「じゃあ、愉しんでおくれよ……。その椅子に座ってくれるかい?」
敷布の横にはさっきまで一丈青が拘束されていた椅子がある。
宝玄仙がそばにあった布でさっと座面の部分を拭いた。
大黒天をそこに導く。
すると、宝玄仙が椅子に座った大黒天の前にひざまずいた。
「今度はなんですか……?」
大黒天は、宝玄仙が椅子の背後に置いてあった荷の中から一本の瓶を取り出すのを見て訊ねた。
「お前のところの女房たちから借りた料理用の植物油だよ」
宝玄仙が、その瓶から植物油を垂らして、たらりと大黒天の足の指にかけた。
そして、なにをするのかと思っていたら、宝玄仙が大黒天の足を押しいただくように持ち、足指をすっぽりと口で包んで舐め始たのだ。
これには驚いた。
しかし、さらにびっくりしたのは、沸き起こった感覚だ。
「うおっ」
思わず大黒天は声をあげた。
いままで味わったことのないような不思議な疼きがそこから拡がったのだ。
「な、なにを……?」
快感が全身を駆けあがる。大黒天は思わず手摺を離しそうになった。
「なにって、なにがだい?」
宝玄仙が口を離して顔をあげた。
「あ、足指を舐めることですよ……? なぜ、そんな屈辱的ことをするのです? あなたのような人間族の女が?」
「あなたのようなって、どんな女のことだい?」
「自尊心の高い女主人のあなたがだ……。それが亜人男の指を舐めるなど……」
大黒天は当惑して言った。
宝玄仙が砦前の幻想の罠を簡単に破るほどの強い道術遣いであることは報告を受けているし、あの沙那や孫空女の女主人だ。
非常に気位の高い人間族の女なのだろうと思っていた。
それが、情交でいきなり相手の亜人男の足指を舐めるなど……。
この情交が始まる前、大黒天はほかの重鎮たちとともに、沙那と孫空女から亜人収容所の襲撃についての策を説明された。
説明したのは沙那だが、大した策略だと思った。
しかも、収容所についてよく調べあげている。
おそらく、成功するだろうと思った。
問題は脱走した亜人の囚人たちが逃げおおせることができるかどうかだが、それについても二百騎の騎馬の活用についてよく練られていた。
沙那は、この砦にやって来る前に、収容所周辺の地形をある程度確認してからこっちに来たようだ。
この周辺には初めてやってきたはずの沙那が、よく地形を見知っているのには、
そして、収容所を襲った後で予想される国軍の追撃に対する戦いにおいては、孫空女の武辺が策の重要な要素にもなっていた。
孫空女の力は見てはいないが、話し半分だとしても、それなりの女傑なのだろう。
大黒天にも、あのふたりがとてもじゃないが、他人に大人しく従うような女ではないことはわかる。
しかし、そのふたりがこの宝玄仙に完全に言いなりなのだ。
さっきも宝玄仙は、ふたりを性奴隷のように扱って、大黒天への奉仕を強要した。
しかも、ふたりはまったく嫌がる素振りをせずに、宝玄仙の命に従うのが当然であるかのように従順に振る舞った。
大黒天は、あのふたり以上に、その主人である宝玄仙に興味を覚えた。
しかも、あの一丈青への態度……。
一丈青といえば、大黒天も名前くらいは知っている。
若いが有能な道術師隊の女隊長だ。
宝玄仙たちを捕らえようとして、逆に捕らえて調教したのだと言っていたが、さっきの一丈青は、完全に宝玄仙に対する恐怖が染みついていた。
大黒天に処女を捧げろと言われれば、躊躇なくそれをするほどに……。
この宝玄仙は何者なのだろう……?
そんな思いが頭を席巻していた。
それなのに、その女主人の宝玄仙が、一転してまるで奴隷女のように大黒天の足を舐めだしたのだ。
大黒天には驚きと困惑でしかない。
「本当にお前たちには、人間族とか亜人族の隔て意識が頭にこびりついているんだねえ……。わたしが人間族でお前が亜人族だから、なんだと言うんだい? それに、お前は性行為の経験も豊富そうなのに、女に足の指を舐めてもらったことはないのかい?」
「ありませんよ」
「本当かい? こんなものは前戯の基本じゃないかい……。女房たちを集めるのもいいけど、奉仕のやり方をもっと教えたらどうだい? とにかく、続きをするよ」
宝玄仙は再び大黒天の足指を咥えた。
舌が指と指のあいだを動く……。
鋭い快感が全身をざわざわと昇ってくる。その官能の波が股間を突き抜け、胴体を席巻し、頭まで突き抜ける。
「ふう……」
大黒天は大きく嘆息した。
こんな場所に快感を覚えるとは知らなかった。
信じられないような官能の波が全身を包む。
宝玄仙は、一本が済めば、もう一本……。
それが終われば、また隣……。
一本ずつ指をしゃぶっていく。
宝玄仙が新しい指を口で咥えるたびに、新しい快感が沸き起こる。
大黒天の怒張は信じられなくらいに逞しく勃起していた。
宝玄仙が足指と足指のあいだを舌で擦り、そして、吸いあげる。
ずんずんという血の猛りが怒張に込みあがる。
しかも、先端からじわじわと勇み汁まで滲み出る始末だ。
こんなのは確かに初めてだ。
やがて、十本の足指をしゃぶり終わった宝玄仙は、今度は植物油を大黒天の内腿に垂らした。
それを手のひらで押し拡げていきながら、舌で舐めとっていく。
性器そのものには触れないが、その周辺に宝玄仙の舌が這い回る。
「くう……」
これ以上は耐えられない。
大黒天は宝玄仙の身体を掴んで椅子の下に降りた。
そのまま、敷布に押し倒した。
「なんだい、せっかちだねえ……。まだまだ、わたしの奉仕は続くんだよ……。口でその肉棒を咥えさせてもらってないし、植物油を乳房で全身に塗り拡げてあげるよ……」
大黒天に押し倒された宝玄仙が笑った。
だが、抵抗はしないようだ。
大黒天が仰向けの宝玄仙に覆い被さると、宝玄仙は力を抜いて待ち構えるような体勢になった。
大黒天は宝玄仙の白くて細い首に口づけをした。
強い力で首を吸う。
宝玄仙が小さな声をあげて身悶えた。
舌でうなじから肩に向けて這い進む……。
「ああ……」
宝玄仙は綺麗な眉間に皺を寄せて、首を仰け反らせる。
宝玄仙の肌は、とてもいい香りがした。香水のようなものはつけていないようだが、肌の香りそのものが香木のような柔和な匂いを醸し出している。
しかも、それが汗と混じると、なんともいえない酔いのようなものが大黒天に拡がる。
大黒天は舌を肩から宝玄仙の乳房の膨らみに移行した。
品のいい乳頭を大黒天は口で含んだ。
「うあっ──そこは──」
いきなり宝玄仙が乱れた。
なにかを求めるかのように、手を伸ばして大黒天の背中にしがみついた。
どうやら乳首が弱いようだと思ったが、あまりにも強い反応に大黒天がたじろぐほどだ。
そのまま乳首を舐めあげる。
「くあっ、ああっ、ふあああっ」
宝玄仙の乱れがだんだんと激しいものになる。
女の蜜の香りが股間から漂ってきた。
素晴らしい身体と激しい女の反応……。
大黒天は手を腹から移動させて、腹……。
さらに、下腹部を撫でさすっていく。
吸いつくような宝玄仙の肌はとても気持ちがよかった。
「はああ……あっ、あああっ……」
宝玄仙が声をあげた。
大黒天は反対の乳首を口に含んだ。
宝玄仙はさらに身体を震わせて、鼻にかかった甘い声をあげた。
悶える宝玄仙の肉づきの太腿から、いつの間にかじっとりと濡れている股間の亀裂に指を動かす。宝玄仙の腰がくねくねと動く。
その色っぽい姿に、大黒天の身体は頭の芯まで恍惚感で包まれる。
この女を犯したい……。
大黒天の獣の心が騒ぎ出す。
「……いいよ……。もう入れたいんだろう? 好きにしていい。肉人形だと思って、好きなようにこの宝玄仙を使っておくれ……。どうせ、前戯なんて柄でもない感じじゃないか……」
まるで大黒天の心を読んでいるかのようだ。
確かにもう精を出したいと思っていた。
この人間族の女を抱き潰したい。
その気持ちで大黒天の性欲が荒れ狂っていた。
「控えめな外見に隠れた強い芯……。それがお前の本質のようだね。性を結ぶと、女は男の本質が見えてくるものなのさ……。なにも気を使うことなんかないさ。わたしのことは、性欲を発散するための道具とでも思っておくれ……」
宝玄仙が下から手を伸ばして、大黒天の身体を引っ張った。
その顔は官能に包まれた柔和な微笑が浮かんでいた。
大黒天は体勢を変えた。
「入れますよ」
大黒天は宝玄仙の脚を掴んで、すでに限界までいきりたっている肉棒の先端を埋めた。
「うっ、んんっ……」
宝玄仙が首を仰け反らせた。
怒張が宝玄仙の体内に沈んでいく。
それとともに、宝玄仙の身体から萌香がぱっと発散した。
そのいい匂いに、大黒天は息がとまりかけた。
大黒天は男根を埋めていきながら、改めて宝玄仙の身体を見た。
美しい身体だ……。
ただ綺麗なだけじゃない。
優美で、それでいて、触れあうものを決して放っておかない濃密な官能と美がそこにある。
これを好きなように蹂躙していい……。
大黒天は改めて、その幸運に唾を飲んだ。
怒張が最奥まで達した。
すると膣の中でうねうねと肉棒が刺激されだした。
「うおおっ」
大黒天は声をあげた。
「ふふふ……可愛い声を出すじゃないか……亜人の頭領……」
宝玄仙が微笑んだ。
「では、あなたの声も聞かせてもらおう……」
大黒天はそう言うと、股間の律動を開始した。
怒張の先端で宝玄仙の子宮を打ちつけるように動かす。
さらに両手で宝玄仙のふたつの胸の膨らみを掴んだ。
そこに遠慮のない蹂躙を加える。
「ああ、あっ、はっ、ああっ──はあっ……」
宝玄仙が余裕のない反応になった。
しかし、一方で宝玄仙の女陰は腰全体を動かしながら、柔らかく、そして、吸いつくように大黒天の男根を内部で締めあげる。
出る……。
十数度目の律動のとき、大黒天の怒張の先端は爆発の予兆に包まれた。
一気に精を出してもいいが、このまま精を放つ前のぎりぎりの感覚を愉しんでもいい……。
そう思っていると、宝玄仙の膣が信じられないくらいの強さで締めあがった。
根元……。
幹……。
先端……。
順番に締めあげてくる……。
まるで、これを待っていたかのようだ。
「ううっ、おおっ」
気がつくと、大黒天は宝玄仙の中で精を発していた。
意識して出したというよりは、無理矢理に搾り出さされた感じだ。
驚くような女陰だ。
「一回目かい……。何発で出し尽くすんだい? 犬のように四つん這いで這わせてやるよ……」
宝玄仙が笑った。
「あなたの犬だったら、なってもいいかな……」
大黒天は言った。
本心だった。
この一瞬、この人間族の美女の下僕に成りさがってもいいかと思った。
それほどに素敵な性の相手だ。
なによりも、性交を心から愉しんでいる。
それがいい……。
「素晴らしい性技だ……」
思わず言った。
「そうだろう? 性にかけては百戦錬磨の宝玄仙様だよ……。なにをしてもいいよ。ただし、全部返り討ちにしてやるけどね……」
宝玄仙が白い歯を見せた。
「なるほど……。では……」
大黒天は、くるりと宝玄仙の身体をひっくり返した。
「な、なに?」
宝玄仙がびっくりしている。
しかし、構わず大黒天は、宝玄仙の腰を後ろから抱えた。
回復力の早い大黒天の怒張は、もうしっかりと元気になっている。
さっき宝玄仙が使って、横に置いていた植物油を手に取る。
こっちを向いている宝玄仙の尻の亀裂に植物油を垂らす。
「わっ、わっ、わっ──。なにするんだい?」
主導権を握ったままだった宝玄仙が初めて見せた焦りだ。
その態度にはとてもかわいらしいものを感じた。
「あなたのお尻を頂きます……。俺も初めてですが、ここを責めれば、あなたが悦ぶと教えられましたので……」
大黒天はさらに植物油を自分の肉棒にもたっぷりとかけた。
「だ、誰が──?」
「あなたのお供ですよ。さっき、沙那殿がこの部屋を去るときに、そう耳打ちしてくれました」
「あ、あいつ、余計なことを……。ふわああっ──」
大黒天が猛り勃ったものを宝玄仙の菊門に沈めていくと、宝玄仙は背中を仰け反らせて悲鳴をあげた。
「ううっ」
大黒天もまた声を洩らした。
暴れる宝玄仙の尻の締めつけは、女陰以上に喰い締めるように肉棒を圧迫してくる。
だが、植物油の力もあり、比較的楽に出し入れもできる。
大黒天はゆっくりと前後に男根を動かした。
「うわああっ、いいよ……気持ちいい……こ、怖い……そんなにしたら怖い……はああっ──」
宝玄仙は悲鳴をあげた。
その取り乱しようは、さっきまでの宝玄仙とは別人のようだ。
そして、驚くべきほどの短い時間で、宝玄仙は最初の絶頂を果たした。
*
どれくらいの時間が経ったのか、宝玄仙にはもうわからなくなったいた。
前と後ろで交互に性交を繰り返し、お互いに果て合った。
すでに、外が白み始めているのはわかっている。
だが、宝玄仙と大黒天の情事は、まだまだ続いていた。
いまは、連続で宝玄仙だけが達している時間が、随分続いているような気がする。
宝玄仙は、敷布に仰向けに寝ている大黒天の上に跨ったかたちで上下に反復運動を続けていた。
そうさせられていた……。
仰臥している大黒天の怒張は、しっかりと宝玄仙の女陰に結合している。
宝玄仙は火のように熱くなっている身体を女性上位の体勢でうねり回らせながら、朦朧としている頭で大黒天の絶倫と戦っていた。
この男の絶倫はどこまで続くのか……。
宝玄仙は激しく動きながら思った。
普通の男ならとうの昔に果てて終わっている。
もう、十回近くは精を絞ったのではないだろうか。だが、精を出しても出しても、この大黒天の肉棒は驚くべき回復力で宝玄仙に襲いかかってくる。
まるで無限の精力を持っているかのようだ。
一方で宝玄仙は、この男の荒々しい性交にたじたじとなっていた。
最初に持っていた主導権も、肛姦を混ぜられるようになって失った。
後ろを責められれば、必ず数回は達してしまう。
達する回数が多くなれば達しにくくなる男の身体とは異なり、女の身体は数を繰り返すと、全身が敏感になりすぎて、いき狂いの状態になる。
いまの宝玄仙がそういう状態だ。
こんな絶倫男のような無限の精力と体力は宝玄仙はない。
体力が尽きるとともに、宝玄仙はこの男と性の対決をする力を失ってしまった。
「ま、また、いきそうだよ……。そ、そんなにしないで……あああっ──」
宝玄仙は大黒天の上で運動を続けながらよがった。
上下運動をしている宝玄仙の下で、大黒天は片手で宝玄仙の腰を掴んで支えながら、もう片方を尻の下に入れて、指を挿入しているのだ。
怒張を咥えて上下運動をするたびに、ずしんずしんという衝撃が宝玄仙のお尻に加わってくる。
宝玄仙はその指に翻弄されながら、全身の肉が溶けていくような快美感に陥っていた。
「どうぞ、とことん頂上を極めてください、宝玄仙殿……」
大黒天が言った。
宝玄仙が息も絶え絶えの荒い息の中で叫んでいるのに対して、すでに大黒天は冷静な口調に近い。
「うううっ……はああっ……」
大黒天の言葉が終わらぬうちに、宝玄仙は黒髪を振り乱してがっくりと上体を倒れさせていた。
達した……。
その身体を大黒天が支えた。
そして、がっしりと掴み、結合を保持したまま、くるりと身体を回転させられて、また宝玄仙を下にした。
脚を抱えられて、今度は大黒天の身体が上下に動く。
「もう、いいかげんに満足しておくれよ……」
宝玄仙は激しい律動をされながら声をあげた。
そして、全身に走った快感に身体を震わせた。
もう、一回一回の絶頂の間隔が短い……。
大黒天を責めるどころか、意識を保つので限界だ。
宝玄仙は身体をがくがくと震わせた。
「あああっ──」
うなじを仰け反らせて宝玄仙は声をあげた。
再び性の悦びに達した宝玄仙は、すっと自分の視界が薄くなっていくのを感じた。
「一緒に……もう、いっぱい、いっぱい……だよ。だ、だから、最後に一緒に──」
宝玄仙は絶息の中で呻くように言った。
すると、大黒天の身体もぶるりと震えた。
子宮の入り口に、大黒天の強い精の迸りが当たるのを感じる……。
「わ、わたしの負けで……いい……」
宝玄仙はそれだけを呟いて、大黒天の裸身をしがみついた。
眼の前からすべての景色がすっと消滅していった。
*
眼を開くと、大黒天が添い寝をして宝玄仙の顔をじっと見ていた。
宝玄仙は裸身のまま身体を横たえていたが、大黒天は薄地の寝着を身体にかけていた。
「も、もう、勘弁しておくれ……。降参だよ……。降参……」
宝玄仙は身体を起こした。
全身がだるい。節々が軽く痛む。
道術で回復を図ることはできるが、そんなことをするのがもったいないような充実感と疲労感だ。
「俺も満足しました。性の奥深さを教えてもらった気がしますよ」
大黒天も身体を起こしながら笑った。
「わたしは長く寝ていたかい?」
「いいえ……。大した時間じゃありませんよ」
「そうかい……」
この部屋には、天井付近に明かり取りの窓があった。
そこから、朝の陽射しが入ってきている。
「こりゃあ、大変だ。わたしも後詰めで行くことになってるんだ。朝までお前と遊んでいたなんて、沙那に知られたら叱られてしまうよ」
予定している作戦のために、沙那たち主力の二百騎は、今日の朝には出るのだが、宝玄仙も数台の荷馬車隊ともに、遅れてそれを追うことになっている。
宝玄仙が一緒にいく荷馬車隊は、収容所の襲撃そのものは参加しないが、脱走させた囚人には徒歩で移動できない者もいるかもしれない。
それを乗せるためだ。
もちろん、宝玄仙は必要があれば、道術で襲撃を支援するという役割もある。
宝玄仙は部屋の隅に畳んである服を着るために立ちあがった。
しかし、その手を大黒天が掴んだ。
「んっ?」
宝玄仙は振り返った。
「犬のくせに、二本足で歩いては駄目でしょう、宝玄仙殿」
大黒天がからかうような口調で言った。
宝玄仙はそれで、性交の最中に軽口をきき、性の対決で負けた側が相手の犬になると約束をしたのを思い出した。
「ああ、そうだったね」
宝玄仙は破顔して、その場で四つん這いになった。
「嘘ですよ。さあ、支度してください」
大黒天が笑った。
「いや、約束は約束だ。犬になって、お前の周りを歩くよ。隣室に縄と革紐があるから持ってきてくれないかい? それで首輪を作ってわたしにしておくれ」
隣室には一丈青を拘束するのに使った余りの縄と革紐がある。
「いいですよ、そんなに本格的じゃなくても」
大黒天が笑った。
「いや、約束だからね」
宝玄仙が言うと、大黒天が微笑みながら、隣室に向かっていった。
「ほ、宝玄仙殿、ちょっと、これは──」
すると、隣室に向かった大黒天の血相を変えた声がした。
そのただならぬ様子に、宝玄仙は急いで隣室に行った。
そこには、切断された縄の残骸があった。
部屋にいるはずの
「ええええ──? し、しまったあああ──」
宝玄仙は声をあげた。
そして、逃亡した一丈青の居場所を探るために、霊気を振り絞った。
*
「に、逃げた……?」
沙那は眼を大きく開いて、唖然とした顔を宝玄仙に向けた。
ここは、大黒山の砦の中にある練兵場だ。
沙那は、そこで孫空女や朱雀とともに、先に出撃する二百騎の出陣点検をしていたようだ。
宝玄仙は大黒天に案内をしてもらって、一丈青逃亡の事実を沙那たちに伝えにきたのだ。
すでに準備の終わった騎兵は、これから道術移動をするので、そのために馬とともに待機をしている。
宝玄仙と大黒天は、そこから少し離れた場所に沙那に連れていき、一丈青に逃げられたことを伝えていた。
孫空女と朱雀も集まってきている。
「に、逃げたというのは、この砦にからいなくなったということですか? い、一丈青が?」
沙那は怒るというよりは驚愕している。
「すまん、沙那殿──。俺のせいです。遊びにかまけていて、一丈青になんの見張りもつけないまま、放っておいてしまった。すぐに、捜索をさせたが外柵の一部に逃亡の痕も見つかりました。いま、痕跡を追わせてはいますが……」
大黒天が頭をさげた。
「いえ、ご主人様のせいに決まってます……。いえ、違うわ。わたしのせいです……。ああ、失敗したわ。大事なことをご主人様に任せきりにするなんて……」
沙那は悔しそうな表情になった。
「な、なんだい、その言い方は……? まるでわたしが役立たずのような物言いじゃないかい」
宝玄仙はむっとして言った。
「だって、現に逃げてるじゃないですか? 一丈青は亜人収容所の襲撃計画があることを知ってるんですよ。このまま逃がしたら、それを国軍に知らされてしまいます。襲撃前に、国軍に先に収容所を固められたら、もう収容所は襲撃できなくなるんですよ」
「わかっているよ──。だから、謝っているじゃないかい──」
「い、いつ、謝ったんですか? 謝ってなんかいませんよ」
沙那が声をあげた。
「やめなよ、沙那──。そんなこと言ってる場合じゃないよ。それよりも、このまま、一丈青に逃げおおせられたらどうするかだよ」
孫空女が口を挟んだ。
「そ、そうね……。でも、ご主人様、一丈青はご主人様によって道術を封じられているんですよねえ?」
「いや、確かにそうだけど、簡易的な魔方陣で霊気をとめていただけだしねえ……。毎日、道術をかけ直さないと道術は復活するねえ……。少なくとも、今日の夕には道術は戻るはずさ」
宝玄仙は言った。
「どうする、沙那殿? この策は奇襲が前提だ。もしも、情報が洩れたなら、作戦そのものが成立しないぞ」
沙那は眉間に皺を寄せて、少し考えるような仕草になった。
「いや、奇襲をしようとしたのは、表立っては、この砦が関与していないというのを作為するための工作の意味もあったはずです。もう、それはいい。全力で急襲しましょう──。それならば、国軍の展開が早くても打ち破れます」
大黒天が言った。
「よいのか、大黒天?」
朱雀が大黒天に視線を向けた。
「朱雀、俺はやっと腹が括れました。この砦は亜人収容所の解放のために戦うことを決めます──。どうせ、どんなに工作をしても、時間が経てばわかること……。ならば、むしろ堂々と行動すれば、策のやりようは拡がります」
「ほう……。昨日と今日とでその腹の据え方の違いは、もしかしたら、わたしらが寝屋で奉仕したご褒美かい?」
宝玄仙はからかった。
「そうかもしれませんね」
大黒天が破顔した。
すると、沙那が顔をあげた。
「そこまで頭領殿が決心していただければ、いくらでも策があります──。ならば、むしろ、このまま作戦を実行します。たとえ情報が洩れても、敵に対応のいとまがなければ、奇襲の効果は同じです──。ただし、計画を修正して、内部で工作を進めてから始める予定だった襲撃を今日このまま行います」
沙那が一度言葉を切り、周りに視線を向ける。
宝玄仙を含めて、全員が大きく頷いた。
「……大黒山の名を出せば、事前の工作がなくても、囚人たちが立ちあがってくれると思います──。襲撃隊は、わたしが直接指揮をしますので、三十人をわたしにつけてください、朱雀殿。そして、朱雀殿は、孫空女とともに準備している残余を率いて、手筈の位置に向かってください──。そして、残りの砦主力はできれば、助力の態勢を──」
沙那は言った。
「心得ました」
大黒天がしっかりと頷いた。