※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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698 臨時演目・魔女冒涜

「さて、皆さん──。第三競技の決勝の最中ですが、予定を変更して特別の見世物を皆さんに公開したいと思います──。我が国の友好国である天神国に手配されている極悪人の宝玄仙の公開凌辱の見世物です──」

 

 地上側から上官の声がした。

 同時に沙那たちがいる試合場を見おろす縁に、ずらりと弓隊が並んだ。

 全員が弦を引いて、こちらに矢を向けている。

 

「な、なにさ、これ? なにがあったの?」

 

 素裸の孫空女が茫然としている。

 

「天神国がどうのこうのと言っているから、多分、素蛾のことがばれたんだと思うわ」

 

 沙那は舌打ちした。

 だから、こんな祭典に参加することなど反対だったのだ。

 まあ、いまさらそんなことを言っても仕方はないが……。

 

 どの時点かわからないが、素蛾の素性が発覚したのだろう。

 それで、上官が態度を翻し、素蛾の保護とともに、隣国の王女誘拐の「犯人」である宝玄仙を捕縛することになったということに間違いない。

 上側でなにが起きているかわからないが、宝玄仙が即座に反撃しないところを見ると、捕縛隊の中には道術を封じる一隊もいるのかもしれない。

 とにかく、あがらなくては……。

 

 しかし、とてもじゃないが、このつるつるの壁はなにもなしにあがっていくことはできない。

 それに、少しでも抵抗の素振りを見せれば、逃げ場のない競技場に無数の矢が降り注ぐだろう。

 

「孫女、『如意棒』は……?」

 

 沙那はささやいた。

 

「あるよ……。すでに手の中だよ。伸ばせば、なんとか縁までは辿り着けるとは思うけどね……」

 

「わかった。でも、まだいいわ」

 

 沙那は孫空女のところに寄っていって、背中合わせになって裸の背中とお尻を密着させた。

 この潤滑油の流れる深い壁は駆けあがるのは無理だが、孫空女の『如意棒』を使えばあげることはできると思う。

 しかし、この状況では、縁に辿り着くまでに沙那と孫空女が矢で串刺しになってしまうのは間違いない。

 飛んでくる矢をかわすために、なにひとつ持っていない素っ裸だ。

 孫空女の『如意棒』で縁まであがるあいだ、まったくの無防備になる。

 

 おそらく、上官は、沙那と孫空女がふたり揃って、この深い競技場に入ることになる決勝戦を待っていたのだと思う。

 そして、決勝になり、沙那たちが宝玄仙を助けられない状態になったので、宝玄仙の捕縛に着手したのだろう。

 

「……素蛾はあたしらの決勝が始まる直前に、どこかに連れて行かれたよ……。朱姫がこっそり追いかけていくのが見えた」

 

 孫空女が小さな声で言った。

 沙那は準決勝に引き続き、決勝を戦うことになったので、準決勝後の上の状況は見ていない。

 どうやら、やはり、素蛾についても、上官は保護し終わったようだ。

 沙那は小さく了解の返事をした。

 とにかく、反撃の機会を待つしかない。いまはなにもできない。

 

 宝玄仙を公開輪姦するとか言っていたので、即座に殺されることだけはないはずだ。

 とにかく、今回は宝玄仙の用心の無さが招いた危機だ。多少は痛い目に遭ってもらうのもいい。

 孫空女の言葉の通りなら、朱姫は自由に動いているようだ。

 あの娘がなんとかするだろう。

 

「……このまま様子を見ましょう」

 

 沙那は言った。

 

「わかったよ、沙那……。だけど、『如意棒』を伸ばすときには合図して……。いつでもいけるから……」

 

 沙那は孫空女の言葉にうなずいた。

 そのとき、上からふたつの短い鎖のついた枷が投げ落とされた。

 

「拾え、女奴隷──。いまのように、背中合わせに向き合ったままお互いの足首を枷で繋げ。もうひとつは手首だ。それぞれの右手首を繋ぐんだ。抵抗するな──。抵抗すれば、この場で刺殺する──」

 

 縁から弓隊の隊長らしき男が怒鳴った。

 沙那は、いったん孫空女から離れて、床まで落ちた枷を潤滑油の池から拾った。

 

「抵抗しないわ──。あの女主人はひどい女なのよ。わたしたちを捕らえて無理矢理に奴隷にしたのよ。そして、強引に性奴隷にされているの。あの女を捕らえたら、わたしたちを解放してよ──」

 

 沙那は縁に向かって怒鳴った。

 

「わかった──。悪いようにはせん──。とにかく、言われたとおりにしろ」

 

 隊長が怒鳴り返してきた。

 沙那は孫空女とまた背中合わせになると、まずは沙那の右足首と孫空女の右足首を繋ぎ、もうひとつの枷で指示のとおりに、それぞれの右手首を繋いだ。

 

「ねえ、いまの話さあ……」

 

 孫空女が笑いを堪えるような物言いでささやいた。

 

「なに、孫女?」

 

「本当に、言葉の通りなんだから、面白いよね。あたしら、みんな無理矢理に供にされたんだよね」

 

 沙那と片足と片手を繋いだ孫空女が、おかしそうに言った。

 

「確かにそうね……。そういう意味では、素蛾は本当に貴重な存在ね。ご主人様の供になればとうなるのか十分にわかっていて、それで強引に志願したんだものね。変わっているということでは、突き抜けているわよね」

 

 沙那も思わず、笑ってしまった。

 

 

 *

 

 

「うわっ」

 

 宝玄仙が事態を把握しようと考えているうちに、右足首がゆっくりと上昇し始めた。

 あっという間に頭まで右足首があがり、宝玄仙はひっくり返った身体を支えるために、両手を地面につけなければならなかった。

 

「い、いやっ──。や、やめないか──」

 

 さらに右脚があがり、宝玄仙は本能的に片手でまくれてくる下袍を押さえた。

 だが、完全に身体が逆さまになってくるに従って、二本の脚の膝、内腿と露わになっていく。

 さらに右脚があがり、宝玄仙の身体が宙に浮く。宝玄仙は落ちてくる下袍を支えるために、手を完全に地面から離して、膝のところで両手で押さえた。

 宝玄仙が両手を地面から離して、逆さ吊りの状態になると、やっと右脚の上昇がとまった。

 

 宝玄仙は左脚を右脚にぴったりつけ、両手はしっかりと下袍の裾を押さえるために、やや状態を折り曲げた態勢になった。

 両手を下におろせば、なんとか身体を支えられるくらいの高さだが、そんなことをすれば下袍が完全にめくれてしまう。

 とりあえず、宝玄仙はしっかりと膝で下袍の裾を集めて、両手で押さえたままでいた。

 

「くっ」

 

 だが、途端に腹筋と股関節が痛くなってくる。

 力のない宝玄仙にこの姿勢で長く耐えるのは無理だ。

 道術で身体を引きあげている右足首の輪っかを破壊しようと思う欲求が起きるが、そんなことをしてもあの恐ろしい電撃が全身に注ぎ込むだけだろう。

 しかし、このままでは、力尽きて醜態を晒すことになる。

 

 とにかく宝玄仙は、懸命に苦痛に逆らって、つらい体勢を保ち続けろうと努力した。

 宝玄仙が耐えているのは、大勢の観客の前で上官に屈服した姿を見せたくないという一心だ。

 しかし、それも長くは続かない。

 まず、上体をだらりと下げた。

 そのために、下袍を膝でかき合わせていた両手が緩んで、下袍を股間で押さえるだけになる。

 

「おおお──」

 

 宝玄仙の醜態を見ている観客たちの愉しそうな声があがった。

 さっきまで真下の競技場を捕えていた大きな光球は、いまでは場所を移動して宝玄仙を明るく照らしている。

 また、上方の空には逆さまになっている宝玄仙の下着に包まれた股が背中側から大写しになったものが投影されていた。

 宝玄仙は自分の後ろに、虫のように羽根のついた球体が宙に浮かんでいることに気がついた。

 それが宝玄仙の痴部を映そうとしているようだ。

 

「い、いい加減にしないか、上官──。こ、こんなことして、ただでおかないよ──」

 

 宝玄仙は喚いた。

 しかし、それは宝玄仙にとっては、最後の力のようなものだった。

 大声を出すのはかなりつらかった。

 なにしろ、いまの態勢を維持することさえ、歯を食いしばって力を込めなければならないのだ。

 苦痛に身体が痙攣のような震えを示しだす。

 

「どう許さんのだ、宝玄仙? お前はわしの霊具で道術を封じられ、道術師隊の一個小隊に捕捉されておるのだぞ?」

 

 そのとき、真っ黒い軍装をした老人が宝玄仙に近づいてきた。

 ぎょっとした。

 老人は小さな刃物を持っていたからだ。

 それを宝玄仙の身体に近づけた。

 

「い、いやあ──やめて──」

 

 宝玄仙は身体をすくめて、悲鳴をあげた。

 だが、刃物は宝玄仙の腰の下着の裾の端を切断しただけだった。

 しっかりと閉じ合せた宝玄仙の股間から下着の切れ端が抜き取られる。

 見物人が一斉に野次と拍手を飛ばす。

 

「ほら、宝玄仙、尻を隠さんのか? 尻を隠さんと、見物人に尻穴を見られるぞ──。虫よ、これじゃ。この尻穴を大写しにしろ。尻の皺が数えられるくらいまで大写しにするのだ」

 

 その老人が宝玄仙の尻たぶに手を伸ばしてぐいと拡げた。

 

「いいぞ──おおおお──」

 

 観客たちが大喜びになった。

 老人が“虫”呼んだ羽根の生えた霊具が、宝玄仙の剥き出しになった尻穴を空に大写しにしたのだ。

 

「いやっ」

 

 宝玄仙は慌てて、片手を後ろに回して、老人の手を払いのけて肛門を隠すような動きをした。

 そのために、再び身体を少し起こさなければならず、宝玄仙の腹筋に痛みが走った。

 

「ほう、頑張るではないか? だが、いつまで持つかのう? まあ、せいぜい、頑張ることだな。みっともなく股を開けば、そのときには、恐ろしい凌辱が待っておるぞ」

 

 老人が手を振った。

 すると、宝玄仙が顔を向けている側に大きな檻が出現した。

 

「ゴルルルルル──」

「ガグググググ──」

「フガアアアア──」

 

 宝玄仙はびっくりした。

 檻の中に入っているのは、雄の大猿だ。

 身の丈は通常の人間の二倍はあり、身体は黒い毛で覆われている。

 獣というよりは怪物だ。

 知性の欠片もない三匹の雄の怪物が、宝玄仙を見て、狂ったように吠えて檻の中で暴れ始めた。

 しかも、その股間には、宝玄仙の太股のような太さの怒張がそそり立っている。

 宝玄仙はその醜悪な姿に接して、恐怖に包まれた。

 

「さあ、観客の皆さん──。この生き物は、人間族の女を犯すために、特別に調教させた怪物です。宝玄仙の股が力を失ったら、檻を開けて、この三匹をけしかけたいと思います。あの宝玄仙という手配犯の美女が、醜悪な大猿に犯されて壊されるのをこれからお愉しみ頂きたいと思います。これが今夜の特別演目です」

 

 上官の言葉が、霊具で拡声されて、全観客たちに伝えられた。

 見物人が大歓声をあげる。

 しかし、宝玄仙は震えあがった。

 あんな巨根に犯されれば、さすがの宝玄仙の身体も壊れてしまうだろう。

 だが、あの怪物たちは、どうやら、知性を破壊されたうえに、極端に性欲を増大させている気配だ。

 あれをけしかけたら、あの三匹は、おそらく宝玄仙の息がとまっても、狂ったように宝玄仙を犯し続けるだろう。

 そういう風に躾けられた生物なのだと思う。

 

「さあ、すっかりと舞台はできあがったぞ、宝玄仙──。後は、お前が力尽きて、股ぐらを晒すのを待つだけだ」

 

 老人が喉の奥で笑った。

 

「お、お前……、お前の名は……名はなんだい……?」

 

 宝玄仙は呻くように言った。

 このままでは、宝玄仙は片脚だけにかかる体重の苦しさに耐えかねて、両手を離さなければならない。

 もうすでに宝玄仙の力は限界に達しようとしていた。

 せめて、こうやって宝玄仙を辱しめている者の名を心に刻んでおこうと思った。

 

「おう、わしか? わしは黄天楼(おうてんろう)だ。この国の道術師隊の隊長だ」

 

 黄天楼が嘲笑いながら言った。

 

「お、覚えておくからね──」

 

 宝玄仙は叫んだ。

 そして、両手を下袍から離して地面につけた。

 それにより、少しでも左足にかかる痛みをやわらげるしかなかったのだ。

 宝玄仙は逆立ちの態勢になった。

 同時に下着をつけていない股間から下袍が垂れ落ちて、胸元に垂れた。

 

「ほう、陰毛を全部剃っておるのか? それとも、生まれつきか?」

 

 黄天楼が宝玄仙の股間の前側に回り込みながら、亀裂に軽く指を這わしながら笑った。

 “虫”も移動してきて、宝玄仙の無毛の股間を上に大写しにする。

 

「や、やめないか……。ち、畜生……。こ、こんなの許さないよ──」

 

 宝玄仙は引きつった声で叫んだ。

 もう限界だ……。

 

 宝玄仙の意思とは関係なく、ついに引きあげられている片足に密着させていた左脚がさがりだした。

 

「おうおう、ついに股ぐらを開くか? だが、いいのか? 股を開けば、あの三匹の檻を開けるぞ」

 

 黄天楼が笑った。

 はっとした宝玄仙は、歯を食いしばって、さがりかけていた左脚を戻した。

 すでに筋肉の限界は超えている。

 それを支えているのは、宝玄仙の高い自尊心と激しい怒りだ。

 

「そうそう。そうでなければ、面白くないからな。では、宝玄仙、退屈しのぎに、排尿の指令をお前の身体に送りこんでやろう。耐えられずに排尿をしてしまえば、自動的に今度は、排便の指令が身体に加わる。そして、お前の全身が糞まみれになれば凌辱開始だ。それが嫌ならできるだけ我慢するんだな」

 

 黄天楼の言葉が会場中に伝えられた。

 すると、見物人が一斉に笑った。

 

「お、黄天楼──。き、貴様──」

 

 宝玄仙は歯噛みして、黄天楼を下から睨んだ。

 それと同時に、再び宝玄仙の左脚がさがりだした。

 ついに、宝玄仙の左脚は垂れさがり、完全に宝玄仙の股は大きく開脚した上体になった。

 もう、どんなに気力を振り絞っても、宝玄仙の左脚はあがることはなかった。

 そして、身体に黄天楼の霊気が注ぎ込まれるのがわかった。

 猛烈な尿意が宝玄仙に襲いかかってきた。

 

 

 *

 

 

「あ、あの……。どういうことなのでしょうか……? これも、罰の一環なのですか?」

 

 素蛾は何度目かの同じ質問を女奴隷たちにした。

 だが、五人の奴隷はそれを無言の微笑みで返してきた。

 何度か繰り返したやり取りだ。

 

 第三競技で敗退した素蛾が連れてこられたのは、上官太守の屋敷の中の客間の一室のようだった。

 そして、裸でこの部屋に入れられた素蛾のところに、すぐにこの五人の女奴隷がやってきて、素蛾の身体の手入れを始めたのだ。

 素蛾はその女奴隷に見覚えがあった。

 品評会の予選のときにいた美しい女奴隷だ。

 誰かが、彼女たちは上官太守の奴隷だと話していたのを思い出した。

 この五人は予選で敗退したが、美しさでは群を抜いていた。

 だから、素蛾も覚えていた。

 

 その女たちが、まるで素蛾が女主人であるかのように、かしずいて身体の手入れをし、そして、素蛾に服を身に着けさせていく。

 素蛾はされるがままになりつつも、当惑して何度も、どうしてこんなことをするのかと女奴隷たちに質問した。

 しかし、この女奴隷たちは、素蛾と話をするのを禁止されているのか、にこにこと笑うだけで素蛾に口を開こうとしない。

 

 そのうちに、素蛾はすっかりと服装を整えさせられた。

 女たちが素蛾に深々と一礼をして、部屋を出て行く。

 素蛾は呆気にとられた。

 

 女たちと入れ替わるように、扉を叩く音がした。

 素蛾が返事をすると、身なりのいい男性が入ってきた。

 

「久しぶりだね、素蛾公主」

 

 男がにこやかに笑った。

 一瞬、男が誰なのかわからなかったが、すぐにこの鳳仙(ほうせん)国の王太子である劉和(りゅうわ)だということを思い出した。

 数箇月前、まだ、素蛾が天神国の王室にいたとき、素蛾は天神国の宮殿の庭園で、式典参加のために訪問していた劉和に出会ったことがある。

 

「こ、これは、ご機嫌麗しゅうございます、殿下」

 

 素蛾は慌てて腰を屈め、淑女の礼をした。

 

「素蛾殿も……と言いたいが、あなたも大変でしたね……。とにかく、詳しい話はのちほどさせていただきたいと思います。まだ、あなたをさらった凶悪犯を仕置きをしている最中ですからね。とにかく、もう、大丈夫だということを伝えに来たのですよ」

 

「えっ、凶悪犯?」

 

「ええ。すでに、天神国にはあなたを発見したことを伝えてあります。数日もすれば、迎えの一隊が到着するはずです」

 

「迎えの隊ですか?」

 

 素蛾はびっくりしてしまった。

 

「もう心配することは、なにもありません、公主。それにしても、私が偶然にもここに来ていたからよかったが、上官ではあなたの顔はわからなかったのですよ。あなたも言わなかったし、いくら脅迫されていたとはいえ、黙っておられては、あなたが素蛾公主であることに気がつかなかったのは当然です。あなたを間違って奴隷品評会に出場させてしまったのは、我が国の落ち度ではありませんからね」

 

 劉和は言った。

 素派がなにを言われたのかさっぱりと理解できなかった。

 

 そもそも、どうして眼の前にこの国の王太子が──?

 一体全体、なにが起きているのだろう?

 

「あ、あの、これはどういうことでしょうか……? わ、わたくしは、奴隷品評会に優勝したくて戦っていたのです。そ、それに、わたくしは、もう、天神国の公主ではありません。宝玄仙というお方の性奴隷になったのです」

 

 素蛾はきっぱりと言った。

 すると、劉和が顔を曇らせた。

 

「可哀想に……。調教されて、すっかりと洗脳を受けたのですね。それも、心配はありません。天神国には道術師は少ないですが、逆に鳳仙国は道術の国とも称されています。あなたがかけられた洗脳の道術はきっと打ち払ってさしあげますから」

 

 劉和が言った。

 素蛾は戸惑った。

 どういう事態になったのかわからないが、劉和になにか大きな勘違いをされているということはわかってきたからだ。

 

 そして、はっとした。

 そういえば、凶悪犯がどうのと言ってはいなかっただろうか……?

 まさかとは思うが、それは宝玄仙のことを話しているということではないのか?

 

「あ、あの、ご主人様は……、いえ、宝玄仙様はどうしたのでしょうか? とにかく、会わせてもらえませんか? わたくしのご主人様なんです」

 

 素蛾は言った。

 だが、劉和は険しい顔になった。

 

「宝玄仙は、我が国の道術師隊が捕縛をしました。いまは、上官に預けて、祭典の余興として仕置きをさせています。だが、いずれは、天神国の公主を誘拐するなどという罪に相応しい罰を受けることになるでしょう」

 

「お、お待ちください──。わたくしは誘拐などされておりません──」

 

「わかりました。とにかく、天神国で処断をするのか、それとも、我が国で処断するかは、これから協議して決めると思います。いずれにしても、もう、あなたが気にすることではない。もう、宝玄仙たちと二度と遭うこともありません。あなたは解放されたのですよ」

 

 素蛾は驚愕した。

 

「宝玄仙様はわたくしのご主人様なのです。も、もしかして、酷いことをしようとしているなら、やめさせてください──。わ、わたくしの大切な方なのです」

 

 素蛾は声をあげた。

 しかし、劉和は悲しそうに首をすくめただけだった。

 まるで、話を聞く様子がない。

 そして、無言で部屋を出て行こうとした。

 

「ま、待って、殿下──。話せばわかります──。殿下の勘違いなのです」

 

 素蛾は劉和に駆け寄ろうと追いかけた。

 だが、外に待機をしていたらしい衛兵が数名さっと入ってきて、素蛾の身体を引きとめた。

 

「隣国の王女だ。扱いは丁重にな──。それと、王女は、まだ、道術による洗脳状態だ。逃亡しようとされるかもしれん。決して部屋から出すな」

 

 劉和が衛兵に言った。

 

「で、殿下、わたくしは洗脳などはされておりません──。それよりも、ご主人様に手を出さないでください──。わ、わたくし……わたくし……怒りますよ──」

 

 素蛾は叫んだ。

 怒るということをしたことがないので、どういう態度をとればいいのかよくわからないのだが、このままでは大変なことになる。それだけはわかる。

 そのとき、部屋の外から大きな喧噪が聞こえてきた。

 素蛾はそっちに意識を移した。

 劉和もいぶかしげな視線を廊下に向けた。

 すると、ひとりの衛兵が転がるように入ってきた。

 

「何事だ?」

 

 劉和が怒鳴った。

 

「は、裸の少女が──」

 

 衛兵は切羽詰った表情で叫んだが、次の瞬間、その衛兵の首の襟に黒い手の影がふたつ浮かんだ。

 

「ぐえっ──」

 

 その衛兵が苦しそうな顔をして倒れ、廊下側に不思議な力で引き摺り出された。

 入れ替わるようにして入ってきたのは、素っ裸の朱姫だった。

 背中に六個の葛籠を背負子で担いでいる。

 

「お前は誰だ──?」

 

 劉和が怒鳴った。

 しかし、朱姫はそれを無視して、素蛾を一瞥して眼を細めた。

 

「素蛾、調教中の奴隷のくせに、許可なく服を着るなんていい度胸ね。あとで折檻よ」

 

 朱姫が悪戯っぽく微笑んだ。

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