「へえ、遊んでくれるのかい──? だったら、その一騎討ちとやらで、あたしらが勝ったら、あたしらを逃がしな」
孫空女は、注意深く身構えながら、『如意棒』を小さくして耳に戻した。
すると、周囲から一斉に笑い声があがった。
「おいおい、あの赤毛の女、
「向こうの栗毛の美人もやる気満々のようだな」
兵たちが口々に言って笑っている。
しかし、孫空女はもう気にしていない。
この男は強い――。
肌がぴりぴりするような気を感じる。
こんな気を発する相手に向かい合うのは初めてだ。
阿形とかいう巨漢はただ、身体が大きいだけじゃなそうだ。
それは、沙那に相対している巨漢も同じだ。
それにしても、顔がよく似ている。
もしかしたら、ふたりは兄弟かもしれない。
「なあ、兄貴、一騎討ちってなんだい? もしかして、俺ももうひとりの女と戦うということかい? 女二人くらい、阿形兄貴ひとりでいいだろう?」
すると、もうひとりの男が面倒くさそうな表情で言った。
「そういうな、
阿形という名らしい孫空女の正面の男が言った。
「……やれやれ、だったら、勝負の決め方は、俺たちの肉棒がお前らの股ぐらに挿さったらにしようぜ。それだったら、俺もやる気が出るしな」
吽形があくびをしながら言った。
「わたしたちが負けたら好きにするといいわ……。だったら、あんたらも名誉にかけて誓いなさいよ。わたしらが勝ったら、ここから引きあげなさい。わたしらをなんで捕えようとしているか知らないけどね」
沙那が言った。
「よし、話は決まった――。それでいいな、
吽形が声をあげた。
それで、孫空女は初めて、隊の最後方に黒づくめの服装をした背の低い女がいることに気がついた。
あの女は、道術遣いだ――。
孫空女は一瞬で思った。
女の身体に霊気が充満している。
それでわかったのだ。
だが、なんで道術遣いまで……?
「聞こえないわね、吽形――。そんな勝手なことをして、後で奉行様に叱られても知らないわよ」
その金頂観が首をすくめながら言った。
「……女の手配人を捕えて、そのついでに犯す――。それだけのことじゃねえか――。お前、俺が女を犯したと言いつけやがったら承知しねえぞ、金頂観」
すると、いきなり吽形が丸太を沙那に振り下ろした。
凄まじい衝撃が地面から伝わる。
「うわっ」
沙那は辛うじて避けたようだが、すぐに吽形の二発目が沙那を襲っている。
巨漢とは思えない素早い身のこなしだ。
「沙那――」
孫空女は声をあげた。
「お前の相手はこっちだぞ」
風のようなものが孫空女に向かったのがわかった。
孫空女と阿形の身体はすれ違っていた。
自分が動いたという意識もなかったが、孫空女の身体には痺れるような衝撃が残った。
「くはっ」
阿形の蹴り――。
考えるよりも速く、孫空女は跳躍していた。
避けるのが精一杯だ――。
そこに唸りをあげた阿形の腕が降ってきた。
後ろに引きながら、両腕を交差してそれを受ける。
孫空女の身体は、白い尻を剥き出したまま二度三度と地面に転がった。
阿形が無造作に踏み込んでくる。
息をつく暇もない――。
実際、阿形は息をしていないだろう。
だから、動きが読めないのだ。
拳――。
蹴り――。
拳――。
立ちあがった孫空女に襲いかかる。
孫空女はすべてを避ける。
隙を見つけて、蹴りを脛に叩き込む。
一瞬、阿形がぐらついた。
さらに脇腹に蹴りを叩き込む。
しかし、その脚を腕で抱えられた。
「うわあっ」
阿形が孫空女の片脚を抱えたまま押し潰してくる。
孫空女は身体を回転させて、後方に
なんとか脚を抜くことができた。
全身に冷や汗がどっと流れる。
押さえ込まれたら終わりだった……。
本当に身動きできなくされて、犯されてしまったかもしれない。
「やるなあ……。お前、女にしとくのは惜しいな……」
阿形が笑っている。
だが、その阿形もたっぷりと汗をかいている。
口調ほどの余裕はないようだ。
さっきの孫空女の蹴りも効いているに違いない。
今度は、孫空女から飛び込む――。
拳が来た。
まともに打たれれば、それだけで内臓が破壊されるような打撃だ。
しかし、寸前でかわした。
かわす寸前で、三発の拳を孫空女は阿形に打ち込んでいた。
身体がまた入れ替わる。
阿形の表情から笑みが消えた。
そして、憤怒が浮かんでいる。
信じられないという顔もしている。
生まれてから一度も負けたことがないというような表情だ。
周りが騒然となった。
阿形は膝を折りそうになっているのだ。
しかし、孫空女は飛び込まなかった。
飛び込んだ瞬間に、よろめいている脚で蹴りが来そうな気がした。
その代わりに、わざと誘うように隙を見せた。
阿形が雄叫びとともに、突進してきた。
それには、最初のような速さはなかった。
腕を取り、阿形の体重を利用して転がる。
転がりながら腕を捻った。
はっきりと阿形の太い腕が折れる感触が伝わった。
「うがああ――」
阿形が腕を押さえて地面を転がった。
倒れている阿形の眉間に拳を叩きつければ、即死させられる――。
しかし、孫空女はそうしなかった。
すでに、戦闘不能だ。
「うおおお――」
「阿形がやられやがった――」
「吽行もだあ」
兵たちから恐怖に近い声があがった。
ふと、横を見ると、沙那と戦っていた吽形が立ったまま静止している。
おそらく、沙那に経絡を突かれたのだろう。
完全に気絶している。
「な、なにい――?」
次の瞬間、信じられないことが起こった。
地面から無数の手が伸びて、孫空女の裸身を掴み始めたのだ。
「い、いやあ――いやあ――な、なんだい、これ――? うわああ――」
手が孫空女の手足を掴み、股間や上着の下の乳房に向かってくる。
数が多い――。
抵抗できない――。
気がつくと、股間に迫っている腕の先が男根になっている。
両脚を掴んでいるたくさんの手が孫空女の脚を限界まで開いて、露わになった股倉を肉棒が貫く――。
「あぐうう」
孫空女は吠えた。
あっという間に快感が襲ってきた。
快感がおかしい――。
こんなの異常だ――。
「そ、孫女――、これは道術による幻術よ――。あ、あああっ――げ、幻術のはずよ――はああ――」
沙那の声だ。
沙那もまた、地面から生えた無数の手に捕まえられて、触手のようなものに股間を貫かれている。
「な、なに――? き、金頂観――。やめよ――。俺たちは一騎討ちで負けた――。逃がしてやれ――」
阿形が腕を押さえたまま声をあげている。
「そうはいかないわよ――。こいつらは、県都に連れ帰るわ。拷問して、
あの背の低い道術遣いが言った。
そのとき、孫空女は自分の周りに、金色の粉のようなものが舞っていることに気がついた。
これは霊気のこもった魔薬だ。
これが孫空女と沙那におかしな幻を見せているのかもしれない。
しかし、それがわかったところでどうしようもない。
すぐに、檻車ががらがらと近づいてくる気配がした。
そのあいだも、膣を男根が入り乳房が揉まれる。
幻だと言い聞かせても、襲いかかる感触は本物だ。
孫空女は子宮口を膣の中の怒張で拡げられて、なにも考えられなくなった。全身に戦慄が走る。
そして、乳房が揉まれて、それが子宮の疼きと重なる。
「んんん――ああああ――」
「はああ、はあ、はあ、はっ――」
孫空女は耐えられなくなって声をあげた。
沙那も隣で大きなよがり声をあげている。
膣に挿入している男根が抜き挿しを開始したのだ。
子宮をずんと肉棒で押しあげられる。
凄まじい戦慄が走る。
絶頂の感覚が襲った。
「はああ――」
別の手が肉芽を潰すように掴んだ。
激痛もあったが、孫空女の身体はその苦痛を快感に置き換えて、腰が痺れるような快感をもたらしていた。
「いぐううう――」
孫空女は身体をのけ反らせて吠えた。
達したのだ……。
さらに肉棒が脈動した。
二度、三度を精が注ぎ込まれる。
本当に幻か――?
孫空女は悲鳴をあげ続けた。
そして、身体が宙に浮きあがる感覚が襲った。
いや、本当に宙に浮いている。
身体が複数の兵に持ちあげられているのだ。
目の前に、鉄格子で囲まれた檻車がある。
扉が開いて、その中に放り投げられた。
一瞬、無数の手も肉棒も消滅したが、すぐに檻車の中で復活した。
続いて、沙那も投げるように放り込まれた。
「県都までは距離があるわ。そのあいだ、ずっと幻と遊んでてね、孫空女と沙那。阿形と吽形を倒してしまうような女傑なんて、怖ろしくて放っておけないから、それまでその幻術はずっとかけっぱなしてしてあげるわ。道行く人に醜態をさらしながら行くといいわ」
鉄格子越しに檻車の外から、金頂観が意地の悪い口調で声をかけた。
*
「そうそう、うまくなったじゃないか、素蛾……。だけど、もっと、舌を隅々まで動かすんだ。歯だけじゃなくて、舌の裏も頼むよ。もちろん、わたしの口から唾液が垂れないように、それも全部舐めとるんだよ」
宝玄仙が素蛾の口を一度離してからそう言った。
素蛾は全身の疼きに気だるさを覚えながら息を吐いた。
「は、はい、ご主人様……。で、でも、すごく感じるんです……。ご主人様の口を奉仕しているのは、わたくしなのに、すごくお股が疼くんです……」
素蛾は内腿をもじもじと摺り寄せながら言った。
すでに、股間からはべっとりと淫液が滲み垂れている。
だが、寝台に横たわっている宝玄仙の身体を汚しては申し訳ないから、蜜が垂れないようにしっかりと股を脚で押さえているのだ。
その宿屋の一室に、素蛾は宝玄仙とともにいる。
いまやっているのは、まだ寝台にいる宝玄仙の口の中を舌で掃除をするという奉仕であり、性奴隷としては当たり前の行為なのだ。
しかし、その奉仕は、ずっと沙那か孫空女が交代でやっていて、素蛾がやることはなかった。
しかし、昨日の夜、結局、沙那も孫空女も戻ってこなかった。
ふたりが戻ってこないということはありえないので、素蛾はなにか起きたのだろうかと心配しているのだが、宝玄仙はそれほどでもないようだ。
なにかあったとは思っているようだが、あのふたりに限って滅多なことはないに違いないし、戻ってきたら、うんときついお仕置きをしようとか言っている。
とりあえず、夜が明けても戻ってくる気配がないふたりを朱姫が探しに行った。
そのあいだ、朝の奉仕を素蛾が宝玄仙の相手をすることになった。
それで、いつもは沙那か孫空女の役割である口中掃除を素蛾がやっているのだ。
しかし、奉仕しているはずの素蛾は、宝玄仙の舌で舌を擦ると、それだけで感じてしまい、まるで自分が刺激を受けているような錯覚さえ生じる。
それで困っていたのだ。
「それは、お前がすっかりと性奴隷らしく淫乱になった証拠さ――。ほら、悶えてもいいから、しっかりと掃除しな――」
宝玄仙が笑いながら口を開いた。
素蛾はまだ寝間着姿の宝玄仙に跨り、身体を宝玄仙に覆いかぶさるようにさせて、舌で宝玄仙の口の中を這わせる作業を再開した。
素蛾はまだ素裸だ。
夜に寝るときには素蛾は服を着ない。
それは朱姫から命じられている。
だから、まだ、素蛾は素っ裸だ。
「はああっ……ああっ……」
素蛾は声をあげてしまった。
宝玄仙の舌の上下に舌を動かしていると、宝玄仙が素蛾の舌を擦りあげてきた。素蛾は全身を痺れさせる欲情のままに宝玄仙の舌を夢中になって擦った。
快感のうねりが沸き起こる。
素蛾の口の中の性感は、人一倍鋭いと何度も朱姫に言われている。そうなのかもしれない……。
とにかく、口づけのようなことをすると、それだけで達しそうになる。
いまも、すでに素蛾は朦朧とする気分を味わっていた。
「ちょっと待ちな」
だが、不意に宝玄仙が素蛾の身体を離して、真剣な表情になった。
その顔がいつになく険しかったなので、素蛾は急に我に返った。
「ど、どうかしましたか、ご主人様……?」
素蛾は言った。
「お前、窓の外を見てごらん――。そうっとだよ……。おかしな霊気の動きを感じるんだ」
宝玄仙が言った。
素蛾は言われたとおりに、窓の外をそっと眺めた。
「あっ」
思わず、大きな声をあげそうになり、素蛾は慌てて口を押えた。
この宿は二階建てであり、素蛾たちはその二階の一室に宿泊していたのだが、外の通りをびっしりと兵が取り囲んでいたのだ。
この宿屋を包囲していることは明らかだ。
「ご主人様、兵が――。外には兵がいっぱいです」
素蛾は言った。
「そうかい……。わかった……。お前は服を着な。ちょっと、一階の様子を見るよ」
宝玄仙は廊下に出る扉に立つと、ほんの少しだけ扉を開き、なにかを投げる仕草をした。
なにを投げたのかはわからない。
そして、すぐに扉を閉める。
しばらく、宝玄仙はじっとなにかに集中をしている様子だったが、やがて、大きな息を吐いた。
「駄目だね……。一階にも兵が入ってきている……。あれが、わたしらを捕えるためだとすれば、とても逃げられないね……。しまったよ。『移動術』の出口をどこにも作っていない。襲ってきたら、遮二無二突破するしかないけど、沙那も孫空女も、朱姫さえもいないんじゃあ……」
宝玄仙が呟いたのが聞こえた。
素蛾は道術遣いではないが、王家の出身なので、基本的な道術学は学んでいる。
宝玄仙がいま言及した『移動術』というのは、一瞬にして別の場所に身体を跳躍させる道術だが、それにはあらかじめ、出口となる結界を向こう側に作っておく必要がある。
宝玄仙は、それを作っていなかったので、ここでは『移動術』で逃げられないと言っているのだ。
そのとき、一階から物々しい騒音とともに、兵の集団があがってくる気配がした。
「とりあえず、結界を強めるよ――。素蛾、ほかの物はいい――。路銀の入った袋だけ、身体に結びつけな――」
宝玄仙が扉の前で言った。
素蛾は慌てて、荷に取りついた。
「ここを開けろ、宝玄仙――。寇員外殺しで捕縛する――」
扉の外で叫びが起きた。
「
宝玄仙がその言葉に首を傾げた。
(第107話『恋の妙薬』終わり、第108話『遅かった救出』に続く)
【西遊記:98回、
第98回になぞらえたエピソードはうまく作れなかったので、名前だけ登場させています。
長い旅を終え、玄奘一行は、天竺国の
雷音寺には、天界に進み道があり、そこから天界に向かうのです。
天界に進む場所は、雷音寺内の「
その玉真観で身を清め、いよいよ「
河の途中で玄奘は、河を流れていく自分自身の死体を見ます。
孫悟空と船頭は、それは玄奘の煩悩が流れ去っていったのだと説明します。
河の対岸は天界になります。
天界の入り口では、
天界で仏天の歓待をうけた玄奘一行は、釈迦如来とも対面して、経文を授けられることになりました。
その経文を守っているのが、
二天は、経文を渡す代わりに「進物」を要求しますが、玄奘たちがなにも持っていなかったために、意地悪をして白紙の経文を渡します。
それを知った定光如来(釈迦如来がまだ人間だったときに、
そして、改めて経文を受け取った玄奘は、受け取った経文、すなわち、大乗仏教を大衆に拡めることを約束して、唐に戻る帰路につきます。
しかし、玄奘が天界を去ってから、如来は渡した経文と旅に要した日数が合わず、残り八日の旅が必要であること、さらに、八十一難であるべき旅の災難がまだ八十難であり、残り一難不足することに気がつきます。
観世音菩薩は、玄奘一行を追いかけ、西天取経を成就させるために、残り八日以内にもう一度玄奘たちを雷音寺まで連れ戻すことと、さらに一難を与えるために帰路についた玄奘たちを追いかけることになります。
なお、本エピソードは、本作「嗜虐西遊記」においても、西域(魔域)に続く一連のエピソードの最初となり、それにかけて、ここで西遊記の天界へ入るエピソードにまつわる人物の名を合わせました。