「出たぞ──」
「やったあ──」
「始まった──」
大きな歓声があがった。
宝玄仙の股間からは、噴水のように尿があがり、それがじょろじょろと垂れて、宝玄仙の身体を濡らした。
懸命に耐えていたが、ついに我慢の限界を越えて、宝玄仙は逆さ吊りの格好のまま、放尿をしてしまったのだ。
雨のように降り注ぐ、宝玄仙自身の尿が逆さまになっている宝玄仙の顎に滴り落ちてくる。
「尿意の次は、便意だぞ──。時間はいくらでもある。頑張って耐えた分だけ、お前が生き残れる時間が長くなるということだ。お前がその状態で糞まみれになったら、大猿どもの檻を解放する。お前が大便まみれであろうと、連中はちっとも気にせずに、お前の前の穴も後ろの穴も犯すだろうから心配するな。お前がすっかりと壊れてしまったら、逮捕のために連行してやる。それまでは、こいつらとの性交を愉しむがよいわ」
「うくうっ──」
その黄天楼の言葉のとおりに、尿がとまるとともに、強い便意が襲いかかってきた。
「お、お前、許さないよ……」
宝玄仙は歯を食いしばりながら言った。
道術の力で一気に暴発するようにされた便意だ。
恐ろしい強さで、肛門から大便が出ようとする。宝玄仙は必死の思いで、お尻を引き締めた。
「ああっ、くううっ……」
あまりの苦痛に宝玄仙の口から悲鳴がこぼれ出る。
すると、黄天楼が笑いながら宝玄仙に近づいてきた。
宝玄仙は黄天楼が持っている物を見てはっとした。
「お、お前、なにするんだい──? や、やめないか──」
黄天楼は鳥の羽根を手に持っていたのだ。それを宝玄仙の肛門に触れさせる。
「あがあっ、や、やめてえ──。こんなのないよ──」
宝玄仙は泣き叫んだ。
黄天楼はその姿を愉しむように、羽根でこちょこちょと宝玄仙のお尻の亀裂をくすぐってくる。
しかも、その様子が空に大きく映し出されているのだ。
宝玄仙の視線にも、押し寄せてくる排出物を宝玄仙の桃色の粘膜が懸命に耐えている姿が大写しで見えている。
「うう、お願い、やめて── も、もう厠ヘ行かせておくれ……」
ただでさえ、いまにも吹き出しそうになっているのに、さらに神経の頂点を刺激されて、宝玄仙は半狂乱だ。
もう、どうなるかわからない。
宝玄仙は歯を喰い縛り、身体全体を震わせながら、必死で肛門の筋肉を締めつけ続けた。
「早く、大便を出さんか、宝玄仙──。客が待っておるぞ」
黄天楼が笑いながら、さらに肛門を刺激する手を強めた。
そのとき、すぐ近くに道術でなにかが出現する気配を宝玄仙は感じた。
*
「ちょっと、まずいんじゃないかなあ、沙那?」
背中の孫空女が言った。
「そうねえ……」
沙那は上空に大写しにされている宝玄仙の肛門を見ながら言った。
宝玄仙のいたぶられている姿もその悲鳴も、余すことなく会場中に映像と音声で流れている。
尿意に続いて、便意を道術で与えられた宝玄仙は苦痛の限界にいるようだ。
このままでは、もういくらも持たないだろう。
宝玄仙が大便をしてしまえば、今度は、さっき映った狂った大猿が宝玄仙を犯すようだ。
沙那も困ってしまった。
だが、沙那にもどうしようもない。
強引に上にあがろうとしても、弓隊の矢で全身が針鼠にようにされると思うし、あがったとしても沙那と孫空女は右手と右手、そして、左足首と右足首を枷で拘束し合っている。
この状態では戦うことはできない。
だが、そのとき、大きな喧噪がして、上空の映像が途絶えた。
そして、凄まじい悲鳴があがった。
獣の雄叫びまで聞こえてくる。
さらに、逃げ惑う人間の悲鳴と気配──。
「どうしたのかなあ?」
背中の孫空女が当惑して言った。
だが、弓隊の連中が明らかに、沙那たちではなく、地上のほかのものに注目している感じになった。
こっちを見ていないし、隊も射線の方向も大きく乱れている。
「放て──。射殺せ──」
弓隊の隊長の声がした。
しかし、その隊長が突然に悲鳴をあげて、競技場の中に落ちてきた。
隊長だけではなく、次々に弓隊の連中が誰かに身体を押されるようにして落ちてくる。
「こ、今度はなに?」
孫空女が声をあげた。
「沙那様、孫様、その隊長が鍵を持っています──」
競技場の縁から素裸の素蛾が顔を出して叫んだ。
「素蛾──、無事なのね──?」
素蛾がいるということは朱姫もいるのだろう。
つまりは、この騒ぎは朱姫がなにかをしているのに違いないと沙那は思った。
いずれにしても、地上では大変な騒ぎだ。
そして、いまも次々に弓兵が沙那たちのいる潤滑油の池の競技場に向かって落ちてくる。
とにかく、沙那と孫空女は不自由な状態のまま、最初に落ちてきた隊長に駆け寄った。
隊長は競技場に落ちたときに頭でも打ったのか、気絶していて意識がなかった。
死んではいないようだが起きあがりそうにない。
ふと見ると、朱姫の『影手』が背中に載っている。
つまりは、朱姫の道術で縁から突き落とされたのだろう。
ほかに落ち続けている弓兵も同じように落とされたに違いない。
沙那は隊長の腰にあった鍵束を取って、孫空女と繋がっていた枷を外した。
「孫女、いいわよ──」
沙那は孫空女の裸身にしがみついた。
「伸びろ──」
孫空女が叫んだ。
『如意棒』がぐんぐんと伸びて、孫空女と沙那の身体を地上まで押しあげた。
地上に着く。
そこは大騒動になっていた。
宝玄仙にけしかけるために集めてあった三匹の大猿の檻が解放されている。
しかも、その三匹がそばの男たちに襲いかかり、男の尻に巨根を押し込んでいるのだ。
あちこちに、大猿に尻を犯されたらしい男たちの身体が転がっている。
どの男たちも、下半身が裸でうつ伏せになり、汚物と血を尻から垂れ流している。
三匹の猿は、いまは少し離れた場所で暴れていて、魔道師兵らしき者を犯しているところだ。
弓隊がそれを阻止しようとすると、大猿が怒って、その兵に襲いかかってもいる。
とても道術弓矢などでは制御できない状態であり、観客たちも悲鳴をあげて逃げ惑っている。
「沙那姉さん、孫姉さん──」
朱姫の声がした。
宝玄仙と素蛾もいる。
宝玄仙は逆さ吊りからは解放されたようだ。
横には荷もあった。
「この騒ぎはあんたの仕業、朱姫?」
沙那は朱姫のところまで行くと訊ねた。
すると、額についていたおかしな霊具も外れた。
朱姫の道術だろう。
衛兵も魔道師兵も逃げ惑っていて、いまは、沙那たちに関わっている余裕はなさそうだ。
三匹の大猿は、男の兵だけを狙い、その尻を犯そうと狂ったように追いかけまわっているように思える。
「ちょっと大猿たちに道術をかけて、男の兵を次々に襲うように操ってから檻を解放したんです。そしたら、思った以上の騒ぎになっちゃって……」
朱姫が笑いながら言った。
なるほど、それでこの騒ぎということなのかと思った。
沙那は思わず笑った。
「とにかく、逃げないとね……。あれっ?」
沙那はすぐ近くで、棒立ちになっているふたりの男に気がついた。
ひとりは上官だ。
もうひとりは知らない。
ただ、もうひとりの男は下半身になにも身に着けておらず、股間を剥き出しにしている。
なんとなく、朱姫の仕業のような気がした。
ふたりとも意識はあるが、茫然と突っ立たままであり、『縛心術』にでもかけられている気配だ。
「もうひとりは、劉和という王太子です──。上官太守とともに、『縛心術』であたしたちのことは、追っ手をかけないように強い暗示をかけました。もっとも、この屋敷にいる全員を操るわけにもいかないので、そんなには時間は稼げないとは思いますが、とにかく、少しは大丈夫と思います。あたしたちを追撃しようにも、このふたりが邪魔をするはずです……。当面だけのことですけど」
朱姫が言った。
「十分よ、朱姫──。よくやったわね。じゃあ、話はあとよ──。とにかく逃げましょう」
沙那は声をかけた。
そして、とりあえず、服を身に着けるために葛籠に寄っていった。
朱姫はすでに服を着込んでいる。
「どうしたのさ、素蛾? 早く、服を着なよ」
孫空女が言った。
沙那は顔をあげた。
沙那も孫空女も、服を着るために葛籠に駆け寄ったのだが、素蛾が暗い顔をしたまま、突っ立っていたままだったのだ。
「わ、わたくし……やはり、皆様とは一緒にいない方がいいのでしょうか……。わたくしのせいで、皆様を危うい目に遭わせました。大好きな皆様に迷惑をかけるなんて……、わたくし……わたくし……」
すると、素蛾がしくしくと泣きだしたのだ
沙那は嘆息した。
なにか声をかけようと思ったが、その前に陽気な表情で孫空女が口を開いた。
「いいねえ……。その仲間に迷惑をかけたと思ったときの素直な謝りの言葉……。なんか心が洗われるよ。いつもいつも、迷惑をかけながら、謝罪の気持ちすらない者もいるしね」
孫空女が笑いながら朱姫に視線を向けた。
「な、なに言ってんですか、孫姉さん──。迷惑って……。そ、そんなことしないですよ──。それに、今回はあたしのおかげで助かったのに──」
朱姫は頬を膨らませた。
「確かにね──。それに、今回の一番の迷惑女は素蛾じゃないわ。わたしがとめるのをするのを無視して、こんな目立つ祭典に、わたしらの参加を強要したご主人様ね」
沙那も笑って、宝玄仙を見た。
だが、そのとき、やっと、宝玄仙の様子がおかしいことに気がついた。
さっきから、ひと言も口を開かないし、身体を苦しそうに震わせたままだ。
「お、お前たち、ちょっと、周りを隠しておくれ──」
宝玄仙が悲鳴のような声をあげたかと思うと、その場にしゃがみ込んだ。
そして、驚いたことに、その場でいきなり大便を始めてしまった。
*
夜はすっかりと更けていた。
今夜は野宿ということになりそうだが、朱姫の道術で周辺に道術を張り巡らして、周りに余人が近づけないようにしている。
沙那たち五人は、偶然に見つけた山小屋で休んでいた。
「お、お前たち、もういいだろう──。十分に懲らしめをしたじゃないか? いい加減にわたしの服を寄越しな──。そして、縄を解くんだよ」
宝玄仙が怒鳴った。
すでに夕食は終わっている。
片づけも寝床の準備も終わったのだが、その中でただひとり、宝玄仙だけは素裸だった。
しかも、両手を後手に縛られていて、さらに、上官の屋敷で頭に装着された道術封じの輪を頭にしたままだ。
朱姫は、逆さ吊りだった宝玄仙の拘束は解いたが、道術を封じた輪っかだけは外さなかったのだ。
宝玄仙は当然文句を言ったが、今回のことはすべては宝玄仙に責任があると、沙那をはじめとして三人が主張すると、それで諦めたようになった。
そして、この山小屋に着くとともに、沙那たち三人に寄ってたかって裸にされて縄で縛られたのだ。
素蛾は、女主人の宝玄仙に三人が嗜虐をする光景に驚愕して、口もきけないような状況だったが、これもこの一行の仕来りだと説明すると、それなりに納得したようだった。
「なにを言ってるんですか、ご主人様──。明日の朝までは続きますからね。今度は素蛾の番ですよ。とにかく、今回の競技会で素蛾は頑張りましたから、素蛾に嗜虐されてください。そのご褒美も兼ねてます」
沙那が言うと、宝玄仙が舌打ちした。
「わ、わかったよ──。もう、好きにしな──。と、とにかく、これでお互いに水に流そうじゃないか。今夜は大人しく嗜虐されてやるけど、明日に朝には、遺恨はなにも残さないんだよ──」
「わかっていますよ、ご主人様──。ご主人様こそ、明日の朝になにも残さないでくださいよ。これはあくまでも、ご主人様の引き起こしたことに対する罰なんですからね」
「わかったと言っているんだろう、沙那」
宝玄仙がふてくれされたように言った。
沙那は満足した。
「あ、あのう、沙那様、いま、わたくしがご主人様になにかをするということを言われましたか?」
素蛾が当惑している。
「言ったわ、素蛾……。お前は、今回は頑張った……。お前の頑張りには、わたしも目を見張ったし、感動もした。お前は正真正銘、わたしたちの仲間よ……。ううん、ずっと前からそうだったけど、これで完全にそうよ。わたしたちはねえ、ただ、ご主人様に嗜虐されるわけじゃないの。こうやって、時々は、逆にご主人様を嗜虐もしてあげるのよ。それが決まりなのよ」
「なっ」
沙那の物言いに宝玄仙が絶句している。
しかし、沙那は無視して続ける。
「一度、始まったら、絶対に手加減をしたらいけないのよ。徹底的にやってあげるの。いい? もちろん、ご主人様は途中で、もうやめてくれと言うと思うけど、それは演技よ……。だって、お前だって、嗜虐されるのは好きでしょう。ご主人様も好きなのよ。だから、思う存分に徹底的にやってあげなさい」
素蛾に言い聞かせる。
「お、お前、なにを言っているんだよ、沙那──。いい加減に──」
宝玄仙がやっと抗議をしたが、沙那の目配せで、朱姫が宝玄仙の言葉を道術で封じてしまう。
これで、宝玄仙は“もうやめて”とも言えないはずだ。
「んんんっ」
宝玄仙がもがいている。
「はい、沙那様、わたくしは皆様に苛められるのが好きです。頭がぼうっとして、とてもいい気持ちになります。ご主人様もそうなのですか?」
素蛾が目を輝かせている。
「そうよ。その証拠に、前に皆でご主人様のお尻に悪戯したときも、そんなに怒らなかったでしょう? だから、好きなようにしてあげて……。徹底的に苛めて、ご主人様を悦ばせてあげるのよ」
沙那は言った。
「素蛾、ご主人様の脚はお前の言葉に操り状態にしたからね。好きなように遊ぶといいよ。ご主人様を悦ばすのよ。もしも、手を抜くと、明日の朝、ご主人様に怒られるわよ」
朱姫だ。
その横で、孫空女は苦笑している。
今日の宝玄仙へのお仕置きを素蛾にやらせようというのは、ここまで逃げながら、三人で話し合って決めた。
宝玄仙に嗜虐されるだけではなく、時折は沙那たち三人も宝玄仙を嗜虐する。
そうやって、やったりやられたりというのが、四人の性愛の本質だった。
仲間になった素蛾にも、それをさせてやろうというのが沙那たちの考えだった。
「わかりました──。わたくし、ご主人様にいっぱい悦んでもらえるように、精一杯頑張ります──」
張り切った口調で素蛾が言った。
沙那たち三人は、にっこりとうなずいた。
*
翌朝、夜明け頃──。
完全に白目を剥き、口から泡を吹いた宝玄仙がそこにいた。
ひと晩にわたり行われた素蛾による宝玄仙への嗜虐はまだ続いている。
また、宝玄仙の周りには、素蛾が嗜虐に使った様々な薬剤や淫具が所狭しと並んでいた。
「さあ、ご主人様、また、最初からですよ……。いっぱい、いっぱい、愉しみましょうね……」
無邪気に微笑む素蛾が宝玄仙にまた迫っている。
「んんん……」
言葉を封じられている宝玄仙が呻いた。そして、心からの恐怖を顔に浮かべた。
「さ、沙那、あたしにだけは、素蛾をけしかけないでよね……」
少し離れた場所から、素蛾と宝玄仙を見守っていた孫空女が沙那にささやいた。
「あ、あたしもです……」
朱姫も言った。
残酷で冷酷で、そして、飽きることなく淡々と責めを続けるという嗜虐者としての素蛾の別の一面を垣間見て、沙那もぞっとした気持ちでふたりを見守っていた。
(第104話『奴隷品評会・第三会戦』及び第11章「東諸国(西方帝国への道)篇」終わり)
*
次話より、第12章「西方帝国篇」となります。
*
【西遊記:87回、
天竺国の東の国境沿いの
玄奘たち一行は、この郡を治める
その役人に問うと、この土地では三年も雨が降っておらず、そのために、雨乞いのできる法師を探しているということでした。
それを聞いていた孫悟空は、雨くらい簡単に降らせられると口走ります。
役人は驚き、一行を上官太守のところに連れていきます。
上官太守に懇願された孫悟空は、早速、空に昇って雨雲を仕切っている竜神たちを呼び出しました。
孫悟空は、雨をこの土地に降らせろと、竜神たちを脅しますが、竜神たちによれば、雨を降らせることを、天界の玉帝に禁じられるということでした。
孫悟空はやむなく、空を駆けて、玉帝のところに向かいます。
玉帝と面会をすると、上官太守の土地に三年間も雨が降っていないのは、三年前に仏に対する信心を蔑ろにした罰だと教えられます。
しかし、上官が心からの改心を表せば、罰は解いてもいいと言います。
地上に戻った孫悟空は、上官太守に事情を説明します。
上官太守は、慌てて仏を讃える祭事を主催します。
大掛かりな祭事を目にした孫悟空は、再び玉帝にところに赴きます。
天界では、すでに上官太守を許すことが決定しており、竜神たちにも、玉帝が許可を出しました。
孫悟空は、竜神たちに雨を降らせ、上官太守とともに民衆が大喜びします。
上官太守は、玄奘たちを大いにもてなします。