※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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【お断り】 
 今夕の投稿については、二話に分割投稿しています。ご注意ください。(昨夜の投稿分も同様です。)


 *




726 通りすがりの道術遣い

 陳嬌(ちんきょう)は、屋敷に戻ってきた釘鈀(ていは)を出迎えた。

 

「事情は飲み込んでおります。劉姫(りゅうき)様は、すでに奴隷宮に運んでおります。とりあえずの手当をさせていますが、特に身体に問題はないかと……。ただ、手足や舌は宮廷の道術師の術によって切断の処置をされておりますので、そう簡単には……」

 

 陳嬌は言った。

 道術で失われた手足や舌を『治療術』で復活させるには、それを上回る霊気を注がなければならない。

 だが、皇帝付の道術師は、この国で一番の道術遣いだ。

 それを上回る霊気というのは簡単ではない。

 

 また、廃后になった劉姫を本当に奴隷後宮に入れるつもりで、釘鈀が連れてきたわけではないことはわかっている。

 あれは、釘鈀の方便だ。

 そうやって、惨めな目に遭わされるところだった劉姫を救ったのだ。

 同じ方法で、二年前にも廃后にされた皇后を救い、いまではその身柄をひそかに家族に引き渡している。

 

「わかっていますよ、陳嬌。それは後で考えます。とにかく、近衛団長の劉旺(りゅうおう)殿と話したいですね。誰にもわからないように、屋敷に呼んでもらえませんか?」

 

「それもすでに処置しております。半刻(約三十分)ほどの後、劉旺殿が『移動術』で地下奴隷宮の応接室に到着するような手筈になっています」

 

「さすがに仕事が早いですね。では、地下の奴隷宮に向かいます。劉旺殿を待つことにしますよ。地下といえば、沙那はどうなりました? そろそろ、堕ちましたか?」

 

「も、申し訳ありません……。まだです……。いまは、侍女たちに筆責めにさせています。あのいけない身体で筆責めは堪えるはずです。必ず、明日中には……」

 

 陳嬌は暗い気持ちで言った。

 絶頂感覚を取りあげる霊具で、究極の焦らし責めを続けさせている沙那だったが、思いのほかしぶとく、まだ、奴隷の刻印を受け入れるという言葉は発していない

 

「とにかく、責めたててください。すでに、陛下の前でふたりの闘奴隷を出場させると明言してしまいましたからね。なんとしても、孫空女はもちろん、沙那も闘技会には出場してもらわないと困るのです」

 

「必ずや──」

 

 陳嬌は頭を下げた。

 すると、釘鈀が『移動術』で跳躍しようとした。

 陳嬌は慌てて、それを止めた。

 

「お待ちください、殿下。実は、ほんの少し前から、細蔡君(さいさいくん)様がお待ちなのです。是非とも私的な用事で面会したいと言われて……。いかが取り計らいましょうか?」

 

 陳嬌は言った。

 細蔡君というのは、現帝である溥儀雷帝の七番目の皇子だ。

 釘鈀とは母が違い、義理の弟にあたる。

 ただ、年齢は十八であり、当時の正后が産んだのではなく、愛妾が産んだ子だ。

 皇子のひとりとはされているが、ほとんど庶子の扱いであり、地位も遥かに低い。

 第二皇子の釘鈀とはまったく身分に差がある。

 私的な訪問といっても、細蔡君が釘鈀を訪ねてくるなど、いままで皆無だった。

 

「細蔡君が? 珍しいですね。ひとりですか?」

 

「いえ、侍女だと言っている三人の女性を連れています。でも、少し様子もおかしくて……。少なくとも、ひとりは侍女らしくはありません」

 

「いま、どうしているのですか?」

 

「とりあえず、応接室で待ってもらっております」

 

 陳嬌は言った。

 釘鈀は少し考えるように押し黙ってから、再び口を開いた。

 

「……後にしましょう。私的な用事というのであれば、急ぐわけではないのでしょうね。劉旺殿との面談を先にします。それまで、細蔡君については、陳嬌が対応してください」

 

 釘鈀が言った。

 

「承知しました」

 

 陳嬌がそう言うと、釘鈀が消えた。

 『移動術』で地下の奴隷宮で跳躍したのだ。

 陳嬌は、部下を呼んで、劉旺のことと、沙那について、それぞれに必要な指示を与えてから応接室に向かった。

 

「お待たせしました、細蔡君様……。執事の陳嬌です。釘鈀殿下は、少し手が離せませんので、とりあえず、わたしが用向きをお伺いすることになりました」

 

 部屋に入った陳嬌は、細蔡君の座る長椅子に向かい合うように腰かけてから頭をさげた。

 しかし、驚いた。

 最初に対応した者によれば、三人の女は侍女だという説明だった。

 ところが、侍女のうちふたりは、後ろに立っているが、年長の黒髪のひとりは、細蔡君の隣に堂々と座っている。

 侍女のくせに、主人と席を同じくするなど常識に反する。

 なんなのだろう?

 

「俺の……用向きは……ですねえ……」

 

 細蔡君は困ったように隣の女に視線を送った。

 

「いいから、釘鈀という皇子を呼んできな、お前──。どうせ、執事ごときじゃ話にならないよ」

 

 突然、女がそう言った。

 陳嬌はびっくりした。

 

「ほ、宝玄仙殿……。お、お願いですから……」

 

「いいんだよ、細蔡君──。わたしは本当は怒っているんだよ。ただ、お前が頼むから、大人しくしてやってるんだ。本当なら、とっくの昔に暴れ出してもいいくらいなんだ」

 

 女が吐き捨てるように言った。

 

「なっ──。なんだい、お前は──? 細蔡君様、この女はなんなんですか──?」

 

 陳嬌は立ちあがって怒鳴った。

 いくらなんでも、無礼すぎる。

 

「いえ、その……。こ、この方々は少し前に世話になった方々なんです。そのう……。俺に少し前に、衛舎国の姫と婚儀の話があったと思いますが、そのときに危うく、亜人の女と騙されて結婚の儀をするところを助けてもらったわけでして……。それで、恩を返せと、押しかけられまして……」

 

 細蔡君がしどろもどろの口調で言った。

 

「細蔡君様?」

 

 しかし、そのとき陳嬌は、細蔡君に軽い操り術の影響があるのを感じた。

 かすかであるが、後ろの少女からの薄っすらとした霊気の流れがある。

 

「お前たちはなんだ──? 細蔡君様を操って、この屋敷に乗り込んできたのか──?」

 

 陳嬌は怒鳴った。

 それとともに、この得体の知れない女を道術で拘束しようとした。

 

「きゃああ──」

 

 だが、次の瞬間、悲鳴が自分の口から迸った。

 なにが起きたのかわからなかった。

 陳嬌は道術で女を拘束しようとしたはずだ。

 しかし、逆に霊気の暴風が陳嬌を襲った。

 気がつくと、陳嬌は両手と両脚を広げて宙に浮かんでいたのだ。

 

「わっ、わっ、わっ」

 

 細蔡君が驚愕している。

 しかし、女はそれを無視して、宙に浮かんでいる陳嬌をすっと椅子の前から動かして、広い場所に移動させた。

 

「お、お前、何者なんだい?」

 

 陳嬌は叫んだ。

 陳嬌はこれでも、この帝都で指折りの道術遣いのひとりだ。

 その陳嬌がまるで霊気で歯が立たない。

 凄まじいまでの霊気だ。

 確か、さっき細蔡君が宝玄仙と呼んだような……。

 

「通りすがりの道術遣いだよ。お前らには用事はないはずだったんだけど、お前ら、わたしの供を連れて行っただろう。取り返しに来たんだよ」

 

 宝玄仙が言った。

 

「供だって──?」

 

 陳嬌は問い返しながらも、懸命に霊気の呪縛から逃げようとした。

 しかし、宙に浮かんで手足を拡げている陳嬌の身体はまったく動かない。

 

「沙那と孫空女だよ──。ここにいることはわかっているんだよ──。まあいい、お前を操って、釘鈀とかいう皇子に遭うだけだ。ただ、取り戻すだけじゃあ済まないからね。この宝玄仙を虚仮にしたような真似をしたんだから、それ相応の酬いをくれてやるよ──。朱姫、素蛾──。暇つぶしにこの女と遊んでやりな」

 

 宝玄仙が言った。

 すると、後ろで見守っていただけの少女ふたりが前に出てきた。

 十六くらいの少女が朱姫で、十二くらいの童女が素蛾のようだ。

 ふたりともはっとするくらいの美少女だ。

 

「お、お前たちは、沙那と孫空女の連れなのか──? あの死刑囚の──?」

 

 死刑囚の連れだという限りにおいては、この女たちも残忍な殺人者の一員ということだろう。

 しかも、釘鈀に危害を加えるというようなことを仄めかした──。

 そんなことをさせるわけにはいかない──。

 

「釘鈀殿下になにをするつもりなのだ──? お前たち──?」

 

 陳嬌は叫びながらも、異変を報せるために霊気通信を飛ばそうとした。

 だが、いつの間にか陳嬌の身体から霊気が消失させられている。

 いまは、あらゆる道術が遣えない状態になっている。

 陳嬌は焦った。

 

「釘鈀という皇子様のことよりも、ご自分のことを心配したらですか、陳嬌さん」

 

 朱姫という少女が、くすくすと笑いながら陳嬌の身体を持って、くるりとひっくり返した。

 

「わっ、な、なにすんのよ──」

 

 陳嬌は叫んだ。

 身体が逆さまになったので、陳嬌のはいていた下袍がぱらりと下に落ちて、下着が露わになったのだ。

 

「さあ、素蛾、道術陣でご主人様の霊気を帯びたおかげで、遣えるようになった舌の道術で、この女の内腿を舐めてあげなさいよ」

 

 朱姫が笑って、横の素蛾に言った。

 

「はい、朱姫姉さん」

 

 素蛾という少女が陳嬌の内腿にぺろりと舌を這わせた。

 

「ひいいい」

 

 その瞬間、得体の知れない衝撃が身体に走って、陳嬌はあられもない悲鳴をあげてしまった。

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