665 偽物登場
「
朱姫は、目の前に見えてきた国都の城門に向かいながら、横を歩く素蛾にささやいた。
「は、はい、朱姫姉さん……。で、でも……」
顔を隠す頭巾付きの袖なし外套で身体全体を覆っている素蛾は、おぼつかない足取りで、一生懸命に前を歩く宝玄仙や孫空女について行こうとしている。
しかし、覆いに隠れた素蛾の顔はすっかりと上気して、時折甘い溜息をしていており、時々足をよろめかせたりしている。
なかなか速足ができないようだ。
とてもつらそうだ。
そんな健気な素蛾の様子を見ながら朱姫は思わず微笑んだ。
公主だと主張する十二歳のこの童女は、いまや完全に朱姫の妹分である。
そして、朱姫の性奴隷であり、玩具であり、小さな恋人なのだ。
宝玄仙との旅は苦労もあるが愉しみもある。
だが、とりわけ、素蛾の調教係をしながらのこの半月の旅は愉しかった。
しかし、いよいよ、天神国の国都に着こうとしている。
この天神国の国都では、ここにいるであろう素蛾の偽者を暴くことになるだろう。
それがどういう結果に終わるのかわからないが、つまりは、素蛾が旅から抜けるということだ。
朱姫はそれが寂しい。
素蛾のためには、宮殿にいるのであろう素蛾の偽者を暴いてやりたいとは思うが、それは素蛾との別れを意味する。
朱姫としては複雑な心境だ。
いずれにしても、素蛾を襲って、国境近くの平原に身ひとつで放り投げるような仕打ちをして、素蛾を不幸な境遇に陥らせた者には、それなりの酬いをさせてやる。
その腹は決まっている。
沙那の考えで、国都に入るときには一応は素蛾の顔は隠した方がいいだろうということになった。
だから、素蛾には顔を隠す覆い付きの外套を身につけさせている。
もちろん、素蛾がさっきから切なそうな息をしながら、脚をよろけさせているのは、その外套の下に秘密がある。
「城門よ。みんな固まって。孫空女、少し、歩く速度を落として……。素蛾が遅れているわ」
最後尾を歩いている沙那が声をかけた。
最初のうちは、のべつ幕なしに素蛾の嗜虐調教を続ける朱姫に、沙那はたびたびたしなめてはいたが、素蛾が本当に嫌がってはいないし、さらに朱姫にすっかりと懐いているということを見て取ってか、いまはなにも言わなくなっている。
素蛾を国都に連れていくための行程は、十日の予定だったが、それが数日延びて半月の旅になった。
まあ、道中の悪戯のための旅が長くなるのは、この一行の特徴だから珍しいことではないが……。
夜の百合の責めが激しすぎて、誰かしら翌日は動けなくなり、同じ宿に続けて泊るということは日常茶飯事だし、街道を歩きながら誰かが宝玄仙か朱姫の悪戯の犠牲になって、道中が遅れるということもいつものことなのだ。
特に、今回の朱姫にとっては、国都への旅が延長するということは、素蛾との旅が長くなるということであり、それは好ましいことだった。
素蛾もまた、内心は複雑そうだ。
宮殿にいる両親には会いたいのだが、朱姫と一緒に旅も続けたいと、昨夜調教の途中で泣かれたときには、思わず抱きしめてしまった。
もっとも、それで素蛾の調教に手を抜いたわけではないが……。
孫空女がやや足を遅らせて、遅れ気味だった素蛾と朱姫と沙那が追いついた。
朱姫はもう一度素蛾の顔の覆いを直して、顔をやや伏せさせて城門をくぐらせた。
もしも、素蛾の偽者を宮殿に潜り込ませた人物がいるとしたら、本物の素蛾が国都に戻ってくるのを一番に警戒しているだろう。
城門を通過した。
ほかの旅人などと混ざるかたちになり、城門の兵にも咎められることなく城郭に入った。
朱姫はとりあえずほっとした。
「とりあえず、宿を決める前に辺りを探ってきます、ご主人様。そのあいだ、どこか人目の少ない場所で待っていてくれませんか……。ねえ、素蛾、国都の中に、どこか目だたない場所はない? あまり人気のない場所。そこで待っていて欲しいの」
城門をくぐって、人の群れの中に紛れ込むと沙那が言った。
「す、少し進んだところに、
素蛾が上気した顔で言った。
全員でそこに向かった。
黒竜廟という場所は人がいないわけではなかったが、確かに、広いので人はまばらになっていた。
そのひとつの長椅子を占領して、しばらく休むことになった。
沙那が荷を置いて、さっそく情報集めのために出かけていく。
陽は中天からやや西に傾いたというところだ。
長椅子には宝玄仙と朱姫が両端に座り、素蛾が真ん中だ。
孫空女は離れた場所で立ったまま、周囲に気を配って不審な者がいないか何気なく注意を払っているようだ。
「さあ、素蛾、立ってあたしの前に立ちなさい。外套を左右に開いて、お前がどんなにはしたない子か見せるのよ。言いつけを破って、いやらしい汁を股間から出したりしていたら罰よ」
朱姫は意地悪く言った。
素蛾は真っ赤な顔になった。
「で、でも、わたくし……一生懸命に我慢しようとしたんです……。だ、だけど、朱姫姉さんの言ったとおりに、感じないように我慢するなんてできません……」
素蛾が小さな声で言った。
「いいから、見せるのよ」
朱姫はわざと強い物言いをした。
素蛾は溜息をつきながら、立ちあがって朱姫の前に立つと、左右の外套を開いた。
外套にはもともと前紐があったが、朱姫が事前に取り去っている。素蛾が手を離せば、前をとめるものはなく、勝手に左右に開くのだ。
「は、はい……」
素蛾が外套を左右に開く。
宝玄仙は、朱姫と素蛾の様子ににこにこと笑っている。
離れた場所に立っている孫空女は、まったくこっちのことは気にしていない。
素蛾が開いた外套の下は完全な裸体だった。朱姫は素蛾に服を着せずに、外套一枚だけで朝から歩かせていたのだ。
しかし、素蛾の上気した顔と荒い息は、それが原因ではない。
その秘密は素蛾の股間にあった。
素蛾の腰にはしっかり腰縄があり、そこから縦に伸びた縄がしっかりと素蛾の童女の股間に食い込んでいる。
しかも、縦縄には大きな瘤が三つ作ってあり、それが素蛾の肉芽と女陰と菊門に完全に当たっている。
敏感な場所を縄瘤で苛まれながら半日も歩かされたとあっては、素蛾がつらそうに歩いていたのは当たり前なのだ。
その素蛾に、朱姫は今日は感じないように歩けと命じて、朝出発していた。
健気な素蛾は、それをやろうとして、どんな風にすればいいかと訊ねたが、それは自分で考えろと突っぱねた。
もとより、そんな方法はないのだが、素蛾は素蛾なりに歩き方を工夫したり、息をとめてみたり、あるいは、手で反対の手を抓るようにして歩いたりもしていた。
その一生懸命の様子は見ていて、本当に可愛らしかった。
「あらあら、我慢するどころかびっしょりじゃないの、素蛾……。これは罰ね」
朱姫は素蛾の股間を指さしながら言った。
素蛾の股間に食い込んだ縄は、すっかりと素蛾の股間からにじみ出た愛液を吸い込んで真っ黒になっていた。
「ご、ごめんなさい、朱姫姉さん……。そ、素蛾は言いつけを守れませんでした。罰をください……」
素蛾はうなだれて言った。
この純真公女は、朱姫の理不尽な仕打ちに不平や不満のようなものは抱いてはいないみたいだ。
そんな感情は素蛾からは感じない。
素蛾から感じるのは、朱姫の命令に従えなくて、申し訳ないという感情だけだ。
本当に素蛾は心が善良にできているのだろう。
「罰はお尻に痒み剤よ。前は閉じていいから、今度はこっちにお尻を向けて、後ろの外套の裾をあげなさい」
「あっ……。で、でも、朱姫姉さん、あ、あれはつらいです。と、特にお尻は……」
素蛾が消え入るような声で言った。
さすがの素蛾も、痒み剤を塗られての放置責めには泣き叫ぶ。
この半月、素蛾にはあらゆる責めをやったが、素蛾が一番嫌がる責めがそれだ。
「わかっているわ。つらくないと罰にならないでしょう? さあ、お尻を出すのよ。性奴隷の決まりは覚えている、素蛾……? 言ってごらん」
「は、はい……。性奴隷は主人に絶対服従……。どんなに理不尽な命令でも逆らわない……。しゅ、朱姫姉さん、素蛾は逆らいません」
素蛾は両手で外套の左右の合わせて抱くようにして閉じるとともに、朱姫にお尻を向けて突き出すようにした。
素蛾が片手で外套の後ろ側をたくしあげる。
彼女の白い尻が剥き出しになった。
朱姫は腰に提げていた小さな袋から掻痒剤の入った小瓶を取り出す。
「どれ、じゃあ、わたしが塗ってやるよ、素蛾」
宝玄仙が朱姫から小瓶を取りあげた。
「は、はい、ご主人様……。ご主人様に調教していただいて、ありがとうございます」
素蛾が教えたとおりの言葉を告げて、お尻を朱姫から宝玄仙に向け直した。
「だけど、塗っているあいだ、声を出さないように我慢するんだ。もしも、声を出したら罰を与えようね」
宝玄仙が手にたっぷりの塗剤をすくいながら言った。
「声──? そ、そんな……。あっ……。あ、あの……、手で口を押えていいですか、朱姫姉さん」
素蛾が慌てたように言った。
彼女の身体は、この半月ですっかりと快感に弱く作り替えてやっている。
半月前ですら、素蛾はまだ未成熟だが快感には弱い方だった。それが、この半月でかなりの調教を受け、すっかりと素蛾の身体は快楽に弱くなっている。
いまの素蛾では、宝玄仙の巧みな指の技に耐えられることはないだろう。
「いいわよ、素蛾。それで我慢できるならね……。」
朱姫は言った。
「ありがとうございます」
素蛾は手でしっかりと口を押さえた。
そのため、まだ前を留めていない外套の前がはだけて、素蛾の裸身が見えているが、近くに人はいないから大丈夫だろう。
宝玄仙は予告なしに素蛾のお尻の穴に薬剤を載せた指を無造作に挿した。
「んんっ──」
素蛾の身体が一瞬伸びあがりかけるとともに、口から悲鳴がほとばしりそうになった。
だが、素蛾はなんとか姿勢を保つとともに、手で必死に口を押さえて声が出るのを防いだようだ。
「おっ、なかなか、いいねえ……。それに、さすがは朱姫の調教だねえ。もうすっかりと指が奥まで入るじゃないか。張形も受け付けるのかい?」
宝玄仙が意地悪く素蛾の肛門深くに指を入れてくるくると刺激を与えるように動かしまわっている。
素蛾は必死だ。
全身を快感に震わせてながらも、ただ声を出さないことだけを考えて、口を手で押さえ続けている。
声の代わりに、荒い大きな鼻息はするが、確かに声は出していない。
宝玄仙はにこにこしながら、どんどんと薬剤を塗り足していっている。
「ご主人様に褒められたわね。ご褒美をあげるわ。口を開けて舌を出しなさい」
朱姫は立ちあがると、素蛾の前に回り込んで言った。
真っ赤な顔をしている素蛾の目が大きく見開いた。
舌を朱姫にぺろぺろと舐められる責めは、素蛾の一番好きな朱姫の責めだ。
これをやられると、素蛾は簡単に身体が砕けたように脱力してしまう。
確かに、これはご褒美なのだが、いまの素蛾には意地悪い仕打ちだろう。
宝玄仙の尻責めを手で口を塞ぐことで辛うじて我慢しているのに、手を外すだけではなく、舌舐めの責めまでを受けては絶対に声は我慢できないからだ。
しかし、素蛾は逆らわなかった。
手を外すと、しっかりと口を開いて舌を出した。
朱姫は宝玄仙が追加のために肛門に指を入れ直すのに合わせて、舌舐めを開始した。
「はあ……ああっ……ああっ──」
たちまちに素蛾は身体を大きくよがらせて、あられもない声を出した。
「声を出すんじゃないと言ったろう、素蛾。ほら、お尻をしまいな」
宝玄仙が笑って、軽く素蛾のお尻をぴしゃりと叩いた。
朱姫もひとしきり舌舐めをしてから、やっと素蛾を解放した。
「ほら、罰だ。わたしたちの足を舐めな。靴を脱がせて、一本ずつ丁寧にね。わたしが終われば、朱姫の足だ──。全部、終われば、その結果によりお尻を慰めてやるよ。へたくそなら、宿まで痒みはそのままだよ」
宝玄仙が言った。
「は、はい……」
素蛾がその場に座り込んで、宝玄仙の片脚の靴を脱がせた。
そして、素蛾は頑張った。
朱姫に教えられたとおりの舌技を駆使して、宝玄仙の足の指に奉仕した。
途中からお尻にたっぷりと塗られた掻痒剤が効きだしたのか、激しく腰を振り出したが、奉仕の途中で泣き言は言わなかった。
宝玄仙が満足しているような顔をしていた。
宝玄仙の片脚が終わり、もう一方の足に素蛾が取り掛かった。
宝玄仙の足の指が終わって、朱姫の番になるころには、素蛾は痒みの苦しみを完全に全身に表すようになっていた。
腰は休みなく振り続けられているし、全身からは脂汗が流れて、それがぽたぽたと地面に落ちている。
覆いに隠れているからわかりにくいが、その顔は上気して汗びっしょりだ。
大したものだと思うのは、その状況でも素蛾は、奉仕の途中で「痒い」という言葉をひと言も発しないし、奉仕から手を抜いたりすることはないことだ。
朱姫が教えたとおりのことなのだが、なかなかできるものじゃない。
やっと朱姫は足の指舐めを許した。
朱姫は素蛾にお尻を向けさせて、痒みに苦しんでいる素蛾のお尻を指で責めてやった。
「んふううううっ」
あっという間に素蛾は気をやり、すぐに二度目の気もやった。
三度目の絶頂をするときには吠えるような声も出した。
そして、半分気を失うようにぐったりとその場に崩れ落ちた。
朱姫は素蛾を抱き起こして股縄を外してやる。股縄は絞れば素蛾の愛液が滴るくらいにぐっしょりと濡れていた。
長椅子に座り直させた。
素蛾は疲れたように、朱姫の身体にもたれさせて、すぐに寝息をかきだした。
そのころには、陽もかなり、西に傾きだしていた。
「そういえば、沙那姉さん、遅いですね」
朱姫はつぶやいた。
沙那が情報集めをするのはいつものことだが、いつもはもっと早い。
みんなを宿に入れてから出かけ直すこともあるし、宿でほかの者を休ませる前に、そんなに待たせることはないのだ。
「沙那が来たよ」
孫空女が声をかけてきた。
顔をあげると、沙那がこっちに向かってくるところだった。
「沙那姉さん──」
朱姫は手を振って名を呼んだ。
「ご主人様、大変です──。素蛾の……、偽者の素蛾の婚姻の儀が五日後に迫っています。急遽、西方帝国の皇子のひとりとの婚姻が決まったということで、それが行われるらしいです。その式典が行われるということで、国都はかなりの人出でした」
沙那が言った。
「婚姻の儀──?」
「は、はい──。それで、聞きまわったんですが、婚姻の儀では、道術契約による『結婚の儀』も結ばれるらしいです。ご主人様が以前言われていましたけど、これは問題あるんじゃないですか?」
沙那が焦った口調で言った。
「『結婚の儀』かい……? 確かにそれはまずいね……。偽者の狙いはそれなのかもしれないねえ……。『結婚の儀』は道術契約だ。魂と魂の結びつきなんだよだ。そんなものを西方帝国の皇子を相手に、間違って偽者の公主と結ばせたとあっては、この国の国王もただで済まないだろう。そうなってしまえば、あとで偽者だとわかっても、国王としては、そっちが本物だと言い張るしかないだろうね──。素蛾の帰る場所はなくなってしまうよ」
宝玄仙が言った。
「ご主人様──」
その瞬間、血相を変えた孫空女の声がした。
孫空女は『如意棒』をすでに抜いている。
朱姫にもわかった。
なにかが『移動術』で出現しようとしている。
「素蛾、起きて──」
朱姫は慌てて素蛾を起こした。
「……あと五日遅れてくれば、もう戻ってきても問題はないし、放っておいてやろうと思ったのにね……。まあ、いいさ。残りの五日はあたしが監禁しておいてやるよ。その公女をね──」
目の前の空間にひとりの童女が現れた。
「そ、素蛾?」
朱姫は叫んだ。
その姿は横の素蛾にそっくりだった。
「な、なんですか……? あっ──」
素蛾が目を開き、自分とそっくりの童女の出現に目を丸くしている。
「お前は人間じゃないね──。亜人だね──」
宝玄仙の道術が飛んだのがわかった。
しかし、そのもうひとりの素蛾の姿が消滅した。
そして、長椅子のすぐそばに出現した。
「うわっ」
「なにっ──」
宝玄仙と朱姫の身体を突き飛ばして、素蛾の身体を掴んだ。
ものすごい力だ。
「きゃあああ──」
素蛾が悲鳴をあげた。
「お前──」
沙那が飛びかかった。
しかし、その沙那が簡単に蹴飛ばされた。
沙那が地面に腹を押さえて横たわる。
「お前らのことはずっと見守っていたさ。かつてのあたしと同じように、この公主を奴隷に落としてやったのに、生ぬるい調教しかしなくて苛ついていたんだ──。ちょうどいい。この公主はあたしがきっちりと五日間拷問してやるよ。本物の調教を体験させてやるさ」
偽公主が叫んだ。
片手で素蛾の身体を抱えたままだ。
「ま、待ちな──」
孫空女が如意棒で殴りかかった。
だが、素蛾を抱えたまま。ふわりとそれを避けてしまう。
「このあたしが昔に受けたようなね……。それが終われば、もう、帝国の皇子との「結婚の儀」が済んでいるから、今度は、ここの国王はあたしの方が本物だと主張するしかなくなる。用済みの素蛾は解放してやるよ──。いい気味だ。これで国王に恨みが返せるというものだ──。とにかく、関係のないお前たちは邪魔するんじゃないよ」
「待て、こいつ──」
孫空女が再び『如意棒』で殴り掛かる。
しかし、驚愕することに、その孫空女の『如意棒』を偽公主は片腕で受けとめた。
そして、凄まじい蹴りを肚に食い込ませて孫空女を蹴り飛ばす。
「ぐあっ」
孫空女が吹き飛ぶ。
「ま、待つんだよ──」
態勢をとり直した宝玄仙が道術を飛ばした。
「待つのよ──」
ほとんど同時に、朱姫も『影手』を飛ばしている。
しかし、透明の道術の壁が出現して、ふたりの道術を弾き飛ばした。
朱姫は呆然とした。
信じられない……。
沙那、孫空女の武術だけでなく、宝玄仙の道術まで歯が立たないのだ。
「別に殺しはしないよ。あたしが恨みがあるのは国王であって、この素蛾じゃないからね。ただ、ちょっとばかり、本物の調教というのを味あわせてやるだけだ……」
道術の壁の向こうで偽公主がうそぶいた。
「た、助けて、朱姫姉さん──。朱姫姉さん、助けてください──」
素蛾が叫んだ。
「素蛾──」
朱姫は道術を飛ばした。
しかし、また跳ね返される。
「ちっ」
「孫女、逃がしちゃだめよ──」
起きあがった孫空女と沙那も飛びかかった。
しかし、ふたりの身体も見えない壁に弾かれて飛ばされる。
「お前は誰だい……?」
宝玄仙が真っ直ぐに偽公主に身体を向けたまま言った。
「あたしは、
玉兎が言った。
そして、素蛾を抱えたまま消滅した。
「な、なんなのよ──」
朱姫がその場にひざまずいて声をあげた。
その手にはついさっきまで素蛾の股間に食い込んでいた縄がある。
まだ、素蛾の股間の温もりさえも感じる縄だ。
素蛾の股間に食い込んでいた部分がぐしょりと濡れている。
たったいままで、これで素蛾をお互いに愉しく「調教ごっこ」で愉しんでいたのに……。
その素蛾が消えた。
連れ去られたのだ。
呆気なく……。
なすすべもなく……。
「なんなのよ──」
もう一度言った。
「朱姫、その縄を……」
すると、まだ蹴られた場所が痛むのか、沙那が腹を押さえながら話しかけてきた。