「それっ、沙那という字はどう書くの──? まずは、こうきて、こう書くの──。そらっ、お次の字──。こうして、こうきて、こう書くの──」
王小二をはじめとして、賊徒たち七人が歌をうたいながら、手拍子をしてはやしたてる。
沙那は、はらわたが煮え返るような思いを我慢しながら、階段の下の部分を椅子代わりにして座っている賊徒たちにお尻を向けて、尻振り踊りを続けていた。
横の孫空女も、激しい喘ぎ声を出しがら、男たちの歌に調子を合わせて乳房と腰を揺さぶっている。
この宿屋に二階から侵入してきた
こんな賊徒たちなど、七人どころか、この三倍いても敵ではないのだが、うっかりと宝玄仙と朱姫を人質にとられてしまい、逆らうことができない。
宝玄仙と朱姫は、この城郭に入るときに役人から飲まされた「魔女殺し」という薬液に反応して昏睡状態にあるが、そのふたりにこの王小二という盗賊の頭領は、卑劣にも毒薬を飲ませたのだ。
毒薬は即効性のものではないので、明日までに解毒剤を飲めば命に別状はないが、その解毒剤は王小二の懐の中にあり、それを渡すのは王小二たちが、朝になってこの宿屋を出ていくときだといわれている。
つまり、毒薬は、沙那と孫空女がこの宿屋に王小二たちが隠れているあいだに逆らわないようにするための脅迫の手段ということだ。
そして、この王小二は、逆らえない孫空女と沙那を縄で後手に縛ってたうえに、朝になるのを待つあいだ自分たちの性の相手をしろと命じてきた。
いまは、そのための準備を自らさせられているところだ。
すなわち、孫空女と沙那の股間には股縄が施されており、その状態で男たちの歌に会わせて腰を激しく動かすのだ。
そうすると、ふたりとも否応なしに感じてしまい、やがて、前戯なしに盗賊たちの性器を受け入れることができるようなるということだ。
これほど女を馬鹿にしたような仕打ちはないと思うが、宝玄仙と朱姫の命を人質にされているので、従うしかない。
「はあ、ああ、はああ……」
強要されている尻文字踊りをして腰を振るたびに、肉芽と女陰と肛門に食い込んでいる縄瘤がぐいぐいと沙那の股間を刺激するのだ。
孫空女が横で喘ぎ声をあげている。
沙那もすでに息も絶え絶えの状態だ。
全身はすっかり上気して、もう汗びっしょりになっている。
のぞきこまなくても、縄を掛けられた股間からぐっしょりと愛液が滴り漏れているのがわかる。
「ほら、もっと腰を振らんか、赤毛──」
「お前らもうたうんだよ──。こうして、こうして、こう書くのだ──」
「栗毛の方はすっかりとできあがったんじゃねえか。股間を見ろよ。縄じゃあ蜜が止められなくて、内腿がびっしょりだぜ」
「もうすぐ皆で抱いてやるからな──。しっかりと腰を振るんだぜ」
七人の盗賊たちが好き勝手なことを言いながら、哄笑し続ける。
沙那は屈んだ拍子にまた、敏感な股間を縄で擦ってしまい、うっと言ってうなじを浮きたたせて身体を震わせた。
「栗毛の方は、また軽くいったんじゃねえか? また、腰をぶるぶると震わせたぜ──」
すかさず盗賊のひとりが野次を挟んだ。
あまりの恥辱に火の玉のような口惜しさが込みあがる。
「よし、栗毛はそのまま続けろ──。赤毛は尻文字踊りはいい。ただ、歌に合わせて股間を上下に動かしながら腰を触れ。がに股になって尻だけを床すれすれに動かして腰を左右に振り、また、上にあげては腰振りだ──。お前ら、逆らうと、解毒剤は渡さんぞ。仲間の命を救うためだ。しっかりと恥をかき続けろ」
王小二が笑った。
文字を知らない孫空女は、尻文字踊りがうまくできずに、動きがぎこちないと王小二に叱られ続けていたのだ。
「わ、わかったよ──。こ、こうかい……? ぐうっ──、こ、これは──?」
命令された動きをした孫空女が股間をぐっと低くしたときに、急に切羽詰った声をあげて全身を震わせた。
おそらく、縄で股間を強く抉ったのだろう。
「そ、孫女……だ、大丈夫?」
沙那は腰を振りながら声をかけた。
「歌をうたえと言っているだろう、お前ら──」
すると王小二から怒鳴られた。
仕方なく、ふたりで卑猥な尻文字を大声でうたうのだが、どうしても、途中で喘ぎ声や悶え声が混じってしまい、それが沙那たちの屈辱をさらにあおるのだった。
そして、さらに男たちは歌の調子の速度をあげた。
沙那と孫空女は、自らの身体を燃えあがらせるために、股縄をされた腰を振り続け、卑猥な歌を大声でうたい、そして、よがり狂った。
王小二がやっと沙那と孫空女を尻振り踊りから解放したのは、それから、さらに半刻(約三十分間)がすぎてからだった。
沙那と孫空女は、床の上にへたり込んでしまった。
すると、王小二の命令で、盗賊たちがわっと沙那と孫空女に群がった。
ぎょっとした。
男たちは、新しい縄を持っている。
沙那たちは男たちに仰向けにされると、左右のそれぞれの脚を曲げた状態で腿とふくらはぎをくくられた。
しかも、股が閉じられないように腿に縄を掛けられて背中側にぐっと絞られる。
沙那も孫空女も、蛙がひっくり返ったような格好で、仰向けにがに股に脚を開いた状態で動けなくなってしまった。
その状態になって、やっと股縄を外してもらえた。
「じゃあ、栗毛については俺が最初にもらうぜ。赤毛はお前らの誰かが先でいいぞ。せっかくの夜だ。みんなで穴兄弟になろうぜ」
王小二が言って沙那のところに寄ってきた。
孫空女は、歓声をあげたほかの男たちに、少し離されて裸身に群がられている。
「すっかりとできあがっているようだな、沙那──。尻踊りで何回達したんだ?」
下半身を剥き出しにして、沙那に覆いかぶさってきた王小二がせせら笑いながら言った。
「か、関係ないでしょう──。さ、さっさとやれば──」
沙那は声をあげた。
「そういう気の強い女は、俺好みだぜ」
王小二がそそり立った怒張を沙那の股間に突きたてた。
「あ、あああっ、はああ──」
宝玄仙たちを人質にとられて、玩具のように弄ばれるなどたまらない汚辱なのだが、すっかりと縄でどろどろになった股間に勃起した肉棒を挿されると、どうしても、沙那の身体は甘い快美感に包まれてしまう。
快感が一気にせりあがった。
淫情がものすごい速度で沙那の全身を駆け巡っていく。
「あはああっ」
沙那は背中をのけぞらせて悲鳴のような嬌声をあげた。
「口惜しそうな表情をしているくせに、そんなに気持ちいいのかい──? まあ、俺も人形のような女を抱いても愉しくないが、そうやってよがり狂ってくれると抱きがいがあるぜ」
「ふ、ふざけないで──す、好きでよがっているわけじゃ……、あっ、そこだめえっ──」
沙那は脂汗にまみれている全身を大きくのたうたせた。
王小二がさらに深く怒張を沙那の中に突きたてながら、沙那の乳房に舌を這わせだしたのだ。
王小二の肉棒の先端が沙那の膣の最奥に達した。
ずんという衝撃とともに、子宮の入り口部分を擦られた沙那は、一瞬にして気を失うような快感に突きあげられた。
気がつくと縄で拘束された裸身を限界までのけぞらせて達していた。
「あふうううう──」
沙那は呻きのような嬌声をあげて果てた。
しかし、王小二は嘲笑いのような声をあげてから、それから本格的な律動を開始した。
王小二がやっと沙那の中に精を放って沙那を解放したのは、沙那が王小二の肉棒で女陰を擦られることで、さらに三度気をやってからだった。
ふと見ると、孫空女はふたりの男に上下に挟まれるような格好で前後の穴を同時に犯されている。
孫空女も半狂乱だ。
王小二が離れると、すぐに沙那の身体に別の男が覆いかぶさってきた。
*
「全員、やめろ──」
不意に、血相を変えた王小二の声が部屋に響き渡った。
どうしたのかわからないが、ただならぬことが起こったようだ。
孫空女もぼんやりとした顔を王小二に向けた。
王小二は、外から隠れるように窓の外をのぞきこんでいる。
その形相には恐怖の色がある。
孫空女を抱いていた男たちが名残惜しそうな表情をして離れていった。
「はあ、はあ、はあ……」
とにかく息を整えようと思った。
孫空女は懸命に息を吸い続けた。
離れた場所で犯されていた沙那も同じようにしている。後手縛りで脚を蛙のように縄で拘束されて開かされている沙那の胸も上下に揺れている。
孫空女と沙那は、随分と長いあいだ、男たちの輪姦を受けていたが、三人目になるくらいから、ひとりの男に犯されながら、ほかの複数の男たちに筆や刷毛で乳首や肉芽をくすぐられるということをやられていた。
孫空女と沙那が、あまりにも感じやすくて簡単によがるので、それを面白がった誰かがやりだし、すぐに全員が真似をしたのだ。
さすがにそれはたまらなかった。
孫空女も沙那も、よがり狂った。
それはともかく、ただならぬ事態が起きているのか、真剣な表情の王小二がなにかを六人の部下たちに指示している。
やはり、異変が起きたのは間違いないようだ。
部下たちが二階と一階のあちこちに散っていった。
まだ、朝には数刻あるはずだ。
しかし、王小二たちは忙しそうにばたばたと動きまわっている。
最初は一体全体どうしたのかわからなかったが、男が孫空女から離れて、だんだんと火照りきった全身が落ち着いてくると、孫空女にも王小二が感じた気配を感じることができた。
宿屋の外に誰かいる。
しかも、大勢だ……。
「ど、どうしたの……?」
呆けた要するの沙那が、男の精まみれになっている身体を揺すった。
「宿屋の外に誰かいる気配がするよ、沙那……。しかも、大勢だ……」
孫空女は沙那に小声で伝えた。
汗まみれの沙那の顔が真剣なものになった。
王小二のもとに、部下たちが戻ってきた。
「頭領、宿屋がすっかりと包囲されています。衛兵です──おそらく、百人は……。もしかしたら、それ以上かも……」
外の様子をうかがいに行くように指示されていた部下のひとりが血相変えて戻報告している。
「そうか。詳しく説明しろ……」
王小二がつぶやくように言った。
平然とした表情を装おうとしているようだが、王小二からははっきりとした動揺を感じることができた。
指先がぶるぶると震えているし、部下の詳細な報告を聞き入るあいだ、ひっきりなしに唇を舐め続けている。
「つまり、いつの間にか包囲をされて、もうどうにもならないということだな。逃げ場もないということか……。だ、だが、なんでここがわかったんのだ……?」
部下の報告を聞き終わった王小二がうなるように言った。
「……二階にいた宿屋の亭主がいません。逃げられたようです──」
今度は、二階にあがっていった部下が戻ってきた。
手に縄を持っている。どうやら、宿屋の主人を縛っていた縄のようだ。
この王小二たちは、最初こそ交代で二階に閉じ込めている三人に見張りをつけていたのだが、孫空女と沙那に股縄させて踊りを強要させて遊び始めると、すぐにその見張りまでおりてきて、孫空女たちを凌辱する輪に加わったのだ。
どうやら、その隙に宿屋の主人が縄抜けに成功し、宿屋に盗賊が侵入したということを軍営に知らせてしまったようだ。
そして、盗賊たちが孫空女と沙那の身体を犯し続けているうちに、いつの間にか、すっかりと宿屋が包囲されていることがわかったようだ。
まだ、衛兵たちが襲ってこないところをみると、まだ、包囲態勢は整いきってはいないのかもしれない。
ただ、王小二たちの様子から考えると、すでに逃げ場はないようだ。
宿屋に衛兵が雪崩れ込んでくるのは時間の問題だろう。
「ご、ご主人様と朱姫は……?」
沙那がまだけだるそうな声で言った。
孫空女も沙那も、まだ腕と脚に縄掛けをされたままだ。
みじめな格好で床に転がったまま、王小二たちの話を聞いていたのだ。
だが、王小二はそれには応じずに、宿屋から外を探りにいかせた部下たちの報告に次々に聞き入っていた。
孫空女は床に転がされたまま黙ってそれに耳を傾けていたが、やはり、盗賊たちにとって状況は絶望的のようだ。
ここにいるのはたった七人であり、すでにすっかりと軍に囲まれているということだ。
全員が戻ってきた。
王小二のもとに詰め寄るように集まった。
「と、頭領、ど、どうします──?」
「こ、こんなの逃げられませんよ」
「頭領──」
「と、頭領」
部下たちが王小二に向かって次々に狼狽えた声を出し始めた。
「うるせい──。落ち着け──。確かにここは軍に包囲されてしまったようだが、とにかく、軍の連中は俺たちが気がついたことには気がついてねえんだ──。ぶつぶと言ってねえで、誰か逃げる方法を考えろ──」
王小二が喚くように言った。
しんと盗賊たちが静まり返った。
「だ、だけど、これだけの軍に囲まれちゃあ……」
ひとりの部下が泣きそうな声で言った。
そして、また、ざわざわとお互いに喋りだした。
「……なに男が七人も揃って、泣きべそかいているのよ──。たった百人の軍なら蹴散らせばいいじゃないのよ──。それよりも、わたしの質問に答えなさい。ご主人様は無事なの──? さっきも訊ねたんだけど──?」
床に転がされたままの沙那が、不貞腐れたように言った。
「ああっ? い、いま、なかにか言ったか?」
王小二が、初めて沙那の存在に気がついたような様子で、苛ついた声をあげた。
「たった百人の軍に囲まれたくらいで男が揃いに揃って情けないって言ったのよ──。それと、ご主人様は無事なの?」
沙那も怒鳴り返した。
「な、なにっ──? 生意気なことを言ってやがるんだ、女──? まあいい……。朝まで犯してやるつもりだったが取りやめだ。それどころじゃなくなったからな。そうやって、衛兵が来るまで転がっていろ。その精液まみれの素っ裸の身体を晒していれば、衛兵も驚くだろうさ」
王小二が小馬鹿にした物言いをした。
「な、なんだよ──。そんなの約束が違うじゃないか──? 朝になったら、ご主人様たちに飲ませた解毒剤をくれるって言ったじゃないか」
孫空女はその言葉に驚いて叫んだ。
「状況が変わったんだよ──。すぐにここを離脱しないとならなくなったんだ──」
王小二が吐き捨てた。
「あんたらだけで逃げ出せるわけないでしょう。揃いも揃って、わたしと孫空女にひとたまりもなくやられたのよ──。包囲された軍なんて突破できるわけがないわ。あっという間に捕まって終わりよ──。そして、処刑されるんでしょうね。いい気味だわ──」
沙那がまた挑発的な物言いをした。
「ああっ? さっきから、そんな情けない恰好で言ってくれるじゃねえか。こうなったら、お前らも道連れだ──。お前らも衛兵に捕えられて死ね。二階の連中の状況を見れば、あのふたりが『魔女殺し』の薬剤で昏睡していることは一目瞭然だ。この国都の掟じゃあ、道術使いの侵入は死刑だからな」
「なるほど、やっとわかったわ……。ご主人様たちは、まだ二階なのね」
沙那がにやりと笑った。
「ちっ……。ああ、そうだよ。この店の主人は、ひとりで二階から逃げたんだ。おそらく衛兵に報せたのもそいつだ」
王小二が不機嫌そうに言った。
「あんたが間抜けなせいでね──。見張りのひとりでもつけておけば、衛兵に知らせに行かれるのは防げたわよ。少なくとも、わたしたちは見張っていたわ……。わたしたちが宿屋の主人の相手をしていたのは、万が一にもご主人様たちのことを報せに行かれないように見張っている意味もあったのよ──。あんたが邪魔をしなければ、この店の主人は衛兵には知らせに行かなかったわ」
「ああ?」
「衛兵がここにやってきて困るのは、あんたらだけじゃないのよ。わたしたちもなの──。いいから、縄を解きなさいよ──。衛兵の包囲を突破したいんでしょう? それはわたしたちも一緒だと言っているのよ──。こうなったら、突破口を作ってあげるわ。そこから逃げなさい」
「いま、なんと言った?」
王小二がやっと沙那の言葉に興味を抱くような顔になった。
孫空女は、沙那が王小二たちを助けるようなことを発言したことが意外だったが、よく考えたら、いまはそれしか方法がない。
王小二がここで捕えられては宝玄仙と朱姫に飲ませた毒の解毒剤をもらえないし、衛兵たちに宿屋に入り込まれて困るのは、確かに孫空女たちとしても同じなのだ。
ここはとりあえず、全員で突破の道を探るしかないだろう。
「孫女、あんた、百人くらいの衛兵を突破することはできるわよね──?」
不意に沙那が言った。
「そりゃあね──。全員と戦うのではなく、ただ突破するだけならね」
孫空女は答えた。
「わかったかしら──? あんたらじゃ無理だけど、わたしらがいれば衛兵を突破できるわ。こうなったら、一蓮托生よ。助けてあげるわ。わたしらがいれば逃げられるのよ──。わかったら縄を解いて──。いずれにしても時間がないわ」
沙那が声をあげた。
「……よし──。じゃあ、まずは脚の縄を解いてやれ──」
王小二が言った。
部下たちが孫空女と沙那の身体にやってきて、脚の縄を解いた。
とにかく、やっとみっともない開脚姿から解放されて、孫空女は身体を起こして股を閉じた。
沙那が孫空女の隣にすり寄ってきた。
しかし、王小二はまだ腕の縄を外せとは指示しない。
まだ迷っているようだ。
「……で、でも、ご主人様と朱姫はどうするのさ、沙那? 衛兵に囲まれているなら、連れてはいけないよ」
孫空女は小声で言った。
「ふたりは置いていくしかないわ……。衛兵が宿屋を襲撃する前に全員で突破すれば、軍はこっちを追いかけてくるはずよ。どこかに隠していくしかないわね……。とにかく、朝になればご主人様たちの道術が戻るわ。それまでに捕えられずに、道術を封じる拘束具を装着されなければ、ご主人様だったら自力で魔女殺しの効果なんて打ち消すことができると思うわ。いずれにしても、解毒剤を手に入れないと……」
沙那がささやいた。
「──早く腕もよ──。こうやって話し合う時間なんてないのよ──。じっとしてれば、衛兵はやってくるのよ──。全員で斬り込んで逃げるのよ」
沙那は言った。
「だ、だが、腕を解けば、お前らは俺たちに仕返しをするだろう?」
王小二が不安そうに言った。
どうやら、王小二の懸念はそれらしい。
どこまでも臆病な男だ……。
孫空女も呆れてきた。
臆病で、卑怯者で……しかも、間抜けで……。
よくも、これで盗賊団の頭領などやっているものだ……。
「不安なら道術契約をしましょう……。解毒剤をすぐにくれれば、あんたらの逃亡が成功するまで協力すると誓うわ──。それでどう? わたしは道術使いではないから道術契約はできないけど、この孫空女ならそれが結べるわ──。察するとこと、あんただけは道術使いなんでしょう?」
沙那は言った。
すると、王小二がびっくりした表情になった。
「上のふたりだけでなく、その赤毛も道術使いなのか?」
王小二が声をあげた。
「もう、しっかりしなさいよ──。孫女はあんたがとりあげた『如意棒』という霊具の武器を遣いこなしていたでしょう」
「なるほど……。そう言われてみれば、そうだな──。じゃあ、道術契約だ。俺たちの逃亡の手助けをしろ、赤毛。そして、この沙那が逆らわないように見張れ。それを条件に、俺たちが城壁を出るときに解毒剤を渡す──。これで道術契約だ」
王小二が言った。
「だ、駄目よ──。ご主人様たちは、ここに置いていかなければならないのよ──。解毒剤は飲ませてから行くわ。道術契約を結べば十分でしょう──」
沙那が叫んだ。
「交渉のできる立場だと思っているのか、沙那?」
「それはこっちの台詞よ──。解毒剤をすぐに渡しなさい──。逃げたくないの──?」
「ちっ」
王小二が舌打ちした。
そして、懐から解毒剤の入った小瓶を取り出して、孫空女と沙那の前に歩み寄った。
「そらよ──。俺たちの逃亡に協力すると誓え。その条件でこの解毒剤をすぐに渡す」
王小二が小瓶を沙那の前に置いた。
「誓っていいわ、孫女」
「誓うよ──」
孫空女は言った。
身体に道術契約の縛りが刻まれるのがわかった。
「じゃあ、早く縄を……」
沙那が焦った口調で言った。
「すぐに解く……。だが、その前にこれをふたりには飲んでもらおう」
王小二が別の小瓶を取り出した。
「な、なによ?」
沙那が叫んだ。
「別の毒薬だ。万が一にも逆らわないようにな。この毒薬は数刻してから効き目が表れる。この解毒剤と目の前の解毒剤は別のものだ──。逃亡の途中で逆らえば、お前たちに飲ませる解毒剤は渡さねえ……。おいっ──」
王小二がにやりと笑って、顎で部下を呼んだ。
部下たちが沙那と孫空女の身体を押さえる。
「口を開けろ──」
孫空女の口に強引に毒薬の小瓶がねじ込まれて、苦い味の液体が喉の奥に注ぎ込まれていった。