※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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671 本物公主の告白

「いま、天井を見たわ。孫女、あそこにあるのを確保して──」

 

 沙那が叫んだ。

 孫空女は沙那が指を差す方向を見た。

 さっきまで玉兎(ぎょくと)がはいていた下袍(かこ)が孫空女が投げた『如意棒』で突き刺さっている。

 さらに、下袍を留めていた腰紐に小さな袋がぶら下がっていることに気がついた。

 あれになにかの秘密があるに違いないと思った。

 

 副宰相の蔡玄人(さいげんじん)の仲介で、国王と王后が、孫悟空が変身している素蛾を本物と認めて宮殿に入ることができたのは昨日の夜だ。

 素蛾の母親である王后の覚えていた素蛾のほくろの位置と、孫空女が化けた素蛾のほくろの位置が一致し、一方で、玉兎が変身している素蛾のほくろの位置を確認したところ、王后が知っている素蛾のほくろの位置とは異なっていたからだ。

 

 そして、そのまま、王宮に巣食っている玉兎の捕縛を宝玄仙は引き受けた。

 国王はすぐに、偽公主の玉兎を捕えようとさせたが、実際には素蛾はまだ玉兎の手中にあることを知っている沙那たちは懸命にそれを諌めた。

 下手に捕縛しようとすれば玉兎が逃げるからだ。

 逃げてしまえば、素蛾を助け出す手がかりがなくなってしまう。

 

 孫空女の変身した素蛾が偽者であることを告げるわけにはいかなかったから、すぐに行動を起こさないことに、なかなか国王は納得しなかったが、結局は、玉兎の捕縛については、道術遣いである宝玄仙が一任されることになった。

 玉兎はしばらく泳がせた。

 そして、その時間を利用して、この部屋に待ち受けの罠を作って玉兎を引き入れたのだ。

 

 一方で、この部屋で玉兎を待ち受ける仕掛けを準備するあいだ、朱姫はこの王宮を屋根裏から地下牢までのすべてを一日かけて隅々まで探したらしい。

 しかし、どこにも素蛾が監禁されているような場所は見当たらなかったようだ。

 玉兎をここで追い詰める前に素蛾を助け出しておかなければ、偽者公主の玉兎をここで追い詰めたところで、素蛾を人質にされてしまう可能性が大きい。

 朱姫は意気消沈していた。

 

 また、孫空女と宝玄仙については、ひそかにずっと玉兎を観察し続けていた。

 玉兎は、素蛾を自ら調教するようなことを口走っていたし、そうであれば、そのときは、必ず私室を抜けて素蛾が監禁されている場所に向かうと思うので、それを追えば、素蛾が見つかるはずだった。

 だが、それも徒労に終わった。

 

 孫空女と宝玄仙がどんなに見張っていても、素蛾は式典の準備以外のことで私室を出ることがなかったのだ。

 このことから、素蛾は玉兎が終始いる私室の中に隠されていると思われたが、部屋の中に素蛾が隠されている場所はないこともわかっていた。

 

 その結果、宝玄仙が予想したのは、道術的な手段で素蛾を監禁している可能性だ。

 人間を小さくして、ちょっとした「物」の中に閉じ込めるというようなことは可能らしい。

 玉兎はそういう霊具で素蛾を小さくして閉じ込め、さらにそれを持っているかもしれないということだった。

 

 それで沙那は、かまをかけたのだろう。

 素蛾をもう見つけたと言い、玉兎がどんな反応をするか待ったのだ。

 実は、手筈によれば、この後でわざと玉兎は逃がすことになっていた。

 ただし、朱姫の『影手』をひとつだけ残してである。

 玉兎が素蛾を別の場所に監禁しているのであれば、玉兎はそれを確認するために、その監禁場所に向かうと考えていたのだ。

 

 しかし、玉兎がとっさに見たのは天井だった。

 そこには、下袍の腰紐に括り付けられた布の包みがある。

 あれに間違いない。

 孫空女は飛びあがった。

 

「渡すかよ──」

 

 玉兎が叫んだ。

 飛びあがった孫空女に向かって、たくさんの道術の刃が飛んできたのがわかった。

 空中にいた孫空女には刃を避けようがない。

 孫空女は身体が切り刻まれるのを覚悟した──。

 

「まだ、そんな霊気を隠していたのかい──?」

 

 宝玄仙が叫ぶとともに、宝玄仙の道術で孫空女の横に道術の壁が出現した。

 玉兎が飛ばした道術の刃がそれに阻まれる。

 孫空女は下袍を天井に突き刺している『如意棒』を掴んで回収とするとともに、布の袋をもぎ取った。

 

「それを返せ──」

 

 玉兎の身体にまた霊気が漲ったのがわかった。

 

「これでもくらいな──」

 

 しかし、大きな霊気の波動が宝玄仙から玉兎に放たれた。

 玉兎が悲鳴をあげた。

 さっきまで存在した霊気がすべて消滅している。

 宝玄仙が玉兎から霊気を奪ったのだと思う。

 玉兎がぐったりと両膝を床に着けた。

 

「くっ……、れ、霊気が……」

 

 玉兎は脱力したようになっている。

 

「どうやら霊気がなくなると、身体を支える筋力も低下するらしいね……。もう、観念しな」

 

 宝玄仙が言った。

 孫空女は宝玄仙にさっきの布の袋を渡した。

 袋から拳ほどの大きさの玉球が取り出された。

 

「ここだね……」

 

 宝玄仙がその玉の表面を覗きながら目を見開いた。

 

「朱姫、ここに素蛾が閉じ込められているよ──」

 

 宝玄仙が朱姫に言った。

 

「わかりました。さあ、じゃあ、素蛾を返してもらいますよ、玉兎──。でも、あんたの霊気はたったいま、ご主人様が消失させてしまったんで、あの玉球を操作する道術をあたしに譲渡してください。あたしも『操り術』が遣えますので、心の中で術をあたしに譲渡すると思い浮かべてもらうだけでいいです。それで、あの霊具を操作するための術があたしに移動します」

 

 朱姫が玉兎に言った。

 

「へっ、言うことをきくと思うのかい──? 素蛾は人質だよ。あたしを解放しな。さもないと素蛾は一生、あの玉球の中だよ……」

 

 両脚を床に着け、手を頭の後ろで組まされている玉兎が不敵な笑みを浮かべた。

 

「じゃあ、道術契約をしましょうか……。素蛾を返してくれたら、あたしはあなたに危害を加えません。その代りに玉球を操作する術を譲渡してください」

 

「そんな手にはかからないよ。お前が危害を加えないと誓っても、その宝玄仙がいるし、その後ろには木偶の棒のような衛兵どももいるじゃないかい──。素蛾はあたしが安全な場所に到着したら返すよ。そういう道術契約なら結んでやるよ」

 

 玉兎が吐き捨てるように言った。

 

「調子に乗るな──。交渉できる立場だと思っているのか、玉兎──? 素蛾を返せ──」

 

 朱姫が急に声を荒げて怒鳴った。

 長い付き合いだが、朱姫があまり怒ったのを見たことはない。

 ましてや、いまのように、乱暴な口調で怒鳴るのには初めて接したかもしれない。

 孫空女は少し驚いた。

 

「うわっ」

 

 玉兎の身体が急に起きあがって、背中から壁に向かって宙を飛んだ。

 ふと見ると、朱姫の『影手』が、玉兎の身体を押すようなかたちで玉兎の裸身を浮びあがらせている。

 

「うがああっ」

 

 玉兎の身体が壁に叩きつけられる。その玉兎は両手と両脚を拡げて、朱姫の『影手』によって床に磔にされた。

 

「はい……。じゃあ、脚をあげて、“おしっこ、しいしい”の格好になりましょうね、玉兎──。全員によく見えるように大きくお股を拡げてくださいね」

 

 朱姫がさっきの憤怒の表情から一転して満面の笑みを浮かべた。

 すると、壁に張り付いていた玉兎の両脚が浮かびあがった。

 背中を壁に密着した状態で宙に浮かんだ玉兎の脚が、膝で曲がって徐々に股を開いていく。

 どうやら、朱姫の『影手』が操っているようだ。

 

「な、なに? なに? や、やめて──。いやあああっ──」

 

 玉兎が絶叫して羞恥に身悶えした。

 朱姫は玉兎をこちら向きに幼女が母親に脚を抱えられて尿をするような格好にしたのだ。

 大勢の近衛兵が見守る前で羞恥の源を曝け出さされた玉兎は、懸命に身体をもがかせて悲鳴をあげ続けている。

 

「さあ、何回目の絶頂であたしの『縛心術』を受け入れてしまうでしょうね、玉兎? 身体が快感で達すれば、心が無防備になります。その隙に付け入って、あたしは『縛心術』をあなたにかけてしまいます──。覚悟はいいですか? まあ、五回も達すれば、心が屈伏するかな」

 

 朱姫がくすくすと笑った。

 

「いや、そうは言っても、そこらの亜人よりは余程強力な霊気の持ち主なんだ。十回くらいまではもつんじゃないかい?」

 

 宝玄仙も笑った。

 玉兎の股間と乳房に合わせて十個ほどの黒い手の影が出現した。

 それが一斉に玉兎の身体をまさぐりだす。

 

「ひいいいっ、ああっ──」

 

 玉兎がすぐに全身を真っ赤にするとともに、影手で押さえつけられている身体をくねらせ始めた。

 なにしろ、朱姫の『影手』に愛撫されているということは、たくさんの性技巧者から同時に責められているということだ。

 玉兎の身体を責めている『影手』が十本だから、つまり、五人の人間に身体を同時に責められているのと同じことなのだ。

 これには、さすがに玉兎もすぐに追い詰められしかないだろう。

 

 案の定、大きく股ぐらを開いている玉兎は、あっという間に我を忘れたような仕草で激しくよがり始めた。

 

「ほら、お前たちも近くで見物しな。こんな風に正面から女が絶頂する瞬間なんて、見物することはないだろう。近くに寄って後学のために見ておきな」

 

 少し離れた場所から、茫然とこっちの様子を見守っていた近衛兵たちに、宝玄仙が声をかけた。

 最初は顔を見合わせた兵たちだったが、すぐに玉兎が悶えている壁に近づいてきて、玉兎の裸身を囲み包んだ。

 驚いたことに、好色そうな表情になった国王まで寄ってくる。

 

 男たちの視線が目の前にやってきたことで、さらに玉兎の顔が屈辱で歪んだ。

 しばらく必死になって玉兎は朱姫の『影手』の愛撫に耐えていたようだったが、それが時間の問題であることは明らかだった。

 

「んぐうううっ──」

 

 脚を開いていう玉兎の上半身が反り返った。

 左右に開いている玉兎の腿の筋肉がぶるぶると大きく痙攣して、絶息するような呻きとともに、ぴゅっと淫液の塊が股間から飛んだ。

 

「ああっ、ああっっ──」

 

 そして、全身がぶるぶると震えて、玉兎はがっくりと首を垂れた。

 

「一回目ですね……」

 

 朱姫が笑った。

 

 それから、玉兎は二回目、三回目と次々に万座の前で昇りつめていった。

 

 四回目くらいのときに、朱姫が宝玄仙に、もうかかったと耳打ちするのが聞こえた。

 

 だが、ふたりはひそひそと話して、さらに玉兎への責めを継続した。

 

 玉兎はさらに朱姫にいたぶられ続け、五回目で潮を吹き、七回目は完全な失禁をした。

 五回目以降は、ほとんど間隙なく玉兎は達し続けた。

 

 結局、玉兎が九回目の絶頂をしたときに、やっと朱姫は壁に背をつけて股ぐらをこちらに開いた格好から玉兎を解放した。

 脚をおろして、改めて壁に磔にされた玉兎に、もう一度朱姫は道術の譲渡を強要した。

 全身を汗まみれにして、おびただしい淫液で股間を汚した玉兎は、もう朱姫には逆らわなかった。

 

「ゆ、譲る……。も、もう許して……」

 

 首を完全に垂れた玉兎が小さく呻いた。

 玉兎から朱姫に大きな霊気が流れるのがわかった。

 

「ほらよ、朱姫」

 

 宝玄仙が朱姫に玉兎から取りあげた玉球を渡した。

 朱姫が玉を床に置いて、念を込めたのがわかった。

 玉が眩い白光に包まれた。

 そして、その光が消えたときには、横たわった素蛾がその場に現れていた。

 

 その素蛾が眼を開いた。

 まだ、状況が理解できないだろう。

 素蛾は、呆然として周りを見回している。

 

「……素蛾、大丈夫──?」

 

 朱姫が素蛾の身体を掴んで大きな声をあげた。

 

「しゅ、朱姫姉さん──」

 

 素蛾ががばりと起きあがって歓喜の声をあげた。

 朱姫と素蛾がしっかりと抱き合った。

 

「素蛾──。今度こそ、素蛾なのだな? 無事か?」

 

 そのとき、国王が声をかけた。

 

「へ、陛下」

 

 素蛾が朱姫に抱きついたまま、首だけを国王に向けた。

 

「そ、素蛾です……。長く不在にしました……。ご心配をおかけしました……」

 

 名残惜しそうに朱姫から手を離した素蛾が、裸身のまま床に膝をついて深く礼をした。

 

「だ、誰かすぐに素蛾になにか掛けるものを持って来い。素蛾の身体を隠せ──」

 

 国王が叫んだ。

 さらに悲鳴のような声がして、部屋に誰かが入ってくるのがわかった。

 王后だった。数名の侍女もいる。

 侍女が抱えていた布が素蛾の身体に肩から掛けられて、素蛾の裸身が隠された。

 

「無事なのね、素蛾? そなたは無事なのね?」

 

 素蛾の前に立った王后は、素蛾に対して叱るような声をあげた。

 

「無事です……。ここにおられる宝玄仙様や朱姫ねえ……。いえ、朱姫様にお世話になりました」

 

 素蛾が言った。

 

「とにかく、立ちなさい……。すぐに医師を呼んで、身体を看てもらいます」

 

「身体に異常はありません、王后殿下」

 

「口ごたえしないのです、素蛾──。行きますよ。立ちなさい」

 

「はい」

 

 素蛾が立ちあがった。

 久しぶりの母娘の対面のはずなのに、なんとなくふたりは余所余所しかった。

 王族とはこんなものだろうかと孫空女は思った。

 

 王后は素蛾を部屋の外に促した。

 しかし、王后が外に連れ出そうとした手を退けて、素蛾が玉兎に振り返った。

 玉兎は、朱姫の道術による拘束を解かれ、近衛兵に改めて捕えられようとしているところだった。

 近衛兵が準備していた道術を封じる手枷や足枷が手首と足首に掛けられている。

 

「あ、あのう……。この玉兎様はどうなるのでしょうか……?」

 

 素蛾がぽつりと言った。

 

「心配するな、素蛾──。お前をさらって酷い目に遭わせた亜人は残酷に処刑する。なにしろ、公主を誘拐した極悪人だからな──。およそ、生まれてきたことを後悔するような目に遭わせながら処刑してやるわ」

 

 国王が憎々しげに言った。

 

「そ、それはなりません、陛下──。この玉兎様は可哀想な方なのです──」

 

 すると、素蛾が大きな声で叫んだ。

 

「はっ、なにを言うか、素蛾──? こいつはお前を酷い目に遭わせた悪い亜人なのだぞ」

 

 国王が眉をひそめた。

 

「陛下、でも、玉兎様はかつて、陛下に因縁のあるお方のこと……。ここでは申せませんが、玉兎様がわたくしたちに恨みを持って当然と思うことがあるようなのです──。どうか、玉兎様を許してあげてはいただけませんか?」

 

「なんだと──?」

 

 国王が険しい顔になった。

 

「……お、お前、あたしを許してやってくれと言ったのかい……? あんなに酷い目に遭わせたあたしを……? こりゃあ、驚いたね……。なんてお姫様だい──? お人よしにもほどがあるんじゃないかい?」

 

 両手と両脚に枷を嵌められ、素裸のまま連行されようとしていた玉兎が、目を見開いて素蛾を見た。

 そして、突然笑い出した。

 

「ねえ、陛下、素蛾は別になんともありません──。それに愉しかったし、素敵な経験もできました。玉兎様に閉じ込められているときは苦しかったですが、朱姫姉さんやご主人様と一緒に旅をしたときは本当に幸せでした──。だから、玉兎様は許してあげてください。この方は可哀想な方なんです」

 

 素蛾は、玉兎には応じずに、国王にさらに言った。

 どうやら素蛾は真剣のようだ。

 

 素蛾は玉兎についてなにかを知っているのだろう。

 心根の優しい公主なので、それで玉兎を許したいと考えているのかもしれない。

 もしかしたら、素蛾が主張している“可哀想”なことというのは、沙那が王宮の書物庫で調べてきた「あの事」だろうか……?

 孫空女は思った。

 

 王宮に入ることができたあと、四人でやったのは、この部屋に玉兎の待ち受けの罠を作ることと、素蛾を探すことだ。

 だが、もうひとつ沙那が取り組んだことがある。

 玉兎について調べることだ。

 

 黒龍廟(こくりゅうびょう)で素蛾を玉兎がさらったとき、玉兎は名を名乗るとともに、国王に恨みがあるというようなことを仄めかした。

 それで、沙那が王宮の書物庫に入って、ひと晩かかって、いろいろと調べてきたのだ。

 

 沙那は、国王に恨みといえば、この国が二十年くらい前に行った亜人領の征服に繋がることではないかとあて推量していたようだ。

 それで調べて見ると、ある亜人部落を征服したときの捕虜の記録に“玉兎”という名があったらしい。

 年齢は十二歳。

 母親らしき雌妖の名と並んでいた。

 捕虜の記録には、備考欄に“妾扱い”とあり、それが二重線で消されて“性奴隷”と印が押されていたようだ。

 書物庫で探すことができたのはそれだけだったらしい。

 

 沙那は、宝玄仙と一緒に国王に面談を求め、直接、この記録について訊ねたようだ。

 しかし、国王は覚えていないと答えたとのことだ。

 だが、その否定の仕方は不自然であり、なんとなく白を切ってるような気配があったらしい

 それで当時のことを知っている道術長にも訊ねたのだ。

 

 いずれにしても、道術長には玉兎の操り術がかかっていたので、これを解く必要があった。

 朱姫が玉兎の道術の解除を道術長に施したのだが、そのついでに、『縛心術』で訊問したのだ。

 道術長は覚えていた。

 

 兎族(とぞく)という種族の亜人村を襲撃したことの話らしく、確かに二十年くらい前のことのようだ。

 その族長の娘が玉兎という名だったようだ。

 いまの国王は亜人村を占拠したあと、族長の妻とその娘の美貌が気に入り、その場で強姦したようだ。

 お互いの目の前で……。

 

 そして、妾として国都に連れて行った。

 側室ではなく、“妾”としたのは、亜人であるふたりを正式の側女にはできなかったからのようだ。

 だが、気紛れな国王は半年で飽きて、その亜人の母娘を性奴隷扱いで奴隷商に売り払ったのだ。

 ふたりは、それでばらばらに引き離された。

 そのときの母親から離された娘の血の出るほどの号泣を道術長はしっかりと覚えていた。

 

 その娘が玉兎だ。

 

 しかし、母親が売られた先の飼い主が酷い男であり、王から払い下げになった亜人の女を責め殺したらしい。

 道術長は、あまりにも後味の悪い話だったので、しっかりと記憶していたようだ。

 

 沙那はその玉兎こそが、素蛾をさらった玉兎なのではないかと予想している。

 玉兎のことをずっと憎むような様子だった朱姫と宝玄仙も、沙那からその話を聞いたときにはかなり複雑な表情をした。

 

 いずれにしても、素蛾が玉兎を助けたいと言ったことには、孫空女も呆気にとられた。

 玉兎はこの四日間、素蛾を手酷い拷問に遭わせたはずだ。

 黒龍廟で孫空女たちから素蛾を奪ったときにそう宣言していたし、たったいまも玉兎自身がそう言った。

 それでも、玉兎を許す気になれるのだ。

 玉兎の言い草ではないが、確かに、素蛾はどこまでお人よしにできているのだろう。

 

「なにを言うか、素蛾──。お前の出る幕ではないわ──。近衛兵、いいから、この公主誘拐犯を連れていけ」

 

 国王が声をあげた。

 

「待ちな──。この雌妖はわたしが捕えたんだ──。ちょっとだけ話をさせておくれよ、国王──」

 

 そのとき、素蛾を連れ出そうとしていた近衛兵を宝玄仙がとめた。

 そして、玉兎をじっと見た。

 

「素蛾はなんとか無事のようだね……。素蛾に万が一のことがあれば、お前なんか八つ裂きにしてやろうと思ったよ……。素蛾は大切な仲間だからね」

 

 宝玄仙が玉兎を睨んだまま言った。

 

「頑固なお姫様だったよ……。拷問をして、あたしの奴隷になると言わせようとしたんだけどね……。自分は朱姫の性奴隷であると一点張りだったよ──。まあ、ほんっとに頑固だったね──」

 

 玉兎が馬鹿にしたような笑い声をあげた。

 宝玄仙がさらに玉兎に近づいた。

 ふたりは、ほとんど密着するような近さになった。

 

「わたしとも道術契約を結びな……。わたしからの条件も朱姫と同じだよ。ただし、二度とわたしらにも素蛾にも手を出すな。お前はそれを誓うんだ」

 

 宝玄仙がささやいた。

 玉兎の顔が驚きで包まれるのがわかった。しかし、すぐに小さくうなづいた。

 

「……誓うよ」

 

 孫空女の耳には捉えたが、玉兎の目の前にいた宝玄仙以外の者には聞こえなかっただろう。

 次の瞬間、宝玄仙が玉兎に霊気を戻した。

 大量の霊気がものすごい勢いで玉兎に流れ出したのだ。

 

「あとは勝手にしな……。こんな玩具のような道術封じの枷なんて、お前だったらどうということはないだろう?」

 

 宝玄仙が小さな声で玉兎にささやいた。

 玉兎は近衛兵に連行されて部屋を出て行った。

 

「素蛾、いまのはどういう意味なのです──?」

 

 玉兎が部屋から連れ出されると、不審顔の王后が素蛾に訊ねた。

 

「どういう意味とは、どういう意味でしょうか、王后殿下?」

 

 素蛾が首をかしげた。

 

「あの亜人がお前のことを性奴隷とかなんとか言いましたが、まさか、身体になにかをされていませんよね……?」

 

 王后の声は、ほとんど聞こえるか聞こえないかの小さな声だったが、素蛾には十分に聞こえたようだ。

 

 素蛾はにっこりと微笑んだ。

 

「もちろん、なにもされておりません、王后殿下──。ただ、性奴隷としての修行はさせていただきました。変わったことといえば、破瓜は最初の奴隷商でしましたのでもう処女ではありません──。そして、ここにおられる宝玄仙様や朱姫姉さんの調教を受けたのです。その結果、胸も女陰もお尻もしっかりと感じる場所になりました。とても調教は気持ちがいいです。それから、面白いおしっこの仕方も教えてもらいました。立って前にするのについては、かなり飛ぶようになりました。あと、片脚あげとか、噴水とか、ほかの技についても、少しだけできます。今度お見せしますね──。ともかく、わたくしについて変わったといえばそれくらいであり、特になにかをされたというほどのことはありません」

 

 素蛾があっけらかんと大きな声で言った。

 王后と国王の顔色が変わった。

 さらに、まだ、残っていた近衛兵たちが騒然となる。

 

 そのとき、さっき玉兎を連れて行った近衛兵の長が部屋に飛び込んできた。

 

「へ、陛下、さっきの雌妖が逃亡しました──。道術封じの枷を壊されて──。姿が消滅してしまいました──」

 

 血相変えた近衛兵の報告に、さらに部屋が大騒ぎになった。

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