「素蛾、調教中の奴隷のくせに、許可なく服を着るなんていい度胸ね。あとで折檻よ」
朱姫は言った。
「は、はい──。申し訳ありません、朱姫姉さん」
素蛾が弾かれるように、慌てて服を脱ぎ始めた。
嬉しそうにどんどんを服を脱いでいく素蛾を微笑ましい気持ちで朱姫は見ていた。
そのまま、つかつかと素蛾に寄っていく。
「ひ、姫、なにをしているのだ。やめよ──。衛兵、とめよ──。い、いや、それよりも、この奴隷娘を捕えよ──。なにをしておる──」
素蛾と一緒にいた男が怒鳴った。素蛾が“殿下”と呼んだ男だ。
身なりもいいし、それなりの人物なのだろう。
ふたりの衛兵が飛びかかってきた。朱姫は『影手』を衛兵の軍装にとばした。
ここの兵たちが身につけている軍装や具足には、大なり小なり全部に霊気が込められている。
だから、道術を意図も容易くかけることができる。
これが霊気とは関係のない兵だったら、そうは簡単にはいかない。
まずは、厚い結界を形成して、霊気の吹き溜まりを作らなければ、霊気を帯びないただの人間には道術はかけられないのだ。
「うわっ」
「がっ」
朱姫の影手に足首を掴まれた衛兵が床にひっくり返った。朱姫は、そのまま、道術で足首を引きずって、衛兵を部屋の外に出す。
さらに、この部屋を結界で覆ってしまった。
これで、部屋には誰も入れない。
「お、お前も道術遣いなのか? 宝玄仙の奴隷ではなかったのか?」
ただひとり残った男が目を丸くしている。
朱姫が道術遣いであることは、上官には知られていたはずだが、この男は知らなかったようだ。
一方で、外の庭園の騒動はすでに朱姫は把握していた。
素蛾を追って、この屋敷にやってきたら、大きな騒ぎが聞こえてきて、上空に捕らわれた宝玄仙の姿が映し出されてびっくりしたのだ。
だから、一度忍び込みかけていた屋敷から庭園に戻った。
そして、宝玄仙の状況を確認するとともに、沙那と孫空女も、地上から見下ろす競技場から身動きできない状態であることを知った。
また、宝玄仙を捕えた理由が、素蛾の正体が発覚したためというのも、すぐにわかった。
だから、まずは素蛾の身柄を確保することを考えた。
とりあえず、魔道師隊の指揮をしていた老いた指揮官が宝玄仙への「公開輪姦」を始めたので、時間が稼げる状況だと思ったのだ。
それよりも、素蛾については、ぼやぼやしていると、どこかに連れていかれる可能性もある。
なにしろ、素蛾の身柄を確保するのが、この連中の目的なのだ。
それに、沙那と孫空女もまた、少しは大丈夫そうだった。
ふたりとも地の底の競技場で動けなくなっていたが、殺すつもりまではないようだ。
殺すつもりなら、すぐに殺しただろう。
殺すまでは及ばないと考えたから、競技をしていた沙那と孫空女が、全裸格闘の競技のために油の溜まった地の底のような競技場におりるのを待ったのだ。
だが、朱姫のことを眼中に入れなかったのは、こいつらの失敗だ。
もっとも、競技のあいだ、朱姫は宝玄仙によって、男たちに輪姦されたり、裸で連れまわされたり、鼻輪で杭に繋げられたりしていた。
だから、能力の高い道術遣いだとは少しも考えなかったに違いない。
この国では、奴隷の地位はおそろしく低い。
こんな遊びの駒として、性奴隷を使うくらいだ。
だからこそ、一度、奴隷と見定められた者はあまり意識に留めない。
沙那と孫空女が警戒されたのは、競技の中でふたりが高い戦闘能力を見せてしまったからに違いなく、そうでなければ、朱姫のように無視されたのではないかと思う。
とにかく、朱姫はすぐに動いた。
素蛾と、ついでに荷物を回収するために、屋敷に再び戻ったのだ。
「奴隷はこの素蛾よ。あたしの可愛い妹であり、性奴隷よ」
朱姫はうそぶいた。
そして、素蛾を見た。
素蛾は、もう最後の下着一枚を脱いだところだ。履物だけを足に履いた素っ裸になった。
朱姫は素蛾の額のサークレットを道術で外した。
このサークレットは、効果は低いが縛心効果がある。
上官太守やその部下に言葉に従うように心を操るのだ。
「朱姫姉さん、妹と言ってくれて嬉しいです。ありがとうございます」
素っ裸の素蛾が感激したように声をあげた。
ふと見ると、眼に涙まで浮かべている。
朱姫は思わず笑みが込みあがった。
「服を葛籠に入れなさい、素蛾……。それにしても、それは上等の服ねえ……。あたしが直して着ようかなあ……」
朱姫は荷を背からおろして言った。
小柄な朱姫でも素蛾の服は小さすぎるが、直せば着れないことはない。
「いい加減にせんか──? 性奴隷ふぜいが隣国の王女に馴れ馴れしく話しかけるでないわ──」
男がまた怒鳴った。
そして、道術をかける仕草をした。
だが、朱姫は警戒していたし、すでに手を打っていた。
この男が能力の高い道術遣いであることは、朱姫にはすぐにわかった。
だが、道術の腕なら朱姫がまさる。
それもわかっていた。
朱姫のことを道術遣いだと見抜けなかったのが、ふたりの実力の違いの証拠だ。
男が悲鳴をあげてその場に直立不動の姿勢になった。
朱姫はこの男の周りに道術を跳ね返す霊気の壁で覆っていたのだ。
しかし、男は、それに気がつかずに朱姫に攻撃道術を発してしまった。
つまり、男は自分の放った攻撃道術で自分自身を拘束してしまったということなのだ。
「これでも喰らって」
朱姫はその霊気を定着させる道術を放る。
同時に、男の霊気を身体から一気に発散させた。
男の顔が恐怖に包まれた。
「お、お前、何者だ……?」
男が茫然とした。
性奴隷としか思っていなかった女に道術で拘束され、簡単に道術を封じられたのが信じられないのだろう。
「あんたこそ、何者よ?」
朱姫は言った。
「こ、この方は、
葛籠に服をしまった素蛾がすかさず言った。
「へえ、王太子? こりゃあ、大物ねえ……。だったら、ちょうどいいわ。人質として、庭園に連れて行くわ。ご主人様と沙那姉さんたちを解放するように命令してもらいましょう」
朱姫は言った。
「そ、そんなことはせんぞ──。お前たちは、天神国の素蛾王女を誘拐し、あまつさえ、洗脳の道術をかけて操っている極悪人だ──。そんなことが許されると思うのか──。天罰が下るぞ──」
劉和という王太子が真っ赤な顔をして喚いた。
こんな状態になっても、気位は高い男のようだ。
朱姫はからかいたくなって、劉和の下袴に手を伸ばして、下着ごと足首まで一気におろしてやった。
いつもなら男に接するのは虫酸が走るが、いまは劉和という王太子を凝らしめてやりたいという気持ちがまさった。
こんな男に朱姫と素蛾の絆のなにがわかるというのだ?
そう思うと、腹がたった。
「う、うわっ──。な、なにをするか──」
劉和が喚いた。
しかし、直立不動の状態で手も足もまったく動かない状態なのだ。
顔をますます真っ赤にして暴れているが、股間に剥き出しにされた男根を隠せないでいる。
朱姫はその滑稽な姿にけらけらと笑った。
「で、殿下──?」
「だ、大丈夫ですか、殿下──」
「殿下──」
そのとき、部屋に衛兵たちが殺到してきた。
この部屋に辿り着くまでに、朱姫が『影手』の道術で拘束していた衛兵たちだ。
やっと道術が消えて動けるようになったのだろう。
全部で三十人はいるし、まだ、増えそうな気配だ。
だが、部屋の入口に朱姫が張っている結界に阻まれ、部屋には入って来れないでいる。
「しゅ、朱姫姉さん……。こ、この人は、この国の王太子様ですよ……。こ、こんなことをして大丈夫でしょうか……?」
素蛾がおそるおそるという感じで口を挟んできた。
「構いはしないわよ。どうせ、この国ではお尋ね者よ──。どうやら、こいつがご主人様を捕えさせようとした張本人らしいしね……。それよりも、こっちにいらっしゃい、素蛾──。お前は頑張ったものね。ご褒美をあげるわ」
朱姫は裸の素蛾を劉和の目の前に脚を拡げて立たせた。
そして、素蛾の後ろから、素蛾の股間と胸に手を伸ばした。
素蛾が短い声をあげた。
「はっ……しゅ、朱姫姉さん……ああっ……き、気持ちいいです……で、でも……ああ」
朱姫が素蛾の股間を愛撫し始めると、すぐに素蛾はよがりだした。
そして、うっとりとした表情になり、あっという間に股間を蜜で濡らしだす。
「ああ、朱姫姉さん……」
素蛾の身体から力が抜けていくのがわかった。
まだ、子供の身体だが、素蛾の性感はすっかりと開発されていて、その反応は大人の反応だ。
素蛾が身体を震わせて、鼻から喘ぎ声を出す仕草は、それなりのいやらしさだと思う。
その証拠に、素蛾が裸で悶える姿を目の前に魅せられている劉和は、股間の男根をむくむくと勃起させた。
「ほら、素蛾? 王太子殿下が、お前の欲情した姿を見て、こんなに前を大きくしたわよ。よかったわね。性奴隷らしく、お前がいやらしくなった証拠よ、素蛾」
朱姫は指で素蛾の肉芽や女陰を刺激しながら言った。
「や、やめろと言っておるだろうが、奴隷──。素蛾殿に触れるな」
劉和が怒っている。
しかし、口でそう言いながらも、しっかりと自分も素蛾が感じている姿に欲情はしているのだ。
それに、下半身を剥き出しにして性器を勃起して怒っても、その姿は滑稽で哀れなだけだ。
「そう言いながらも、下半身は感じてるじゃないの、王太子? もしかして、あんたは童女好き?」
朱姫はからかった。
「ふ、ふざけるな──。とにかく、やめんか。彼女は隣国の王女だぞ──。わかっておるのか──。お前たちのような身分の者は、口をきいてはならんような高貴な身分なのだぞ?」
「ふん、なによ──。わかっていないのは、あんたらよ──。あんたも、道術遣いだったら、素蛾の心が道術で縛っているかどうかわかるでしょう? 素蛾は心からこういうことが好きなのよ。あたしたちと一緒にいて嬉しいのよ──。だから、素蛾は、宮廷の暮らしなんて、つまらないものを捨てて、あたしらと旅をすることを選んだのよ。そもそも、素蛾には霊気はないわ。その素蛾にどうやって洗脳の道術をかけるのよ?」
朱姫は怒鳴った。
劉和の顔が怪訝な顔になった。
朱姫に言われたことで、素蛾の心に洗脳の道術などかかっていないことがわかったのだろう。
霊気のない存在に道術はかけられない。
道術学の第一原則だ。
ただ、朱姫は実際には、ある程度ならば『縛心術』をただの人間族にもかけられる。
しかし、それは黙っておく。
「し、しかし、まさか……?」
劉和は混乱してきたようだ。
「あ、ああ……はあっ、しゅ、朱姫姉さん……」
そのあいだも朱姫の手は素蛾の股間で動きつづけていた。
素蛾の喘ぎ声がいよいよ短くて激しいものになった。
身体の震えも大きくなる。
「もうすぐ、いくのね、素蛾……? そのままいくといいわ。この男に素蛾のいやらしいところを最後まで見てもらいましょうよ」
朱姫はくすくすと笑って、さらに素蛾の愛撫の手を速めた。
「はああ……しゅ、朱姫姉さん、嬉しい……嬉しいですけど……あ、ああっ……こ、こんなことをして……いいのですか……? そ、外でご主人様たちが……あああっ──」
素蛾が切羽詰った口調で叫んだ。
朱姫はっとして、素蛾を責める手を離した。
宝玄仙たちのことをすっかりと忘れていた。
素蛾の言うとおり、こんなことをしている場合ではない。
「そうだったわ。ごめんね、素蛾……。もうすぐ、いくところだったでしょう? 続きは後でね」
朱姫はとりあえず、荷を道術でこっちに寄せた。
「はあ、はあ、はあ……。は、はい……。た、愉しみにしてます、朱姫姉さん……。だ、だから、きっとですよ……。きっと、素蛾と遊んでくださいね」
素蛾がまだ荒い息をしながら言った。
朱姫はそんな素蛾を引き寄せ、荷と劉和とともに『移動術』で屋敷の庭園に跳躍した。