733 破廉恥具足の罠
観客がわっと総立ちになって歓声をあげた。
眼下の闘技場では、大きな闘技場が四区分されて、それぞれで闘士たちが戦っていたのだが、その中のひとつで、
それに対する歓声だ。
「ほう、あの女闘士は強いねえ。孫空女や沙那とも、いい勝負になりそうじゃないかい」
宝玄仙も周囲の観客たちに合せるように立ちあがって拍手を送った。
「まさか。孫姉さんや沙那姉さんたちの方がきっと強いですよ」
朱姫も立ちあがって手を叩きながら言った。
「こらっ、
宝玄仙は、宝玄仙と朱姫のあいだに座らされて、歯を食いしばって小刻みに身体を震わせている陳嬌にからかいの言葉をかけた。
「あっ……? は、はい……」
陳嬌は慌てたように立ちあがって拍手をした。
もっとも、眼下の闘技なんか、いまの陳嬌の視界には入らないだろう。
なにせ、陳嬌の股間にはたっぷりと強力な掻痒剤を塗っている。
さっきまでは股縄までしていたのだが、それだけは外してやった。
だが、宝玄仙を主人とする『奴隷の刻印』を腹に刻まされた陳嬌に、宝玄仙はまだ自分の股間には触れてはならないという命令を与えたままだ。
だから、痒みが脳天まで達して、もうなにも考えられないし、見えないという状態だろう。
全身は汗びっしょりで顔は真っ赤だ。
「そろそろ、自慰をしたくなったんじゃないですか、陳嬌さん? だから、ここに座ったときに、すぐに許可を受ければよかったんですよ。恥ずかしがってやらないから、また触るのを禁止されちゃたんですよ。どうします? 自慰をするんですか? それともまだ我慢するんですか?」
朱姫がそう言いながら、立ちあがった陳嬌の下袍の中に後ろから手を入れたのが見えた。
「あっ、な、なにを──?」
陳嬌がそれに気がついて、慌てて朱姫の手を阻もうと、朱姫の手首を掴んだ。
「おっと、忘れていたよ……。命令だ。わたしだけじゃなくて、朱姫のやることにも逆らわないんだよ、陳嬌。もちろん、朱姫の命令にもね。わたしの命令や行動と同じように、無抵抗で服従するんだ。いいね──」
宝玄仙はにやにやしながら言った。
「そ、そんな……」
宝玄仙だけではなく、朱姫からも逃れることができなくなった憐れな生贄が、絶望的な表情をして朱姫の手首から手を離した。
「うっ、な、なにを……?」
陳嬌が顔をしかめた。
朱姫の手は陳嬌の下袍の中でもぞもぞと動いている。
どうやら、指で肛門を触っているようだ。
肛門をいたぶっているというよりも、なにかを塗っているような感じだである。
宝玄仙はほくそ笑んだ。
ここは、たくさんある観客先の中でも十個ほどある特別な貴賓席である。
屋根のほかに左右と背後には壁があって、ほかの席とは隔離されていた。
だから、多少のことをしても、周囲からはわからない。
宝玄仙たちがここにいるのは、本来は
釘鈀皇子の隣は、
ただし、ほかの貴賓席は貴族らしき男女とその護衛や家臣で埋まっていた。
いずれにしても、隣の席とは壁があり、朱姫が陳嬌の下袍をまくって悪戯をしたところで、それを見ている者など間違いなく皆無だろう。
足の下側には一般観客の席があり、びっしりと老若男女の観客が集まっているが、眼下の闘技に夢中で、わざわざ振り返る者などいない。
しかし、白昼の闘技場で下袍の中に手を入れられて尻をいたぶられる陳嬌は、恥辱と羞恥で取り乱したように身体をもじつかせている。
「お尻の穴にも痒み剤をさらに塗り足してあげましたからね、陳嬌さん。もうすぐ、もっともっと痒くなりますよ。まだ、自慰をする気になりませんか?」
「う、うう……」
陳嬌は声を震わせた。
実はこの席に座ったとき、すぐに宝玄仙は自慰をしろといって、股間を触る許可を陳嬌に与えたのだが、陳嬌が躊躇したので、また手で触れるのを禁止だという命令を与えたのだ。
それから一刻(約一時間)近くが経過している。
もはや、あまりの痒みで頭まで朦朧としている気配だが、それでも暴れ出さないのは、陳嬌の精神力がそれだけ強いからだろう。
だが、それも限界に違いない。
一方で、眼下の会場では、黄獅姫という女闘士が引っ込み、腕を切断された闘士の応急処置も終わってその一角は次の試合の準備が始まったようだ。
ほかの一角ではまだ戦いが続いているが、宝玄仙たちはほかの観客席と同じように椅子に座り直した。
「お、お願いです。自慰をする命令を与えてください……。もう、我慢できません……」
座るとすぐに陳嬌が顔を俯かせたまま小さく言った。
だが、宝玄仙はせせら笑った。
「自慰をする命令なんて与えないよ。わたしが与えるのは、股間を触ってはならないという命令の解除だけだ……。だけど、わかったよ。解除してやる。自由にしな。だから、自分の意思で自慰をするんだ」
宝玄仙は笑いながら言った。
「くっ、くうう……」
陳嬌が泣き声のような呻きをあげた。
こいつも刻印の力により、無理矢理に自慰をさせられるのだったら、まだ気が楽なのはわかっている。
だが、自分の意思で、こんな人の多い場所で恥知らずの行為をするのは、自尊心が耐えられないに違いない。
しかし、それをねちねちといたぶるのが愉しいのだ。
観念したような表情になった陳嬌の手がついに下袍の下に入った。
「もっと、まくったらいいですよ」
朱姫が陳嬌の下袍に手を伸ばして、股間があらわになるように付け根までまくりあげた。
「ちょ、ちょっと──」
陳嬌がいやがる素振りをしたが、さっきの宝玄仙の命令のためのそれ以上の抵抗ができないでいる。
だが、一方で股間に伸びている陳嬌の指はとまらなかった。
陳嬌の指は少しだけ開いた股間に差し込まれ、陰毛をかきわけてさらに奥に伸びる。
そして、ぴちゃぴちゃと音を立てだした。
あの掻痒剤はただ痒いだけでなく、強い媚薬の効果もある。陳嬌の身体は疼ききっていたに違いない。
すぐに、もう一方の手も乳首の付近の乳房を揉みだした。
両方の乳首にもたっぷりと掻痒剤を塗っているのだ。
「んんっ……んふう……」
陳嬌の鼻息が荒くなった。
宝玄仙はその淫靡な光景をぞくぞくするような高揚感で眺めていた。この女が気が強く、驚くほどに自尊心が高い冷徹な釘鈀の女執事ということはわかっている。
それがこんな白昼の闘技場の席で、下袍をまくりあげられて自慰をするというのは、信じられないような屈辱と羞恥の極致だろう。
そう思うと、宝玄仙の嗜虐心は大きな満足を覚えていた。
だが、もう、陳嬌はそれも感じないのかもしれない。
いまの陳嬌に襲いかかっているのは、怖ろしいほどの痒みと身体の疼きのはずだ。
それだけが頭を占めて、ほかのことなど吹き飛んでしまっているのだろうか。
その証拠に、一度自慰を開始した陳嬌は、もう周りなどなにも目に入らないかのように、一心に自慰に耽っている。
「ううっ、はっ……はっ……」
陳嬌の反応が激しくなった。股間をまさぐる指と服の上から乳房を揉む手に力が入ってきたのがわかった。
そろそろのようだ。
「……いくら自慰はしてもいいけど、達するのは駄目ですよ。命令ですからね──」
すかさず朱姫が横から口を挟んで命令した。
陳嬌がびくりと両手を停止した。
まさに、自慰で昇天する直前だったのは、宝玄仙にもわかっていた。
だが、そこに、いくら自慰をしても達してはならないという命令を与えることは思いつかなかった。
「そ、そんな……」
陳嬌が呆然としている。
宝玄仙は、朱姫の残酷な悪戯に大笑いしてしまった。
陳嬌は、信じられないというような顔で朱姫を見ていたが、すぐにすがるような視線を宝玄仙に向けた。
しかし、宝玄仙も笑いながら首を横に振った。
「それは面白いよ、朱姫。流石にお前だよ──。そうだね。いくらでも自慰はしな、陳嬌。遠慮なくね。ただし、絶頂は駄目だ。ぎりぎりでやめるんだ。絶頂できるのは今夜、沙那と孫空女が戻ってきてからにしよう。あいつらが許可をしたら、絶頂させてやるよ。お前があのふたりにやったことだろう? 同じ苦しみを味わいな」
宝玄仙は笑いながら言った。
「そ、そんな……」
陳嬌は愕然としている。
いま、陳嬌の身体はおそろしいほどの性の疼きに苛まれているはずだ。
それを発散直前で取りあげられたのはつらいというのはわかる。
「朱姫、薬剤を足してやんな。今度は淫乱剤だ。この女が暴れ出すくらいの強い媚薬を股間に足すんだ」
「わかりました、ご主人様……。じゃあ、作業が終わるまでお尻の自慰をしましょうねえ、陳嬌さん……。お尻は命令を与えてあげますよ。お尻に指を入れて自慰をしなさい。命令です。ただし、絶頂寸前でとめるんです」
朱姫が言った。
陳嬌はあっという小さな悲鳴をあげた。
しかし、陳嬌の腰が半分浮き、そこから手首が入れられ、自分の下袍の下に指を入れたのがわかった。
「はあ、ああ……んんっ……」
すぐに腰が動き始め、陳嬌の歯から嬌声が漏れ出す。
「さあ、塗りましょうね。この媚薬はきついですよ。すぐに自慰を始めないと狂ってしまいますからね」
朱姫がくすくすと笑いながら、まくれたままの陳嬌の股間に液剤を垂らし伸ばしていく。
そのとき、わっという大歓声が起きた。
ふと見ると、さっき女闘士の黄獅姫が戦った場所に、孫空女ともうひとりの男闘士が『移動術』で登場したのだ。
「まあ、孫姉さん、あの恰好どうしたんでしょう?」
朱姫が愉しそうに声をあげた。
「さあ、なにをとち狂っちまったんだろう。突然、露出狂にでもなったのかね、あいつ」
宝玄仙はほかの熱狂的な観客に合せて、立ちあがって拍手をしながら笑った。
孫空女は足にサンダルを履いているほかは、まるで下着のような革の胸当てと腰布をしているだけの姿だったのだ。
露出の多い孫空女の姿に、客たちは喜んでいる。
相手の男は孫空女と同じで棒を持っている。身体の大きい豚のような男だ。
ふたりが構えたのがわかった。
だが、その孫空女の身体が突然にがくりと沈んだのがわかった。
*
地下の控室から地上の闘技場までは『移動術』で向かうということだった。
試合の時間になると係の者が呼びに来て、道術師のいる場所まで行き、対戦相手とともに地上に跳躍させられるのだ。
地上に着けば、そのまま試合開始だ。
別に試合開始の合図はない。
審判は闘技場の外にいて、どちらかが戦闘不能と判断したら、その審判が旗をあげる。それで試合終了だ。
孫空女は、対戦相手とともに、地下から闘技場に道術で跳躍した。
集まっている観客はせりあがった観客席に立錐の余地のないほどにびっしりと埋まっていた。
屋外である競技場には昼の陽射しが差し込み、闘技場を明るく照らしてもいた。
こんなに解放感のある場所で、しかも、大勢の客が見ているところに、下着のような姿で出ていくのは恥ずかしかった。
孫空女が地上に立つと大歓声があがった。
それが自分の恰好に向けられているものだというのは肌で感じる。
こんな格好を強要した宝玄仙に恨みのような感情が沸き起こった。
見上げると正面の観客の真ん中あたりに、貴賓席のような場所がある。
そこに宝玄仙が見えた。朱姫と陳嬌もいる。宝玄仙と朱姫が孫空女の格好に笑っているのまで見えた。
「ひひひ……、わざわざと犯されやすい恰好で来たのか、美人の姉ちゃん?」
相手の豚のような大男が卑猥な表情をしながら棒を振り回しながら距離を詰めてきた。
「う、うるさいよ──。ちょっと都合があるんだよ──」
孫空女は吐き捨てた。
すでに『如意棒』は持っている。
それを構えようと身体を捩じった。
そのとき、不意に下着の中でなにかが動いた。
「ひっ」
びっくりした。
革地の下着の内側が急にもそもそを動き出したのだ。
最初に感じたのは、羽毛のような柔らかい感触だ。
それがさわさわと胸当てと下着の内側の乳首や局部をくすぐるように動いた。
さらに、次の瞬間には、肉芽の周辺の部分が盛りあがり、突起のようなものが出現して左右から掴むように捩じり動く。
また、柔らかな羽根の感触だった下着の内側の感触が変化し、小さな触手でも密集しているかのようにうごめき始める。
背中を電撃のような痺れが駆け抜けた。
孫空女は思わず腰が砕けて、がくりと片膝を落とした。
「な、なに、これ──?」
孫空女は叫んだ。
すると、一瞬で股間を責める感触が変わって、今度は柔らかい粘性の物質で揉まれる感じになり、すぐにまた羽根でくすぐる感触に戻った。
「ひっ、な、なにっ? こ、これなにさ──?」
孫空女は悲鳴をあげた。
なにが起きたのか、孫空女にはまったく理解できなかった。
とにかく、孫空女が動くと胸当てがさわさわと乳首をくすぐったり、もんだり、触手で弄るようなおかしな刺激を与えてくるのだ。
股間も突起と触手と羽根と粘性のもので代わる代わる刺激される。
さらに、肉芽がこれでもかというようにくりくりと動かされた。
「ん、んんっ──」
孫空女は動けなくなった。
動くとさらに強い官能の刺激が孫空女を襲うのだ。
「なにを呆けてやがる──」
強い衝撃を右肩に感じた。
「し、しまった──」
肩に激痛を感じた。
孫空女の身体が後方に飛ばされた。
強い痛みが右肩を襲う。
もしかしたら、肩の骨が砕けたかもしれない。
気がつくと、孫空女は『如意棒』を手放していた。
とにかく、孫空女は宙で身体を捻って体勢を整え、辛うじて倒れるのだけは防いだ。
「はううっ」
だが、着地とともに肉芽が抉られてまた腰が砕けた。
しかも、さらに男の棒が横から襲いかかるのが見えた。
孫空女は自ら身体を伏せて、それを間一髪で避ける。
だが、またもや下着の刺激に翻弄されて、動きをとめてしまった。そこに棒が降ってくる。
孫空女は転がって避けた。
「はあんっ」
だが、それを邪魔するように股間が刺激を追加する。孫空女の身体は刺激のたびに感度があがっていき、ついには甘い声を出してしまった。
「面白い、姉ちゃんだなあ──。感じているような変な声ばかりあげやがって……。俺の一物がおっ勃つじゃねえか──」
豚男が笑いながら棒を振る。
とにかく、孫空女は距離を開けようと、大きく後ろに転がり避けた。
激しく動くと、それに合わせるように革製の下着の武具の刺激も激しくなるが、孫空女は歯を食いしばってそれに耐えた。
とにかく、かなり距離が開いた。
手放していた『如意棒』のところにも辿り着く。
右手を伸ばして握ろうとしたが、やはり骨が折れている。
腕は痺れたように動かない。
豚男が突進してくる。
時間はない。
孫空女は意を決した。
こんなおかしなものを身につけて戦えるものか──。
「ご主人様、恨むからね──」
孫空女は左手で胸当てを脱ごうとした。こんな淫具のような革の下着を身に着けて戦うくらいなら、全裸で戦おうと決心したのだ。
「あれっ?」
だが、孫空女は声をあげてしまった。
脱げない──。
下着が肌に張りついたように動かないのだ。
「そ、そんな……」
孫空女は腰の革の下着にも手をかけた。
やはり動かない。
これは道術の力だ──。
この革の下着に与えられている霊気が、勝手に脱衣することを拒否しているのだ。
「もらったぜ──」
次の瞬間、孫空女は豚男の体当たりを受けていた。
頭をそのまま地面に叩きつけられる──。
衝撃で目がくらんで一瞬、なにも見えなくなる。
「さあ、今回の試合では相手を犯すのは自由になってるからな」
豚男が仰向けになっている孫空女の身体に馬乗りになった。
その豚男が腰の武具を外す。
そして、片手で孫空女の身体を押さえつけ、もう一方の手で器用に、自分の下履きの下袴をおろす。
「な、なんだ、お前──?」
孫空女は顔が引きつるのがわかった。
豚男はいきなり下袴をおろして一物を出したのだ。
その一物は孫空女の知っているどの肉茎よりも巨大であり、亀頭などまるで大蛇の頭のように横に張り出している。
「これをぶち込んでやるぜ──。観客たちも大喜びだろう……」
豚男がその肉棒を自ら擦った。
すると、さらに肉棒が巨大になった。
さっきので勃起状態ではなかったことに孫空女も目を丸くした。
「ふ、ふざけるなよ──」
孫空女は下から拳を突きあげようとした。
あんなものに犯されるなど冗談じゃない。
「ふああっ」
だが、またもや下着が孫空女の敏感な乳首や局部を翻弄する。
それで孫空女は満足に動けなくなった。
「どうしたんだ? なんだか動きがおかしいな。まあいいだろう──」
豚男は手を後ろに伸ばすと、股で押さえつけている孫空女の腰に手をやって、下着越しに孫空女の股を激しく擦り動かした。
「だめえええ──」
孫空女は絶叫した。
脳天を貫くような衝撃が走り、孫空女の身体に快感の槍が貫いた。
孫空女は豚男に馬乗りにされたまま、背中をのけ反らせて絶頂してしまった。
「くらえ」
その孫空女の顔に豚男の拳が上から叩き込まれた。
*
「ご主人様と朱姫姉さん……」
声がした。
総立ちになった観客の大歓声の中で、辛うじて聞き取れた声の持ち主は素蛾だった。一緒に釘鈀の部下の男がひとりついてきている。
「ひっ」
陳嬌がびっくりして、座ったまま身体を跳ねさせたのがわかった。
ここで自慰に耽っていた陳嬌は、壁のある貴賓席の個室の中に誰かがやってくることは想像していなかったに違いない。
それは宝玄仙も同じだったが、朱姫がすかさず陳嬌のまくれた下袍を直したので、素蛾も一緒にいた部下も陳嬌の痴態には気がつかなかったようだ。
それよりも、眼下の闘技に目をやっている。
なにしろ、動きの不自然な孫空女がなすすべなくやられて、豚のように太った大きな男闘士に馬乗りにされているのだ。
ここからではよく見えないが、もしかしたら、あの豚男は孫空女を犯すつもりなのではないだろうか?
それに対して、孫空女はなぜかまったく抵抗できないでいるようだ。
「どうしたの、素蛾? もう、あの
朱姫が言った。
「まだです。でも、釘鈀殿下が闘技会を見に行っていいと許してくださったのです。ここにおられる部下の方に馬車で送っていただきました」
素蛾が言った。
「そうかい。じゃあ、一緒に見ようか。そこに座りな」
宝玄仙は素蛾を朱姫の隣に座らせた。
「では、私はこれで」
素蛾を連れてきた釘鈀の部下が頭をさげた。
しかし、それを宝玄仙は留めた。
「まあ、そんなに急いで行くことはないさ。お前も一緒に見ていけばいいよ……。ねえ、陳嬌?」
宝玄仙は意地悪く言った。
陳嬌の顔は引きつっている。
ほかの部下にそばにいられていは、自慰で股間を苛んで痒みと疼きを慰めることもできないからだ。
自ら絶頂寸前で自慰をやめなければならないという縛りをかけられているとはいえ、まったく刺激しないではいられないはずだ。
だが、釘鈀の部下ということは陳嬌の部下でもある。
その自分の部下にそばにいられては、また耐えるしかない。
あるいは、薬剤の影響に耐えられずに、部下の視線の横で自慰をするのだろうか?
それとも、あくまでも我慢して、痒さと疼きで頭が狂う方を選ぶか?
面白いことになった。
いずれにしても見ものだ。
宝玄仙の嗜虐心が疼く。
「あれは、孫姉さんですか……。あっ、危ない──」
素蛾が声をあげた。
宝玄仙も視線を戻した。
馬乗りにされた孫空女が上から豚男に顔を殴られている。
すでに孫空女はぐったりとしている。
「こ、こらっ──。そ、孫空女──気合入れないかい──。そんな豚、転がして鞠みたいにしてやりな──」
宝玄仙も驚いて大声をあげた。
だが、その声はほかの歓声に紛れて孫空女には届かない。
それに、孫空女はここから見ていると、すでに虫の息にも思える。
さっきまでは、もう少し抵抗もしていたが、それも垣間見られなくなった。
そのとき、さらに大きな歓声が闘技場を包んだ。