「その四つん這いで地面に頭を擦りつける格好が、家畜の姿勢だよ──。覚えておきな。あたしが目の前にいるときは、ほかに命じられない限り、その姿勢だ。いいね──」
その一方で高くあげるかたちになった素蛾の素っ裸の尻に、玉兎の鞭が鳴り響いた。
「んんっ」
素蛾は歯を食いしばって悲鳴に耐えた。
「ほう? すでに家畜らしく耐えることをは、躾けられているのかい──。それじゃあ、これはどうだい?」
鞭が尻たぶの亀裂に沿って真上から叩きつけられた。
「ひぐううっ」
さすがに焼けるような痛みに耐えられなくて、素蛾は絶叫して身体をのけぞらせた。
それに玉兎の足に押さえつけられている顔が床から離れることができなくて息が苦しい。
だが、素蛾は懸命に顔を床に突っ伏して我慢した。
玉兎がかつて、素蛾の父親により性奴隷に落とされたという告白を聞いた。
玉兎の母親と玉兎がお互いの目の前で素蛾の父に犯された挙句に奴隷商に売り飛ばされたという話も知った。
それが真実かどうかはともかく、間違いないのは玉兎の怒りが本物であるということだ。
だから、少なくとも、玉兎の告白は玉兎にとっては真実なのだろう。
ならば、玉兎が恨みを素蛾に返したくなるのは当然だとも思った。玉兎が素蛾をこうやって打ち据えることを理不尽とは感じない。
そうするだけの権利が玉兎にはあるような気もする。
「ほら、こうやって頭を踏まれると、どんな気持ちになるんだい? 正直に言ってごらん。嬉しいかい……? それとも、口惜しいかい? 答えるんだ──。正直にだよ──」
玉兎がまだ興奮したような口調で言った。
「う、嬉しくはありません……」
すると、玉兎が大笑いした。
「そうだろうね……。そうこなくっちゃ、あたしも苦労して、王宮に忍び込んで、王の娘を奴隷にしてやってかいがないというものさ……。そりゃあ、口惜しいだろうさ。ついこのあいだまで、たくさんの召使にかしずかれていたお前が、得体の知れない亜人のあたしに、頭を踏まれているんだからねえ──」
玉兎は本当に嬉しそうに、さらにぐりぐりと素蛾の頭を靴の裏で押した。
「く、口惜しくもありません……」
素蛾は靴で顔を床に押しつけられながら返事をした。
「く、口惜しくないだと──?」
すると今度は、玉兎が声に怒りを露わにして怒鳴った。
なにかが玉兎の気に障ったらしいが、正直に言えと言われたのだから仕方がない。
「なんでだい──? 公主のお前がこんなに惨めに奴隷扱いされているんだよ──。口惜しくないはずないだろう──。嘘を言うんじゃないよ──」
「だ、だって、お可哀想で……」
素蛾は思った通りのことを言った。
玉兎はこんなにも怒っている。
それはそれだけの哀しみがあったからだと考えた。
「可哀想? 誰が──?」
「玉兎様が……」
「なんだと──」
すると、まるで玉兎は、素蛾が玉兎を侮辱でもしたかのように怒りだした。
そんなつもりのなかった素蛾は困惑してしまった。
「殉教者でも気取るつもりかい──。お前の父親のやったことをお前のような童女が償いをするとでも言うのかい──」
「そ、そんなつもりは……」
素蛾はあまりもの玉兎の権幕に狼狽えてしまった。
「だったら、もっと耐えられないような鞭打ちをしてやるよ──。頭を床に着けたまま、膝を真っ直ぐに伸ばせ。もっと、脚を拡げるんだ──」
玉兎が素蛾の頭から足をどかした。
言われたとおりに、脚を開いて膝を伸ばした。
素蛾の身体は四つん這いのまま極端な前屈みの格好になり、お尻だけを大きくあげた体勢だ。
「惨めな恰好じゃないかい──。恥ずかしいだろう?」
「姿勢が苦しいです……。で、でも恥ずかしくは……」
素蛾は答えた。
しかし、玉兎は不満そうに鼻を鳴らした。
素蛾にはやっとわかってきた。
玉兎は、素蛾が苦しんだり、弱音を吐いたりすると悦び、逆に平然としていたら怒るのだ。
だが、そのために演技のようなことをする能力は素蛾にはない。
玉兎がどんと大きく一度足を床で踏んだ。
「きゃあ──」
素蛾はびっくりして声をあげてしまった。
不意に床から生えた太い触手のようなものが、床に着けていた素蛾の首と両方の手首、そして、両脚の足首に強く巻きついたのだ。
素蛾の四肢と首は、頭を床に着けてお尻だけを高くあげた格好で動けなくなった。
そして、からからと鎖の音が上からした。
「これを見な、家畜」
玉兎が言った。
首の触手が緩んで、少しだけ動かせるようになった。
「ひいっ」
髪の毛がむんずと掴まれて、床に顎を着いたまま首をあげさせられた。
玉兎は床すれすれの素蛾の視線に、手に持っていた物をかざした。
玉兎が素蛾に見せたのは、もう一方の手で持っていた天井から伸びる鎖と繋がった大きな鉤だった。
鉤の先は釣り針のようなかたちで先っぽが曲がっていて、なにかを引っ掛けるようになっている。その先端は、尖ってはおらず丸みを帯びていたが、かなり細くなっていた。
「これをお前のどこの穴に入れるかわかるかい?」
玉兎が笑って、素蛾の髪を離した。
わけがわからず、素蛾はただ黙ったままでした。
鉤の繋がる鎖は、玉兎の道術で伸縮自在のようだ。
がらがらと音がして鎖が縮むとともに、鉤そのものが素蛾の背後に移動していった。
嫌な予感がした……。
「ひぐうううっ──」
次の瞬間、肛門に加わった激痛に素蛾は絶叫した。
さっきの鉤の先端がいきなり素蛾のお尻の穴に強引に捻じ込まれたのだ。
「い、痛い──痛いです──うぐうう──」
先端が肛門の奥に入り込んだ鉤が天井の方向に引きあがった。
鉤は素蛾の尻の穴を限界まで上にあげ、それでもとまらず、さらに上昇する。
しかし、手首足首と首を固定している触手は素蛾を床に張り付けている。
肛門を抉られた鉤で身体が吊られる……。
あまりの激痛に素蛾は泣き声をあげた。
「そうだよ──。それだよ。それ──。そうこなくっちゃねえ……」
玉兎が満足げに笑って、やっと鉤が停止した。
素蛾の尻の穴は限界を超えて、四つん這いの素蛾を尻穴の鉤で天井に引きあげられた。
素蛾は爪先を懸命に伸ばして、身体を支えている。
「ちょっとでも動いたら、尻の穴が破けるよ──。まあ、そのときは、すぐに治療して、また苦しめてやるけどね」
背後に回った玉兎が鞭を尻たぶにふるった。
お尻に熱い痛みが走る。
素蛾は歯を食いしばって悲鳴を飲み込んだ。
しかし、一発目の痛みが消えないうちに、寸分違わずに同じ場所に二発目が襲ってきた。
「ふぐううっ」
今度は声を我慢できなかった。素蛾の口から呻き声が漏れ出た。
「これはどうだい──?」
今度は真横から横尻を叩くように鞭の強い衝撃が加わった。
「ぎゃああああ」
素蛾は泣き叫んだ。
鞭そのものの痛さよりも、横からの打擲で体勢を崩したために、尻に食い込んでいる鉤で肛門に激痛が走ったのだ。
今度は反対の尻を横から叩かれる。
素蛾は悲鳴をあげながら、必死になって姿勢を保とうとした。
玉兎は素蛾の泣き声を本当に心から愉しむかのように、笑いながら尻だけでなく、太ももや腰の括れなどに、無数の鞭を加えていった。
「あぐうううっ」
素蛾の悲鳴はほとんど絶え間のないものに変わっていた。
だが、激痛に尻を高くあげた状態を崩すことは、尻に食い込んだ鉤が許してくれない。
素蛾は次第に力が入らなくなる下肢を懸命に踏ん張って、無残な高尻姿勢を続けた。
「いい悲鳴だよ──。お前は、これから五日間、あたしの家畜奴隷だ──。いいね──」
玉兎が狂ったような甲高い笑い声をしながらさらに鞭打った。
「うぎいいっ──そ、それは……できません……。はがああっ──」
素蛾は呻きながら言った。
「はっ? なんて言ったんだい?」
玉兎が驚いたような声をあげて鞭打ちの手を休めた。
「そ、素蛾は……ど、奴隷です……。それは承知しています……。で、でも、もう、宝玄仙様や朱姫姉さんの……奴隷になることを……先に……承知してしまいました……。も、申しわけ……ありませんが、玉兎様の……奴隷に……なれません……」
素蛾は息も絶え絶えに言った。
少しでも気を抜くと、身体が崩れそうだった。
目の前が朦朧として白くなりかけている。
しかし、それだけは譲れないことだった……。
もしも、誰かの奴隷であるとすれば、それは宝玄仙や朱姫たちの奴隷でありたい。
そうしたいのだ。
「も、もう一度、言ってごらん……。いま、なんと言った?」
玉兎の声は怒りに震えているように思えた。
だが、素蛾のいまの姿勢では玉兎の顔を見ることはできない。
とにかく、いまは玉兎は鞭打ちをやめている。
素蛾にとってはありがたい時間だ。
これでほんの少しでも身体を回復させて、可哀想な玉兎が素蛾に加える拷問を耐える体力を戻すことができる。
「あたしの拷問を受けるのが嫌だという意味だろうねえ……?」
玉兎が言った。
「ご、拷問は受けます……。そ、それが望みなら……。父への……恨みを晴らしたいのなら……。わ、わたくしで……よいこと……なら……」
「その偽善者ぶった物言いは虫唾が走るよ──。だったら五日間、あたしの奴隷になると言いな──」
玉兎が頭の上で怒鳴った。
「で、でも……わ、わたくしは……朱姫姉さんの……ど、奴隷……なんです……」
素蛾は言った。
「へえ……。よくわからないけど、面白いねえ……」
玉兎が笑った気がした。
突然にお尻の穴を圧迫していたものがなくなった。
尻穴に入れられていた鉤が消滅したのだとわかったのは、一瞬後だ。
それだけでなく、手足を拘束していた触手も消滅している。
素蛾はその場に崩れ落ちた。
「じゃあ、まずは、拷問の最初はそれにするよ……。宝玄仙でも、朱姫でもなく、この玉兎の奴隷になると誓ってもらおうか……」
激しく息をしていた素蛾の首を玉兎が片手でむんずと掴んだ。
そのまま宙に持ちあげられる。
「あっ、がっ……はがっ……」
凄まじい怪力だ。
その力で素蛾の喉を鷲づかみにして、玉兎は素蛾の身体を片手で持ちあげているのだ。
「ぐ、ぐるじい……です……」
素蛾は手で素蛾の喉を掴んでいる玉兎の手首を掴んだ。
しかし、まるで巨大な大木であるかのように、素蛾を姿がそっくりの玉兎の腕はびくともしない。
「さあ、言え、奴隷──。お前はあたしの奴隷だね?」
玉兎が顔を真っ赤にした怒りの表情で睨んだ。
「ご、拷問は……う、受けます……。で、でも、わ、わたくしは……朱姫姉さんの……ふぐうっ──」
素蛾は眼を剥いて声をあげた。
玉兎が素蛾の喉を掴む手に力を加えたのだ。
「そんなことは聞いてはいないよ──。あたしは、“素蛾は玉兎の奴隷になる”という言葉を口にしろと言っているだけだよ……。さもないと、このまま首の骨を折ってしまうよ」
さらに玉兎が力を入れた……。
もう、ほとんど息をすることができない。
「そ、素蛾は……朱姫……姉さんの……ど、奴隷……」
やっとのこと、素蛾は声を絞り出した。
それだけは譲れない……。
ほかのどんなことでも許容できるけど、それは譲れないのだ。
素蛾は朱姫の奴隷でいたい……。
「強情だね。じゃあ、死にな──」
玉兎の手が力一杯に握られるのがわかった。
自分の喉の骨がぐしゃりと潰れるのを感じるとともに、素蛾の意識は消滅した。