「順番ですよ。まずは、ご主人様、そして、孫姉さん。最後が沙那姉さんです」
部屋の扉を少しだけ開き、それを自分の身体で阻んでいる朱姫が、にやにやと嗜虐的な笑みを浮かべて言った。
沙那はかっとした。
ただでさえ、尻の穴におかしな尻尾を挿され、こんな素っ裸で四つん這いで部屋の外に出ることを強いられたことで、羞恥で目まいがしそうなのだ。
本当なら、拷問されても、素っ裸でなんかで部屋の外には出ない。
しかし、宝玄仙が、隣にいる朱姫と素蛾のいる部屋に移動するだけだというので、仕方なく命令に応じたのだ。
だが、なにを考えているのか、朱姫は沙那たちが裸で部屋の外にいるというのに、中に入れようとしない。
「ば、馬鹿なことを言わないで入れてよ──」
沙那は怒鳴って、四つん這いの頭を強引に部屋の中に突っ込んで、部屋に入ろうとした。
「沙那、おすわり──」
そのとき、宝玄仙の強い声がした。
「ひいっ」
四つん這いの沙那の身体がその場に勝手にひれ伏した。
さっき、部屋を出る前に宝玄仙に装着された『人間犬の首輪』という霊具の力だ。
一種の操り霊具であり、これをされると、“おすわり”、“ちんちん”、“歩け”の三種類の命令に逆らえなくなる。
ほかにも機能があり、とにかくこれは、人間を自分の意思に反して、犬のように振る舞わせてしまう操り霊具らしい。
沙那は部屋の前に乳房と顎をしっかりと床に密着させて動けなくなった。
両脚は四つん這いの姿勢から正座の姿勢になり、必然的に尻を高く掲げた格好だ。
「逆らった罰だよ、沙那。そのままでいな──」
宝玄仙が足で強引に沙那の身体を廊下側に押しやって、扉の前の隙間を作った。
「孫空女は入ってな」
宝玄仙が孫空女の首輪に繋がってる鎖を部屋の中に放った。
孫空女が沙那に同情の視線を向けながら、尻に挿さった尾を振りながら部屋に入っていく。
一方で、宝玄仙は沙那の首輪と繋がった鎖を部屋側の反対側の廊下の手摺に結んでしまった。
「お前は朱姫に従わなかった罰だよ。支度ができるまでそこにいな──。人間の言葉を喋るんじゃないよ。喋れば、道術が解けて恥ずかしい目に遭うよ」
宝玄仙が意味ありげな言葉を沙那に告げ、朱姫のいる部屋に入ってしまった。
扉が閉まる。
沙那は呆気にとられた。
「そ、そんな──。い、入れて──。ひ、人が来ます。こ、こんなのあんまりです。ねえ、ご主人様──」
沙那はびっくりして言った。
ここは一階が食堂になっている二階の宿屋の部分だ。一階の食堂は吹き抜けになっていて、二階の宿屋はその吹き抜けの片面の外側部にあるのだ。
いまは、沙那はうずくまっているが、立ちあがれば、一階からも沙那の姿は丸見えだ。
一階からは大勢の酔客の声が聞こえる。
沙那の首輪の鎖が結ばれたのは、一階を見おろす手摺の上部の部分だ。
そんな場所に沙那は素っ裸のまま放置されたのだ。
「よし──」
扉の向こう側から、宝玄仙の含み笑いの声がした。
床に張りついていた沙那の身体が自由になった。
しかし、それだけだ。
この首輪をしていると、首輪にも首輪についた鎖にも触れることができない。
しかも、四つん這い以外の姿勢にもなれない。
四つん這いの姿勢を崩せば、全身に凄まじい電撃が走るようになっている。
沙那もさっきまでいた部屋の中で、孫空女とふたりで無理矢理にその電撃を体験させられ、いまでは、四つん這いの姿勢を崩そうとしても、電撃の恐怖で身体が竦んでしまう。
「ね、ねえ、ご主人様、朱姫──。開けて──。謝ります──。言うことききますから入れてください──」
沙那は扉越しに言った。
「口を開くなと言ってるだろう、沙那──。人間の言葉を喋ってしまうと、道術が解けてしまって恥ずかしい思いをすると言っただろう──。喋るんじゃない」
宝玄仙の声だ。
だが、そのとき、こつこつと一階から客らしき足音が聞こえてきた。
沙那は恐怖で身体が硬直した。
「ご、ご主人様、ひ、人が来ます──。入れて、入れて──」
沙那は必死で言った。
「喋るなと言っているのがわかんないのかい、沙那──。ちんちん──」
宝玄仙の笑いをこらえたような声がする。
沙那の身体は、宝玄仙の“ちんちん”の命令で、今度は上半身を上にあげて、両手を頭の横に置き、大きく股を開脚した姿勢になった。
信じられないような羞恥の格好になった沙那のいる二階部分に、男の酔客と娼婦らしき女が腕を組んで歩いてきた。
沙那はあまりのことに、卒倒しそうになった。
見知らぬ男女がやってくる廊下を、沙那は股間を開き、乳房を露わにした全裸を晒しているのだ。
もう口をきくどころか、息をすることもできなかった。
沙那は、ぶるぶると身体を震わせながら、奇跡が起きて、そのふたりが沙那に気付くことなく通り過ぎてくれることだけを願った。
「あらっ、かわいいわんちゃん」
しかし、女が沙那の前にやってきて、にっこりと笑って足を止めた。
「ほう、こんなところに、犬か……」
男が言った。
そして、大して驚くこともなしに、ふたりは奥の部屋まで歩き、そして、部屋の中に消えていった。
そのふたりの反応に、沙那は少し驚いた。
こんなところに、若い裸の女が局部を晒しているのだ。
もう少し驚いてもよさそうなものだ。
目の前の扉が開いた。
「ふふふ……、どうでした、沙那姉さん、緊張しましたか? でも、満更でもなかったんじゃないですか? あらあら、興奮で尻尾をそんなに振っちゃって。可愛いですね、沙那姉さん」
朱姫が出てきた。
手に鎖を持っていて、沙那とまったく同じ『人間犬の首輪』らしきものを首に嵌めた素裸の素蛾が四つん這いで続く。
続いて、宝玄仙と孫空女だ。
やはり、孫空女は沙那と同じ素裸で宝玄仙に首輪を引かれて出てきた。
「ご、ご主人様、さ、さっきの本当なんだよねえ……? ほ、本当にあたしらって、首輪の道術で本物の犬に見えるんだよね……?」
孫空女がか細い声で言った。
その顔は羞恥で真っ赤だ。顔だけではなく、全身を赤く染めて恥ずかしさに震えているようだ。
孫空女のお尻の尻尾もまた、沙那と同じように左右に激しく振られている。
だが、沙那は孫空女が口にした言葉が気になった。
首輪の力で、本物の犬に見えるということはどういう意味なのか?
「人間の言葉を喋らなければね……。でも、いま喋ったから、お前は裸の人間の女に戻ったよ。まあ、数瞬すれば、欺騙の道術がかかり直して、赤の他人からは、ただの大型犬にしか認識されなくなるけどね」
宝玄仙が笑った。
「い、いまのどういう意味です?」
沙那は“ちんちん”の姿勢のまま言った。“よし”の号令がないので、身体が硬直したままなのだ。
「どういう意味ってなんですか、沙那姉さん? 皆さんのお尻に挿した尻尾は、皆さんが性的興奮をすると、元気よく振るんだそうですよ。沙那姉さんと孫姉さんは、やっぱり恥ずかしがり屋さんなんですね。そして、そういうのも好きなんでしょう? 尻尾が激しく振れてますよ」
朱姫が笑った。
「あ、あんたには訊いてないのよ──」
沙那は怒鳴った。
「……ご主人様、と、とにかく、解いて──」
沙那は言った。
「よし」
宝玄仙の言葉でやっと沙那の身体は自由になった。
自由といっても、四つん這いで動けるようになっただけだが……。
人間のように二歩足で歩くには、この『人間犬の首輪』を外してもらわなければ無理なのだ。
「……肝が冷えたかい、沙那? その霊具には、人間を犬のように強制的に振る舞わせるという効果だけではなく、第三者には、その姿を普通の犬と欺騙して認識させるという効果があるのさ。つまりは、お前たちが裸で歩いても、他人には、ただ犬が歩いているとしか、思えないということさ」
宝玄仙が笑った。
そういうことなのかと少しだけほっとしたが、それでも恥ずかしいことには変わりない。沙那は自分の顔が強張るのを感じた。
「じゃあ、行きましょうか、ご主人様」
朱姫が言った。
「そうだね。折角、新しく作った『人間犬の首輪』だしね」
宝玄仙が笑って、沙那の首輪の鎖を手摺から外して握った。
「素蛾、お前も外では声を我慢するのよ。どんなに気持ちよくなっても、声を出すと人間に戻ってしまうのよ。だから、気をつけなさい」
朱姫が四つん這いの姿勢に素蛾の股間に手を伸ばし、そこをくすぐるよう動かしながら言った。
「わ、わん……わん──」
たちまちに素蛾の身体が真っ赤になり、歯を食いしばった素蛾の口から犬の鳴き真似が出た。
おそらく、それしか喋るなと朱姫が強要しているのだろう。
しかし、横の宝玄仙が笑った。
「素蛾、それも駄目さ。犬の鳴き真似だって、道術が解けて、人間の姿にしまうからね。さすがに大騒ぎになると思うから、とにかく、声は耐えるんだ──。お前たちもだよ、沙那、孫空女」
「そ、それって、どういうことですか、ご主人様?」
沙那はびっくりして言った。
まさかとは思うが、この格好のまま、外を散歩するつもりなのではないだろうか……?
「もちろん、みんなで散歩するんですよ、沙那姉さん。題して、“声を出したら、道術が解けて人間に戻りますよ散歩”です。愉しみましょう」
朱姫も笑った。
沙那は自分の顔が引きつるのを感じた。
「そ、そんなことできません。お願いです、ご主人様──」
沙那は身体を竦ませた。
「大丈夫だよ、沙那。言葉を発しなきゃいいだけだからね。黙っていれば、本物の犬にしか他人には見えないんだ」
「そ、そんな、ご主人様……。な、なんでも言うことをききますから。それは許してください」
「言うことを聞くのは当然だろう──。『人間犬の首輪』はわたしの霊具だよ。逆らえるものなら逆らってみな。それよりも、先輩として性奴隷の貫禄を見せてやりな──。ほら、二匹とも“歩け”──」
宝玄仙に“命令”をされてしまった。
もう、沙那の手足は、沙那の意思を外れて、宝玄仙が鎖で首輪を引く方向に進んでしまう。
沙那の身体は四つん這いで廊下を進み、ゆっくりと一階の人の喧噪に向かい始めた。
孫空女も宝玄仙の反対側を沙那と同じように、裸身を四つん這いにして歩いている。孫空女も羞恥で身体を震わせているが、その口はしっかりと固く閉じられている。
絶対に口をきかないようにと力を入れている気配だ。
だが、沙那はそんな風に振る舞えない。
一階の食堂は半分以上の席が埋まっていて、大勢の男の酔客と、男の客目当ての女の娼婦がたくさんいる。
その中を素蛾を含めた三人の女が裸で犬のように進むのだ。
宝玄仙の道術があるとはいえ、沙那は全身の血が沸騰して頭に集まってくるような衝撃を受けていた。
食堂におりた。
そこにいる全員の視線が沙那たちに集まるような錯覚を感じた。
だが、実際には、確かに誰ひとりとして、奇異の視線を向ける者はいない。
やはり、犬にしか見えないのだろう。
沙那たちがどんな犬に見えているのかはわからないが、それなりに視線は向けてくる。
そのたびに、裸体を観察されている気分になり、沙那は震えで身体がよろけそうになる。
しかし、鎖を引かれている限り、沙那の手足は動き続ける。
沙那は尻尾の挿さったお尻の穴と興奮で濡れている女陰を背後に晒しながら懸命に宝玄仙に従って歩き続けた。
やがて、宝玄仙と朱姫は空いている卓に座った。
沙那たち三人は、当然のように、ふたりの足元にしゃがませられた。
宝玄仙と朱姫は、塩豚と葡萄水を注文をしていた。
そのまま、しばらく、そのままでいさせられた。
時間が経っても、やっぱり、沙那たちを見て騒ぐ者はいない。
そうなると、やっと安堵の気持ちに湧いてくる。
沙那はだんだんと落ち着いてくる感じがした。
それからしばらくして、朱姫が席を立った。特段の気にも留めなかったが、少し時間が経ってから戻ってきた。
そして、何事かを耳打ちで宝玄仙に報告している。
なんか嫌な感じだ。
「二匹とも、ふせ──」
不意に宝玄仙が言った。
二匹というのは沙那と孫空女のことだ。
沙那たちの身体は、床に上体を着けて尻をあげる姿になる。
「さあ、あたしとご主人様は、これから素蛾を連れて、ちょっと夜の宿町を散歩をしてきます。おふたりは、ここに置いていっていいと店の許可を得ましたから、ここに、しばらくはいてください。そのために、余分なお金も払ったので大丈夫ですよ」
朱姫が言って、水がいっぱいに入っている大きな皿を沙那と孫空女の顔の前にそれぞれに置いた。
そして、意味ありげに微笑んだ。
沙那は朱姫の言葉にびっくりした。
ここに、このまま置いていかれる?
思わず抗議しようとして、慌てて口をつぐんだ。言葉を喋れば、欺騙の道術が解けて、人間の姿になってしまう。
「ところで、お前たち、その皿の水は強力な利尿剤だ。それが空っぽになり、四半刻(約十五分)経てば、動けるようになる。そうしたら、好きなところに行っていい。つまり、外に出て、小便ができるところを探して出してもいいということさ。二階に戻っても鍵はかかっているし、四つん這いを崩せないんだ。外に出な。だが、全部飲んで、それだけの時間が経たなければ、小便をまき散らそうが、絶対に身体はその場所から動かないからね。覚悟しな」
宝玄仙が言った。そして、立ちあがって、宿の外に出る方向に歩いていく。
沙那は唖然とした。
つまり、ここから立ち去るためには、目の前の利尿剤入りの水を犬のように飲んで、さらに四半刻(約十五分)も経たないと駄目なのだ。
なんという嫌がらせだと思った。
「さあ、頑張ってくださいね、沙那姉さんも孫姉さんも──。さっきのあたしの言葉を覚えて言いますよね。声を出すと、道術が解けるんです。じゃあ、お元気で……。おしっこが終わったらお二人も夜の散歩を愉しんだらいいですよ」
朱姫も立ちあがった。
素蛾は連れて行かれるようだ。
そのとき、朱姫の脚が一瞬止まり、とんと小さく片脚で床を鳴らしたをした。
「んんっ」
「ひっ」
沙那と孫空女はふたりして、悲鳴をあげそうになり、辛うじて、それを抑えた。
お尻に突き挿された尾の淫具が静かに振動を始めたのだ。
沙那はふたりの魂胆がわかった。
このまま、なにもしなければ、尻の振動で沙那たちは声をあげることになり、羞恥の人間の姿を晒すことになる。
しかも、なんとなく、この尻の振動はだんだんと強くなる予感がする。
お尻の弱い沙那たちには、それほどの長い時間は声を耐えられないだろう。
声を出せば、素っ裸で床に“伏せ”の姿勢を強要されている姿を露わにしてしまう。
それが嫌なら、尻の淫具に耐えられるうちに、水を飲み干して、尿意に耐えてから、どこかに逃げなければならないということだ。
沙那は、卓の下で孫空女と顔を見合わせた。
孫空女は恐怖を顔に浮かべている。
おそらく、沙那も同じ表情をしているに違いない。
そして、絶望的な思いで、沙那と孫空女は、目の前の水に舌を伸ばした。
疼くような尻の振動に耐えながら……。