「気分はどう、朱姫? まあ、訊くまでもないか……ふふふ……」
手首と足首をひとつにまとめられて縄で括られ、大きな樹の枝にぶらさげられている朱姫の肛門の上を羽根が上下に動き続ける。
「あ、ああ……ああ……。さ、沙那姉さん、も、もう許してください……。は、反省しています。反省しますから──」
朱姫は泣き喚いた。
昼間にやった悪戯の罰として、沙那から素っ裸にされて手足をまとめてぶらさげられた。
いわゆる狸吊りだ。
その態勢で半刻(約三十分)以上も経つ。
そのあいだ、沙那はずっと朱姫の無防備なお尻の穴に媚薬を塗り足しては、さわさわと柔らかい羽根で刺激を与え続けている。
朱姫は半狂乱だ。
なにしろ、沙那はそうやって朱姫のお尻を責めたてるのに、一度もとどめは刺さず、感度が敏感になる媚薬を塗り足しては、その効果を確かめるようになにもせずに観察し続け、時折、いまのように忘れた頃に、羽根でくすぐったりするのだ。
お尻の敏感な朱姫にはつらい責めだ。
朱姫はもう耐えられずに、左右に首を激しく振りながら、引きつった声を口から迸らせた。
「まあ、慌てることはないのよ、朱姫。朝までたっぷりと時間はあるんだから。お前のお陰で、結局はこうやって、危険な山中で野宿をすることになったんだからね。わたしがしっかりと寝ずの番をしてあげるわ。あんたのお尻を責めながらね」
沙那は冷酷な口調でせせら笑った。
これはもう駄目だと朱姫は思った。
いつもは分を外さず、宝玄仙や朱姫のやる変態的な嗜虐の性癖にも、一歩も二歩も引いたような態度の沙那だが、一度火がつくと、いくらでも残酷で冷酷になるのだ。
いまがそうだ。
昼間、『縛心術』で操って、大勢の通行人の前で放尿をさせたことを相当に腹を立てているに違いない。
「さ、沙那姉さん、も、もう許して──。だ、だったら、いっそのこと指で弄って──。後生ですから──ひぐうううっ──」
朱姫は吊られている裸体を振り立てながら悲鳴をあげた。
しかし、沙那はさらに意地悪く、羽根をお尻の穴を中心に上下に幾度も擦り続ける。
お尻に羽根の先が当たる度に、全身が震えるような甘美感が襲ってくる。
しかし、あまりにも些細であり、かつ、短い時間にすぎないその刺激は、朱姫に切ないもどかしさを与えるだけで、達するような刺激にはならない。
身体の昂ぶりがいくらでもあがるのに、性的な発散をさせてもらえないのだ。
朱姫はもう我慢できずに、すすり泣きのような声をあげてしまった。
「今夜という今夜は、もう許してやらないわよ。泣こうが喚こうが、徹底的にやってあげるわ。本当のわたしが、どれくらいしつこいか肌身で味わうといいわ。わたしは、ただ羽根でくすぐるけという責めをひと晩中でも続けられるわよ」
「そ、そんな……」
朱姫は激しく身悶えた。
お尻に繰り返し塗られる妖しげな薬剤と、柔らかい羽根でくすぐられる疼き、そして、股間も尻の穴も曝け出したようなみっともない姿が絡み合い、朱姫はもうどうしていいかわからなくなった。
「お尻だけでもいいけど、時々、ほかのところも責められるのもつらいのよね……。こんな風にね……」
沙那が羽根の先をすっと朱姫の股間側に移動させて、肉芽の中心を数回掃いた。
「はうううっ」
朱姫は全身を貫く快感に吊られた身体を跳ねあげた。
しかし、羽根はあっという間に離れていく。
「ああ、そんな風に焦らすなんてひどいです──。ご主人様、孫姉さん、助けてください──」
朱姫は火のような全身の疼きに耐えきれなくなって叫んだ。
「お前、こんなときばっかり、助けを求めるんじゃないわよ。まだ、反省してないわね……。ほら、今度はご主人様に借りた香の媚薬よ。この煙を吸うと、全身が疼いて仕方がなくなるそうよ……」
沙那が盃のようなものに入れた草を千切ったものに火をつけたのがわかった。
それが朱姫が吊られている頭側の真下に置かれる。
その草が燃える煙が朱姫の顔に当たり出す。
その瞬間、全身に虫が一斉にたかるような気味の悪さが襲いかかった。
しかも、そのざわざわ感がどんどん大きくなるのだ。
「ひいいっ、こ、これは──。こ、これはやめて──。さ、沙那姉さん──。これだけは、いやああ──た、助けて──。孫姉さん助けて──助けてえ──」
朱姫は絶叫した。
全身を無数の蟻がうごめいているような感覚だ。
こんな媚薬を宝玄仙が持っているとは思わなかった。朱姫も初めて受ける感覚だ。
「ほう、新しく作った煙の責め具だけど。結構、効いているようじゃないかい……。朱姫、どんな感じなんだい? 実際に使うのは初めてだから、是非教えてもらいたいねえ」
少し離れた場所にいる宝玄仙が笑いながら言った。
「ど、どんなって──。虫が──虫が動いているみたいなんです──。き、気持ち悪い──。そ、孫姉さん──。こ、これはきついんです──。沙那姉さんをとめて──」
朱姫は悲鳴をあげ続けた。
「大きな声を出すんじゃないわよ──。ここは盗賊がうようよしている陥空山の山中なのよ。こんなところで焚火をして野宿するなんて、盗賊に襲ってくださいと言っているようなものなのよ。おまけに、そんな大声を出してどうするのよ」
沙那が叱るような声をあげた。
そして、香が焚いている器を持ちあげて、さらに朱姫の顔に煙が覆うように近づける。
「だ、だって、沙那姉さん──。こ、こんなの──耐えられません。沙那姉さんも嗅いでくださいよ──」
朱姫の鼻に容赦なく煙を浴びせる沙那に朱姫は喚いた。
見えない虫が朱姫の全身を走り回っている。
しかも、それは股間からお尻にかけてや、乳房や足の指など、朱姫が感じる部分を縦横無尽に動き回る。
しかも、その小さなひとつひとつ虫が途方もない快感の疼きなのだ。
それが無尽蔵に連続でやってくる。
しかも、この刺激は絶頂にはほど遠い刺激でしかないこともわかる。
朱姫はこの苦しくて、もどかしい甘美感に心臓を鷲掴みにされたような気持ちになった。
「なんで、わたしがそんな実験台にならなきゃいけないのよ──。そんなに苦しいなら、朝まで香を絶やさないようにしてあげるわ、朱姫──。なにせ、誰かが寝ずの番をしなければならないんだからね──」
沙那が怒った口調で言った。
「あ、あたしがやります──。起きてます──。だ、だから、もう堪忍して、沙那姉さん──はぐうううっ──」
朱姫はあまりの苦しさに吊られた身体を狂気のように揺さぶった。
「ははは……沙那を怒らせたお前が悪いんだろう、朱姫──。まあ、沙那、心配しなくても、わたしらがいる一帯は、すっかりと結界で覆っている。声だって、結界の外には洩れないから心配ないよ。焚火の灯りはさすがにどうしようもないけどね」
宝玄仙が笑った。
「それから、朱姫──。さっきから、あたしの名を気安く呼ばないでおくれよ──。あたしはもう寝るんだよ」
孫空女だ。
宝玄仙と孫空女は少し離れた樹木の下に準備されている寝床にいる。
寝床といっても、毛布を敷いてその上に寝ているだけだが、孫空女はすでに横になっている。
宝玄仙は一応上半身は起こしいて、こっちを見物しているが、宝玄仙にはこれっぽちも沙那の暴走を止めるつもりはないのは明らかだ。
もうすっかりと夜が更けている。
その夜闇に朱姫の悲鳴がいつまでの響き続けるようだった。
朱姫もさすがに今回の悪戯は、ちょっとばかり羽目を外したという気持ちはある。
恥ずかしがり屋の沙那に、『縛心術』で操って、人前で小便をさせるなんて、沙那が一番嫌がる責めだというのはわかっていた。
だが、沙那の顔が羞恥と屈辱に歪みのを眺めるのは、本当に面白いのだ。
しかし、悪戯の後で沙那が激怒するのはわかっていたから、すぐにどこに隠れた。
それから、沙那の頭が冷えたと思う頃を見計らって出て行ったのだが、すでに陽が山に沈みかけていたと思う。
しかし、思いのほか、沙那は怒ってはいなくて、反省しなさいと軽く言ってから、道中を再開するように促されただけだった。
その静かさは気味の悪いほどだった。
結局、やはり、すぐに夜になってしまい、この
そして、夕食を終え、すっかりと寝支度が整ったところで、突然に、沙那の首の後ろを指で突かれて動けなくなったのだ。
沙那の経絡突きだ。
全身が痺れたように動かなくなった朱姫から、沙那は容赦なく服を剥ぎ取って全裸にすると、いまのように手足をひとつにまとめられて縛ったのだ。
そうやって抵抗できなくした朱姫を沙那は樹木の枝にぶらさげて、いまの責めを開始したということだ。
その場で叱りつけるならともかく、そうやって何刻も怒りが持続できるというのは驚きだ。
それだけ、沙那の怒りが心頭に達しているというのもやっとわかった。
「ああ、沙那姉さん──、だ、だったら、せめて生殺しだけは勘忍してください──」
朱姫は顔を左右に振って喚いた。
「そんなに慌てないのよ、朱姫──。朝までって言ったでしょう」
沙那はまた羽根でさわさわと朱姫のお尻を責めだした。
だが、それはほんの少しの時間だけだ。
すぐに羽根の刺激は遠のいてしまう。
朱姫はもうどうしていいかわからなくなって、号泣してしまった。
そのとき、沙那の指がぐっと肛門に当たった。
揉み動くようにしながら沙那の指先が朱姫のお尻の穴に入ってくる。
「ぎひいいいいいっ」
快感の槍が朱姫を貫いた。
沙那の指ははっきりと朱姫に快感を与えるように動いていた。
その気持ちよさに、朱姫は吠えような嬌声をあげた。
沙那の指が朱姫のお尻を抉って、それにより火のように鋭い快美感が全身に拡がる。
恍惚感に頭の先から爪先までが完全に包まれる。
「あ、ああっ、あああああ……」
そして、朱姫は喉を突きあげるようにすると、悲鳴をあげて絶頂を極めた。
全身が脱力する。
頭がが真っ白になっていく……。
すると、突然に荒い息をする朱姫の身体がするするとさがりだした。
はっとした。
見ると、沙那が朱姫を吊りあげた縄をおろしてくれているのだ。
とにかく、朱姫の汗びっしょりの身体が地面におろされた。
いつの間にか、朱姫の身体の下には毛布が敷かれていた。
さっきまで、苦しめていたおかしな香の責め具もない。
沙那が毛布を敷いたりした記憶がないので、もしかしたら、一瞬気を失ったのだろうか……?
「さあ、もう許してあげるわ。これに懲りたら、もう悪戯はやめるのよ」
沙那が朱姫の手首と足首の縄を解きながら言った。
どうやら、沙那は朱姫を許す気になったようだ。
やっぱり、沙那は優しい……。
朝まで責めるというようなことを言ったくせに、結局、そこまで冷酷にはなれなかったようだ。
だから、沙那は素敵なのだ。
朱姫に対して、最後に最後に甘えさせてくれるところも……。
沙那が朱姫の顔をじっと睨んでいた。口元は厳しかったが、眼もとは笑っていた。
「嫌ですよ……。沙那姉さんも、仕返しの機会がないとうっぷんが溜まって大変でしょう。朱姫は、沙那姉さんの心の安定に協力してあげているんですよ。悪戯することで……」
朱姫は思い切り舌を出した。
「あ、あんたって、まだ、懲りないの──。いい加減に……」
沙那が声をあげた。
「散りぬべき……時知りてこそ……世の中の……花も花なれ……人も人なれ……」
朱姫は朱姫は呟いた。
その瞬間、沙那の身体が硬直したように静止した。
沙那の身体にかけている『縛心術』が表に出たのだ。
沙那は不意に眠ったようになった。
鍵となる言葉を朱姫が沙那に聞かせたために、『縛心術』が呼び起こされたのだ。
朱姫はぐったりと倒れてくる沙那の身体を朱姫は受けとめた。
「呆れたねえ……。お前、また、沙那の身体に『縛心術』を隠してかけていたのかい? まったく、懲りないねえ……」
離れて見物していた宝玄仙が苦笑している。
ふと見ると、その横の孫空女はすでに寝息を立てている。
敵が近づけば、すぐに気配で跳び起きるのに、こんなことには絶対に目を覚まさない。
眠りが浅いのか、深いのか不思議な体質だ。
いずれにしても、孫空女はしばらくは目を覚まさないだろう。
「こればっかりはやめられませんよ、ご主人様……。沙那姉さんをからかうのは、あたしの愉しみなんです……。それに、あたしだって、ちゃんとお仕置きを受けたんですから、お互い様ですよ」
朱姫は沙那の身体を毛布の上に横たえると、そばに置いてある朱姫の衣服を身に着け始めた。
「まあ、そんな鍵を沙那の身体に仕込んでいたのなら、沙那のお仕置きのあいだも、抵抗しようと思えば、抵抗できたというわけかい……。お前としては、ちゃんと誠意は示したといいたいのかい? ところで、お前、なにやってんだい、朱姫?」
服を着込んだ朱姫が、朱姫が拘束されていた縄を回収するとともに、沙那の身体を肩に担いだのを見て、宝玄仙が驚いたような声をあげた。
「沙那姉さんに、ちょっとした悪戯をするんですよ、ご主人様。いままであたしを吊っていたのを同じような恰好で、今度は沙那姉さんを吊ったら面白いと思いませんか? それも、沙那姉さんが気がついたら、まったく別の場所でお尻丸出しで、樹木に吊られているんです……。しかも、周りに誰もいなくて……。沙那姉さん、きっと悲鳴をあげますよ」
朱姫は言った。
すると、宝玄仙が膝を叩いて笑い出した。
「それはいいよ──。吊り終わったら、わたしを呼びにおいで」
宝玄仙が笑いながら言った。
朱姫は片方の肩に沙那の身体を乗せて、忍び笑いをしながら歩き出した。