※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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722 第二皇子の訪問

「沙那あああ──」

 

 陳嬌(ちんきょう)は絶叫した。

 相棒の女が首を吊られて死にかけているのに、それでも意地を張って隷属の刻印を受け入れないというのは予想外だった。

 しかし、沙那は蒼い顔をしているものの、道術で映した映像をじっと凝視するだけで、刻印を受け入れるとは言わない。

 目の前の宙に映る孫空女は、首を吊られて、しばらく宙でもがいていたが、やがて動かなくなった。

 

「な、なんて女……。孫空女はあんたの仲間じゃないの? それを見捨てるなんて……」

 

 陳嬌は言った。

 

「茶番はやめてよ」

 

 すると、沙那が陳嬌を睨みつけた。

 

「茶番?」

 

「細工をしても、孫空女の筋肉のかすかな動きから本物の動きか、偽者の動きかわかるのよ。孫空女はあの細い身体で大の男十人分の怪力なのよ。だから、特別な筋肉の動き方をするの……。目の前にぶら下がっている孫空女は偽者よ」

 

 沙那はにやりと笑った。

 陳嬌は驚いた。

 まさか、見破られるとは思わなかったのだ。

 

 確かにあれは偽の映像だ。

 首で宙吊りになった孫空女は、陳嬌自身が『変身術』で孫空女に化けて、あらかじめ作っておいた映像であり、途中からそれに入れ替えたのだ。

 

 陳嬌は手を振った。

 入れ替えた偽の映像から、実際の孫空女の画像に戻った。

 もう落ち着いたのだろう。

 さっきまで自慰をしていた孫空女は、素裸のまま立ちあがって、壁のあちこちを叩いたりして出口を探そうとしている。

 だが、無駄なことだ。

 孫空女がいる部屋も、沙那がいるこの部屋も、この釘鈀(ていは)の屋敷にある特別な牢なのだ。

 道術以外に外に出る方法は存在しない。

 

「だったら、いまの映っている孫空女が本物かどうかはわかる?」

 

 陳嬌は訊ねてみた。

 

「……本物よ……」

 

 沙那は険しい顔をして言った。

 どうやら、はったりではなく本当にわかるようだ。

 いま目の前に流している映像は正真正銘の本物だ。

 そして、沙那は孫空女の腹に描かれている赤い色の刻印に注目しているようだ。

 赤い刻印だということは、隷属の刻印を孫空女が受け入れたということだからだろう。

 

「そうよ……。孫空女は刻印を受け入れたわ。だから、あなたも受け入れてよ。いつまでも、苦しいことを続けることはないでしょう」

 

 陳嬌は言った。

 孫空女には、さっきの沙那と同じように、首を宙吊りにされる沙那の偽の映像を見せた。

 仰天した様子だった孫空女は、沙那を助けるために、あっさりと隷属の刻印を受け入れた。

 だが、沙那は孫空女よりも、思慮深くて慎重な性質のようだ。

 同じ手は通用しないらしい。

 

「ふくうっ、はああ、はっ、はあ、あはあ──」

 

 寝椅子に拘束されている沙那の裸身がいきなり跳ねた。

 貞操帯が振動を始めたのだ。

 沙那が激しく首を振っている。

 

 急激に快楽をせりあげられて、強すぎる快感に対応できないでいるのがわかる。

 この霊具の貞操帯には記憶機能があり、装着している女体の性感の動きを完全に覚え込み、時間が経てば経つほど、だんだんと女体が一番気持ちいいと感じる方法で的確に責めたてるようになる。

 しかも、女体が予測して備えられないように、振動の方法も箇所も間隔も不規則に変化させる。

 それも覚えるのだ。

 そして、女体がもっとも心を苛まれる寸止めのやり方を探して、それをひたすら継続する。

 こんなものを長時間身につけさせられたら、どんな気の強い女でも屈服するしかないはずだ。

 

「淫乱な雌の顔をしているわよ、沙那? 最後までいきたいでしょう? いきたいって言ってよ」

 

 陳嬌は拘束された身体を沙那をじっと見ながら言った。

 もう沙那は限界なのだと思う。

 しかし、堕ちそうで、なかなか堕ちない。

 その状態で沙那は留まっている。

 

 なかなかしぶとい。

 陳嬌は舌打ちしたくなる。

 

「う、うるさい……。はあ、はっ、はあっ、ああ……」

 

 沙那が激しく悶えている。

 その身体は汗びっしょりだし、全身が真っ赤に染まっている。

 それだけ、沙那の快感が強いことを物語っている。

 

 やはり、沙那を堕とすのは快楽責めしかないかもしれない。

 沙那が孫空女よりも、快感に弱いのはすぐにわかった。

 彼女の強気の言葉が、追い詰められていることの裏返しということもわかるのだ。

 もしも、このまま十日や二十日も続ければ、沙那を堕とせるという自信はある。

 

 だが、釘鈀が闘奴隷を出場させなければならない天下一闘技会は、もう二日後だ。

 それまでに沙那に隷属の刻印を受け入れらさせなければ、釘鈀が皇子として困った立場になってしまう。

 陳嬌は正直焦っていた。

 

「ふうう──」

 

 沙那ががくりと脱力した。

 絶頂寸前のぎりぎりで貞操帯の突起の振動がとまったのだろう。

 基本的には貞操帯の振動は、始めるのも終わるのも自動的なのだが、振動をさせるときは、意図的にも動かせる。

 だが、静止するときは沙那の身体に接している貞操帯が自ら判断して責めをやめる。

 だから、どんなに勝手に動かしても、絶対に沙那を達しさせてしまうことはない。

 陳嬌は指を動かした。貞操帯の振動を間髪入れずに再開させたのだ。

 

「くううっ」

 

 沙那が手摺を握りしめて、強く身体を震わせた。

 いったん静止した貞操帯の突起をすぐに振動させたから、沙那は予期できなかったのだろう。

 淫情に顔を歪めながらも驚いた表情をしている。

 同時に、そうやっていたぶられるのが本当に口惜しそうだ。

 

 だが、沙那に与えたのは、ほとんど振動するかしないかの微妙な動きだ。

 この振動でもいまの沙那は、絶頂寸前の追い詰められた快感から逃げられないだろう。

 ……かといって達することもできない。

 そんな中途半端な刺激のはずだ。

 いまの沙那には一番堪えるに違いない。

 

「い、いい加減にして……は、あっ、くっ……、こんなことしても無駄よ……。う、うう……」

 

 髪の毛を汗で額に張り付かせた沙那が陳嬌を睨んだ。

 

「その割には、追い詰められた顔をしているじゃないの? いきたいならいきたいと大声で叫んでちょうだい。もちろん、刻印を受け入れるのが条件だけど」

 

「い、嫌だって、言っているでしょう──」

 

 沙那が絶叫した。

 陳嬌は嘆息して立ちあがった。

 少くとも、まだ、沙那の心が折れるには時間がかかりそうだ。

 

 陳嬌は道術で部屋の外に出た。

 『移動術』で跳躍した先は、沙那と孫空女を閉じ込めている部屋の壁ひとつ向こう側だ。

 そこは大きな広間になっていて、陳嬌のほかの数名の部下の詰所になっていた。

 向こうからはただの壁にしかみえないが、こちらからは沙那と孫空女のいる部屋は完全な透明になっている。

 無論、音は完全に遮断されてる。

 

 沙那と孫空女をそれぞれの部屋に監禁して以来、ここでずっとふたりを観察していた。

 なんとしても明日までに隷属の刻印を受け入れさせる──。

 それが陳嬌の役割だ。

 

 だが、なんという沙那の気の強さだろう。

 陳嬌は、寝椅子に拘束された状態で淫らに身悶えている沙那を観察しながら思った。

 あんなに追い詰められているのに、なんで、まだ意地を張るのか──。

 

 沙那の精神力はどこから来るのか……?

 たかが、犯罪者ふぜいのくせに……。

 そのとき、詰所の出入り口の扉が開いた。

 

「あっ──殿下──。こんなところに──」

 

 入ってきたのは第二皇子の釘鈀だった。

 ここは釘鈀自身の屋敷なので服装は生活着であり、連れもおらずたったひとりだ。

 陳嬌は驚いて直立不動の姿勢をとった。

 詰所には、いまは陳嬌のほかに三名ほどの部下がいたが、それも陳嬌にならう。

 

 釘鈀が手で座るように合図をした。

 部下がすぐに釘鈀の座る椅子を陳嬌が座っている場所の隣に準備した。

 釘鈀がそれに腰かける。

 

「孫空女には、服と身の回りを整えるものを与えてください。刻印を受け入れたのだから、もういいでしょう」

 

 釘鈀がまず孫空女の部屋を一瞥して言った。

 孫空女は相変わらず素裸のまま、壁のひとつひとつを叩いて回っていた。

 いまは、こちら側の壁にとりかかってるようだ。

 少しでも弱い場所があれば、それを見つけようとしているのだろう。

 だが、こちら側からは丸見えなので、さっき自慰で達した股間をぬぐうこともせずに曝け出している姿は滑稽だ。

 釘鈀の指示に、すぐに部下が動いた。

 着させる服などはあらかじめ準備してあったので、それを『移動術』で転送するだけだ。

 

 物が送られた、

 部屋の中の孫空女が驚いている。

 そして、転送されたものに近づいて観察し始めた。

 

「……沙那はまだ時間がかかりそうですか、陳嬌?」

 

「も、申し訳ありません。でも、必ず、今日中……、いえ、明日には……」

 

 陳嬌はうなだれた。

 

「少し、私が話をしてみますか」

 

 釘鈀が沙那の部屋を観察しながら言った。

 

「話……ですか、殿下?」

 

「ええ、真摯にお願いしてみましょう。説得に応じるとは思えませんが、事態に変化があるのかもしれない。食事でもしながら寛いで話をしてみましょう。準備をしてください。午後は皇帝陛下に呼ばれているので、準備ができ次第に話をすることにします」

 

「殿下自らが、あんな奴隷とですか? 沙那は寇員外という善人を殺してきたような殺人者ですよ」

 

「わかっていますよ。だからこそ、こちらも容赦なく闘奴隷に落とす決心もできるのです。しかし、盗人にも五分の魂というじゃありませんか。もしかしたら、お願いすれば、素直に応じるかもしれない」

 

「応じませんよ──。あれは、とんでもない頑固者です──。ねえ、殿下──。どうしても、堕ちないときには、暴力を使うことを許していただけませんか? こんな手緩いやり方では……」

 

「手緩いですか? 随分と苦しそうですよ、沙那は……。いずれにしても、暴力は好きではないですね」

 

 釘鈀は優雅に笑った。

 

 

 *

 

 

 突然に侍女たちが大勢やってきて、拘束が外され、身体を拭く布と服が与えられた。

 沙那は呆気にとられた。

 そのうちに、侍女たちは部屋に大き目の卓や椅子などを運びこんできて、さらに食器や食事をなどを並べだした。

 

 一瞬、沙那はこの侍女のひとりを人質にすることも考えたが思い直した。

 侍女が人質として通用するとは思えない。

 それよりも、これからなにが始まるのか見極めた方が得策のような気もした。

 侍女たちが支度をしている食事は三人分のようだ。

 

 とにかく、沙那は服が入っている籠に手を伸ばした。

 まずは、汗びっしょりの身体を布で拭く。

 股間にはまだ貞操帯を装着させられたままであり、秘裂からくちゅくちゅと音が鳴るくらいに陰部の内側が濡れているのがわかる。

 喰い込んだ貞操帯の革の隙間から垂れ出た愛液が、内腿どころか足の指まで垂れている。

 まるで尿でも洩らしたような大量の愛液の激しさに、自分でも情けなくなる。

 

「ああ、な、なんで──?」

 

 次の瞬間、沙那は激しく狼狽した。

 貞操帯の突起が三箇所で一斉に動き出したのだ。もう解放されたのではないかと思っていただけに、それは衝撃だった。

 

「はあ、ああ、あああっ」

 

 沙那は股間を押さえたまま、その場にしゃがみ込んだ。

 だが、侍女たちは、沙那の狂態などないかのように、淡々と周囲を動き回って食事の席の支度をしている。

 

 惨めだった。

 沙那は、せりあがる快感に耐えながら、強引に外れないかと試してみた。

 しかし、貞操帯はしっかりと喰い込んでいて、まるで身体の一部であるかのようだ。

 手が自由になったところで外せるようなものでもない。

 

 結局、沙那には、だた、両手を押さえて身体を震わせるだけのことしかできない。

 沙那の喰い縛った口から嬌声が漏れ続ける。

 

 だが、しばらくしたら、またしても貞操帯の振動がぴたりと止まった。

 やはり、絶頂の直前だ。

 沙那は歯噛みした。

 

 さっき拭ったばかりの股間を見た。

 情けないほど愛液が垂れている。沙那は自己嫌悪に陥るのを感じながら、もう一度内腿に洩れた自分の愛液を拭いた。

 身体が熱くて苦しい。絶頂の快感を求めて、沙那の中で淫情の疼きが荒れ狂っている。

 

 とにかく、与えられた服を着ることにした。

 籠の中に入っていたのは、袖のない上衣と下袍だった。

 色は真っ白であり、上衣を身に着けてみると、上衣の丈が臍の上までしかなく、腹の刻印がはっきりと見える仕様になっていた。

 下袍の丈は膝下までの普通のものだ。

 そのほかに内着や下着のようなものはない。

 履物もないので素足だ。

 さらに、服の下に一本のくしがあった。

 沙那がそれを手に取ると、空中に道術の姿見が出現した。姿見に映った自分の顔がすっかりと淫情に呆けたような表情をしていた。

 沙那は自分自身に気合いを入れるために、歯を食いしばった。

 

「支度ができたようね?」

 

 沙那が身支度をするのを見計らったように、部屋の反対側に陳嬌が出現した。

 陳嬌はさっきまでの簡易な下袴と上衣ではなくて、礼装に近いきちんとした女性の服装をしている。

 隣にもうひとり、身なりのいい男がいる。

 にこにこと微笑んでいて、年齢は三十くらいだろうか。

 

 沙那は自分の心臓が高鳴るのがわかった。

 もしかしたら、釘鈀皇子ではないかと思ったのだ。

 ただ微笑んで立っているだけだが、その男からは、彼が高貴な人物である雰囲気が、そこはかとなく醸し出ている。

 

 男もあた、微笑ながら油断なく沙那を観察してもいたが、その目付きは隙がないというよりは、好奇心の強さを感じる。

 微笑んでいる表情からの印象は、大らかさと育ちのよさというところだ。

 ある程度の武術はできるようだが強くはない。

 それもわかる。

 しかし、肝は座っているという感じだ。

 

 一方で隣の陳嬌ははっきりとした遣い手だ。

 道術も使えるようだが、武器もそれなりに遣える。

 だが、いまはその陳嬌はもちろん、男も得物は持っていない。

 

 人質にできるか……?

 沙那が考えたのはそれだけだ。

 

「座ってください、沙那」

 

 男が言って、卓に面した椅子のひとつに座った。

 長広の卓に向かう合うように三個の席が準備されており、沙那側にひとつ、男側にふたつ椅子がある。

 沙那はこちら側のひとつに腰かけた。

 陳嬌が沙那を見張るように視線を送りながら、男の隣に腰かけた。

 

「さあ、食べましょうか」

 

 男が言った。

 卓の上にはすでに食事が載っている。

 ひち口大に切ったみずみずしい果物、焼いた野菜に生野菜、肉や魚──。

 そのほかにもさまざまな食材が大皿に載って、三人の中心に置かれている。

 また、それぞれの前には、大きな野菜の葉が十数枚ある。

 男は葉を一枚取り、大皿から薄い肉と焼いた野菜のひとつを手で取って葉の上においた。

 それをくるくると丸めて手掴みのまま口にした。

 そうやって食べるもののようだ。

 陳嬌も同じようにしている。

 沙那も応じた。

 

「申し遅れましたが、釘鈀です──。この屋敷の主ですよ」

 

 男が言った。

 やっぱりかと思った。

 文句のひとつでも言おうと思ったら、不意に股間が動き出した。

 

「くううっ、ふうっ、んん──」

 

 沙那は身体をぐっと前に倒して、沸き起こった淫情に口を懸命に閉ざした。

 口の中にはまだ食べ物が入っている。

 食事をしながら悶えさせて、その醜態を愉しむつもりなのだろう。

 陰湿さに腹が煮えくり返る。

 

 沙那は釘鈀を見た。

 目の前で悶える沙那を見ても、まったく表情を変化させない。

 まるで、何事も起こっていなっかのように、平然と食事を続けている。

 沙那は沸騰するような怒りを覚えた。

 

「このうっ──」

 

 飛びかかった──。

 股間の貞操帯はまだ沙那を責め続けたままだが、だからこそ、いまこの瞬間に沙那が飛びかかってくるとは思わないだろう。

 しかし、見えない壁に阻まれた。

 大皿の中心を横切るように、透明の膜があったのだ。

 釘鈀を掴もうとしてた沙那の両手はそれで遮られた。

 

「こいつ──。皿の上側に結界を敷いていてよかったわ──。まさかとは思ったけど、こういうやつなんですよ、殿下──。話し合いなんか無駄です──」

 

 陳嬌が怒りで顔を真っ赤にして立ちあがった。

 次の瞬間、貞操帯の刺激が一斉に最大振動になった。

 

「ふくううっ──」

 

 沙那はそのまま腰が抜けたようにしゃがみ込んでしまった。

 

「あはあっ、ああっ、ああ、ああっ……」

 

 沙那は股間を押さえて全身を震わせた。

 そして、貞操帯は沙那の股間をしばらく苛んだ挙げ句にぴたりと停止した。

 またしても、絶頂直前の強いもどかしさを残して放置された。

 沙那は股間を押さえたまま、息を整えるために、しばらくじっとしていた。

 

「座ってください、沙那」

 

 釘鈀が言った。

 沙那は釘鈀を睨んだ。

 その平然とした表情が気に入らない。

 

「さもないと動かしますよ。観察記録によれば、お尻が弱いと聞いています。こんなのはどうです──?」

 

「んんん──」

 

 沙那は両手を後ろに回して、しゃがんだまま身体を伸びあがらせた。

 肛門に喰い込んでいる突起がぐるぐると激しく回転して動き出したのだ。

 

「いやや、やめて、そ、そこはいやああ──」

 

 叫んだために口の中のものが外に飛び出した。

 それでも止まらない──。

 しかも、これは激しすぎる──。

 

 沙那は身体を横倒しにしてしまった。

 

 今度こそいく──。

 そう思った。

 

 だが、絶頂の直前で静止する。

 沙那は手をお尻に当てたまま脱力した。

 

「寸止め責めを継続するのは、沙那と俺が話をすることを許す陳嬌の条件でしてね──。まあ、許してください。でも、話はできるでしょう? さあ、座ってください。どうして俺があなたたちに隷属の刻印を刻んでもらうのが必要なのかを説明しますから」

 

 釘鈀が言った。

 肚が煮え返る思いだが、拒否しても得はない。

 沙那は、力の入らない身体を無理矢理に起こして立ちあがった。

 そして、座り直す。

 

「は、話ってなによ?」

 

 沙那は釘鈀を睨んだ。

 

「お、お前、なんて言葉遣いを──」

 

 陳嬌が真っ赤な顔をして怒鳴ろうとしたぎ、釘鈀はそれを手で制した。

 

「……まあ、沙那の怒りももっともでしょう。ここは許しましょう、陳嬌。こんなふうにいたぶられれば、誰だって腹が立つはずです……。でも、俺としても必死なのですよ。こんなことは本意ではないのです。しかし、どうしても、あなたに隷属の刻印を受け入れてもらう必要があるのです」

 

 釘鈀が言った。

 

「一応聞くわ……。だけど、話のあいだは股間を責められたくないわね」

 

 沙那は言った。

 

「わかりました……。約束しましょう。その代わりに貞操帯から媚薬を噴出させます。強い刺激のものではありませんから、会話の妨げにはならないはずです」

 

 釘鈀の言葉が終わるや否や、貞操帯のあちこちから液体が噴出して、沙那の股間を濡らせたのがわかった。

 すぐに無数の虫が這うような気持ち悪さが襲ってきた。

 

 沙那ははっとした。

 これは痒みの苦しさだ。

 確かに強いものではないが、じわじわと掻痒感が襲ってくる。

 焦らし責めのもどかしさに苦しんでいる状態に追加される痒みのつらさは流石に堪える。

 沙那は拳を握りしめて、歯を食い縛った。

 

「つまり、天下一闘技会というのがあるんですよ。陳嬌から聞いていると思いますけどね……。どうしても、それに俺も子飼いの闘奴隷を出場させなければならなくなったんですよ……」

 

 釘鈀は微笑みながら、平然と語り始めた。

 

「聞いてるの、沙那? 股に手を置いてもじもじしちゃて、自慰でもしてるんじゃないでしょうね。無駄よ。その貞操帯は外側からの直接の刺激は大部分を遮断するようになってんのよ。擦っても無駄よ」

 

 陳嬌が怒鳴った。

 

「う、うるさいわねえ──。き、聞いているわよ──」

 

 沙那は怒鳴り返した。

 しかし、そんなつもりはなかったが、いつの間にか沙那は、股間に手を当てて、股を揉むような動きをしていたようだ。

 沙那は自分の顔が赤らむのを感じた。

 

「……実は、この帝国は武の国とも称されています。武に秀でているというのは、この帝国では尊敬の印なのですよ。それは高貴な家の者であっても同じです。帝都で行われる闘技会は日常のことであり、なにかしらの闘技会がいつも行われています。それには、闘奴隷、闘士、あるいは、平民、貴族の隔てなく参加します。皇族も例外ではありません」

 

「そ、そう……」

 

「兄の第一皇子の金箍(きんか)など、数々の大会で優勝している帝都一の闘士でもあります。第三皇子の降妖君(こんようくん)は、帝都でも有名な闘奴隷を何人も抱えている帝都随一の闘士団の団長でもあります……。そうやって、自らも武に秀でているのを示さなければならないというのが、いまの皇帝陛下、つまりは俺の父の信念と言うわけでしてね……」

 

 釘鈀は語り続けた。

 

「はあ……」

 

 沙那は生返事をした。

 それにしても、闘奴隷にしようと思っている一介の女に対して、随分と気さくな話し方をする皇子だと思った。

 それだけでも、この釘鈀が変わり者というのがわかる。

 

「……それに比べて、この俺は自分で戦うなどもってのほかで、持ち前の闘奴隷も持っていません……。まあ、そういう野蛮なのが好きではなくて逃げ回っていたんですが、それでついに、陛下に叱られましてね……。今度、開催される天下一闘技会に、自ら参加するか、あるいは自前の闘奴隷を参加させないと、皇子の地位を取りあげると言われたのですよ。それで困っているのですよ」

 

 釘鈀が肩をすくめた。






【作者より】

 本エピソードは、『西遊記』の88回に出てくる「三王子」に、孫悟空たちが武術指導をする話をモチーフにしています。

 三王子の名は、『西遊記』には出てきません。
 第一王子、第二王子、第三王子と記述されているだけです。
 そのため『嗜虐西遊記』では、それぞれの王子が師匠として選んだ三供の武具にちなんだ名にしました。

 即ち、第一皇子は、孫悟空の棒術を学ぶことになったので、孫悟空の得物である「如意金箍棒(にょいきんかぼう)」から金箍(きんか)皇子……。

 第二皇子は、八戒の釘鈀(ていは)から、釘鈀皇子……。(釘鈀は、「まぐわ」または「九歯馬鍬(まぐわ)」と表現されていることもあります。)

 第三皇子は、沙悟浄の得物の「降妖宝杖(こんようほうじょう)」から降妖君(こんようくん)(君は、昔の中国における王族等の称号)としました。
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