「う、うう……」
思わず洩らした呻き声を慌てて飲み込んだ。
孫空女は、鼻に引っ掛けられた金具で家畜のように鼻を引っ張られ、屋敷の庭に張られた紐沿いに右足と左足を交互に出しながら前に進んでいた。
しかも、左右の手首はそれぞれの左右の足首と密着されている。
だから、孫空女は全裸で前屈の開脚歩きというみっともない恰好で進むしかない。
その恥辱的な恰好で、いま孫空女は、ほかの女奴隷たちと同じように、大勢の観客のいる屋敷の庭を延々と歩いていた。
これが、品評会の予選らしい。
孫空女だけではなく、百人もの奴隷品評会の参加者がそうやって、屈辱の練り歩きをさせられているのだ。
前屈みの身体の後ろには、隠すことのできない尻の穴と女陰が露わになっているはずだ。
鼻輪の装着されている顔をあげれば、ひとり前の沙那の股間が丸見えだし、逆に孫空女の後ろを歩く朱姫、素蛾には、孫空女の性器がはっきりと見えると思う。
もちろん、女奴隷たちの羞恥行進を見物している観客たちには、羞恥の場所を隠しようもない。
こんな格好で歩き始めて、結構な時間が経つ。
恥ずかしいだけではなくて、姿勢が窮屈でかなりの疲労もある。
しかし、前に進まないことは許されない。
鼻に装着された鼻輪が、屋敷の庭に張り巡らされている紐沿いに鼻を引っ張るので、いやでも前に進むしかないのだ。
品評会の予選は性器の美しさを競う競技だということらしい。
それをどうやって決めるのかは知らないが、とにかく、こんなの恥ずかしい。
大勢の野次が孫空女の羞恥を刺激する。
そのすべてが孫空女に向いているわけではないが、そんな気持ちになるのだ。
「いいぞ。尻の穴まで丸見えだぞ」
「女奴隷のひよこ歩きだ」
「これだけの性器が揃うと壮観だぜ──」
「だが、こうやって見ると、ひとつとして同じ性器というのはないんだな」
観客の野次が飛び交う。
数百人はいるだろうか──。
孫空女たちの鼻輪を引っ張っている庭を縦横に横切っている紐が道術で浮かんでいるのは確実だ。
なにしろ、紐はその支えもなく宙に浮いているのだ。
その浮かんでいる細紐が前に動いて、鼻輪に繋がっている紐を前に出し、鼻輪を装着されている孫空女たち性奴隷の鼻を引っ張る。
また、女奴隷が進む道沿いには縄が張られていて、その縄沿いにびっしりと観客が見物をしていた。
その観客たちに股間を晒しながら進んでいるのだが、その観客たちの揶揄の声がずっとつきまとう。
孫空女はそういうのが苦手だ。
なんだか息が苦しくなり、身体が熱くなる。
「おう、こっちの四人は毛が剃ってあるぞ。見えやすくていいな」
どきりとした。
孫空女たちのことを言われているのがわかったからだ。
いやな緊張が孫空女を襲う。
「おっ、あの赤毛、早くも股間を青くしているぞ。どうやら、露出狂らしいな……」
誰かが孫空女の股間を指さして背後から笑ったのがわかった。
すると周りの観客たちもどっと笑った。
股間が青色?
なんのことかと思ったが、ふと前を見ると、先を歩く沙那の股間がうっすらと青い。
孫空女は少し驚いた。
そういえば、この前屈歩きが始まる前に、股間に冷たい水のようなものをかけられた。
それが青くなったのだろうか。
だが、かけたばかりのころは、沙那の股間には青くはなっておらず、透明の液体だった気がするが……。
「孫姉さん、股間が真っ青ですよ……」
後ろを歩く朱姫がびっくりしたような声を発した。
「真っ青? な、なんで?」
孫空女は思わず声をあげた。
しかし、その理由はすぐにわかった。
観客のざわめきの中から、孫空女の耳は、女奴隷の股間が青くなっている理由を聞き取ってしまった。
つまりは、女奴隷の股間に淫液が滲むと、それが女奴隷たちが股間にかけられた液体に反応して青く変色するということらしいのだ。
見物する観客たちが、羞恥に感じている女奴隷の存在がわかるように、そういういやらしい仕掛けをしているらしい。
しかし、そのことは孫空女は激しく動揺させた。
そうであれば、孫空女はただ性器を大勢の観客に見物されているというだけで、感じているということになる。
「はあ……ああ……」
意識するまいと思うと、また呼吸が苦しくなる。
おかしな汗が身体からぽたぽたと落ちてもきた。
「あの赤毛、見られて感じているぜ……。あんなに股ぐらが青いぜ」
しばらく進んで、また同じような野次を飛ばされた。
その声に釣られるように、左右の観客の男たちの淫らな視線が集まる気がする。
孫空女はもうどうしようないほど身体が熱くなってきていた。
気にすまいと思うのだが、なぜか身体が反応を示してしまう。
とにかく、周りの声を聴くまい……。
そして、なにも見まいと思って下を向いた。
*
一体全体、どれくらい歩かなければならないのか……。
朱姫は歩きながら恨めしく思った。
庭はかなり広い。
そこを行列を作りながら、百人を超える女奴隷が羞恥の姿でゆっくりと行進をしているのだが、極端な前屈みになっているので、全体を見渡すことができないのだ。
いずれにしても、しばらく立ち見の観客たちが両脇から集まっている場所を抜けて庭に多くの卓がある場所になった。
これまで比較的一直線に進んでいた女奴隷たちは、今度は各卓を回るように、それぞれの卓をくねくねと進まされはじめる。
相変わらず導きの紐は、道術によって宙に浮かんでいる。
卓には数名ずつの着飾った男女が座っていて、女奴隷たちの裸身を批評しながら歓談をしていた。
そのそばを見世物のように進まなければならないのは、さすがの朱姫も屈辱だ。
やがて、前の方から悲鳴と笑い声が聞こえだした。
なんだろうと思ったがわからない。
さらに進むと、少し卓が途切れて、再び卓が集まった場所になった。
さっきの卓には召使のようなものがいなかったが、今度はひとつひとつの卓に奴隷と思われる男女の給仕がひと組ずつついている。奴隷だとわかるのはその破廉恥な格好だ。
男女とも上半身はきちんとした給仕の姿なのに、それは臍までで切断されていて、男女とも股間の部分に、動物の顔を模した面を装着していて、その格好で給仕をしているのだ。
卓は全部で三十卓はありそうだ。
それぞれに四人ずつくらい座っているから、この場所だけでも百人以上の観客がいる。
さっきの給仕のいない卓にいた男女に比べれば、ここに座っている観客は衣装が鮮やかで高貴が感じがする。
それにしても、この場所に限り、行進経路はぐるぐると同じ場所を進む気がした。
あまり前も周りも見ていないのだが、同じ卓の横を二度ほど見た気がする。
そうやって歩くうちに、また雰囲気の異なる場所にやってきた。
いままでは丸い卓がたくさんある場所を縫うように歩いていたのだが、横長に長い卓の前を進むように進んできたのだ。
横長の卓には一方の面にしか観客は座っておらず、女奴隷を見物する視界を妨げないようになっている。
「おう、今度の組はお前たちかい? まあ、頑張りな。この付近にいるのが、奴隷を出している主人たちと審査員が集まる場所らしいさ。腰を振って自慢の性器を見せびらかしな」
「ご主人様──」
「ご主人様」
「ご主人様?」
「ご主人様」
朱姫を始めとして四人が一斉に声をあげた。
しばらく進んだところで、不意に頭の上から宝玄仙の陽気な声がしたのだ。
顔をあげると、ほかよりもひと際大きな卓に宝玄仙がいた。
隣には上官太守がいて、上官太守の横は夫人と思われる女もいた。
また、ほかの卓には四名ずつなのに、その卓だけ倍の人数がいる。
とにかく、この卓だけ、随分と給仕の奴隷の数が多い。
この卓だけ十人ほどの給仕役の性奴隷が集められている。
あの
どうやらそこは、主賓席のようだ。
「おっ、孫空女、お前、なにもしていないのに感じすぎだろう。なんで、お前だけそんなに股ぐらが青いんだよ」
宝玄仙が孫空女の股を見て、突然にげらげらと笑った。
確かに、孫空女の股だけ以上に青い。
孫空女は実は羞恥に弱いということを朱姫は知っている。
「そ、そんなことを言わないでよ、ご主人様」
前を歩く孫空女が泣きそうな声で言った。
すると、また孫空女の股ぐらが青さを増した。
そのとき、突然に前がとまった。
どうしたのだろうかと思ったが、行進経路になっている紐に鼻輪が繋げられているので、それがとまれば、朱姫もとまるしかない。
朱姫の縄は前を歩く孫空女の股に顔をくっつけるほどの距離まで近づけられて停止した。
朱姫の後ろの素蛾も同じように朱姫の股間に密着している。
なんとか前を覗いたが、どうやら朱姫たちを含めた十人くらいが、主賓席の前にやってきたところで、まとまって停止させられたようだ。
十人目は素蛾だったようであり、素蛾までの十人が、前後の行進と切り離されて主賓席の前に停止させられている。
素蛾から後ろは横に逸れて別の経路に進んでいった。
どうやらこれは、朱姫たちばかりが特別なことをされているのではなく、最初から、十人ずつ主賓席の前に停止させられる動きになっていたようだ。
そうやって、前の組が終わるまでのあいだ、後ろ側は同じ場所をぐすぐすると回らされているみたいである。
その証拠に、素蛾のひとり後ろからは、さっき朱姫たちがすでに進んでいた場所と同じ経路を進んでいった。
とにかく、十人の品評会に出席している性奴隷は、ほとんど密着した状態で主賓席に並ぶ態勢になった。
そのとき、強い霊気の気を感じた。
おそらく、強い霊気の壁のようなものに十人がすっぽりと包まれたと思う。
『結界術』とは違うが、霊気の檻のようなもので覆われたようだ。
「今度の余興はなにをさせるのかしら、あなた? また、片脚あげ放尿もいいわね」
愉しそうな声をあげたのは、上官夫人の横の夫人だ。
「次の札は、宝玄仙殿が引くの番でしたな。宝玄仙殿に箱を──」
上官太守が声をあげた。
横目で見ていると、宝玄仙の席に小さな獅子の面を股間に装着した男の召使が、装飾のある箱を持っていった。
宝玄仙が無造作に箱の上から手を入れて一枚の札を出した。
「次の出し物は放屁だよ」
宝玄仙が愉しそうに札を頭上にかざした。
主賓席に座っている男女が一斉に喜んで拍手をした。
「放屁の組は初めてでしたな」
「でも、匂いが漂うのはいやですわ」
女の観客が声を発したのが聞こえた。
「いや、心配いりません。道術で風の壁が作られてありますので、匂いはやってきません。最初の組は下痢便歩きでしたけど、いまは、匂いも痕跡もなにもないでしょう? 女奴隷がいる空間は、いわば閉鎖された場所なのですよ」
上官太守が言った。
すると、目の前に突然にたくさんの透明の球体のようなものが出現した。
それがふわふわと宙を漂い女奴隷たちの股に近づいてくる。
朱姫もひとり前の孫空女の肛門に球体が吸い込まれるように入っていくのを見たし、自分のお尻に空気の塊のようなものが入り込むのを感じた。
「ひっ」
朱姫は思わず悲鳴をあげた。
「わっ」
「しゅ、朱姫姉さん……、いやあっ──」
「きゃああ」
朱姫の前後の孫空女と素蛾をはじめとして、ほかの女奴隷たちも一斉に声をあげた。
急に猛烈な放屁の感覚が襲ってきたのだ。
それがあまりのも強烈で、とてもじゃないが我慢できない。
前の方でここまで聞こえるような大きなおならの音と複数の女の悲鳴が聞こえた。
「一発目だ」
観客がお祭り騒ぎに喝采する。
それを合図のように、どんどんをおならの音が聞こえだす。
また、悲鳴も聞こえる。
悲鳴は放屁をした女奴隷の声もあるが、顔の前で前の女の放屁を浴びせられる女奴隷の悲鳴が大きいようだ。
「いやあああ──」
素蛾の泣くような声がした。それとともに、素蛾の大きなおならの音もした。素蛾は、裸を見られたりよがる姿を他人に晒すのは平気のくせに、口の中を見られたり、涎を垂れ流す姿を晒されるのは凄く恥ずかしがる。
おならも嫌なようだ。
素蛾の悲鳴は悲痛なものがあった。
「そ、素蛾、ご免──」
いずれにしても、朱姫も限界だ。
朱姫のお尻のすぐ後ろには素蛾がいる。
しかも、鼻息を股間に感じるくらいに密着させられている。
だが、朱姫の意思にかかわりなく、肛門の中で放屁の勢いが拡大し、猛烈な力で外に出ようとする。
ぶうううっ──。
大きな音が鳴り響いた。
「ひっ」
素蛾が困惑した声をあげた。