「内宮」というのは、宮殿の中でも皇帝の私的な空間であり、生活の場だ。
一応の謁見室もあるが、政治の場である「皇宮」とは異なり簡素なものになる。
内宮に入れるのは、家族及び家族同様の限られた者に限られる。
釘鈀が案内されたのは、内宮の中でも応接室にあたる部屋だ。
「呼び立てにより、参内いたしました、陛下」
釘鈀は部屋に入って片膝をついて頭を下げた。部屋は奥行きのある構造になっていて、こちら側半分にはなにもなく、奥半分に簡易な玉座とそれを挟む長椅子が両側にある。
その奥の玉座に溥儀雷帝がおり、右の長椅子には第一皇子の
金箍はこちらに横を向けている体勢だ。
また、奥側の壁には男女の従者と従女が二名ずつ立っている。
さらに、こちら側には跪いている先客がいた。
第三皇子の
釘鈀は降妖君の隣に跪くかたちになった。
「釘鈀か……。いま降妖から、明後日からの天下一闘技会の報告を受けていたところだ。国中から選りすぐりの猛者を集めたそうだ。盛りあがる大会になるであろうな。金箍のほかに降妖自身も出場することになったぞ」
溥儀雷帝が陽気な声で言った。
我が父親ながら気紛れで気難しい男だが、今日は機嫌がいいようだ。
「武の国とも称される西方帝国を統べる皇帝家の戦士の血が流れる者として当然の義務かと……。これでも、皇帝家の者であるということに胡座をかくことなく、一介の闘士としても一流であろうと鍛練をして参りました。兄者の金箍皇子にも負けないつもりです」
降妖君がちらりと横目で釘鈀を見た。
いまのは、自身は出場しない釘鈀への当て擦りだろう。釘鈀は知らぬ顔をしていた。
いずれにしても、皇帝主催の闘技会とされているが、実際にはこの降妖君がすべてを取り仕切っている。
この帝国では、大きな闘技会を主催できるのも、優れた統治者の資質のひとつとされている。
溥儀雷帝の七人の皇子のうち、皇子扱いされているのは、第一皇子の金箍と第二皇子の釘鈀だけであり、第三皇子以下は格下の臣下の扱いだ。
降妖君としては、溥儀雷帝に自分の裏の力を喧伝することで地位の向上を目論んでいるのだと思う。
「ほう、よう言ったな、降妖。返り討ちにしてやるぞ。命までは取らないのが慣例の闘技会だから、殺しはせんが、腕や脚の骨ぐらいは砕くかもしれん。闘技会のときには、『治療術』の遣える道術師や治療霊具を待機しておけ」
金箍が豪快に笑った。
帝都一の闘士とも称される第一皇子の金箍は巨漢だ。
豪快で力任せの剣技が持ち味である。
一方で降妖君は目にもとまらないような素早い剣を遣う。
ふたりとも帝都で行われる闘技会の常連だが、同じ大会に同時に出場するのはこれが初めてのはずだ。
ふたりの闘いが実現すれば、それは面白い勝負になるだろうと思った。
そのとき、釘鈀は、金箍の脚のあいだでなにかが動いていることに気がついた。
金箍の大きな脚で隠れていて見えないが、白いものが金箍の股間で動いている気がする。
女──?
釘鈀は首を傾げた。
「釘鈀兄者もどうですか? まだ、枠はありますよ。命を失う心配はありません。皇帝家の者を除く全員が奴隷の刻印を受けます。それが決まりです。その闘奴隷には“相手の命は奪うな”と命じるのですから、心配はいりません」
降妖君がわざとらしく言った。
そうやって皇帝の前で、武闘に興味のない釘鈀をあげつらうことで、少しでも点数を稼ぎたいのだろう。
しかし、釘鈀は笑って応じた。
「いや、俺が出場したところで、一瞬で負けるだけであり、少しも盛りあがらんよ。その代わり、俺の子飼いのとっておきの女戦士を二名出場させる。その方が観客は喜ぶだろう」
釘鈀は降妖君に言った。
「釘鈀が皇子後宮に隠していたという美貌の闘奴隷だったな。どんな戦いぶりを見せるのか、それも愉しみだな」
溥儀雷帝が口を挟んだ。
釘鈀は皇帝家の中では、女たらしということになっていて、「皇子後宮」と称している性奴隷を集めた奴隷宮を持っている。
出場させる予定の沙那と孫空女を子飼いの闘奴隷と皇帝に説明するにあたり、ふたりがたまたま美女と聞いたことから、その皇子後宮にいた女たちだと釘鈀は説明していた。
「なにっ? 美貌の女戦士だと? 釘鈀、それは本当か?」
すると、金箍が声をあげた。
「ええ、いかにも」
釘鈀は金箍に言った。
やはり、女が股間で動いている。
金箍は自分の性器を女に奉仕させているようだ。
これには驚いた。
「だったら、降妖、戦いの際、相手を殺さぬ限り、なにをやっても自由ということにしろ。負けた女戦士は相手に犯されるのだ。余興としては、そっちが面白い」
金箍が言った。
それを聞いて、溥儀雷帝が嬉しそうに笑った。
「なるほど、それも面白い。余もそれに賛成だ」
溥儀雷帝が膝を叩きながら言った。
「ならば、そのような規定にいたしましょう」
降妖君は言った。
「よかろう……。ところで、報告は以上か、降妖?」
「はい、陛下……。最初に申し上げましたが、闘技会は二日にかけて行われます。第一日目は予選であり、決勝の十六人を選ぶ試合です。二日目の決勝においては、是非とも陛下のご臨席を仰ぎ、できますれば戦いの前に、決勝を戦う闘士十六人に声をかけていただきたく思います」
「わかった、降妖……。そうしよう……。ならば、もうさがれ──。これから先は身内の話となる。お前は退出せよ……。釘鈀はこっちに来い」
溥儀雷帝がそう告げると、降妖君は隣からでもわかるくらいに、顔色を蒼くした。
「お、俺も皇帝家の身内です。身内の話であるのであれば、残るわけにはいきませんか、陛下?」
降妖君の声は少し震えていた。
これだけの大きな闘技会を皇帝の名で主催するのだ。
降妖君としては、自分の扱いが少しはあがるはずだという思惑もあっだろう。
だから、溥儀雷帝から身内のうちには入らないと告げられたことに衝撃を受けたようだ。
「増長するな、降妖──」
すると、いままで和やかに会話していた溥儀雷帝の表情が一変した。
憤怒の混じった声が部屋に響き渡る。
「し、失礼しました……」
降妖君が屈辱を顔に表しながら退出した。
それを見届けると、釘鈀は前に進み出て、金箍に向かい合うもうひとつの長椅子に腰かけた。
「あっ、これは──」
釘鈀はやっと、金箍の股間に顔を埋めている女の後ろ姿が見え、その正体がわかって、驚愕の声をあげた。
金箍の股間にいる女体は素裸だ。
そして、腕と脚がなかった。
切断されているのだ。
腕は肩からなくて、腕の部分はただの肉の盛りあがりになっている。
両脚も付け根からない。
つまりは、胴体と腰と首だけなのだ。
そんな姿の女が金箍の股間を奉仕させられていた。
しかも、その女は──。
「皇后陛下──。な、なんで?」
釘鈀は思わず叫んだ。