宝玄仙に声をかけられて、朱姫が朝食に降りていくと、そこにいたのは、宝玄仙と孫空女、そして、昨日から旅に同行することになった地湧子たち三人の合わせて六人だった。
沙那の姿はない。
沙那は、昨日は朱姫に仕返しをするということで、最初は朱姫と同部屋になったのだが、孫空女が白女真と武術の話を続けたいというので、急遽、沙那が宝玄仙の相手をすることになり、宝玄仙の部屋に行ったのだ。
その沙那が朝食に降りてこない。
「沙那姉さんは、どうしたのですか、ご主人様?」
なにが起きたのか、朱姫にもおおよその検討はついたが、一応は宝玄仙に訊ねてみた。
すると宝玄仙が喉の奥で笑った。
「まだ、寝ているよ──。おそらく、午前中は使い物にならないだろうね……。だから、もうひと晩、ここに泊まることにするよ、朱姫」
宝玄仙が言った。
朱姫は、沙那も可哀そうにと少しだけ思った。
そして、宝玄仙が白女真に視線を向けた。
「……そういうわけだから、悪いけど、お前たちだけで先に行っておくれ、白女真──。今夜はお前のところに泊ると約束はしたものの、夕べはどうもやりすぎてねえ……。今日はもう進めそうにないから、もう一日、ここですごすよ。お前たちは、別に付き合う必要もないし、三人で先に行っておくれ、もう、貧婆国に入ったし、旅の危険も少ないんだろう?」
「だったら、わたしたちも、もう一泊します。実のところ、賊徒の砦は大変でしたし、一日くらいは旅を休んでから領地に帰りたいと思っていたのです。わたしたちも、もう一日泊まります」
「そうかい、好きにするさ」
宝玄仙が言った。
食事が来た。
大皿に全員の分を持った肉と野菜を乗せて焼いた焼き菓子だ。
朱姫は、最初に沙那に後で持っていってあげる分の料理を取り分けた。
残りはみんなでそれぞれに摘まんで食べる。
「ところで、孫姉さんは昨夜は戻ってきませんでしたね」
朱姫は焼き菓子を口にしながら、横の孫空女に言った。
「つい、遅くまで白女真と話し込んじゃってね……。そのまま、寝ちゃったんだよ」
孫空女はあっけらかんと言った。
「ふうん……。そうですか……」
朱姫は頷いた。
「今日の旅がないのなら、朱姫姉さんと孫姉さんと遊びたいな。おふたりとも、わたしのへやに来てくれませんか? 面白い遊戯があるんです。みんなでやりたい──」
そのとき、不意に地湧子が言った。
「えっ?」
そのとき、朱姫の中になにか熱いものが流れ込んだ気がした。
次の瞬間、朱姫は理由もなく、地湧子の申し出に従って彼女たちの部屋に行きたくなった。
「いいですか、ご主人様?」
朱姫は訊ねていた。
一方で、朱姫の中のもうひとりの自分が、地湧子の部屋に行って一緒に遊びたいと思ってしまった朱姫自身に首を傾げていた。だが、その不審の気持ちは、すぐにしぼんで消えてしまった。
「まあ、好きにするさ──。わたしももう少し寝ることにするよ。沙那が起きられないということは、すなわち、わたし自身も寝不足ということだしね……」
宝玄仙が悪びれた様子もなく声をあげて笑った。
*
少し、時間が経ってから来てくれと孫空女が言うので、朱姫は首を傾げながら言われたとおりに、時間を置いてから白女真たちが寝泊りをしている部屋にやってきた。
「あっ」
朱姫は部屋に入るなり声をあげてしまった。
部屋には寝台が四個あるが、そのうちのひとつに素っ裸の孫空女が乗っていたのだ。
しかも、地湧子たち三人はちゃんと服を着ていて、寝台の回りに椅子を集めて、まるで寝台を見物するように取り囲んでいる。
「ど、どういうことなの──? そ、孫姉さんもなにをしているのです?」
朱姫は声をあげた。
「地湧子様が、あたしとあんたが愛し合うのを見物したいんだってさ。だから、協力してよ」
寝台の上の裸の孫空女がにっこりと笑って、朱姫に両手を伸ばした。
朱姫は呆気にとられた。
すぐに、これは『縛心術』かなにかの操り術に違いないと思った。
それにしても、孫空女はいま、“地湧子様”と呼んだか──?
朱姫は思わず、部屋の奥にいて椅子に腰掛けている十歳の童女に視線を向けた。
「宝玄仙の供は全員が百合の関係というのは知っているよ。三人で見物するから、孫空女と同じように裸になって愛し合っておくれ。白女真と愛麗の見本になってよ」
地湧子が笑った。
かっとなった。
いくらなんでも、そんな見世物のようなことをするのは我慢ならない。
「うん……。早く寝台においで、朱姫」
孫空女が微笑んでいる。
朱姫は地湧子を睨んだ。
あれは、孫空女であって孫空女ではない。
孫空女が宝玄仙の命令以外で、こんな破廉恥な行為を他人に見せようとするわけがないのだ。
孫空女をあんな風に操るなんて許せない──。
「し、しっかりしてください、孫姉さん───。孫姉さんは操られているんですよ」
朱姫は怒鳴りあげた。
しかし、孫空女はきょとんとしている。
朱姫の言葉が信じられないとかいう感じではなく、話す言葉そのものが理解できないという表情だ。
ここにも『縛心術』の影を感じる。
「あんたの仕業ね、地湧子? 孫姉さんの術を解くのよ──」
朱姫は大きな声をあげた。
同時に、地湧子に『縛心術』をかけようと霊気を集める……。
「眼を閉じよ、朱姫──」
不意に地湧子が叫んだ。
「あっ」
朱姫は声をあげた。
突然、視界が消滅したのだ。
すぐに、それは自分が眼を閉じてしまったからだとわかった。
だが、瞼を開くことができない。
『縛心術』だ……。
朱姫は当惑した。
すでに、朱姫は地湧子の術にかかっている状態にあったのだ。
やっと、それに思い当たった。
考えてみれば、特に大きな理由もなく、のこのこと地湧子たちの部屋に遊びに来るなど不自然だ。
おそらく、朝食の時点ではすでに『縛心術』にかかった状態にされていたのだ。
しかし、『縛心術』といっても、その深さは万別だ。
いまは、おそらく、まだ軽くかかっているという状況だろう。
このまま、操り状態を持続されればさらに深くなり、すべてを支配された人形に成り下がってしまう。
だから、いまのうちに術を解かなければ……。
だが、実は朱姫の道術遣いとしての力の源は眼だ。
眼を塞がれると、霊気を集められなくなるのだ。
これはまずい……。
朱姫の背に冷たい汗が流れた。
「ぐずぐずするんじゃないよ、朱姫。早く、服を脱がないかい……」
地湧子の声がした。
抵抗しなければ……とは思う。
しかし、手が自由にならない。
それどころか、朱姫の手は地湧子の言葉に従おうとして、上衣を脱ごうと服のぼたんを外そうとしていた。
朱姫は気力を振り絞って、それを阻止しようとした。
視界には映らないが、朱姫の両手は地湧子と朱姫自身の意思に挟まれて、朱姫の身体の前でどちらにも動かず震えている。
「ほう、さすがは術師でもあるだけあって、孫空女よりはましか……。だけと、抵抗できるのはその程度なのね。孫空女もそうだけど、その程度の能力じゃあ、宝玄仙を魔域で守れやしないでしょう? 魔域など諦めるのね……」
閉ざされた視界の向こうで、地湧子の嘲笑うような声がした。
「そ、そんなこと、あんたに関係ないでしょう──」
朱姫は吠えるような声で叫んだ。
「それもそうね……。じゃあ、、孫空女、朱姫が服を脱ぐのを手伝いなさい」
「はい、地湧子様」
孫空女の明るい声がするとともに、寝台の上の孫空女が動く気配があった。
その孫空女が朱姫の身体を掴む。
「や、やめて、孫姉さん──。正気に戻って──。お願いですから──」
朱姫は悲鳴をあげた。
だが、朱姫は、『縛心術』によって拘束されかけているうえに、眼が見えないのだ。抵抗などできるわけがない。
結局、ほとんど抵抗できないまま、あっという間に生まれたままの姿になって、孫空女によって寝台にあげられた。
「お前も孫空女と同じように、全身の感度をあげてあげるわ。肉欲の虜になってしまいなさい。そうしたら、改めて『縛心術』を深くまでかけてあげるから」
地湧子が笑った。
すぐに、全身が熱くなった……。
これは本当にまずい……。
このまま、なにも考えられないくらいに淫情に溺れたら、地湧子の言う通りに、深い操り状態にされてしまうだろう……。
『縛心術』とはそういうものなのだ。
「朱姫……」
孫空女の声だ。
そして、孫空女の手が寝台に上に座っていた朱姫の両肩に触れた。
「あっ」
朱姫は簡単に押し倒された。
押しのけて、孫空女の身体の下から出ようともがいたが、とてもじゃないが孫空女の怪力からは逃げられそうにない。
「そ、孫姉さん、お願い……」
どうやって、事態を打開したらいいのかと考えていたが、それを邪魔するかのように、孫空女の顔が朱姫の股間に埋まった。
「はああっ、だ、だめですっ──」
孫空女の舌が朱姫の股間を舐め始めた。
朱姫の太股の付け根に顔をつけている孫空女が舌の先で朱姫の肉の淵を舐めあげたり、肉芽をしゃぶったり、あるいは、舌を丸めて女陰の中に舌を侵入させたりしてくる。
たちまちに、ただでさえ弛緩している朱姫の身体から、力が抜けていく……。
しかも、舌で刺激している最中も孫空女の両手は朱姫の身体のあちらこちらを擦り動いている。
どこをどうしたら朱姫が感じるかを知り抜いている孫空女の愛撫だ。
それを朱姫は視界を封じられた状態で受けなければならないのだ。
たちまちに朱姫の身体は快感に包まれ、全身をわなわなと震わせた。
しかし、達してしまうわけにはいかない……。
朱姫は固く思った。
もしも、女の快感で昇天してしまえば、そのとき、どうしても心が無防備になって、『縛心術』が深く刻まれやすくなるのだ。
それを防ぎたい……。
とにかく、その一心で我慢しようと決意した。
だが、孫空女の手がどこに移動するのか閉じている眼ではわからない。
だから、孫空女が愛撫の場所を移すたびに、朱姫は悲鳴をあげて痺れたように動かない身体を狂おしく悶えさせた。
「ほう、すぐに達するかと思ったら、頑張るじゃないか、朱姫」
地湧子の揶揄するような声がした。
「ああ、別に簡単だよ……。もしかして、朱姫をいかせればいいのかい?」
朱姫の股間から口を離した孫空女がなんでもないような口調で言った。
そして、仰向けだった朱姫の身体をくるりとひっくり返してうつ伏せにした。
「そ、孫姉さん、そこは許して──」
朱姫は驚いて絶叫した。
孫空女の狙いがどこにあるのかわかったからだ。
しかし、孫空女の指はぐいと朱姫の肛門に挿入されてしまった。
「ひいいっ」
ただでさえ弱いお尻を感度をあげられた状態で刺激されてしまっては、とてもじゃないが耐える自信は朱姫にはなかった。
とにかく、朱姫は歯を食い縛った。
だが、甘い官能の疼きが爆発したようになり、朱姫は甲高い声をあげて、全身の筋肉をぴんと突っ張った。
「あぐううっ」
やっぱり、我慢など不可能だった。
むしろ、懸命に我慢して分、普段よりもかなり深く達してしまったように思った。
朱姫は最初の絶頂を晒してしまった。
そのとき、地湧子の哄笑が聞こえた。
「あああっ──」
朱姫は昇天しながら思わず絶望の声をあげた。
まとまった量の霊気が朱姫の身体に注がれてしまったのがわかったからだ。
朱姫自身の心がかなり深い意識に潜ったような感覚が襲う……。
とにかく、これ以上は……。
朱姫は昂った身体をなんとか鎮めようと、身体を鎮めることに努力した。
「なんだい、ちょっとは歯ごたえがあるのかと思ったら、お尻を責められた途端に一瞬とはねえ……」
地湧子が笑い続けている。
「朱姫はお尻が弱いんだよ。いかせるにはお尻を責めればすぐだよ、地湧子様」
孫空女が陽気な声をあげた。
「さすがは、変態女の宝玄仙の供ねえ……。供も変態揃いときたものだわ。だったら、もう少し連続絶頂させておくれ。多分、後一回か二回でかたもつきそうよ」
「わかったよ、地湧子様」
孫空女がうつ伏せの朱姫の背中を押さえつけた。
改めて、孫空女が朱姫のお尻の穴に指を入れた。
すぐに、孫空女の指が朱姫の請うもんの内襞をまさぐりだす。
「あおっ」
朱姫ははっきりとした快感の塊のようなものを感じて恐怖した。
しかし、いかに防ごうとしても、朱姫の意思ではどうにもならない。
官能の痺れはすぐに全身に拡散する。
「や、やめて、孫姉さん──。あっ、はあっ、ああ……。こ、こいつはあたしたちを操って……ご主人様や沙那姉さんになにかしようと……はうううっ……た、企んでいるに違いないんです──」
朱姫は息も絶え絶えの声で呻くように言った。
「ふん、孫空女になにを言っても無駄だよ。もう、自分の意思なんて持ってないからね」
地湧子が笑った。
「あっ、あっ、ああっ──」
全身に痙攣のような震えが襲いかかった。
快感の頂点がまたやってきたのだ。
そして、遂に二度目の悦楽の頂上に到達した。
「はあああ……」
朱姫は、稲妻に打たれたかのような肉の痺れを受けていた。
そこに、地湧子の霊気がまた刻み込んできたのがわかる。
まるで自分自身の心が押し潰されて消えていような感覚が朱姫に襲いかかった……。