沙那は、空中に表示された第二競技の成績を見て、声をあげてしまった。
第二競技の結果
順位 奴隷名 得点(基礎 技術 芸術)
1位 孫空女 53(18 20 15)
2位 沙 那 52(16 16 20)
3位 杏 奈 50(30 10 10)
4位 香 凛 46(28 8 10)
5位 小耽耽 45(22 15 8)
6位 麻 魔 43(24 12 7)
7位 素 蛾 42(26 5 11)
8位 白 蘭 37(20 13 4)
9位 夜夜女 34(14 9 11)
10位 小 芳 33(12 11 10)
11位 和 玉 30( 8 14 8)
12位 神 美 21( 4 11 6)
13位 瑞 恋 21(10 5 6)
14位 瑞 蘭 20( 6 9 5)
15位 奈美女 16( 2 2 12)
16位 蔡 女 11( 1 2 8)
「なんで? どういう基準で点数をつけているの? だいたい、技術点とか芸術点って、どうやって採点してるのよ?」
沙那は思わず声をあげていた。
平凡な順位だった孫空女と沙那が得点の上位に入り、全体の三位だった素蛾は七位だ。
ふと、素蛾を見た。
やっぱり、がっかりと意気消沈していた。しかも、涙目まで溜めている。
こんな禄でもない競技だが、あの素蛾はこれに大きな意気込みで臨んでいるのだ。
自分たちのように、まったくやる気のない者よりも、素蛾のような娘こそ上位にいくべきだと思った。
「どういうことになっているのさ、沙那……?」
文字の読めない孫空女が小さな声で訊ねてきた。
沙那は空中に浮かんでいる第二競技の結果を教えてやった。
孫空女も自分の一位のことは無視して、素蛾の成績が低いことに首を傾げた。
「なんでかなあ? 素蛾って、競技のあいだ、すごい人気だったよ。応援団みたいなのだってついていたんだ……。まあ、沙那の人気にはかなわなかったけど……」
「な、なんで、わたしの名が出るのよ?」
沙那は言った。
「なんでって……。自分でわかんなかったの? 沙那の行くところは全部、すごい観客が集まっていたろう?」
孫空女がそう言うので、そう言われれば、そうだったかもしれないと思った。
確かに、最初の関門で障害の踏破の苦労しているうちに、大勢の見物人に囲まれるようになった。
全員がそうなのだろうと思っていたが、そうではなかったのだろうか……?
まあいい。
沙那は見物人の声に耳を傾けた。
声の中にざわめきがある。
やはり、素蛾のことをささやいている気配だ。
奴隷品評会の中で最年少で健気に頑張っていた素蛾は、やはり強い関心を浴びていたようだ。
「……では、続いて、第一競技と第二競技の合計と現段階の総合順位が発表されます──」
司会が大きな声で言った。
再び、沙那は上空の文字に注目した。
総合順位(第二競技終了時点)
順位 奴隷名 総得点 第1 第2
1位 孫空女 82 29 53
2位 杏 奈 76 26 50
3位 沙 那 69 17 52
香 凛 69 23 46
5位 素 蛾 67 25 42
6位 麻 魔 63 20 43
7位 夜夜女 58 24 34
8位 小耽耽 57 12 45
9位 小 芳 54 21 33
10位 和 玉 49 19 30
11位 白 蘭 46 9 37
12位 瑞 蘭 42 22 20
13位 神 美 37 16 21
14位 瑞 恋 31 10 21
15位 奈美女 30 14 16
16位 蔡 女 24 13 11
「あんたが一位で、わたしが三位……。杏奈と香凛という女が上位四人ね」
沙那は孫空女に説明した。
「なんで、あたしらが上位なのさ?」
「知らないわよ──」
沙那は舌打ちする思いだ。
獣姦がいやで、必死で追いあげたが、まさか第二競技が二位で、総合で全体の三位に食い込むとは思わなかった。
そして、そういえば、身体が感じやすい奴隷は芸術点が底上げされると言っていたことを思い出した。
第二競技の芸術点が沙那と孫空女だけ特出しているのはそれが理由だろう。
「それで、素蛾はどうなの?」
孫空女が訊ねた。
「総合は全体の五位ね」
沙那は言った。
微妙な位置だ。
頑張れば上位四人には入れるというところだが、問題はその内容だ。
そう考えて、沙那は、つまりは、沙那が負ければいいのだと思い至った。
それで沙那は決勝には残らず、素蛾は上位の四人に入る。
上位の四人が明日の決勝進出のはずだ。
「それでは、第三競技の内容の発表に入ります。第三競技の一回戦試合の組み合わせは、ご覧のとおりです」
第三競技・一回戦
第1試合 孫空女-杏 奈
第2試合 蔡 女-奈美女
第3試合 瑞 蘭-神 美
第4試合 夜夜女-和 玉
第5試合 素 蛾-瑞 蘭
第6試合 麻 魔-白 蘭
第7試合 小耽耽-小 芳
第8試合 沙 那-香 凛
上空に出現したのは、一回戦と書かれた組み合わせと、勝ちあがりであることを示す“トーナメント表”だ。
「一回戦? そして、試合……? よくわからないけど、とりあえず、一対一の試合をするようね。第一回戦で勝ったら、勝った者同士で戦って、また勝ち残る。そして、最後の勝者を競う戦いのようよ。一回戦については、あんたは第一試合よ。わたしが第八試合で、素蛾は第五試合ね」
沙那は孫空女に上空に書いてあることを説明した。
「……第三回戦は特別に作られたぬるぬるの潤滑油の中で、女同士の格闘の試合をしてもらいます。試合は三本勝負であり、どんな方法でもいいから相手を絶頂させることができれば一本となります。つまり、早く相手を二回いかせた側が勝ちになるという競技です」
司会の説明に、観客たちがわっと盛りあがった。
沙那は鼻白んだ。
女が全裸で組み合って戦うところを見世物にする競技なのだ。
もっとも、沙那の実力なら格闘の試合であれば、この競技者の中で沙那の相手になるのは、孫空女くらいだ。
だから、大きな恥はかかなくて済みそうだ。
それは安心した。
「なお、決勝進出四名の選出の要領について説明します。明日の決勝は、準決勝と決勝戦の二回戦となります。準決勝には、総合得点の上位三名が進出します。そして、その競技の上位ひとりが、決勝戦に出場します。また、この第三競技の優勝者は、自動的に決勝戦の出場が決まります。すなわち、最終の決勝戦の出場者の二名は、第三競技の格闘試合の優勝者と、第三競技後に行われる準決勝の三名による勝者ということです。なお、格闘優勝者と総合得点勝者が重なる場合は、総合四位が繰り上がりとなります」
司会が言った。
つまりは、次の競技である全裸格闘で優勝すれば、次の破廉恥競技は免除されて、最終決勝だけ戦えばいいということだ。
まあ、それも魅力的だが、やはり、ここで負けるのが一番の選択であることは間違いない。
「……なお、決勝進出を果たせなかった奴隷については、明日に行われる本祭典の閉幕式まで、道術で石像化して会場のあちこちに“生きた人形”として飾られます。そちらの方も、みなさん愉しみにしてください。ここにいる女奴隷たちが触り放題となりますよ」
場内がわっとなった。
沙那は呆気にとられた。
“生き人形”とはなんだ?
道術で石像化?
沙那は当惑した。
「それでは、女奴隷たちに第三競技の準備をさせます」
司会が言うと、演台に横向きに整列している沙那たちの前に、ひとりずつ男が現れた。手に黒い縄を持っている。
沙那は嫌な予感がした。
「さ、沙那、あれ……」
孫空女が息を飲んだ音が聞こえた。
沙那もその黒い縄がなんであるのかわかった。
おそらく、間違いないと思う。
宝玄仙に何度も使われたことがあるから知っているのだ。
「いま、女奴隷たちに施しているのは、痒み縄です。痒み縄には三つの縄瘤があり、それは試合開始まで女奴隷たちの股間に強い疼きと掻痒感を与え続けます。もちろん、魔縄でもありますので、これを締められれば女奴隷には外すことはもちろん、緩めることもできません」
司会が得意気に言った。
場内は大歓声だ。
だが、沙那は歯噛みした。
横で孫空女も顔色を変えている。
あの痒み縄の恐ろしさは骨身に染みて知り尽くしている。
あれを締められれば、痒みが局部に襲いかかり、腰を悶えさせれば縄の汁がさらに沁みこみ、その結果、さらに大きな痒みに襲われるという悪循環に陥るのだ。
あれで何度泣いただろう……。
その沙那のところに係の男がやってきて、痒み縄を股に締めさせ始める。
回避する知恵も特にない。
沙那は、脚を開いて男に縄をかけさせた。
男は沙那の臍の上下に黒い縄を巻いて固く結び、結び縄のついた縄をぐっと沙那の股間に通した。
ふと、横を見ると、孫空女も赤い顔をして、男から股縄を締められている。
「ああっ」
唇を噛み締めていたのだが、つい声が洩れてしまった。
沙那は顔を赤面してしまった。目の前の男が股間の亀裂に通した結び玉を肛門に喰い込ませようと操作し始め、それで、甘い疼きを感じてしまい、思わず声を出したのだ。
「ふっ、出場者の中で一番に感じやすいお前だ。大変だろうが、このまま勝ち残って、準決勝に残れるように頑張りな。さもないと、大変なことになるからな」
男がそう言いながら、沙那の双臀に縄を深く喰い込ませて、縄をたくしあげる。
そして、沙那の腰の後ろ側の腰縄に繋ぎとめた。
確かめるまでもなく、指一本入らないほど喰い込まされたのがわかる。
「た、大変なことってなによ?」
沙那は訊ねた。
「さっき、司会が決勝に進めなかった奴隷は、身体を石化して人形にして会場のあちこちに置くと言ったろう? それは、この痒み縄をしたままされるのさ。石化すれば、そのあいだは瞬きひとつできないんだが、触感はそのままだ。だから、のたうつような痒みが襲い続ける。しかし、ぴくりとも動けないんだ。それはつらいぞ」
男は笑ってそう言うと、沙那の股間への縄の食い込みを確めてから去っていった。
「そ、孫女……?」
「き、聞いた……。素蛾には悪いけど、あたしは決勝に残るように頑張るよ」
孫空女は顔を引きつらせながら言った。
沙那も同じ思いだ。
しかし、素蛾をどうしよう……。
競技が格闘なら素蛾に勝目はまずない。
あれだけ張り切っていたから、この途中順位と次の競技内容は素蛾には打撃を与えただろう。
そして、日没まで競技者も解散となった。
集合場所や集合時間は示されなかった。この庭園のどこにいても、道術が各競技者を探知して、道術で試合場に強制移動すると伝えられた。
「みんな──」
解散になると、主賓席を離れて宝玄仙と朱姫がやってきた。
素っ裸の朱姫が手を振っている。
「ご、ご主人……さ……ま……くっ、うう……」
沙那は軽く手をあげ、そっちに向かおうとした。
だが、股間に喰い込む縄瘤が局部のあちこちをぐいと締めあげる。
沙那は小さく呻いて膝を折ってしまった。
「さ、沙那?」
「沙那様?」
孫空女と素蛾も赤い顔をしているが、立ち止まって沙那を心配そうに見る。
「だ、大丈夫よ……」
沙那は歯を喰い縛って疼きを堪えた。
そして、身体を起こすとともに、これからのことを考えた。
とにかく、可能な限り動かない方がいい……。
動けば痒みの汁が局部に染み込み、それだけ苦しくなる。
何度も宝玄仙にこれで苛められているから、それはわかっている。
沙那はできるだけ静かに前に進んだ。
孫空女もへっぴり腰で歩いている。
確かに、そっちの方が負担は少ないのだが、ちょっとみっともなくて、沙那は真似する気にはならない。
一方で、なぜか、素蛾は比較的まともそうだ。
「お前ら、よくやったよ。総合の一位と二位かい。そういえば、沙那は、陰核習字で小便を撒き散らしたそうじゃないかい? 見逃して残念だったよ。まあ、でも、それがよかったんだろうね。芸術点とやらは淫乱であるほど、点数が高いらしいからね」
宝玄仙と朱姫のところに辿り着くと、上機嫌の宝玄仙が声をかけてきた。
「えっ、そんなことしたの、沙那?」
孫空女が驚いたような声を発した。
「わ、悪いけど、あれは思い出したくないわ……」
沙那は言った。
宝玄仙は大笑いだ。
とにかく、宝玄仙は上機嫌のようだ。
「ご主人様、朱姫姉さん」
素蛾もやってきた。
沙那は素蛾に視線を送った。気落ちしていないかどうか、心配だったのだ。
「あれっ?」
しかし、その素蛾に目をやって、素蛾の様子よりも股間の股縄に視線がいってしまい、声をあげてしまった。
素蛾自身が気がついているかどうかわからないが、明らかに股縄が緩いのだ。
股縄の縄が見えないほど喰い込んでいる沙那と孫空女に比べれば、素蛾の股縄は少し喰い込んでいる程度であり、はっきりいって指くらい入りそうだ。
しかも、沙那と孫空女にはある縄瘤がない気がする。
なぜだろうかと思ったが、その思念は宝玄仙の言葉で遮られた。
「……素蛾も五位だね。競争じゃあ頑張ったけど、流石に姉さんたちの色気にはかなわなかったようだね」
宝玄仙が微笑みを浮かべながら言った。
「なんとか頑張って準決勝に残りたいです。でも、どうやって戦ったらいいか……」
素蛾が言った。
「そうだねえ……。でも、とにかく、たまたま素蛾の上位にいるふたりは、沙那と孫空女の一回戦の相手なんだ。それは姉さんたちがやっつけてくれるよ。だから、せめて一回戦は勝つんだ。それで残る芽も出てくる」
宝玄仙が言った。
「えっ、そうなの?」
沙那は上空に掲示されたままの試合の組み合わせに目をやった。
言われてみれば、その通りだ。
沙那と孫空女が勝てば、その二人の点は延びないから、素蛾の逆転が見えてくる。
「お願いです、孫様、沙那様。わたくしに格闘を教えていただけないでしょうか? わたくし、頑張りたいんです」
素蛾が言った。
沙那は素蛾の前向きな心根に感心するとともに、正直呆れた。
沙那にはこの品評会に頑張りたい気持ちが、ほんのひと欠片も出てこない。
「そうだね。じゃあ、孫空女が素蛾になにか教えてやりな。とにかく、格闘ならお前が一番強いだろう。素蛾でも勝てる必殺技を伝授しな」
宝玄仙が孫空女に言った。
「えっ? あ、あたしが? 必殺技とか言われても……」
「つべこべ、言うんじゃないよ。さっさと、素蛾に教えるんだよ。さもないと、お前を折檻するよ」
「さ、そんなあ……」
孫空女は困惑しているようだ。
「どうかよろしくお願いします、孫様」
素蛾が深々と頭を下げた。
「はあ……。教えると言われても……。とにかく、あたしの場合は、ぱっと相手が来たら、さっとかわして……」
孫空女が無理矢理に素蛾に格闘術を教授しろと言われて、仕方なくなにかを説明し始めている。
素蛾は爛々と目を輝かせている。やる気は満々だ。
「……さ、沙那姉さん……」
そのとき、朱姫が沙那に近寄ってきた。
「ありがとうございます。助かりました……」
朱姫がささやいた。
「なにがありがとうなの? ああ、そういえば、あんた、どうしたのよ……。豚の真似は終わったの?」
沙那も小さな声で言った。
競技のあいだ、朱姫が宝玄仙に鼻輪を付けられて、四つん這いで豚の鳴き真似を強要されていたのを沙那は見たのだ。
だが、いまはそれは許されているようだ。
「感謝は、まさにそのことです……。皆さんがよい成績をとったので、ご主人様の機嫌がよくなって許されたんです。本当に感謝しています」
朱姫が言った。
沙那は苦笑した。
「……なに言ってんだよ、孫空女。ちゃんと教えてやりな、お前。そんなんで素蛾がわかるわけないだろう。わたしも、ちんぷんかんぷんだよ。そのぱっとか、さっとか、ぐいとか言われてもわかるかい。素蛾の顔を見な。困ってるじゃないかい」
すると、宝玄仙が横で孫空女に怒鳴ったのが聞こえた。
「い、いえ、孫様は別に……。わ、わたくしがとろいのです」
素蛾が慌てて口を挟んでいる。
沙那は吹き出した。
孫空女は身体能力が高く、技ではなく本能で動く部類の戦士だ。
それを他人に教えろと言われてもうまくできないのだろう。
「素蛾、わたしが簡単な間接技を教えるわ」
沙那は横から言った。
「ああ、そうだね。考えてみれば、沙那はかつて、千人隊長として、兵に武術を教えていたんだったよね。よく考えれば、お前が適任だ。沙那が教えてやりな。孫空女、お前は失格だ」
宝玄仙が怒鳴った。
「よ、よかったよ……。じゃあ、沙那、頼むよ。あたしじゃ、なにを教えていいかわからないよ」
孫空女がほっとした表情で肩を竦めた。
「い、いえ、わたくしがあまりにも素養がないからです。すみませんでした、孫様……。それから、沙那様、よろしくお願いします。わたくし、なんとかして勝ちたくて」
素蛾が深々とお辞儀をした。
その表情は真剣だ。
だが、なんとなく沙那は不思議に思った。
素蛾の態度が自然だからだ。
……というのは、そろそろ股間の縄が本領を発揮し始め、沙那はさっきから内腿を擦るようにもじつかせているのだ。
沙那の股間に喰い込んだ縄は、早くも沙那に苦悶を与え出している。
孫空女も我慢しているようだが、身体を小刻みに震わせて、脂汗をかきだしている。
もちろん、沙那もだ。
だが、素蛾はそんな様子はない。
素蛾は痒くないのだろうか?
素蛾は恐ろしく我慢強いが、痒みには弱いはずなのだ。
「ところで、素蛾、あんた、痒くないの?」
沙那は思わず訊ねた。
「えっ? か、痒み……ですか? ちょっと、縄が喰い込んで気になりますけど、痒いというほどでは……」
素蛾が言った。
「えっ?」
孫空女も驚いた声を発した。
「そんなこと、どうでもいいだろう、沙那。時間もないんだ。早くしな」
宝玄仙が口を挟んだ。
「あっ、はい……。で、でも、ご主人様、わたしには縄瘤をしたまま素蛾に格闘術を教えるのはつらいです。教授のあいだだけでも、ご主人様の道術で股縄の疼きと痒みを消すことはできませんか?」
沙那はふと思いついて言ってみた。
「仕方ないねえ……。あまり、狡いことはしたくないんだけどねえ……」
宝玄仙が道術をかける仕草をした。
沙那はほくそ笑んだ。
「あっ、沙那だけ、狡いよ」
すると、孫空女が叫んだ。
*
「ご指示のように手配をしました、殿下。素蛾殿の現段階の順位は五位です。準決勝にあがる枠からは、ぎりぎり外れているという位置です」
上官は劉和に報告した。
あの五人が秘密をばらすことはないが、どういう手段で情報が漏れるかわからない。
「わかった。とりあえず、それでいい。とにかく、理由をつけて、準決勝の要員からは外せ。かといって、ほかの敗退奴隷とともに、石化して晒すということもできんぞ。なにしろ、隣国とはいえ、一国の王女なのだからな」
劉和が言った。
「その辺りはうまくやります。お任せください、殿下。しかし、私にはまだ信じられません。私の主催している奴隷品評会に出場している性奴隷が、実は天神国の王女などとは……」
上官が王太子の劉和から、品評会に参加している素蛾という最年少奴隷は、隣国の王女だと教えられたのは、第二競技の終了直前のことだった。
それで、本当は全体の二位の点数を取っていた素蛾をとりあえず五位まで落としたのだ。
素蛾の扱いをどうするかは決まっていないが、その位置であれば、勝ち残すことも、負けて敗退させることもできる。
国都から劉和が呼び寄せている魔道師軍の状況に応じて、これから臨機の対応をとることになるだろう。
「余も信じられんよ、上官……。しかし、確かだ。道術通信で天神国に問い合わせた……。その回答によれば、素蛾公主は少し前に、旅の女の道術遣いに誘拐されて行方不明なのだそうだ。王女の安全を考えて、極秘にしていたらしいが、天神国の特別任務隊が捜索を続けていたようだ。報せを受けて、その任務隊はこっちに向かっているが、到着できるのは少し後のことになる。だから、その前に、我らが王女の身柄と誘拐犯である宝玄仙を押さえねばならん」
劉和は深刻な顔で言った。
「そのことなのですが……。でしたら、すぐにでも、身柄を押さえてはどうでしょうか? 私の軍は、すでにひそかに、この庭園の全周を包囲しております。指示さえあればすぐにでも動けます」
「いや、それはいかん。まだ、動くな。それだけではなく、絶対に宝玄仙に悟られてはならん。天神国からの情報によれば、素蛾公主をさらって奴隷扱いしている連中は、一筋縄ではいかん連中らしい。特に、女主人の宝玄仙の道術はすさまじいそうだ」
「確かに……。伯母の虞美を相手にもさせないような道術の遣い手でした」
上官は思い出していった。
「おそらく、国都から呼んでいる魔道師隊の力がなければ、簡単に逃げてしまうだろう。とにかく、明日中には魔道隊が来る。そうすれば、宝玄仙の道術を無効にする態勢が取れるのだ。それまでは、素知らぬ顔で、そのままにさせておく……。素蛾公主の扱いについても、あくまでも、競技者として競技に出させておけ。それが一番いい。そして、魔道師隊が到着次第、一網打尽に連中を捕らえるのだ」
劉和が真剣な表情で言った。
「わかりました。ご沙汰をお待ちします」
上官は頭を下げた。
それにしても、まさか奴隷品評会に隣国の王女が性奴隷として加わっていたなど、いまでも信じられない。
誘拐犯だという宝玄仙にしても、愉しくて、素晴らしい友人のように感じ始めていただけに、裏切られたような気持ちだ。
いずれにしても、可哀想な素蛾王女をなんとしても保護してあげようと上官は思った。
そして、一国の王女を誘拐し、あまつさえ、性奴隷扱いして辱しめている連中など、それ相応の酬いを与えてやろうと決心した。
上官は、自分の心に宝玄仙に対する怒りがふつふつと沸き起こるのを感じていた。
(第103話『奴隷品評会・第二回戦』、第104話『奴隷品評会・第三回戦』に続く)