しばらく進むと、町並みになった。
城壁のようなものはないが、大小の建物が密集しだして、城郭のような雰囲気だ。
人通りも多い。
さすがは、破廉恥な恰好を奴隷にさせるのが流行らしい
その一環として、主人に連れられている首輪をつけている奴隷が多いし、その恰好は見ているこっちが恥ずかしくるほどだ。
ひとりだけ下半身に小さな布一枚という破廉恥な恰好で歩いている素蛾だが、そんな格好でも違和感がないくらいに、すれ違う奴隷たちは羞恥の格好をしていた。
怖ろしく短い下袍の女奴隷は当たり前で、上半身の上半分だけを隠すチョッキだけを身に着けている奴隷もいた。
それどころか、素っ裸で宝石の装飾具だけの女奴隷もいる。
股間を剥き出しにて一物を勃起させて歩いている顔の綺麗な男奴隷とすれ違っていた
ときには、さすがに目を逸らせた。見ないようにしながらも、勃起し続けているのは、薬剤でも使わされているのだろかと、ちょっと気の毒になった。
「思ったよりも大きな町だねえ」
通りを歩きながら、満足気な様子の宝玄仙が言った。
この淫らで退廃的な雰囲気が宝玄仙は愉しいのだろう。
さっきから、すごく上機嫌だ。
「そうですね。この辺りは
沙那は気にしないようにして言った。
そのまま町並みの大通りを進んでいくと、やがて大きな屋敷の前に差し掛かった。
その屋敷の門の前に人だかりがある。
屋敷の向かいには、行政府と思われる建物もあった。
ここが郡都の中心部だと思う。
宝玄仙が興味を持ったようなので、沙那は人だかりに近づいていった。
そこには大きな立札があった。
“奴隷品評会会場”──。
そう大きく書いてある。
人だかりは、その立札ではなく屋敷の門に集まっていたのだ。
立札は門の横にある。
札を詳しく読めば、どうやら、ここで奴隷品評会という奴隷比べの競技会のようなものがあるらしい。
参加資格は女奴隷を保有する主人であり、一等には帝国金貨百枚とある。
この辺りの物価で帝国金貨百枚といえばひと財産だ。
「奴隷品評会かい……」
宝玄仙が興味を抱いたような表情になった。
「残念ですが、もう申込み期限は終わってますね。品評会は今日から開始のようです」
沙那はすかさず言った。
そう書いてあったのだ。
集まっていた者たちは、おそらく、その品評会を見物するために集まっているのだと思う。
立札によれば、品評会は今日の夕方から行われ、そのときには屋敷も解放されるようだ。それで民衆が集まっているのだろう。
「なんだい──。参加できないのかい」
宝玄仙ががっかりした表情になった。
沙那はほっとした。
そのとき、後ろから馬車の音がした。
屋敷側から私兵のような者が数名出てきて、閉じられている門を開けるとともに、集まっていた者を避けさせた。
紋章のある豪華な馬車だ。
その馬車は門に入っていったが、屋敷内に入ったところで突然に停止した。
馬車から立派な服装をした五十くらいの男がおりてきた。護衛らしき男もふたりいる。
さらに、その男の横に美しい顔をした女奴隷もいた。
女奴隷とわかったのは、首にある首輪と服装だ。
上半身は清楚で格式のありそうな女執事の服装なのに、下半身は腰の下着一枚なのだ。
女奴隷も恥ずかしいのだろう。
内腿をもじもじさせて赤い顔をうつむかせている。
さらに、女奴隷の首輪に細い鎖があり、それを声をかけてきた男が手に持っている。
「失礼ですが、もしかしたら、品評会に出席希望の女主人の方ですかな……?」
その男は宝玄仙に声をかけてきた。
「そういうわけでもないけど、旅の女でね……。ところで、お前は誰だい?」
「この郡都を預かる
男が言った。
沙那は驚いた。
「太守様です……。この地域の支配者です」
沙那は宝玄仙に慌てて耳打ちした。
男が気さくそうで礼儀正しいのでそんな風には思えなかったが、上官といえば、この地域一帯の太守の名だということは、沙那は事前に調べて知っていた。
太守はこの東山郡の絶対的な権力者であり、小さな王といったところだ。
「へえ、上官というのかい。変わった名だね」
しかし、宝玄仙は沙那の耳打ちを気にする様子もない。
まったく態度を改めずにそう言って笑った。
「よく言われますね。ところで、さっきもお伺いしましたが、奴隷品評会への参加希望ではないのですか?」
上官太守が言った。
上官太守は、さっきから素蛾をちらちらと見ている。
どうやら、素蛾を奴隷だと思っているようだ。
素蛾は沙那たちと同じような首飾りのような金属の輪を首に嵌めている。素蛾が一行に加わると決まったとき、宝玄仙が装着させたのだ。
この国の奴隷がしている太い首輪とは異なるが、見方によっては首輪だ。
なによりも、素蛾は宝玄仙によって、この国のほかの奴隷と同様の恥ずかしい姿になっている。
上官太守は、素蛾を女奴隷だと判断するとともに、立札の前で宝玄仙が立っていたので、品評会への参加希望者だと考えたのかもしれない。
「まあ、興味はあるけどね。でも、もう締め切りは終わっているんだろう?」
宝玄仙が言った。
沙那はどきりとした。
なんとなく、嫌な方向に事態が進む予感がしたのだ。
沙那は自分の予感が外れてくれればいいと願った。
「そうですが主催者は私ですからね。特別に参加を認めてもいいですよ。品評会は三日間です。品評会のあいだは、『誓いのサークレット』という霊具を一時的に額に巻いてもらい、一時的に女奴隷の支配権を私に譲ってもらいます。品評会は予選から始まり、最後には一対一の決勝まで続きます。途中で敗戦した奴隷は主人の方にお返ししますが、全競技会が終わるまで、奴隷を参加させた主人の方は、私の屋敷に滞在していただき、代わりの奴隷たちに接待をさせます……。いかがですか?」
上官太守はにっこりと笑った。
「ご、ご主人様、くだらないことに参加するのはやめましょうよ……。そんな得体のしれないものに参加するなんて危険です……。素蛾のこともありますし……」
沙那は宝玄仙に密着して急いで耳打ちした。
しかし、宝玄仙はまるで聞こえていないように、沙那を無視して上官太守に笑いかけた。
「じゃあ、四人だ。わたしは、わたしの女奴隷を四人出場させるよ──。それと、わたしは宝玄仙だ。ここからは遠い東方帝国の貴族巫女だ。三日間、よろしく頼むよ、太守」
宝玄仙が言った。
沙那はがっかりして大きく嘆息した。
やっぱり、こんなことになったか……。
全身から力が抜けた。
ふと、後ろを見ると、孫空女と朱姫も目を丸くしている。
ただひとり、素蛾だけが好奇心いっぱいの表情で微笑んでいる。
「おや、ほかの三人も女奴隷でしたか……。それはわかりませんでした。いいですよ。出場を認めしょう」
上官太守が言った。
「……そういうことになったよ──。じゃあ、お前ら頑張りな」
宝玄仙が初めて後ろを振り返って、沙那たちに白い歯を見せた。
沙那はがっかりして声もない。
孫空女と朱姫は唖然としている。
「はい、頑張ります、ご主人様──」
ひとりだけ素蛾が元気な返事をした。
「ただし、条件があります」
不意に上官太守が言った。
「条件?」
宝玄仙がいぶかしむ声を出して、上官太守に視線を戻した。
「実はその少女奴隷ですが……」
そして、上官太守が素蛾を指さした。
沙那はどきりとした。
もしかして、隣国の公女であることがばれた?
沙那は、背中に冷たいものを感じた。