「す、すごかったです。大勢の賊徒があっという間に……」
十歳の童女の姿の地湧子が、十八歳の白女真に女主人のような口をきけば怪しまれてしまうだろう。
だから、三人の中では、外向きには白女真が十二歳の愛麗と十歳の地湧子を連れているという体裁にしている。
それについては、白女真と愛麗に言いきかせてもいる。
それにしてもびっくりした。
地湧子としては、とりあえず宝玄仙に取り入って旅に同行し、宝玄仙の隙を見て地湧子が得意とする『縛心術』にかける機会を探るつもりだった。
そのため、宝玄仙の供を誘拐させて、その供とともにこの砦を脱出して宝玄仙に出遭うことで、西に向かう旅にしばらく宝玄仙と旅を同行する機会を得る……。
それを狙っていたのだ。
地湧子の道術が宝玄仙を上回るのであれば、こんな凝ったことをしなくても済むのだが、地湧子の道術では宝玄仙にかなわないことを知っている。
唯一可能性があるのは、『縛心術』だが、おそらく、宝玄仙にはそれも簡単には通用しないだろう。
だが、『縛心術』は、心の弱っているときや、体力と気力が低下しているときにかかりやすくなる。
例えば、圧倒的な性の絶頂の連続で、身も心もぐったりとしているときのような……。
しかし、そのような状態の宝玄仙を作るには、まずは、宝玄仙と夜の営みをするような間柄になる必要がある。
そこが付け入ることのできる唯一の隙だと思っている……。
宝玄仙は多淫の癖だ。
性には解放的であり、きっかけさえあれば男でも女でも誰とでも寝る女だ。
旅に同行することさえできれば、そういう状況にすぐに陥る。
それには、白女真はうってつけだ。
宝玄仙が、ああいう気丈な女を嗜虐していたぶるのが好きなのをよく覚えている。
地湧子や
白女真に手を出せば、地湧子が裏で操って、宝玄仙を性的に追い詰める……。
それもできると思う……。
だから、ここの黒松林の頭領を操り、賊徒たちをけしかけて供を連れて来させた。
白女真は最初から狙っていたわけじゃないが、たまため、砦にうってつけの女がいたから、そのまま宝玄仙を捕らえる餌として使うことにしたのだ。
もしも、白女真がいなければ別の手を使っただろう。
とにかく、宝玄仙の供である沙那を捕らえた後は、地湧子のことをただの人間の童女だと思わせたまま、賊徒たちの隙を見て脱出した風を作り、沙那を通して旅の同行に合意させるつもりだった。
陥空山は賊徒の多い土地だ。
一度は助かったが、陥空山を降りるまで、安全のために一緒に旅をしたいというのは、ごく自然な流れだ。
だが、地湧子の目論見はすっかりとあてが外れてしまった。
宝玄仙の供の孫空女という女があんなに強いとは思わなかった。
大勢いた黒松林の賊徒を二十人くらいに減らしたのは、あまりにも多いと隙をみて脱走をしたというのが不自然になると思ったからだ。
まさか、女ひとりに二十人の屈強な賊徒が圧倒されるとは思わなかった。
だが、それは事実だ。
表門から堂々とやってきた孫空女は、砦の門を金色の棒で壊して大穴を開け、侵入を拒もうとした黒松林たちを一瞬で制圧すると、追い回して砦から追い出してしまった。
二十人近くいた賊徒がたったひとりの孫空女に逃げ惑って泣くのは、まるで滑稽物ものの演劇でも観るようだった。
いずれにしても、黒松林たち賊徒はもうどこかに行ってしまった。
まあいい……。
予定とは違ったが、宝玄仙の旅に同行できればそれでいいのだ。
あとは隙をみて、宝玄仙を性の技で圧倒して疲労困憊させ、『縛心術』をかけてしまう機会を作る……。
それだけだ。
「ね、ねえ、ご主人様、わたしには、一体全体、なにが起きたのか……」
檻の中の沙那が宝玄仙に言った。
「えっ? ああ、そうなんですか、沙那姉さん……? だ、だったら、いいですよね、ご主人様……。これで助かったんだから。よかったじゃないですか。うん、これでよかったです」
わざとらしい陽気さを装っている少女は朱姫だろう。
それ以外はよくわからない。
朱姫からはかすかな霊気を感じる。
大した道術遣いではないと思うが一応は道術を使うようだ。
ただ、半妖というのは霊気がわかり難い者が多い。
朱姫もそうである可能性はある。
「なにがよかったよ、朱姫──。だいたいは察しはついているのよ。あんた、わたしに『縛心術』をかけたでしょう。それで、わたしの意識をなくさせて……。それで、あんたが馬鹿だから、わたしの身柄を賊徒に連れて行かれてしまったんじゃないの? あとでじっくりと訊かせてもらうからね」
「な、なんだ……。全部知っているんじゃないですか……。よくわからないなんて言うなんて狡いですよ……」
朱姫が頬を膨らませた。
「な、なにが、狡いよ──。図星なのね──。承知しないいわよ。覚悟しなさい」
沙那が叫んだ。
横で宝玄仙が大笑いしている。
宝玄仙は愉しそうだ。
地湧子は呆気にとられた。
あんなに心からの無邪気な笑いをする宝玄仙を初めて見るような気がしたからだ。
八仙ほどの天教の最高位にあった者が、その故郷の東方帝国を追放も同様のかたちで出立させられたのだ。
西域、つまり、魔域に向かう巡礼の旅などただの口実だ。
事実上の国外追放処分でしかない。
しかも、宝玄仙がどこかで野垂れ死ぬことを期待して、ろくに従者も情報も与えずに放り出したのだ。
路銀の手当てだって教団本部はなにもしなかった。
宝玄仙は途中までは、地方寺院などを回りながら、神儀を務める代わりに教団の地方寺院から路銀を得ながら旅をしたようだったが、そのうちに教団はそれさえも邪魔をした。
地方寺院に宝玄仙への手配書を回し、影響力を利用して帝国の属国を動かして、宝玄仙を逮捕させようとしたのだ。
宝玄仙はそれでも旅を続け、やがて、教団は宝玄仙の行方を把握できなくなった。
彼女ほどの地位のある貴族巫女が、数年間も当て所のない旅をさせられてきたのだ。
その旅が苛酷なものだったということは、想像してあまりある。
だから、地湧子は、苦しい旅ですっかりと疲れているに違いない宝玄仙を想像していた。
しかし、眼の前の宝玄仙からは、その旅のつらさなど微塵も垣間見えない。
それどころか、人生を謳歌しているような気楽さまで滲んでいるように思えた。
まだほんの少し接しただけだからなんとも言えないが、いまの宝玄仙からは、仄かな穏やかさえ感じる気もする。
地湧子は、もう少し、いまの宝玄仙を観察してみたいと思い始めてきた。
宝玄仙が連れている三人の供との関係も、どんな感じだろうかと思ったが、地湧子が想像していたようなものとは違った。
なんとなく仲がよさそうだ。
三人の供も、あの宝玄仙に奴隷として虐げられているという雰囲気はない。
「あ、あの……わたしは、白女真という者です……。お願いです。助けてください」
白女真が檻の中から、宝玄仙に向かって声をあげた。
地湧子は、白女真になにがなんでも宝玄仙に取り入って、旅に同行をさせてもらうようにしろと言い含めている。
予定では、それは沙那を連れて、砦の外の出てからになる予定だったが、白女真はしっかりと自分の役割を覚えいて、その務めと果たそうとしているようだ。
「ああ、助けるよ……。鍵はいま壊してやるよ。ここの賊徒どもはどこかに散らばって消えてしまったから、どこにでも行きな──。孫空女、沙那たちの檻の鍵を壊しちまいな」
宝玄仙が言った。
「うん、ご主人様」
孫空女が肩に担いでいた金色の棒を構えなおして、檻に近づいていった。
「あっ、いえ、そうじゃなくて、山をおりるまで一緒に同行させてもらえませんか? 陥空山の賊徒は、この黒松林たちだけじゃありません。わたしも貧婆国の地方騎士の端くれですから多少の心得えはありますが、なにしろ、子供ふたりを抱えての旅は心細いのです。どうか、貧婆国にある故郷まで……。ほんの二日程度の距離です」
「わたしからもお願い。わたしも強いおばさんたちやお姉さんたちと一緒に行きたい。お願いよ──」
地湧子も白女真に続いて言った。
「お、ば、さ、ん?」
すると、宝玄仙が急に険しい顔を地湧子に向けた。
地湧子はびっくりしした。
「おばさんだって──? ちょっと、孫空女、檻を開けるのは待ちな」
宝玄仙が怒鳴った。
「うわっ」
いきなり暴風を思わせるような霊気の塊が襲って、地湧子は思わず声をあげた。
宝玄仙の霊気だ……。
そして、宝玄仙は怒っているようだ。
地湧子は全身が金縛りになったかのように動けなくなった。
注がれた宝玄仙の霊気は、地湧子に危害を加えるものではなく、地湧子を調べようとしただけのようだが、あまりの霊気の大きさに、地湧子は身体をすくんだようになってしまったのだ。
宝玄仙の怒ったような表情にもどきりとしたが、もっと地湧子を凍りつかせたのは、いきなり注がれた圧倒的な霊気だ。
やっぱり、宝玄仙は地湧子とは格段に霊気が違う。
とてつもない霊気の量だ。
実際に眼に見える現象として表われたわけではないが、霊気を感じることのできる地湧子には、宝玄仙の霊気はまるで突風に襲われたかのようだった。
「へえ、お前も道術遣いの端くれかい……」
宝玄仙がにやりと笑った気がした。
そして、もう一度、あの暴風のような霊気が襲いかかった。
すぐに、本当に身体が動かなくなってしまっているのがわかった。
道術──?
しまったと思ったときには遅かった。
まるで用心をしていなかったので、宝玄仙の道術をまともに受け入れてしまった。
地湧子の身体は、完全に宝玄仙の道術に捕まえられていた。
しかも、地湧子の身体にある霊気という霊気を宝玄仙から伸びている霊気の先に捉えられている。
霊気が完全に固定された……。
それは、身体が動かない以上に、地湧子の恐怖を与える。
背に冷たい汗が流れた。
「お、おばさん……。や、やめて──」
地湧子は思わず声をあげた。演技ではない心からの恐怖の叫びだ。
「へえ……。まさかとは思ったけど、本当にわたしのことをおばさんと言ったのかい……。わたしに面と向かって、そう言ったのは、いままでいなかったよ……。こう見えても見た目なんて、沙那や孫空女とそんなに変わりはしないと思っているからね……」
宝玄仙が冷酷そうな笑みを浮かべてやってくる。
地湧子は自分の顔が引きつるのがわかった。
なんで宝玄仙が気分を害しているのが、やっとわかったからだ。
言われてみれば、地湧子もそうだが、宝玄仙も見た目は若い。
地湧子や宝玄仙くらいの道術遣いになると、外見の若さなど好きなように変えられるからだ。
地湧子は、宝玄仙の本当の年齢を知っているから、思わずそう呼びかけてしまったのだ。
だが、なにをするつもりだ……?
まさか、十歳の子供からおばさんと呼ばれたくらいで、子供相手に手荒なことはしないと思うが……。
とにかく、地湧子はいまは宝玄仙の道術に捕らえられて動くことができない。
「ご、ご主人様、なにしているの? 鍵を壊しちゃいけないのかい?」
孫空女が沙那の檻の前で当惑した表情を向けている。
「そのままにしておきな。沙那を出すと小うるさいからね……。この童女へのお仕置きが終わってから、沙那の檻は開けることにするよ」
そして、宝玄仙が地湧子の前までやってきた。
地湧子が身に着けている帯の結び目を掴む。
「な、なに?」
地湧子は顔を宝玄仙に向けた。
その宝玄仙が今度はにやりと笑う。
「ご、ご主人様、なにをするつもりですか──。そんな子供に──」
檻の中から沙那が叫んだ。
「なに、ちょっとした心の痛みをこの童女に植え付けてやるのさ……。わたしは、子供にだって、おばさん呼ばわりされるのは嫌いなんだよ。初めて遭った大人にはちゃんと礼儀をわきまえろと言うことをこいつに教えるのさ」
宝玄仙が帯を解き始めるた。
地湧子の服を脱がそうとしている?
びっくりした。
しかし、地湧子は指先だって動かせない……。
帯が足元に捨てられた。
「う、うわっ──。や、やめてよ──」
地湧子は声をあげた。
着ている着物は左右の合わせ目を閉じて、それを腰の帯で縛っているだけだ。
その下には下着さえも付けていない。
地湧子の外側の着物と、その内側の薄物が支えを失くして真ん中で拡がる。
「どんな身体をしているか、お見せ──」
宝玄仙が二枚の着物の肩の部分を掴んで、その場に落とした。
地湧子の身体は呆気なく全裸に剥かれていしまった。
「や、やめてください、ほ、宝玄仙様──。わ、わっ、わっ──」
さすがに地湧子は羞恥に声をあげた。
「ご、ご主人様、やめてください──。そんな子供に──。ね、ねえ、孫女、朱姫──。やめさせるのよ──は、早く──」
沙那が絶叫している。
「そ、そんなこと言われても……」
「そ、そうですよ……。ご主人様をとめるなんて……」
孫空女と朱姫も困惑した様子だ。ただ、宝玄仙をとめるつもりは、これぽっちもないということはわかる。
「いいから黙って見てなよ、沙那……。別段、こんな童女の破瓜をこんなところで破ったりはしないさ……。おっ、その歳のわりには、毛深いじゃないかい……。まるで使い込んだ女の股のようだよ……。それに比べれば、胸はさすがにぺちゃんこだねえ……。どれ……」
宝玄仙の指が地湧子の平らな胸に伸びてきた。
「うっ……」
地湧子は歯を噛みしめた。
小さな乳首を宝玄仙の指ですくいあげられて、そろそろと触られたのだ。
その指先を通じて、電撃のような刺激が迸る。
宝玄仙の性技は一流だというのは、宝玄仙の帝都時代には有名な話だった。
その手管が身動きできない地湧子に襲いかかっててる。
まるでなにかを塗っているようになめらから指先の肌触りと、性欲を起こさせる小刻みで巧みな指先の振動に、地湧子は耐えられなくなって、「ああ……」とひと声鳴いてしまった。
「この反応は、まったくの未経験じゃないね……。その歳でまさか経験者かい……?」
宝玄仙が地湧子の耳元でささやいた。
地湧子はぎくりとした。
慌てて、宝玄仙の愛撫に耐えようと歯を食い縛る。
確かに、性的に未発達のはずの十歳の童女が簡単に欲情してしまったら不自然だろう。
だが、宝玄仙の技巧は半端なものじゃない。
あっという間に、地湧子は全身の性感を呼び起こされた。
性技に関しては地湧子も自信はあるが、この状況ではあまりにも分が悪すぎる。
「……股も濡れてきたね……。女の匂いがするよ。少なくとも自慰の経験はあるね……。まあ、わたしが自慰を覚えさせられたのは、五歳か六歳頃だったからね。十歳じゃあ普通か……。十歳で性経験があっても、わたしは驚かないけどね」
宝玄仙が笑いながら地湧子の恥毛に包まれた股間の亀裂に手を伸ばしていた。
「ひっ」
まさかとは思ったが、本当に股に指を挿し入れてくる。
もっとも、触れているのは、亀裂の上側の肉芽に当たる部分だ。
さすがに、十歳の童女の女陰を指で破ろうとまではしないようだ。
しかし、その代わりに、その肉芽を中心に優しい手つきでゆっくりと揉み押してくる。
見た目は十歳でも、実際の地湧子は性を知り尽くしている女の身体だ。
この宝玄仙の愛撫にだんだんと甘美のうねりに溺れてしまいそうになってしまう。
「一生懸命に我慢している顔が可愛いじゃないかい……」
宝玄仙は胸を弄っていた手を地湧子の腰に回して、身体を引き寄せられた。
檻の中で沙那が喚き続けているが、それ以外のほかの四人は呆然としている感じだ。
宝玄仙に唇を奪われた。
股間を弄られながら、口の中を宝玄仙の舌で愛撫される。
強烈な快感が全身に走る。
突然になにも考えられなくなる。
わけがわからなくなって、地湧子は全身を激しく揺らした。
身動きできないことが、地湧子の身体の反応を助長してもいると思う……。
「そんなに嬉しいかい、子供……? そこまでやるつもりはなかったけど、きっちりといかせてやるよ……」
宝玄仙が唇を離す。
そして、肉芽の部分に置いている宝玄仙の手のひらがだんだんと速い動きで動き出した。
「あ、ああっ、あああ……」
もう、地湧子にはそれを拒む力は失っていた。
すべてが気だるい陶酔の中にあった。
時折、強い快感が走り抜ける。
そして、その快感の矢の間隔が短いものになっていく……。
「ゆ、許して、宝玄仙……さ……ま……」
地湧子は口走った。
全身が強い震えに包まれる。
「ああっ……あくうううっ──」
宝玄仙の手に股間を押しつけるようにして、地湧子は全身の弓なりの反らせた。
がくんがくんと身体が大きく震えた。
気がつくと全身を硬直させて昇天していた……。
「すごい、いきっぷりじゃないかい──」
宝玄仙が手を離した。
同時に、全身を硬直させていた道術の縛りもなくなる。
地湧子はがっくりとその場に崩れ落ちるた。
「これに懲りたら、大人には言葉に気をつけることだね。特に、我が儘そうで、意地の悪い女を相手にするときはね……」
宝玄仙の嘲笑が頭の上から注がれた。
地湧子は荒い息をしながら、興奮を鎮めようとした。
そして、息が整ってくるにつれて、だんだんと怒りが込みあがってきた。
地湧子の長い人生でも、これほどの一方的な恥辱はそうはない……。
宝玄仙に対する強い怒りがふつふつと湧いてくる。
「……あ、あのお願いです……。どうか、わたしたちを旅に同行させてください」
白女真の我に返ったような声が聞こえた。
自分の役割を思い出したようだ。
健気な女だ……。
しかし、この状況ではどうだろうか……?
地湧子はやっと顔をあげることができた。
とにかく、床に落ちている着物を手を伸ばして手繰り寄せた。
それで裸身を隠した。
「ご免だね──。じゃあ、行くよ、お前たち──」
宝玄仙が高笑いしながら出口に向かって歩き出す。
「ま、待って、ご主人様──。朱姫、一緒に行きなさい──。孫女、早く、檻の鍵を──」
沙那が檻の中で叫んだ。
沙那の指示を受けた朱姫がすでに出口にいる宝玄仙を追いかけていく。
「う、うん。待って、沙那──」
孫空女が慌てたように、沙那の檻の鍵を棒で壊した。
次いで、白女真と愛麗の鍵を壊していく。
「ま、待ってください、ご主人様──」
沙那が駆け出していく。
三個の檻の鍵を壊した孫空女もそれを追っていった。
地湧子は着物で裸身を隠したまま我に返った。
「だ、大丈夫ですか、地湧子様……」
白女真と愛麗のふたりが、心配した表情で地湧子の横にしゃがみ込んだ。
「あ、あいつ、許さないよ、宝玄仙──」
やっと激しい怒りに包まれた地湧子は、心の底からの叫びを口から迸らせた。
(第95話『童女と盗賊団』終わり、第96話『童女の紡ぐ操りの罠』に続く)