一匹目は美しい鳥妖だった。
ただし、片方の羽根を切断されていて、跳べないように処置をされていた。
それでも真っ白な翼と身体を覆う白い羽毛は、気品さえ感じるほどの美しさだった。
小さな角が浮かんでる真っ白で真っ直ぐな髪も、それに包まれた顔もまさに美少女そのものだ。
朱姫は、競り台の下に備え付けられた檻に入れられたまま、それをぼんやりと眺めていた。
鳥妖は、羽根があるというのを除けば、いまの朱姫よりもずっと人間に近かった。
羽毛は全身を覆っているものの、乳房から股間に駆けた部分は完全に無毛だった。人間の少女を思わせる股間には、恥毛は生えていない。
その鳥妖は、競りの主催者たちにより、やたらに高い位置にある腰掛けに、無理矢理に羽根を畳んで座らせられていた。
口に嵌められた猿ぐつわからは、はっきりとした人間の悲鳴が出ていたから、あの鳥妖が人語を使うということは朱姫にもわかった。
人語を喋るものと喋らないものが、家畜にしてもよい妖魔とそうではない妖魔を分けているらしいが、事実上は無視されているようだ。
この
また、妖魔は大抵は魔術を使えるのだが、あの雌の鳥妖の首にも、朱姫と同じ首輪が嵌められている。
おそらく、あの鳥妖の娘も、それで魔力も抵抗も封じられているに違いない。
鳥妖の娘は、椅子に上半身を縛りつけられると、両足を高い腕掛けに掛けられて拘束された。
妖魔といえども、若い少女には違いない。
性器を大勢の人の目に晒け出さされた、あまりにも可哀そうなその恰好に、朱姫は思わず目を背けてしまった。
鳥妖のの少女も、酷い仕打ちに猿ぐつわをされたまま、泣きじゃくっている。
競り市に参加した人間は、見物客も含めて、数百人はいるだろう。
ここは、宝象国の王都の広場だ――。
年に四回開かれる妖魔市であり、それは王都の住民にとっては、娯楽の一種でもあるらしい。
ああやって、見世物同然に扱われる妖魔を見ては愉しむのだ。
売られた挙句の妖魔がどういう末路になるのかまでは、朱姫は知らない。
この国の妖魔は惨めだ。
家畜と同じ扱いしか受けない。
朱姫の生まれ育った
ここでの妖魔は、生き物としての扱いは受けられずに、単なる“もの”でしかない。
競りの台上では、鳥妖の娘がはしたない嬌声をあげさせられ始めた。
買い手たちの要望で、女としての反応を確かめるため、局部を筆で擽られだしたのだ。
しかも、かなりしつこく責められた。
観客たちの揶揄の中、その鳥妖は大きな声をあげて、何度か気をさせられた。
随分と反応もよかったので、あるいは売り手の奴隷商が、あらかじめ媚薬でも飲ませていた可能性もある。
敏感な方が高く売れるという判断もあるだろう。
やがて、競りがはじまった。
あの鳥妖は、宝象国の金貨で十一枚の値がついた。
購ったのは、貴族女のようだ。
道術遣いに間違いない従者が、抵抗する鳥妖の足首に足輪を嵌めた。
たちまちに鳥妖は大人しくなり、貴族の女の準備した檻のついた馬車に入れられて運ばれた。
二匹目は双子の妖魔の少年だった。
二匹とも二歩脚で立っていて、顔が山猫のような顔をした。やはり頭に角があり、そして、身体に体毛と斑点の模様があった。
ふたりのそれぞれの両足は鎖のついた足枷が嵌められていて、ふたりの足枷もまた、鎖で繋がっていた。
腕は、手枷で後手に拘束されている。
この二匹は人間の言葉は喋れないようだ。
吠える声は動物そのものだ。
二匹とも股間の部分に、布切れが巻かれていたが、競台にあがると同時に引きはがされた。
二匹の股間には、人間の男とまったく同じような男根があった。
暴れはじめた二匹を屈強な数名の男たちが現れて押さえつける。
そして、売り手の老婆が大きな声で説明をしながら、妖魔の少年のひとりの男根を小さな杖で叩いた。
なんらかの術を加えたのだろう。
妖魔の少年の男根は、あっという間に勃起して空を向いた。
そして、もう一匹も同じようにされる。
空を向いたふたつの妖魔の少年の男根――。
観客の叫び声はひと際高まる。
妖魔の少年たちの顔が屈辱に歪んだ。
代わる代わる、とんとんと、老婆は妖魔の少年たちの男根を突いた。
そのたびに、少年たちは顔を真っ赤にして震わせた。
そして、何回目かの刺激ときに、二匹が続けざまに射精をした。
凄まじい笑い声が周囲を覆った。
それとともに、二匹とも、その場で啜り泣きを始めた。
朱姫は可哀そうだと思うよりも、あの少年たちは、まだ涙を流すことができるのだなあとだけ思った。
もう、朱姫には、涙を流すことさえできないのだ。
その後、さらに数回ずつ、その二匹は、衆目の中で射精をさせられた。
そして、二匹は、一匹ずつ、競売にかけられ、それぞれが金貨三枚で売れた。
それぞれの買い手に連れて行かれた。
引き離されるときの二匹の悲痛な叫びが、朱姫の耳にいつまでも残った。
「さあ、大人しく出なさい。出番よ、朱姫」
白骨が朱姫の首に鎖を繋いだ。
この霊具の鎖に繋がれると、なぜか一切の抵抗ができなくなる。
朱姫は、四つん這いの獣に近い身体で、鎖に曳かれるまま競りの台にのぼった。
いまの朱姫は、『獣人の技』を遣うときに近い獣の姿だ。しかし、大きさはいつもの朱姫の身体と同じ程度だ。
そんな風になるように獣化の程度を調整されたみたいだ。
台上にのぼったときの、圧倒的な観客の威圧感に朱姫は、眼がくらみそうな感覚を覚えた。
怖い――。
すべての蔑みと、侮蔑の視線が朱姫に集まる。
朱姫の前脚が肩幅の広さで、一本の棒に結ばれた。
その棒が準備された台に架けられる。
朱姫は、狼形の獣の身体を前脚で吊られ、身体の腹側を観客たちに曝け出すように固定された。
「金袋をひとつ――」
すぐに、声があがった。
金袋ひとつというのは、宝象国の金貨なら十五枚に匹敵する額だ。
朱姫は声の方向を見た。
声をかけたのは、茶色い布のマントで身体を覆ったひとりの老人だ。
観客たちから一斉に失望の声が漏れた。
観客は、この美貌の妖魔師の白骨がいつも愉しくて残酷な見世物を商品を使ってやるのを知っている。
だから、買い手が過早についてしまい、白骨の演出が見れなくなりそうなことに、不満の声をあげているのだ。
「ありがとうございます。しかし、競りについては、この雌妖の紹介をさせていただいた後で、させていただきたいのです。ほかの観客たちも、それをお望みでしょうし……。趣向を凝らした見世物になると思いますよ」
白骨は言った。
「金貨ふた袋……。いや、三袋だ」
すると、老人がしわがれ声で言った。
今度は観客からどよめきが起こった。
妖魔一匹に出す額としては破格に違いない。
「いい値だと思うがな、奴隷商のご夫人? ただし、その雌を見世物にしたら、わしは競りには参加せん。見世物にしてもよいが、わしのほかに、金貨三袋以上出す者がいると思わんがな。それでもよければ、いくらでもやればいい」
老人ははっきりと言った。
白骨が息を呑む音が聞こえた。
だが、しばらくしてから、口に満面の笑みを浮かべた。
「
白骨は言った。
朱姫は呆然としていた。
その朱姫の腕の拘束が解かれる。
「じゃあ、これを……」
台にあがってきた老人が、主催者の机に金の袋を三個置く。
「これで、この雌妖は、わしのものだな」
「……お、お買い上げありがとうございます」
破顔の白骨の顔が、その老人の顔を覗き込んで、少し首を傾げた。
「あの……もしや――?」
「行くぞ、雌」
老人が、朱姫の首輪から鎖を外した。
「お、お待ちください。実は、そいつは、まだ未調教です。その鎖がなければ……」
「不要だ」
慌てる白骨をうさん臭そうに手で払い、老人は朱姫の額に指二本を置いた。
なにか、熱くて不可思議なものが流れてくる。
次の瞬間、それが『縛心術』だと気がついた。
他人に施したことは数多くあるが、自分が受けるのは初めてだ。
もう、この老人から逆らえない。
売られた直後が、逃げ出すための最後の機会だと思っていただけに、朱姫の心に絶望が拡がる。
「ついて来い」
老人が台から降りて歩き始めた。
雑踏が分かれる。
その間を朱姫は、四つん這いで歩いていく。
妖魔市の競りの賑わいから離れると、後ろにすっと人影を感じた。
誰かが後ろからついてくる。
「振り返るな、雌」
老人の強い声――。
朱姫は、後ろを振り返れなくなった。
気配から考えて、朱姫のすぐ背後を歩いているのは、ふたりのようだ。
すぐ後ろに回られれば、曝け出した股間が丸見えだ。
恥ずかしいが、いまの朱姫は恥ずかしくても隠すことなどできない。
性器を晒したまま、そのまま歩くしかない。
「宿まではしばらくあるが、繋いでいない雌妖をそのまま、城郭内で歩かせるわけにはいかんだろうね……。お前たちは後からゆっくりと歩いて来な」
老人が振り向いて、さっと朱姫の全身をマントで覆った。
後方の人間の抗議の声を感じた気がした。
身体が捻られる感覚――。
『移動術』だと感じたのは、すぐだ。
気がつくと、見知らぬ部屋にいた。
「さてと、雌妖。そのまま動くな」
老人の足が眼の前にあった。
四つん這いの朱姫の頭の上に、その老人の足の裏が乗せられる。すると、手足が勝手に朱姫を「伏せ」の状態にした。そのまま、頭を踏んづけられる。
だんだんとその足に力が入る。
『縛心術』に縛られた朱姫には、その足をどかせることができない。
老人の手が、朱姫の首に伸びた。
首輪が外された。
朱姫は吠えた。
全身に激痛が走り、身体がつった。
手と足が延びる。
だが、それを阻むなにかが、全身を貫き、それが猛烈な痛みに変わる。
朱姫は泣き叫んだ。
「こりゃあ、かなりの施術を受けたね――。戻すには、骨が折れそうだ」
老人の声――。
だが、足は頭の上からどかせてもらえない。
それどころか、嫌味のようにぐいぐいと力を入れてくる。
「あ、足を――」
朱姫は、そう叫んではっとした。
人間の言葉が出る。
ふと気がつくと、手足も人間のものに戻っている。
どうやら、やっと獣の姿から解放されたのだ。
「言葉を封じていた霊具は外してやった。とりあえずは、姿かたちは人間の娘に戻った。ただし、身体の中の改造はそのままだ。このままじゃあ、だんだんと妖気が捻じ曲げられて、本当に獣の姿に固定されてしまう。身体を元に戻して欲しいか?」
老人は言った。
「は、はい」
朱姫は、思わず言った。
「じゃあ、まずは足の指を舐めろ。履き物を脱がせてな。一本一本舌で掃除しろ」
「あ、あのう……。じ、実はあ、あたしは、無理矢理にさらわれて……」
「そんなことは関係ない。お前は、わしが買った家畜だ。あの白骨は人浚いだ。お前がまっとうなやり方で捕えられたのではないことは予想がつく。しかし、わしが金貨三袋も支払ったのも事実。その時点でお前は、正式にわしの所有する道具ということになっているのだ」
顔を履き物の裏でぐいくいと踏まれる。
顔を床のすぐそばから離すことができない。
「で、でも、あたしは……、
朱姫は訴えた。
苦しい姿勢を強いられているせいか、口から舌がべろりと出る。
みっともないとは思うが、それをやめると苦しいのだ。
「足を舐めるんだよ、朱姫」
老人が自分で履き物を脱いで、足の指を朱姫の開いている口に押し付けてきた。
朱姫は顔を捩じってそれを避けた。
思ったような悪臭はない。
むしろ、なにかいい香りまでする。
しかも、老人の男とは思えない、綺麗な足の指だ。
朱姫は戸惑った。
だが、ぐいぐいと朱姫の口に足の指が突っ込まれる。
「舐めるんだよ――、ほら、朱姫」
「やああっ――」
顔を激しく左右に捩じって、懸命に朱姫は足の指を顔から出そうとする。
そうしながら、なぜ、この老人が朱姫という名を知っているのか疑問に思った。
背中側の部屋の扉が、勢いよく開いた。
「なにをしているんです、ご主人様――?」
背後で叫び声がした。
「さ、沙那姉さん――?」
朱姫は歓びのあまり叫びんだ。
背後の声は沙那の声に間違いない。
「ひどいよ、ご主人様、あたしたちを置いていくなんて」
孫空女の不満そうな声もあった。
「もういいよ、朱姫。術を解いてやろう。身体を起こしていい」
老人の声が変わり、宝玄仙の声そのものになった。
その瞬間、身体の呪縛が解けて、身体を起こすことができた。
やっと、朱姫は自分の身体を触ることができた。
顔や頭も触ったが、牙や尖った房耳も角もない。
お尻の尾も消えている。
「ああっ、ご主人様、沙那姉さん、孫姉さん――」
朱姫は悦びのあまり、感極まって泣いてしまった。もっとも、施術をされたままの朱姫の身体からは、涙がこぼれることはなかったが……。
「よかったね、朱姫」
「本当だよ。心配したよ。やっと王都にいるとわかったときには競りの直前で、間一髪だったんだ」
沙那と孫空女が両側から全裸の朱姫を抱いてくれた。
「とりあえず、奴隷の奉仕をしてもらおうか。その後に、あの白骨にどういう仕打ちをされたか教えてもらおうか。あいつに仕返しをしないとならないしね。時間がなかったから、手っ取り早く有り金はたいて競り落としたけど、さっきの金貨も取り返さなければならないし」
眼の前の老人が宝玄仙に変わっている。
『変化の指輪』で変身をしていたのだ。よく見れば、手の指には特徴のある指輪が嵌まっている。
朱姫の顔に再び宝玄仙の足の指が延びた。
心からの満足とともに、朱姫はその指を口に含んだ。
*
宝玄仙によれば、朱姫はかなり酷い状況にあるらしい。
沙那は、孫空女とともに宝玄仙から説明を受けた。
最大の問題は、身体に注入された
それは、朱姫の身体中に無数の卵を産みつけていて、生半可な退治はできないようだ。
それこそ、無数に産みつけられている卵を一個でも生き残らせてしまえば、あっという間に復活し、元の数だけの個体が増えてしまうらしい。
しかし、放っておけば、次第に臙脂虫は、身体だけではなく、脳も犯していき、だんだんと朱姫の身体は獣のようになるのだという。
なんというものを身体に注入したのだと、沙那は腹が煮え返った。
しかも、完全な駆除は、実質的にはどんな方法でも難しいようだ。
臙脂虫の卵の破片が、もう朱姫の身体の一部になりきっていて、死滅させるには朱姫の血を全部入れ替えるくらいしか方法がないらしい。
もともと、半妖である朱姫が普段、人間の姿であるのは、微妙な血の傾きがそうなっているに過ぎないのだそうだ。
血の平衡が崩れれば、朱姫は簡単に獣のような姿に変わるのだという。
もともと、妖魔というのは獣が魔力を帯びて知能や能力が向上した生き物なのだそうだ。
「『治療術』じゃあ、駄目だね。お前の身体に道術紋を刻むしかないね。それで、わたしの強力な霊気を常に注ぎ込むようにする。そうやって、卵の孵化を抑えるしかない」
宝玄仙が嘆息した。
「お願いします、ご主人様」
朱姫が頭を下げた。
「その代わり覚悟をするんだね、朱姫。この宝玄仙の道術紋を刻まれるということは、それこそ身も心もわたしに支配されるということだよ。一生、この変態巫女から逃げられないということさ」
宝玄仙は笑った。
「覚悟はできています」
「まあ、そりゃあそうだね。ほかには方法はないしね。もっとも、この埋め合わせは、あの白骨にしてやるさ。とにかく、朱姫の身体の処置が終わったら、すぐに白骨のところに乗り込むからね」
宝玄仙が憤慨している感情を隠すことなく言った。
「でも、その白骨夫人とやらのいる場所はわかるんですか? 調べる限り、かなり用心深いみたいですし、下手に接近すれば逃げられるかも……。朱姫も詳しい場所まで知っているわけじゃなさそうだし」
沙那は白骨夫人とやらの追跡のあいだ、可能な限りの彼女の一味についての情報を集めた。
それでわかったが、彼女たちは、かなり有名な闇奴隷商だが、なかなか尻尾を掴ませない用心深さもあるということだ。
おそらく、朱姫が監禁されていた場所も、彼女たちの隠れ家のひとつであり、こっちが追いかけようとすれば、向こうは簡単に逃げてしまうだろうという予測している。
もともと、幾つもの国を跨いで動いているらしく、そうなると、どこに逃げたのか検討はつけにくく、それこそ、連中を見つけることが困難になる。
「まあ、なんとかはなるさ。協力するような地元の男をひとり知っている。あいつには貸しがあるからね。白骨探しに協力させるのに、嫌とは言わせないさ。この姿でうろついていれば、向こうから見つけるさ」
宝玄仙は白い歯を見せた。
沙那は首を傾げた。
「ねえ、それよりも、ご主人様の施術で、本当に朱姫は脳を侵されなくてすむのかい?」
孫空女が心配そうに口を挟んできた。
「わたしと一緒にいる限りね。朱姫に刻んだ内丹印がわたしの抵抗力の強い霊気を吸い続ける。それで、臙脂虫の活動と孵化は抑えられる。ただし、わたしから離れれば、霊気が吸えなくなるから、たちまちに臙脂虫が活性化する。まあ、そういうことさ」
「わかんないけど、大丈夫ということなんだね、ご主人様?」
「とりあえずはね……。さて、じゃあ、横になりな、朱姫」
「はい」
朱姫が裸の肌を晒して、うつ伏せに横たわる。
沙那と孫空女は、それを部屋の隅で見守っていた。
宝玄仙が、杖を出して朱姫の背中に紋様を刻み始めた。
「いいっ――」
すると、朱姫が苦悶の悲鳴をあげた。
激痛と熱さ――。
同じ紋様を刻まれている沙那には、内丹印という道術紋を刻まれるときの苦しさをよく記憶している。
あれは痛い……。
だが、その痛みは、やがて焼けるような欲情にも変わっていく。
術式が終了した直後は、まるで情欲の頂点に達したような錯覚を覚えるのだ。
「あっ、あがっ、がっ、はっ、はあああ……。んぐううっ、ふわあっ」
朱姫の呻き声に甘い声が混じりはじめた。
それとともに、宝玄仙の道術紋の紋様が朱姫の身体全体を覆うように拡がっている。
やがて、全身を覆い尽くした内丹印が真っ赤になった。
「もう少しだよ、朱姫――」
宝玄仙が怒鳴った。
「はがあああっ」
朱姫が絶叫した。
「頑張って、朱姫」
「頑張るんだよ、朱姫――」
沙那と孫空女は、代わる代わる朱姫を激励する。
そして、ぐったりと朱姫の身体から力が抜けた。
沙那と孫空女は、ふたりでがっしりと朱姫を抱き締めた。
朱姫の身体に刻まれた道術紋は、ほとんど肌の色と変わらなくなり、よく見なければわからないものに変わっている。
「ふうっ……、終わったよ、朱姫。とりあえず、身体を起こしても構わない」
「は、はい……。あ、ありがとうございます……」
朱姫が甘い息とともに、舌を大きく出して身体を起こした。
舌を出して体温を調製するのは、改造された朱姫の可哀想な肉体改造の影響だ。
「まだだよ。お前の身体を蝕んでいる寄生虫を殺して、術式を施された身体を元に戻すのはこれからさ――。大丈夫だ。白骨程度の道術だったら、このわたしなら払い除けられる。それで元通りになる。でも、少しばかり痛いよ」
「わかっています、ご主人様」
朱姫は、片腕で自分の胸を隠しながら、自分に刻まれている内丹印という道術紋に目を落としている。
「さあ、そろそろ、お前たちの出番だよ。服を脱いで朱姫のところに行きな」
宝玄仙がこっちに視線を向けた。
「えっ?」
「なんで?」
沙那も孫空女も思わず声をあげた。
すると、宝玄仙の顔に怒りが走った。
沙那はぞっとした。
「このところ、お前たちは、この宝玄仙が甘やかしていると思って、気を抜いていないかい? いつから、この宝玄仙の命令を訊ね返すような偉い身分になったんだい。裸になれと言われたら、さっさとなるんだよ。ぐずぐず言うと、沙那、孫空女、ふたりして地獄責めを始めるよ。欲情させたまま、この結界の外に放り出してやるから、覚悟しな」
宝玄仙の権幕に、急いで沙那は身につけたものを脱ぎ始める。
横を見ると、孫空女も蒼い顔をして、服を次々に脱いでいる。
あっという間に全裸になった沙那と孫空女は、言われたとおりに、朱姫の両側に座る。
「お前たちに預けてあった『共鳴封じの指輪』を外して、こっちによこしな」
これから、やらされそうなことの予想がついたが、いま、口答えしたら、なにをされるかわからない雰囲気なので、黙って指輪を外して宝玄仙に渡す。
孫空女もひと言も喋らずに、指輪を差し出している。
もともと、同じ道術紋を刻まれている沙那と孫空女は、本来は、相手が受けた快感を自分の快感として受けてしまうという作用が発生してしまう。
だが、それを封じているのが、さっき渡した指輪の霊具だ。
それが取りあげられたということは、快楽の共鳴状態になったということだ。
同じ道術紋を刻まれた朱姫もまた、沙那と孫空女の共鳴に参加することになったはずだ。
「あ、あのう……。なにが始まるのですか……?」
朱姫が遠慮がちに言った。
最近の宝玄仙になかった激しい迫力に、朱姫もまた、なにか戸惑っている様子だ。
「舐めな、朱姫――。孫空女と沙那の身体を代わる代わる舐めるんだ」
「えっ? なぜ……」
朱姫がそう言いかけた途端、宝玄仙が思い切り強く足を踏み鳴らした。
「ひいっ――」
朱姫が顔を引きつらせた。
このところ、垣間見られる優しさに、安心していたところもあり、朱姫だけではなく、沙那も宝玄仙の恐ろしさを忘れていたような気がする。
少なくとも、沙那は最初の頃のようなぴりぴりとした緊張をすることはなくなっていた。
「舐めろと言われたら、床であろうと、こいつらの尻の穴だろうと、その舌が動かなくなるまで、舐めればいいんだよ――」
「は、はいっ」
朱姫が慌てて、沙那と孫空女に向かい合うように姿勢を変えた。
「い、いきます、沙那姉さん」
朱姫の腕が沙那の背中に軽く回り、沙那の乳首をひと舐めした。
「んんっ――」
「あひいっ」
「うわっ、ああっ」
三人で声をあげる。
覚悟をしていた沙那よりも、共鳴についてなにも知らない朱姫が大きな嬌声をあげた。
つまり、『女淫輪』に苛まれている沙那は、普段耐えている分だけ、ただのひと舐めで激しい衝撃を乳首に感じてしまうのだ。
それと同じ快楽が、共鳴により、朱姫の乳首に加わったのだと思う。
朱姫がすでに息を荒くしている。
「な、なんですか、これ?」
朱姫がびっくりしている。
「きょ、共鳴なのよ、朱姫……」
沙那は言った。
「共鳴?」
「ほら、休むんじゃないよ、朱姫。次もお前が孫空女を舐める番だ」
「は、はい」
朱姫は、今度は孫空女に近寄る。
ぺろりと乳首を舐める。
「んふうっ」
「ひやっ」
「わっ」
伝わってきた快感に沙那も声をあげる。
また、孫空女と朱姫が、ふたり同時に嬌声をあげた。
「次は、沙那と孫空女が朱姫を舐めな」
沙那は朱姫の右の乳首、孫空女が朱姫の左の乳首に舌を伸ばす。
「ああっ」
「んはああっ」
「んふううう」
同時に舐められることで、朱姫の味わう強い刺激が、沙那にも感じる。
たった数度の舌の愛撫で、朱姫はもちろん、沙那も孫空女も、もう官能にどっぷりと包まれ始めたのがわかる。
「朱姫……。朱姫が感じる気持ち良さがわかるよ……」
孫空女が言った。
「じゃあ……。これが……?」
「そうよ、これが快感の共鳴よ……。朱姫とわたしと孫女の……」
沙那は孫空女とともに、朱姫の乳首に舌を動かす。
朱姫に伝わる快感が自分たちにも伝わる。
共鳴だ――。
三人の快楽が共鳴してひとつに交わるのだ。
その激しい快楽と一体感は味わった者にしかわからない。
「そうさ、朱姫……。同じ内丹印をご主人様に刻まれたあたしらは、快楽を共鳴するのさ。朱姫があたしに与える快楽も、あたしたちが朱姫に与える快楽も、沙那が感じる気持ちよさも、みんなお互いに伝わるのさ……」
孫空女が朱姫に向かって白い歯を見せた。
沙那は激しく身体を震わせてしまっている。
まだ、乳首を舐めあっているだけだが、本当に身体が溶けてしまいそうだ。
「も、もう、気持ちよくて、胸だけでいきそう……」
朱姫が悲鳴をあげる。
「あ、あたしもだよ――。多分、沙那も――」
孫空女が叫んだ。
「あたしにもさせてください……」
朱姫が孫空女に体重を預けて倒した。
そして、身体を反転させて、孫空女の股間に顔をうずめる。
朱姫の股間は、孫空女の顔の前にある。
「ひぎいいい」
あまりの快楽に沙那は動物のように叫んだ。
孫空女も朱姫も嬌声をあげている。
朱姫が孫空女の肉芽を擦りあげた衝撃と、孫空女が朱姫の陰部を舐めた快感の気持ちよさが、同時に伝わったのだ。
共鳴は三人の誰かが取り残されたり、誰かが主導権を持つということはない。
責める者も受ける者もまったく同じだ。
同じようにしか達しないし、別々にいくということはありえない。
三人でひとつなのだ。
「ほら、沙那、朱姫のお尻が空いているよ」
沙那は誘導されるかのように、朱姫の白いお尻に顔を近づけた。
孫空女が舐めている朱姫の股間に上から口を近づけると、朱姫の菊門に舌を挿入した。
三人で同時に声をあげた。
「お前たち、しばらく、そうやっているんだよ。そろそろ、朱姫、道術をかけるよ――。少しばかり激しいからね。なにしろ、お前の血や肉に巣食っている虫をお前の身体ごと焼きつくすようなものなのさ。一気にいくよ」
朱姫はもう聞こえていないのか、それにはなにも言葉を返さなかった。
沙那もまた、それをぼんやりと聞いていただけだ。
ただただ、一心不乱に三人でお互いの股間を舐め続ける。
すごい……。
身体中の快楽という快楽が暴れる。
朱姫が総身を跳ねはじめる。
もちろん、孫空女も沙那も全身におこりがかかったように震えている。
急激な快感が襲った。
「ひいいいい」
「あがあああっ」
「あひいいいっ」
それぞれがそれぞれに悲鳴をあげながら昇天する。
三人分の絶頂だ。
それをまったく同時に三人で味わっている。
「うぎゃあああああ」
そのとき、朱姫の身体が真っ赤になり朱姫の全身から体液が一斉に飛び出してきた。
それまで、朱姫はまったく汗をかいていなかったのだ。それが一度に放出されたような感じだ。
「やめるんじゃない――、沙那、孫空女。続けな――」
沙那は慌てて朱姫の肛門に舌を戻す。
孫空女もまた、朱姫を腰を抱きしめて一心に舌を動かしている。
朱姫は快感とともに食らう激痛に暴れ回っている。
どれくらいの痛みが朱姫を襲っているかわからない。
共鳴は快楽だけで、痛みは共鳴しないのだ。
だが、これ程の激しい快楽の中でも、朱姫は苦悶の絶叫をあげている。
朱姫の感じている激痛は並大抵ではないのだろう。
おそらく、朱姫の身体からとてつもない量の汗が流れている。朱姫が暴れ回る。
沙那と孫空女にできるのは、それを快楽で少しでも癒すことだけだ。
痛みの中であろうと、沙那と孫空女が達することができれば、朱姫も達する。
その一瞬は、朱姫も激痛を忘れられるはずだ。
沙那は、とにかく、朱姫を昇天させようと、肛門を刺激する自分の舌の動きを激しくした。
朱姫のお尻の深くまで舌を突き差し、すべてを掻きだそうとするばかりに内側を舌で抉る。
それとともに、再びもの凄い絶頂――。
朱姫の身体が弓なりなり、ふっと力が抜けた。
沙那が、孫空女とともにぐったりと身体を預けるのと同時だ。
それとともに、沙那の頭の中は真っ白になり……、そして、意識を失った。