を“道術”と呼ぶが――は強く、強い者に盲目的に従う傾向にある妖魔たちは、こぞって黄袍魔のもとに集まってきた。
この国で妖魔族の地位は低い。
奴隷でもなく、獣として扱われ、知性のある便利な道具として残酷に扱われる。
ひとりひとりは、人間族よりも身体も強く、術にも長けるのだが、集団で徒党を組み、妖魔の能力を無効化する道具を駆使する人間族は、妖魔が集まる隠れ部落を見つけては襲撃して狩り、売買の商品として連行していくのだ。
彼らは、そんな自分たちを守ってくれる存在を心の底から求めていたのだ。
黄袍魔は、そんな妖魔族をひとつにまとめあげ、大きな集団にした。
そうすることにより、人間族が簡単に手を出せないようにしたのだ。
人間族の支配域の辺境のさらに外側に、城と妖魔の領域まで作り、妖魔王を名乗った。
侵入してきた人間族の狩人たちを片っ端から殺してやった。
そうやって十年かかって、やっと妖魔の生きる場所を作ったのだ。
しかし、十年かかって、人間族との争いが一段落を迎えると、忘れていた、忘れようとしていた人間族の王への恨みが頭をもたげてくる。
復讐など醜いことだと思い込もうとしても、残酷に殺された、そして、顔を見ることなく死んだ母の無念が心を抉る。
それは、妖魔の生きる場所の象徴として築いた|破月城で、日に日に黄袍魔を蝕む心の闇として拡大していった。
そして、ついに、先日、十年ぶりに青蔡に手紙を届けた。
本当に母の死に償いをしたければ、黄袍魔が行う人間族への復讐を手伝えと書いたのだ。
かつては、
その青蔡に、王家の女を誘拐して、母親と同じ目に合わせるので、人浚いに協力しろと書いたのだ。それで青蔡への恨みは忘れると……。
世間から離れたといっても、強い道術遣いである青蔡は、人間族の中で大きな影響力を持っている。
その青蔡がどういう態度をとるのか、知りたかったということもある。
その結果、青蔡は、
黄袍魔の気持ちがそれで収まるなら、いくらでも協力しようとも返事を送ってきた。
そうやって、復讐の土台は整った。
いま、呆気なく浚われた王家の王女は、黄袍魔に凌辱されて、目の前で死んだように横たわっている。
「黄袍魔……」
百花の声とともに、百花の肢を吊っている鎖の音が鳴った。
「やっと、眼を開けたか、百花」
百花を見た。百花の冷たい視線がそこにあった。
「い、いつまでこんなことを続けるのです、黄袍魔?」
「お前が孕むまでだ。お前には、俺の子を産んでもらう。こうやって、毎夜たっぷりと俺の精液を子宮に注ぎ続けている。もう、すでに孕んでいるかもしれんがな。王家の娘が妖魔の子を産む。愉快ではないか」
「う、恨みでもあるのですか、この百花に?」
百花がそう言って、黄袍魔を睨んだ。
だが、その顔には恐怖の色がある。
妖魔の子を産まされるということに怯えているのかもしれない。
「お前にはなんの恨みもない」
「だ、だったら、なんで、こ、こんな惨いことができるのです――?」
「それが、妖魔というものだと知らないのか、百花? お前たち人間族が俺たち妖魔にずっとやっていることだろう」
「そ、それは……。で、でも、わらわのせいでは……」
「それに、お前をこうやって凌辱するのは、それが愉快だからだ。ただの気まぐれであり、それ以外ものではない。いまは、こうやって、お前の腹に俺の子種を宿らせようとしているが、いつ、気まぐれで、妖魔たちの性処理の道具に落としこむとも限らんぞ」
「だったら、そうしなさい、黄袍魔。お前に抱かれ続けるくらいなら、死んだ方がましです――。いいえ、死にます。死んでみせますから、それよりも、自害させてください」
百花は言いきった。
「それは無理だな。お前の腕にはめてある霊具は、お前をこの部屋に監禁させているだけではなく、自害も防いでいる。最初の日に、お前が自害をしようとして、霊具により意識を失わせられたという報告は受けている。自殺もできないというのがわかっただろう」
百花が顔に悔しさを滲ませる。
こうやって、毎晩のように妖魔に抱き潰されることしかできないのが悔しいのだろう。
黄袍魔は魔力を集中して、百花の肢を天井から吊りあげていた二本の鎖を消滅させた。
吊られていた二本の肢が、寝台に落ちる。
黄袍魔は、寝台の上に肢を投げ出せられた百花を寝台から蹴り落した。
「ひいっ」
床に激突した痛みに百花が悲鳴をあげた。
その百花の足元に、木桶を出現させる。
「いつものように、さっさとやれ。俺は忙しい。今夜は、小便だけか? それとも、大便もしたいのか?」
うずくまった百花の顔が恥辱に歪む。
「……ち、小さい方だけで結構です」
百花は、消え入るような声で言った。
百花は、ここに監禁されてから、小便と大便をこうやって、性行為の後に、黄袍魔に見られながらでしかやらせていない。
それ以外は、霊気を帯びた張形で肛門と膣を塞いでしまうのだ。
最初の数日は黄袍魔の前で排尿することを拒否したために、小便のできない七転八倒の苦しみを百花は味わった。
それから、仕方なく、百花は小便を黄袍魔の眼の前でするようになった。
最初に大便をしたのは、五日目のことだ。
あのときは、抱くためにやってきた黄袍魔に、大便を出させてくれと懇願した百花の肛門を張形で塞いだまま、いつものように気を失うまで抱いた。
やっと、百花が外に大便を出すことができたのは、黄袍魔から解放されてからのことだった。
それからは、数日置きに大便もするようになったが、それでも、まだ、黄袍魔の前でやらされるのには激しい抵抗があるようだ。
百花が、木桶を跨ぐと、すぐに水が勢いよく放出される音が木桶から聞こえ始める。
百花のすすり泣きも同時に聞こえてくる。
「お、終わりました……」
桶に小便をし終わった百花が黄袍魔に告げた。
黄袍魔は、寝台の横の台にある鈴を鳴らす。
部屋の外から三匹の雌妖が入ってくる。
百花の世話をさせるために、待機させている山猫の小妖であり、彼女たちは、すでに百花の身体を洗うための布やお湯も持ってきている。
黄袍魔は、小妖たちに身体を拭かれるままにされている百花を眺めていた。
本当にきれいな髪だ。
いや、髪だけではない。
抜けるように白い肌も、まだ火照りの余韻が残っている顔もいい。
なによりも、この美しい人間の娘が、黄袍魔に抱かれる時には、淫欲のけだもののようになってしまうのが堪らない。
「百花、この生活から解放されたいか……?」
諦めたような表情をしていた百花がびくりと顔をあげる。
そして、すがるような視線を黄袍魔に送ってくる。
黄袍魔は、突然に自分の心に浮かんだ思いつきに驚いていた。だが、考えてみれば、それこそが、この王家の娘に与える最高の恥辱なのかもしれない。
「俺の嫁になれ。そうすれば、この黄袍魔の妻としての礼遇をもって扱ってやろう」
「じょ、冗談ではありません。わらわをなんだと思っているのです。わらわは、この宝象国を治める王の娘であり……」
「だが、もう妖魔の王である俺に抱き潰され、もうすぐ妖魔の子を産まされようとしている。いや、もう孕んでいるかもしれん。いまさら、王家に戻れると思っているのか? もう、王家になど戻れるものか」
「王家に戻れない……? どういうこと……?」
「考えてみろ。万が一、救出の手がここにやってきたとして、お前は、どんな顔で宮廷に戻ろうとしているのだ? 妖魔と耽る淫情を覚えさせられ、この黄袍魔に抱かれて、何度も悶絶し、小便どころか、大便をするところも見られ――それでも、まだ、王都に戻りたいのか? 卑しい妖魔と交合したお前を人間族は受け入れるのか?」
「お、お前のせいだ――。お前の、こ、こんな――」
百花は泣き出した。
「『婚姻の誓い』という道術による契約術がある。それを俺と結べ。どちらかが死なない限り、心が相手に拘束される絶対の支配術だ。術で心が結ばれてしまい離れることができなくなる。それを結ばせてやろう。お前が心から承知すれば、それが結べる。そうすれば、お前は、ここで俺に飼われる家畜ではなく、妖魔の妻になる」
「な、なんの違いがあるのです――。お前の妻であることと、いまと――」
百花が泣きながら叫んだ。
「嫌なら、本当の家畜に落とす。お前は、この部屋を出されて、地下牢に繋げる。人間の娘――ましてや、王女を抱けるとあっては、お前の淫孔に精を注ぐ妖魔は絶えんだろうな。そうやって、どの妖魔のものともわからぬ種を宿すのがいいか?」
もう百花は答えなかった。
ただ、顔に手を当てて、泣き声を大きくした。
雌妖たちは、そのあいだも、ただ黙々と百花の身体を拭いている。
黄袍魔は立ちあがり、百花の股間にふたつの小さな張形を近づけた。
百花の淫孔と菊門にその張形が挿入される。
そして、蓋となって百花の股間を封鎖する。
「明日から五日間、留守にする。それまでに、考えておけ、百花――。その間のお前の世話は、雌妖に任せておく。排便の管理もな」
「だったら……この城の牢に繋がれる家畜にして――」
百花は泣き叫んだ。
黄袍魔は、それには答えず部屋を出た。
『婚姻の誓い』を強要して、妻にする――。
面白いではないか。
あの娘が屈辱に染まるのを毎日見ることができるのだ。
王家の娘なら、『婚姻の誓い』という契約術の絶対性は知っているはずだ。
妖魔の正式な妻になる――。
一生離れられない道術の契約をこの妖魔とさせる――。
その方がよほど、王家の娘に与えることのできる復讐のはずだ。
黄袍魔は、百花を妻にするという自分の思いつきをそういう風に整理した。
部屋の外まで聞こえる百花の泣き声はますます大きくなるだけで、いつまでも終わる様子はなかった。