沙那たち四人が宝玄仙と離されて入れられたのは、女奴隷が集まる大広間のような場所だった。
全員が裸だ。
もちろん、沙那もだ。
肌の色の白い者、黒い者、中間の肌の色の者など千差万別だ。
亜人までいる。亜人とわかるのは頭から突き出た角と房毛のある耳でだ。
また、美人もいれば、そうでもないのものいる。
全部で百人くらいいるのではないだろうか。
百人の女の全裸というのも壮観だ。
すべての女が髪をきちんと整え、化粧もしている。
その匂いだけでもむせ返るほどである。
かなり人でごった返していて、すぐには、孫空女たちのほかの三人がどこにいるのかわからない。
この会場に入る前に、沙那たち四人はばらばらにされて、身体検査と建康確認のようなものを受けさせられた。
そのとき、四人が離れ離れになり、ほかの三人がどうなったのかわからなくなったのだ。
そして、身に着けているものは履物を含めて、すべて取りあげられた。
ただ、奴隷としての支配具にあたる装飾具は取りあげられないので、宝玄仙に装着されている首の輪はそのままだ。
もっとも、これは外そうとしても外せない。
これまで何度も拉致されたことがあるが、その際、この首輪を外させようと試みた者もいた。
だが、どんなに霊気の高い者でもそれはできなかった。
それだけ、宝玄仙の霊具が強力なのだ。
「沙那──」
声がした。
孫空女だ。
沙那を見つけて、声をかけてきてくれたのだ。
「凄いねえ……。こんなにいるとは思わなかったよ」
素裸の孫空女が寄ってきて言った。
「ああ、孫女、無事ね?」
沙那は笑った。
孫空女は額に青色の金属で編まれたサークレットを巻いている。
沙那も同じである。
この大広間に入る直前に、道術遣いのような者に装着されたのだ。
装着された瞬間、急にぼんやりとした心地になった。
しかし、それはすぐに回復した。
とにかく、このサークレットはなにかの効果のある霊具のようだ。
ためしに外そうと試みようとしたが、外すことができない。
「みんなの話を聞いている限り、これから始まるのは予選らしいよ。これが終われば、やっと本戦の各試合が始まるんだって。予選で勝ち残れるのは二十人だとみんな口にしているね」
孫空女が言った。
「二十人? だったら、さっさと負けて、この禄でもない品評会を抜けたいわね。どうやったら負けることができるのかしら?」
沙那は言った。
とにかく、早く負けたい……。
できれば参加などしたくなかったが、あの状況では許されないだろう。
しかし、参加した結果、あえなく負けたとあれば、宝玄仙も文句はないはずだ。
「どうやって負けることができるかは知らないけど、みんな、主人の名誉のために必死のようだね。一生懸命に勝とうとしているようだよ。だから、一生懸命に負けようとすれば、すぐに抜けられるんじゃないかなあ」
孫空女が白い歯を見せた。
沙那もそれにつられて笑ってしまった。
「それにしても、この奴隷品評会って、定期的にやっているような行事ではないんだね。突然、ここの上官太守が言いだしたんだって。とにかく、金貨百枚の賞金なんて破格だから、この辺りで女奴隷を持っているような主人は、ほぼ全員が奴隷を参加させているらしいよ」
孫空女は耳がいい。
だから、その優れた耳で、奴隷たちが話すひそひそ話をいろいろと仕入れたのだろう。
「ふうん……。ということは上官太守も奴隷を出しているの?」
なんとなく沙那は訊ねた。
「ああ、あれだね……。ほら、あそこに五人固まって、周りが少し離れている空間があるだろう? あの五人がそうだよ。真っ赤な首輪。あれが上官太守の奴隷たちだよ」
孫空女がささやいた。
「へえ……」
沙那も見た。
五人とも大変な美人だ。
年齢も二十歳前後というところだろう。
肌もみずみずしそうで若い。
全員がほかの女たちと一線を画すくらいに色っぽい。
しかも、五人が五人とも性質の異なる感じの美女だ。
この中で美女の品評会をするなら、間違いなく、あの五人が勝つと沙那は思った。
「沙那姉さん、孫姉さん──」
「沙那様、孫様──」
すると、朱姫と素蛾の声がした。
ふたりが連れだってやってきた。
「朱姫、素蛾、こっちよ」
沙那は手を振った。
「ねえ、沙那姉さん、気がついているでしょうけど、このサークレットは霊具ですよ……」
朱姫がやってくると、すぐに沙那の耳元で朱姫はささやいた。
「ああ、そのようね……。でも、どんな霊具なの?」
沙那はとりあえず言った。
「一種の操り具です。おそらく、上官太守やその身内の言葉に逆らえなくなるような性能があるのだと思います。ご主人様の『服従の首輪』と同じような支配霊具です」
朱姫が声をひそめたまま言った。
「支配霊具?」
沙那は、大きな声をあげそうになり、慌てて口をつぐんだ。
だが、支配霊具か……。
なんとなく、そうとは考えていたが、いやな感じだ。
宝玄仙の『服従の首輪』には随分と苦労させられたし、意に沿わぬことを命令ひとつでなんでもさせられるのだ。
あんな思いは、もう十分だ。
すると、朱姫がくすくすと笑った。
「そんな顔をしなくても大丈夫ですよ、沙那姉さん……。あまり性能の高いものではないですから……。あたしが能力を無効にしてあげます。こんなちゃっちい霊具なんて、簡単に性能を壊せますから」
朱姫がにっこりと微笑んだ。
これには沙那も苦笑してしまった。
「郡都を治める太守が抱えている道術遣いの準備した霊具は、あんたにとっては“ちゃっちい”の?」
沙那は言った。
「ちゃっちいですね。どうということはないです。すでに、あたしと素蛾のサークレットは能力を能力は消してあります。沙那姉さんと孫姉さんも寄ってください」
朱姫は言った。
それにしても、沙那はなんとなくおかしかった。
最初に出会ったときの朱姫は、いくつかの大きな道術は遣えたが、道術遣いとしては能力が低い方だと、宝玄仙も言っていたし、本人もそう言っていた。
だが、いまや、道術には縁のない沙那から見ても、朱姫は一流の道術遣いだ。
成長といえばそれまでだが、その変わりようには感嘆する。
「はい、おふたりの霊具は、これで道術の力はありません。ただの飾りです。でも、だからと言って、主催の方々に逆らわないでくださいね。霊具を無効にしたのがばれてしまいますから」
朱姫が笑った。
そのとき、大広間に響き渡るような大きな声があった。
「それでは、只今より予選を開始する。予選の課題は性器の美しさを競うことになる。身体を前屈にして、大勢の観客の前を歩いてもらう。全員が一列に並び、係の者から枷の装着を受けよ」
声の主は、大広間から外に広場に通じる大きな門のような扉に立つ進行係のような者によるものだった。
性器を競うという得体のしれない響きに首を傾げながらも、沙那たちはほかの参加奴隷たちとともに、大広間にとぐろを巻くように一列になった。
「な、なに、あれ?」
しばらくして、前側から準備をし始めた光景に沙那は声をあげた。
並んでいる奴隷たちは、全員が足首に革枷を嵌められて、それに手首を繋げられている。
しかも、右足首の内側に右手首、左足首の内側に左手首が密着するように枷をつけられているのだ。
あれでは極端な前屈みになり、しかも脚を拡げたまま性器を丸出しにして歩くしかない。
動揺を落ち着ける暇もなく、前から次々にその恰好にさせられていく。
後ろで待っている沙那には、枷を嵌められた女奴隷たちにたくさんの剥き出しの性器がこちらから丸見えだ。
そして、枷の装着が終わった者から順に、どんどん扉の外に送られている。
よくは見えないが、その恰好で大勢の観客の集まる広場をひとひとり練り歩きをさせられているようだ。
沙那たち四人は沙那を先頭に、全部の列の中間付近に並んでいた。
係の者らしき男たちが寄ってきて、手首足首に無造作に枷を装着すると、沙那たちを恥ずかしい前屈みの状態にした。
仕方なく、沙那たちは枷を着けられたよちよち歩きで、少しずつ前に進んでいった。
そして、沙那の番がきた。
「ひゃん」
いきなり、背後から水のような液体を性器に向かって柄杓でかけられた。
そして、鼻になにかをかちゃんと嵌められる。
装着式の小さな鼻輪だとわかったのは、外に向かって通じる紐に鼻輪から伸びる紐に繋がった金具を装着されたときだ。
「ふぎっ」
いきなり鼻輪が引っ張られた。
沙那の鼻輪に繋がった紐が前に進み始めたのだ。
どうやら、外に通じる紐は前に向かって動いていて、そこに金具が付けられている鼻輪が沙那の身体を引っ張るのだ。
夕暮れの闇を篝火で明るくされた外の通路に沙那は引き出された。
女奴隷が前屈みで歩く通路には左右に縄が張られていて、そこに入ってこれないようになはなっている。
そのあいだを奴隷たちが素っ裸の前屈姿で歩かさていく。
その左右に大勢の観客が群がって、大声で野次を飛ばしていた。
広場が揺れるほどの歓声の中を沙那は一歩一歩と前屈みで性器を晒しながら前に進んでいった。