「それで、困りましてね。俺の父……、つまり、いまの
どういう心境で、こんなに朗らかに沙那に語りかけているのかわからないが、焦らし責めを続けられた挙句に、股間に痒みの媚薬まで塗布された沙那には、それがなにかの拷問のようにも感じる。
身体が火照りきり、釘鈀の語る言葉の半分も入ってこない。
いや、その長話こそ、嫌がらせのような気もする……。
「だから、俺も子飼いの闘奴隷を出すことになったんですよ。しかも、誰でもいいというわけにはいきません。少なくとも、自身で出場する金箍皇子ほどとはいかなくても、降妖君が養っている闘奴隷に匹敵する戦士でなければなりません。さもなければ、陛下は俺を武に劣る者として、やはり、廃皇子するでしょうからね……。だから、とにかく強い戦士。しかも、ちゃんと俺の奴隷の刻印を打っている闘奴隷が急遽必要になったということです。わかっていただけましたか?」
釘鈀は言った。
沙那は欲情の疼きの苦しさに、ぐっと椅子の手すりを握りしめたままでいた。
「遠慮なく、廃皇子されたらいいじゃないのよ……。武に劣るというのはその通りなんでしょう──」
沙那は吐き捨てた。
「なんですって、この奴隷女──」
怒りを露わにした
しかし、釘鈀がそれを笑って制した。
「どうですか、沙那? 悪い取り引きではないと思いますがね。俺の闘奴隷として、俺の奴隷の刻印を受けて天下一闘技会に出場してくれれば、勝っても負けても、闘技会が終われば、刻印は消して解放します。闘技会に勝利すれば、多額の賞金と栄誉が与えられますが、賞金はもちろん渡すし、俺が個人的にも礼金を払いますよ……。いずれにしても、俺としては闘奴隷をずっと養う気もないのです。死刑囚だったあなたたちとしては、これ以上ない条件と思いますが? さらに、もうひとつ言っておきますが、闘技会には基本的には命のやり取りはありません。皇子の金箍も出るくらいですからね。まあ、多少の負傷は当然ですけど」
「ど、奴隷の刻印なしなら、出場してもいいわ……」
沙那は息を吐きながら言った。身体だけでなく息まで熱い気がする。
「それは駄目です。俺の刻印があるから、俺の闘奴隷であると皇帝が認めるのです。なにもなしに出場させても、俺が養った闘奴隷とは認めないでしょう。それに、今回の闘技会は、皇子以外の出場者は、全員が誰かしらの主人の奴隷の刻印を刻まれなければならないことになっています。同じ条件で出場する金箍を守るための処置です。それで勝敗が決したのちに、“とどめ”をしないように、闘奴隷に命令するのです」
「とにかく、ご免よ。奴隷の刻印なんてまっぴら……。一時期のことだとしても、あんたなんかに支配される人形になんてなるつもりはないわ」
「そうですか……。残念ですね……。だったら、拷問を続けるしかありません……。いいのですか? 随分つらそうですけどね」
釘鈀は肩をすくめた。
身体の火照りも、股間のむず痒さも、もう耐えられないものになりつつある。
いまこうやって、話をするだけでも大変な苦痛だ。
本当は沙那も、これ以上自分の快楽を弄ばれるような責めに耐える自信はない。
「ご、拷問でもなんでもやりなさいよ──」
しかし、沙那は怒鳴った。
こうなったら、意地のようなものだ。
「そうですか……。じゃあ、陳嬌、頼みますよ。なんとか、責め堕としてください。寸止め責めの段階をあげることを許可します」
釘鈀が手を振った。
すると、不意に顔の周りに白い霧のようなものがたち込めた。
気がついたときには遅かった。沙那はその霧を身体に入れてしまっていた。
途端に、身体が痺れたように動かなくなったのがわかった。
身体の動きを弛緩させる霧のようだ。
沙那は歯噛みした。
「それじゃあ、許可が出たから寸止め責めの段階をあげてあげるわね、沙那──。のたうちまわらせてあげるわ。言っておくけど、発狂の恐れもある厳しいものよ。これを受ければ、さすがのあんたも意地は張れないはずよ」
陳嬌が嗜虐的な笑みを浮かべて、こっちにやってきた。
さっきまであったはずの見えない壁は消失させたようだ。
今度はなにをするつもりだろう……?
沙那の背に冷たい汗が大量に流れるのを感じた。
すると、釘鈀が立ちあがって消滅した。
『移動術』で立ち去ったようだ。
入れ替わるようにして、五名ほどの侍女が出現した。
彼女たちがわらわらと沙那の周りに集まる。
「な、なにすんのよ──。は、離せ──」
侍女たちは、陳嬌の指示で、さっき身に着けたばかりの衣服を沙那から剥がしだした。
そして、動かない沙那の身体を担ぎあげて、また寝椅子に拘束をする。
「な、なにをやっても無駄だと言っているでしょう、陳嬌──。い、いい加減に諦めなさい──。奴隷の刻印なしなら出場してもいいと言っているじゃない──。あの皇子にもう一度伝えなさいよ──」
沙那は声を張りあげた。
だが、陳嬌は酷薄な笑みを浮かべるだけだ。
やがて、沙那は再び寝椅子に雁字搦めに拘束された。
陳嬌が手を振った。
また顔の周りを霧が覆った。
手足の力が戻った。
しかし、それだけだ。
すでに、全身をたくさんの革紐で縛られてしまっている。
その沙那の頭に陳嬌が革帯のようなものを巻いた。
「くっ……。な、なによ、これは?」
頭にそれを巻かれると、わずかだがちくりという痛みを感じた。
痛みはすぐになくなったが、まるで頭に密着したように革が頭に吸いついた。
いやな予感がする。
「段階をあげると言ったでしょう? ほら、欲しがっていたものをあげるわ。絶頂しなさい」
次の瞬間、貞操帯が激しく振動をし始めた。
「ふううう──くうううう──はあああ──や、やめて──ああああ──」
沙那は全身をのけ反らせて絶叫した。
いきなりの三箇所全部の最大振動だ。
それがむず痒さと熱い火照りに覆われていた股間に襲いかかる。
沙那は一気に絶頂の快感を駆けあがらせた。
「いふうっ──くううう──」
沙那は全身を痙攣のように激しく震わせた。
凄まじい快感が襲う。
もうすぐ、達する──。
沙那は身体を狂おしく暴れさせながら思った。
さっきまではここで何度も寸止めされた。
それを果てしなく繰り返されたのだ。
また、同じことを続けるのだろうというのは予想がついている。
やるなら、やれと思った。
だが、なんとなく陳嬌の様子が違う。
しかも、今度は振動が終わる気配がない。
期待が沙那の中では大きくなる。
いつの間にか、従女たちも消えて、陳嬌とふたりだけになっていた。
「……ふふふ、今度は貞操帯をずっと動かし続けてあげるからね……。感謝しなさい、沙那」
陳嬌が言ったのが聞こえた。
そんなことを告げておいて、やはり寸止めをして絶望に追い込む……。
さしづめ、そんなところだろう……。
その手に乗るなと自分自身に言いきかせる……。
しかし、寸止めを繰り返されて、絶頂を渇望する沙那の心は、もしかしたらという希望を捨てきれない。
来る──。
大きな波が──。
待ちに待っていた快感の頂点が──。
本当に振動は止まらない。
来た──。
「いぐううううう──」
沙那は歓喜のあまり泣き叫んだ。
やっと、待ちに待っていたものが与えられたのだ。
絶頂した……。
「あ、あれっ? そ、そんな──? な、なんで──。なんで──?」
沙那は動揺した。
いま確かに絶頂したはずだ。
その感覚はあったのだ。
しかし、絶頂とともに訪れるはずの快感の迸りが存在しない。
それは突然に消失してしまった。
そして、絶頂直前のもどかしさだけが残っている。
いや、むしろ、絶頂の直前で一生懸命に沙那自身の身体が踏み留まっている……。
そんな感じだ。
「わかった、沙那? 今度の寸止めは、一段階あげたと言ったでしょう? まさに、究極の寸止め責めよ。お前の身体は間違いなく絶頂しているわ。でも、お前の頭に巻いた霊具が、その絶頂したという感覚を取り去ってしまうのよ。そのために、お前は身体は絶頂しているのに、頭では絶頂を感じなくて、ぎりぎりのところで踏みとどまっているような感覚を味わうということよ」
「な、な、な……」
あまりのことに、沙那は言葉を発せなかった。
あまりの悔しさに、目の前の陳嬌に対して、はらわたが煮えかえる。
「まるで、自分自身で絶頂を我慢している気分でしょう? これを味わい続けると、頭がおかしくなってしまうわよ。そうならないうちに、屈服しなさい──」
陳嬌が嘲笑った。
だが、沙那はもう陳嬌の言葉など理解できない。
ただただ、腹が立つ──。
沙那を支配している感情は、圧倒的な怒りだ。
貞操帯は相変わらず激しく動いている。
どんどんと快感が与えられる。
それなのに、絶頂の感覚だけが与えられない。
全身が沸騰するような快感が弾けとんでいるのに、まさに最後の昇天がないのだ。
そのため、沙那の身体には神経を抉るような寸止めのもどかしさが溢れかえる。
しかも、それが数瞬ごとに拡大していく。
沙那はあまりのことに、泣き声をあげた。
こんなの耐えられるわけがない──。
「いやあああ──いや、いやい、いやああ──い、いぐうう──いけない──こんなのいやああ──」
沙那は悲鳴をあげ続けた。
その沙那に屈服しろという陳嬌の声が耳元で繰り返された。