701 風変わりな招待
「それ、釣れたよ。生きのいい人魚だよ」
宝玄仙が笑いながら、持っている竿を持ちあげたのがわかった。
股間に激痛が走ったのだ。
「ひぎいい──」
沙那は股に喰い込む釣り糸の痛みに、持っていた棹を手放して落としそうになった。
「ご、ご主人様、悪戯はやめてください──」
沙那は痛みをやわらげようと、立ちあがって背後の岩に背をつけて爪先立ちをするように身体を伸ばした。
だが、その岩よりも高い岩に座っている宝玄仙は、沙那が悲鳴をあげるのが愉しいのか、ぐいぐいと容赦なく釣り糸を持ちあげる。
沙那は悲鳴をあげ続けた。
西方帝国の南にある
ついに、鳳仙国と帝国との国境を越え、ついに沙那たちは西方帝国にやってきていた。
もっとも、“西方帝国”というのは、沙那たちの故郷のいい方であり、この辺りでは単に“帝国”だ。この辺りでは群を抜いた大国であり、北においては摩域と呼ばれる亜人たちの世界と接している。
故郷だった愛陽の城郭で暮らしていた時代から考えれば、まるで異世界までやって来た印象だ。あの当時の沙那からすれば、自分が遥かな西方帝国にやってきているなど、信じられない感がある。
「痛いいっ、痛いですうう、じょ、冗談はやめめてください、ひいいいっ」
沙那は悲鳴をあげた。
それにしても、この宝玄仙の能天気さだけは、どこにいっても同じだ。
西方帝国の外れといえる地霊なのだが、その町外れに岩の崖に面した川があり、そこで野宿をすることになった。
まあ、ここに来るまでに、西方帝国の属国といえる諸王国ではいろいろやらかした。
まともに、宿屋に泊まるのも難しく、このところ、こうやってもっぱら野宿だ。国境越えだって、実は関所破りをして、山越えをしてやって来たのだ。
そして、山道にあがりかける街道の下側の岩の崖下に河原があり、今夜はそこで休むことにした。
だが、まだ陽は高かったので、一度町に戻って金子を支払って釣り糸を五本借り、魚を釣ろうという話になった。
だが、釣りというものは、根気もいるし、こつもある。
そもそも、宝玄仙のように気の短い人間には釣りは向かない。案の定、すぐに飽きて釣りをやめてしまって、釣りは四人に任せると言い出した。
だったら、そこら辺で休んでいればいいものを、宝玄仙は釣り糸から針だけを外して、沙那を呼び、嫌がる沙那の下袴を脱がせて、強引に重りをお尻に捻じ込んだのだ。
糸を沙那の股間に通してから下袴をはき直させた。
沙那たちがいる場所よりも、高い場所に移動して、いまのように遊び始めたのだ。
本当に迷惑な女主人だ。
とにかく、沙那たち四人は足元の川に普通に釣竿で糸を垂れて魚を釣っているのだが、すっかりと釣りに飽きた宝玄仙が沙那の肛門深くに喰い込ませた重りに繋がった釣り糸は、沙那の股間を通り下袴の前側から外に出ていて、それが一段高い岩に座っている宝玄仙が持っている釣り棹に繋がっている。
だから、宝玄仙が糸をあげれば、沙那の股間に激痛が走るという仕組みだ。
「お、お願いです、ご、ご主人様──。い、痛い、痛い──」
沙那は泣き喚いた。
一緒に川に糸を垂れている孫空女、朱姫、素蛾は、そんな沙那の様子にも関わらず、無視するように釣りを続けている。
宝玄仙の気紛れな嗜虐に、いちいちお互いに干渉しないというのは、みんなの約束事のようなものだ。
ただ、三人の反応はそれぞれだ。
孫空女は横に沙那などいないかのように、まったく無視して、釣りに没頭している「ふり」をしている。
だが、実際にはちらちらとこっちを気にするように見ているのを知っている。
また、朱姫は宝玄仙に苛められる沙那をにやにやと笑っている。
素蛾は心配そうな顔だ。
しかし、三人に共通するのは、誰も沙那を助けようとはしないことだ。
そんなことをすれば、宝玄仙の気紛れが自分たちに向かってくることはわかっている。
沙那だって同じ立場なら、なるべく余計な口出しはしないだろう。
「だったら、三人のうちの誰でもいいからひとりを選んで、服の上から愛撫して絶頂させな、沙那。それができたらやめてやるよ。だけど、手を抜くようなら、こうだ──」
一度糸を緩めた宝玄仙が、またすぐに笑いながら糸をぐいとあげた。
「ひぐうう──。やる──。やりますから、引っ張らないで──」
沙那は叫んだ。
「ほらほら、早く選ぶんだよ。また糸を引かれたくなかったらね……。ところで、沙那に選ばれて達してしまった者は、肛門に重りを入れる役を沙那と交代だよ。だから、頑張って耐えるんだ。それと、誰を沙那が選んでも抵抗はするんじゃないよ」
宝玄仙が上で笑っている。
沙那はとりあえず、自分が持っていた棹を置いて、三人を見た。
すると、素蛾以外のふたりは、さっと視線を逸らせて川に向けた。
「さ、沙那様、わたくしが交代してもいいですよ……。ど、どうぞ。なるべく、すぐにいくように頑張りますから……」
素蛾が気の毒そうな顔を沙那に向けた。
素蛾は、
だが、性的な好奇心が異常に強く、しかも、被虐癖だ。
隣国の鳳仙国では、衛舎国の姫であることがばれて、しばらく、追っ手をかけられたが、帝国との国境近くになったころには、追っ手のの気配もなくなり、なんとか、のんびりとした旅に戻った感じだった。
国境の関所を避けたのは念のためだが、まあ、あれから時間も経っているし、沙那たちの行き先を誤魔化すような進み方もした。
とりあえず、諦めたというところかもしれない。
まあ、この帝国ではどうなるかわからないが、今度こそ、ゆっくりと旅がしたいものだと思っている。
いずれにしても、この素蛾と一緒になっていから、数箇月がすぎている。
いまではすっかりと素蛾も一行に打ち解けて、完全に旅の仲間だ。
「……大丈夫よ、素蛾。お前は選ばないわ。これって、結構痛いのよ。お前じゃあ、可哀想よ。それに、お前がご主人様の相手をすることになっても、あのご主人様は容赦ないと思うしね」
「だ、大丈夫です。わたくしは痛いのも我慢できます」
「それも知っているけど、いまは釣りに専念していて……。それにしても、案外釣りが上手なのね」
沙那は言った。
四人で釣りあげた魚は、網に入れて川に浸けてあるが、素蛾はすでにひとりで三匹釣っている。
残りは孫空女と朱姫が一匹ずつだ。宝玄仙に悪戯をされ続けていた沙那は、まだ釣ってない。
「で、でも……」
素蛾は心配そうな顔だ。
「いいのよ……。それに、わたし、誰にするかもう決めているの」
沙那は朱姫に寄っていくと、後ろから乳房を鷲づかみにした。
「わっ、わっ、や、やっぱり、あたしですか、沙那姉さん──。素蛾が自分でいいって言ってるんだから、素蛾にすればいいじゃないですか──」
「つべこべ言うんじゃないわよ、朱姫。まずは胸を揉むわ。それから、下袍の下に手を入れて、お尻をくすぐってあげるわね」
いつも宝玄仙の陰に隠れて、沙那を目の敵のようにして悪戯を仕掛けてくる朱姫に、ここぞとばかりにねっとりと胸を揉んでやった。
この朱姫とも長い付き合いだ。
どんな愛撫が弱いかなど知りきっている。
朱姫の胸を揉みながら、背後から耳に息を吹きかけながら舌で舐めあげていく。
「ひゃっ、ひゃっ、く、くすぐったい……」
朱姫はたちまちに甘い声をあげはじめた。
沙那はさらに舌を耳からうなじに移動させた。
そうやって、しばらく胸と首に刺激を与えることを続けていると、さすがの朱姫も声にも身体にも力が抜けたようになってきた。
その隙を狙って、朱姫の身体をほんの少し押すように前に倒した。
「きゃっ」
朱姫が驚いて悲鳴をあげた。
だが、押したのはちょっとなので、すぐに朱姫の身体は後ろに体重を戻してくる。
「ぎいっ──」
次の瞬間、朱姫の身体がぴんと伸びて身体を逸らせた。沙那の指が朱姫の下袍の下に入り込んで、下着の上からお尻の穴に当たったのだ。
沙那の指の上に座り込んだかたちになった朱姫は、沙那が指を動かすと、すぐに激しく息をあげた。
「あっ、あっ、も、もう、許して、沙那姉さん……」
朱姫が哀願のような声を出す。
「なにを許すのよ。だったら、さっさと達するのね。そうすれば、交代できるわ」
沙那は嬌態を示しだした朱姫に満足しながら言った。
こうなってしまえば、もう雑作もない。
沙那は日頃の恨みつらみを一気に晴らすかのように、指先を生き物のように動かし、下着越しに執拗な愛撫を朱姫のお尻に繰り返す。
朱姫の息の乱れが、いよいよ激しくなる。
「だ、だめ……だ、だめえ……はっ、はっ、はっ……」
沙那の愛撫に朱姫の股間がすっかりと濡れているのがわかる。
その証拠に、ここまで淫靡な香りが漂ってきた。
沙那は片手で朱姫の胸をまさぐるようにしながら、肛門に与える刺激をさらに強くした。
「ああっ──も、もう、だめ──さ、沙那姉さん──あああっ──」
朱姫が突然にがくがくと震えだした。
そして、絶息するような声を出して、朱姫は座ったままの身体をのけ反らせた。
「呆気ないねえ、朱姫──。じゃあ、沙那と交代だ。沙那、下袴を脱いで、尻の穴から重りを取り出していいよ。そして、今度は朱姫の下着をめくって、重りをお尻の穴に押し込みな」
宝玄仙が上から大きな声で笑いながら言った。
「さあ、そういうわけだから、立ちなさい、朱姫……。交代ね」
沙那は脱力している朱姫から手を離した。
そして、下袴と下着を膝まで下げて、まずは重りを肛門から出し、糸を股間から抜く。
そして、服装を整える。
「さあ、覚悟しなさい」
次に、沙那は項垂れる朱姫を立たせて、重りを服の下に入れた。
朱姫は貫頭衣を着ているので、重りは胸元からだ。
そして、下袍の下まで通した。
「下着をおろしなさい」
沙那は言った。
「うう……」
朱姫は抵抗することなく、膝まで下着をおろした。
沙那は、朱姫の身体を前屈みにさせてから下袍をめくり、白い尻を露出させる。
下着の中はむっとするくらいの女の香りが充満しているし、べっとりと下着が濡れてもいる。
「沙那さん、孫空女さん──。こんなところにおられたのですか──。逃げるなんてひどいですよ──」
そのとき、宝玄仙のいる岩場のさらに上の崖上の道から、誰かの大きな声がした。
沙那はびっくりして飛びあがりかけた。
「わっ」
だか、朱姫の慌てようはそれ以上だ。
なにしろ、下袍をめくって、下着を膝までさげていたのだ。
朱姫はとっさにしゃがみ込み、膝にかかっていた下着を隠した。
沙那は声のした方向を見上げた。
頭上の街道沿いに若い男女がいる。
身なりはいい。
後ろに家人のような男をふたり従えている。男女の年齢は十七、八というところだろうか。
どこかの分限者の子弟に見える。
顔立ちが似ているので兄妹かもしれないと思った。
ただ、沙那たちの名を呼んだが、沙那には覚えはない。
「……さあ、沙那さん、孫空女さん。父がおふたりが逃げたのではないかと疑っていますよ。とにかく、一度、屋敷に戻っていただけませんか? 父の申し出もどうかと思うのですが、黙っていなくなることだけは勘弁してください。どうしても拒否なさるのであれば、それでいいのです。でも、それはおふたりの口から言っていただけませんか?」
こっちに向かって叫んでいるのは、若い男女のうちの男の方だ。
「お前たちは誰だい?」
上の岩にいる宝玄仙が声をかけた。
「私は、
寇棟が言った。
「お前らは、沙那と孫空女を知っているのかい?」
「はい──。おふたりは、昨夜、わたしたちの屋敷に泊っていただきました。あと数日泊っていただく約束だったのですが、不意にいなくなってしまって……。それで、父の命で探しにきたところでした」
寇棟という青年はそう言ったが、なんのことだかよくわからない。
そもそも、この町には数刻前に到着したばかりだ。
宝玄仙がこっちを見たので、沙那は首を横に振ってわからないという表情をした。
孫空女も首を傾げている。
とにかく、話を聞こうということになり、五人揃って岩を登り、道まであがった。
「いずれにしても、一緒に屋敷に戻ってもらいますよ、沙那さん、孫空女さん。そして、お連れのお方も一緒にどうぞ」
寇棟はその一点張りだった。
「ねえ、お兄様、五人だわ。全部で五人いるわ」
すると寇女がはっとしたように言った。
「五人……。そういえば、確かに……。なるほど、五人だ……。でも、この方は……」
寇棟が素蛾を見ながら言った。
「五人がどうかしたのかい?」
宝玄仙が言った。
「それは私たちの口からは……。いずれにしても、一度、父のところに戻ってもらえませんか。父の言葉で説明すると思います。でも、何度も言いますが、その父の申し出に対して、嫌だと思ったなら、ただそう言っていただければいいのです。それでも、父はご馳走をしたことを遺恨にしませんし、快く送り出してくれると思います。いままでもそうでしたから……。でも、ただ、黙っていなくなるということだけはやめてください」
寇棟だ。
「さっきから言っているけど、わたしも孫空女も、あんたらなんか知らないわ。なんで、わたしたちを知っているのよ?」
沙那は苛ついて言った。
「まあいいじゃないか、沙那……。よくはわからないが、こいつらの父親の屋敷でご馳走もしてくれるし、泊めてもくれる気配じゃないか。行ってみようよ」
宝玄仙は行く気満々のようだ。
しかし、冗談じゃない。
前の国の鳳仙国では、素蛾の身の上がばれて、しばらくのあいだ、軍に追いかけ回されたことをすっかりと忘れたのだろうか。
国境を越えているとはいえ、まったく見知らぬ者から、名前を呼ばれて屋敷に誘われるなど、危険すぎるだろう。
それにしても、沙那と孫空女を知っているという兄妹──。
一度屋敷にいき、寇員外という父親の話相手になれば、宿を提供したうえに、ご馳走するという──。
どうにも、胡散臭い……。
なんなんだ、こいつら?
「……だけど、悪意はなさそうだよ。なんか変だけどね」
近づいてささやいてきたのは孫空女だ。
それには、沙那も賛同する。
「ほら、いくよ、お前ら──。沙那、みんなに支持しないかい。それとも、折檻されたいのかい」
宝玄仙が怒鳴った。
沙那は嘆息した。
こうなったら、宝玄仙はどうにもならない。すっかりとこの変な兄妹に従う気だ。
「仕方ないわね……。とりあえず、行きましょう、みんな」
沙那は決心した。
とりあえず釣った魚を土産に、その寇員外という男の屋敷に行ってみることにしたのだ。