※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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666 家畜になった本物公主

「きゃあああ──誰か──誰か──」

 

 素蛾は悲鳴をあげ続けていた。

 しかし、助けはやって来そうにない。

 素蛾は、手足を狂気のように振って、身体にまとわりつく無数の蛇を振り払っていた。

 

 だが、払っても払っても蛇は襲ってくる。

 足元にいる蛇は数百匹はいるだろう。

 それが、素っ裸でこの丸い壁に囲まれた小さな部屋にただひとりいる素蛾に次々に襲い掛かってくるのだ。

 

 蛇は噛みつくことはないが、その代わりに気味の悪いぬるぬるの身体の表面を素蛾の肌に絡みつけてくる。

 しかも、ちょっとでも隙を見せれば、素蛾の股間の二つの穴に頭を入れて潜り込もうとする。

 素蛾は片手で必死になって股間を守るとともに、もうひとつの手で全身に群がる無数の蛇を追い払っていた。

 

 しかし、どんなに払っても蛇の大群は、どんどん素蛾に群がってくる。

 素蛾はもう気が狂いそうだった。

 いまや、素蛾は首から下の身体のほとんどを蛇で覆われかけていた。

 

 素蛾はあまりの恐ろしさに気を失いそうだったが、もしも、意識を失ってしまったら、たくさんの蛇が股間や肛門に殺到するのは間違いない。

 いや、それだけでは済まず、口や耳など、ありとあらゆる穴に蛇が襲うかもしれない。

 その恐怖心で素蛾は懸命に意識を保っていた。

 

 素蛾がこの奇妙な場所に監禁されて、おそらく数刻はすぎている。

 朱姫たちとともに、やっと国都に戻ってきた素蛾は、黒龍廟(こくりゅうぼう)という人の少ない公園のような場所にいた。

 そこに突然やってきた素蛾そっくりの童女が、あの四人を呆気なく蹴散らして、素蛾を四人から奪ってどこかに連れて来てしまったのだ。

 

 おそらく道術のようなもので跳躍したのだと思うが、気がつくと素蛾は素っ裸でこの奇妙な部屋に入れられていた。

 最初はなにもない丸い壁の部屋だった。

 出入り口のようなものはなにもなく、壁にはどこにも継ぎ目のようなものはなかった。

 ただ、絶対に昇ることはできないような遥か上方に丸い穴があり、そこからは光が注いでいた。

 そして、突然にその穴からこの数百匹の蛇が降り注いできたのだ。

 

 それから、素蛾はこの蛇たちを格闘し続けている。

 素蛾はもう汗びっしょりで、疲労の極致だった。

 そのとき、なにかが肛門にぶつかるような強い感触があった。

 

「いやああっ──」

 

 素蛾は絶叫してその場にひっくり返った。

 油断して一匹の蛇にお尻の中に入られてしまった──。

 それがお尻の中でくねくねと頭を振って潜り込んでくる。

 

「いや、いや、いや、いや──」

 

 素蛾は全身を暴れさせて、蛇を抜こうとした。

 しかし、蛇は細長い身体をくねらせながら腸の奥底に進み入ってくる。

 

「だ、誰か──誰か──」

 

 素蛾は身体を悶えさせて泣き叫んだ。

 蛇の力に抵抗できない。

 いったん入り込んだ蛇の力が強くて、素蛾の力では蛇を引き出せないのだ。

 

「ぎゃあああ──」

 

 素蛾はまた絶叫した。

 肛門に気をとられているうちに、今度は前の穴にも蛇に入り込まれた。

 前の穴と後ろの穴で蛇がうねっている。

 

「ああああ──死んじゃううう──た、助けてええ──朱姫姉さん──助けて──いやああ──」

 

 素蛾は我も忘れて、ここにはいない朱姫に助けを求めていた。

 とにかく、手で必死で蛇を抜こうとするが、そうすると一層激しく素蛾の身体の中でのたうちまわる。

 そして、そのことが素蛾を別の衝撃に追い込んでいた。

 皮一枚の粘膜を隔てて、二匹の蛇がこれでもかと蠕動運動を続けることで、素蛾は狂うような快感の中に陥り始めたのだ。

 

 快感はいままでにたくさん朱姫に教えてもらった。半月前とは比べ物にならないくらいに、素蛾は淫らになった。

 それはわかっているが、朱姫たちによる調教は嫌なものではなかった。

 むしろ、わくわくするような悦びでもあった。

 

 しかし、こんなのはいやだ。

 死ぬほどの嫌悪感なのに快感はある。

 素蛾は本当におかしくなりそうだった。

 だが、朱姫に教えて込まれた女陰の喜悦がお尻に入り込んでいる蛇のうねりによってさらに大きな歓喜に変えられ、その愉悦が股間から肛門に、そして、全身を焼き尽くして、脳天を突き抜けていく……。

 倒れている素蛾の肌という肌にほかの蛇も群がり這いまわる感触も、気味の悪さとともに、素蛾の快感を増幅する。

 

「いく──、素蛾はいきます──」

 

 素蛾は口走っていた。

 そんなことを叫んでも無意味なのに、朱姫に躾けられた素蛾の口が無意識にそう叫んでいたのだ。

 素蛾は蛇に犯されながら、全身をぶるぶると震わせていた。

 

 そのとき、身体が傾いた。

 なにが起きたのかわからなかった。

 気がつくと、素蛾の身体は大きく転がって壁の一端に転がって身体を叩きつけられた。

 部屋全体が横倒しになってのだとわかったのはその直後だ。

 いままで側面だった壁が下になることで、素蛾の身体が床になった壁に落ちたのだ。

 

 さらに部屋が傾く……。

 上下の感覚がわからなくなったが、ふと見ると、頭上遠くに見えた天井の穴が斜め下側になっている。

 その穴めがけて、素蛾の身体はごろごろと転がっていった。

 

「奴隷素蛾……。いや、家畜の素蛾、立って気をつけしな──。両足を閉じて真っ直ぐに立つんだ。両手は身体の横──。顔は真っ直ぐ前──。それが家畜のお前の不動の姿勢だよ。あたしの許しもなく寝ころぶんじゃない──」

 

 そして、床を叩く鞭の音がした。

 はっとした。

 

 目の前に素蛾そっくりの童女がいる。右手に短めの革鞭を持っている。

 さらに彼女は公主としての装束を身に着けていた。

 頭には小さな冠もある。あれは公式の式典をするときに、公主が装着する冠だ。

 素蛾は自分が目の前にいるとしか思えなかった。

 それは、わずか一箇月前までの素蛾にとっての当たり前の姿だったのだ。

 しかし、いまの素蛾は首に奴隷の紋章のある赤い首輪をしているだけの素裸だ。

 

 素蛾はその自分そっくりの童女の足元で裸で横たわっていた。

 そして、素蛾は慌てて自分の股間に手をやった。

 さっきまで前後の穴に入って、素蛾を絶頂寸前に追い込んでいた蛇がいなくなっている。

 とにかく、そのことにほっとしながら、素蛾は周囲を見渡した。

 

 宮殿の最下層にある地下牢を思わせる石に囲まれたそれなりに広い場所だ。

 壁の四隅に燭台があって部屋を照らしている。

 だが、さっきまでいた丸い壁の部屋と同じように、どこにも出入り口にあたるものは見当たらない。

 四方は完全に継ぎ目のない壁だ。

 

「聞こえないのかい、家畜──」

 

 苛ついた怒鳴り声とともに、激しい打擲音と激痛が走った。

 

「ひぎいいっ」

 

 素蛾は悲鳴をあげていた。

 目の前の童女が素蛾に鞭をふるったのだ。

 

「あたしはなんと言った、家畜──? 二度は繰り返さないよ──」

 

 今度は胴体に鞭が走った。

 それが素蛾の身体に巻きつき、激痛を与えながら同時にくすぐるような気味の悪い感触を与えながら擦り離れていった。

 素蛾はあまりの気色悪さに、全身の毛が一瞬にして逆立つのがわかった。

 とにかく、慌てて言われたとおりの「不動の姿勢」になる。

 そして、足を閉じて真っ直ぐに立ち、両手を体側につけて伸ばす。

 

「もう少し、蛇と遊んでいるのを眺めていても面白かったけどね……。だけど、家畜の分際で、勝手に絶頂するのを許すわけにはいかなかったから中止させたんだ。それにしても、まさか、蛇に犯されて呆気なく達しそうになるとは思わなかったよ。さすがは、あの悪王の娘だよ──」

 

 目の前の素蛾そっくりの童女が怒ったような口調で言った。

 それで、素蛾は思い出した。

 確か朱姫たちから離される直前に、この童女は自分のことを“玉兎(ぎょくと)”と名乗ったはずだ。

 そして、なにか素蛾の父親である天神王に恨みがあるような物言いをしていた……。

 

 さらに、自分のことを亜人奴隷だと言っていたような……。

 亜人というのは、動物などが霊気を帯びて知性を得るようになった亜人間のことだ。

 すべての亜人が元々は動物というわけではないが、少なくとも祖先はそうであるはずだ。

 

「あ、あの玉兎さん……」

 

 素蛾は、とにかく、それらがどういう意味なのか確かめようと呼びかけた。

 

「誰に向かって口をきいているんだい──」

 

「ひぎいっ」

 

 だが、それは玉兎による凄まじい素蛾への平手打ちで返された。

 素蛾は横倒しに倒れた。

 

「すぐに立て──。不動の姿勢だよ、家畜──」

 

 また、鞭が飛んできた。

 素蛾は悲鳴をあげながら、すぐに立ちあがって、直立不動の姿勢に戻った。

 

「今日からたっぷりと、このあたしがお前を躾けてやるよ。立てと言われたら、すぐにその姿勢になるんだ。いいね──。命令に逆らえば懲罰を与える……。まあ、もっとも、命令に従っても懲罰だけどね。お前は懲罰奴隷という家畜だ。無駄口を叩くな──。質問も禁止だ。そんなことをすれば、死ぬような目に遭わされると思いな──。今度は幻の蛇じゃすまないよ。本物の蛇をガラス壺に入れるからね」

 

「幻の蛇……? ガラス壺って……?」

 

 素蛾はわけがわからなくて思わず問い返した。

 だが、その瞬間、たったいま質問をするなと言われたことを思い出した。

 

「ひびいいっ」

 

 激痛だけが頬に走った。

 玉兎が腕を動かしたのは全く見えなかった。

 気がつくと、さっき打たれた反対の頬が張られて、素蛾は再びひっくり返っていた。

 それだけだ。

 素蛾は今度はなにも言わる前に立ちあがって直立不動になった。

 

「ふん──。まあ、少しは家畜らしくなったじゃないか……。まあ、お前に恨みはないけどね……。だが、お前の父親には恨みがある。お前がこんな仕打ちをうけるのは、人でなしの父親を持った不幸だと思いな」

 

 玉兎が素蛾の顔を真っ赤な顔で睨んだ。

 そして、いきなり素蛾の顔に唾を吐きかけた。

 

 素蛾はびっくりしたが、そのままの姿勢でいた。

 それにしても、自分の顔で怒鳴られたり、睨まれたりするというのは奇妙な感覚だ。

 なにしろ、素蛾自身はそんな風に悪し様に人を罵ったり、誰かに腹を立てたりしたという記憶がないのだ。

 それなのに、自分の顔が怒りで歪むのを見るのはとても新鮮な気持ちだった。

 素蛾はじっと玉兎の怒り顔に見入っていた。

 

「なにをそんなに真剣にあたしの顔を見ているんだよ、この家畜め──?」

 

 玉兎が険しい顔をして声をあげた。

 

「も、申し訳ありません。驚いただけです」

 

 素蛾は仕方なく言った。

 

「驚く……? なにを驚いているんだい?」

 

 玉兎が首を傾げる仕草をした。

 

「わ、わたしの顔が怒っていることです」

 

 素蛾は言った。

 玉兎は、最初、素蛾の言ったことが理解できないような雰囲気だったが、

 すぐにちょっとだけ顔を綻ばせた。

 

「ふっ……。さすがは本物のお姫様だね。生まれてこの方、この世の悪意という悪意から無縁の人生を送ったら、お前みたいな天然惚けが育つのかねえ……」

 

 素蛾が頬にかすかな笑みを浮かべながら言った。

 そして、いきなり指の先をぴったりと閉じている素蛾の股の下に差し入れてきた。

 そして、素蛾の股間を愛撫し始めた。

 

「はっ……、あっ、ああ──」

 

 玉兎の指は性格に素蛾の肉芽の周辺をぐりぐりと揉み押すように動かしてきた。

 素蛾はあっという間に込みあがった淫情に、思わず全身が脱力しそうになり、慌てて身体に力を入れた。

 

「ほら、口惜しいだろう……? こんな自分の偽者なんかに股ぐらを自由に弄ばれるんだよ。だけど、ちょっとでも動けば鞭の嵐だからね……。身動きひとつするんじゃないよ……。口惜しければ口惜しいと言いな。どうだい──? 一国の公主がこんな風に股を弄られるなんて、口惜しいかい?」

 

 玉兎は笠に着たように、さらに愛撫の手を強めた。

 素蛾は姿勢を崩さないために、淫情を堪えて一所懸命に身体を保つ努力をしなければならなかった。

 

「い、いいえ……。く、口惜しくなどありませんが……。き、気持ちよくて……、し、姿勢が……」

 

 素蛾は荒い息とともに言った。

 肉芽を指でまさぐられて激しい淫情が込みあがるのだ。それをじっと耐えるのはつらい……。

 

「気持ちいい……? ああ、そうか……。確かに口惜しそうな顔ではないねえ……」

 

 玉兎は拍子抜けした声をあげた。

 そして、興を失ったように素蛾の股から手を引っ込めた。

 素蛾はほっとするとともに、さっきから快感を小出しに与えられているような感じで切ない気持ちになった。

 

「だったらやめだ。あたしは別にお前を悦ばせたいわけじゃないからね……。まあいいよ。それよりも質問を許そうか……。わけもわからず痛めつけられるよりは、その理由を知った方が少しは納得がいくかもしれないからね……。じゃあ、訊きたいことを質問しな。ただし、質問をするあいだもその姿勢を崩すんじゃないよ」

 

 玉兎がやや呆れたような口調で言った。

 素蛾はいきなり質問を許すと言われて戸惑ったが、とにかく頭に浮かんだことを口にした。

 

「さっきの蛇が幻というのはどういう意味でしょうか?」

 

 すると、玉兎が苦笑した。

 

「それが最初の質問かい……? まあいいよ……。ガラス壺というのは、お前がさっきまで入っていた場所だよ。お前はさっきまで、あたしの道術でその壺に入れられていたんだよ。蛇もあたしの道術で作った幻だ。それをあたしは透明の壺の表面を通じて見物していたのさ」

 

 玉兎が笑った。

 素蛾は、床の隅に一個のガラス壺が置いていることに気がついた。

 しかし、それは卓に置くような普通の壺だ。

 そこに入れていたというのは信じられないが、部屋全体が傾いて身体が転がりだされたときには、確かにそんな感じだった。

 さすがは道術を遣う亜人だと思った。

 

「す、すごいですね。そんなことができるのですね……」

 

 素蛾は思った通りのことを言った。

 

「なんだか調子が狂うねえ……。ほかに質問は……?」

 

「あ、あの陛下に……。いえ、父に恨みがあるというようなことを言っていたと思いますがどういうことでしょうか?」

 

 素蛾にも、この玉兎が相当に素蛾の父親である天神国王に恨みを抱いているようであるというのはなんとなくわかる。

 そして、今回のことは、玉兎がその恨みを晴らすために、素蛾をさらって奴隷に陥そうとしたのだということもわかってきた。

 そう玉兎自身も言っていた。

 

 恨みを晴らすために素蛾をさらい、奴隷狩りに遭うような場所に放逐し、そして、素蛾が捜索をされることがないように自分自身が素蛾の偽者にもなっているのだろう。

 さらに、よく聞いていなかったが、素蛾の帰る場所をなくすために、帝国の皇子と「結婚の儀」を結ぶと言っていたような気がする。

 

 いまの西方帝国を治める皇帝には多くの皇子がいたと思う。

 帝国と天神国では国力が全く違うから、皇位継承権に関係のない帝国の末皇子でも、この天神国の公主が婚姻により結びつくとあれば、天神国によってはありがたい話だ。

 それくらいは素蛾にもわかる。

 

 だが、万が一、素蛾の父である国王が、偽者の素蛾とその帝国の皇子とを「結婚の儀」で結ばせるようなことがあれば、取り返しのつかないことになるということも……。

 

 あのとき玉兎が口走っていた「結婚の儀」というのは、単純な儀式としてのそれではないはずだ。

 道術契約としての「結婚の儀」だろう。

 西方帝国の皇帝家はすべて道術遣いだ。

 逆に、多少でも霊気を帯びていなければ、嫡男であっても皇子とは認められないのだ。

 だから、相手は素蛾という霊気を帯びていない人間でも、「結婚の儀」という道術契約が結べる。

 素蛾は道術使いではないが、公主として基本的な道術学については学んでいる。

 道術契約である「結婚の儀」を結んだ男女は、霊気によりお互いの魂が溶け込んで、それぞれを伴侶として離れられなくなるのだ。

 

 それだけではない。

 「結婚の儀」は両者の魂がそれぞれに混ざることで、道術使いではない伴侶の側にも霊気を帯びさせて、道術を遣うことができるようにもなるはずだ。

 それほどのものを公主ではない、ましてや、亜人の女と皇子を道術契約で結ばせたとあっては、それを知った帝国が怒り狂うのは予想できる。

 下手をすれば戦争にもなりかねない。

 そうなれば、小国である天神国が帝国に勝てる望みはまったくない。

 それを避けるには、偽者と承知していても、この玉兎を本物だと主張することくらいしかないが、いずれにしても、素蛾の帰れる場所はなくなるということだ。

 

「お前の父親は、あたしがお前の歳のときに、あたしが暮らしていた亜人村を滅ぼしたのさ──。あたしは、その亜人村の長|(おさ)の家の娘だった。お前の父親は、あたしの母の美貌に目をつけ、あたしの父親を惨殺して、あたしの母を性奴隷にしたんだ。ついでに、このあたしもね──」

 

「えっ?」

 

 素蛾はびっくりした。

 

「その頃、あたしには大した道術は遣えなかったから、それに抵抗できなかった。母もだ──。母はあたしの眼の前でお前の父親に犯され、あたしは母の目の前でお前の父親に犯された。しかし、すぐに、あたしたちに飽きたお前の父は、あたしと母を半年で奴隷商に払い下げた。別々の場所にね──」

 

「そ、そんな……」

 

 唖然とした。

 なんという罪だろう。

 

「わかったか──。それから、あたしは数年して急に霊気が覚醒して大きな道術を遣えるようになった。だが、亜人奴隷というのは、首輪に道術を封じる霊具をするのだ。だから、奴隷の身分から脱出するのは容易ではなかった。でも、あたしはそれを成し遂げた。そして、復讐にやってきた──。お前の父親なんか、ただ殺すことじゃ飽き足らないよ──。お前の父親の娘をあたしと同じ目に遭わせることで、あたしはお前の父親に復讐を果たすんだ。そう誓ったのだよ──」

 

「復讐……」

 

 玉兎の言ったことは信じられることではなかったが、完全に否定はできない。

 娘には優しい王だが、そういう粗暴な一面があることは、実は素蛾も知っている。

 王が若いころに、領内やその周辺にあった亜人村を滅ぼして版図を拡げたというのは事実だ。

 素蛾はそれを歴史的な出来事としか捉えていなかったが、考えてみれば、そこにはたくさんの亜人たちが暮らしていたはずだ。

 

 その彼らが亜人村を滅ぼされて、どうなったかということは知らなかったし、心もそれには及ばなかった。

 だが、多くの亜人たちが玉兎のような酷い目に遭ったというのは事実かもしれない……。

 

 いずれにしても、それが事実だとすれば、目の前の玉兎は実際には童女には程遠い年齢だろう。

 素蛾の父である王がそういう残酷なことをやったのは、二十年以上も前のことであるはずだ。

 

「あ、あの……、あなたのお母様は──?」

 

 素蛾はなんと言っていいかわからずに、そう訊ねた。

 

「とっくに死んでいたわ……。最初に奴隷商に売られて一年もしないうちにね──。これで、お前が理不尽な目に遭う理由はわかっただろう。いずれにしても、お前を殺すつもりはないよ。ただ、奴隷にして国王から取りあげてやるだけだ──。とにかく、これから五日間、お前はあたしが徹底的に躾けてやる。しかも、奴隷じゃなくて家畜としてね──。ここがどこなのか、お前には検討も付かないだろう? 逃げ出したくても、その方法すら浮かばないはずだ。ここで、でお前を徹底的に調教をしてやるよ」

 

 さっきは少しは落ち着いたように見えた玉兎だったが、自分のことを話すことで、再び怒りが込みあがってきたようだ。

 再び、怒りで顔を真っ赤にして素蛾を睨んだ。

 

「次は、家畜の姿勢だ。お前は奴隷じゃなくて、家畜して仕上げてやるからね。いまみたいな奴隷としての不動の姿勢は言われたときだけだ。そうでない場合は家畜の姿勢でいろ──」

 

 玉兎がまた興奮した口調で怒鳴った。

 

「か、家畜の姿勢ですか……?」

 

 素蛾は当惑して言った。

 

「家畜の姿勢は四つん這いだ。四つん這いになれ──」

 

「は、はい」

 

 仕方なく素蛾はその場で膝をついて四つん這いになった。

 

「頭を床につけろ──」

 

 次の瞬間、玉兎の革靴が素蛾の後頭部を思い切り踏んだ。

 

「ぐっ──」

 

 ごつんと音がして眉間を思い切り床で打った。

 しかし、素蛾は懸命に悲鳴を堪えた。

 

「これが家畜の姿勢だ。家畜は許可なくご主人様の足以外を見るんじゃない──。わかったか──」

 

 玉兎が素蛾の頭を凄い力で踏みながら言った。

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