※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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 第109話 闘奴勧誘【第二皇子・釘鈀(ていは)】
721 隷属の刻印と寸止め拷問


 監禁された部屋で思念に耽っていた沙那の思考を妨げたのは、股間で動き出した貞操帯の振動だった。

 

「く、くううっ、はあっ、はんっ、あああっ」

 

 沙那は寝椅子に拘束された裸身を思い切り暴れさせた。

 今度は股間に股間に挿入さえている張形がいきなり強い振動を始めたのだ。

 この一日、ずっと沙那はこの貞操帯に翻弄されているが、肉芽、女陰、肛門の三箇所に喰い込んでいる張形の突起は、あらゆる組み合わせと振動、そして、不規則な間隔で沙那を追い込み続ける。

 今回は女陰単独のようだ。

 

 しかも、回転とうねりと蠕動の複雑な動きで沙那の膣で暴れ回る。

 沙那は拘束された身体を限界まで悶えさせた。

 だが、全身のあちこちをしっかりと椅子に緊縛させている革紐は、大きな身じろぎを沙那に許さない。

 

 拘束されているのは、背もたれが斜めに傾いた重厚な木製の寝椅子だ。

 沙那はその椅子に完全に拘束されている。縛られている箇所は、手首と足首のほかに、肘の上下、肩、胸の上下と腹部、腿にはそれぞれ二箇所、膝の下もだ。

 すべてにしっかりと革紐が締めつけられている。

 もがくが拘束が外れる気配もない。

 まさに雁字搦めだ。

 また、沙那が身に着けているのは股間を包んでいる貞操帯だけだ。

 

 沙那がこの部屋に連れ込まれてから、少なくとも丸一日は経っていると思う。

 閉じ込められているのは、拘束椅子以外にはなにもない殺風景な部屋だ。

 窓もなければ扉さえもない。

 だから、正確な時間はわからないのだが、数刻置きに『移動術』で数名の侍女が食べ物を運び、沙那の身体を拭いていく。

 それが四回あった。

 それが通常の食事の時間とすれば、ここに連れ込まれたのは真夜中だったから、いまは二日目の朝のはずだ。

 

 ただ、その侍女たちは、沙那がどんなに話かけても口を開くことはない。

 無造作に食べ物と飲み物を沙那の口に運び、黙々と身体を拭くだけだ。

 そして、最後に沙那の貞操帯を外して、拘束されている椅子の股間部分の下を開いて壺を置く……。

 

 貞操帯を着脱するときには、着脱の邪魔にならないように張形が消失するようになっているのだ。

 また、沙那が座らされている椅子にも下部に特別な仕掛けがあり、沙那を拘束したまま貞操帯を外したり装着させたりできるようだ。

 貞操帯が外されるのは、そのあいだに、排尿や排便をしろという意味だろう。

 

 一定時間、そのままにされ、便をしてもしなくても、侍女たちは再び沙那に貞操帯を装着して、股間を塞いでしまう。

 貞操帯を装着されると、消失していた貞操帯の内側の突起が出現して、沙那の肉芽と女陰と肛門を圧迫する。

 すべてが終われば、侍女たちは去っていく。

 それだけだ。

 

 彼女たちは、ずっと無言のままだ。

 その後は、霊気の刻まれた淫具である貞操帯の責めに苛まれる時間が再開する。

 それがまったく同じように四回繰り返されていた。

 

「くううっ、はああっ、ああっ、あっ」

 

 そして、いまのように、なんの前触れもなく女陰と肛門と肉芽の三箇所を不規則に刺激する。

 それもまったく出鱈目な間隔でだ。

 責めの間隔と組み合わせは、沙那に予想を許さない。

 

 短い間隔で断続的に数刻刺激することもあれば、ゆっくりと長く沙那の股間を苛み続けることもある。

 三箇所のうち、一箇所ずつのときもあるし、同時のときもある。

 

 この貞操帯を装着されて、ずっとこの部屋で独りぼっちにされて敏感な脾肉をいたぶらているのだが、そのあいだ、ひたすらこの貞操帯の振動に翻弄され続けてきた。

 

「ああっ、んああっ、くはああっ」

 

 振動が突然に静止した。

 またもや、絶頂の寸前だ。

 

 沙那は昂ぶるだけ昂ぶった身体の火照りが苦しくて、大きな嘆息をした。

 最初こそ、この貞操帯は激しい快感を沙那に与え続けて、度重なる絶頂を沙那に強要したが、半日くらい経った頃から貞操帯の責め方に変化があった。

 沙那が受ける快感をかわすようになり、絶頂寸前で刺激が停止するようになったのだ。

 焦らし責めだとは思ったが、沙那にはどうしようもない。

 

 絶頂寸前までしか責めてもらえないもどかしさに苦しむだけの時間が続いた。

 それでいて、この貞操帯は沙那が快楽の断ち切られることがないように、どんなに長くなっても、必ず沙那の身体が冷めないうちに振動を再開する。

 だから、沙那はいつまで経っても、淫らな快感から逃げることができなくて苦しんでいる。

 

 これは拷問だ──。

 まさに、性の拷問──。

 

 鞭で打たれたり、棒で突かれたりする方がどんなに楽なのだろうかと思う。

 女の生理を弄ぶような悪魔の責めだ。

 寸止め責めいうのも何度も宝玄仙や朱姫からさせられたことがあるが、本当につらいのだ。

 もしも、これが初めて受ける寸止め責めだったら、沙那はとっくに屈伏していたかもしれない。

 

 だが、屈伏はしない──。

 してはならないのだ……。

 

「くああっ──はああ──」

 

 沙那は身体をびくりと硬直させた。

 また、始まったのだ。

 今度は三箇所全部だ──。

 

 敏感な股間の三箇所が一斉に強い振動で苛まれる。

 あまりにも激しい愛液のために、沙那の股間からは水でも弾いているような音がしている。

 沙那は身体を貫く快感の槍に、思い切り淫らな声をあげた。

 

 疼きがだんだんと稲妻をうけたような衝撃に変化する……。

 沙那は身体をよじらせた。

 喉を限界までのけぞらせた……。

 

「くうううっ、はあっ」

 

 しかし、やっぱり、絶頂の寸前で張形は静止した。

 沙那はがくりと脱力した。

 そして、快感の疼きの火だけが残る。

 

 激しいもどかしさ……。

 ぎりぎりで快感を取りあげられる切なさ……。

 沙那は歯ぎしりした。

 

「つらそうね、沙那──? そろそろ、隷属の刻印を受け入れる気持ちになったかしら?」

 

 目の前の空間が歪んで、折り畳み椅子を手にした陳嬌(ちんきょう)が出現した。

 嫌味のように、顔に満面の笑みを浮かべている。

 

「じょ、冗談、言うんじゃないわよ……。か、勝手なことを──」

 

 沙那は陳嬌を睨みつけた。

 陳嬌は、そんな沙那の強気の言葉を愉しむかのように、沙那の正面に椅子を拡げて、少し距離を離して座った。

 

「だけど、苦しいでしょう……? もう、すっかりと貞操帯があんたの脳が感じる絶頂感覚を計数的に記憶してしまったから、その貞操帯を身に着けている限り、絶頂することは絶対にないわよ……。あんたの快楽の度合い……、反応……、肌や汗、息づかい……。そういうものをすべて解析して、ぎりぎりで刺激を静止するように命令が刻まれているの……」

 

「う、う、うるさい──」

 

「ふふふ……。わたしも女だからわかるわ。女である以上、これに屈服しないわけはない。いいから、屈伏しなさい。“隷属の刻印”を受け入れる……。それだけのことじゃないのよ。すべてが終われば解放してあげるわ。あんたたちは、殺人の罪で処刑になるところだったのよ。それを助けてあげたんだから、隷属の刻印くらい受け入れてもいいじゃないのよ。悪い条件じゃないと思うのに、なぜ、そんなに頑なに拒否するのかわからないわ」

 

 陳嬌が肩をすくめた。

 

「はあああっ」

 

 そのとき、突然振動が始まった。

 肛門に喰い込んでいる突起がうねうねと動いている。

 これは堪らない──。

 

「ああっ、はうううっ、はあっ、はっ、はっ──」

 

 快感がせりあがる。

 それを陳嬌が余裕たっぷりの視線で見ているのがわかる。

 それが口惜しい。

 

 沙那は戦った。

 そして、全身をがくがくと震わせて、絶頂間近の快感の衝撃に悲鳴をあげた。

 

「ふくううう──」

 

 沙那は拘束された両手で手摺を力一杯握りしめた。

 顔を上に向ける──。

 今度こそ、いきそう……。 

 だが、張形は、またしても、ぎりぎりのところまで沙那をで追いつめた挙句にぴたりと停止した。

 沙那は荒い息をしながら、いきたくてもいけない身体の疼きの苦しみに耐えた。

 

 それにしても、なんという陰湿な責めだろう。

 沙那の身体は、快感に満たされたいという欲求が渦巻いている。女の性を弄ばされて、狂いそうな身体の猛りが煮え続けている。

 この状態をずっと維持させられるのはつらすぎる。

 

「とても、いやらしい顔をするのね、沙那……? 寸止めを延々に続けられるというのはどんな気持ちなの? 身体が熱いでしょう? いい加減に屈伏してよ。なんでそんなに意地を張るの?」 

 

 陳嬌は呆れた口調で言った。

 

「な、なにが屈服しろよ──。こんなことをいくら続けても無駄よ──。わたしらに勝手に、『隷属の刻印』とやらを刻んだあんたじゃないのよ──。だったら、さっさと赤でも黒でも色を変えたらいいじゃないのよ」

 

 沙那は怒鳴った。

 

「だから、何度も説明したじゃないのよ。その刻印を完全に支配道術として完成させるには、あんた自身の屈伏の言葉が必要なのよ──」

 

 陳嬌は言った。

 沙那の腹には、黒い線でなにかの紋章のようなものが刻まれている。

 処刑されたと思った牢内で意識を失った後、眼が覚めたときには、沙那も孫空女も、腹にこの紋章が刻まれていたのだ。

 これが、『隷属の刻印』と呼ばれる、一種の支配道術によるものであり、これを刻まれた者の意思を制御して、逃亡を防ぐものだと教えられたのは、孫空女とふたりで西方帝国の帝都に移動する檻車の中でのことだ。

 

 どういう経緯でそうなったのかわからないが、沙那と孫空女は、帝国の南にある華光(かこう)という地方都市で、地方軍の捕縛隊に包囲されて、寇員外(こういんがい)殺しの罪で捕えられてしまった。

 そして、すぐに県都の軍営に連れて行かれて、殺人を自供しろと拷問を受けた。

 おそらく、沙那はその拷問に負けて、やっていない殺人を自供したのだと思う。

 実は、拷問の途中から沙那の記憶は吹っ飛んでいて、まるで記憶がないのだ。

 

 屈服したのは孫空女も同じのようだ。あまりにも苛酷な拷問に、沙那も孫空女も耐えられなかったのだ

 すると、その日の夕方に、突然役人がやってきて、牢内で処刑を執行したのだという。

 毒薬だったいうことだ。

 それについては、沙那はほとんど記憶がないが、檻車の中で孫空女からそれを教えられた。

 

 だが、沙那も孫空女も死んではいなかった。

 処刑の終わった罪人の死骸として営牢を出されたのだが、実際には致死性のない毒薬で一時的な仮死状態になっていただけであり、その後、ふたりの身体をこの陳嬌が回収したのだ。

 陳嬌は、この西方帝国の第二皇子の釘鈀(ていは)という男の女部下であり、この帝都で近く天下一闘技会が開催されるとかで、釘鈀の闘奴隷として参加させる逸材を連れに、わざわざ王華国の田舎までやってきていたのだ。

 

 陳嬌は、もともとは、阿形(あぎょう)、吽形(うんぎょう)という別の屈強な男たちを連れ帰るつもりだったが、沙那と孫空女が、そのふたりを一騎討ちで倒したと耳にして、連れ帰る対象を沙那と孫空女に変更したらしい。

 

 しかし、罪人である沙那と孫空女の身柄は、いくら西方帝国の第二皇子の使者とはいえ、簡単に引き渡すわけにはいかない。

 それで、陳嬌と華光の上級役人が取引をして、沙那たちを慌ただしく処刑したことにして、ふたりを引き渡したということのようだ。

 

 もちろん、そんな詳しい話のすべてを陳嬌から教えてもらったわけではない。

 だが、孫空女や沙那の知っていることと、陳嬌が仄めかしたことを総合すれば、そういうことになるのだ。

 まあ、完全に当たってはいないかもしれないが、大きくは外れてもないと思う。

 

 とにかく、そうやって、沙那と孫空女は外からは隠された檻車に乗せられて、遥々この西方帝国の帝都まで連れて来られた。

 そのあいだ、沙那も孫空女も檻車から逃亡を図ることはなかった。

 ふたりの裸身に刻まれていた刻印は、刻まれた者が主人から逃亡するのを防ぐためのものであり、その意思を失わせる効果があるのだ。

 沙那も孫空女も檻車で揺られながら、ただの一度も逃げようとする行動を起こすことはなかった。

 

 そして、ここに到着した。

 どこか大きな屋敷の前庭のような場所に着いたということは覚えている。

 明り取りの天井から、建物が見えたのだ。

 時刻は真夜中だった。

 

 それから先は記憶は中断している。

 閉じ込められていた檻車の中に白い煙のようなものが漂い始めた。

 その煙を吸うと、急に眠くなり、気がつくといまの状態に寝椅子に拘束されていたのだ。

 

 股間には貞操帯だ。

 孫空女がどうなったかもわからない。

 別々に監禁されたのだということだけはわかる。

 少しのあいだ、そのまま放置され、しばらくして姿を見せたのが目の前の陳嬌だ。

 

 陳嬌は、沙那に天下一闘技会という皇帝主催の闘技会が開催されることを説明し、それに出動させるには沙那たちに隷属の刻印を刻む必要があるので、それを受け入れろと言ってきた。

 すでに刻印は刻まれており、やるなら勝手にしろとうそぶくと、陳嬌は、いま沙那たちに刻まれている刻印は、まだ中途半端な状態であり、単に逃亡を防ぐ効果でしかないのだという。

 

 隷属の刻印を完成させるには、沙那と孫空女が、刻印を受け入れるということを口にする必要があり、それで初めて刻印が完成し、その証拠として、刻印が黒から赤くなるのだと教えられた。

 陳嬌は死刑になるのを救ってやったのだから、闘技会に出場しているあいだ、刻印を受け入れろと迫った。

 

 驚いた──。

 陳嬌の説明によれば、隷属の刻印が完成されれば、主人に絶対服従の道術が身体にかけられてしまうのだそうだ。

 なにからなにまで、宝玄仙の『服従の首輪』と同じではないか──。

 

 首輪が刻印に変わっただけで、「受け入れる」という言葉が支配を完成させるという点まで同じだ。

 それを一度受け入れてしまえばどういうことになるかは、誰よりも沙那がよく知っている。主人の言葉に逆らえない生きた人形に成り下がるのだ。

 沙那は絶対に嫌だと拒否した。

 すると、この寸止め拷問が始まったのだ。

 

 そして、丸一日……。

 沙那は心の折れかけている自分を発見していた。

 

「とにかく、闘技会には、釘鈀皇子も皇太子として、隷属の刻印を刻んである自分の闘奴隷を出場させないとならないし、それにはあんたの屈伏が必要なのよ。なんでもないことじゃないのよ……。おかしな使い方をしないと約束するわよ。釘鈀皇子は善良な方よ……。皇子の奴隷になれるなら、むしろ幸運よ」

 

 陳嬌が諭すような口調で沙那に語りかける。

 だが、沙那はそんな馬鹿馬鹿しい言葉に引っ掛かるほど馬鹿じゃない。

 なんとしても、拒否続けるしかない。

 

 折れたら終わりだ──。

 絶対に駄目だ。

 沙那は自分を戒めた。

 

「はううっ」

 

 沙那は身体を暴させた。

 またもや股間の振動が始まったのだ。

 

 今度は肉芽と女陰……。

 沙那は椅子に縛られたまま叫んだ。

 叫んでいないと、この強烈な快感責めは我慢できない。

 

「屈伏しなさい……。絶頂させてあげるわ……。それに、その身体で我慢は不可能よ。気がついていたと思うけど、あんたがここで飲み食いした食べ物にも、飲み物にも、強い催淫剤がたっぷりと入っていたのよ。それを食事ごとに、たっぷりと口にして、なおかつ、この寸止めよ。耐えられないのよ。もう、つらいでしょう? もう、終わりにしましょうよ。あんたの頑固さはわかったわ……。でも、強力な媚薬漬けにされたんだから、仕方ないじゃないのよ」

 

 陳嬌が甘い声で口説くような口調で言う。

 やっぱりと思った。

 沙那が拒否しても、あの喋らない侍女たちは、無理矢理に食べ物や飲み物を沙那の口に押し込んだ。

 だから、なにかあるとも思ったのだ。

 

「んぐうう」

 

 沙那は歯を食いしばった。

 それにしても、凄まじい快感だ。

 

 いきそうになる。

 身体が反応する。

 

「あはあああ──」

 

 沙那はのけぞった。

 今度こそ絶頂すると思った。

 しかし、貞操帯はぴたりと振動を停止した。

 

「あああ、またあああ──」

 

 突っ張っていた身体から力が抜けた沙那は、思わず、泣きそうな声を出してしまった。

 はっとした。

 陳嬌を見ると、沙那の醜態を微笑みながら見ている。

 屈辱が全身を覆った。

 

「そんなに頑張らなくていいじゃない……。あんたの連れは、さっき屈服したわよ」

 

 すると、陳嬌が言った。

 孫空女のことだろう。

 

「そ、そんな馬鹿なことを言うもんじゃないわよ──。孫女が屈伏するわけがないわ」

 

 沙那は叫んだ。

 

「だけど、事実よ……。じゃあ、これを見なさい──」

 

 陳嬌が手を振った。目の前に道術による映像が出てきた。

 孫空女がいた。

 拘束はされていなかった。

 沙那と同じような部屋にひとりでいるようであり、跪いて股間に手を当てて動かしている。

 なにをしているか一目瞭然だった。

 映像の孫空女は自慰をしていた。

 

「刻印を受け入れれば、あんな風に気持ちのいいことが最後までできるのよ。見てごらんなさい。お腹の刻印の色を……」

 

 陳嬌が言った。

 孫空女の腹の刻印は赤い線だった。

 刻印を受け入れた証拠だ。

 沙那は眼を疑った。

 あの頑固な孫空女が宝玄仙以外の支配を受け入れるわけがないはずだ──。

 

「絶対に信じられないわ──」

 

 沙那は声をあげた。

 そのとき、映像の中の孫空女ががくがくと身体を震わせて身体をのけ反らせた。

 映像だけで声は聞こえないが孫空女が絶頂したのは明らかだ。

 沙那が飢えるように欲している快感を孫空女は手に入れている……。

 そう思うと、孫空女に対する複雑な感情が沸き起こる。

 そういう風に考えること自体、すでに陳嬌の手に乗っているだとは思う。

 しかし、もう沙那の身体も頭もどうしようなく追い詰められている。

 たった一回の絶頂を求めて発狂しそうだ──。

 

「刻印を受け入れてよ、沙那……。孫空女のように気持ちよくなりたいでしょう? 孫空女は受け入れて快感を手に入れたのに、あんたはあくまでも意地を張って、ずっと寸止めの苦しみを受け続けるの? それは不公平でしょう? いいから受け入れなさい……。ひどいことにはならないと、本当に約束するから」

 

 陳嬌が言った。

 

「い、嫌だと言っているでしょう──。何度も同じことを言わせるんじゃないわよ──。この糞女──」

 

 沙那は吠えた。

 陳嬌が気分を害したのか、ずっと浮かべていた微笑みが消滅して、険しい表情になった。

 

「……あくまでも拒否するのね……。でも、わたしもどうしても屈伏してもらわないと困るのよ……。じゃあ、映像の孫空女を見ていなさい……。あくまでも拒否するなら、孫空女を殺すわよ……。それでも拒否するの?」

 

「はったりを使わないことね。あんたたちは、なんとかという闘技会にわたしたちを出場させたいんでしょう? 皇帝の命令とやらで。わたしたちを殺すわけがないわ。殺したら元も子もないからね」

 

「はったりかどうか、見ているのね」

 

 陳嬌が不敵な笑みを浮かべた。

 すると、映像の中の孫空女に突然に糸が四方から放たれた。

 孫空女の両手首と首に糸が伸びて、まずは孫空女の両手を後手に縛った。

 当惑する様子の孫空女の首に絡んだ糸がゆっくりとあがり始める。

 

「そ、孫女──」

 

 こっちの声は聞こえていないのを承知で、沙那は叫んでしまった。

 首に強く絡んだ糸を引きあげられて、孫空女は苦しそうだ。

 

「沙那、刻印を受け入れなさい──」

 

 陳嬌が叫んだ。

 

「孫女──」

 

 沙那は陳嬌を無視して叫んだ。

 

「受け入れるのよ、早く──。お前が受け入れると言えば、あの糸はとまるわ。そういう風に設定しているのよ。もう、それ以外に、糸の上昇を中止させる手段はないわよ」

 

 陳嬌が大きな声をあげた。

 沙那は映像の孫空女を凝視した。

 すでに孫空女は爪先立ちになっている。

 顔が真っ蒼だ。

 とても苦しそうだ。

 

「沙那、刻印を受け入れるよ言うのよ──。さっきも言ったでしょう──。誰にも止められないように設定しているんだってばあ──。あんたが刻印を受け入れない限り、糸は上がり続けるのよ──」

 

 沙那は黙っていた。

 なんと言われようとも、刻印を受け入れるわけにはいかないのだ。

 そして、映像の中の孫空女のつま先が床から離れて、首を吊られた孫空女の身体が完全に宙に浮いた。

 

「沙那あああああ──」

 

 陳嬌が絶叫した。

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