長い愛撫ではなかったが、寇女の股間はすっかりと濡れていた。
「お、お兄様、来て、来てください……。こ、寇女はもう我慢できません……」
寇女がすっかりと欲情した震え声で言った。
「はしたない、淫女だな……。俺が罰を与えてやる。葬儀にはたっぷりと俺の精を膣に入れたまま出るんだぞ。下着なしでな。それがお前の罰だ」
「ああ、寇女に罰を与えてください、ご主人様……」
寇女はすっかりと被虐に酔っているようだ。
おそらく、寇女の頭の中では、実の兄である寇棟に淫乱な調教をされて、近親相姦の関係に無理矢理に堕とされてしまった自分という図式ができあがっているに違いない。
だから、ふたりきりのときには、まるで性奴隷のような言葉を寇棟に使いたがる。
「いくぞ……。声を出すなよ──。部屋の外には葬儀にやってきてくれた親類も大勢いるのだ。声を出せば、聞かれるぞ」
寇棟は寇女の耳元でささやいてから、硬直している自分の怒張を、寇女の太腿の付け根の尻たぶのはざまに押し当てた。
そのまま背後から寇女の女陰に一気に突き立てる。
「ふううっ──」
声を出すなと言ったのに、寇女は寇棟の怒張が入る甘美感に堪えられなかったのか、上体を反りあげて小さな悲鳴を漏らした。
寇女が慌てたように、手のひらで自分の口を覆う。
宼棟は律動を開始した。
「んんっ、んんっ、んっ……」
深々と膣を貫いている怒張は、寇女の淫蜜と絡まり、ねっとりを糸を引いている。
それをゆっくりと抜き挿しする。
寇女が快感に太腿と膝をがくがくと震わせ始めた。
数日前に強姦されて処女を失ったばかりの寇女だが、翌日くらいからしっかりと快感を覚えるようになった。
いまは、もうすっかりと寇棟の与える肉欲の虜になってしまったようだ。
「奴隷、感じているのか……。兄に犯されてこんなに欲情して恥知らずめ。お前のような破廉恥な妹はどこにも嫁にはやらん、俺のそばで一生奉仕させてやる。お前は、俺の性奴隷として人生を終えるのだ。表向きは妹として扱ってやるが、裏では俺の奴隷として飼い殺しだ」
寇棟は寇女の股間を背後から突きながら言った。
すると、寇女の腰がぶるぶると嬉しそうに震え、狭い膣の中がさらに大量の愛液で溢れたのがわかった。
悦んでいるのだ……。
兄に調教され、すっかりと堕ちたと思い込んでいる寇女……。
可哀想に……。
寇棟は、早くも絶頂の兆しを示し始めた寇女の股間を突きながら思った。
数日前、父親の寇員外が沙那と孫空女が引き連れてきた賊徒に殺され、寇棟と寇女もまた賊徒の性的凌辱を受けた。
寇棟は、
その結果、寇女は精神に異常をきたしてしまった。
言葉がしゃべれなくなり、なにかに怯えたような震えが止まらなくなった。
時折、奇声をあげ、激しく暴れもした。
寇棟は、どうしていいかわからず、寇女を部屋に閉じ込めるしかなかった。
放っておくと発作的に自殺までしようとするので、寇棟がそばにいれないときには、寝台に縛りつけておくしかなくなった。
寇棟自身も心の痛手はあったし、父親の死は衝撃だった。
だが、なによりも、寇棟を打ちのめしたのは、妹の寇女が狂ってしまったという事実だ。
とりあえず、宝玄仙という道術遣いの女主人とともにやってきた沙那と孫空女という旅の女が率いる賊徒に、寇員外が殺されたと県都の役所に届け、休みを与えて散らせていた家人たちを呼び寄せて、寇員外の葬儀の段取りを進めた。
そして、寇女をどうしようかと寇棟は途方に暮れた。
犯されて心を壊してしまった寇女のことを思うと、哀しみに打ちひしがれた。
やっと、家人たちは戻ってきて、なんとか家のことが回りだすと、寇棟は寇女の部屋に向かった。
家人たちにも、まだ寇女のことは教えていなかった。
ただ、悲しみで部屋に閉じこもっていると教えただけだ。
実際には、自殺を防ぐために、部屋に縛って閉じ込めていたのだ。
しかし、寇女のところにいって拘束を解くと、その寇女が寇棟に急に身体を求め出したのだ。
その様子があまりにも切羽詰ったものだったので、寇棟は寇女を抱いてしまった。
賊徒に襲われたときには、彼らの見世物として、無理矢理に兄妹で媾合された。
今度は、寇棟の意思で寇女を抱いたのだ。
その結果、常軌を逸していた寇女の言動がすっかりと落ち着きを取り戻したのだ。
言葉も喋れるようになり、とまらなかった痙攣も完全に消滅した。
そして、なぜか寇女の頭の中で、あの夜のことは、寇棟の調教の一環であり、寇棟が寇女を自分のものにするための芝居なのだということになっていた。
その結果、寇女は寇棟に調教される立場になったのであり、なにもかもが、あれは寇棟が陰で仕組んだことと思い込んでいたのだ。
寇棟はそれを受け入れることにした。
その日から、妹の寇女は、実の兄の寇棟の性奴隷ということになった。
寇女を抱き、ときには拘束して嗜虐的な調教もした。
その結果、自分が寇棟の性奴隷であるという強い思い込み以外を除き、寇女は完全に正気を取り戻した。
いまでは、普段の行動はまったく正常だし、狂気の様子を示すこともない。
ただ、あの輪姦は寇棟の寇女に対する調教の一環であると思い込んでいることと、寇棟以外の男に怯えた様子を示すようになったことが変化くらいだ。
このことに、寇棟は異存はない。
寇女は寇棟の性奴隷として、一生面倒を看るつもりだ。
いずれは、正式に妻ということにしてもいいと思っている。
この帝国の法では、兄妹の結婚は罪ではない。
もちろん、道徳的には禁忌なのだが、それを阻む父親の寇員外はもういない。
それに、生きていても、性のことに関しては大らかな父だったから、事情を説明すれば、呆気なく許すのではないだろうか。
とにかく、もう寇棟は寇女を手放すつもりはない。
寇女を一生守る──。
その覚悟をしている。
そのためなら、生涯にわたって、寇女の冷酷な主人の役目でもしてみせる。
「んん、んあああっ」
寇棟は本格的な律動に入ると、寇女が必死に手で押さえている口からも淫らな声が漏れ出す。
「ああっ、お兄様あああ」
寇女が耐えられずに、自分の手の下から悲鳴を発した。
寇女の全身に欲情がうねり回っているのがわかる。
寇棟の怒張が強く打ち込まれるたびに、ますます加速する情欲の大波に全身を震わせる。
寇棟もまた欲情していた。
愛する寇女──。
可憐な寇女──。
それを自分のものにする……。
一生、性奴隷として飼う──。
それを考えると自制することのできない欲望が沸き起こる。
「んぐうう──」
全身から官能の弾ける歓喜を表しながら寇女が絶頂した。
寇棟は上体を机に乗せている寇女を背後から抱くようにして上体を重ねた。
寇女が顔を曲げて後ろに向ける。
その口に寇棟は自分の唇を重ねた。
寇女が寇棟の口をむさぼってくる。
寇棟は、窮まった欲望の迸りを寇女の子宮に注ぎ込んだ。
「俺の子を孕め、寇女──。孕むんだ──。それがお前の罰だ──」
寇棟は精を放ちながら言った。
「ああ、こ、寇女は、お兄様の子を産みます──。ああっ──」
すると、達したばかりの寇女の身体がさらに高みに昇ったようになり、寇棟の怒張を締めあげて、全身を歓喜に包ませた。
そのとき、部屋に誰かが近づく気配がした。
寇棟は慌てて寇女を離して、服装を整えた。
「お坊ちゃま、大変でございます──。よろしいでしょうか──?」
執事の声だ。
葬儀の段取りをすべて任せているのだが、なにか突発事案でもあったのだろうか?
「な、なんだい? ちょっと開けないでくれ。いいから、そのまま、話せ」
寇棟は慌てて言った。
寇女も下袍を直して、何事もなかったかのように椅子に座った。
寇棟は床に落ちている寇女の下着を寇女に放った。
寇女はそれを受け取ると、恥ずかしそうに顔を赤らめて、それを畳んで隠した。
そういえば、葬儀には下着をつけずに出席するように言ったということを寇棟は思い出した。
「ほ、宝玄仙がやってきましたよ。連れの少女のふたりも一緒です」
執事が血相を変えた声で言った。
「なんだって──?」
寇棟は叫んだ。
「寇女は危ないからここにいろ──」
寇棟は部屋を飛び出した。
あれから片時も離したことのない剣も掴む。
宝玄仙については、寇員外を殺した犯人のひとりとして、県庁に告発をしている。
その供である沙那と孫空女は、すでに捕えたという奉行からの伝言も受け取っていた。
ただ、女主人の宝玄仙については、まだ逃亡中という話だった。
その宝玄仙がなんでここに──?
葬儀の会場とする予定の大広間に宝玄仙がいた。
朱姫、素蛾というふたりの少女も一緒だ。
三人がいるのは、寇員外の遺骸を納めている棺桶の横だ。
本葬にはまだ時間があるので、集まっていたのは、まだ本当に親しい親類と家人だけだ。
それが宝玄仙たち三人のいる場所の周りに集まっている。
だが、見えない壁でもあるのか、距離を置いた位置から先には近づけないでいるようだ。
部屋は騒然としている。
「ほ、宝玄仙──。よくも、戻ってこれたものだ──。この恩知らずの、恥知らず──。そして、今度は父の遺骸になにをするつもりだ──。父から離れよ──」
寇棟は剣を抜いた。
だが、やはり、見えない壁があった。
そこから先に近づけない。
「おやおや、寇員外のところの息子じゃないかい──。耳にしたところによれば、お前が県庁の奉行に、わたしらがこの屋敷に盗みに入って、寇員外を殺したと告発したらしいじゃないかい──。そんな嘘の告発のおかげで、沙那と孫空女は捕らわれてしまったじゃないかい──。どうしてくれるんだい」
宝玄仙が言った。
「な、なにを言うか──。俺はあんたの供の沙那と孫空女が賊徒とともにやってきたときにその場にいたんだ。そして、酷い目に遭った──。父は殺され、寇女は……」
思わず、寇女のことを喋りかけて慌てて口をつぐんだ。こんな大勢の者がいる場所で、寇女が狂ったと話すわけにはいかない。
「お前は、沙那と孫空女が賊徒としてやってきたのを見たんだね? だけど、このわたしは、
「偽者?」
寇棟は驚いた。
「その男たちは、
寇棟は、宝玄仙が言及したふたりの男が、沙那たちと一緒にいた阿難と迦葉のことだというのは、すぐにわかった。
あのふたりには、陰毛が一本もなかった。珍しいからよく覚えていたのだ。
「に、偽者などと……? そんな馬鹿な……」
寇棟は言ったが、そう言われてみれば、あのとき、阿難と迦葉、そして、沙那と孫空女の四人は入れ替わるようにしか、寇棟の前に姿を見せなかったことを思い出した。
完全に凌辱して去るときには、沙那の姿も孫空女の姿もなく、賊徒と戻っていったのは、阿難と迦葉だけだった。
どうして、沙那と孫空女はいなくなったのだろうと、ちょっとだけ引っかかっていた。
なによりも、あのときの沙那と孫空女は、それまでに滞在していたときのふたりとはまるで違っていて、別人そのものだった。
だから、本当に別人だとすれば、辻褄は合う。
「ま、まさか……」
寇棟は呻いた。
だが、それがあり得ることだということはわかる。
道術には詳しくないが、変身の霊具というのは珍しいものではないはずだ。
すると、宝玄仙がにやりと笑った。
「……さすがは、寇員外の息子だけあって善人だね。すぐに信用してくれる。まあいいさ。お前の父親に訊ねればわかるかもしれない。ちょっと、生き返らせてみるよ」
宝玄仙はそう言って、棺桶の中の寇員外の身体から服を剥がす仕草をした。
すでに棺桶の蓋は開いている。
「生き返らせる──? な、なにを言っているのです?」
「お前の父親からまだ教えてもらっていないのかい、寇棟? お前の股にも三個の睾丸があるらしいけど、それは寇家の嫡男の特異体質のようだよ。お前らには、偉大な道術遣いだった先祖の血が残っているんだよ。三個目の睾丸は、実は睾丸じゃない。本当は『魂の欠片』という道術遣い特有の命の予備だ」
「魂の欠片……? なんことです?」
「まあいい、話は後だよ。術式を進めるよ。おやおや、どうやら、間に合ったようだね……。『魂の欠片』は保管が難しんだ。命のある容器に入れないと、すぐに劣化するからね。お前の父親の命はもうないから、放っておけば『魂の欠片』も消失するところだったけど、ぎりぎり間に合ったさ」
宝玄仙が言った。
すると、棺桶に横になっていた寇員外がむくりと起きあがった。
「うわあっ」
「ひいい──」
「なんだ──」
周囲が悲鳴をあげた。
「お、お父さん──?」
寇棟もまた大きな声をあげた。
「こ、これは、どうしたことですかな……? おや、宝玄仙殿──? 朱姫殿も素蛾殿も……」
寇員外がにっこりと笑った。
寇棟は口を開いたまま茫然としていた。
「どうしたもこうしたもないよ──。これはお前の葬式の最中だよ。それよりも、お前の息子が、わたしらがお前を殺したと告発して、沙那と孫空女は県の捕縛隊に捕らわれてしまったんだ──。お前が知っていることを話しておくれ、寇員外」
宝玄仙がそう言うと、寇員外は顔を曇らせた。
そして、しばらく考えていたようだったが、すぐにはっとしたように、眼を大きく見開いた。
「寇棟、いまのは本当か──? この方々を告発してしまったのか──? 私を殺したのは、阿難と迦葉という男たちだ。沙那殿と孫空女殿に変身できる霊具を持っていて、その姿で押し入ったのだ──」
寇員外がはっきりと言った。
*
女知事が目を丸くしている。
なにしろ、死んだはずの寇員外が目の前にいて、さらに、息子の寇棟、手配中のはずの宝玄仙と朱姫と素蛾もいて、それが顔を並べて、告発を取りさげることを申し出たのだ。
告発の取りさげもなにも、殺されたはずの寇員外自身が目の前にいるのだ。
説明によれば、この宝玄仙という道術使いが道術で生き返らせたのだという。
俄かには信じられない話だが、調べにあたった部下からの報告でも、寇員外の死は確認されているし、その寇員外自身がそういうのだから、生き返ったというのは確かなのだろう。
そんな道術など耳にしたことはなかった姜坤三も、ただただ驚愕するしかない。
そして、そんな力を持った道術使いが目の前にいるという事実に恐怖を感じてきた。
この五人が連れだって、馬車で知事を訪ねてやってきたのは、たったいまのことらしい。
もともと、寇員外はこの女知事とは昵懇の仲であり、寇員外は知事とは約束なしに面談ができるほどの仲だったのだ。
だが、その寇員外は死んだはずの男だ。
とにかく、知事は当惑しながらも、寇員外に面談し、告発の取りさげと、真相が阿難と迦葉という王華国を最近荒らしまわっていた盗賊団の仕業だという説明を受け、ここに急遽、姜坤三を呼び出したのだ。
姜坤三もたったいま、その説明を受けたところだ。
「……御託はいいんだよ──。話はわかったのかい、知事──? わかったら、さっさと、沙那と孫空女をここに連れてきな。ちゃんと、ふたりを返せば、ここで暴れるのは勘弁してやるよ。だけど、まだ、面倒を言うんなら、この県都全部を火の海にするからね──。この宝玄仙に二言があると思わないことだね」
宝玄仙が苛ついた口調で言った。
姜坤三はぞっとした。
「そ、それが……」
知事が困ったような口調でちらりと姜坤三を見た。
沙那と孫空女の処刑が終わったという報告は、すでに知事にしている。遺骸も処分したと告げている。
執行は昨日の夕方だ。
「そ、それが……」
姜坤三は布で額の汗を拭きながら口を開いた。
「……そ、率直に言って、あのふたりの刑の執行は、昨夕終わってしまったのです。自供をしたのです。それで執行をしました。そ、それが本当のところなのです……。いまは、申し訳ないとしか……。ただ、自供をしたのですよ。自供さえしなければ、処刑は行わなかったのですが……」
姜坤三は、宝玄仙の顔をじっと見ながら言った。
ここは白を切り通すしかない。
第二皇子の使者に賄賂をもらって、ふたりの身柄を横流ししたなどと知事に知られたら、姜坤三の立場が悪くなる。
それにしても、無実の罪だったとは……。
「しょ、処刑した──。う、嘘よ──」
朱姫という少女が絶叫して立ちあがった。その眼には涙が溜まっている。
「……待ちな、朱姫──。処刑が執行されたというのは本当かい、お前? ちゃんと、答えるんだよ。もしも、本当なら、わたしはこの県令を火の海にしなくちゃならないんだ。無駄に人殺しなんてしなくないんだけどねえ」
宝玄仙が姜坤三を睨んだ。
ものすごい険しい表情をしている。
ぞっとずるような恐怖が姜坤三の身体を貫いた。
「お、お待ちください──。しょ、処刑が執行されたということが、本当かということであれば、間違いなく執行されました。ざ、残念ながら本当です。じ、実のところ、遺骸も残っておりません。罪人の屍体は灰にして、河に流すのが我が帝国の法です」
姜坤三は説明した。
説明するあいだ、姜坤三は宝玄仙の眼をじっと見たままでいた。
眼を逸らせば、嘘をついていることがばれると思ったからだ。
とにかく、知事の前だけでも、それで押し通す。
宝玄仙たちには、後で説明すればいい。
ふたりの身柄はこっそりと、あの帝都の第二皇子の
陳嬌はふたりの身体に奴隷の刻印をして連れて行った。
それが真相だ。
しかし、知事にそれを知られるのはまずい。
まあ、あとで、宝玄仙には説明すれば納得してくれるだろう。
ふたりは死んではいないのだ。
闘奴隷として連れていかれたので、取り戻すのは難しいだろうが、とにかく死んではいないのだ。
それでいいはずだ……。
「こんなことになるとは信じられません。知事としてお詫びします……」
女知事が頭をさげた。
「そ、そんな……。私らのせいで、沙那殿と、孫空女殿が……」
寇員外が衝撃でぶるぶると震えだした。寇棟も打ちひしがれてがっくりとしている。
朱姫という娘が椅子に腰を落として激しく泣き出した。
宝玄仙はなにかの感情に耐えるように、押し黙っている。
ただひとり、素蛾という童女だけが、じっと姜坤三を見ていた。
さっきから、瞬きもしないような勢いで、姜坤三を見つめ続けている。
その視線が気になった。
「なにか嘘をついていますね、奉行殿?」
その素蛾が突然言った。
姜坤三はびっくりした。
「わ、私が嘘をついているというのか?」
姜坤三は思わず、素蛾の言葉を繰り返した。
「そう言いましたよ。なぜ、わたくしの言葉を繰り返すのですか?」
「わ、私がなにを繰り返していると……」
「それです。それは嘘をいう者の特徴です。そう習いました」
素蛾がきっぱりと言った。
「嘘だって?」
宝玄仙が驚いた口調で言った。
「はい。この人の喋りは、嘘をつく者の特徴です。『率直に言って』、『本当のことを言うと』、『実のところ』……。これに類する固い言葉は、嘘をいう者が知らず口にする言葉です。それから、単純な質問の繰り返し……。ほかにも、必要以上にご主人様を見続けますし、上半身がさっきからほとんど動いておりません。そういう者は嘘を言っていると教えられたことがあります」
素蛾が言った。
「へえ……。帝王学というやつだね。さすがは、公主として躾けられただけあるね」
素蛾のことを公主だと言ったのが少し気になったが、姜坤三の思考は遮られた。
今度は朱姫という娘が、姜坤三の顔の前に乗り出すように出てきたのだ。
「……そういうことなら手っ取り早くいきますか……。さあ、お前、あたしの目を見るのよ。あたしと呼吸を一致させなさい……。いいから、息を合わせるのよ。ほかのことは考えない……。ただ、息を合わせるのよ……」
朱姫が言い始めた。
「な、なんで……」
姜坤三はつぶやいたが、気がつくと、朱姫の呼吸に合わせるように息をしている自分を発見した。
「……そうそう、なにも考えないのよ……。ただ、あたしと息を合わせることだけを考える──。はい、吐いて……。吸って……。吐いて……」
姜坤三はなにも考えられなくなり、ただ、ひたすら朱姫の言葉のままに、息を続けた。
やがて、朱姫がなにかの質問を始めた。
姜坤三は、ほとんどなにも考えられないまま、知っていることに答え始めた。
(第108話『遅かった救出』終わり、第109話『闘奴勧誘』に続く)
【西遊記:97回、
(「711 兄妹なぶり」の後書き②の続きになります。)
寇員外が盗賊たちに殺され、寇員外の妻が玄奘たちが盗賊だったと偽証したことで、玄奘たちは手配されてしまいます。
一方、寇員外の屋敷から強引に出立した玄奘一行は、雨に遭ってしまい、偶然に見つけた「華光竹院」という廃寺で雨宿りをすることにします。
そこに寇員外の屋敷を襲った盗賊たちが偶然にやってきます。
盗賊たちは、玄奘たちからも身ぐるみを剥いでやろうと襲いかかりますが、孫悟空に蹴散らされます。
そのとき、玄奘たちは、彼らが持っていった盗品が、寇員外の屋敷にあった物であることに気がつきます。
玄奘は、盗品を返してやろうと考え、荷物を抱えて寇員外の屋敷に戻るように指示します。
その移動の途中で、玄奘たちを捕らえるために街道を追いかけてきた軍に出くわし、玄奘一行は捕縛されてしまいます。
玄奘たちを取り調べしたのは、「
知事は、盗品を運んでいたという証拠があるのに、自白をしない玄奘に怒り、拷問による自白をさせよと命令をします。
孫悟空は、仕方なく自分こそ犯人だと言い、玄奘の代わりに拷問をひとりで受けます。
そのとき、国都から「陳少将」という使者がやってきます。
知事は、その日の拷問を中止して、使者を出迎える準備をします。
玄奘たちは、牢に戻されます。
その日の夜、孫悟空は、羽虫に変身して牢を抜けだし、寇員外の屋敷に行きました。
そこでは、寇員外の通夜の最中でした。
孫悟空は、羽虫のまま、死んでいる寇員外の声で、「無実の者を訴えるとは、お前たちには一箇月以内に災難を与える」と寇員外の妻や息子たちを叱ります。
びっくりした寇員外の家族たちは、玄奘の告発を取り消すことを約束します。
次いで、孫悟空は、知事の姜坤三のところに向かい、祖先の霊に化けて「無実の罪の者を拷問するとはけしからん」と叱り、さらに、牢番の詰め所にも行き、「高僧を拷問するお前たちには仏罰を与える」と天界の使いのふりをして脅迫します。
翌朝、寇員外の息子たちが告訴を取り下げたこともあり、知事は玄奘たちを釈放します。
そのとき、孫悟空は、一行の荷物や白馬を獄卒たちが盗んだと怒ります。知事たちは平謝りをして、取りあげた一行の荷を集めて返すとともに、この一件は、寇家がすべて悪いのだと言い逃れをします。
玄奘たちは、寇家に戻って真相を確かめることにします。
全員で寇家に戻ったところで、孫悟空は、寇員外に話を訊ねることがてっとり早いと言い、閻魔大王のところに向かって、強引に寇員外の寿命を延長させます。
生き返った寇員外は、賊徒に殺されたことを説明し、嘘をついた自分の妻(穿針女(妻の幼名))を大喝します。
寇員外の妻は、玄奘に謝罪します。
知事は特別のはからいにより、寇員外の妻の罪は問わないことにします。
寇員外と家人は、知事や役人にお詫びの宴席を準備しようとしますが、知事も役人も帰ってしまいます。
玄奘にも、屋敷に滞在をして、改めてもてなしを受けて欲しいと願いますが、玄奘は断ります。
寇員外はせめてもと考えて、派手な旗や鳴り物を準備して、玄奘たち見送ります。
*
次話から、『西遊記』の88~90話の「三人王子」や「九霊元聖」をモチーフにした「天下一武闘会」編となります。
また、この後の西方帝国の帝都におけるエピソードについては、このほか、85・86話の「南山大王」、91・92話の「避寒・避暑・避塵大王」からの登場人物を