「ほら、ほら、早く脱がねえかい、女騎士殿。さもないと、大切な主家のお嬢ちゃんは、残念ながら木の枝に首を吊られてぶらさがっちまうことになるぜ。はばかりながら、この
黒松林の部下の石文という太鼓持ちのような男がせせら笑いながら、背中から
「な、なにすんるんだい──」
いきなりのことでびっくりした白女真は、とっさに石文に肘鉄を喰らわせる。
石文が悲鳴をあげて後ろにひっくり返る。
「こらっ、白女真とやら、お前というやつは、自分はなんでもするから、そこの
「あっ、いえ、そ、そんなつもりは……」
白女真は我に返った。
「おい、構わねえ。愛麗の首の縄をあげろ。ぶらんとぶらさげるんだ……。そうすりゃあ、この盃がなくなるまでには、ただの死骸に変わるさ。別段、その貴族娘の一匹くらい奴隷に売り損なってもかまいやしねえ。また、捕まえて来ればいいだけのことだからな」
地面に座って、白女真を見あげるかたちの
愛麗と白女真の首にはしっかりと縄がかけられている。
それが離れた樹木の上側の枝にそれぞれに掛けられて、縄尻が樹木の幹に結ばれているのだ。
黒松林の言葉を受けた黒松林の部下が、愛麗の首にかかっている縄尻が結ばれている樹木の幹に向かう。
そして、結び目を解いて、縄を上にあげはじめる。
「いやああ──た、助けてええ──」
白女真の手は自由にされているが、愛麗の両手は背中側でしっかりと手首を縛られている。
その愛麗の首にかかった縄がじわじわとあがりはじめた。
このまま縄があがれば、愛麗は首を吊られて死ぬしかない。
愛麗が悲鳴をあげて泣き喚いた。
「や、やめて──。脱ぐ──。脱ぎますからやめて──」
白女真は絶叫した。
「おい、そこでやめろ。この女騎士がなにか言いたいことがあるらしい。いったんとまっていろ。その代わり、俺の合図でいつでも、縄があげられるように待っていろ」
黒松林が言った。
愛麗の縄は、愛麗の脚を爪先立ちにするくらいのところで停止している。
黒松林が白女真に視線を戻した。
「さあ、少しだけ待ってやったぜ。じゃあ、美人の騎士さんよ、これがお前の性根の据えどころだ──。お前に選ばせてやる。そこであくまでも意地を張って、俺たちに逆らい続けるか。それとも、自分で服を脱いで、お願いだから自分を犯してくださいと頼むかだ」
「うう……」
「どっちでもいいが、それによって、お前の主家の娘の運命は変わる。お前が俺たちに逆らえば、その愛麗は木の枝にぶらさがって死骸になり、そのうちに鳥どもの餌になっちまう。お前が自分を犯してくれと言うんであれば、俺たちはその貴族娘を生かしておいて、奴隷商人に売り払ってやる。さあ、選びなせ」
黒松林はせせら笑った。
「ふ、服を脱ぐわ……。だ、だから、お嬢様だけは……」
「裸を晒すだけで終わるかい──。ここには、俺を始め、主立つ幹部が十人も集まっているんだ。今夜、お前がその全員を相手にするなら、その娘っ子の命を助けてやると言っているんだ──。どうするんだ。犯されたいのか。それとも犯されたくないのか──。ほら、答えねえか──」
黒松林が怒鳴った。
「わ、わたしを犯してください──。だ、だから、どうかお嬢様を許して……。なんでもしますから。奴隷に売るなんてことは……」
白女真は呻くように言った。
「まあ、それはこれからの相談だな。とりあえず、そこで素っ裸になりな。焚火の火が小さくなってきたからな。その焚火の薪代わりに、お前の服を火に放り込んでやるぜ」
黒松林が言うと、集まって酒盛りをしている賊徒たちがどっと笑った。
「と、とにかく、一度、お嬢様の縄を緩めて──。すぐに裸になるわ──」
「くだらないことをぐちぐちと喋り続けるよりも、さっさと全裸になりな。話はそれからだ──」
黒松林が怒鳴った。
しかし、白女真はまだ身体を動かせないでいた。
いくらなんでも、こんな賊徒の夜宴なんかで、自ら裸体を晒すなんてことなどできない。
その白女真の足下に、黒松林が苛ついたらように空の杯を投げつけた。
「いつまでもそうやってやがるんだ? もしかしたら、俺が本気でないと思っているのか──。よし、本当にあげてやろう──おい──」
黒松林が手をあげた。
「へい」
愛麗の縄のところにいたふたりほどいた部下が陽気に返事をして、今度は縄をぐいとあげた。
「ふぎいいっ──」
愛麗の縄があがり、愛麗の爪先が一瞬宙に浮く。
目が飛び出るように見開き、口から獣のような声が出た。
「お、お嬢様ああ──。やめてえええ──」
白女真はびっくりした。
慌てて、上衣を引き千切るように脱ぎ捨てる。
「脱いでいる──。脱いでいるわ──。おろして──おろしてったら──」
白女真は金切り声をあげながら、必死になって手を動かした。
黒松林が笑って合図をして、やっと愛麗の縄がさげられた。
浮かんだ足が、とりあえず愛麗の爪先が地面につくまでさがる。
愛麗が咳込みながら、蒼白な顔で激しく息をする。
白女真は剥ぎ取った上衣を足下に放る。
すぐに
白女真の首にも縄はかかっているが、こっちの縄はまだ緩いので、身体を屈めて下袴を足首から抜くことはできる。
胸当てと腰布だけの下着姿になった。
だが、手が震えて、どうしてもそれ以上は手が動かない。
こんな連中の前で生恥をかかなければならないという口惜しさに、全身が硬直してしまったのだ。覚悟しているとはいえ、賊徒たちの嬲りものになるというのは、自尊心の高い白女真には、めまいがする程の恥辱だった。
「どうしたんだい、女騎士さんよお……。手が動かないなら、手伝ってやってもいいんだぜ。その代わり、もう肘鉄は勘弁してくれよな」
さっきの石文が脱ぎ捨てた白女真の足元の服を回収する。
そして、そばの燃えている焚火に放り込んだ。
自分の来ていたものが炎に包まれるのを白女真は恨めしく眺めた。
「ひいっ、ひっ……。ひいっ……ひっ……ひっ……」
泣いている爪先立ちの愛麗がおかしな声を出し始めた。
愛麗の足元に水たまりが拡がりだしている。
「おいおい、小便を洩らしちまったぜ。しょうがねえ。濡れているものをそのままというのも気の毒だ。その娘っ子は、下半分をすっぽんぽんにしてやれ」
黒松林が言った。
愛麗の首にかかった縄を保持していた男たちが再び縄をその位置で固定してから愛麗の身体に寄っていく。
そして、その下袍に手がかかる。
「や、ひいっ──。いやあああっ──。あああっ──」
愛麗がさらに大きな声で泣き出す。
だが、首に縄をかけられて吊られ、爪先立ちになるほどに身体をあげられている愛麗には、身体を振って抵抗することもできない。
「お、お嬢様に手を出さないでって、言っているじゃないの──」
白女真は絶叫した。
「お前はやることがあるだろうが──。まだ、二枚も残ってやがる。なにか頼みたいことがあるなら、それを脱いでから言うんだ。何度言えばわかるんだよ。このぼけなすが──」
黒松林が隣の部下から新しい杯で酒を受けながら言った。
白女真は覚悟した。
愛麗を助けるために、この男たちの嬲り者になって死ぬ。それだけのことじゃないか……。
そう思った。
主家に仕える騎士の家に生まれて、女ながらも騎士の地位を与えられ、主家のために命を捧げると誓ったはずだ。
眼を閉じる……。
胸当てを外した。
周りの男たちがかたちのいい乳房だとか、白い肌だとかいって囃し立てる。
「こらっ、しっかり眼を開けろ──。その綺麗な顔を俺たちに向けながら、媚びを売りながら裸になりな」
黒松林から強い声が響く。
歯噛みした。
眼を閉じる自由さえも与えないのかと思った。
眼を開けた。
賊徒たちの卑猥な顔が嫌でも視界に入る。
心を閉ざして、頭から賊徒たちを消す。
腰の下着もおろした。
それを足首から抜いて地面に置く。
その瞬間に息もとまるような羞恥と屈辱の震えが白女真の全身を襲った。
ここで白女真と愛麗を囲んで、酒盛りをしているのは十人の幹部たちのようだが、その周りにも、この夜宴で行われている「見世物」を見物している賊徒たちは大勢いる。そいつらが一斉に小白象の裸身を囃し立てた。
小白象は必死になって両手で身体を隠した。
ふと見ると、少し離れた木の枝に、白女真と向かい合うように首縄をかけられている愛麗は、
内腿から足首を伝った失禁の痕と足元にできている水たまりが哀れだ。
白女真は心から自分の力不足を呪った。
この賊徒に捕らえられたのは今日の午後のことだった。
白女真は、
十八で騎士の地位を与えられた白女真のほとんど初めての任務だ。
白女真は張り切っていた。
もっとも、旅の護衛の任務といっても、朝早く貧婆国の東の端の地方にある屋敷を出立し、国境である
護衛役は白女真だけだが、ほかに愛麗の男女ふたりの従者が一緒の四人の移動だった。
だが、その途中で陥空山を竜飛国に向かって進んでいる最中に、突然現れた黒松林の賊徒たちにさらわれてしまったのだ。
不意に現れた賊徒は十人だった。本来であれば、相手が十人であろうと白女真が剣で引けをとることはない。
しかし、白女真と愛麗は、同行していたその男女の従者によって、賊徒に売り渡されたのだ。
いつの間にか水筒の水の中に痺れ薬を混ぜられ、道端で動けなくなったところに、十人の賊徒がやってきた。
白女真は、身体が痺れて動けない状態のまま、男女の従者がその十人の賊徒のひとりからまとまった財を受け取って白女真と愛麗を引き渡すのを眼の前でなすすべなく見ていた。
ふたりは財を受け取ると、貧婆国の方向に戻っていった。ふたりと賊徒が示し合わせていたのは確実だ。
ふたりが主家の娘を賊徒に売り渡して、そのまま出奔するのか、それとも、適当な出任せを報告して、知らぬふりをして主家に仕え続けるつもりなのか知らない。
とにかく、白女真と愛麗は、同じ主家に仕える愛麗の従者の裏切りで、賊徒に引き渡されてしまったのだ。
白女真は、身体が痺れた状態のまま、やってきた十人に縄掛けをされて、愛麗とともに、賊徒の砦に運ばれた。なんの抵抗もできなかった。
そして、動物の檻のような狭いところに身体を縮めて閉じ込められ、陽が落ちて夜になってから、この連中の夜宴に引っ張り出されたのだ。
最初は、白女真も後手に縄をかけられていた。
その状態で、この頭領以下の幹部が酒盛りをしている中心に連れて来られ、首に縄をかけられたのだ。
その縄尻は頭上の大きな木の枝に引っ掛けられて、さらに木の幹に繋げて固定された。
すぐに愛麗も連れてこられた。
檻に入れられているときに、愛麗は近くにはいなかったから、どうしているのだろうかと心配していたが、とりあえず、そのときは無事だった。
しかし、この連中は、後手に縛っている愛麗の首に白女真と同じように縄掛けをして、白女真に離れて向かい合う別の樹木の枝に首縄をかけると、白女真の腕の縄を解き、愛麗を眼の前で首吊りさせたくなければ、その場で自ら素っ裸になれと白女真に強要した。
そして、この連中の愛麗の首の縄をかけての脅しに、ついに白女真は屈伏して、自ら服を脱いで生まれたまんまの恰好になったということだ。
賊徒が集まる万座の中で素っ裸になった白女真は、両手で乳房と股間を押さえて、前屈みになって身体を隠していた。
「ひっ」
その瞬間、不意に首が引っ張られた。
白女真に掛けられている首縄が、いつの間にか縄尻の位置にやってきた男たちから引っ張られたのだ。
白女真にかけられた首縄は、白女真がまっすぐに姿勢を伸ばさなければならない位置で固定される。
「あっ……。お、お嬢様をおろしてやって──。ぬ、脱ぎました──」
じわじわと首を縄で圧迫される苦しさに耐えながら、白女真は声をあげた。
「慌てるなよ、白女真──。俺は十二の小娘には興味はねえんだ。興味があるのは、お前のような大人の美人だ。素直に言うことを聞けば、別にこの貴族娘は檻に戻してやる……。だが、そう必死になって身体を隠されると、まだお前も素直にはなってねえと思わなきゃならねえな。さあ、その股間を隠してる手を取らねえか。どんな茂みをしているのか見せてくれよ」
黒松林が笑った。
「な、なんですって──」
かっとなった。
思わず叫んだ。
「ほら、可哀そうなあの貴族娘を酷い目に遭わせたくなければ、茂みを曝け出すんだよ」
また石文がやってきて、落ちている下着類をまた焚火に放った。
さらに、白女真が腿と腿をすりわせて、さらに手で隠している股間のあいだに手を差し込もうとする。
「なにすんだよ──」
白女真は頭に血が昇り、胸を隠していた手を解くと、力いっぱい石文の頬を平手打ちした。
「痛ええ──」
石文が打たれた頬に手をやってうずくまった。
「こらっ──。お前、まだ、抵抗しやがるのか──。よし、わかった。気が変わった。今夜は、お前よりも先に、その貴族娘で遊んでやるぜ。俺には十二の娘を抱く趣味はねえが、貴族娘だったら子供でもやりてえという男は、ここにはごろごろしてる。そいつらが、その貴族娘を犯すのを肴にして、酒を飲むことにするぜ。お前も、そこで主家の娘が賊徒の玩具になって壊されるのを見ていろ」
黒松林は言った。
「ああ、ま、待って──。ご、ご免なさい。思わず、手が出てしまったのよ。もう、逆らわない。逆らわないから、そんな怖ろしいことはしないでください」
白女真はそう言って、身体を隠している手を身体の横に垂らした。
「……それだけか?」
黒松林がにやりと笑った。
白女真は口惜しさに歯噛みする思いだったが、やっとのこと口を開く。
「……どうか、この白女真の身体を存分に犯してください……」
白女真は血を吐くような思いでそう言った。
「いいだろう。望みどおりにしてやるぜ」
黒松林が大笑いした。