沙那が、剣を抜いて、朱姫に突きつけた。
野宿をしていた山中でのことだ。確か、沙那がもうすぐ、
出発間近の早朝だ。
とにかく、孫空女は驚いた。
「な、なにしてんのさ、沙那――?」
「うるさい、孫女。わたしは、この朱姫に用があるのよ」
沙那が激怒しているというのはわかる。
しかし、いつもは冷静な沙那だから、こんな風に感情を剝き出しにして怒ることは珍しいと思った。
「沙那、奴隷同士で殺し合いは、感心できないねえ」
朝食を終えて、出発の支度が終わるのを待っていた宝玄仙が、呑気そうな声をあげた。
「黙っていてください、ご主人様。これは、わたしたちの問題です。大丈夫です。殺しはしませんから」
沙那は、朱姫を睨んだまま、宝玄仙に振り向きもせずに言った。
「さ、沙那姉さん……。な、なにをそんなに怒って……」
朱姫の顔は真っ蒼だ。
無理もない。
食事を終えて、出発の支度を終え、いつもの見られながら自慰をするという「儀式」の後、いきなり、沙那が朱姫に剣を突きつけたのだ。
「このわたしを見くびらないことね、朱姫――。あんた、このところ、わたしや孫女に『縛心術』を使っているでしょう?」
「縛心術?」
孫空女は声をあげる。
このところ?
沙那や孫空女に?
「そうよ、孫女。こいつは、この数夜、いえ、もしかしたら、ずっと前から、わたしたちを術で操って遊んでいたのよ。慰み者としてね――」
沙那が、しゃがんでいる朱姫に剣をずいと近づけた。朱姫が、尻餅をついたまま、後ずさりした。
「本当、朱姫かい?」
孫空女は言った。
朱姫は真っ蒼の顔のまま、首を横に振るでもなく、縦に振るでもなく、微妙な動かし方をした。
そして、助けを求めるように、宝玄仙の方を見ようとする。
「こっちを見なさい、朱姫――。このわたしから眼を逸らすと、ご主人様がなんと言おうが、お前を殺すわよ」
沙那のその言葉には、ぞっとするような響きがあった。
恐怖で身体がすくんだのか、朱姫が硬直したように動かなくなる。
孫空女は、なんでこういうことになったのかわけがわからず、宝玄仙を見た。
宝玄仙は、なにかにやにやしている。
なにかおかしい。
沙那が、急に激しく怒るなどおかしい。
ましてや、仲間に剣を突きつけるなどおかしい。
これには、なにか裏がありそうだ。
「どうも、このところ、記憶がおかしいのよね。どうしても、繋がらない記憶がある。多分、『縛心術』で操っておいて、それから記憶を消しているのね。そうでしょう、朱姫?」
「で、でも……そ、それは……ご、ご主人様が……」
「眼を逸らすな、朱姫――」
沙那が、大きく足を踏み込んだ。
「ひいっ」
朱姫が硬直した。
「どうするの、朱姫? また、わたしの『縛心術』をかけて記憶を消す? もちろん、そんなことをすれば殺すけど」
「ご、ごめんな……さい」
朱姫の顔は引きつったままだ。
「認めるわね、朱姫」
沙那が静かに言った。
「み、認めます……。で、でも、そ、それは……ご、ご主人様が……」
「人のせいにするな――」
その朱姫に、沙那は稲妻のような剣を放った。
「や、やめろ、沙那――」
孫空女は、『
だが、間に合わない――。
沙那の剣は、真っ直ぐに朱姫に突かれた。
しかし、髪の毛一本くらいのすれすれで、剣は朱姫の顔の間でとまっていた。
「ひっ、ひっ、ひっ」
朱姫が引きつった表情のままで、おかしな震え方をしはじめた。
ふと見ると、朱姫の股間から水たまりが拡がっている。
おしっこを洩らしたようだ。
すると、宝玄仙が突然に大笑いをしはじめた。
「な、なに?」
孫空女は呆気にとられて、宝玄仙の様子を見ていた。
「お、お前、怖すぎだよ、沙那。演技が上手すぎだ」
宝玄仙は手を叩いて悦んでいる。
朱姫はきょとんとしている。
「ごめんなさいね、朱姫。怒ってはいないわ。どうせ、このご主人様がやらせたんでしょう? でも、こっそりと教えてくれてもいいじゃない、朱姫。同じように、ご主人様に苛められている仲間なのに」
沙那が表情をやわらげて、剣を鞘にしまった。
「ご、ごめんさないいいっ」
ほっとしたのか、それとも、感情が戻せなくなってしまったのか、朱姫は、洩らした小便の上に尻餅をついたまま、泣き出してしまった。
「もう、するなとは言わないわ、朱姫。ご主人様の命令には従わなければいけないから……。でも、わたしたちの中で秘密はやめましょう。いいわね、朱姫」
沙那は言った。
「は、はい……」
朱姫は嗚咽を繰り返しながら、顔を何度も縦に振る。
余程怖かったのだろう。
無理もない。
孫空女だって、さっきの沙那の迫力には度肝を抜かれた。
「ご主人様、もういいですよね?」
「ああ、ご苦労さん、沙那」
宝玄仙が言った。
「えっ、ど、どういうこと、沙那、ご主人様? いまのはご主人様がやらせたの?」
「わたしは、沙那に、朱姫の感情を発散させてやれと言っただけだよ、孫空女……。だけど、剣を突きつけろなんて言わなかったよ」
「感情を発散? なんのために?」
孫空女は言った。
「このところ、朱姫は塞ぎこんでいたからね。このわたしが近いうちに、朱姫を破瓜させると言ったのが怖いんだろう? そうだね、朱姫、正直にお言い」
「そんなことは……。もう、覚悟もできているし……」
朱姫は、俯いたまま宝玄仙に言った。
「それだよ、それ。覚悟ってなんだい、朱姫? あれほどの性の手管を見せるお前が宝玄仙の男を受け入れるというだけで、そんなに沈み込んでしまうのがわからないね、朱姫。今日はなんでも言いな。とにかく、溜め込んでいるものがあるだろう。それを口にしな」
宝玄仙は言った。
「それよりも着替えなさいよ、朱姫。孫女、朱姫の着替えを取ってくれる?」
沙那は、くすりと笑うと、尿の上から朱姫を立ちあがらせた。
孫空女は荷の中から朱姫の着替えを出す。
朱姫がいつも来ているのは、上衣と下袍がひとつながりになった女の服だ。
薄い下着もひとつ出す。
「お前たち集まりな」
宝玄仙が言い、荷の周りに孫空女と沙那と朱姫が集められた。
四人で車座になる。
「ここにいるのはわたしたち四人だ。なんでも言おうじゃないか。さっき、沙那も言ったけど、四人で秘密はなしだよ」
宝玄仙が言った。
「なにを言っているんですか、ご主人様が一番秘密が多いじゃないですか」
沙那が呆れた口調で言う。
「そういうところもあるかねえ。とにかく、身体も心もわたしたちは一心同体になろう。そのためには話し合いだ。じゃあ、沙那からいこうか。最初の自慰はどういうものだった? みんなに教えてやりな」
「な、なんでそんなことを言わなくちゃならないんです――?」
沙那が真っ赤になった。
「今日は、なんでも話す日だからだよ、沙那。わたしたちが腹を割る。すると、朱姫も腹を割る。そういうことだ」
「な、納得できません。なんの脈絡かもわからないし、ご主人様が愉しんでいるだけでしょう」
沙那は声をあげた。
孫空女は何気なく朱姫を見た。
確かに心なしか緊張をしているように見える。
そう言えば、ここ数日はずっとそんな感じだった。
命を預け合う仲間なのだから、心の底から打ち解けることが確かに必要だ。
しかし、考えてみると、朱姫はまだそんな感じではないのかもしれない。
もしかしたら、宝玄仙は、それを気にして、朱姫にいろいろとやらせているのだろうか。
まあ、宝玄仙らしいというか……。
よし――。
だったら……。
「あ、あたしは、十二歳だよ」
孫空女は思い切って言った。
三人の視線が集まる。
「な、なに言っているの、孫女?」
沙那があたふたしている。
それでも孫空女は喋り続けた。
「だから、あたしは、十二歳が最初の自慰だと言っているんだ、沙那。十二の頃、あたしは、仲間と一緒に、旅芸人の一座に入っていた。そこで、大人たちが夜に性交をするのを毎夜見ていた。一座に綺麗な踊り子がいてね。その踊り子が、毎夜、ひとりずつ、違う芸人の男の精を受け入れるのさ。それが彼らの仲間意識を作っていたんだ。あたしは、それを見ながら、最初に自慰をした」
孫空女はまくし立てた。
自分の顔が上気するのがわかる。
沙那が諦めたように一度大きく嘆息した。
そして、口を開いた。
「……わたしは、ご主人様に会うまでは、そんなことしたことはなかった。本当よ、孫女。そんな顔しないでよ。まったく、疎かったのよ。そっちの正面には……。こんな風に淫乱になったのは、このご主人様のせいよ……」
沙那が小さな声で言った。
「じゃあ、わたしも言おうか。わたしが最初に自慰をしたのは、帝都で
「慰み者?」
朱姫が驚いた声をあげた。
「お前には、教えていなかったかね、朱姫。このわたしは、帝都で二年間、わたしよりも力の強い道術遣いに奴隷のように飼われていた時代があったのさ」
宝玄仙が朱姫の眼を見ながら言った。
「し、信じられません。ご主人様が……飼われるなど……」
「本当さ。そして、その連中は、わたしが皆殺しにしてやった。だけど、そいつらは、天教の教団の重鎮だったからね、少しばかり、立場の悪くなったわたしは、教団から離れて、こうやって、その手の届かない西域に向かって逃げているところというわけさ」
「そ、そんなことが……。だから、この前、教団兵が襲撃してきたのですね。沙那姉さんや孫姉さんは知っていたのですか?」
「ごめんなさい、朱姫……。知っていたわ。あなたに秘密にしていたつもりはないけど……」
沙那が言った。
「そんなことより、嘘だろう、ご主人様。それが最初の自慰なんて。あたしよりも遅いじゃないか」
孫空女は言った。
「なにが嘘なもんか、孫空女。本当だよ」
「あのお蘭のことは?」
「お蘭がどうしたんだい?」
「もっと若い頃に、お蘭を調教したって」
「だったら、なんだい? そうだね。身体が疼くときは、お蘭にわたしの股間を舐めさせればよかったしね。そういう意味で、自分ではやったことはないのさ。男に不自由したこともないしね。まあ、いまは、男はもういいって感じだけど……。お前たち玩具もいるし」
宝玄仙は笑った。
自慰の話はなんとなく嘘っぽい。
まあ、この際どうでもいいことだが……。
「あ、あたしは……」
話の順で朱姫が口を開いた。
「朱姫、お前の自慰の話しはいいよ。最初に南風山で捕えたときに『魔蛭』に襲わせながら、さんざん喋らせたしね。お前はこれまでの間に人を殺したときのことを話しな」
「えっ?」
朱姫は顔色を変えた。
「そうね、聞きたいわ。あなたのことをもっと」
沙那も言った。
朱姫が三人の顔を見る。
孫空女は朱姫と視線があったときに小さく頷いた。
「……人を最初に殺したのは、両親を眼の前で殺されたときです。母が妖魔であるということが発覚して、突然、天教の法師に率いられた村人が襲ってきたんです……」
朱姫は語りはじめた。
孫空女は、ほかのふたりとともに、聞き入る態勢になる。
「……そいつらは、よってたかって棒で殴って母を殺し、そして父を殺しました……。そのとき、あたしは最初の『獣人』の術を遣いました。気がついたときには両親を殺した男たちは全員あたしが殺していました。次は、村を逃げ出して旅を始めて三年目くらいでした。
「二回目……?」
沙那が静かに口を挟む。
「……はい、沙那姉さん……。最初は、親切で……。孤児で旅をしていたあたしに親切にしてくれて、食事も、寝る場所も……。あたしは、ほんの少しの間、その猟師の男を父の面影に重ねていたんですが……」
「襲われたのかい?」
宝玄仙は言った。
「はい。力でねじ伏せられて縛られました。薬も飲まされて……。もう、どうしようもなくて……。あ、あたしは―――」
「術を使ったのね、朱姫」
沙那がそっと朱姫の手に自分の手を重ねた。
「はい、沙那姉さん。『獣人』を解放して、縄をちぎり、気がつくとあたしは、その猟師を殺していました……。最初の人殺しよりも、二度目の人殺しの方があたしは衝撃でした。最初の人殺しについては、あたしはなんにも覚えていません。でも、二度目は違うんです。あたしは、殺そうとして殺しました。その人を……」
「いいのよ。あなたは悪くない」
「でも……」
「そうだよ、朱姫。そんなやつ、死んで当然だ。あたしが人を殺したのは、もっと、前だよ。九歳だ。飢饉のために、人減らしのために処分されかけた、住んでいた村を逃げて、一年もしないうちに、最初の人殺しを覚えた。仲間を襲った盗賊を返り討ちにしたのさ」
「たった、九歳でですか、孫姉さん?」
「力は強かったからね、朱姫。それで、その盗賊が持っていた金子や服を手に入れた。正直に言えば、そのとき、盗賊というのは、結構、割のいい仕事かもしれないと思ったよ。それから、盗賊稼業さ」
「お前の子供の頃は、旅芸人じゃなかったのかい?」
宝玄仙が微笑みながら軽く首を傾げる。
「いや、最初も盗賊だったのさ。子供だし、ほかに生きる手段なんて思いつかなかった。でも、あるとき旅芸人の一座に仲間と一緒に拾われてね。それこそ、あちこちを旅した。やがて、大人になりきる前に、その一座とも離れて、また放浪……。そのうちに、五行山の盗賊団を乗っ取って、女首領になった。そして、ご主人様と沙那を襲ったところを返り討ちになり、こうやって、供になったということだ」
「なんだい、根っからの悪党じゃないかい」
宝玄仙が笑った。
「まあ、上等な人生じゃなかったのは認めるよ、ご主人様」
孫空女は苦笑した。
誉められた人生じゃなかったのは認めるが、ほかに生きる手段があった気もしない。
もう一度、人生があるとしても、やはり同じように罪を犯しながらも、生きていくかもしれない。
孫空女は必死に生き抜こうとしただけだ。
「じゃあじゃあ、次は、皆さんの最初の男の話をしてください」
朱姫が言った。
心なしか、ちょっと明るくなってきた気もする。
いい傾向かなと孫空女は思った。
「えっ、ええっ?」
しかし、声をあげたのは、意外にも宝玄仙だ。
「喋るのが嫌だとは言いませんよね、ご主人様」
横から沙那が釘を刺した。
「沙那の言うとおりだよ、ご主人様。ちなみに、あたしは十八のときさ。旅芸人の仲間とね……。好きとか嫌いとかは関係ない。とりあえず、済ませておくという感じだったかな。気持ちよくもなかったね。自慰の方がよっぽど気持ちよかった。一番気持ちのよかった性交はご主人様や沙那に襲われたときさ……」
「わ、わたしは襲ったりしないわよ――」
沙那が真っ赤になった。
「そうだね。沙那には、ねだられたんだ」
「あ、あれはご主人様が……」
「えっ、えっ、なにがあったんですか?」
朱姫が笑って、興味深そうな顔になる。
「後で言うわよ……。それよりも、ご主人様です」
沙那が赤い顔のまま、宝玄仙に視線を向ける。
孫空女も頷いた。
「そうだね。じゃあ、次はご主人様の番だ。沙那や朱姫からは、この話題じゃあ、なにも新しい話は出て来はしないだろう?」
「わ、わたしのことを語るのかい?」
「そうだよ、ご主人様。語らないと、出発しないからね」
孫空女は言った。
「わかったよ。言うよ、言う。わたしの最初の男は、流れ道師だよ。犯されたんだ。つまり、強姦されたのさ……」
「ええっ」
三人で同時に叫んだ。
「黙って聞きな。相手は、真面目な変態の道術遣いでね……」
「真面目な道術師がご主人様を犯したのかい?」
孫空女は首を捻った。
横で沙那も「真面目で変態で強姦って……」とぶつぶつ言っている。多分、理解の外なのだろう。
「そうだよ。そいつが、まだ若かった宝玄仙を見染めて、つい襲ったというわけだ。天教の法師には、上にあがるためには、諸国流浪の巡礼が義務でね。そして、ある旅の空で出会ったある男が、真面目にこの宝玄仙を無理矢理犯したのさ。それでねえ……」
宝玄仙はなんだか懐かしそうに語りはじめた。
*
「いい加減に自慰をおやめになってはいかがですか、姫様」
呆れたような
すぐ、そばに立っている。
白骨がどうして、この淫情の香に平気なのかは知らない。
だが、この空気に混じった媚薬は、白骨には影響を与えないようだ。
とにかく、なにも考えられない。
身体が疼きまくって、気が狂いそうなのだ。
なにが、どういう状況かも思い出せない。
ひたすらに股間を愛撫して、快感をむさぼる。
気持ちいい……。
それしか、考えられない……。
「やめろと言っているのがわからないのですか」
その腕が、白骨によって、下袍の裾から強引に引き出された。
「な、なに……?」
まだ満ち足りてない。
達した回数がどれくらいなのかはわからないが、満足しきっていない。
それを邪魔されて、百花は恨めしい気持ちになった。
「まったく、さかりのついた畜生のように、恥ずかしくはないのですか、姫様? 妖魔たちのいい笑い者ですよ。この鏡は、城中の鏡に投影されていると言ったじゃありませんか。それにも関わらず、まさか、自慰を始めるとは思いもしませんでしたよ。しかも、まるで狂ったように、連続で自慰をやり続けるなど」
「お、お願い……は、白骨……。まだ……、まだ足りないのよ……」
百花は、白骨により握られている右手に力を入れた。
だが、白骨の手が離れない。
とっさに、左手を股間に動かす。
しかし、その左手も掴まれた。
右手とともに背中に回される。
金属音――。
背中で手錠をされたのだとわかる。
「そ、そんな……」
「なにが、そんなですか、姫様。これ以上、
「結婚……」
それではっとなった。
そうだ――。
百花は、この城の主人である妖魔と結婚をしろと迫られているのだ。
妖魔は、王国の姫である百花を、ここにいる白骨という奴隷商人の女に誘拐させた。
そして、この異境にある妖魔の城に百花を監禁し、百花を凌辱した……。
「わ、わらわは……、こ、婚姻など……しない」
やっと言った。
だが、二日前までは、絶対の信念として吐いた言葉が、いまは、自分でも信じられなくなっていることを知っている。
このまま、白骨の香を吸い続ければ、もっと百花の身体は淫靡な情欲でいっぱいになる。
いや、すでに、もう、性のこと以外考えられなくなってしまうだろう。
すでにそうなっている。
白骨からは、この部屋の様子は、城中の鏡に投影されて見られていると教えられていた。
それにも関わらず、百花の指は、いつの間にか下袍の中に伸びて、自分の股間を触っていた。
一度始めたら、やめられなかった。
何度も絶頂に達し、そして、いき続けた。
それでも欲情は収まらず、百花はいつまでも自慰を続けた。
そして、呆れ顔の白骨が部屋に入ってきたのだ。
「一昨日は、人前で自慰をするなんて思いもしなかったでしょう、姫様。でも、いまは、こうやって、見られているとわかっているのに、括られなければ、自慰をやめられないではありませんか」
「も、もう、自慰は……見られても……いい……。でも、でも結婚だけは……しない」
「まあ、せいぜい、意地を張ることですね。黄袍魔様には、結婚を承諾しなければ、手錠は外さないようにと伝言しておきます。このお香は、いつまでも流れ続けますから、姫様がどれくらい意地を張れるか見ものですね。それを最後まで見守れないのは残念ですけど」
「ど、どっかに行くの、白骨?」
百花は、手錠で拘束された身体を白骨に向きなおらせた。
「黄袍魔様に挨拶をしてから去りたかったのですが……。地下の牢には、いい雌妖はおりませんでした。王都の市に出す雌妖は、別の方法で手に入れます」
「王都の妖魔市?」
定期的に開かれている市だ。
妖魔を売り買いするための競りが行われる。
この妖魔城に来るまではなんとも思っていなかったが、考えてみれば、妖魔の奴隷市など、妖魔たちの尊厳を無視した恥ずべき人間の所業のような気がした。
「そういうわけですから、これでお別れです。明日の夕方、黄袍魔様によいご返事をなさいませ」
「そ、そんな。待って、わらわも……わらわも王都に連れ帰ってください。後生です。もう、浚われたことは恨みません。誰にも言わないと誓います。お金も払います。ですから、お願いです。王都にわらわも……」
「無理ですよ、姫様。姫様には、その腕輪がおありでしょう。それは、わたしではなく、黄袍魔様につけられたのでしょう? わたしでは外せませんわ」
「そ、そんな――」
「ともかく、その腕輪をしている限り、姫様は、黄袍魔様から離れられませんし、この部屋以外のどこにも行くことはできません。ですから、もう、諦められてはいかがですか? それとも、そうやって、いつまでも苦しみたいのですか」
白骨の手が百花の下袍の裾をまくった。
そして、もう、どろどろに愛液で濡れほそぶ股間の中心に触れる。
すでに下着は、黄袍魔に何度も犯されたときに剥がされている。
「ひいいっ」
百花は嬌声をあげた。
「よいのですか、姫様? 鏡に映っているのですよ。我慢なさいません。こんな姿を妖魔たちに見られてよいのですか?」
「そ……そんな……ああっ――いいいいっ――」
敏感な肉芽の部分をぐりぐりと布越しに愛撫される。
快感が一気に沸騰してせりあがる。
気持ちよさは、自慰の比ではない。
百花は、絶頂に向けて、がくがくと身体を揺すった。
「姫様の穴は、霊具で封鎖されているのですね。お可哀そうに。でも、こうやって動かしたら気持ちいいですか?」
百花が、膣に挿入されている淫具をぐりぐりと動かした。
頭に閃光が走った。
気持ちいい――。
頭に閃光が走る。
もう、なんでもいい――。
見られていようと……そうでなかろうと……。
百花は、快楽に身を委ねようとした。
だが、さっと、白骨の手は離れてしまう。
「そ、そんなあ……」
「どうしたのです、姫様。わたしは、黄袍魔様の依頼により、あなたを王都から浚って、この異境にある妖魔の城まで連れて行き、金粒と交換にあなたを売り飛ばした奴隷商人ですよ。そんなわたしに、凌辱されたいのですか?」
「も、もう、おかしくなりそうなんです……。お、お願いします、白骨」
百花は、半泣きで言った。
いや、もうおかしくなっているのかもしれない。
身体はただれたように熱い。
もう、身を焦がすような疼きを癒すことしか考えられない。
「確かに、これでは、明日の夕方まで持ち堪えられそうにありませんね。じゃあ、どうですか。そこに、この部屋で一番大きな鏡がありますね。その眼の前で一度いけば、お香を止めてあげましょう。いかがです。その代わり、姫様の性器を城中の妖魔に晒け出すことになりますけど……」
考えたのは束の間だった。
「……そ、それでいいです」
口に出していた。
白骨がにやりと微笑んだ気がした。
「よろしいでしょう。ならば、こちらに……」
白骨が百花を促して、大きな鏡の前に百花を立たせた。
欲情しきった淫らな百花の姿がそこにあった。
それを、見られている。この鏡の向こうでは、大勢の妖魔がこの欲情したこの百花を眺めているに違いない。
「下袍をまくります。それを口に咥えてください。もしも、口を離せば、約束はなしです。お香をそのままにして、わたしは去ります。いいですね?」
「わ、わかりました……」
膝まである下袍がまくられ、裾を口に咥えさせられる。
鏡の中で、百花の秘部が露わになる。
百花の陰部は真っ赤に充血して、白濁液が股間から膝まで垂れ落ちている。
「ふ、ふ、ふ。塞がれているのに、隙間からだけで、こんなにも物欲しそうに淫涎をこんなにも溢れさせて……。さぞや、お辛いのでしょうね……。ほら、よくご覧になってください。これが、いまの百花姫様ですよ」
白骨が、ぐいと百花の顎を掴んで、鏡に向けさせた。
みっともない――。
情欲に溺れて、ただ物欲しそうに欲情しきっている雌――。
それが映っている。
それがいまの百花――。
妖魔の嫁に相応しい――。
汚れて卑しい女……。
「それでは、これは、白骨からの贈り物です」
白い布片が勃起した肉芽に貼られた。それは、勝手に小さくなり、百花の敏感な陰核をぎゅっと絞るように吸いついて小さくなる。
「んぐうううううっ」
その肉芽が激しく振動を始めた。
百花は仰け反って悲鳴をあげそうになる。
だが、口を開いたら、香を止めてもらえないという微かな理性が、百花を耐えさせた。
「よく、我慢できましたね、姫様。感心いたしました。でも、もう、口を離してもよいですよ。どうせ、お香をとめる気はありませんから」
白骨夫人が大笑いした。
「そんな……あああっ……ああっ」
百花は、口を開いて抗議の言葉を言おうとした。
だが、動きの激しくなった股間の振動に思わず腰を落としてしまい、なにも言えなくなる。
あとは、もうただ股を擦り合せて耐えることしかできない。
強烈な快感が、百花を貫く――。
「気持ちいいですか、姫様?」
「あああっ、あががあああああっ――ひぎいいいいいいっ――」
なにも考えられない。肉芽が弾ける。頭が白くなる――。
「いぐうううううっ」
百花は、暴発する快楽にもう身を委ねた。
だが、その絶頂の寸前に突然に振動がとまったのだ。
いや、とまってはいない。ただ、動くか動かないかという程度の緩やかな動きに変わっただけだ。
まるで、百花の苦しみと嬌態をなぶるかのように、静かな振動に変わっている。
「そ、そんな……」
「いかがですか、姫様。いまのは、『振動片』という霊具で、女奴隷を調教する場合に使うのに一般的な淫具です。お別れの贈り物に差しあげます。この部屋のお香もさらに焚き込めておきますね……。淫具を外すのも、お香をとめるのも、黄袍魔様にお願いなさいませ」
「あああっ、そ、そんなああ、ああああっ」
百花は泣き狂った。
「それと、姫様の肉芽を包んでいる『振動片』の振動は、装着している間は絶対にとまりません。寝るときも、食事をするときも、たとえ、排便の最中でも動き続けます。でも、ご安心ください。姫様が絶頂に達しそうになると、いまのように、緩やかになり、身体の火照りが少し収まるのを待ちます。そして、また激しく動きます。それをつけている限り、永遠にそれを繰り返すのです」
「や、約束が……、ひぎいいっ」
また、少し激しくなった。
百花は、大きく身体を仰け反らせた。
「姫様にご忠告申しあげます。まだ奴隷の分際で、奴隷商人との約束などしないことです。お香はとめません。さらに、その淫具もそのままにします。あと、二日……。絶頂寸前のぎりぎりの快楽をお愉しみください。もしも、黄袍魔様の花嫁になられましたら、お会いすることもあるかもしれません。そのときは、必要になった奴隷の注文でもしてください。この白骨に……」
「待って――。後生です……。ああっ……。わ、わらわも、王都……に……ああああっ――そ、それよりも……こ、これを……外してっ……」
しかし、白骨は、振り返ることもなく部屋を出ていった。
百花は、後手に拘束された身体を苛む香の香りと、股間の淫具による刺激に、いつまでも、終わることのない嬌声をあげ続けた。