第1話から、2年以上前の話となります。
68 没落の貴族娘
大神殿の神官長としての務めが終わり、宝玄仙は館に戻った。
馬車から降りた宝玄仙が入口に立つと、ひとりでに玄関の扉が開く。
「おかえりなさいませ、宝玄仙様」
四年前に宝玄仙が、教団の歴史上、もっとも若くして八仙のひとりとなったときに迎え入れた老人の道術遣いだ。
もっとも、道術の腕は最低級だ。もちろん、宝玄仙に遥かに及ばない。
しかし、館の家人の仕切りを任せておいて頼りになる。
四年前に地方の女神官長だった宝玄が、八仙として帝都で暮らすことになったために、手に入れたこの館についていた。
代々、この屋敷の主人に仕える家系だそうだ。
別の家宰の当てはなかったので、そのまま使っている。
帝都のことについても館のことについても、この桃源は生き字引だ。
いまでは、宝玄仙の屋敷の面倒なことは、すべてこの桃源に頼っている。
「あいつは、変わりはないかい、桃源?」
「これといって……」
桃源は頭を下げた。
三日ぶりの女主人の帰宅に、並び集まった十人ほどいる家人たちが立礼で対応する。
宝玄仙が軽く頷くとすぐに、幾人かが仕事のために散り、幾人かは、宝玄仙の世話をするために集まってくる。
桃源以外は、すべて、宝玄仙が地方神官時代から一緒だった女たちだ。
彼女たちは、宝玄仙の世話をするためにここにいるのだ。
宝玄仙が私室に向かって進むと、彼女たちもついてくる。
「お疲れですか?」
桃源は、女たちに世話をされる宝玄仙の横にいる。
一方で、宝玄仙は歩きながら法衣を脱ぎ捨てた。周囲についている女のひとりが、宝玄仙が脱ぎ捨てた法衣の片割れをさっと拾う。
「疲れたね。あの
「しかし、応じないわけにはいきますまい。闘勝仙様といえば、その権威は、いまや飛ぶ鳥の勢い。皇帝陛下でさえも、うやうやしく振る舞われるのです。敵にするには得策とは思えません」
宝玄仙の私室に向かう廊下の途中だ。
外出用の巫女服を脱ぎ散らかしながら歩いている。それを家人の女たちが拾い追っている。
まあ、いつものことだ。
「敵だなんてとんでもない──。わたしだって分別はあるよ。だから、こうやって、三日もあいつの顔を我慢して隣に座っていたじゃないかい。だから、愚痴くらい言ってもいいはずさ」
「おわかりならば問題はありません。しかし、闘勝仙様には気に入られるように努力することがよろしいでしょう……。ところで、今度こそ、月例会には参加された方がよいのでは?」
月例会というのは、八仙同士の親睦を深めるという目的で、闘勝仙が始め出した集まりだ。
ただの私的の宴であり、教団の行事ではないので、強要されるものではない。
だから、宝玄仙は一度も参加したことはない。
もっとも、闘勝仙が帝仙となって半年経つが、いまだに月例会に赴いたことがないのは、宝玄仙くらいだろう。
「嫌だね」
宝玄仙はひと言でそれを片づけた。桃源は嘆息した。
「次の例会の招待状が届いておりますよ。使者の言葉によれば、次は是非、ということでしたよ」
「捨てておくれ」
「宝玄仙様」
老執事の強い物言いに宝玄仙は、仕方なく立ちどまった。
すでに法衣を脱ぎ、軽い内着だけになっている。
脱ぎ終わったので、後ろに従っていた女たちの姿もふたりだけになっている。
「お願いだよ、桃源。正直に言うよ。わたしは、あの男が嫌いなのさ。あの男の体臭が嫌いなんだ。顔もね。あいつが、わたしを小娘扱いして、軽んじるのも気に入らないね。わたしは、これでも八仙なんだよ」
「軽んじてなどおられないでしょう。宝玄仙様は、有名な霊具作りの才女でございますし」
霊具作りの才女というのは、宝玄仙の二つ名だ。
道術力はともかく、霊具を作る才能にかけては、帝仙の闘勝仙でも宝玄仙には遥かに及ばない。
宝玄仙が特異とするのは、なんの霊気も帯びない人間が扱うことができる道具を作ることだ。宝玄仙は、この霊具作りの才能で八仙になったといってもいい。
道術は日常空間に存在する霊気を身体や物に取り込んで、具体的な効果を発揮する。
だから、本来は、まったく霊気を帯びない人間は、道術を扱うことはできない。攻撃的な道術も効果はないが、逆に治療術などの恩恵的な道術も施せない。
これが道術の原則だ。
それをするひとつの方法は、結界を刻んで、その中で術を行うという方法なのだが、結界を刻むには時間がかかる。
あるいは、霊気の出入り口を作るために、『内丹印』という道術紋を肉体に刻んでしまうとかだ。
これに対するもうひとつの方法が霊具だ。
霊具というのは、道術を限定的に行えるようにした道具のことである。
結界や内丹印に比べれば、効果が限定されるという欠点を除けば、軽易に術を発揮できる霊具とは便利なものだ。
ほとんどの術遣いは、大なり小なり、自分の道術の発揮を霊具によって行うし、八仙ともなれば、自ら霊具をつくることも容易だ。
しかし、その霊具も、道術を扱えない者には、普通は動かせない。霊具の効果を及ぼすためには、使用に先立ち霊気を注ぎ込む必要があるからだ。霊気を帯びてないのだから、常人には霊具に霊気を注ぐことなど不可能だ。
その例外が宝玄仙の作る霊具だ。
特殊なやり方で自然界にある微量の霊気を自動的に吸収させる紋様を装着することにより、霊気を扱えないただの人間にも扱える霊具を宝玄仙が発明したのだ。
その功績により、宝玄仙を八仙となった。もちろん、たぐいまれな道術遣いだというのもあるが、若くして八仙にまで出世したのは、なによりも霊具作りの才能によるものだ。
天教の法師である宝玄が社会に果たした功績は大きい。
それが先代の帝仙に認められて、宝玄仙は史上最年少の年齢で八仙になったのだ。
「闘勝仙はわたしを軽んじているに決まっているだろう――。じゃあ、言おうか。闘勝仙の取り巻きの
「まさか……」
桃源はさらりと言った。
「本当だよ――。一度くらいいいじゃないかとね……。わたしは娼婦じゃないんだよ」
「闘勝仙様は、若い頃はかなりの色好きというご噂ございましたが、もうかなりのご年齢。それに、同じ八仙の宝玄仙様に伽をせよなど、真のこととは思われません」
「でも真実だよ――。もちろん、断ったけどね」
「どのように?」
「こっぴどくね。わたしの術で呂洞仙の首を絞めてやったよ。あいつ、眼を白黒させてたよ。いい気味さ──」
「本当にそんなことがあったのですか?」
桃源はまだ半信半疑のようだ。
「あったのさ……。ついでに言えば、あの
藍采仙というのは、宝玄仙と同じ女八仙だ。八仙の経歴はもっとも長い。女法師は巫女ともいい、教団では珍しくはないが、いまの八仙では、巫女は宝玄仙と藍采仙だけだ。
最近まで知らなかったが、藍采仙は定期的に、闘勝仙の求めに応じているようだ。
一年ほど前から、藍采仙は姿を幼女姿に変えていたが、自分の中からできるだけ、「女」を消すためにやっているのかもしれない。
「このことをほかの八仙の方々は……?」
「みんな知っているよ、桃源。でも、見て見ぬふりだ。闘勝仙の力が桁外れであることは全員が知っている……。だから、藍采仙も仕方なく、身体を許したのかもね」
「それならば、宝玄仙様も……」
「ならばなんだい――?」
宝玄仙は、床を足で踏み鳴らして怒鳴った。
「ならば、わたしも抱かれればいいというのかい? もう一度、訳知り顔で同じことを言ったら、お前でも許さないよ。その口が二度と開かないように術をかけてやる」
「これは、申し訳ありませんでした……」
桃源は頭を下げた。
だが、口に出した言葉とは異なり、態度には少しも動じた様子はない。
「まあいいよ……。とにかく、忘れたいのさ。二刻(約二時間)ほど、
「かしこまりました。身体を拭く者についてご使命はございますか?」
「鳴智さ。そのまま、あいつにやらせる。嫌がるだろうけどね」
宝玄仙は笑いながら言った。
「ならば、湯を準備した後は、湯殿からも人を遠ざけておきます」
「わかっているじゃないかい、桃源」
宝玄仙はにやりと微笑んだ。
桃源は、それ以上はついてこようとはしなかった。残っていた女たちも去る。
宝玄仙は、ひとりで自分の寝室を開いた。
鳴智がそこにいた。
苦しそうだ。
床に倒れ伏している。
身につけている女中服は、宝玄仙が外出する前の三日前と同じだが、発汗と体臭でひどく汚れているし、匂いもする。
ここに監禁をされて、三日間も連続で霊具の淫具により責められ続けていたのだ。
無理はない。
宝玄仙が入ってきても、鳴智はそれに気がつかないのか、身じろぎしなかった。
鳴智の両手は、ぼたんを外した上衣の中に入っている。
乳首を弄っているのだ。
もちろん、そうしたくてやっているわけではない。
だが、鳴智が、そうしなければならない理由がある。
それも、宝玄仙が仕掛けた霊具のせいだ。
見たところ、小便は床の上でしたようだ。
股間の部分が変色して、ひと際ひどい匂いを漂わせている。
だた、霊具でもある絨毯が、部屋の床には、小便の跡を残していない。
さすがに大便はしていないようだ。
床には、ほとんど手を付けられていない食事が皿に置いてある。
いまは、昼過ぎだから、昼餉の食べ残しだろう。
三日間の食事をきちんととったのかはわからないが、あの桃源のことだから、弱らせるようなことはしないはずだ。
必要なら、無理矢理にでも食べさせているだろう。
「鳴智、戻ったよ」
宝玄仙は大きな声をあげた。
鳴智が、びくりとして身体を起こし、慌てて手を胸から離した。
その途端、小さな喘ぎ声とともに、身体をくねらせはじめた。
そして、宝玄仙を認めて、近づこうとする。
だが、床に描いた白い線に阻まれて阻止されてしまう。
「……ほ、宝玄仙様、お、お願いです。お情けを……」
鳴智が虚ろな顔で言った。
宝玄仙は、哀れな鳴智の姿に、嗜虐癖が満足する大いなる快感を味わった。
鳴智の周りには、五尺(約百五十センチ)四方の白い線が描かれている。
また、鳴智の両足には黒の足輪もある。
この足輪が、鳴智がこの白い床の枠から出られなくなっている理由であり、宝玄仙が三日前にそうしたものだ。
両方とも宝玄仙の道術がかかっており、足輪は自分では絶対に外せないし、それを付けていると白い線を通り過ぎることができない。
だから、鳴智は、この部屋に描いた白い枠線から出られない。
言わば、この小さな四角の線は鳴智の牢屋なのだ。
もっとも、足輪をしていない者は、誰でも通り抜けられはする。
「じゃあ、返事を聞かせてくれるかい?」
宝玄仙は椅子を鳴智に近づけて、腰を降ろした。
ただ、椅子は、白い線のすれすれのところにあり、鳴智はそこに座った宝玄仙に触れることはできない。
「あ、ああ……。お、応じます……」
鳴智は、上気した顔で言った。
淫情の浮かぶ鳴智の顔は、この少女の美しさをさらに引き立てていた。
四日前に拾った娘だ。
ただの人間であり、術遣いではない。
もともとは、貴族の家柄らしいが、没落して一家のために、彼女が身を売らなければならない境遇にまでなったらしい。
しかし、娼館に売られるところを宝玄仙が偶然に見つけて買い取り、彼女をこの館に引き取った。
ひと目見て、その顔が気に入ったからだ。
顔が……。
鳴智の顔がこの顔じゃなかったら、宝玄仙は見向きをしなかっただろうし、逆に、この鳴智の顔である限り、たとえ、借金奴隷になりかけていなくても、おそらく罠に嵌めてでも、宝玄仙のものにしたと思う。
幸いにも、宝玄仙が鳴智を見つけたとき、すぐに娼館に売られそうな境遇だった。
だから、なんの苦労もなく、手に入れることができた。
もっとも、娼婦にはなりかけてはいたが、まだ覚悟は不十分だったようだ。
宝玄仙が自分の性奴隷になれと言うと、鳴智は拒否した。
だから、淫靡な仕掛けをしてここに閉じ込めてやったのだ。
「この宝玄仙の性奴隷になることに応じるんだね?」
「お、応じます……」
鳴智は床に腰を降ろしたまま頷いた。
「じゃあ、四日前に教えたとおりの奴隷の誓いをしな、鳴智」
「はい……」
鳴智は立ちあがった。
そして、汚れた女中服を脱いで足元に置く。
この館にやって来る前から着ていたもので、どこかで雇われ女中をしていたときのもののようだ。
元は貴族の娘のはずだが、落ちぶれてからは随分と苦労もしたのだろう。
「足元じゃない。白い線の向こうに投げるんだ」
宝玄仙は厳しい声で言った。
白い線を通り抜けられないのは、鳴智の肉体だけだ。
物はいくらでも通り抜けられる。
鳴智は言われた通りに脱いだ服を床に投げた。
下着姿になった鳴智を、宝玄仙はじっくりと眺めまわした。
なかなかによい身体をしている。
十六だと言っていたが、身体はそれなりに女の身体だ。
染みひとつないきれいで白い肌に、宝玄仙は彼女の育ちの良さを感じた。しかし、手はかなり荒れている。没落してからは苦労もしたというのが、それでわかる。
鳴智が胸当てを外して、同じように投げた。
形のいいふたつの乳房を隠すように、鳴智が腕を身体の前で交差する。
「いちいち隠すんじゃないよ。どうせ、たっぷりと視姦されるんだ──。手を身体の横につけて真っ直ぐに立ちな」
宝玄仙の声に鳴智は諦めたように、交差していた腕を降ろして、裸身を宝玄仙に向ける。
全身が汗にまみれている。
明らかに欲情している鳴智に、宝玄仙は嗜虐の炎を昂ぶらせた。
鳴智が、身に着けているのは、宝玄仙がつけさせた絹の下着だ。
下着といってもただの下着ではない。
霊具だ。
普通の薄物の下着のように鳴智の股間に張り付いているその霊具の下着は、一見しただけでは、ただの絹の下着のようにしか見えない。
だが、それでいて、頑丈な金属で覆われているかのように、一切の外からの刺激を受けつけなくなる仕掛けになってる。
しかし、大便と小便については、それをしようとすると、霊具が反応して、その部分が開くのだ。
だが、そのときに手で触れようとすると、たとえ排出の途中であっても、穴を塞いでしまう。
そんなものとは知らないはずの鳴智も三日間、困惑したに違いない。
そして、鳴智を欲情させたこの下着の淫靡な仕掛けは、下着の内側に仕掛けられた小さな触手てある。
その触手は、鳴智の敏感な部分を四六時中休みなしに弄り続けている。たが、絶対に絶頂はできない。そういう道術をかけている。
つまりは、とことん凝った霊具の淫具なのだ。
これをはかせたまま放置して三日間だ。
いくにいけないくらいの弱々しい刺激だが、三日間も敏感な部分を責められ続ければ、鳴智を屈服させるには十分だったようだ。
しかも、どんなに欲情して自慰をしようとしても、下着の防護がそれを阻んでしまう。
三日間、鳴智は欲情しっぱなしで、しかも達することはできないという地獄の苦しみを味わったに違いない。
三日前とは異なり、この鳴智も随分と素直になったみたいだ。
「下着の中はどんな具合なんだい、鳴智?」
「あ、熱いです……。そ、それに疼いて……」
「疼くなんて生易しいものじゃないだろう? 女孔と女芯を弄りたくてどうしようもないんじゃないのかい? あまりにも淫液が多くて凄まじい匂いだよ、鳴智」
宝玄仙は嘲笑った。
鳴智は歯噛みして手を握りしめて震えている。
「それよりも、触手をとめて欲しいかい? それとも激しくして欲しいかい?」
「と、とめてください」
鳴智は顔をあげた。
いまでも鳴智の股間は、触手の攻撃を受け続けているはずだ。
欲情しきった身体にとってはその弱々しい刺激はもっともつらい責めに違いない。
いっそのこと激しく動いてくれれば、わっといってしまえるのだ。
じわじわと嬲り殺すような触手の動きでは、鳴智はひたすらに翻弄されるしかない。
「だったら、教えたとおりにやりな──。そして、奴隷の誓いだよ。できなければ、いつまでもそのままだからね」
鳴智は俯きながら自分の乳首を両手で掴んだ。
そして、指でいじりはじめる。
「ああっ」
すぐに官能の声を出し始める。
「触手はとまったかい、鳴智?」
「と、とまりました」
鳴智が乳首を弄り感じ始めると、触手はとまる。
それも、その霊具の仕掛けだ。
いやらしい触手をとめるには乳首を弄らなければならない。
だが、まだ性には未成熟のようである鳴智には、乳首だけでいってしまうことは難しいだろう。だから、自分で乳首を弄るのは、触手の焦らし責めをさらに効果的にしてしまうことになるだけだ。
また、乳首を触ると股間の刺激はとまり、与えられる快楽が減る。
それにより、やはり、絶頂に達するよう刺激を受けることができないという仕掛けでもある。
逆に、乳首から受ける快感が不足すると、それを感知した下着がゆっくりと活動をはじめもする。
鳴智は、下着の触手をとめたくて、乳首を擦って快感を感じ、乳首責めに馴れて、感じることができなくなると、また、下着の攻撃を受けるということを繰り返したはずだ。
いま、下着の内側の触手がとまったということは、乳首を弄って、鳴智が感じ始めたということになる。
「じゃあ、奴隷の誓いだよ。そのまま、乳首を弄りながらだ」
「わ、わたし……鳴智は、宝玄仙様……を……ああっ……ご、ご主人様と呼び……ど、奴隷としてかしずくことを……ち、誓います……」
鳴智は情感のこもった声で言った。宝玄仙は満足した。
「じゃあ、外してやるよ」
宝玄仙は指を鳴らした。
鳴智の愛液で重量を持っていた下着がばさりと床に落ちる。
「同じように白い線の外に投げるんだ」
鳴智が言われたとおりにする。
全裸の身体を恥ずかしそうにふたつに折っている。
だが、右手は股間に伸びている。
限界を越えている淫情が膨れあがっていることで、無意識のうちに右手を動かして自慰を始めたようだ。
宝玄仙はそれを知らないふりをして、横の台の上の鈴を鳴らす。
「桃源――、ちょっと来な」
鈴も霊具だ。
これを鳴らすと、屋敷のどこにいようとも宝玄仙の声が届く。
「そ、そんな……。ひ、人を呼ぶなんてやめてください──」
鳴智が股間に触れる手を慌てて離し、両手で胸を隠してうずくまった。
若い娘が裸身を見られるのは恥ずかしいに違いはない。
「どうせ、これから屋敷中の人間にその裸を見られ続けることになるんだ。いまから馴れておきな」
「見られ続けるって……どういうことですか?」
鳴智が声をあげた。
「当たり前だろう。お前は奴隷になったんだ。この屋敷の中では奴隷は常に素っ裸だ」
「そ、それは酷すぎます」
「なにを言っているんだい、鳴智。奴隷の分際で服を着させてもらえると思ったのかい──。お前が着られるのはさっきの霊具の下着の類いくらいだ。それ以外は常に素裸でいると思いな──」
「そ、そんな……」
部屋の扉が外から叩かれた。
鳴智が身を固くした。
桃源が入ってくる。
鳴智は素っ裸の身体を両手で抱いて縮こまらせている。
だが、桃源はそれをちらりと見ただけで、表情ひとつ変えなかった。
宝玄仙の嗜虐趣味を知っている桃源にとっては、いつもの見慣れた光景でもあるはずだ。屋敷で宝玄仙の身の回りの世話をしている十人の女たちも、全員が宝玄仙の性の相手なのである。
だが、鳴智にとっては、それどころじゃないだろう。
必死に形のよい乳房を腕で覆いながら、片脚を立て、熟れきった自分の羞恥の源泉を桃源の視線を隠そうとしている。
「お呼びですか、宝玄仙様」
「ああ……。そこに鳴智の汚れ物があるから誰かに取りに来させて洗わせな……。それと、こいつはたったいまからわたしの奴隷になった。正式の身分替えの手続をしておくれ」
「かしこまりました」
桃源は頭を下げた。
奴隷というのはこの帝都では貴族だけに許されている特権制度であり、相手の生殺与奪の権利を握る「もの」の身分にするということだ。
宝玄仙は本来、奴隷を持てるほどの上級貴族ではないが、八仙になったことで、上位貴族を越える特権階級になった。
一方で、奴隷にするのは犯罪者か叛乱を起こした敵軍の捕虜にしか許されていない。
鳴智の場合は家族の作った多額の借金のために、人頭税が長く未払いで罪人と同じ扱いになっている。
すなわち、借金奴隷だ。
従って、鳴智を奴隷にするのは手続き上問題がなく、簡単な書類仕事で終わると思う。
そもそも、八仙である宝玄仙がそれを望めばそれに異を唱える者は帝都にはいないだろう。
八仙の権力はほとんど皇帝と同じなのだ。
「そ、そんな奴隷だなんて……」
鳴智が身体を隠したまま顔をあげた。
「なにを言っているんだい、鳴智。さっき誓ったじゃない。それとも、お前は嘘をついたのかい?」
「だ、だって、本当に奴隷の手続きをするなんて……。まさか……」
まさか、本当の奴隷身分にされるとは思っていなかったのだろう。
“奴隷”という名の慰み者にでもなるだけだと考えたに違いない。
だが、正式の奴隷身分になれば、身体に刻印を押されて、大抵は、術遣いの施す支配霊具により、逃亡防止の仕掛けをされる。
あとは、殺すも傷つけるも、主人の思いのままだ。
もっとも、奴隷の持ち主以外の者が他人の奴隷に手をかけると処罰の対象にはなる。
「すぐに処置します。夕方には手続きが完了するでしょう。刻印はいかがなされますか?」
「書類が揃えば、わたしがやるよ」
通常は奴隷の刻印は公証人が行う。
ただ、公証人というのは教団の神官でその資格を持った者がそれを務め、大抵は場所は神殿だ。
宝玄仙の場合は、教団の最高神官でもあるので、自ら行うこともできる。
「かしこまりました。では……。汚れ物はすぐに女たちを寄越します」
桃源が部屋を出ていく。
「そんなに本当の奴隷にされるのが嫌かい、鳴智?」
欲情しているくせに顔を蒼くして、がたがたと震える鳴智が面白くて、宝玄仙は含み笑いをしながら言った。
「それにしても、そんなに隠されては面白くないね。ちょっとどんな道具だかお見せ」
宝玄仙は立ちあがって、鳴智に近づくと立っている片膝に手をかけて、股を開かせようとした。
「な、なにをするのよ――」
次の瞬間、鳴智が逆上したように胸を覆っていた手を解いて、ぴしゃりと宝玄仙の頬を張った。
宝玄仙は呆気にとられた。
しかし、宝玄仙以上に驚いたのは鳴智自身のようだ。
信じられないことをやってしまったという表情で、顔に恐怖を浮かべている。
「も、申し訳ありません。で、でも……」
「いや、案外に気も強かったんだね。ますます、気に入ったよ」
宝玄仙は身体の前で自分の指を交差させた。
この部屋には、宝玄仙の結界が刻んである。
この部屋に限りに、宝玄仙の力は使い放題だ。
鳴智の両手が、鳴智の背中で交差してぴたりとくっついた。
「あっ――。いやっ――」
背中を向いていた鳴智の身体がしゃがみ込み、床にお尻をつけて、宝玄仙に向けて身体が正面になるように、くるりと回転する。
鳴智は、狼狽して両膝と内腿を閉じて、股間を隠そうとした。
宝玄仙は、その両膝に道術を注ぎ、徐々に開いてやる。
「あっ、いや、いや、いや――」
鳴智が泣き声をあげた。
そのあいだも、宝玄仙は霊気を注いでいく。
鳴智の両脚がゆっくりと開いていく。
「もっと力を入れないと、股が晒け出てしまうよ」
さらに、ほんの少しずつ、ゆっくりと鳴智の両膝は割れる。
鳴智は、必死に脚を閉じ合せようとしているが、次第に濡れそぼった股間が見え始める。
股を開くまいと鳴智は懸命だが、そのはかない抵抗が宝玄仙にとっては痛快だ。
本当は、あっという間に大股開きをさせることが可能なのだ。だが、鳴智の羞恥に歪む顔が見たくて、ゆっくりとなぶっているのだ。
「ああっ」
しかし、ついに、両脚は大きく割れて、この美少女の股間が完全に露わになった。
じっとりに濡れた鳴智の漆黒の繊毛が悩ましく盛りあがっている様子には、宝玄仙でも息を呑んでしまうような色香を感じる。
「いい身体をしているじゃないかい、鳴智。味もよさそうだね」
宝玄仙は、服の内隠しからひとつの小さな容器を取り出した。
その中には、二匹の『
「お愉しみですね、宝玄仙様」
ひとりの女中がくすくすと笑いながら入ってきた。
入ってきたのは、
無論、宝玄仙の愛人のひとりだ。
「み、見ないで――」
鳴智が身体をくねらせた。しかし、宝玄仙の道術によって、鳴智の両脚は、大きく開いたまま閉じることはない。
「わたしのことは気にしないで、鳴智。宝玄仙様は、ちょっと意地悪だけど、本当はお優しいわよ」
床に捨てられている鳴智の服を拾いながら、恵圭が明るく言った。
鳴智は羞恥に裸身を震わせている。
「その下着はいいよ、恵圭。汚れたまま、鳴智に履かせるからね」
「わかりました。では、ここに置いてきます……」
恵圭は、宝玄仙の作った霊具の下着を小さく畳み直すと、それを宝玄仙の横に置いた。
あんなに大量の鳴智の淫液を吸い続けたのにも関わらず、すでに乾いて綺麗になっている。洗ってないので、悪臭はすごいが……。
濡れているのが乾いたのは、宝玄仙の霊具としての道術の力だ。本当は汚れも消滅させられるが、染みや匂いがひどいままはかせた方が、鳴智が堪えるだろうから、そうするつもりだ。
宝玄仙は鳴智の瞼を閉じさせて、開かないようにした。
「ほら、お前たち遊んでおいで」
そして、そう言ってから、二匹の『刷毛虫』を鳴智に放った。
*
いやっ――。
瞼が塞がれて視界が失われた鳴智の身体に、なにかが放り投げられた。
そして、そこが猛烈にくすぐったくなったのだ。
「鳴智、その『刷毛虫』に責められて、絶頂することなく、一刻(約一時間)耐えられたら、お前は淫乱ではないと認めて解放してやる。わたしが肩代わりした家族の借金もそのまま返さなくてもいい。だけど呆気なくいったら、一生、この宝玄仙の玩具にするからね」
宝玄仙の声がした。
えっ?
もしかして、奴隷ならなくてすむ?
しかも、借金も返さなくていい――?
あまりの好条件の提案に鳴智は狂喜しかけた。
だが、すぐに、一刻(約一時間)も耐えるということなど、ほとんど不可能だということに次の瞬間気がつかざるを得なかった。
宝玄仙が『刷毛虫』と呼んだ“なにか”は、鳴智の大きく開いた鳴智のふたつの足の指に落ちた。
そこから、くすぐったさとともに、なんともいえない気持ちよさがせりあがってきたのだ。
ただでさえ三日間も、生殺しのような刺激を受け続けた身体だ。
絶対に無理――。
得たいの知れない刺激が本格的に始まり、鳴智は思った。
足の指を動き回るその虫が、とてつもないほどの快感を呼び起こしながら、ゆっくりと脚を這いのぼってくる。
「あっ、あっ、ああっ」
鳴智は声をあげていた。
この『刷毛虫』とかいう淫具は、恐ろしい責め具だ。
こんなの耐えられるわけない。
必死に振り払おうとするが、離れそうにない。
すぐに、膝近くまで来た。
股間に到達すれば、すぐに達すると思う。
いまでも限界くらいだ。
だが、簡単に宝玄仙に屈してしまうのも癪だった。
宝玄仙に拾われたとき、ある程度、こういうことは覚悟していた。
ただ、貞節な巫女という表の評判の美人の女法師でもあるし、まさか、それ程のことはするまいと高をくくっていた。
あんな下品な下着を着けさせられて三日も焦らし責めにされるとは思いもしなかった。
しかも、必要もなく、家人たちをこの部屋に呼び寄せては、鳴智を見物させるという陰湿さ――。
鳴智は、完全に宝玄仙が大嫌いになった。
『刷毛虫』が、内腿の付け根すれすれをするすると撫でると、ついに感極まった声を鳴智は出してしまった。耐えていたものが崩壊した瞬間だ。
「あれあれ……。このくらいね、そんなに音をあげたら、続かないよ」
宝玄仙のからかいの言葉がかけられる。
『刷毛虫』が股間の周りから、さらにもっと奥に向かって進んでくる。
「くああぁぁ――」
そして、『刷毛虫』が股間をくすぐりだしたとき、とうとう、鳴智ははしたなく大声をあげた。
なんとか、達してしまうことは避けられたが、鳴智は愕然とした。
まだ、股間への責めは始まったばかりだ。それなのに、こんなに追い詰められていては、ひとたまりもない。
「そこが弱いんだね。後でじっくりとなぶってやるよ……」
宝玄仙の冷静な声が聞こえる。
それではっとなる。
なんとか心を落ちつけようと奮い起こす。
だが、二匹の『刷毛虫』が股間と肛門にそれぞれに向かい始めると、腰が突きあがるような衝撃を鳴智は受けた。
「いひいっ――。だ、駄目ええぇっ――」
震えがとまらなくなり、鳴智は叫んだ。
「こりゃあ、随分とやりこんでいるねえ。生娘であることは匂いでわかるけど、自慰は何度も経験しているみたいさ……。というよりも数は多いだろう? 自慰は毎日やっていたね、鳴智?」
宝玄仙の言葉なぶりだ。
三日前も同じようなことを言われた。
身体はすでに崩落寸前だった。
だが、こんな変態巫女に追い詰められるのは嫌だった。
鳴智は、激しく首を横に振った。
「隠してもわかるのさ、鳴智。ほらこれでも認めないかい?」
不意に、宝玄仙の指が肉芽に伸びて、その表皮をぺろりとめくる。
「はあううっ」
鳴智は訛らず声をあげた。
身も解けるような愛撫に鳴智はもう限界寸前になった。
「いくんじゃないよ、鳴智。いった瞬間に性奴隷だよ。いかなければ解放するよ」
宝玄仙はそう愉しそうにそう言いながら、肉芽の表皮をあげたり下げたりする。
もう限界だ。
「ふふふ……。それで、我慢しているつもりかい? じゃあ、これでどう?」
『刷毛虫』が宝玄仙によって、肉芽の真上に摘まみ落とされたのがわかった。
「ひゃああぁぁぁ」
そこから沸き起こった快感に貫かれ、鳴智は生まれて初めて味わうような、全身を溶かしてしまったと錯覚するほどの強烈な絶頂に包まれた。
身体を弓なりにして、がくがくと身体が震える。
「奴隷決定だね」
畜生――。
鳴智は、途方もない快感に焼かれながら、心の中で悪態をついた。
「眼を開けていい」
宝玄仙がそう言うと、閉じられていた眼が開いた。
眼の前の宝玄仙は小さな銀の輪っかを鳴智にかざしている。
「これがなにかわかるかい?」
「い、いえ……」
すると宝玄仙はにやりと笑った。
そして、その輪っかを持った指が、すっと鳴智の股間に伸びた。
「ひぎいいいっ」
鳴智は敏感な感覚の塊りをなにかに絞めあげられて、悲鳴をあげた。
そして、突然、震えはじめた肉芽に、再び激しい嬌声をあげさせられた。
「『女淫輪』という霊具だ。お前のために作った霊具だよ。嬉しいよね、鳴智?」
「そ、そんな……。こ、これは……。だ、駄目です。こ、こんなの、は、外して――、外してください」
鳴智は悲鳴をあげた。
それに、肉芽を襲った『刷毛虫』が二匹揃って、肛門を這い回っている。
『女淫輪』はそんなに大きな振動ではないが、確実に鳴智を追いつめる。
それだけじゃなくて、なによりも、お尻からやってくる微妙な刺激が堪らない。
「はふうううっ」
鳴智は、二度目の絶頂をした。
「淫乱な雌の奴隷ができあがったようだね」
宝玄仙は言った。
局部とお尻の刺激が続く。
またもや、新しい快感が襲ってくる。
「なんとか言いな、鳴智?」
鳴智は唇を噛みしめた。
死んでも、この宝玄仙に屈服したくない――。
「じゃあ、もう少し素直になるまで続けようかね……」
宝玄仙が指を鳴らした。
すると、『女淫輪』が激しく振動しはじめる。
それだけではなく、二匹の『刷毛虫』がそれぞれ分裂し、四匹になる。
さらに、八匹……。
十六匹……
その倍――。
あっとい間に、鳴智の全身は『刷毛虫』に包まれた。
「ひ、ひやああぁぁあ――。た、助けて――。だ、誰か……。た、助けて――ひいいぃ――」
「面白いねえ……。誰が助けてくれるというんだい?」
鳴智は全身を襲いかかる凄まじい官能の嵐に我を忘れた。
あっという間に、言葉にならない衝撃が身体を包む。
大きく身体が震える――。
絶叫しながら、鳴智は果てた。
だが、余韻に浸る暇はない。
もう、次の波が鳴智を襲っている。
『女淫輪』がさらに大きく振動する。
なんで、こんなに感じるのかわからない。
もう、なにも考えられない。
四度目の絶頂だ――。
さずがに、鳴智は屈服した。
やめてくれと泣き叫んだ。
それでも、宝玄仙は笑うばかりで、やめようとしない。
たて続けに絶頂させされる。
頭が真っ白になる……。
そして、鳴智は意識を失った。