「お、お前ら──」
素蛾が宝玄仙を庇って、毒が塗ってある剣で大きく背中を斬られた。
素蛾は虫の息だ。
それを見て、宝玄仙は怒りで血が沸騰する感覚を味わった。
「ちっ、邪魔しやがって──」
沙那の姿をした者が素蛾の血のついた剣をさらに振りかぶる。
宝玄仙はとっさに退がった。
剣が振りかかってきたが、そいつは倒れている素蛾の身体につまずいてしまって体勢を崩した。
「くそったれがあ──」
すると、そいつが舌打ちしながら、素蛾の顔を思い切り蹴りとばした。
素蛾の顔がおかしな方向に曲がった。
だが、素蛾は声も出さなかった。
まるで人形の首が折れるように、がくりと首を横向きにさせただけだ。
さっき宝玄仙は、自分が怒っていると思った。
しかし、それは違った。
いまこそ、怒っている。
あまりもの怒りに、なにもかも忘れた。
なにも考えられない──。
頭の中でなにかが破裂した。
なにかが満ち──。
弾け──。
そして、炸裂した──。
目の前が真っ暗になる。
あまりの憤怒に血が頭に昇りすぎたのだ。
「う、うう……」
「あが、がっ、がっ……」
なにかをしたという自覚はなかった。
ただ、気がつくと、ふたりの男が倒れていた。
ふたりの男が全身がずたずたに切り刻まれて、頭から足先まで血まみれになっている。
どうやら、宝玄仙の道術による霊気の刃が目の前のふたりを襲ったようだ。
服も肌もその刃で切り裂かれていて、宝玄仙の霊具である『変化の指輪』も破片になっていた。
指にしていたと思うが、ふたりとも指が全部切断されていて、その指輪にも道術が当たったのだろう。
変身が解けて出現したのは、髪のないふたりの男だった。
そのふたりに見覚えがある気がしたが、すぐには記憶は出てこなかった。
やがて、
かつては、天教の教団兵の隊長だった男たちであり、宝玄仙を暗殺しようとしたので、報復として酷い目に遭わせて放逐した。
すると、いつの間にか、金角の使う奴隷の看守になっていて、一時的に宝玄仙たちが金角の虜囚になったときに、前の仕返しに沙那と孫空女を虐待したのだ。
宝玄仙と金角が和解したとき、このふたりに対する二度目の報復として、ふたりを女に変身させて、亜人兵の性奴隷になることを強要した。
ふたりが沙那と孫空女に化けるために使用していたのは、そのときにふたりを変身させるために遣った『変化の指輪』だろう。
つまりは、清風と名月のふたりは、この指輪を持って、金角の囚われから脱走したということだったのだろう。
「あがっ、がっ……」
素蛾だ。
宝玄仙は我に返った。
素蛾が口から黒っぽい血を噴き出した。
「素蛾──。しっかりするんだよ──。死ぬんじゃないよ──」
宝玄仙は素蛾に取りついた。
かなりの出血だ。
しかも、致死性の毒が回っていて、驚くくらいに顔が真っ白だ。
宝玄仙は素蛾の身体を掴んだ。
びっくりするくらいに冷たかった。
「し、しっかりしないか──。死んだら駄目だ──。死ぬんじゃない──」
宝玄仙は叫んだ。
しかし、素蛾はすでに呼吸をほとんどとめている。
このままでは死ぬ……。
いや、もうほとんど死んでいる状態だ。
こうなったら道術で死を留めるしかない──。
瀕死の素蛾が耐えられるかわからないが、素蛾の身体に道術陣を刻みこみ、そこに『治療術』の霊気を注ぎ込むのだ。
それしかない──。
ただの人間であるいまの素蛾には、宝玄仙の霊気は受け付けない。
だが、道術陣を刻んでしまえば、宝玄仙の道術を受け入れられる身体になる。
もっとも、それは、歳を取ることができなくなるとか、あるいは、子を宿せない身体になるというような副作用もある。
素蛾のような成長しきっていない子供に施すのは、やはり躊躇する。
しかし、いまは、それ以外に素蛾を助ける方法がない。
むしろ、問題は、素蛾の身体が道術陣を受け入れるまで、素蛾自身が生命を保つことができるかどうかだ……。
「素蛾、気持ちをしっかりと持ちな──」
宝玄仙は素蛾の身体に道術紋を刻むために霊気を注いだ。
素蛾の身体が真っ赤になる。
熱を放ち始めた。
本来であれば、この状況では身体が焼かれるような激痛を味わう。
しかし、いまの素蛾には、その痛みも感じることができないのだろう。
ただ、生気の感じない静かな呼吸をするだけだ。
「素蛾、もう少しだよ。耐えな──。命令だよ──」
宝玄仙はありったけの声で叫んだ。
そして、ついに道術陣を刻み終えた。
素蛾はまだ生きている──。
それを確認して、安心した。
素蛾は耐え抜いた。
もう大丈夫だ……。
一気に霊気を注ぎ込む。
宝玄仙の『治療術』が素蛾の背中の傷を塞ぎ、生命を奪おうとしていた毒を排除していく。
「あ……ふう……はあ……はあ、はあ……」
素蛾が盛大に息を始めた。
宝玄仙はほっとした。
「ご、ご主人様、だ、大丈夫ですか……? わ、わたくし、どうしたのでしょう……」
素蛾が笑みを浮かべた。
ほっとした。
どうやら、素蛾を死の縁から助けることができた。
瀕死から救われのに、自分よりも宝玄仙の心配をするのは素蛾らしいが……。
宝玄仙は苦笑した。
だが、素蛾を死から救う代償として、素蛾の身体に道術陣を刻み込んでしまった。
一度、刻んだ道術陣はもう消すことはできない。
ただ、ほとんど見立たなくなるほどに肌に同化するだけだ。
そして、道術陣は、素蛾の外観上の成長を阻害し、素蛾の身体を極めて妊娠しにくい身体に変える。
このことをなんと説明すべきか……。
宝玄仙は微笑みながら嘆息した。
「ご主人様、後ろ──」
突然、素蛾が悲鳴をあげた。
宝玄仙は後ろを振り返った。
全身を血まみれにした名月がそばにある剣を掴もうとしていた。
宝玄仙は立ちあがって、その剣を届かない場所まで蹴飛ばした。
「とことん、しつこい男たちだねえ……。生かしておけば、また、わたしか、わたしの供たちの命を狙おうとするんだろうねえ……?」
宝玄仙は血まみれの名月と清風を見おろしながら言った。
名月は不敵な笑みを浮かべて宝玄仙を睨んでいる。
その唇が動いた。
だが、その口が言葉を発することはなかった。
宝玄仙の霊気の刃がふたりの身体の下から心臓を貫いたのだ。
うつ伏せのふたりの背中に大きな穴が開いた。
ふたりの目から完全に生気が消滅したのを宝玄仙ははっきりと確認した。
*
孫空女は、取り調べのために牢を出された。
ひと足先に出された沙那が、今日はどういう訊問を受けさせられているのかはわからない。
孫空女と沙那がこの県都の軍営に連れてこられたのは、昨日の午後のことだ。
すぐに素裸に剥かれて、鉄の手枷と足枷を手足につけられた。
そして、孫空女と沙那はばらばらにされて、訊問をするための部屋に連れていかれたのだ。
孫空女が連れて行かれたのは、十人ほどの兵がいる部屋だった。
そこで、両手首に嵌まった手枷を天井から伸ばした鎖に繋げられた。
正面に役人のような男が、机越しに椅子に座ったまま孫空女を見つめ、
寇員外が死んだということは、捕縛の兵の襲撃を受けたときにも仄めかされたが、もちろん、まったく覚えがない。
寇員外の屋敷には、四日間滞在し、宝玄仙の命令で千人切りとやらの相手をさせられた。
最後の夜はみんなで乱交まがいのこともした。
そして、翌朝、屋敷の外まで、寇員外、そして、息子の
それだけだ──。
ほかに説明することなどない。
寇員外を殺していないし、そもそも、死んだということが信じられない。
そう言った。
すると、拷問が開始した。
手枷に繋がった鎖が引きあげられ、孫空女は天井から宙吊りにされた。
すぐに、鞭打ちが始まった。
前後にふたりの兵が立ち、身体の前後から代わる代わる鞭打ちをするのだ。
全身のあらゆる場所を鞭打たれた、
最初こそ、背中や腹などを狙っていたのだが、だんだんと乳房や局部にも鞭を当てるようになった。
鞭を打たれているあいだ、役人が寇員外殺しを自白しろと何度も言った。
孫空女は拒否した。
さらに、鞭打たれた。
兵が疲れれば交代して新たな拷問者に交代する。
鞭打たれる孫空女は、無論ひとりだ。
そうやって、延々と鞭打ちを続けさせながら、役人は何度も自白を促した。
しかし、孫空女も同じことを答えるしかない。
拷問は深夜まで続き、やがて、水も与えられることなく、そのまま牢に放り入れられた。
半死半生の沙那もすぐにやってきて、手枷と足枷をつけられたまま孫空女のいる牢に投げ捨てられた。
沙那も寇員外殺しの自白を迫られたようだ。
ほとんど話すこともできなかった。
孫空女も沙那も、その力が残っていなかったのだ。
とにかく、昨日の夜はそのまま休んだ。
そして、明るく朝になるとすぐに、まずは沙那が連れて行かれた。
しばらくすると、孫空女も左右の腕を取られて歩かされた。
前後にも武器を持った兵が数名ずつつく。逃亡は不可能だ。
また、鞭打たれるのかと思ったが、進まされている場所は昨日とは違う場所のようだ。
昨日は通らなかった地下に降りる階段も通った。
多くの営兵がいたが、歩くあいだ素裸を晒している孫空女は、そんな兵たちの好奇の視線を浴びなければならなかった。
「どこに行くんだよ……?」
孫空女は連行の兵たちに訊ねた。
「行けばわかるさ」
兵はそう言って笑っただけだった。
やがて、孫空女は一個の扉の前に辿り着いた。
「おや、やってきたね。随分としぶといという話じゃないかい、孫空女。おかげで、このあたしも訊問に駆り出されることになったよ」
扉の前で待っていたのは、
孫空女と沙那を幻術の粉で捕えて、ここまで護送してきた女だ。
「あ、あたしらは、なにもしていないよ……。なんど訊ねられても同じさ……」
孫空女は、金頂観に言った。
「くくく……。まあ、白を切るのも終わりだよ──。ふいごで熾しておいたしね。真っ赤に燃えあがって、すっかりと準備ができているよ。まあ、あたしとしては、あんたが少しは頑張ってくれれば、愉しむ時間が長引いて、嬉しいかもしれないね」
金頂観が喉で笑いながら扉を開けた。
ふいごで熾す?
真っ赤に燃えあがる?
孫空女は嫌な予感がした。
扉が開いた。
孫空女は後ろから肩を押されて、部屋に入らされた。
一歩部屋に踏み入れただけで、むっとする熱気に全身を襲われた。
目の前にあったのは、真っ赤に焼けた炭火の通路だった。
部屋の中央部分に、こちら側の壁から向こう側の壁までに細長い溝が作ってあり、その溝のすべてに、明々と燃えた炭火の「川」が作ってある。
溝の幅は壁に近い部分は肩幅ほどだが、部屋の真ん中に進むにつれて、だんだっと広がっていて、中央付近はほとんど人間の身長ほどの広さの幅になっている。
炭火の「川」の手前に立たされた孫空女の手の枷が、天井から伸ばした鎖に繋がれた。
見上げると、その天井には溝があり、滑車が前に動くようになっていて、その滑車に孫空女がたったいま手枷に繋げられた鎖が繋がっていた。
孫空女はぎょっとした。
「ちょ、ちょっと、待ってよ──。こ、こんなの──」
なにをされるのか見当がついた孫空女は悲鳴をあげた。
「おや? もう自白する気になったのかい、孫空女? この拷問をすれば、大抵はすぐに自白するけど、いくらなんでも味わう前に自白するのは、早すぎないかい? すこしくらい、炭火に股を炙らせてから自白しなよ」
金頂観が嘲笑った。
「や、やってないものはやっていないとしか言えないよ──。だ、だけど、こんなのないよ──」
孫空女は必死で言った。
「なんだい──。まだ、自白する気じゃなかったのかい──。安心したよ。じゃあ、愉しんできな」
手枷に繋がった鎖が前に進みだした。
自然に孫空女の身体も前に進まなければならなかった。
「ひいっ、ひいっ、熱いいい──」
孫空女は絶叫した。
溝に敷き詰めた炭火が強烈な熱気を立ち昇らせ、遮るもののない孫空女の股間に直接に熱気を浴びせるのだ。
しかも、溝の幅はだんだんと広くなる。
従って、中心に進むにつれて、孫空女は大股開きを拡げざるを得ず、しかも、そのために、熱源と股間の距離がだんだんと近くなるのだ。
「ひいいっ、ひいいっ、ひい──」
燃え盛っている炭火に股間を炙られる苦しみは、孫空女の想像を越えたものだった。
うず高く積まれて真っ赤に焼けている炭火が孫空女の股を直撃して、孫空女に大きな悲鳴をあげらせる。
鎖は、孫空女の身体を溝の四分の一ほどの位置で停止させた。
「や、灼けるうう──。ま、股が──股が熱い──」
孫空女は身体を伸ばして、少しでも身体を上に伸ばそうと必死になった。
溝の両端から脚を離して、空中で脚を曲げた状態に浮かばせることも考えたが、そんなことをして、再び、両端に足を戻せる自信はない。
そうしているあいだにも、剥き出しの股間を容赦なく炭火が炙り続ける。
「ひいいっ、も、もう、堪忍して──。股が灼けるよお──」
孫空女は泣き叫んだ。
「ふふふ、火の勢いが弱まっているようね……。じゃあ、少し、ちょっと強めてあげようかしら……」
金頂観が孫空女が跨いでいる炭火の溝に道術をかける仕草をした。
「あがあああ──」
孫空女が抗議する暇もなく、股間の下の炭火がいままでの倍の強さで燃え始めた。孫空女の真下の炭火は、真っ赤に色づくだけではなく、小さな炎さえもあげだした。
その熱気が孫空女の股を焼き焦がす──。
「さっさと自白しな、孫空女──。あんまり、意地を張ると股ぐらが火傷の蚯蚓腫れで酷いことになるよ──。それとも、もう少し脚を開いて、さらに股ぐらを火に近づけるかい?」
金頂観が意地悪く言った。
すると、天井の鎖がさらに前に進み、孫空女が股間をもっと拡げなければならない位置まで誘導した。
自然と股間と炭火との距離が縮まった孫空女は心の底から悲鳴をあげた。
「早く、自白するんだよ──。ぼらぼやしていると、今度は炎を股ぐらのすぐ下まで噴きあげさせるよ──。いや、そうしようか……。人殺しの女の股が少しくらい燃えても、いい気味としか思わないしね……。あんな素晴らしい人を金子目当てに殺すなんて恥を知りな──。もっと苦しむがいいよ──」
金頂観が吐き捨てるように言い、また霊気を込める仕草をした。
孫空女の股の下の炭火がさらに大きな炎に変わった。
*
「な、なによ……。そ、そんなところ、触らわないでよ……」
沙那は尻を振って指を避けようとした。
だが、沙那を四つん這いの姿勢に、しっかりと拘束された手足はびくともしない。
その沙那の肛門を怪しげな液剤で固めているのは、三人ほどの女だ。
この県都の軍に所属する女兵であり、今日初めて見る顔だ。
昨日鞭打たれた拷問部屋に連れてこられた沙那は、また、今日も一日、鞭打たれるのかと思っていた。
しかし、部屋にはふたつの台が置かれていて、沙那はそのふたつの台に、左右のそれぞれの手足を載せられて四つん這いの姿勢にさせられた。
そして、腕と脚に幾つもの革紐を巻かれて、その台に拘束されたのだ。
そこに現れたのが、この三人の女たちだ。
昨日、沙那に訊問に当たった役人らしき男は、離れた場所の机に位置して、女たちの沙那への拷問を見守る態勢になった。
「昨日のお前たちへの拷問が、手緩すぎるという女兵たちからの評判でな──。今日からの拷問は、男の代わりに女たちが変わるということになったのだ。寇員外というのは、随分と女に人気のあった男だったのだな。彼を殺したお前たちは、どうやら、県都中の女に憎まれているようだぞ」
役人が苦笑しながら言った。
「し、知らないと言っているじゃないのよ──。そ、それよりも、さっきからなにを塗っているのよ──。や、やめてったら──」
沙那は悲鳴をあげた。
三人の女が沙那の背後に回り、三人でお尻の穴に指を伸ばして、尻たぶを拡げるようにして、強引に沙那のお尻の穴を拡げさせているのだ。
そこに液剤を指で塗り拡げられている。
さっきからお尻の穴の周りが突っ張るような力が加わっている。
そして、お尻の奥にも身体の外からの風が当たる感触が襲っていた。
沙那は懸命に腰を振って、指を避けようともがいた。
「抵抗するんじゃないわよ、この悪党女──。あたしらは、みんな寇員外様のお世話になったのよ。あのお優しい方を盗み目当てに殺すなんて信じられないわ。たっぷりと苦しむがいいのよ──。いま、塗っているのは、お尻の穴の周りの肌が引っ張られて、尻の穴がおっぴろげになる薬剤よ。これから三人で代わる代わる、尻の奥に痒み剤を塗ってあげるわ。しかも、塗れば塗るほど、痒みが増大する薬剤よ──」
「言っておくけど、あたしらの目的は、あんたを苦しめることだからね、この悪党女──。だから、自白なんてする必要はないわよ。死ぬような痒みで尻を振り続けるがいいわ」
「じゃあ、あたしからいくわ──」
三人の女が口々に沙那を罵りながら、拡がった沙那の肛門に奥に小さな麺棒のようなものを挿し入れたのがわかった。
沙那は尻穴の奥に痒み剤を塗られるのだと聞いて、悲鳴をあげた。
「……ははは……。女は容赦ないらしいからなあ──。早く自白した方がいいぞ。いったん、痒み剤を塗られれば、あとは、処刑の日まで、痒みを癒す薬剤は与えてはやらんぞ。何日も痒みに悶えながら死ぬしかないかもしれんなあ」
役人が笑った。
「ああ、ああああああ、痒いいいいいい──」
沙那はさっそく襲ってきた痒みに泣き叫んだ。