「あっ……ああ……」
膝の上の童女が
釘鈀は、素蛾の反応のひとつひとつを確かめつつ、執拗に小さな乳首を揺らしながら胸全体を揉んでいた。
素蛾の胸は、まだほんの膨らみ程度であり、とても乳房とは呼べないようなものだったが、随分と感度はいいようだ。
闘技場に向かう馬車の中だ。
車内は釘鈀と素蛾のふたりきりであり、釘鈀は素蛾を素裸にさせ、釘鈀の腿の上に前向きに乗らせていた。
両脚は釘鈀の脚の外側だ。
その童女の大股開きの股間は、はっきりと釘鈀の見下ろす視界に映っている。
上半身だけを責めているというのに、その股間からはたっぷりと蜜が滴るとともに、匂いたつほどの女の香りが漂っていた。
釘鈀は、反応の豊かなこの童女の感度のよさに嬉しくなっていた。
「おい、まだ、闘技場に向かうなよ。もう、一周は城郭を回れ」
釘鈀は御者に叫んだ。
御者台の家人からは返事は返ってこなかったが、右に向かえば闘技場に到着する辻を馬車が反対に曲がったのがわかった。
これで少なくとも、半刻(約三十分)は余計にかかるだろう。
釘鈀は、愛撫している指を素蛾の小さな乳首を胸の小さな膨らみに押し込むような動きに変えた。
素蛾の反応が大きくなった。
「あ、ああ……そんなに……ああっ……」
「俺の愛撫も効くでしょう、素蛾? まだ、胸だけだからね。この後で、お股もお尻も残っている……。それに女体というのは不思議なものでね……。一度身体に火がつくと、こんななんでもないような場所だって、性感帯に変わってしまうんだよ」
釘鈀は胸を責めていた指をすっと脇の下に持っていった。
「ああ、ひぐうっ」
素蛾がびくりと身体を捻って、手で釘鈀の手を押さえるような仕草をした。
「おやっ? 約束違反だよ、素蛾。どんなことをされても無抵抗でいろと、宝玄仙殿に命令されたんだろう? これは性奴隷の修業のはずだ」
釘鈀は脇の下の指をつっとさげて、ほとんど真横に広がっている素蛾の股間に付け根に持っていった。
もちろん、まだ肝腎な部分には触れない。
ただ内腿を撫でさするだけだ。
しかし、敏感なこの童女は、その愛撫だけで、悲鳴のような声をあげて左右に身体を振った。
一方で手を離してしまった腕を背中に回して、さっきのように右手で左手首を掴む格好に戻った。
この馬車に乗せてすぐに、釘鈀は、この童女に素裸になって、そうしろと命じたのだ。
この童女は本当に釘鈀の命令には一切逆らわなかった。
唯々諾々と服を脱ぎ、下着を含めて身に着けていたものを脱いで座席に置いて全裸になった。
そして、釘鈀の命じるまま腿の上に乗ってきた。釘鈀は、その素蛾に両手を背中に回して動かすなと命じて、裸の素蛾を愛撫し始めたのだ。
もう、かれこれ、半刻(約三十分)近くになるのかもしれない。
その時間、ずっと愛撫を続けた結果、素蛾の身体はすっかりと赤くに火照りきり、全身にかなりの汗をかいている。
股間など蜜でびっしょりだ。
「も、申し訳ありません、殿下……。いいつけを守れなくて……。な、縄で括ってください……。あんまり気持ちがいいと、勝手に離してしまうんです……あ、ああ……」
素蛾が健気なことを言った。
釘鈀は笑った。
「言いつけを守れないのは、いけない性奴隷だね……。じゃあ、括りはしないけど、罰を与えることにするよ……。宝玄仙殿から貸してもらったんだけど、この塗り薬が素蛾は好きなんだろう? 手を離すごとに、これをお股に塗るからね。じゃあ、さっそく、ひと塗りだ」
釘鈀は準備していた小瓶の蓋を外すと、刺激臭のするその薬剤をたっぷりと指の載せた。
それを素蛾の肉芽の部分を中心に塗りたくり始める。
「ひゃああ──。す、好きじゃないんです──。そ、それは痒くなる薬ですよね……。そ、素蛾はそれは苦手です──。だから、いつもご主人様や、朱姫姉さんに性奴隷の修行のために使われるんです」
すっかりと上半身への愛撫で敏感になっていたのか、釘鈀が素蛾の股間に触れると、まるで電撃でも浴びたように素蛾が暴れた。
「だったら、罰には相応しいね……。じゃあ、おまけでお尻にも塗ろうかな。陳嬌は、これを塗られて一日放置されたんだってよ……。素蛾にもそうしてあげるよ。だけど、もしも、痒みに耐えられなくなって、俺に犯して欲しくなったらそう言うんだ──。それにしても、本当に君は淫乱な身体をしている童女だね……」
釘鈀は薬剤を指に足すと、今度は素蛾の腰の後ろから薬剤を肛門に塗り入れた。
素蛾が息も絶え絶えに身体を震わせ始めたので、釘鈀は慌てて指を抜いた。
釘鈀は、素蛾を徹底的な焦らし責めにかけるつもりだった。
痒み剤を塗られたうえに放置をされるのでは、さすがのこの頑固な童女も、釘鈀に屈服するしかないだろう。
陳腐な手だが効果はある。
だから、誰もが繰り返し使って陳腐になる。
釘鈀は、絶対に夕方までに素蛾を堕とすつもりだ。
「だけど、俺に犯して欲しいときには、俺の側女になるのが条件だよ。宝玄仙殿から離れて俺に嫁ぐんだ。あるいは、后になるかい? 何度も言ったけど、俺は身分違いなんていうものは気にする性質じゃないんだ……。まあ、いろいろと、周りがうるさいから、どこかの貴族の娘という偽装はさせてもらうけどね……」
「ああ、そ、それは……」
「だけど、約束するよ。俺は君を大切にする。この世の苦労というものと、一生無縁に暮らさせてあげる。奴隷扱いすることもしない。それをなんで嫌がるんだい? 宝玄仙殿は素蛾が承知すれば、俺に君を譲ると口にしたよ」
釘鈀は責めの矛先を上半身から股間に変えた。
ただし、薬剤を塗った場所には指は触れない。
そのほんの近くを柔らかく撫ぜるだけだ。
「ああ、はあっ、ああっ──そ、それは、わ、わたくしが……ぜ、絶対に承諾しないと思ったから……い、言ったんです……。ご、ご主人様たちが……わ、わたくしを手放すなんて……あ、ありえません……く、ぐう……も、もう痒くなってきました……そ、そんな……ああ……か、痒いです……痒い──」
素蛾が両手を背中で組んだまま、激しく暴れ出した。釘鈀は素蛾が脚の上から落ちないようにしっかりと身体を持った。
一方で片方の手で素蛾の股間を責め続ける。
抱いている素蛾の身体の毛穴という毛穴から一斉に汗が噴き出したのがわかった。
薬剤がいよいよ本領を発揮し始めたのだ。
「もちろん、宝玄仙殿が本気でないことは俺も知っている。宝玄仙殿が冗談を言ったというのはわかっているさ。だから、素蛾殿を陥落させることができるものならやってみろと、俺をそそのかしたのだろうね。だけど、俺は陥してみせるよ……。君が屈服したら、宝玄仙殿には悪いが絶対に君は返さない……。それだけ、俺は君に執着しているんだ」
釘鈀は沁みひとつない素蛾の乳白色の内腿を手のひらで撫で続ける。
そうやると痒みと疼きが増長されてしまうことを釘鈀は知っている。
素蛾は半狂乱になってきた。
昨夜の性交のときに、一大決心をして素蛾を譲り受けて正式の側女──、場合によっては后にしてもいいとさえ思った釘鈀だったが、それはあっさりと素蛾に拒絶されて終わった。
しかし、朝になり、それでも諦められなかった釘鈀は、もう一度、同じことを素蛾の前で宝玄仙に頼んだ。
すると、宝玄仙は笑いながら、素蛾を承知させることができたら考えてやると言い、今日の夕方までの素蛾の時間を買えと釘鈀に告げたのだ。
宝玄仙が申し出た金額は帝国金貨で金貨十枚だ。
金貨一枚でさえ、庶民であれば、普通の家族が半年暮らせるほどのものだ。
それが十枚で夕方までの時間というのは、どんな高級娼婦でもあり得ない額だ。
だが、釘鈀はそれを支払った。
それで釘鈀と宝玄仙の賭けが成立した。
釘鈀はあの手この手で夕方まで素蛾を責める。
それで、素蛾が釘鈀に譲られることを承知したら、素蛾は釘鈀のものになるということだ。
宝玄仙は、その十枚を素蛾に渡し、これはお前の稼ぎだけど、その代わりに夕方までは、釘鈀のどんな命令にも逆らってはならないと諭していた。
素蛾はそれを承知した。
だが、金貨そのものは、素蛾はそのまま朱姫に渡していた。
そのことは、早朝に出立しなければならない沙那と孫空女に合わせた早い朝食のときだった。
沙那も孫空女も、素蛾と仲がよさそうな朱姫も、釘鈀と宝玄仙の賭けにはあっけらかんとしていた。
あの三人も、素蛾が屈伏することはないと思い込んでいるようだった。
しかし、釘鈀は陥して見せるつもりだ。
この健気で心の美しい童女は、釘鈀の生涯の伴侶して相応しいと思う。
それは釘鈀の勘だが、釘鈀のこの手の勘は外れない。
人を見る目は釘鈀の最大の武器だ。
「ああ、はう、ああ……か、痒い……痒いです……あああ……」
素蛾の身体が苦しそうに反り返った。
喘ぎ声が激しくなる。
「そろそろ、屈伏してはどうだい? まだ、闘技場にも着いていないんだよ。それとも、闘技場に着けば、仲間が助けてくれるとでも思っている? それだったら、無駄だよ。しばらくは到着しない。わざと遠回りをしているからね」
釘鈀は笑った。
そして、いまはどこを馬車が走っているのだろうかと窓から外を見た。
だが、いつの間にかたちこめていた深い霧で景色が見えない。
この帝都で霧など珍しいと思いながら、釘鈀は意識を素蛾に戻した。
だが、そういえば、馬車のすぐ横を駆けているはずの護衛の騎馬の音もしないと思った。
まあ、少し離れたのだろうと、あまり気にはならなかったが……。
「ひいっ、か、痒いです……ああ、く、苦しいです……か、痒い──」
そのうち、素蛾の暴れ方が激しくなってきた。釘鈀は素蛾の胴を掴む腕にさらに力を入れた。
すると、ついに素蛾が泣き出してしまった。
そのあまりの様子に釘鈀は、絶対に屈服してみせると強く決心した心が揺らいだ。
実は、痒み剤なんてものを自ら使うのは実は初めてなのだ。
それにしても、宝玄仙に渡された掻痒剤は、少々効き目が強すぎるのではないか……?
釘鈀はだんだんと心配になってきた。
屈伏はさせたいが、素蛾に嫌われては元も子もない。
釘鈀は、痒みに苦しんでいる素蛾の股間を強く擦った。
「はぐううう──」
その瞬間、素蛾ががくがくと身体を震わせた。
あっという間に絶頂しそうな感じだ。
釘鈀はその姿があまりにも可愛くて、強い愛撫を継続した。
そのまま背中が反り返り、絶息するような悲鳴をして、さらに素蛾の両脚が痙攣した。
やがて、素蛾の身体が完全に脱力したようにぐったりとなった。
「い、いってしまいました、で、殿下……。か、勝手に……い、いって……すみません……。ば、罰を足してもらってもいいです……はあ、はあ……」
素蛾が申し訳なさそうな表情をした。
釘鈀はもう我慢できなかった。
素蛾を焦らし責めにする予定だったが、これでは釘鈀がお預けをされているようなものだ。
釘鈀は一度素蛾を横に置き、揺れる馬車の中で下袴と下着を足首までおろした。
一物はすっかりと大きくなっている。
すぐに素蛾を抱きかかえて、今度は釘鈀と向き合う姿勢にさせた。
素蛾の身体を腰の上におろしながら、怒張の先端を素蛾の股間にあてがう。
「ふわっ、ああ、あっ……だ、だめ……き、気持ちいいです……。そ、そんな……こ、怖いです……で、でも、気持ちが……よ、よくて……はあああ……」
素蛾の膣は最高だ──。
身体は幼いのに股間はすでに大人のようにできあがっている。
相変わらず、大した抵抗もなく深いところまで貫くことができそうだ。
気を達したばかりで蜜が多かったというのもあるだろうが、これは素蛾の天性のものなのだと思う。
素蛾は男を悦ばせる身体をしているのだ。
やがて、ついに素蛾はその小さな腰で釘鈀の怒張をすっかりと咥えてくれた。
すると、素蛾は快感に耐えられなくなったように激しく喘ぎだした。
そして、今度はぐいぐいと小さな女陰で釘鈀の肉棒を締めつけてくる。
これも意識しているとは思えない。
おそらく、無意識のものだと思う。
しかし、手頃な圧迫感が釘鈀の強い快感を誘う。
釘鈀は、馬車の揺れに合わせて素蛾の腰を律動させながら声をあげた。
耐えようと思えば耐えれる。
だが、釘鈀はこの童女の膣に精を放ちたくて仕方がなかった。
この童女はそんな気分にさせるのだ。
素蛾との交合は、ほかの女とは全く違う──。
なにが違うのかわからないのだが、釘鈀はこの素蛾とかかわると、本当に素直になれる気がした。
心が休まるのだ。
なんとしても、伴侶にしたい。
「ああ、も、もうきました……。い、いきそうです……。怖い……怖いです……はああ……」
素蛾がいつの間にか自ら腰を動かしてきた。
身体は小さくても、すっかりと性交のできる身体にしたと宝玄仙が言っていた。
そのとおり、淫らに反応する素蛾は、とても、十二歳の童女には思えない。
釘鈀も本能のままに、素蛾の股間を下から突きあげるように腰を動かした。
「ひゃああ──ひゃっ、ひゃっ、こ、怖い……いぐうっ……こ、怖い……怖い……ひゃがっ──」
素蛾が悲鳴のような声をあげた。
「な、なにが怖いんだ……?」
釘鈀は腰を上下に動かしながら訊ねた。
素蛾は大粒の汗を飛び散らせながら、また身体をのけ反らせている。
「……だ、だって……しゅ、朱姫姉さんがいないのに……こ、こんなに気持ちよくなるなんて……怖い……怖いです……ああ、いく……いきます……いぐうう──」
素蛾が絶頂の言葉を口にした。
二度目の快感の頂点に達したようだ。
釘鈀もそれに合わせて精を放った。
それにしても、随分と可愛いことを叫んでくれるものだと、釘鈀は素蛾を抱きしめながら思った。
精を放ち終わった釘鈀は、だんだんと興奮も冷めて、落ち着いた気分になってきている。
絶頂のときに、素蛾が怖いと言ったのは、釘鈀を相手に快感に溺れている自分が怖いという意味だろう。
そういえば、昨夜の情交のときには、最初は身体が硬く緊張していたものの、朱姫がやってくることで、それが解れて釘鈀を受け入れてくれた。
それが今日は、朱姫も誰もいない状態で同じように釘鈀を受け入れて快感に染まった。
その自分の心の変化に素蛾は恐怖を抱いたようだ。
これなら、夕方までに陥せるのではないか……?
いや、それはさすがに無理でも、時間をかけてゆっくりと素蛾の心を解きほぐせば、この奴隷童女もなんとか釘鈀に心を傾けてくれるのではないか……?
そう思った。
「なあ、素蛾殿……。本当に俺は君を奴隷扱いするつもりはないのだ。お願いだから、承諾してくれないか……? なにが不満なんだ? 真摯なことを教えてくれ。本当の身分が奴隷女であるのに、皇族に嫁ぐようなかたちになるのが怖いのか? そんなのは本当に気にしなくていいようにする……。誰が調べても、本物の貴族出身だとしか思えないように工作できる。俺にはその力もあるんだ」
釘鈀はもう一度言った。
だが、素蛾が承諾しないのは、宝玄仙や朱姫たちが純粋に好きだからというのはもうわかっている。
素蛾は身分の差を気にするような人間ではなさそうだ。
彼女の心は、もっと純粋で素朴なところにあると思う。
釘鈀は、ただ、素蛾と会話がしたくて、そう言っただけだ。
それに、素蛾はぐったりして、身体を釘鈀にもたれさせている。
とても、まともに話ができる状態ではない。
「……はあ……はあ、はあ、はあ……そ、そんな工作……ひ、必要ないです……わ、わたくしは……天神国の……王族ですから……不肖の娘……ですけど……」
素蛾は荒い息をしながら釘鈀の胸にもたれかかたまま言った。
意識して喋ったというよりは、連続絶頂で呆けていたために、つい口走ったという感じだった。
だが、釘鈀は素蛾の言葉を訝しんだ。
天神国の王女……?
目の前の奴隷童女が──?
笑いかけたが、その笑いの感情は、真剣な釘鈀自身の疑問で消滅した。
もしかしたら、あり得ることではないかと思ったのだ。
天神国のことなど、いまのいままでなんにも記憶には呼び起こさなかったが、そういえば、天神国の末の王女が行方不明になったという事件については耳にしていた。
詳細は聞いてはいない。
興味のある話ではないし、釘鈀もあまり気には留めていなかった。
だが、考えてみれば、そもそも、宝玄仙が釘鈀の屋敷にやってきたとき、末皇子の
宝玄仙たちは細蔡君を『操り道術』を遣って言いなりにさせた気配だったが、まったくの見知らぬ関係という感じでもなかった。
なぜ、細蔡君は宝玄仙と知り合いだったのだ……?
そういえば、細蔡君は、つい最近、天神国の末王女と婚姻の話があった気がする。
秘密にはなっているが、実際には、それは天神国の宮殿に入り込んだ悪意を持った亜人の道術が絡んでいて、それで破談になったと聞いている。
そうだとすれば、そもそも、宝玄仙と細蔡君が知り合いになったのは、その事件が関わっているというのは十分に考えられる。
当て推量だが可能性はあるだろう。
宝玄仙は旅の女であり、陳嬌が沙那と孫空女を帝都に連れてきたときには、一行は南の地方都市にいたはずだ。
陳嬌は、ふたりをその都市の営牢から連れてきたのだ。
細蔡君が宝玄仙を伴って屋敷にふたりを追いかけてやってきたのは、その直後だった。
だから、細蔡君は宝玄仙とその以前から顔見知りだったと考えるしかない。
細蔡君は皇族の行事にはほとんど顔を出すこともない。
従って、外国の賓客と接する機会は皆無だ。
その細蔡君が帝国外の者と知り合いになる機会は、最近では、その天神国の一件のことしかないはずだ。
これは調べてみる価値はありそうだ……。
釘鈀は目を閉じている素蛾を抱きながら思った。
そういえば、行方不明の天神国の王女の名も素蛾だった気もする……。
そのとき、不意に馬車が急に停車した。
「どうした──?」
釘鈀は叫んだ。
窓の外を見た。
相変わらず濃い霧のために視界はない。
「到着でございますよ、釘鈀皇子……ふふふ……」
御者台と馬車の室内を繋ぐ小さな穴から、御者が顔を見せた。
「あっ──」
釘鈀は叫んだ。
顔を覗かせたのは、釘鈀の家人の御者ではない。
それどころか人間でもない。真っ赤な肌の顔をしていて眉間に角がある。
亜人だ──。
釘鈀はびっくりした。
「お、お前は誰だ──? 俺の御者はどうした?」
釘鈀は素蛾を揺り動かしながら叫んだ。
素蛾は半分眠っていたような状態だったようだが、御者台から覗いている亜人の顔を見て、すべてを悟ったように、冷静な態度で釘鈀の身体から降りると、服を身に着け始めた。
落ち着いている──。
目の前に亜人がいるというこの異常事態に動じる様子がないのは、生来の育ちによるものではないか……?
やはり、本当の王族……?
釘鈀はふと思った。
「ひひひ……。俺の名は
大角と名乗った亜人が言った。
「なんだって──?」
釘鈀はびっくりして、馬車の扉を開いた。
「あっ──」
口から悲鳴が迸った。
馬車は景色の見えない深い霧の中に停車し、しかも、馬車を武装した亜人の一隊が囲んでいたのだ。
その数は二十人はいるだろう。
二十人どころか、相手がひとりでも武芸の心得えのない釘鈀ではかなわない。
なにが起こったのかわからないのだが、いつの間にか帝都に亜人が侵入していて、それで釘鈀の馬車を怪しげな術で、この連中の待ち構えていた場所におびき寄せたようだ。
つまりは、なにかの罠に嵌まったのだと思う。
この深い霧はとても自然のものではない。
おそらく、いま、釘鈀は連中の誰か……。多分、大角という亜人の作った道術による結界のような場所の内側にいると思う。
釘鈀にはここから脱出するような道術も遣えない。
万事休すだ──。
「さあ、降りてきな──。言っておくが、逃げようとしても無駄だぜ。ここは俺の作った結界の中だ──。お前がどんな道術の持ち主でも逃げられねえ……。まあ、そんな術の心得えのないことは下調べで承知しているがな……へへ……」
御者台から降りてきた小角が扉の前にやってきて言った。
ほかの亜人たちは、威嚇するように、馬車にじりじりと詰め寄ってくる。
釘鈀は息を吐いた。
「わかった……。投降しよう──。だが、馬車の奴隷娘は関係ないだろう。それは、このおかしな場所から戻してやれ」
釘鈀は言った。
「いいぜ──。俺が命じられているのはお前だけだ。大人しく馬車から出てくれば、奴隷娘には手はつけねえ──。だが、抵抗するようなら、見せしめのための目的でその童女を殺すぜ、色男」
大角が言った。
「よかろう」
釘鈀は馬車を降りようとした。
「待ってください──」
そのとき、突然、馬車から顔出した素蛾が叫んだ。
「ほんの少しだけ──。少しだけ、殿下と別れをさせてください。お願いします、亜人様」
素蛾が強い口調で言った。
その毅然とした態度には、これがさっき釘鈀の股間の上でよがっていた同じ童女なのだろうかと、釘鈀も呆気にとられたくらいだ。
「別れ──?」
「はい──。ほんの少しだけです──。馬車の中でふたりきりに──」
素蛾がきっぱりと言った。
すると、大角が肩を竦めた。
「まあ、いいさ──。どうせ、逃げられねえしな──。だが、少しだけだ──。いまから、もう一度乳繰り合うなんて時間は渡せねえぞ」
「すぐに終わります」
素蛾はそう言うと、釘鈀を馬車の中に引っ張り込んで扉を閉めた。
「なんなのだ、素蛾殿──? こうなってしまって残念だが、なんとか君だけは助けてあげたい。まあ、それも連中の慈悲にすがるしかないというのが情けないがな」
釘鈀は自嘲気味に笑った。
「お願いします……。口づけを……」
素蛾が釘鈀の耳元でささやいた。
「く、口づけ……? だが、君の口づけは……」
釘鈀は困った。
素蛾の唾液は強烈な媚薬だ。
それを口にすれば、あっという間に釘鈀はおかしな気分になる。さすがに、この状況でそんな状態になるわけにはいかない。
「……お願いします。少しだけ……」
だが、素蛾は真剣な表情だった。
釘鈀は溜息をついた。
まあいい……。
釘鈀が正気だろうと、そうでなかろうと、結果には変化はないだろう。
それよりも、口づけをねだるなど、やっと心を開いてくれたような素蛾の願いに応じたいと思った。
釘鈀は素蛾を唇を重ねた。
その瞬間、液体のようなものが口の中に流れ込んできた。
最初は素蛾の唾液かと思ったが、そうじゃなかった。
気がつくと、釘鈀の身体は完全に弛緩していた。釘鈀は座席に崩れ落ちていた。
「ごめんなさい、殿下……。万が一のときには使ってもいいと、ご主人様に痺れ薬をもらっていたんです……」
素蛾はそう言って、もう一度釘鈀の口に吸いついた。
すると、目の前の素蛾の姿が釘鈀そのものに変化した。
服装まで一緒だ。
「あ……? か……?」
釘鈀は喋ろうとしたが、舌も痺れて動けない……。
その釘鈀を素蛾は座席の下に静かに落として、座椅子の下に押し込んだ。さらに後部座席から毛布を持ってきて釘鈀の身体を隠した。
この馬車の中で素蛾を抱く気満々だったため、釘鈀は毛布を馬車の中に持ち込ませていたのだ。
「……半刻(約三十分)もすれば、痺れは解けると思います……。わたくしを助けようとしてくれたことに感謝します……。でも、どちらかが助かるなら、わたくしのような奴隷こそ犠牲になるべきだと思います……。どうか、朱姫姉さんとご主人様、そして、沙那様と孫様によろしくお伝えください、殿下……。これまでのことを感謝していると……」
素蛾が毛布越しにささやいた。
だが、その声は男の声だった。
釘鈀自身の声なのだろう。
声をあげようとしたが、どうしても声は出ない。
相変わらず完全に身体は痺れている。
釘鈀の姿になっている素蛾が立ちあがって、馬車の外に出ていく気配がした。
「待たせたな──。約束だ。俺は投降する──。だが、馬車の中には手をつけるな」
扉が開いて、素蛾が釘鈀の声でそう叫ぶのが聞こえた。
大角の笑い声がしたが、扉がばたんと閉じられたため、それで外の声はわからなくなった。
あとは喧噪だけだ。
しかし、しばらくすると、その喧噪も消えた。
寂として何の音もなくなった。
釘鈀は、馬車の中でひたすらに外に出ようと、動かない身体をもがかせ続けた。
すると、馬車の外から、当たり前の帝都の城郭のざわつきが聞こえ始めた。
そして、扉が勢いよく開いた。
「で、殿下?」
大きな声がした。
釘鈀はそれが護衛の部下の声であることがわかった。釘鈀は呻き声を出した。
毛布がどけられた。
「おおっ、殿下──。ご無事で──。よかった──」
その部下が、大きな安堵の声をあげた。