「ご、ご主人様……こ、これ……」
孫空女が、宝玄仙から長い張形を挿し込まれながら、苦痛だか、官能だかよくわからない表情をしている。
「いちいち、反応するんじゃないよ、孫空女」
「だって、ご、ご主人様……」
朱姫は、その様子をぼんやりと眺めていた。
宝玄仙とはいえ、初めて自分の身体に男根を受け入れた。
想像していたような痛みも恐ろしさもなにもなかった。
もちろん、宝玄仙の道術のおかげでもあろうが、与えられたのは圧倒的な快楽だけだ。
女としての最大の悦び――。
宝玄仙との性交で受けたのは、そういうものだった。
そしていま、宝玄仙は、孫空女にも、朱姫を犯させようとしている。
そのための男根を模した張形を孫空女に差し込んでいるのだ。
張形は黒くて長いもので、中心を挟んで前後に逞しい男根を模した形をしている。
つまりは、双頭の張形だ。
孫空女は、それを宝玄仙によって挿入されつつある。
朱姫はぼんやりとその光景を眺めていた。
「ねっ、ねえってばあ、ご主人様……。あっ、あんっ」
しかも、孫空女は、両手を背中で『
孫空女は、その後ろ手の格好で肢を拡げて立たされている。両足は手首とは逆に、一定の距離よりも接近させることができなくなっている気配である。さっきから、孫空女は反発する両足首に動揺してもがいている。
まあ、いずれにせよ、すっかりと宝玄仙に服従を誓っている孫空女は、どんな破廉恥な行為であれ、宝玄仙には、最終的には逆らわないのだが……。
しかも、どうやら、宝玄仙が孫空女に挿入しようとしているのは、ただの張形ではなく、霊具のようだ。
微かな振動をしているその霊具の淫具が、孫空女の無毛の陰部に近づくと、孫空女は、がくがくと膝を震わせはじめ、淫孔から急にだらだらと涎を流し始めた。
すると、ほとんど前戯もないのに、孫空女はするすると、その張形を受け入れていく。
「ああ……だ、だめえ……」
孫空女が、女性っぽい悩ましい声を出しながら仰け反った。
それとともに、受け入れた張形の反対側の先から、まるで男性のそれのように、白い分泌液が飛び出した。
朱姫はちょっとびっくりした。
「ただ、淫具をいれるだけでいっちまったのかい、孫空女? もう少し、自分の性感を管理できないのかね」
宝玄仙が、孫空女の双臀の横を平手でぴしゃりと叩いた。
「ひ、ひどいよう――。ご、ご主人様が、変な風に入れるからじゃないか」
「変な風というのは、こうかい?」
宝玄仙は、孫空女の股間から生えているものを掴むと、無造作に揺すった。
「あひいいいっ」
孫空女は、また、膝をがくりと折って内股になった。やはり、足首は閉じられないみたいだ。
「お前は、本当に淫乱だねえ。大したことはしてないだろう、孫空女」
宝玄仙が、孫空女の股間に突き刺さっている張形の上に重なっている肉芽を上から張形に向かって、ぐりぐりと押す。
「ひぎいいいい」
また、孫空女の張形から白い白濁液がぴゅっと飛び出した。
「やれやれ、無駄射ちをしたね、孫空女。後でお仕置きだよ」
「そ、そんなあ、ご主人様」
もう、荒い息をしている孫空女が言った。
「とにかく、今日のお前の役目は男だよ。朱姫を犯しな。うまくやれれば、お仕置きは考え直してやるよ」
「お、お仕置きを勘弁してくれるの、ご主人様?」
もう、上気している孫空女の顔が、後手拘束のまま、宝玄仙に向けられる。
「少し優しくしてやるだけだよ。足首は自由にしてやる。さっさと、行きな――。まずは、朱姫の身体をほぐすんだよ。存分に舌を使いな」
また、宝玄仙が孫空女のお尻を思い切り叩いた。
孫空女は苦痛に顔を歪めたが、朱姫は、その表情の影に隠れた愉悦が混ざっているのを見逃さなかった。
「じゃあ、朱姫」
孫空女が、横になっている朱姫の足側に屈んだ。
「い、いいです、孫姉さん……。来てください……」
朱姫は、身体を倒して立膝の肢を開き、孫空女を迎え入れる態勢を取った。
「い、いくね……、朱姫」
孫空女の頭が朱姫の股間に被さる。孫空女の舌が朱姫の股間を這う。
ゆっくりと孫空女の舌があがってくる。
舐めあげられる。
肉芽に当たるか当たらないかのところを孫空女の舌が這い回る。
ゆっくりと、しつこく、丹念に……。
まるで、朱姫のすべてを舐め尽くすかのように……。
「ああっ――。き、気持ちいいです――、そ、孫姉さん――」
朱姫は声をあげた。
舌で淫唇の周りは舐められる。
自分の股間が蜜で溢れかえるのがわかる。
ぴちゃぴちゃと音がする。
孫空女の唾液だけじゃないだろう。
それだけ、朱姫の股間も濡れているのだ。
ちょんと、舌が肉芽に当たった。
「きゃんっ」
朱姫は身体を仰け反らせた。
だが、それを狙うかのように舌はずっと下がって、朱姫の肛門の周りを舐めた。
「ひぐうううっ」
宝玄仙によって最大の性感帯にされた肛門への刺激に、朱姫は激しく身体を震わせた。
だが、孫空女の舌は肛門への攻撃をやめない。
上に、下に、そして、左右に――。
さらに、舌が肛門の内側に入り込む。
「ああっ――ああっ――ああぁぁ―――」
身体の痙攣がとまらなくなる。
もう、いきそうだ。
いく――。
だが、孫空女の舌は、ぎりぎりのところで離れていった。
朱姫の心には、逃してしまった絶頂に対する渇望感が拡大する。
しかし、孫空女の舌は朱姫の陰核をまともに舐めあげる。
再び、沸き起こる絶頂への余震。
孫空女が朱姫の肉芽に口づけをする。
吸われる――。
今度こそ――。
朱姫は、激しく痙攣して、やってくる絶頂に心と身体を委ねる。
しかし、また、孫空女の舌と口は離れていく。
ぼんやりと眼を開けた朱姫に、孫空女の顔が迫った。
「い、いくね、朱姫」
「は、はい、孫姉さん……」
朱姫は、孫空女が挿入しやすいように、体勢を作る。
孫空女は、自分が朱姫を犯しているのに、まるで犯されているような表情をしている。上気した赤い顔で、小さく身悶えしつつ、半分が埋まっている股間の張形を朱姫の亀裂に当てた。
ぐいと孫空女の腰に力が入った。
「あっ」
「んんっ」
ふたりで同時に声をあげた。
朱姫の肉襞に孫空女の股間に生えた張形が沈んでいくのがわかる。
孫空女の顔がさらに歪む。
突き挿さる。
膣の内側が圧迫される。
気持ちいい……。
たったいま、破瓜を迎えたばかりとは自分でも思えない。
宝玄仙は、まだ道術を使って、痛みを飛ばしているのかもしれない。
孫空女から受けるものは快楽しか感じない。
膣の最奥の部分がずんと突かれた。
激しい激情が朱姫を襲う。
「うわああっ」
突きあげられた快感に朱姫は声をあげる。
「ひゃああんん」
孫空女も声をあげている。
いつもと違うその可愛らしい声に、思わず朱姫はどきりとしてしまう。
それで、ちょっと悪戯心が浮かんで、繋がっている自分の腰を左右に振ってみた。
それにより、朱姫の中に快楽が拡がる。
「あっ、そ、それだめぇ」
だが、孫空女の反応はそれ以上だ。
背中を仰け反らせたかと思うと、大きな嬌声をあげた。
「ふふふ、孫姉さん……。朱姫を犯してくれるんでしょう? 休んじゃ駄目じゃないですか……」
朱姫がそうささやくと、孫空女は少しだけ嫌な表情をした。
だが、また朱姫が下から張形を突きあげて、前後左右に激しく振ると、たちまちに情感の籠った表情に変わる。
「ああっ、いいっ」
「ほらっ、孫姉さん。朱姫をもっと犯してください。大丈夫ですから。もっと激しく――」
孫空女も沙那も、とても強くて怖いが、優しいし、なによりも、ものすごく感じやすい。朱姫からすれば、反応のよすぎる玩具みたいだ。
とても、愉しい。
「ああ……、わ、わかってる……」
孫空女は腰を前後に動かして、朱姫を突きあげ始めた。
朱姫は与えられる快楽に懸命に抵抗しながら、逆に孫空女を押し返す。
腰を振る。
密着した肉芽を肉芽で揺さぶる。
「ひんんん――」
孫空女が大声をあげて、朱姫の身体の上で限界まで身体を仰け反らせた。
朱姫は、自分の股間の奥に孫空女から噴出したものが子宮の入り口に当たるのを感じた。
「お前が、逆にいかされて、どうするんだい、孫空女」
宝玄仙の呆れたような声がした。
朱姫はぐったりとしている後手の孫空女を両手でかかえると、接合したままくるりと反転した。
上下が逆になり、今度は朱姫が上だ。
「な、なに、朱姫……?」
孫空女は、まだ絶頂の余韻に浸っている。
朱姫は、それを上から張形で突きおろす。
「はぐうっ――いぎっ――いいいっ――いぐうっ――」
孫空女は、すぐに朱姫の攻撃に翻弄された。
しばらくしつこく続けていると、再び始まった孫空女の痙攣――。
それを逃さないように、さらに張形の動きを速めていく。
さらに、舌で孫空女の豊かな乳房を舐め回る。
張形は回すように前後する。
舌は、孫空女の乳房の突起を這う。
口をつけて吸う……。
腰を小刻みに振動させる……。
「だ、駄目えええっ」
孫空女がまた絶頂に身体を揺らせた。
「まだですよ、孫姉さん。朱姫は、一度もいかせてもらっていませんよ」
間髪入れずに、激しく朱姫は腰を動かす。
「も、もう、勘忍――。朱姫、もう――や、休ませて……。そ、そんなに立て続けに……」
「立て続けにいっているのは、孫姉さんだけですよ。朱姫はまだです。朱姫を犯すんでしょう。それとも、朱姫が孫姉さんを犯してあげましょうか?」
「だ、だから――。な、なんで、お前……そ、そんなに……じょ、上手で……、あああっ」
もう、孫空女は息も絶え絶えだ。
三度目の絶頂もすぐに迎えたようだ。
それとともに、朱姫も声をあげて果てた。
朱姫は、ぐったりとしている孫空女から身体を離れた。
孫空女の淫孔の中から張形が引き出される。
黒い張形が出されるとき、孫空女の愛液と混じった朱姫の淫液も孫空女の股間から垂れ落ちた。
朱姫は、自分の中からも張形を外して、横に置いた。
激しく息をしている孫空女の股間に屈んだ。
蜜と汗で汚れた孫空女の股間を舌できれいにしていく。
孫空女が身じろぎする。
「呆けていないで、お前も朱姫の股間をきれいにしてやりな、孫空女」
「は、はい」
宝玄仙の大きな声に、やっと孫空女も身体を起こす。
そして、朱姫の前に屈んで股間に舌を這わせる。
くすぐったさと気持ちよさに、朱姫も少し身体を震わせた。
「お前が完全にいかされてどうするんだよ、孫空女。これじゃあ、お仕置きは優しくするどころか、上乗せだね」
宝玄仙は笑っている。
「もう、どうにでもして、ご主人様」
孫空女が恨めしそうな表情をした。
「んっ、なにっ?」
笑っていた宝玄仙が、急に真面目な口調で声をあげた。
「どうしたのですか、ご主人様?」
朱姫は顔を宝玄仙に向けた。
だが、宝玄仙の表情は、いままでのようなものとは違う真剣ものだ。
「沙那?」
宝玄仙は首を傾げている。
「沙那が、どうかしたのさ――?」
孫空女も起きあがった。
そして、宝玄仙の表情でなにかを察したのか、脱いでいた服と具足を身に着けはじめた。
朱姫も慌てて、服を着る。
「沙那の気配が突然消えたんだ」
宝玄仙も身支度をしながら言った。
「消えた?」
孫空女が言った。
あっという間に支度が終わっている。
とりあえず、衣服だけつけた朱姫は、慌てて、宝玄仙が服を着るのを手伝う。
「ここから離れていっているのはわかっていたんだ、孫空女。おそらく、獲物が見つからないのだろうと思っていた。だけど、突然に消滅した。こんなことは普通じゃあ、ありえないんだ」
「消滅とはどういうことさ、ご主人様?」
「もしかしたら、『移動術』かもしれないね、孫空女。なんらかの罠に嵌ったのかも。そうでなければ、『移動術』を沙那が使うなど考えられないからね」
「さ、探さなきゃ――。でも、誰が? また、天教の教団ですか、ご主人様?」
朱姫も口を挟んだ。
「確か、そう言われてみると、この辺りには、妖魔の巣があったからねえ……。でも、確か、
よくわからないが、宝玄仙はこの辺りの土地に覚えがあるみたいだ。
それにしても妖魔の巣?
そんなところで、呑気に遊んでいたことになるのか?
とにかく、宝玄仙の言葉に、朱姫は、すぐに反応した。
「探します。
朱姫は『使徒の術』を使って、自分の使徒のひとつである奏という名の鳥妖を出した。
奏は、全身が黒い羽根で覆われた雌の鳥妖だ。
「奏、この周囲を探れ――。空から見て、妖魔の集まっている場所とか、建物とか探すんだ。もしも、沙那姉さんらしき者を見つけたらすぐに戻ってこい」
「わかった」
奏はあっという間に空に消えた。
朱姫は、すぐに、もう一匹、
鳴戸は人間の大きさ程の栗鼠の化け物で、『移動術』が使えるだけでなく、魔術や法術へ鼻が利く。
「鳴戸、沙那姉さんが消えた。お前は、道術や魔術の匂いがわかる。この近くで、術の匂いがする場所を探して来い」
「ここがするね。道術の匂いでいっぱいだね」
鳴戸が言った。
「ここはわかっている。ここ以外の場所を探すんだ、鳴戸――。ご主人様、沙那姉さんが消えただいたいの場所はわかりますか?」
「ああ」
宝玄仙は頷いた。
そして、道術力を使って、鳴戸と朱姫にその場所に関する情報を伝送してきた。
「その場所を探して、なにがあったか調べて報告すればいいね?」
「そうだ、行って来い。もしも、なにかを見つけたら、すぐに移動術で戻れ」
「わかったね」
鳴戸もあっという間に走っていく。
ただ、走っていく前に、鳴戸には、この場所で自分の結界を刻ませた。
結界を刻んでおけば、次には『移動術』でここに戻れるからだ。
「さて、もしも、沙那が浚われたということになれば、わたしたちは探しに行く。その場合、朱姫はここに待機しているんだ」
宝玄仙が言った。
「でも……」
朱姫だって、沙那が心配だ。なにかあったのなら朱姫も助けにいきたい。
「気持ちはわかるけど、荷の番をする者も必要だ、朱姫。それと、この結界はこのままにしておく。道術を使って、結界を維持できるのは、お前だけだ」
「わかりました、ご主人様。じゃあ、使徒たちを預けます。なにか伝言があれば、それを使って知らせてください」
「知らせるんなら、『遠耳・遠口』という魔具もあるよ」
宝玄仙がにやりと笑う。
「あれは、もう、ごめんです」
朱姫は身震いした。
『遠耳・遠口』は、遠くにいる者同士が言葉を伝達し合うことができる便利なものだが、猛烈な副作用があり、使い終わった後しばらくしてから、一刻(約一時間)程、いき狂いの状態になるのだ。
この女法師に捕えられた日、騙されて『遠口』を口にさせられ、同じように『遠口』を口にしていた沙那とふたりでいき狂いの苦しみを味わった。
これまでに宝玄仙から受けたどんな仕打ちよりも、あれが一番苦しかった気がする。
すると、奏が戻ってきた。
「もう、戻ってきたの、奏? なにかあったの?」
朱姫は言った。
「妖魔の集まるところを探せと言ったよ。もう、見つけた」
「もう? どこに?」
「大きな館があった。たくさんの妖魔が集まっていた。鳥妖もいた。西に五里(約五キロ)の山中だよ、主殿」
奏が言った。
「たった五里(約五キロ)?」
孫空女が声をあげる。
「あらあら、じゃあ、わたしらは、妖魔の巣のすぐそばに彷徨い込んでしまっていたというわけかい。とにかく、その場所を、わたしの頭に転送しな、奏」
宝玄仙が言った。
奏は、指示の通りにしたようだ。
そこに鳴戸が出現した。『移動術』で戻ってきたのだ。
出発前に、ここに結界を刻んだので、向こうから結界を刻んで、そこを通って、戻ってきたのだ。
「行ってきたね。これが落ちていたね」
鳴戸が、小弓を朱姫に差し出した。
すぐに、宝玄仙に渡す。
「間違いない。この弓は、沙那が狩りに遣うやつだ」
喋ったのは孫空女だ。
真剣な表情だ。
「そこには、なにがあった、鳴戸?」
宝玄仙だ。
「地面に矢が刺さっていたね。何本もね。それから、あちこちに、たくさんの結界罠があったね」
「結界罠?」
孫空女が言った。
「動物の狩りで遣ったりするものです、孫姉さん。基本的には、『移動術』と同じですけど、あらかじめ、『移動術』の入口となる結界を刻んでおいて、そこに、特定の獲物が入ったら、自動的に檻なんかに転送するように仕掛けるものです。あたしも使えます」
朱姫は言った。
「じゃあ、沙那はそれに捕えられたということ?」
「そういうことだね、孫空女。沙那は、獲物にされたのかもしれない――」
宝玄仙は言った。
もう、出発しようとしている。
「獲物にされたって、どういうこと、ご主人様?」
「鈍いねえ、孫空女。妖魔の餌にされようとしているんだ。沙那が狩りをしにいったのと同じように、連中も狩りをしていたのさ。そこに、たまたま、沙那が入ってしまったのだろう。妖魔は人間を食う。この朱姫だって、この宝玄仙を食べるつもりだったって言っていたじゃないか」
「もう、言わないでください、ご主人様。それよりも、沙那姉さんが……」
朱姫は言った。
「冗談じゃない。沙那を食われてたまるものか。早く、助けなきゃ」
孫空女は、厳しい表情をした。
「待って、ご主人様――。お前たち、戻れ」
朱姫は、
板切れに意味はない。
たまたま、衣服の内隠しに入りやすいから使っているだけだ。
他のものにも転送できる。
三枚の板切れを宝玄仙に差し出した。
「これを持っていってください。
「預かっておくよ、朱姫」
宝玄仙は、使徒の憑依した板を黒い法衣の内隠しに入れた。
「じゃあ、行こうか、孫空女」
「うん」
ふたりとも、あっという間にいなくなった。
朱姫は、待つ以外にやることがなくなった。
*
「二日? ずっとか?」
椀子魔は、もとはこの山の山妖で、いまは、この波月城に集まっている家来の妖魔を束ねさせている。
報告の内容は、
どうやら、白骨夫人は、以前の約束により、黄袍魔の不在中に、ここを訪ねてきたらしい。
王都の妖魔市に出す雌妖を地下牢から貰い受けに来たようだ。
だが、目ぼしいものがなく、なにも貰い受けずに立ち去った。
そのときに、百花姫に淫靡な置き土産をしていったとのことだ。
なんと、二日前に、百花の部屋を媚薬の香でいっぱいにしたというのだ。
「すっかりと熟れきっている様子ですよ、黄袍魔様。もう頭の線も切れてるでしょう。あそこを犯されることしか、もう考えられん様子で……」
黄袍魔は、報告をした家妖の顔を張り飛ばした。
鼻血を出した椀子魔が床に転がる。
「も、もちろん、見てはいません。お言いつけに、逆らってはいませんよ、黄袍魔様。いまのは、世話係の雌妖の話でして――」
椀子魔は床に倒れたまま、打たれた鼻を押さえて、慌てたように言った。
「ならいい。白骨には、商人としての義務があるというから、鏡で観察することを許したが、俺は百花を見世物にするつもりはない。俺の留守のあいだに、雌妖の部屋に赴き、百花の部屋を眺めた妖魔がいないか、お前が調べて報告しろ。もし、いれば俺が処分する」
「はい」
立ちあがった椀子魔が、恐怖の色を顔に浮かべながら頭を下げる。
「百花の部屋に行く」
「お待ちください。もうひとつ、報告が……」
「なんだ?」
黄袍魔は、『移動術』を念じるのを中断して、椀子魔を見た。
「獲物を狩りにいっていた隊から、面白い報告がありました」
「面白い?」
「獲物を捕らえたと」
椀子魔が意味ありげな笑みを浮かべる。
「それのどこが面白い。まあ、この周域は、あまりにも妖魔の魔力が強くなりすぎて、食料となる獣や鳥もめっきり減った。獲物を捕らえること自体は、珍しいことではあるが」
「違うのです、黄袍魔様。獲物は獲物でも、人間の雌です」
「人間がこの黄袍魔の支配域に入ったのか?」
黄袍魔は驚いた。
この宝象国の人間は、ここが妖魔の棲み処であることを知り抜いていて、この山一帯を「人外地」として、立ち入ることも禁止し、立ち入った場合は、妖魔の狩り取り勝手とし、保護の対象外という触れまで出しているのだ。
だから、人間はこの椀子山には入ってこない。
間違って入ってくれば、妖魔に食われるということがわかっているからだ。
「旅の途中だったようです。そこそこの遣い手のようですが、『結界罠』に嵌り、檻に入れています」
「ひとりか?」
「捕えたのは……」
「ほかにも連れがいそうか?」
「いるかもしれません。その雌は、結界罠に捕えられたときに、“ご主人様”と口走ったということです」
「ご主人様か……」
黄袍魔は思案した。
そして、思い当たることがあった。
留守にしている間に、それについて、思い当たる噂に接していた。
もしも、嫌な予感が当たれば、面倒なことになるかもしれない……。
「遣い手だったと言っていたな」
「はい。偶然にも『結界罠』を踏まなければ、捕えることはできなかったと、その隊長も言っておりました。妖魔が二匹やられています。怪我だけですが」
「うむ……。その人間の雌はどこにいる?」
「地下牢です。確認されますか?」
「会おう」
「では、ご同行します」
黄袍魔は、地下牢に『移動術』で飛ぶ。
*
次の瞬間、黄袍魔は、地下の廊下にいた。
廊下の両側に小さな檻が百ほど並んでいる。
大抵は、妖魔に対する懲罰に使っており、それぞれの檻の広さは、人がひとり入れるだけの小さなものだ。
奥行きもないので、中に入れられた者は、横になることはできない。
休むときには、石の壁にもたれるだけだ。
廊下側には鉄の格子が嵌っている。
そもそも、扉などないので、魔術でなければ、檻の外に出る手段がないが、檻には壁にも鉄格子にも、『魔術返し』がかかっている。
檻の中の者は、魔術も法術も封じられるので、檻の外に出るには、外の者に魔術で移動をさせてもらうしか出る方法がない。
「どこだ、椀子魔?」
「奥の端です。ほかの懲罰中の妖魔とは離してあります」
黄袍魔は、椀子魔の案内で地下牢の奥に向かって進んだ。
両側の檻には、ところどころに懲罰用の妖魔が入れられている。
黄袍魔が通ると、命乞いの声が鳴り響くが、黄袍魔は無視する。
懲罰といっても、ここに入れられた妖魔が生きてここを出ることはほとんどない。
ここにいる妖魔は、食料になる順番を待っているだけで、死ぬことは決まっている。
「こいつです」
椀子魔が言った。
檻の中には、白い上下の格闘着に革の具足をつけた肩まで伸びた茶色い髪をした女戦士が壁にもたれて座っていた。
そばには、女剣士の持ち物らしい細剣が床に置いてある。
黄袍魔は、女剣士のいる檻の前に立った。
眠っていたと思った女剣士が不意に動いた。
次の瞬間、女剣士の細剣は鞘から抜かれて、鉄格子のこちら側の黄袍魔に向かって差し出されていた。
ただ、檻の持つ魔力により、鉄格子のある空間で阻まれている。
「無駄だ、人間の雌よ。この檻には、魔力がかかっている。この檻からは、なにも外に出ることはできない。逆に外から中に物は入れられる。不用意な行動はせんことだ」
「……あんた、誰よ?」
女が細剣を鞘に戻して、また壁にもたれかかった。
「ほう、妖魔を見ても、怖がらんな」
「今更」
「妖魔を見慣れているか?」
「少しはね。ところで、あなたは誰?」
「この妖魔の城の主だ。黄袍魔という」
「横の妖魔は?」
「椀子魔という名の俺の家妖だ。この城のことを取り仕切っている」
「それで、その妖魔城の主人がここになんの用? 助けてくれるのかしら?」
「餌が捕えられたと報告を受けたのでな。検分に来たのだ」
「餌?」
餌と聞いても、やはり、この人間の女は、動揺する様子は見せない。
それなりに度胸は座っているようだ。
ただ、冷静に情報を探って、自分のいまの立場を見極めようとしている。
「当然だろう。ここは妖魔の城だ。しかも、ここは、宝象国の認める人外地で、この山に入った人間は、問答無用で食ってもいいという取り決めもなされている」
「知らなかったのよ」
「知らなかったとしても、お前が餌になることには、変わりはない」
「大人しく、餌になると思う? ここを開けてみる?」
「そこは、開かん。開ける方法などない」
「えっ?」
「なぜ、武器も具足も取り上げないか不思議に思わんのか? その必要がないからだ」
「必要がない……?」
「そこは、魔術以外で外には出られん。そして、お前が外に出るときは、そのまま、調理釜に転送される。そこで、焼けあがってから、初めて外に出す。食べ物としてな」
女の顔に初めて焦りの色が映った。
「……ところで、お前は、不思議な存在だな。強い霊気があるのに、魔術は遣えんのか?」
黄袍魔は言った。
「大きなお世話よ」
「お前は、沙那だな?」
黄袍魔の言葉に、沙那が目を丸くした。
「なんで、わたしのことを知っているの、黄袍魔?」
「なるほど……わかった」
黄袍魔は踵を返した。
「待ちなさい、黄袍魔――。なんで、わたしの名を知っているのよ。答えなさい。まって、待てってばあ――」
沙那の叫び声を背に聞きながらしばらく歩き、やがて、黄袍魔は、椀子魔に顔を向けた。
「俺の指示があるまで、あの雌に手を出すな。よいな」
「承知しましたが、理由を教えていただけますか?」
「あの人間の女は、宝玄仙という天教の教団の法師の供だ。あれに手を出すと面倒なことになる」
「宝玄仙?」
「宝玄仙は、教団の八仙を三人を殺すほどの術遣いだそうだ」
「では? 解放を?」
「それも待て。考えていることがある」
「はい」
黄袍魔は、再び『移動術』を使った。
最上階の私室だ。
むっとするような濃い香が部屋に充満している。
そこ中に、気を失っている百花がいた。
ただ、呻き声をあげ続けている。
黄袍魔は、百花の下袍をまくりあげた。
そこには、黄袍魔の霊具の張形により塞がれた膣とその上の肉芽に貼られた『振動片』がある。
股間はまるで尿を洩らしたように、淫液で溢れかえっている。
この媚薬の混じった部屋で、『刺激片』を陰核に貼りつけられて、二日間も放置するとは……。
あの女は、百花を毀すつもりか……?
黄袍魔は、怒りを覚えた。
百花は完全に気を失っているらしく、身動きひとつしない。
黄袍魔は舌打ちをして、白骨が置いていった淫霧を魔力で部屋から消し去った。
百花が眼を開けた。
その眼は虚ろだ。
黄袍魔は、百花の陰部と肛門を塞いだ張形と、白骨の『振動片』を魔術で消し去った。
百花の顔は、涙と涎で、みっともない顔になっている。
黄袍魔のことがわからないのか、それとも、もう、眼を開けても、視線にはなにも映らないのか、百花は無反応だ。
「……、お、おれ……おひぇがい……で……す。……お……願い……。して、くりゃ……はい……」
やっと、百花は呂律の回らない舌で、それだけを言った。
黄袍魔は服を脱いだ。そして、体液でまみれた百花の服も脱がす。百花は身体に触れられることで反応を示すが、嫌がるそぶりはない。
「……おひぇ……がい……し……ま……しゅ……。お……れが……い……」
憑かれたように、哀願を繰り返す百花を抱えると、黄袍魔は百花の淫孔に、いきなり自分の肉棒を突き入れた。
「うごおおおお――」
獣のような声をあげて百花は吠えた。
そして、身体を弓なりにして、あっという間に絶頂の行動を示す。
黄袍魔は、魔術により、百花を拘束していた手錠を消滅させた。
黄袍魔の下にいる百花は、腕を黄袍魔の背に回し、しがみついてくる。
黄袍魔が、二度、三度と自分の腰を百花の腰に叩きつけると、百花は激しく痙攣して、また果てる。
だが、百花は、まだ満足しないようだ。
それでも、また、求めてくる。
その要求に応じるように、黄袍魔は腰を動かし続ける。
やがて、百花は口から泡を吹いて、動かなくなった。
再び気を失ったようだ。
その表情には、満足したようなものが浮かんでいる。
「仕方ないな……」
黄袍魔は、百花の右肩に自分の手を置いた。
百花の身体に内丹印を刻むためだ。
結界の中とはいえ、身体の中に直接に魔術を注ぐためには、それが一番いい。
内丹印が刻まれると、黄袍魔は百花が犯されている香の影響を百花の身体から消し去った。
結界を通して、百花の身体の異常を探る。
やはり、神経や精神がかなりずたずたに損傷している。
所謂、“発狂”した状態にかなり近かったようだ。
白骨は、百花が黄袍魔との結婚に同意させやすくするために、そうしたのかもしれないが、黄袍魔はここまでの仕打ちを望んではいない。
「とりあえず、休め」
黄袍魔は、ぐったりと横になった百花の頬に口づけをした。
「百花の身体を洗え。それと、部屋の掃除だ。この部屋の品物も百花の服も、すべて、新しいものと入れ替えろ」
黄袍魔は、百花の世話をするために待機している雌妖の部屋に、自分の声を飛ばした。
百花の部屋に入れるのは、妖魔では百花の世話をするために集められている五匹ほどの雌妖だけだ。
部屋の鏡から投影されたものを見れるのも、黄袍魔を除けば、その雌妖たちだけだ。
すぐに、品物を持った雌妖たちが部屋に現れた。
入れ替わるように、黄袍魔は、百花の部屋から『移動術』で飛んだ。