城郭に入ったのは、かなり夕方の遅い時間だったが、無事に全員が城門の霊気検査を通過することができた。
まず、探知機のようなもので身体を走査され、次に旅人ということで国都に入るための税を支払った。
すでに入城税を一度支払っている沙那は、その証明書を示すことで免除にはなった。
また、荷の中に道術を帯びた物がないかどうかの検査も受けた。
想像以上の厳しいものであり、葛籠に入っていたものは一品一品探知された。
霊具である沙那たちの首の首輪や、孫空女の手足にある『拘束環』も走査されたが、それは大丈夫だった。
やっぱり、霊気を消す丸薬が効果を及ぼしているのだと思った。
最後に“衛生薬”という名の飲み物も飲んだ。
伝染病の浸入の防止だという担当の役人の説明だったが、とりあえず、沙那が一回目に飲んだときもなんともなかったので、大丈夫だろうと判断して、宝玄仙たちにもそのまま飲んでもらった。
果たして、三人にも問題はなさそうだった。
それで終わりだった。
城郭への入城が許された。
すでに陽が暮れていたので、もう部屋が空いていない宿屋が多かったが、やがて、宿屋街から外れた場所に一軒の小さな宿屋を見つけた。
訊ねると、部屋は全部空いているということだった。
宿を頼むと、主人は喜んで一階の食堂の卓に四人を導いた。
「四人部屋でも、ひとり部屋を四部屋でもどっちでもいいぜ。今夜は、もう客がいねえと諦めていたところだ。代金は同じだ。それにしても、別嬪さんたちだな。こんなに綺麗な女の人が泊ってくれるなど滅多にあることじゃねえ……」
「なら、部屋は、大丈夫ですか?」
沙那はほっとした。
「いまから、食事の支度をするが、あんたらみたいな綺麗なお客さんに相応しいものを作ってみせるぜ」
宿屋の主人が陽気に言った。
「嬉しいことを言ってくれるじゃないかい。だったら、食事がわたしの想像以上においしいものだったら、今夜の夜の営みにお前も混ぜてやるよ、主人」
宝玄仙が笑って言った。
「えっ?」
宿屋の主人が目を丸くした。
「じょ、冗談です、冗談──。わたしたちの女主人は冗談が好きなんです」
沙那は慌てて取り繕った。
「別に冗談でもないさ。もしも、宿屋代をただにしてくれたら、わたしたち四人が特別奉仕をしてやってもいいよ。どうだい?」
宝玄仙が椅子に座ったまま、すっと下袍の裾を膝の上くらいまでたくしあげた。
宿屋の主人が、宝玄仙の綺麗な脚に吸い込まれるような視線を向ける。
「ま、まあ、冗談ばかり言っちゃって……。嫌ですねえ、ご主人様」
沙那は笑って誤魔化しながら、強引に宝玄仙の下袍を両手で戻した。
宝玄仙が大笑いする。
「そ、そんなことよりも、とにかく、部屋のことですよね──。たまにはひとり、ひと部屋ずつなんてどうですか?」
沙那は言ってみた。
「だめですよ、沙那姉さん」
すかさず朱姫が口を挟んだ。
「そうだね。四人部屋にしておくれ」
宝玄仙がそう言い、四人部屋ということになった。
その時だった……。
急に横でどんという大きな音がした。
沙那は視線を向けた。
ふと見ると、宝玄仙の身体が傾いている。
「ご主人様──。どうしたんです?」
沙那はびっくりして宝玄仙の身体を支えた。
「わ、わからない……。きゅ、急に、力が抜けて……。な、なんだい、これ……?」
宝玄仙が当惑した様子で言った。
「えっ、朱姫──?」
孫空女の叫び声だ。
顔を向けると、崩れ落ちそうな朱姫を孫空女が支えている。
「どうしたのさ、ふたりとも?」
孫空女が声をあげた。
沙那もなにが起きたのかわからなかった。
突然に起こったこの事態に、沙那は途方に暮れた。
「あ、あんたら道術遣いか……?」
主人が怖ろしいものを見たような口調で言った。
「ど、どういうこと……?」
沙那は宝玄仙を支えながら、宿屋の主人に向かって声をあげた。
この事態に心当たりがある気配だ。
「そ、それは間違いなく、城門検査で飲んだ衛生水の影響だ……。最近になって、霊気をとめる丸薬を飲んで侵入してくる道術遣いが後を絶たないということで、国王が外からやってくる余所者には、その魔女殺しの水を服用させるように義務付けたんだ。衛生水と偽ってな……。そんな風に、少ししてから突然に脱力するように倒れるのは、その兆候だ──。害のあるものじゃないらしいが、道術遣いが飲めば、そのふたりのように、身体から力が抜けた状態に陥るらしい……。すまんが通報させてもらうよ。そうしなければ、俺も捕まってしまうから……」
主人がそう言って、席を離れようとした。
「ま、待って、そんなんじゃないの──。持病よ──。持病──。このふたりは、いつもこうなの──。城門で飲んだそんなおかしな液体のせいじゃないわ」
沙那は声をあげた。
あの衛生水とやらが、そんな役割だとは思わなかった。
迂闊だった……。
「それでも、知らせなければならないんだ……。すまん……。衛兵が調べて、道術遣いでないと判断されたら、連れてはいかれないはずだ。走査もこの場で終わるよ」
主人は申し訳なさそうに言った。
そして、戸口に向かう。
これはまずい……。
沙那は慌てた。
「ま、待って──。そうだ。取引き──。取引きしましょう──」
沙那は言っていた。
とにかく、害のないものなら、明日の朝まで乗りきればいい。
そうすれば、宝玄仙の道術は復活して、『治療術』で回復できる。
それから、再びあの丸薬を飲み直せばいいだけのことだ。
宿屋の主人の言った通りの効果だけなら、今夜だけ乗り切れば、もう面倒はない。
「取引き?」
主人は少し興味のある表情を見せた。
沙那はその顔に望みを感じた。
いずれにしても、この状態で通報などをされたら、とてもじゃないが逃げられない。
「黙っていてくれれば、お金を払う──。このふたりは、部屋に連れていくわ。もしも、この発症が部屋に入ってからだったら、あなたは気がつかなかったはずよ。だから、気がつかないふりをしていればいい。もしも、明日の朝まで、この状態が続いていたら、そのとき初めて気がついたようなふりをして届ければいいじゃない──。とにかく、いまは見なかったことにして──」
「見なかったふり?」
「そ、そうよ。わたしたちは、すぐに部屋にあがってしまって、部屋でどうかなったかなんて、あなたは知らなかった……。そういうことにしてよ……。ねえ、届けをしたら、なにか賞金でももらえるの? だったら、その倍を支払うわ──。黙っているんじゃない。気がつかないでいてくれたらいいのよ──。ねっ? 損な取引きじゃないと思うわ──」
沙那は一気に言った。
「……まあ、確かに、届けをしたところで一銭ももらえるわけじゃないが……」
主人は困った顔になった。
「宿賃を三倍……。いいえ、五倍払う……。それで、忘れて──」
沙那は言った。
「だったら……」
すると、宿屋の主人がなにかを思いついたような顔になった。
「……だったら、金の代わりに、さっき、その女主人さんが言っていた特別奉仕というのはどうかな? それをしてくれたら見逃してもいいぜ……」
主人がにやりと笑った。
*
沙那と孫空女というふたりの若い女が、連れの宝玄仙と朱姫の身体と食事を二階の部屋に運んでいってから、それなりの時間がすぎた。
宿屋の主人である
それにしても、あのふたりが性奉仕をしてくれるというのは本当だろうか。
趙俊は、なんだか怖ろしいような気持ちと、そして、不意にやってきた幸運に興奮する気持ちが入り混じった複雑な心地だ。
もともと、なんの罪もない人間を役人に通報して捕まえさせるというのは気が進まないことだった。
なにしろ、ただ捕らえられるだけじゃない。
牢に入れられて、翌日のうちには広場で首を切断して処刑されてしまうのだ。
それが趙俊の通報で行われるとしたら、まるで趙俊が処刑を決めたような感じであり、目覚めが悪いこと、このうえない。
ましてや、基本的には四人とも善良そうな若い女たちだ。
趙俊はできれば届けたくなかった。
若い女の客を残酷な目に遭わせるのは、どうしても気が進まない。
しかし、道術遣いが立ち入り禁止であることは、この国都の昔からの掟であるし、客が道術遣いであったことを知ったのに届けをしなければ、その者にも厳罰がある。
特に、余所者と応対することが多い宿屋業の者には厳しく、「魔女殺し」の水に反応して倒れた客を通報しないで見過ごしたことがばれれば、趙俊も棒打ちの刑くらいを食らうことは間違いない。
それで、お願いだから役人に届けないでくれと懇願する沙那に、趙俊に対して性奉仕をしてくれるならいいと言ってみた。
四人は趙俊がこれまでに会ったこともないような美女揃いだったし、このうちの誰が相手をしてくれるとしても、おそらく、趙俊の人生であるかないかの幸運になるに違いない。
その代償があれば、道術遣いを宿泊させたことを黙っていたことが後で発覚して、趙俊が罰を受けたとしても、十分に趙俊の心は慰められるではないかと思ったのだ。
別にあの女たちを脅迫しようという気持ちはない。
若い女だ。
身体を抱かせろと要求すれば怒るかもしれないとは思った。
だったら、ちょっと身体を触らしてくれるとか、口づけを許してくれるとかでもよかった。
それでも納得できるし、逆に、それくらいはあの女たちもしてくれてもいいはずだと考えた。
見逃すということは、それだけ趙俊だって危険があるのだ。
しかし、あの沙那はあっさりと性奉仕を応諾した。
これには、要求した趙俊の方がびっくりしたくらいだ。
とにかく、倒れた仲間を二階に寝かせて、先に食事などをさせて、それから沙那たちが一階に戻って来るということになった。
ふたりが宝玄仙と朱姫という倒れてしまった道術遣いを二階に運びにいってすぐに趙俊は四人の食事を作った。
倒れたふたりの分については、横になったまま食べられるような柔らかいものだ。
しばらくすると、孫空女という赤毛の女が食事を取りに来た。
孫空女は、お願いだから役人には届けないでくれと、もう一度念を押してから、趙俊が準備した食事をまた二階に持ってあがった。
それから趙俊としては待つしかなく、こうやって一階の食堂でぼうっとしている。
今夜はほかには客はおらず、別にすることはないのだ。
それにしても、ほかの泊り客がいない日でよかったと思った。
ほかの客がいる前で倒れられてしまえば、趙俊としても、どうしても役人に届けないわけにはいかないからだ。
やがて、沙那と孫空女が二階から降りてきた。
「お、お待たせしました……」
「よ、よろしく……」
ふたりが趙俊の座っている椅子の前に立った。
「おう……」
なんと言っていいかわからず、趙俊はそれだけ言った。
ふたりとも本当に美しくてかわいらしい顔をしている。
身体つきも素晴らしそうだ。
いまから、このふたりのどちらかを抱ける。
そう思うと、趙俊は自分の心臓が高鳴るのを感じた。
「あ、あの……。わたしたちが二階に行っているあいだも、こっそりと届けないでいてくれたんですね。ありがとうございます」
沙那が少しはにかんだ表情で言った。
「そりゃあな……。あんたの言った通り役人に届けたところで俺に得することがあるわけじゃないしな……。だが、届けなかったことがわかれば、俺も捕えられてしまうんだ。わかって欲しいんだが……。俺としても、危険を冒す価値があるというだけの代償が欲しいんだ……」
「承知しています。約束のことはします。あ、あの……。だけど、こっちからもお願いがあるんです……。ふたりで話し合ったんですけど……そのう……、奉仕をすることには依存はないんですが、ただ、上のふたりが完全に倒れてしまっているので、完全にわたしたちふたりが、性奉仕に溺れるのは都合が悪いんです。わたしたちは、四人の中では護衛役も兼ねています。もしも、身動きできない状態になったら問題で……」
「身動きできない状態……?」
趙俊はびっくりして思わず言った。
沙那はどのくらいの性行為を想像しているのだろうと思った。
「そうなんだよ。だから、あたしたちが奉仕するから、その代わりにそっちはなにもしない──。そういうことでどうかな……? だったら、あたしたちも自分たちで調整しながら抱かれることができるしね……。正直にいうと、あんたがあたしたちを抱き潰してしまって、あたしたちふたりとも完全に倒れてしまうのは怖いんだよね」
「抱き潰す?」
このふたりは、なにを言っているのだろうと思った。
もしかしたら、自分のことを性豪かなにかと勘違いしているのではないかと考えた。
趙俊には女を抱いて相手を抱き潰したという経験はもちろんない。
そんなことを想像したこともない。
「だ、だから、その……変なことを言うようですけど、あなたの腕を軽く縛らせてくれませんか? 軽くです。布でちょっとだけ……。力を入れれば解けるくらいの軽くでいいんです。そうすれば、わたしたちもちょっと安心できるかな……。なんて……。だめですか? その代わりに一生懸命に奉仕しますから……」
沙那は気まずそうな表情で趙俊を見た。
「し、縛る?」
驚いたが、ちょっとだけ興味も湧いた。
つまりは、沙那は完全に女側に主導権のある性行為を要求しているようだ。
沙那がさっきから言い難そうに申し出ていたのは、趙俊に手を縛られて欲しいということのようであり、それはどうやら、性行為の最中に趙俊が沙那を積極的に抱くことで、沙那が身動きできないほどぐったりしてしまうことを回避したいようだ。
やっぱり勘違いをしているようだと思った。
趙俊には、女をそこまで抱き潰すような性技もないし、持続力もない。
もしかしたら、こっちから性行為を要求したので、趙俊が途方もない女食いだと思われてしまったのだろうか?
いずれにしても、こっちが縛られてするというのもいいかもしれない……。
つまりは趙俊はなにもしなくていいのだ。ただ、受けていればいいということで楽でもあるし、こんないい女がそんな性行為をしてくれるというのは、本当に興味がある。
「まあ、いいさ……。どうすればいいんだい?」
趙俊は言った。
「あ、ありがとうございます」
沙那が破顔した。
その屈託のない沙那の笑みに、思わず趙俊ももらい笑みをこぼした。
「じゃ、じゃあ、手を後ろにやって……」
孫空女がどこかに隠し持っていたらしい手拭いを取りだした。
「こ、ここでかい?」
趙俊は手を後ろに回しながらも、少しびっくりして言った。
てっきり性行為については、一階にある趙俊の部屋でするものだと思っていたのだ。
この食堂でするとは思わなかった。
まあ、すでにしっかりと戸締りをしているので、これから客が入ってくる気遣いはないが……。
「だって、この店の入り口はここだろう? 誰か入ってきたら、すぐにあたしらがわかるじゃないか。二階に連れが横になっているからね……。ここでなら護衛の役も務まるとは思うんだよね」
孫空女は趙俊の座っている椅子の後ろに座り、持っていた布で趙俊の手を縛った。本当に軽くといった感じだ。
「じゃあ、脱ぎますね……。なにか、脱ぎ方に注文があれば言ってください……」
沙那が趙俊に半分背を向けるようにして服を脱ぎ出した。
「そう言えば、あたしらって、言われてなにかするだけで、こうやって、自分たちからなにかをするって、あまりないよねえ、沙那?」
孫空女も沙那の隣に並んで服を脱ぎ出す。
「うん……。やっぱり、わたしたちって、とことん受け身の性になるように躾けられてしまったのかしら……?」
「あまりないって言えば、これ自体が初めてかなあ……? 長い付き合いなのに、あの嗜虐癖のふたりがいなくて、あたしと沙那だけで、ほかの誰かと性の営みをするなんてさあ……」
「そうかもね……」
沙那がくすくすと笑う。
そのあいだにもふたりは躊躇いなくどんどんと服を脱いでいく。
趙俊は、美女ふたりが服を脱いでいく光景に、すっかりと興奮してしまった。
股間が堅く勃起する。
趙俊はごくりと唾液を呑み込んだ。